【ハロウィン・トリート】一日モンスター(山内ヤト マスター) 【難易度:普通】

プロローグ

 タブロスの片隅で、ハロウィンの期間だけ魔女が店を開いている。カラフルなテントがバボラの店だ。
 店主の老魔女バボラは、今が稼ぎ時だとばかりにせっせと秘薬を調合していた。
グツグツと煮立つ大鍋に放り込むのは、色とりどりの花弁、リンゴの実、薬草の束。時折鍋の中身を、ようく洗ったクジャクの羽根でかき混ぜる。

「ヒッヒッヒ……。どうれ、薬の出来栄えはどんな具合かね」

 バボラはスプーンで薬を一口分すくうと、使い魔の黒猫を手招きする。

「お前、ちょいと味見しておくれよ」

 猫舌の黒猫のために薬を冷ましてやってから、バボラはスプーンを差し出した。

「それじゃあ、自分がなりたい姿を思い描いてごらん!」

 黒猫の毛がザワザワと波打った。
 そして、ポンッと白い煙が立ち昇る。
 煙が晴れれば、そこには黒髪で褐色の肌をした少女がいた。

「リンゴ風味で美味しいのにゃ~」

 着ているものは、ネコミミパーカーと黒いホットパンツスタイル。ボーイッシュで可愛らしい雰囲気のデザインだ。
 あの黒猫が変身したのだ。

「よしよし。変身薬の調合は成功だね。それじゃあ小瓶に薬を分けて、と……」

 一人分の量を計り、小瓶に詰めていく。ついでにハロウィンらしく、オレンジとパープルのリボンで飾りつける。

「ヒッヒッヒ! 変身薬の出来上がりだよ! さ、商売、商売!」

「手伝うにゃっ!」

 バボラと黒猫は、瓶に手作りの値札をつける作業をせっせと進めていった。

解説

・変身薬一人分:150jr
一人でも二人で変身してもOKです。

・変身薬について
魔女の魔法がかかった飲み薬で、一日だけ動物やモンスターなど、思いどおりの姿になれます。
魔法は一日で自動に解除されますが、本人が元の姿に戻りたい、と強く念じれば変身を解除できます。もう一度変身し直すことはできないので、ご注意ください。
どんな姿に変身しても、自我や意識は本人のままです。
変身の際に服が破れたり、元の姿に戻る時に裸になってしまうことはないのでご安心を。その辺りは、魔法という名のご都合主義が働きます!

・場所について
バボラの店のそばに公園があります。
不思議な格好をしていても周りの人々からはハロウィンの仮装なのだと思われるだけで、特に支障はありません。
公園には、芝生の広場や木陰のベンチなどがあります。公園には四つの花壇があり、オレンジ色のバラ、紫のチューリップ、甘いお菓子の香りがするユリ、コウモリ模様のパンジーがそれぞれ咲いています。

ゲームマスターより

山内ヤトです!
ハーピーやラミア、あるいは狼男や透明人間……。魔女の薬が手に入ったら、どんな姿に変身しますか?
ハロウィンなのでモンスターを例に挙げましたが、しゃべる動物や今の自分とは違う誰かに変身してみるのもアリでしょう。

リザルトノベル

◆アクション・プラン

ニーナ・ルアルディ(グレン・カーヴェル)

  今日は一人ですし、公園でのんびりしてきましょう。
日差しが強いですし、木陰がいいでしょうか。

最近のグレン、助けてくれたり
優しくしてくれることは増えましたけど、
たまに悪ふざけが過ぎるっていうか…
カジノの時のキ…キ…とか…っ
考えてることが全然分かんないですっ!
今朝も思わず目を逸らしちゃいましたし…
グレン、絶対に怒ってましたよねあれ…
謝らなきゃ…でもいつ、どうやって謝りましょう!?

