【ハロウィン・トリート】淑女の余興(瀬田一稀 マスター) 【難易度:普通】

プロローグ

 人の集まる、大通り。

 シルビアは、黒いウエディングドレスを着ていた。
 大きくあいた胸元は、白い鎖骨がすっかり見えている。ドレスの布地を柔らかく持ち上げる豊満な胸と、細い腰が扇情的だ。スカートは脚のラインにそっていた。床に届く裾だけが、波打ち、大きく広がっている。彩るのは黒色のレースである。
 肘までの手袋も、黒。その指先で、シルビアは椅子に拘束している男の顔を撫ぜた。
「これは余興よ。貴方が無下に私の誘いを断ったりするから」
「……相手がいるとわかっているのに、誘いをかけるほうが悪いだろう」
 男はシルビアを見上げた。シルビアの真っ赤に染められた唇が、やんわりと弧を描く。
「そういう言い方をするのね。女に恥をかかせるなんて、最低。そんな余計なことを言う口は、塞いでしまおうかしら」
 シルビアはその顔を男の鼻先まで近づけた。……が、さすがに唇を奪うことはしない。人差し指でつんとつついただけだ。
「おい、やめろよ! 俺の相棒だぞ」
 別の男が、シルビアの露出した肩に触れる。
「あら、エッチ」
 シルビアは大げさに身を揺らし、今度はそちらの男に手を伸ばした。
「だったら、力づくで助ければいいじゃない。私、別にきつく縛っているわけではないし。貴方たち、ウィンクルムなら愛の力でなんとかなるんじゃなくて?」
 市民相手に、そんなことをしないと知っているからこその言葉だ。男はシルビアを無視して、相棒の傍に寄った。体を椅子に縛り付けている黒いロープに手をかける。しかしその手を、シルビアは思い切り叩きつけた。
「愛の力でって、言ったでしょう?」
 シルビアはたった今叩いた手の甲を、指先で優しく撫ぜる。
「わからない? これは余興……お遊びなの。……そうね、じゃあこうしましょう。あの男に、目隠しをするの。その間に、貴方は仮装をする。私が連れてきた男も、同じ仮装をする。そこで男の目隠しをとるわ。仮装しているふたりを前に、男が本物を当てられたら、貴方たちを自由にするの。でも外れたら、私があの男を好きにする……どう?」
「……好きにって、なんだよ」
 男が聞く。シルビアは唇の前に一本、人差し指を立てた。
「女にそんなことを言わせようとするなんて、野暮な人ね。……そうね、仮装は選ばせてあげる。断れば、男に悪戯するわよ。どう? ――Trick or Play?」

解説

【必ず書いてほしいこと】
シルビアに捕まるのは、精霊か、神人か。
片割れがする仮装はどんなものか。

【これから】
あなたは仮装をします。シルビアの信望者の男性(背格好はあなたに似ています)も、同じ仮装をします。
服装は何でも構いませんが、仮面は必ずつけなくてはいけません。顔のすべてが隠れるタイプです。

相棒に、どちらが本物のあなたかを当ててもらいます。
喋っても、相棒に触れても構いません。
しかしあなたがとったのと同じ行動を、別の男もします。シルビアの信望者たちは俳優が多いので、演技はとてもうまいです。

男をぶちのめして相棒を助けるというのもありですが、その場合はあくまで余興ということで、魅せる演技をしつつ、相手を攻撃しなくてはいけません。
通りを行く人はこれをお遊びと思っていますから、本気で叩きのめすと、ウィンクルムに対する心証が悪くなってしまいます。
(この場合、相手は体術が使えるものとします。レベルは神人となら互角レベル、精霊となら精霊の方が明らかに強いです。弱い相手に怪我をさせないよう、かつ演技に見えるように倒す技術が必要です)

強制参加でありますが、仮装衣装のレンタル代として400jrいただきます。お気の毒様です。

シルビアの悪戯は
十代半ばまでの相手には ハグ
十代後半までの相手には 頬にキス
二十代以上は 首筋にキス(キスマークあり)です。

相棒がそういう目にあっても気にしないし、むしろ動揺する姿が見たいというときは勝負に負けても構いません。
が、何度も言いますが、余興です。相棒はキスの前に拘束を解かれますので、それなりに格好よく、シルビアからのキスを受けなくてはいけません。

