プロローグ
女性ばかりの家族の、収穫を手伝ってやってほしい。
そんな依頼を受けて、ウィンクルムはつきうさ農区にやってきていた。
しかしそれも終わり、あとは帰宅ばかりとなったときのこと。
きゃああ、と楽しげな笑い声が聞こえた。
「ああ、あんたたち!だめだよ、そっち行っちゃ!」
母ラビットの声とともに、小さな子供たちが、ウィンクルムの前を走り抜ける。三歳の双子のちびラビットたちである。
「まったく、子供は元気だな」
苦笑しながらも立ち上がり、子供たちを追いかける。
「ほら、待て!」
しかし子供はそれを遊びと勘違いしたらしい。きゃあきゃあと叫びながら、楽しそうに広い敷地をくるくると回った。目の前には、何やら高く積んである山。その前で、手を伸ばせば、二人に届く。そんなタイミングで、子供がかくりと膝を折った。
「え? おい!」
転ばせてなるものかと、二人を腕に抱え込み――。
そのまま、まとめて山へ突っ込んだ。
「すっげ! くさいんだけど!」
子供を抱えたままげほげほと咳き込んでいると、母ラビットは大きくため息をついた。
「あんた、牛の糞に突っ込んだね?」
「は? 糞?」
「そうだよ。この辺は昔ながらの方法で仕事してるからね。畑の肥料は動物の糞なの。それがまとめてあるのが、あの山さ。あーあ、臭い、とれないよ?」
家でお風呂に入っていきなよと言われ、ありがたく風呂を借りた。
しかし問題は、その後に起こった。
脱衣所で体を拭いていると、外から母ラビットの声がする。
「あ、出たかい? ごめんね、あんた。あんたの服洗濯しちゃったんだけどねえ、うちはなにせ、あたしとあの子たちだけしかいないだろ? あんたに着られる服がなかったんだよ。どうしようかね?」
「この状態でそんなこと言われても……」
なにせ今は、生まれたままの姿である。
「近所の人になんか借りてくる? ああ、それともあんたのペアの子が、自分の上着貸すとも言ってるけど、どうしようか? え? いつ乾くかって? うち乾燥機ないから、しばらくかかる……ああ、わかったわかった、着替えられるもの、あたしが適当に買ってくるよ。一時間、待っといてくれるかい?」
解説
ウィンクルムの片割れが、着るものがなくて困っています。
以下のものが用意できますが、何を着てもらいますか?
1、隣家の長身お姉さんの、ピンクのふわふわバスローブ
2、隣家のお兄さんの、洗いざらしのくったり浴衣
3、あなたのパートナーの上着(またはシャツなど、上半身に着ているもの)
4、もうバスタオルでいい
その格好で、一時間パートナーと過ごしてください。その間に母ラビットが服を買ってきてくれます。
そして服の代金をちゃっかり請求されました。大特価特売品ということで200jrです。シングルマザーも大変なので、払ってあげてください。
ちなみに購入してくる服は下記から選んでください。
1、うさぎ柄のTシャツとハーフパンツ、しっぽ付き
2、うさぎ柄の長袖パジャマ、うさぎ風もこもこ手袋・靴下突き
3、うさぎの着ぐるみパジャマ、うさ耳フード付き
ゲームマスターより
皆さまの良識にのっとったプランをお待ちしています。
ウィンクルムもみなさんも、風邪をひかないよう、ご注意くださいね。
そして書いた後に気付いたのですが、これ……下着つけてないですね。
リザルトノベル