…あ、いけない、うっかり寝てました…
起こして下さってありがとうございます。
え…いや、そんなこと急に言われても…
あんまり血を取られたら死んじゃいますし、
やることもあるのでお仲間になる訳にも…
いーやーでーすーっ!助けてグレン!



リゼット(アンリ)
  (薬を飲まされ
えぇっ!狼?私が!?ちょっ…!

いきなりいうから中途半端に変身しちゃったじゃない!
耳としっぽと手足と…
って顎の下撫でないでよ!(手に噛み付き
あっ…牙も…ごめん(反射的に傷口をなめ

なんであんたが赤ずきんなのよ
狼ならアンリの方がぴったりじゃない
女装趣味でもあるわけ?
スカート履いてるなら足を閉じなさい

鼻も良くなってる?いい香り
花からお菓子の香りがする!(花に飛びつき無意識にしっぽを振り
く、くいしんぼうはあんたでしょ!
そういえばアンリもいい香りがするんだけど
狼にとってはごちそうなのかしら
牙がうずくからちょっとかじらせなさい
落ち着くわ…しばらくかじってていい?
こ、こら!私をかじらないでよ!


夢路 希望(スノー・ラビット)
  最近ユキの様子がおかしいような気がしていたんですが
…今はいつも通りですね
変身薬を興味津々に見つめる彼の姿に微笑み
…面白そうですし、買ってみましょうか
二人分購入して公園へ

えっと…私は、アリスになってみたいな、と
…白ウサギ?
あ、時計を持った兎さんですね
…もしかして合わせてくれたんでしょうか

薬を飲み、アリスの姿を思い描きます
…上手くできたでしょうか
ユキは…えっ
…か、可愛い…っ!
思わずまじまじと
姿のおかげか何時もみたいには緊張しません

…そういえば、そんなお話でしたね
追いかけたら不思議の国へ行けるでしょうか、なんて
あ…兎さん、待って!
ちょっとした追い駆けっこ
捕まえられたらぎゅっと
…ふふ
いつもと逆ですね



Elly Schwarz(Curt)
  変身】
なし

心情】
変身薬、ですか。一体どんな感じなんでしょう?

行動】
・クルトの変身後、公園の花を見て廻る
クルトさん、本当に狼さんになっちゃいましたね!
ここは綺麗で珍しい花ばかり…勉強になります。相変わらずの甘味嫌いっぷりですね。

・広場にて触れて良いか聞く
あの、嫌じゃなければ……ですけど、触っても良いですか?
ふふ、モフモフですー!(抱きつき

・クルトの問いに答える
…正直初対面の印象は最悪でした。
でも少しずつクルトさんの事知っていくうち、あなたとウィンクルムで良かったって思います。

(それから僕はあなたへの気持ちに漸く気付いたんです。
…でも僕はまだ伝える勇気がありません。出来る事ならもう少しこのままで)



ガートルード・フレイム(レオン・フラガラッハ)
  (相方に誘われ)別に構わんが、何になりたいんだ?…喋る黒猫?
特になりたいものもないから、同じでいいぞ
(付き合いで変身薬を飲み、赤いリボンに赤い目の黒猫に)

にゃ?(背中に前足かけられ)
…レオンにはこの間怪我させたり、迷惑かけてるにゃ
だからレオンがそうしたいなら、いいにゃ

(お説教には)す、すまにゃい(反省)

(二匹で公園をお散歩。水溜まりの中を覗き)
にゃ。変身しても顔の傷はそのままにゃ(しゅん)

(相手の言葉に)レオン…
(実はコンプレックスだったが、レオンが気にしてないならいいや、と気が楽に)

(その後は、大きく見えるバラやユリを覗き込んだり、蝶を追っかけ回したりして遊ぶ)
にゃ。こういうのも楽しいにゃ



 ハロウィンの間だけ、年老いた魔女バボラがタブロスで不思議な店を開いている。魔女が作った変身薬。ハロウィン風の花壇が見頃の公園を散策しながら、いつもとは違う姿を楽しむウィンクルムたちのお話。