成功判定は、周囲に集まっている人からもらう拍手の大きさでします。


ゲームマスターより

言い訳はしません。
すみませんでした。

ちなみに精霊もしくは神人を椅子に縛り付けたのは、シルビアの信望者の男性です。
こわいですね。

リザルトノベル

◆アクション・プラン

(桐華)

  僕は縛られるのは嫌なので桐華さんに捕まって貰います
仮装は吸血鬼にするよ。ハロウィンっぽくて、いいでしょ?
ノーヒントで当ててくれちゃったら僕とっても嬉しいから、頑張ってね(はーと)

冗談はさておいて、仮面で顔が隠れてるとはいえ、本当にそっくりだねぇ
レンタルの衣装も結構色々凝ったのがあって眺めてるの楽しかったし
淑女様の気まぐれに巻き込まれてみて、良かったかも

桐華より信望者の俳優君の方に興味津々
シルビアお嬢様のどこが好きなんだろうねぇ
俳優って事は結構しっかり体作りしてるんでしょう?ちょっと触らせてよ

外しても、良いよ
でも、彼女が口付けた場所に、僕も噛み付く
吸血鬼は、首筋に食いついてこそでしょう?



木之下若葉(アクア・グレイ)
  成程。お遊び、か
それならアクア、気を張らず楽しもうか
目隠しをして待ってるからさ

おや、上手いものだね
本当にアクアが二人
その仮装は妖精?ああ、シルフなんだ
ほらこっちにおいで。撫でてもいいかな?
んー…もこもこ、ふわふわ
両手にアクアだね
いや、真面目に考えてるよ?

ん。決まった
こちらが本当のアクアだよ
決め手?このすっぽり収まる感じと髪の撫で心地、だね

おや困った。そうすると家に帰れなくなってしまうかもしれないね
それなら捕まえてしまうしかない、かな?

そんな訳でシルビアさん
俺の両手は塞がってしまったから、このあたりで暇させて頂くよ
それでは「Have a frightfully fun Halloween」



高原 晃司(アイン=ストレイフ)
  アインが捕まってるしよ
余興とかふざけんなよ!
でもウィンクルムとしてあんま乱暴はできねぇんだよな…

しかたねぇ…その余興にのってやるかな
俺は悲しそうな仮面でボクサーパンツ1枚の黒マントの格好をするぜ
とりあえずマントの前は開かないぜ
まずは声をかけてみる
「アイン!長年暮らしてきたんだから…俺はお前を信じてるぜ」

緊張しながら手を握る
正直言うとついこの前までは俺は恋ってのがわかってなかった
だからアインにも気軽に触れたんだが…
今はそれができる気がしねぇ

でも戦う事はできるマントを脱いで裸になったら
俳優に殴りかかる
ただなるべくパフォーマンスをいれようとはおもう

アインが間違ったらすっげー悔しい思いをしながら見てる


瑪瑙 瑠璃(瑪瑙 珊瑚)
  仮装
・アイヌの民族衣装を借りて、着られるかどうか尋ねてみるか。
トンコリは家から持参。出来ないならギターを持っていこう。

行動
・余興内容としては弾き語り。
歌うのは正直恥ずかしいが、ストリートライブを開いたつもりで思いっ切り歌わないとな。
珊瑚の好きな歌を沖縄弁で歌いながら、トンコリで演奏する。