◆アクション・プラン
高原 晃司(アイン=ストレイフ)
うっわ…まじで災難すぎる… さて…これどうするかな… いつもだったらバスタオルのままで大丈夫なんだが (…今までは大丈夫だったのになんでアインの前だと裸になるのが恥ずかしいって感じるようになったんだ?) と、とりあえず浴衣を借りるか パンツねぇけど大丈夫だよな!?見えねぇよな!? あと買ってくる服も…これ完全に究極の選択なんだが… Tシャツとハーフパンツでいいかな… ってか1時間もこんな恥ずかしい時間を過ごさないといけねぇんだが 何をすればいいんだ? こんな格好じゃ無駄に動けねぇしな… とりあえずじっとしてるぜ… 「くっそーなんで俺がこんな格好に…アインも脱げよ!」 俺だけこんな格好はズルいしな! |
羽瀬川 千代(ラセルタ=ブラドッツ)
開いた戸から差し出された相手の上着受け取り 着替えが来るまでの一時凌ぎだし、十分だよ(襟元掻き寄せ ありがとうラセルタさん、帰ったらちゃんと洗って返すね 脱衣所出ようとすれば立ちはだかる相手にあえなく逆戻り 半ば強引に髪拭かれるのを大人しくされるが儘に ……商店街の銭湯で遊んだ時もこんな風にしてたっけ (いつも乾かす側だし、距離が近いと少し緊張するな 大体洗ったつもりだけど、あまり寄らないでおこうか?(一歩引き 購入頼んだTシャツとハーフパンツに袖を通し 後で双子ちゃんの所へ行っても良いかな。驚かせただろうから謝りたくて まだ着ていて良いの?じゃあ、折角だし借りたままで (着てた方が暖かいし…安心するというか、うん |
栗花落 雨佳(アルヴァード=ヴィスナー)
慣れない事はするもんじゃないよね もう臭いしないかな?大丈夫?(くんくん) ちょっと大きいんだよ…ふふ、アルの匂いがする 楽しそうだなと思って あんな風にはしゃいで走って転がって…僕はそんな事した事なかったから…きっと楽しいんだろうなって …うん、楽しかったよ? (そう言って笑うが本当に楽しいと思っているかは定かではない) でも、やっぱり僕にはこっちの方が性に合ってるみたいだ (スケッチブックと鉛筆を取り出して景色を模写しながら) アルは子供の頃はどうだった?あの二人みたいにやんちゃだった? …君はそんな小さいころからお店の手伝いしてたの?凄いね… それでも、凄いよ あはは、見てみてアル。うさぎさんだよ 服装1+3→3 |
セラフィム・ロイス(火山 タイガ)
◆4タオル、3うさパジャマフード 慣れないことをするんじゃないね。えっと (わざわざ隣や女物を借りるのは申し訳ないし バスタオルだけは…来客があったら頭痛いし) …何か企んでない? やっぱりバスタオルでいい ■脱衣所から出 …あまり見ないで (バックから虎のぬいぐるみを抱えソファに) 本当にね。まあ被害は最小限にすんだからいいよ トランプ?僕強いよ うん。気に入ってる。今は僕のお守りと癒しにね(手触り楽しみほっと落ち着く) (タイガそっくりで衝動だったけど。最近動物が、特に虎が気になるんだよね) しらない。…なんだよ(赤面) それは、確かめてほしいけど ■ …これ着てかえれと お願いしてもいい(世話になりっぱなしだなぁ… |
エルド・Y・ルーク(ディナス・フォーシス)