●少女とフェンリル
 薬学を学んでいる『Elly Schwarz』は、『Curt』の手にある小瓶を興味深そうに見つめた。
「変身薬、ですか。一体どんな感じなんでしょう?」
 瓶の蓋を開けるとほのかに甘い香りがした。良い匂いだったが、クルトはわずかに顔をしかめた。彼は甘いものも薬も苦手なのだ。
「……苦いのか甘いのか。どっちも嫌だが、変身と言う意味では興味はある」
 クルトはリンゴ風味の薬を飲み干すと、気高く大きな狼の姿を想像したのだった。

 フェンリルに変身したクルトは、エリーとともに公園の花を見て回る。
「クルトさん、本当に狼さんになっちゃいましたね!」
「ただの狼じゃない。フェンリルだ」
 エリーの方は特に変身せず、いつもどおりの姿だ。屈強な獣がそばにいることで、エリーはいっそう儚く可憐に見えた。
「ここは綺麗で珍しい花ばかり……勉強になります」
 公園の花壇には、オレンジ色のバラや紫のチューリップ、珍しいものではお菓子の香りのユリとコウモリ模様のパンジーが咲き誇っていた。品種改良によって作られた珍しい園芸種だ。
「そのユリには近づかねぇぞ。鼻がおかしくなりそうだ」
 フェンリルになったことで、クルトの嗅覚はかなり鋭くなっているようだ。
「相変わらずの甘味嫌いっぷりですね」
 そんなクルトの様子を見て、エリーはクスッと苦笑した。

 芝生の広場にやってきて、エリーはおずおずとこんなお願いをする。
「あの、嫌じゃなければ……ですけど、触っても良いですか?」
 クルトはただ一言そっけなく。
「……好きにしろ」
 冷めた口調だったが、エリーが触りやすいように、大きな体を芝生の上にそっと伏せる。
「ふふ、モフモフですー!」
 エリーは好きなだけ、美しくなめらかな毛皮を堪能する。彼女だけに許された特権だ。
「……抱きつかれる犬の気持ちがわかった気がする」
 プライドもあり、クルトは簡単に尻尾を振ったりはしなかった。だが、こうしてエリーに無邪気に抱きつかれるのは。
「悪くない」
 ふと、動物の姿でなければ、こんな風にエリーがクルトを抱きしめることはないのではないか。そんなことをクルトは考え始める。耳や背中をなでられながら、クルトは思いを巡らせる。
 エリーは動物好きなのだろうか?
 そういえば、最初はディアボロということでエリーから嫌われていた。
 仮に自分がディアボロではなくテイルスだったとしたら?
「……俺がテイルスだったら、また違ったか?」
 突然のクルトの問いかけに、エリーの手が止まる。
 真剣な表情で、エリーはクルトの質問に答えた。
「……正直初対面の印象は最悪でした」
 無理やりといって良いほど強引な契約。そのため、エリーのクルトへの第一印象はかなり悪いものだった。
 しかし契約のきっかけはどうであれ、ウィンクルムとして行動を共にする間に、その気持ちは変化していく。
「でも少しずつクルトさんの事知っていくうち、あなたとウィンクルムで良かったって思います」
 偽りのない本当の気持ちを真っ直ぐな視線で、彼の心に届ける。
「ふ……確かに俺らしくもない」
 過去はすぎたことでしかなく、それを思い出したところで引きずるべきでもなかった。
 クルトはそう結論づける。
「エリーは強いな」
 狼の頭をそっと彼女に擦り寄せる。
「そうでもないですよ?」
 フェンリルの頭を静かに膝の上に乗せながら、エリーはそう返した。
 最悪の出会いから、彼への印象は変化していった。
 心に秘めた思いを彼に伝えるだけの勇気はまだない。もう少し、この関係が続けば良い。
 フェンリルになったクルトの頭に優しく触れながら、エリーはそう願うのだ。