演奏が終わったら、珊瑚の耳元で話しかけてみよう。
この声がおれの声かどうか確かめてもらう為だ。

「珊瑚、本当に触れてもいいんだな?」
最初は冗談で、持参した蒟蒻を当ててみるけど、まさか自分から言うとなんてな。

「珊瑚……家に帰るか?」
とはいえ勝敗に関わらず、珊瑚の拘束が解かれたら、本人には暫く何も言わずに労らないとな。



明智珠樹(千亞)
  ★好きに弄んでくださいっ。

捕まる→神人
仮装→精霊

「はっはっは、捕まってしまいました。助けてください、千亞さん」
と全く緊迫感もない。
「当たってもハズレても私は幸せですよ、ふふ…!」

見分け方法
「可愛らしいウサギさん、踊っていただけますか?」
観衆の目も考え千亞&偽物と、探る様子もなく優雅に社交ダンスを踊る。

「例え姿や態度、声色を変えても
 流石に体臭までは変えることはできないでしょう…!
 いつも嗅いでいる甘さを感じる良き芳香…こちらが千亞さんです…!!」

と、手の甲にキス。真剣に当てに行くド変態。

正解→「さぁ千亞さん、私に存分に悪戯を…!さぁ!」
不正解→「さぁシルビアさん、一生残らぬ痕を私に…!」


●トンコリ持って、素敵な歌を

「ちくしょう、何も見えねえぞ! うぬいなぐ(あの女)! こんなことしてどうしようってんだ?」
 椅子に縛られた状態で、瑪瑙 珊瑚は大きな声を上げた。シルビアの説明は聞こえていたから、今後自分の身に起こることはわかっている。だが、わかっているからと言って納得が行くものではない。
 いきまりかちめるなんて、たまらん。
(いきなり捕まえるなんて、ひどい)
 そんな珊瑚の心情など、シルビアはすっかり承知しているのだろう。
「そんなに怒らないで、坊や」
 細い指が、するりと珊瑚の頬を撫ぜる。
「坊や? オレはそんなガキじゃねえ!」
「あら? 私から見たら、年下はみんな坊やよ」
「あ? あんたいくつだよ?」
 すると今度は鼻をつままれる。
「女性に年を聞くなんて、失礼な子」

 そこに、瑠璃と男が姿を見せた。
 二人は、アイヌの民族衣装を着ていた。前で合わせて腰を帯で止めるだけの簡易な衣装。特徴は、布地に刺繍された、大きな幾何学模様にある。それだけなら、珊瑚は何も思わなかっただろう。しかし彼らがともに手に持つものを見て、にやりと笑った。彼らはともに、トンコリを持っていたのだ。
 トンコリは、ギターに似た、アイヌの五弦琴である。ただし、本体にギターほどの曲線はなく、直線一本の、シンプルな作りになっている。
 くりなら簡単だ。相手やトンコリなんて弾けねーんだろう。
 二人の男は並んで立ち、同時に楽器を抱えた。ぴんと張った五本の弦に指をかけ、ぽろん、と一つの音が弾ける。
 男のうちの一人、瑠璃は仮面の下で、頬を染めていた。珊瑚だけの前ならまだしも、この人が集まる場所で歌うのは、正直恥ずかしい。今にも手が震えそうだ。
 だが、と、椅子に座ったままの珊瑚に目を向ける。隣では黒いドレスのシルビアが、珊瑚の肩に手を置いて微笑んでいた。楽しそうな微笑に、苛立ちが募る。
 ストリートライブを開いたつもりになればいいんだと自分を鼓舞して、瑠璃はいよいよ口を開いた。歌うのは珊瑚の好きな歌。普段彼が使う沖縄の言葉を使って、北の民族楽器で音を奏でるのだ。
 聞き慣れない曲が珍しいのか、集まる人は拍手をしてくれる。しかしここは、瑠璃の独壇場とはならなかった。なんと隣にいる男も、楽器を弾き、歌い始めたのだ。いったいどんなスペックがあるんだ。なんだよ、なんで歌えるんだ。

 曲を歌い終えた瑠璃と男は、左右から同時に珊瑚に近寄った。それを見ながら、珊瑚は激しく動揺していた。
 わからなかった。どちらが瑠璃か。好きな歌を歌ってくれたというのに。
「もう……やるしかねえ」
 両肩に手が置かれ、左右の耳に同時に声が滑り込む。珊瑚、と呼んだ二つの仮面を、睨み付ける。
「瑠璃! お前が本物の瑠璃なら、オレの……は、肌に触ってみろ!」
 これでわからなかったら、もう勘で答えるしかないと覚悟を決めれば、左の男から、声が聞こえた。
「……珊瑚、本当に触れてもいいんだな?」
 本当は、これでわかった。右の男は何も言わずに、手を出しただけ。でも瑠璃は、聞いてくれた。
 瑠璃の手のひらが、恐る恐る珊瑚の頬に添えられる。
 ――こ、これが瑠璃の……って、何言ってんだ!? オレ!
 珊瑚は動揺しながらも、腕を組んでこちらを眺めているシルビアに目をやった。
 瑠璃にキスされんのと、くぬいなぐにキスされんの、どっちがいいんだろうな、と。
 唐突に思ったのは、今の緊張を外へ逃がすためかもしれない。思っただけだ。別にシルビアとキスがしたいわけではない。
 頬に触れている瑠璃の手のひらに、珊瑚が手を重ねる。
「瑠璃」
 呼べば仮面が外された。
「瑠璃!」
 珊瑚はその体に抱き付いた。なんだか見慣れた顔を見たら、安心してしまったようだ。
「見ているこっちが恥ずかしいわ。及第点ってところね。坊やたちは」
 シルビアは、二人の頭に手をおいて、さらりと髪を撫ぜた。もう一人の仮面の男が客に向かい大きく頭を下げたところで、ぱちぱちと拍手が鳴った。