ウサギとは良いものですねぇ 「ディナス、その先は…!」 …ああ、やはりやってしまいましたか 子供の安全を優先とは、らしい、と言えばらしいですのですが…(微笑ましいものを見る様な目で見つつ) 貴方でしたら、お隣の家の… おや『ご迷惑は掛けられないから服を寄越せ』とは、 神人に服を寄越せとは大胆ですねぇ 「服を寄越せとはこちらまで恥ずかしくなってしまいますねぇ」(わざと照れて冗談めきつつ) 購入して頂いたパジャマはどうしましょうか やはりここは王道の「うさぎの着ぐるみパジャマ、うさ耳フード付き」を…! ディナスに一刀両断されてしまいました それでは、私が代わりに喜んで着…これは根本的な解決になっていない気がしますねぇ… |
●バスタオル&虎のぬいぐるみ、のち、着ぐるみパジャマ
「慣れないことをするんじゃないね」
ひとりきりの浴室で、セラフィム・ロイスはため息をついた。もう匂いはとれただろうかと裸の肩口をかいでみるが、よくわからない。まあせっけんの香りがしているから、大丈夫ということにしておこう。
脱衣所で体を拭いて、さてどうしたものかと考える。わざわざ隣近所から着替えを借りるのは申し訳ないし、かといってバスタオル一枚というのも心許ない。
……万が一、来客でもあったら頭痛いしね。
そんなこんなで考える数分ののちに、外から声がかかった。火山 タイガである。
「セラ、あんま悩んでると風邪ひくぞ! もしあれなら、俺の上着貸すぞ? なんなら下も!」
身長差10センチ。まあ入らないことはないだろう。でもそれより気になるのは、なぜだか弾んで聞こえたタイガの声だ。
「……なにか企んでない?」
「…………企んでないって!」
「なに、その間」
「なんで疑うんだよ。そんなっ、別にさ、新鮮なセラを拝みてぇとかそんなのしかねーって!」
内心で彼女にYシャツとか思っていたことは秘密にして、それ以外に思ったことを素直に返すタイガ。さてセラは、上着と下、どっちを選んでくれるかと思いきや。
「やっぱりバスタオルでいい」
「……あう」
脱衣所の外で、タイガが脱力したのは言うまでもない。
「よ、よお。災難だったな」
脱衣所から出てきたセラフィムにそんな今更のことを口にしてしまうのは、タイガが激しく動揺しているからである。
だってセラの細くて白い体で、白いバスタオル一枚だぞ? いつも黒い服ばっか着てるセラが、白一色だぞ。いったいどこの天使かと……。いやいやそれはと首を振りつつも、タイガの背筋はまっすぐ伸びる。
「……あんま見ないで」
セラフィムはタイガの視線を避けるように、自分の荷物の中から虎のぬいぐるみを取り出した。それを抱えてソファに座る。体幹部が虎で隠れたことで一息ついたのか、さっきのタイガの言葉に答えてくれた。
「本当にね。まあ被害は最小限に済んだからいいよ」
「おう、セラじゃなくて俺が近くだったら、間違いなく糞の山に突っ込んでたの俺だったよなー」
そんなことを言いながら、タイガの視線はちらちらとセラフィムを見た。でも虎が邪魔で……。
あまりに見ているのも変なので、適当に手を動かすと、かつんとトランプの箱に行きあたる。
「トランプあったぜ。やっか?」
「トランプ? 僕強いよ」
虎を膝の上に置いたまま、腕だけ伸ばし、カードを探るセラフィム。
やっぱ虎が邪魔だな……見えな……。いや、可愛いけど! 虎を抱えるセラ、いいけど! って駄目だ俺、落ち着け!