●狼と赤ずきん
 公園に『リゼット』と『アンリ』の姿があった。アンリの手には、さっき魔女の店で買ってきたばかりの変身薬の瓶がにぎられている。
 アンリは自分で薬を飲みながら、リゼットにも変身薬を勧める。
「んじゃ、リズが狼で俺が赤ずきんな?」
 決定事項であるかのようにそう告げる。
「えぇっ! 狼? 私が!? ちょっ……!」
 ぽふんと白い煙とともに、リゼットの姿が変わる。
「いきなりいうから中途半端に変身しちゃったじゃない!」
 噛みつくような勢いでリゼットがアンリに抗議する。
 その姿は本物の狼というより、狼の獣人に近かった。耳と尻尾、そして手足に狼の特徴が出ている。それ以外は少女のままだ。
「いい感じにマニアックな変身っぷりだな」
 そういう彼は赤ずきんへと変身……いや、女装をとげていた。
「きぐるみみたいだけど、なかなかかわいいぞ?」
 手を伸ばして、リゼットの顎の下をなでる。まるで犬を可愛がるような手つきで。
「って顎の下撫でないでよ!」
 腹を立てたリゼットは、狼の本能のままアンリの手を噛んだ。反射的な行動だったが、思った以上に強い力で噛んでしまったようだ。
「こら! 思いっきり噛んだな!」
 アンリは噛まれた方の手を抑えた。
「あっ……牙も」
 ハッと気づいたように、リゼットは自分の口元に手を当てた。鋭い犬歯が生えていて、これがアンリの手を傷つけたのだろう。
「……ごめん」
 動物のように、アンリの手の傷をペロペロとなめるリゼット。
「ひゃっ、な、なめるな、いいから、もういいから!」
 アンリは慌ててリゼットを止めた。

 落ち着いてきたところで、リゼットはやや辛辣な口調でアンリに尋ねる。
「なんであんたが赤ずきんなのよ。狼ならアンリの方がぴったりじゃない」
 少し偉そうに腕組みをして、ジトーッとした目でアンリを睨みつける。
「女装趣味でもあるわけ?」
「赤ずきんな俺様もなかなかだろ?」
 しかしアンリはどこ吹く風だ。
「女装まで似合ってしまうなんてさすが俺」
 自画自賛するが、足がガニ股になっている……。
「スカート履いてるなら足を閉じなさい」
 リゼットから冷ややかな指摘が飛んできた。

 風向きが変わったのだろうか。ふわ、と漂う良い香りをリゼットは感じ取った。
「鼻も良くなってる?」
 風が運ぶ甘い香りに導かれるように、リゼットは進んでいく。たどり着いたのは、公園にあるハロウィンシーズン特設花壇だ。
「花からお菓子の香りがする!」
 リゼットが引き寄せられたのは、お菓子の香りがするユリの花壇だった。花に飛びついて、無意識に尻尾をパタパタと振っていた。
 その様子をニマニマと眺めるアンリ。
「お菓子の匂いにつられるなんて狼リズさんはくいしんぼうだなぁ」
「く、くいしんぼうはあんたでしょ!」
 そう怒った後で、リゼットは花とは別の香りに気づいたようだ。
「そういえばアンリもいい香りがするんだけど、狼にとってはごちそうなのかしら。牙がうずくからちょっとかじらせなさい」
「あ? 俺がいい匂い?」
 不思議そうな顔で、アンリは自分の匂いを確認した。
「まあ甘咬みまでなら許してやらんでもないぞ」
 アンリはベンチに腰掛け、堂々と腕を差し出した。狼リゼットは遠慮なくその腕をかじる。
「落ち着くわ……しばらくかじってていい?」
 アンリは不敵に微笑んで。
「そのかわり、俺も食わせてもらうけどな?」
「え、ちょっと!?」
 ビックリするリゼットに抵抗する隙を与えず、アンリは彼女の首筋に一瞬だけ歯をあてた。
「こ、こら! 私をかじらないでよ!」
 顔を真っ赤にしてリゼットが叫ぶ。
 そんな彼女の反応までも楽しむように、アンリはそっとリゼットの耳元でささやいた。
「なんで赤ずきんかって話だけど、そりゃお前、最後は狼に勝つからに決まってるだろ」

