【月見・ラパン】ミ=鳥=カメのチッチ(瀬田一稀 マスター) 【難易度:普通】

プロローグ

 それは不幸な出来事としか言いようがなかった。
 その日、某ラビット一家は焼き野菜パーティーをしていた。ホットプレート二台がフル回転で、野菜を焼いている。
 じゅうじゅうと香ばしい匂いが食欲をそそる。総勢二十名ほどのメンバーは、焼きあがりを今か今かと待っていた。
 だがしかし、だ。
「え?」
「ちょ、この状態で?」
「まじかっ!」

 停電である。

「まだこんなに焼くものあるのに!」
「腹減ってるのに!」

 しかしいくら叫んでも部屋は暗いまま。
 ホットプレートは冷めゆくままである。

 一家の主は考えた。
 二十名の我が親類、家族が飢える夜などあってはならない。
 これは『あの子』に手伝ってもらうしかないだろう。
 思わず呟くと、二十名の間にざわめきが走った。
「あの子を? 駄目だ、あまりにも危険すぎる!」
 しかし主は首を振った、
「その危険をおかさなければいけないときが、人生にはあるものさ」

 危険、すなわちそれは、亀。
 全長3メートルの巨大亀、チッチだ。

 チッチは名前で、本来の種族的に言うならば、ビックミ=鳥=カメとなる。
 亀なのに鳥とつくのは、首のあたりに小さな翼があるからだ。もちろん飛べはしない。撫ぜると亀が喜ぶ、それだけだ。
 そしてこの亀、腹が熱い。
 ひっくり返せば焼きものができるほどに、熱い。

 ラビット二十名は、この亀を捕まえるべく、つきうさ農区に向かった。
 この隅にある池に、チッチは住んでいるのだ。
「なに、ちょっと転がってくれればいいんだよ」
 主ラビットはそうチッチに話しかけた。
 しかし悲しいかな、種族の違いは言葉の壁を生む。チッチは主の話に見向きもしない。
 それどころか、遊んでくれとじゃれてくる。
「うおっ!」
 それをぎりぎりのところで回避して、主は腕を組んだ。
「このまま総勢二十名の我が親類が……そうだ!」
 そこで主、ある策を思いついた。

「ウィンクルムさん、この亀、転がしてくれませんかね! その後チッチで焼いたお肉、ごちそうしますから!」

解説

ビックミ=鳥=カメのチッチをころんと裏返してください。
熱がなくなってしまうので、殺してはいけません。

チッチは大きさ3メートルの巨大亀。
体重は300キロほどです。
亀なので動きは遅いですが、力はあります。
しかし温厚な性格なので、こちらが何もしなければ攻撃はしてきません。
主食はその辺に生えている草や、うきうさ農区にある野菜くずなどです。
人懐こいので、人を見ると甘えてきます。が、なにせ300キロなので、結構危険ではあります。
音楽が好きで、子守歌や綺麗な演奏を聞かせると眠ることがありますが、それが趣味にそぐわないと怒ったり泣いたりします。
怒るとのしかかってきますので、注意してくださいね。

ラビットたちはウィンクルムのためにお肉を調達してくれました。
お野菜とお肉食べ放題、半額はラビットが持ってくれますので、半分払ってあげてください。
彼らの生活も楽じゃないので……ということで、お食事代ウィンクルムで200jrいただきます。


ゲームマスターより

チッチを裏返した、お腹の上で焼き肉と焼き野菜をしましょう!
チッチのネーミングセンスとか、あまり深く考えてはいけません。
それでは皆さん、楽しい時間を過ごしてください。

リザルトノベル

◆アクション・プラン

高原 晃司(アイン=ストレイフ)

  肉を上手く焼かねえとな
上手く餌で引き付けれねぇか試すぜ
ただ重みもあるからなんとかしねぇとな…
なるべく餌をおいて途中で石を設置して…
ってのは流石にきついからセイジの案にのっかるぜ
人手が足りなければ手伝う!

シーツを使ってって感じだよな?
力が必要だしシーツをヒックリ返す時は手伝うぜ!
上手くいけばいいな…

上手くいったらなるべく話しかけながら転がらないようにしてもらう
「すまねぇ!後で絶対戻すからしばらくこのままで居てくれ」

とりあえず肉肉肉!
肉を一杯焼くぜ!
野菜?そんなもんはどうでもいいんだよ!
この年齢の男子は肉が足りないから
肉をがっつり食うぜ!


アキ・セイジ(ヴェルトール・ランス)
  (任務で怪我を負ったランスを元気にしてやりたい)
「焼肉、食べに行かないか?」にこ

◆概要
チッチを裏返して、皆で食べ放題!を目指す

●裏返す方法
依頼主の家に雨戸が有れば雨戸板を使用
無ければシーツを借り、延焼防止に塗らし、両端を傘に巻いて作った即席担架を使用

チッチの首や翼を撫でて喜ばせ、遊んでやりつつ戸板の上に誘導

誘導したら戸板前後を持ち、片方を上に一気に持ち上げる!
この段階で、戸板の下に他のPCさんの武器が入って戸板を捺す形になると効率的だ
声かけして協力を呼びかけよう