タイガはあえて、セラフィムではなく虎に注目した。
「それ、夏祭りの射的でゲットしたやつだよな?」
夏を越えて秋まで持っていてくれるのかと思い聞いてみれば、セラフィムは片腕でぎゅっと虎を抱きしめる。
「うん。気に入ってる。今は僕のお守りと癒しにね」
最近動物が、特に虎が気になるのだとは、虎耳・虎尻尾の相棒には言わないけれど。
「それ……俺?」
「知らない」
想っていたことがばれたのかと、セラフィムは頬を染めた。しかしその表情こそが、相手に何より雄弁に事実を語っているとは気付かない。
タイガは座るセラフィムに近寄ると、虎のぬいぐるみごと正面から、セラフィムを抱きしめた。胸の中心はもふっとした虎で、セラフィムに触れるのは腕くらい。お湯を浴びていた肌はまた温かく、虎はふかふか心地よい。
「なんだよ」
「ん~? 臭いチェックしてるだけ」
そのときだ。
「ごめんね、あんた! 服買ってきたよ!」
突如部屋に入ってきた母うさぎに、二人は飛び退くように体を離した。ちなみに彼女が買ってきたのは、うさぎの耳つき着ぐるみパジャマである。
「……これ着て帰れと」
これしかないからと言われ袖を通し、真っ白なうさぎになったセラフィムは、ぎゅっと唇を噛んだ。しかし不機嫌うさぎも、なかなかに愛らしい。
「似合ってるから問題ねーって。気になるなら庇ってくぞ」
「……お願いしてもいい?」
「りょーかい!」
タイガは満面の笑みを見せた。
●ライダースと着ぐるみパジャマ(うさ耳フードかぶります)
「慣れないことはするもんじゃないよね」
栗花落 雨佳は浴衣を着て、脱衣所から姿を現した。前髪からは水が垂れ、浴衣に染みを作っている。
「お前、風呂出たらちゃんと髪拭けっていつも言ってんだろっ」
アルヴァード=ヴィスナーは、バスタオルを雨佳の頭の上に乱暴にかぶせた。そのまま両手でわしわしと黒髪を拭く。
「直ぐ風邪ひくんだから、冷えることすんじゃねえよ」
「それより、もう匂いしないかな? 大丈夫?」
自分の腕を持ち上げて、雨佳は臭いをかいだ。白い肌の二の腕までが、袂から覗く。アルヴァードはその腕を、ぐっと押さえて下げさせた。
「冷えんなって言ってんのに、露出すんな! ったく……臭いはしないがその浴衣だけじゃ……つーか、ちゃんと着ろっ! 前肌蹴てんじゃねえかっ……」
心配は腕どころではなかったと言えば、雨佳は「ちょっと大きいんだよ」と返す。まったくどこまでのんきなのか。心配するこちらの身にもなってほしい。
「もう、俺のジャケットも羽織っとけ!」
雨佳の肩に、アルヴァードが脱いだライダースを着せる。
「ふふ、アルの匂いがする」
……本当に、気楽な奴だ。
「で、どうしてあんなことしたんだよ、らしくない」
髪の水分を大方取り去ると、アルヴァードは雨佳に尋ねた。普段物静かな彼が子供と一緒に走り回る姿など、そう見ることではない。
「……楽しそうだなって思ったんだ。あんな風にはしゃいで転がって……僕はそんなことしたことなかったから」
「……で、楽しかったのかよ」
聞けば雨佳はゆるく笑う。赤い唇で、弧を描いて。
「……うん、楽しかったよ?」
どうだか。アルヴァードは思う。嘘をついているとは言わないが、雨佳の本心はいつだってぼんやりした先にある気がするのだ。
「でも、やっぱり僕にはこっちの方が性に合ってるみたいだ」
雨佳は荷物の中からスケッチブックと鉛筆を取り出すと、窓の外に見える景色を描き始めた。黒い芯が、さらさらと紙の上を走る。
「アルは子供の頃はどうだった? あの二人みたいにやんちゃだった?」
鉛筆を動かす手はとめないまま、雨佳が聞いた。
「そうだな……」
できあがっていくモノクロの世界を見ながら、アルヴァードは答える。
「あの位のガキなら、まだ外で遊ぶわな。後は親より今世話になってる店で育ててもらってたようなもんだし、ちょっとした手伝いしたり……店と契約してた農家に農作業しに行ったりしてたな」