●少女と吸血鬼
 『グレン・カーヴェル』は、変身薬の小瓶を手の中でクルクル転がした。彼が考えるのはもちろんパートナー神人『ニーナ・ルアルディ』のことだ。
「最近あいつといると調子が狂うし、久しぶりにニーナで遊んでみるか」
 ニーナをからかって反応を見るのが、グレンの娯楽だ。
「この間のパーティ、吸血鬼の仮装多かったし吸血鬼にでもなってみるか」
 キュッと瓶の蓋を開けて、グレンは変身薬を口にする。
 せっかくの変身薬なのだ。自分だとバレてはつまらない。顔立ちや全体的な雰囲気などが別人に見えるようイメージして、グレンは吸血鬼の青年になりきった。

 ニーナはちょうど魔女の店近くの公園にきていた。一人でのんびり公園にでも。この日はそんな気分だった。
「気持ちのよい秋晴れですが、日差しが強いですね」
 木陰のベンチを見つけて、ニーナはそこで一休みした。
 彼女が考えるのはやはりパートナー精霊グレンのことだ。
 助けてくれたり優しくしてくれることは以前よりも増えたが、たまに悪ふざけがすぎる時がある。
 つい最近もこんな大事件があった。
 カジノ『ゴールド』で開かれたハロウィンイベント。ポーカー勝負を持ちかけられ、結果的にニーナはグレンにいきなりキスをされたのだ。
 契約時の手へのキスや、トランスの際の頬へのキスではない。唇と唇とのキスだった。それも彼は罰ゲームと称して。
「カジノの時のキ……キ……とか……っ、もうっ! グレンの考えてることが全然分かんないですっ!」
 そのことを意識するあまり、ついグレンへの接し方がぎこちなくなってしまう。二人は小さな借家でいっしょに生活しているが、今朝も思わず目を逸らしてしまった。
「グレン、絶対に怒ってましたよねあれ……。謝らなきゃ……でもいつ、どうやって謝りましょう!?」
 ニーナはうんうんと頭をひねるが、良いアイディアは出てこない。目を閉じて、考え事に集中する。
 木陰はとても居心地よく、適度な暖かさだった。
 いつの間にか、ニーナはうとうとと心地良い眠りに落ちていた。

「ククッ……。良い具合に日光のない場所にいますね」
 銀髪に銀眼の美青年が、眠るニーナに近づいた。言葉遣いも見た目も違っているが、吸血鬼に変身したグレンだ。
「不用心ですね。こんなところで寝ているのですか?」
 吸血鬼グレンは、睡眠中のニーナの顔を覗き込む。
「今、叩き起こしてさしあげますよ」
 優美な手をしならせてニーナの背中を叩く。
「痛ぁ……!? あ、いけない、うっかり寝てました……。起こして下さってありがとうございます」
 ニーナは吸血鬼風の容姿の青年を見ても、取り乱す様子はない。
 グレンはあっけにとられる。まさか乱暴に叩き起こして、礼をいわれるとは思っていなかった。それに今は、グレンではない別人に変身している。自分以外の男にもニーナがこんなに素直だと思うと、なんだか複雑な心境だ。
 グレンはニーナを怖がらせてみたくなった。
「ククッ。お礼の言葉よりも、血を吸わせてくださいよ」
 牙をちらつかせながらニーナに迫る。
「え……いや、そんなこと急に言われても……あんまり血を取られたら死んじゃいますし」
「死ですか、それは素晴らしい! 僕たちの仲間入りもできますし」
「やることもあるのでお仲間になる訳にも……」
「その生き血で僕のノドを潤わせてください!」
「いーやーでーすーっ! 助けてグレン!」
 ぽふん、と変身魔法が解けた。
「ちょ、何で変身解けんだよ! 念じないと戻らないって話じゃなかったのかよ!」
 薬の説明によれば、本人が元の姿に戻りたいと強く念じれば変身が解ける、とある。
「それとも何だ、こいつに名前を呼ばれて無意識に俺が元に戻りたいと願った……とでも?」
「グレン?」
「こういう時に助けを呼ぶんなら避けんなよ、バーカ」
 乱暴な言い方だが、それが彼なりの仲直りの言葉なのは、ニーナにもちゃんとわかった。