●シルフの精に誘われて

「なるほど、お遊びか。それならアクア、気を張らず楽しもうか」
「確かに遊びですが、ワカバさんが突然捕まってびっくりしたんですよ? 取り返さないと、嫌です」
 アクア・グレイはそう言って、椅子に縛られている木之下若葉を見下ろした。まったくワカバさんはと頬を膨らめて、そのくせちょっと心配そうな顔をして、着替えてきます、と背を向ける。一応これが、余興であることは理解している。
「うん、行ってらっしゃい。大丈夫だよ。当てるから」
 若葉はアクアの白い背中に声をかけた。後ろを向いたままの肩がぴくりと反応した気がしたけれど、特に返事はない。
「ずいぶん自信があるのね」
 シルビアは若葉の顎に指をかけ、顔を仰のかせた。
「あの子と貴方はどんな関係なの?」
「関係に名前なんか必要かな? 俺はアクアといて楽しいよ。それで全部だ」
 シルビアの柳眉が寄る。
「……そんなふうに言えたことが、私にもあったわね」

 そこに、アクアと男が現れた。
 男が精霊なのかはわからない。ただ、二人とも、ディアボロの角を持っていた。それは隠さず、ゆったりとした白い衣装を身に纏っている。顔を覆う仮面も白。そこに柔らかく、髪がかかっていた。
 愛らしく美しいそっくりの二人の登場で、何もしていないのに拍手が起こる。
「風の妖精、シルフです」
 重なる台詞に、若葉は少しばかり瞳を大きくした。
「おや、うまいものだね。本当にアクアが二人だ」
 若葉は椅子に座ったまま両手を上げて手招きをした。
「ほら、こっちにおいで。撫でてもいいかな?」
「もちろんです、ワカバさん」
 二人のアクアは言われるままに、若葉に寄っていく。二人がそれぞれ椅子の両側に立ち位置を決めると、そこに若葉が手を伸ばした。後頭部の髪の中に下から手を入れて、感触を楽しんでいる。
「どっちもふわふわ、両手にアクアだね」
 アクア二人はうっとりと目を細めた。そのくせ口では、真面目に考えてるんですか、なんて言ってみたり。若葉は手を離さずに「考えてるよ?」と髪を弄ぶ。
「でもそっくりだから、両方連れ帰りたいくらいだけど」
「もう、ひどい人ですね。ワカバさんは」
 二人のアクアが苦笑する。
 そういう間にも、若葉の指先は、アクアのうなじをたどっていた。髪に隠れた肌に触れ、生え際の、柔らかい髪をそっと撫ぜる。
「くすぐったいです」
 ……身じろいだのは、右手のアクア。
「……見つけた」
 若葉は本物のアクアだけを引き寄せた。その言葉に、アクアは仮面を外して笑みを見せる。
「本当にそっくりなのに、よく気付きましたね」
「このすっぽり収まる感じと、髪の撫ぜ心地は、アクア以外にないからね。……それに、当てるって言ったよ、シルフのアクア」
「ふふ、妖精の国に攫いに来ましたよ。僕は今シルフですから、違う場所へちゃんと連れて行っちゃいます」
 若葉はわざとらしく大げさに驚いて、小首をかしげた。
「おや困った。そうすると、家に帰れなくなってしまうかもしれないね。それなら捕まえてしまうしかない、かな」
 立ち上がった若葉の両腕が、アクアの白い肩を抱く。アクアはされるままに寄り添って、若葉の背中に腕を回した。
「僕もワカバさん捕まえました」

「そんなわけでシルビアさん。僕の両手はふさがってしまったから、このあたりでお暇させていただくよ。それでは、Have a frightfully fun Halloween.」(ぞっとするほど楽しいハロウィンを)
 手をつないで去っていく二人には、周囲のからかいの言葉も耳に届かぬよう。
「見せつけてくれるわね」
 しかし、不快ではない。遠い記憶を、シルビアは思いだしていた。