雨佳は顔を上げた。
「……君はそんなに小さい頃からお店の手伝いしてたの? 凄いね……」
「まあ、手伝いっつっても、半分以上遊び感覚だったけどな、その頃は」
「それでも、凄いよ」
そうだろうか。それを自分は当たり前と思っていたけれど。
雨佳は凄い凄いと言いながら、絵に集中していった。
「ごめんよ、あんた。服買ってきたよ」
母うさぎが戻り、差し出しされたのは、うさ耳つきの着ぐるみパジャマだった。
「あはは、見てみてアル。うさぎさんだよ」
フードのうさ耳を指でつかんで持ち上げて、雨佳は楽しそうに笑う。
「なんでそのセレクトなんだよ! もっとマシなのはなかったのか!?」
これならいっそライダースの方がましだと、アルヴァードは思う。しかしその横で、雨佳はいそいそと、うさ耳パジャマを着る準備を始めた。
「お兄ちゃん、遊ぼうよ!」
うさぎになった雨佳に、子供がまとわりつく。
「じゃあ、お絵かきしよっか?」
子供に囲まれ鉛筆を持つ雨佳を、ため息とともに、アルヴァードは微笑ましい気持ちで見つめている。
……が、うさ耳フードは、かぶらなくてもいい気はしないではなかったが。
●くったり浴衣のち……脱いでもらうようです
「うっわ……マジで災難すぎる。これどうするかな……」
バスタオルを腰に巻いただけの格好で、高原 晃司は腕を組んだ。脱衣所を出るには何かを着なくてはならない。
「自室だったら、バスタオルのままで大丈夫なんだが……」
躊躇うのは、一歩先の部屋にアイン=ストレイフがいるからである。
……今までは大丈夫だったのに。なんでアインの前で裸になるのが、恥ずかしいと思うようになったのだろう。同性だし、本来それほど羞恥を感じることでもないだろうに。
「とりあえず、何か着た方がいいと思いますよ?」
扉の外からアインの声がする。
「……そうだな。考えるのはいいにして、着替えるか」
晃司は、浴衣に袖を通した。適当に前を合わせ、腰を帯で結ぶ。
心配なのは、下着がないということだ。
とりあえず足を開いて上から見てみるが、まあ、うん、大丈夫だろう。薄い布を一本の帯でとめるだけで大事な部分をガードするとは、何とも頼りなくはあるが、まあ仕方がない。
っていうか、色々究極の選択すぎる。買ってくる服はさっき聞かれたが、自分じゃ絶対手に取らないものばかりだった。
……ったく、月って恐ろしいところだぜ。
扉の向こうで、アインは安堵の息をついていた。晃司が着替えるという独り言が聞こえたからだ。そうだ、何かを着てもらわねば。タオル一枚でふらふら出てこられたら、正直困る。自分の感ずるものを押さえつける用意はあるが、そして自分の精神力がお粗末だとは思わないが、世の中に完璧なものなど存在はしないのだ。
晃司が、浴衣姿で現れる。首筋に、拭ききれなかったらしい滴が一筋。肌からは、うさぎの家族が愛用しているせっけんの、爽やかな香りが漂っていた。
汗が流れる姿なら、何度も見たことがある。しかしこんなに香るせっけんは愛用してはいないから……。
違和感、というか。晃司らしくないというか。とにかく、意識してしまいますね……。
「おー、さっぱりした! けど、一時間もこんな恥ずかしい格好で過ごさなくちゃいけねえとか……何すればいいんだ……」
晃司は立ち尽くした。下手に動くと中が見えそうで、とりあえず足をそろえてソファに座る。たった一枚の布がないというだけで、なんとも所在ないものだ。
そして、座ってしまうと動けない。隣でいつもの服装で、いつものように座っているアインが、なんだかとても余裕に見える。たぶんアインの傍に子供がいれば、あの糞の山に突っ込んだのはアインのはずだ。いや、こいつならもっとうまくやったのか? そもそも人助けをしたというのに、この有様は何だ。考えたら、だんだん腹が立ってきた。