●赤眼の黒猫と青眼の黒猫
 タブロスの町を歩いていた『ガートルード・フレイム』と『レオン・フラガラッハ』。
「ガーティー、面白い物売ってるぜ! すっげー楽しそう♪」
 通りの右側にあった魔女の店を見つけて、レオンがガートルードを呼び止める。ガートルードは目の負傷が原因で右目の視野が狭い。
「一緒に変身しようぜ!」
「別に構わんが、何になりたいんだ?」
 聞けば、しゃべる黒猫に変身したいという。黒猫はレオンの好きな動物だ。
「特になりたいものもないから、同じでいいぞ」
 二人分の薬を買って、店の近くの公園でいっしょに小瓶の蓋を開ける。

 魔法の薬の力で、二人の姿が変わった。
 ガートルードは赤い目に赤いリボンの黒猫に。
 レオンは青い目に青いリボンの小粋な黒猫に。
 レオンは自分の肉球つき前足をにぎにぎしてみる。
「にゃ~。ケダモノになったにゃ!」
 口調もネコっぽくなっている。
「ということは……ケダモノになってもいいということにゃ!」
 レオンの青い目がイタズラっぽくキラーンと光る。
「にゃ~上に乗っちゃうにゃ~」
 おふざけで、黒猫ガートルードの背中に前足をかける。
「にゃ?」
 ガートルードは目を見開いて驚いた後、真剣な表情でしばらく黙ってしまった。
 そして、覚悟を決めたように口を開く。
「……レオンにはこの間怪我させたり、迷惑かけてるにゃ」
「にゃん?」
「だからレオンがそうしたいなら、いいにゃ」
 レオンのちょっぴり大人なジョークをガートルードは深刻に受け止めてしまったようだ。
「ニャー! お前にゃに考えてるにゃ!」
 大慌ててでレオンは身を離す。
「そこはビシッとツッコむところにゃ! ビックリしたにゃ!」
 肉球つきの前足で、タシッタシッとしきりに地面を叩くレオン。
「す、すまにゃい」
 お説教されるガートルードだった。