●ピンクうさぎと華麗なダンスを

「はっはっは、捕まってしまいました。助けてください、千亞さん」
 明智珠樹は実に楽しげに笑っている。椅子にしっかり縛り付けられて、目隠しをされて、何がそんなに楽しいというのか。緊迫感はないし、はっきり言ってちょっと意味がわからない。ちなみにこれは、衆目の感想である。
「貴方、こういうのが好きなの?」
 シルビアは緩み切った珠樹の頬を、指先でゆるくつねった。
「素敵です、ええとても」
 見えないくせに彼女を見上げる珠樹に、周囲からは苦笑とも失笑ともつかない声と、からかうような拍手が鳴った。それを聞き、珠樹はいっそう笑みを深くする。
「当たってもハズレても、私は幸せですよ。ふふ……!」

 そして、舞台裏の千亞である。
 別に珠樹がどうなろうか知ったこっちゃない、ただ、珠樹の見る目をテストしてやるだけだっ!
 そう思いながらまとった衣装は、アリスの白うさぎをイメージした、可愛らしいもの。せっかくだからうさぎの耳を生かそうと思ったら、これしか見つからなかったのだ。そして顔を覆うのは、真っ白い仮面である。
 マスクだけじゃ、さすがに自分とわかると思っていた。が、並ぶ男を見、愕然とする。
「え? 隣にあるの、鏡じゃないのか? 俳優さん? 似てる……珠樹は当てられるのか?」
 少々の不安とともに、男と二人、一同の前へ姿を現した。その瞬間、不安は消え去った。というか、それどころではなかった。なんというか、周囲の空気が違うのだ。いたたまれないというか。馬鹿にされてる気がするというか。
 何をした、あのド変態! と睨み付けるものの、返ってくるのはへらりとしただらしのない笑みだ。いや、それより。
「なんでお前、縛られたままなんだよ!」
「だって彼、こういうのが好きなんでしょう
 本人の代わりにシルビアが答え、千亞は仮面の下で、開いた口が塞がらない。ってか、今叫んだので絶対俺が本人だってわかっただろうという気がする。
 それでも珠樹が何も言わないので、千亞と男は歩を進め、珠樹の隣へと立った。
 そこでやっと、珠樹のロープが外される。
 珠樹はすっくと立ち上がり、二人のうさぎの手をとった。
「可愛らしいうさぎさん、踊っていただけますか?」

 さっきまでは怪しい笑みで嘲笑されていたにもかかわらず、ここでの珠樹は見事の一言に尽きた。
 男の手をとり背を抱いて、または千亞の手をとり背を抱いて、軽やかにステップを踏む。
「たとえ姿や態度、声色を変えても、さすがに体臭までは変えることができないでしょう……!」
 踊っているだけならばよかったのに、珠樹はそう言って、二人の首筋に顔をうずめた。先に踊った男は嫌がるそぶりは見せたものの、ダンスをやめることはなかった。プロだ。しかし珠樹はそうとも言っていられない。もともとたどたどしいダンスは、瞬時に停止。
「どさくさに紛れて体臭だとか、恥ずかしいこと言うな、ド変態!」
 力いっぱいの頭突きを見舞ってやると、がつん、とかなりの音がした。これは相手も痛いが自分も痛い。周囲には爆笑と大きな拍手が満ちている。しかしここでも、珠樹は見事であった、ある意味。
「千亞さん! こちらが千亞さんですね……!」
 彼は額に手を当てることなく、千亞の手の甲に、キスを落とそうとしたのだ。
「ばっかやろ、お前この期に及んで!」
「さあ、千亞さん、私に存分に悪戯を……さあ!」
「僕はお前に悪戯なんかしないっ!」
 可愛い衣装をまとっていることなど忘れた千亞の、渾身の蹴りが珠樹の腹に炸裂した。

●マント一枚で、勝負!