「くっそー、なんで俺がこんな恰好に……アインも脱げよ!」
「は!? なんと言いました?」
「だから、お前も脱げよ! 俺だけこんな恰好はズルいだろ!」
晃司はアインのジャケットの裾をぐいと引いた。
「ちょ、ちょっと待ちなさい!」
それを返し、さらに身まで引くアイン。晃司の言っていることには一理ある。子供沿助けてこの状況。納得いかないのもわかる。わかるが……私の自制心を試すんですかと言いたくなる。
「待てねえな。ほら、早く!」
アインは一度目をぎゅっと閉じ、天を見上げた。こうなったら仕方がないと、ばさりと大きな音を立てて、ジャケットから腕を抜く。それをソファの背もたれにかけ、下……はさすがにまずいので、シャツのボタンに手をかけた。ひとつ、ふたつと外していき、厚い胸筋が、割れた腹筋があらわになる。
「……このくらいでいいでしょう。晃司の露出と、たいして変わりませんよ」
晃司は自分の体を見下ろした。そう言われて見れば。ちょっと肌蹴た合わせから見えるのは胸の一部だけだから、露出的にはアインのほうが多いくらい。寂しく感じるあの部分については、さすがに脱げとは言えるものではない。
ただ、これで状況は変わるものではない。
同じソファに並んで、常にはないくらい行儀よく座りながら、二人は自身の眼前を睨み付けていた。
ああ、かえって変な空気だ。
●相棒の上着とTシャツ短パン(上着は脱ぎません、脱がせません)
「千代、まさか他人の服を借りようというのではあるまいな?」
ラセルタ=ブラドッツはそう言って、開いたドアの隙間から、自身の上着を差し出した。脱衣所で体を拭いていた羽瀬川 千代は、素直にそれを受け取る。
「それで心許なければ、シャツもくれてやるが?」
スカーフに手をかけ、続けて言うラセルタ。
「着替えが来るまでの一時凌ぎだし、十分だよ」
千代は上着の胸元を掻き寄せる。
「ありがとう、ラセルタさん。帰ったらちゃんと洗って返すね」
ラセルタの上着は丈が長い。下に着るものがないと、ワンピースでも着ているみたいだと千代は苦笑した。しかしそのおかげで、体の大部分が隠れるのだから、不幸中の幸いと言えるだろう。
扉を大きく開けて脱衣所を出ようとすると、正面にラセルタが立ちふさがる。
「どうしたの? ラセルタさん」
どうしたもなにも、だ。
千代の髪から、滴がしたたっている。一粒、二粒。その濡れた頭の上にバスタオルをかけ、正面から。ラセルタは千代の髪を拭いた。いつもならばからかいのひとつでも言ってきそうなラセルタは、しかし無言である。それが千代は、不思議でならない。そして、だからこそ、だろうか。……緊張している、自分が。
ラセルタは、細く息を吐いた。
……神人になった時も、千代はああして無鉄砲に飛び出したのだろう。パートナーというのは、つくづく持ち主に優しくない所有物だ。
それでも、ラセルタの指は力を込めすぎることなく、バスタオルを、千代の髪を包み込んでいる。こんな千代だからこそ、手元に置いておかなくてはならない。できれば、自分の目の届く範囲に。
「……商店街の銭湯で遊んだときも、こんな風にしていたっけ」
不意に、千代が言う。でも、あの時は千代がラセルタの髪を乾かした。そうだ、いつも自分が乾かす側。だから、こんな近い距離で、何もしないでいることに慣れていないのだ。
妙に固くなってなっている自分の体にそう理由つけて納得したところに、ラセルタがいつもの揶揄する言葉を投げかけた。
「隅々まで洗い尽くしただろうな? 匂いを残したら承知せんぞ」
「……大体洗ったつもりだけど、あまり近寄らないでおこうか?」
千代が一歩、後退る。しかしそうして千代があけた空間を、ラセルタはあっさり埋めてしまう。それも、千代の頭の上のバスタオルに鼻先を埋める距離まで、だ。