 気を取り直して二匹仲良く公園を探検する。身軽な黒猫の体で無邪気に遊びまわる。
 途中、ガートルードが小さな水たまりを見つけて立ち止まった。水面に映る自分の姿を覗きこむ。
「にゃ。変身しても顔の傷はそのままにゃ」
 悲しげにつぶやいた。彼女の右目の傷は、かつてギルティと遭遇した際につけられたものだ。
 そっとレオンが近づく。
「にゃ? お前、顔の傷気にしてたのかにゃ?」
「……」
 小さくコクリと頷くガートルード。
 レオンは前足を伸ばして、ガートルードの右頬に触れた。ぷにっとした肉球でぺしぺしと頬を優しく叩く。しゅんとした彼女を元気づけるために。
「全然オッケーにゃ。俺は全く気にしてないにゃ!」
 明るくそういってのける。
「レオン……」
 右目に走る傷は、実はずっとコンプレックスだった。だが相棒の包み込むような温かい言葉で、ガートルードの心は救われた。フッと気が楽になる。
「ありがとうにゃ」
「にゃっ。ちょっと照れくさいのにゃ」
 レオンが急に走り出した。照れ隠しに、追いかけっこのお誘いだ。
 もちろんガートルードはその誘いに乗った。
 公園にはハロウィンらしい花を集めた花壇がある。猫の目線で見る花々は普段とは違う迫力があった。
「オレンジのバラ、キレイだにゃ。こっちのユリは、お菓子そっくりの甘い香りがするにゃ」
 ガートルードが花を愛でていると、レオンは何かを見つけたようで。
「ガーティー、蝶がいるにゃ! 追いかけっこするにゃ!」
 ヒラヒラと飛ぶ蝶を追いかける。狩りではないので、爪はしまったままでジャンプやダッシュで蝶と戯れる。
 やがてターゲットは蝶から通行人へ。
「トリック・オア・トリート! にゃ」
「ハッピーハロウィン! にゃ」
 黒猫の姿で人の言葉で話しかけて、人々をビックリさせるイタズラだ。
「にゃ。こういうのも楽しいにゃ」
 イタズラを成功させて、ガートルードとレオンは肉球の手でハイタッチ。
 黒猫の変身を心ゆくまで満喫した二人だった。

●アリスと白ウサギ
 『夢路 希望』は心配そうに『スノー・ラビット』の横顔を眺めた。それというのも、最近彼の様子がおかしいような気がするのだ。
 だが、今こうしてタブロスの通りを歩くスノー・ラビットはいつもどおりで、特に変わったところは見られない。
 店頭に並ぶ魔女の変身薬をスノー・ラビットは興味津々に見つめているところだ。
 そんな彼の姿に希望は優しく微笑んだ。
「……面白そうですし、買ってみましょうか」
「……! うんっ」

 二人分の変身薬の会計を済ませると、二人は近くの公園へと移った。
「何になろうかな……ノゾミさんは?」
 少し考えてから、希望はなりたいものを思いついた。
「えっと……私は、アリスになってみたいな、と」
「不思議の国のアリス? ……じゃあ、僕は白ウサギにしようかな」
「……白ウサギ?」
 希望は一瞬だけキョトンとして、すぐに気づいた。
「あ、時計を持ったウサギさんですね」
 アリスになりたいといった希望に、スノー・ラビットが合わせてくれたのかもしれない。希望はそんなことをうっすらと考えた。
 薬を飲んでアリスの姿を思い描く。不思議の国を冒険した、気丈で賢い少女のことを。
 魔法の白い煙が希望の姿を包んだ。
「……上手くできたでしょうか」
 希望の髪は腰まで伸びて、着ているものはピンク色のエプロンドレスへと変わっていた。
「ユキは……えっ」
 驚愕のあまり、思わず希望は口を手を覆う。
「……か、可愛い……っ!」
 スノー・ラビットは、五歳ほどの幼い少年になっていた。
「折角変身できるのに格好だけだと勿体無いから、こっちの方が驚いてくれるかなって」
 柔らかく微笑んでスノー・ラビットは希望を見つめる。
 希望も愛らしい姿のスノー・ラビットを見つめ返す。
 恋愛に奥手でおとなしい性格の希望は、スノー・ラビットに憧れているものの、褒められたり手が触れただけでも心臓がドキドキして緊張してしまう。最近はそばにいるのも視線を合わせるのにも、少しずつ慣れてきたが、それでもジッと見つめ合ったりなんてことはまだ苦手だ。
 いつもなら。
 幼い姿のせいか、今はいつものように緊張することはない。希望はまじまじとスノー・ラビットの変身姿を眺める。
「小さいユキ、すごく可愛いです。その純白の耳もルビーみたいな赤い目も、とってもキレイでステキですよ」
 白と赤という単語に、スノー・ラビットの耳がビクッと動く。小さな体は、わずかに硬直したようだった。
 だが希望の温かな笑顔を見ているうちに、そのこわばりは氷が溶けていくように、ゆっくりとほぐれていく。
「ノゾミさんも可愛いよ」
 アリス姿の希望を見上げて、スノー・ラビットは笑顔を見せた。長年心に抱え込んだ胸のつかえが下りたような、そんな晴れ晴れとした顔で。
「そういえばアリスってウサギを追いかけて不思議の国に迷い込むんだよね?」
「……そういえば、そんなお話でしたね」
 アリスと白ウサギに変身した自分たちの姿を改めて見て、希望はこういった。
「追いかけたら不思議の国へ行けるでしょうか、なんて」
 スノー・ラビットはにっこりと笑顔をむけて。
 走り出す。
「あ……ウサギさん、待って!」
 白ウサギの逃走で、アリスとの追いかけっこがはじまった。
 公園を走り回り、ついに希望はスノー・ラビットをつかまえた。小さな体をぎゅっと抱きしめる。
「……わわっ」
 スノー・ラビットの顔が赤くなる。希望からこんな風に抱きしめられるのは、はじめてだった。
「……ふふ。いつもと逆ですね」
 希望は幼いスノー・ラビットの頭をなでる。
「……中身が僕って忘れてるのかな」
 小声でつぶやく。
「でも嬉しいから……今はそのまま」
 スノー・ラビットは希望に抱きしめられたまま、幸福そうにそっと目を閉じた。