「やれやれ、参りましたね。困った方がいらっしゃるようですが……仕方がありません」
 アイン=ストレイフはため息をついた。今、相棒の高原 晃司は、着替えの最中だ。どんな格好で出てくるのやら、少々不安ではある。
 とは言っても、晃司のことがわからないはずはないとも思ってもいた。長く共に暮らしてきた相手の声や仕草、行動の癖はすっかりわかっている。それに、どんなに優秀な俳優でも、癖というのは出るものだ。
「……冷静に見極めていきましょう」
 呟くアイン。しかしシルビアは、そんな彼にしなだれかかった。
 繊細な指が、アインの胸に滑りこむ。
「冷静になんて、させてあげないわ」
 シルビアはアインの肌を撫ぜ、その筋肉をつついた爪先で引っ掻いた。たくましい体が、緊張にびくりと揺れる。それがおかしくて、でももっとからかってやりたくて。耳元に吐息をかけると、アインはじろりとシルビアを睨んだ。
 やめてください、と口調ばかりは落ち着いて、アインは言う。しかしそんなことでやめるシルビアではない。
「嫌よ。だって貴方、私の好みなんですもの。クールでたくましい体をしていて……あんな子供にはもったいないわ」
「誰が子供だって?」

 そこに、晃司と男が現れた。
 晃司は黒く長いマントを羽織っていた。すっぽりかぶっているので肌は見えない。顔にはつけられた悲しげな仮面は、まるで晃司の心情を現しているかのようだ。
「アイン! 長年暮らしてきたんだから……俺はお前を信じてるぜ!」
 晃司は数歩を歩き、アインの隣に立った。逆隣には、男が立っている。二人は同時にアインの手を握った。どうすればアインが自分をわかってくれるか。着替えの間、晃司なりに考えた末の行動だった。
 振れればわかる、きっと通じ合えると、自身の困惑には目をつぶり……こうすると決めた。
 長い間生活を共にしてきたアインは、晃司にとって、兄であり父だった。しかし最近、それが変化してきている。
 どくどくと、晃司の鼓動が早くなる。
 ――それまで、俺は恋ってのをわかってなかった。でもたぶん、これは……。
 肉体労働をしている晃司の手よりも、アインの手は大きく厚い。それに触れながら、考えるのは胸に生まれた気持ちのこと。それと。
 晃司は顔を上げ、近い距離からシルビアを見つめた。白くきめ細やかな肌、艶やかな唇。そして今だアインの胸に触れている、細い指。
 仮面の下で、唇を噛みしめる。
 ――左の手は震えているようですね。右は何の反応もない。俳優の手が震える理由がありませんから、左が晃司……でしょうか。
 アインはそう結論を出し、口を開きかけた。しかしそのとき、シルビアが動いた。
「もう、まどろっこしいわ」
 シルビアは晃司に向かってふわりと笑い、直後。その美しい唇を、アインの首元にうずめたのだ。
「おいっ!」
 晃司は思わず、シルビアに手を伸ばした。しかしそれを、俳優が払い落とす。
「これは余興ですよ」
「だからって!」
「晃司、冷静になりなさい。ここで彼女に手を出せば、ウィンクルムの評価が落ちます」
 アインは晃司の顔を見上げた。ちりりと感じる痛みから、彼女がそこに小さな華を散らしているのがわかる。
 だがそれを払いのけてしまえば、晃司は激昂するだろう。自分は誰より落ち着いていなくてはならないとアインは思っていた。
 ……が、その考えは、一瞬にして砕け散ることになる。晃司がマントを脱ぎ棄てたからだ。
「ちょ、晃司その格好は」
「よ! 兄ちゃんやるねえ!」
 周囲からヤジが飛び、大きな拍手が起こる。それもそのはず、マントを抜いた晃司はボクサーパンツ一枚だったのだ。
 俳優の男も同じ姿になり、仮面をつけたまま、二人は対峙している。これはパフォーマンスとすべきか、否か。晃司はいたって真面目だが、それにしても。止めるか迷うアインの横で、シルビアはアインに囁いた。
「彼、初心そうだからからかうのが面白くって。でもそれだけではないわ。貴方が好みというのは本当よ」
 シルビアは晃司の前へと進んでいった。
「貴方も鍛えてはいるみたいだけど、まだまだ私の好みには遠いわね。でも、健闘に免じて、貴方の王子様は解放してあげるわ。初心なおぼっちゃん」
 シルビアはそう言って、晃司の頬に口づけをした。
 アインが息をのみ、晃司が悲鳴を上げる。
 聴衆は、真面目で不幸な男たちに爆笑した。