「……大丈夫だ。お前はいい香りしかしない」
ラセルタの両手が、タオルの上を下へとたどり、千代の両頬を包み込む。
そこでガチャリと、部屋のドアが開いた。
「あんたたち、服買ってきた……って、あれ? いないのかい? ずいぶん長湯なんだねえ。外に着替え、置いとくからね!」
「ちょ、ラセルタさん、着替え、着替え来たから!離れて!」
千代が言えばラセルタは渋々と身を離し、着替えを持ってきてくれる。千代は再びひとりとなった脱衣所で、Tシャツとハーフパンツに着替えた。着慣れないものだ。これはこれで落ち着かない。
それでもこれしかないのだから仕方がないと部屋に戻れば、ラセルタにからかわれる。
「千代兎、尻尾は見えているが、耳はどうした」
ラセルタは千代の手から先ほど貸した上着をとると、それを再び目の前の肩にかけた。まったくTシャツにハーフパンツなど、腕や足など、普段見えないところが丸見えではないか。そんなところ、誰に見せてやるものか。
「まだ着ていて良いの? じゃあせっかくだし、借りたままで」
千代は先ほどと同じように胸元を寄せて、ラセルタを見上げた。これを着ている方が温かいし、どうせどちらも慣れない格好というならば、この方が安心する……と言ったら、おかしいだろうか。
「ねえラセルタさん。あとで双子ちゃんのところへ行っても良いかな。驚かせただろうから謝りたくて」
「……他人の心配は結構だが、もっと自信の危機感も持て」
ラセルタは、まだ湿っている千代の髪をぐしゃりと撫ぜた。
持ち主にも優しくしろ……と、内心で思いながら。
●相棒のシャツと着ぐるみパジャマ(本来は下は素肌らしいので)
「ディナス、その先は……!」
その、静止の言葉は聞こえていたのに。
ディナス・フォーシスは浴室でうなだれていた。とっさに子供を庇った結果が、これである。なんと報われないことだろう。
濡れた髪をタオルで包んでアップにして、ディナスは脱衣所から腕だけを外に差し出した。
「他の方に服をお借りするようなご迷惑をかける訳にはいきません。ミスター、服貸してください!」
「貴方でしたら、お隣の家の……」
言いかけたエルド・Y・ルークは口をつぐみ、それを笑みの形へと変える。
「服をよこせとは、こちらまで恥ずかしくなってしまいますねえ」
そう言って、細い隙間からディナスを見つめてみる。ディナスは扉の間からそれを覗いていたが、一刀両断。
「ミスター、上目づかいはやめてください」
……冗談の通じぬ精霊である。
まあ、そんな真面目な彼だからこそ、子供の安全を優先したのだと、エルドにはわかっている。
まさかあんなところに糞の山があると予期していなかったのもあるでしょうが……それにしても、らしいですね。
エルドは自分の上着を脱ぐと、それをディナスに差し出した。しかしディナスは、それではないのだと顔を横に振った。
「シャツを貸してください、ミスター」
「シャツを?」
「その方が上まで前をとじられますし、丈も長いですから。露出がおさえられます」
ディナスは言うのだが、そうなると、エルドは今の格好マイナス、シャツ。すなわち上着の下が――。
「……まあ良いでしょう。ディナスが上半身裸で出てくるよりは」
エルドはシャツを渡した。その後の格好は、素肌にジャケット。なかなかたくましいことになってしまった。
エルドから受け取ったシャツを着た後、ディナスは腕を肩の高さまで上げてみた。袖丈は、たいして変わらないはず。それなのにきっちりボタンを留めた首周りはぶかぶかで、肩もずれている。
「……でかい、ですね。これが目に見えて余る体格の違いという奴でしょうか……若干悔しく思えて仕方がありません」
しかしそれこそ服を着ていてもわかる違いなのだから、今ここでどうすることができるわけもなく。
ディナスは肩を落としながらも、脱衣所を出た。ソファでくつろいでいたエルドが顔を上げる。