依頼結果:普通
MVP

メモリアルピンナップ


エピソード情報

マスター 山内ヤト
エピソードの種類 ハピネスエピソード
男性用or女性用 女性のみ
エピソードジャンル イベント
エピソードタイプ ショート
エピソードモード ノーマル
シンパシー 使用不可
難易度 普通
参加費 1,000ハートコイン
参加人数 5 / 2 ~ 5
報酬 なし
リリース日 10月08日
出発日 10月14日 00:00
予定納品日 10月24日

参加者

会議室

  • [9]夢路 希望

    2014/10/13-15:15 

    お久しぶりの方ばかりですね。
    私達は……不思議の国のアリスの何かになってみようかな、と。
    えっと、改めて、宜しくお願いします。

  • [7]ニーナ・ルアルディ

    2014/10/13-00:46 

  • [6]ニーナ・ルアルディ

    2014/10/11-14:04 

    ニーナ・ルアルディです、
    はじめましての方もお久しぶりの方もよろしくお願いしまーすっ!

    何かグレンが買い物出掛けちゃったみたいなので
    私は公園でのんびりしてようかなぁって思います。
    吸血鬼とかおもしれーかもとか呟いてるのが聞こえましたけど
    ハロウィンの仮装でもやるんでしょうか?

  • どうもー。希望ちゃんとはさっきぶりだな!
    ニーナちゃんははじめまして、他のみんなは久しぶり、かな?
    ロイヤルナイトのレオンと連れのガートルードだ。
    ガーティーと俺はしゃべる黒猫になる予定だよ!
    よろしくな。

  • [3]リゼット

    2014/10/11-09:12 

    こんにちは。
    私たちは赤ずきんと狼でいこうかと。
    狼なんてほとんどそのまんまだから別に変身なんてしなくていいと思うんだけど
    なんか嫌な予感がするわね…。
    ともあれ、よろしくお願いね。

  • クルト:

    久しぶりの奴が殆どになるか。
    改めて神人Elly Schwarzのパートナー、Curtだ。
    今のところ俺はフェンリルになろうと思う。エリーは現時点では変身はなしの見込みだ。被り防止の為に一応伝えておく。
    エリーがやはり変身したいと言う時も発言しよう。
    まぁ……今回よろしく頼むな。
    (PL:いろいろ言葉足らずだった為再投稿しました。すみません。)


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