●紅いルージュに重ねるキス

「貴方、ずいぶんの男前なのに、どうしてそんな髪飾りを付けているの?」
 シルビアは桐華の髪に手を伸ばした。目隠しをしていてもわかるほどの仏頂面。そんな男の髪には、愛らしい飾りもリボンも、ひどく似合わない気がしたのだ。
「触るな」
 桐華は頭を揺すり、シルビアの手をはねのける。
「あら? そんなに大事なものなのかしら?」
 正直に、叶が気に入っているからと言う必要はない。関係ないの一言で片づけて、桐華は相棒の登場を待った。そんな彼の前に、叶と男は、吸血鬼の衣装で姿を現した。
 白シャツも黒いマントも、唇から見える牙まで良くできているし、似合っている。しかし、だ。

「仮面で顔が隠れているとはいえ、本当にそっくりだねぇ」
 叶は出てくるなり、桐華ではなく、傍らにいる男に目を向けた。
「こんなことするなんて、シルビアお嬢様のことがよほど好きなんだろうねえ。ね、どこが好きなの? 俳優ってことは、結構しっかり体作りしてるんでしょう? ちょっと触らせてよ」
 そんなことを言いながら、叶は自分とうり二つの吸血鬼の体をぺたぺたと障り始める。
 ――いきなり俺じゃなくて隣のそっくりさんに構いだすとか、もうこれ叶だ。間違いなく叶だ。
 桐華は無言のまま、叶をじっとりと睨み付けた。
 ――ていうか、吸血鬼の格好選んだ時点で、お前の魂胆丸見えだからな。当てても外しても、叶が得するだけっていうのがムカつく。……俺は、お前の髪飾りを、シルビアの手から守ったのに。
 勝手で気まぐれな奴だ。演技を忘れて隣の男に興味津々なのも、どうかしている。俺はこの椅子の上でどうしたらいいというのか。俺が当てるってわかりきっているということか。それともそれすら、忘れているのか。
「悔しい?」
「……なにが」
「あの子」
 シルビアの紅い唇が、耳元で動いた。吐息が耳朶にかかる距離だというのに、叶はこちらを見ていない。そうか、そんなにその男に興味があるか。吸血鬼同士では、血を吸ったって美味くはないだろうに。

 シルビアが、両の手を打ち合わせると、一同が注目する。
「さあ、そろそろいいでしょう。ねえ貴方、相棒はどちらかわかったかしら?」
「……ああ」
「では、答えて。貴方の大事なお相手はどちら?」

 ここで初めて、叶と桐華の顔が向かい合った。仮面を付けているから表情はわからないが、あれだけ横の男に茶々を入れていたのだ。不安と言うことはないだろう。それならば。
 桐華はゆっくりと口を開いた。
「右の男だ」
 声と同時に、二人の仮面が外される。
「桐華さん、わざと外したでしょ?」
 左の声には無視をして、桐華のお遊びをわかっているらしいシルビアの手をとった。
「クールな顔して、やるわね。貴方」
「お前も付き合ってくれるんだろう?」
 桐華は立ち上がると、叶には見向きもせずに、シルビアの片側に立った。美女の細い腰を抱き、その耳元に唇を寄せる。
「さあ、魅惑たっぷりのキスをして見せろ」
 シルビアは桐華の首に両腕を回した。わざと緩慢な仕草で引き寄せて、桐華の耳の下側、柔らかい肉を舌先でぺろりと舐める。
「血のように紅いルージュを、つけてあげるわ」
 柔らかく噛みつかれる。

 抱き合う二人はまるで映画のワンシーン。周囲ではシルビアファンの悲鳴と、ロマンチックな場面を見られたことに喜ぶ女性たちの拍手が入り混じっている。
 その中を、つかつかと叶が寄ってきた。
「……桐華さん、ほんとはわかってたんでしょ」
「俺に面倒を押し付けたお前が悪い」
 叶は無言で、シルビアの肩を押して場所を開けさせると、同じように桐華の首に腕を回した。紅いルージュを舐めとるように、そこに舌を這わせようとし――。
 わああ、と上がった悲鳴に顔を上げる。シルビアが、あろうことか桐華の唇を寄せたのだ。それが触れるまで、あと数センチという距離。
「ちょっと!」
 叶が抗議の声に、二人はぴたりと動きを止め、見つめあってにやりと笑う。
 桐華の笑顔がレアだとか、そんなことを考える余裕が、叶にはない。
「……桐華って、思ったより性格悪い」
「こんな口実でもなけりゃ、キスのひとつもできないお前ほどじゃねえよ」
 ――狙って、吸血鬼になったんだろう? とは桐華は言わず。二人はその場でにらみ合った。正面では、シルビアがくすくす笑い声を立てている。