「サイズは……ああ、大きい分には問題ありませんね」
エルドは穏やか微笑んだ。しかしディナスは、エルドの格好に目を見開く。
「あああ……そうですよね、そうなりますよね……」
ディナスはがっくりとうなだれ、その場にしゃがみこんだ。
「そんなふうにすると、見えてしまいますよ」
表情同様に、静かに言うエルド。
「何がとは、とても言えませんが」
「でも、だって、ミスター! 本当に申し訳ありませんでした!」
ディナスは立ち上がり、深く、それは深く頭を下げた。
「だからそんな勢いよく腰を曲げると、見えてしまいますって……後ろ」
やっとのことで時間が過ぎ、ディナスは着替えを手に入れた。迷惑をかけたお詫びにと、一着を選びたがっている風のエルドに選択を任せたのだが。
渡されたのは、うさぎの着ぐるみパジャマ(うさ耳フード付き)だった。
「こんなものは着れません」
ディナスはそれをあっさり突き返した。しかしある物すべてをチェックしてみれば。
「どれもうさぎじゃないですか! ばかにしているんですか!」
「うさぎとは、良いものですよ」
着ぐるみパジャマを広げて、エルドは言う。
「ディナスが着ないのならば、素肌にジャケットもいまいちですし、恥ずかしながらも私が……」
「ミスター! それでは解決策になっていません!」
さて、このウィンクルムはどうして帰ったのか。
着ぐるみパジャマのエルドと、ぶかぶかスーツのディナスなのか。
それともいつもの服装のエルドと、着ぐるみパジャマのディナスなのか。
それはみなさんのご想像にお任せします。
依頼結果:成功
MVP:
エピソード情報 |
|
---|---|
マスター | 瀬田一稀 |
エピソードの種類 | ハピネスエピソード |
男性用or女性用 | 男性のみ |
エピソードジャンル | コメディ |
エピソードタイプ | ショート |
エピソードモード | ノーマル |
シンパシー | 使用不可 |
難易度 | 簡単 |
参加費 | 1,000ハートコイン |
参加人数 | 5 / 2 ~ 5 |
報酬 | なし |
リリース日 | 09月21日 |
出発日 | 09月28日 00:00 |
予定納品日 | 10月08日 |
参加者
会議室
-
2014/09/27-18:31
はいはーい!不幸な出来事に遭遇しちまった俺だ!
まじでどうしようか…とりあえず暖をとらねぇといけねぇのか…
プランは今書いてる途中だ!
よろしく頼むぜー -
2014/09/26-01:58
こんばんは、羽瀬川千代とパートナーのラセルタさんです。
収穫の後にとんだ災難でしたね……誰にも怪我が無くてよかった。
着替えが届くまで一時間、風邪をひかないように気を付けたいと思います。
どれを着るかはまだ決めかねているのですけれど…(悩 -
2014/09/25-21:23
こんばんわ。セラフィムとタイガだ(虎ぐるみもふもふ)
お馴染みの面子だな。そして災難だったな・・・
こちらは、僕・・・だけど
慣れないことはするものじゃないね。匂い残らないよう入念に洗ったつもりなんだけど・・・
Σ絶対うさぎなのか・・・ -
2014/09/25-00:05
こんばんは、いつもお世話になっております。エルド・Y・ルークと申します。
今回はこちらの精霊の方が大変な目に遭うそうで……
ディナス:
ミスターのウサギの方が、ネタ的に絶対においしいです! 僕では無難過ぎるんです!
いやはや、この歳で兎になれれば、確かに新しそうですが……(思案中) -
2014/09/24-21:01
こんばんは。栗花落雨佳とアルヴァード・ヴィスナーです。
わぁ……何だか大変な事になっちゃいましたね…。
怪我をしなかっただけ良かったです…まぁ、においはお風呂に入れば取れますから……ね。
アル『よかねぇよ……』