 ハロウィンには、お菓子よりも悪戯を。



依頼結果:大成功
MVP
名前:
呼び名:叶
  名前:桐華
呼び名:桐華、桐華さん

 

メモリアルピンナップ


エピソード情報

マスター 瀬田一稀
エピソードの種類 ハピネスエピソード
男性用or女性用 男性のみ
エピソードジャンル シリアス
エピソードタイプ ショート
エピソードモード ノーマル
シンパシー 使用不可
難易度 普通
参加費 1,000ハートコイン
参加人数 5 / 2 ~ 5
報酬 なし
リリース日 10月07日
出発日 10月14日 00:00
予定納品日 10月24日

参加者

会議室

  • [9]高原 晃司

    2014/10/13-23:27 

    よっす!おこんばんはだぜー!晃司ってもんだ
    よろしくなー
    何かすっげーむかつく余興だけどのるしかねぇって事だよな
    アインは当ててくれればいいんだけどな…

    ちなみにプランは提出完了だ

  • [8]木之下若葉

    2014/10/13-22:18 

    プラン提出完了。

    お役に立てたのなら幸い。
    でも明智さんの言葉を聞いて俺も改めて
    プロローグを読み直すきっかけになったから、
    こちらこそどうも有難うだよ。

    こんな事態だけれど、皆少しでも楽しめるといいよね。

  • [7]明智珠樹

    2014/10/12-20:30 

    瑪瑙さん、明智珠樹と申します、よろしくお願いいたします。
    そして認識合ってる、とのお言葉心強いです、ふふ…!!

    気合を入れて、まだ時間はありますがひとまずプラン提出完了です。
    細部は調整入れるかもわかりませんが。
    千亞さんの仮装は勿論、皆さんの仮装姿もとてもとてもとても楽しみですね、ふふ。

  • [5]瑪瑙 瑠璃

    2014/10/12-01:19 

    若葉さん以外の方は、初めまして。自分は瑪瑙瑠璃といいます。
    どうぞよろしくお願いします。

    今までの被害が相方のせいか、今回も相方に災難がふりかかっています。
    一人の余興の時間がどれ程あるのかが気になりますね。

    ちなみにオープニングと解説の文面からして、球樹さんの認識で合ってると思っています。
    捕まっている側は、嬉しいのか悲しいのかわかりませんが。

  • [4]明智珠樹

    2014/10/12-00:34 

    ふ、ふふふ…!!
    危なかったです、私勘違いしていました。

    捕まっている方が当てる。
    助ける方が、仮装する…!!

    ハズレたら、捕まっている方が悪戯される…!!
    と、いう認識でよろしいのでしょうか。
    ふふふ、背後霊が阿呆で困りますね、ふふ。
    木之下さんには感謝してもしきれません…!!

    私が捕まり、千亞さんが仮装する。
    …私がハズレたら、シルビアさんに悪戯していただける。
    当てたら、千亞さんに悪戯していただける…!!
    嗚呼、どちらにしても幸せフラグではないですか、ふふ、ふふふ…!!

    千亞「僕はおまえに悪戯なんてしないッ!」

  • [3]木之下若葉

    2014/10/11-23:31 

    こんばんは。木之下とパートナーのアクアだよ。
    揃って宜しくお願い致します、だね。

    んー……俺も気付いたら捕まっていたんだよね。
    だから俺の方はアクアが仮装する感じかな。
    どんな仮装するんだろう。見分けはつく、はず。多分。

  • [2]叶

    2014/10/10-00:44 

    んーし、こんばんわ。叶と桐華さんだよ。
    淑女様のお戯れが楽しそうでついつい惹かれちゃった。

    僕が掴まっても桐華が掴まっても桐華さんがおもしr(ゲフンゲフン)
    可哀想な事になりそうだけど、余興だもの、ね。
    拍手が貰えるかは判らないけど、仮装も含めて色々考えてみようと思いまーす。
    皆もファイト。

  • [1]明智珠樹

    2014/10/10-00:21 

    はじめまして、明智珠樹と申します。
    初エピソード参加なふつつか者ですが、千亞さん共々何卒よろしくお願いいたします。

    ちなみに捕まってしまったのは私の方です。
    どんな仮装をしようか悩んでしまいますねぇ、ふ、ふふふ…!!


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