●裏返ったら
ランスがチッチを慰めてあやしてくれるので、俺はどんどん肉を焼く!
「早く食って、元気になってくれよ」
「あ、チッチにもやろう」



セラフィム・ロイス(火山 タイガ)
  動物や体験好き。口には出さないけど楽しみ

何・・・?!大きいっ
■遠巻き。納得したらおずおずと
踏み潰されたらどうしようって心配したけど温厚なんだ。大きい動物もいいね
返ってこんな子を鉄板の代わりにするなんて忍びないけど・・・気持ちいい?(羽なで)

■あわせオカリナ。スキル【演奏】
ディナスと一緒の意図と気づき自然と合わす
(選曲し)満喫させ横になってもらう
初めて人との演奏…別の心地良さがあっていいな

◆小川や自然を感じる曲から子守唄、カノン
※食事が終わるまで演奏
(僕はいい。楽しんでて)



一緒にいたくて
・・・優しくなんかないよ。きまぐれ
それに猫舌だし。食べれないから丁度いい

ん。甘い。こんな食べ方もあったんだ



セイリュー・グラシア(ラキア・ジェイドバイン)
  お・に・く!
「月よりお肉ッス」は名言だ!
皆で楽しく食べまくるぜ。

ラキアや皆が野菜や演奏でチッチが油断した所で。
セイジ案の雨戸か布を使い、チッチを
てこの原理でエイっとひっくり返す。
用意した棒や武器(オール)で転がすのを補助。
人手が要るから手伝うぜ。てい!
チッチがこれも遊びと思ってくれるといいな。
亀は自力じゃコロコロ出来ないもんな。
転がるのは楽しいぞ!
嬉しそうなら暫しコロコロ転がして楽しませる。

タイガとは食べ盛りコンビ的にバクバク一緒に食べる。
ウマー!肉を次々焼くぜ。
セイジやセラフィムには「もっと食え」と皿に焼けた肉を乗せてやろう。
その隙にオレの皿に焼き野菜が山盛りに!?
解ったよちゃんと食べるよ。



エルド・Y・ルーク(ディナス・フォーシス)
  20名もファミリーを抱えて…それはさぞ大変だったでしょう…(自分の境遇と重ね合わせてほろり)

チッチさんもきっとお腹は熱いでしょうから『耐熱手袋』でも持って行きましょうか

精霊がチッチさんを落ち着かせる為自ら楽器を探そうとするのは意外でしたが……昔の家には楽器があったのですね

運び込めるか等の疑念がまず湧くところでは御座いますが、是非頑張ってくださいね

私はその間に耐熱手袋をはめつつ、アキさんの指示に従いながら、他の方と一緒にチッチさんをひっくり返します
流石に300kgは行けるか分かりません
上手くひっくり返せれば良いのですが…

精霊が家族を温かそうな眼差しで見ています
……貴方も是非召し上がるべきですよ。



「焼肉、食べに行かないか?」
 アキ・セイジが相棒ヴェルトール・ランスを誘ったのは、前の任務で怪我を負った彼を、なんとか元気づけたかったからだ。でもその理由をあからさまにすれば、ランスはいたたまれなく思うだろう。そう思ったからいつもと同じ笑顔を心がけたのだが、ランスにはどうやらばれていたようだ。
「心配かけてごめんな……」
 そう言って、眉と耳をちょこんと下げる。
「ああもう、気にするな」
 セイジはランスの頭に手を伸ばした。髪をかきまぜるように撫ぜれば、しおれた耳がピクリと動く。
「そんな顔するより、たくさん食べて元気になってくれればそれでいい」

「お・に・く!」
 セイリュー・グラシアは、胸の前で握りしめた両手を、「お・に・く」のリズムで三回振った。
「『月よりお肉ッス』は名言だ! みんなで楽しく食べまくるぜ」
 右手拳を高く上げ、やる気満々の様子のセイリュー。
「おう、食べまくるぜ!」
 火山 タイガもまた拳を上げた。ちなみにこちらは亀の着ぐるみを着ている。なぜ亀、というのは、もうウィンクルムには突っ込まれ済みだ。傍らでは、ラキア・ジェイドバインとセラフィム・ロイスが、それぞれの相棒を微笑ましく見つめている。
 しかしセラフィムは言動にこそ表してはいないが、タイガと同じくらい、今後を楽しみにしているのだ。生き生きと動き回る動物には憧れにも近い思いを抱いているし、こうした体験もしかり。昔、自由に外に出られなかったことが影響しているのかもしれないが、今は連れ出してくれるタイガに感謝している。
 持参したオカリナを荷物から取り出し、セラフィムは手に握る。
「チッチは音楽が好きなんだよね?」
 そんな若者の横で、エルド・Y・ルークは目頭を押さえ、深くうなずいていた。
「二十名もファミリーを抱えて……それはさぞ大変だったでしょう」
 昔自分もファミリーを束ねていたから、その苦労は身をもって知っている。思わずほろりとしそうになるが、ディナス・フォーシスが肩に抱えている楽器を鳴らしたので、注意がそちらへと向いた。
「他の方が既に楽器の用意をしてこられたようですね。演奏には若干ながらも、自信はなくもありません」
 その遠回しな言い方に、エルドは苦笑する。得意と言えばいいのにと思うが、これが相棒の性格なのだろう。
「チッチは野菜を食うんだよな? 俺はうまく餌で引き付けられねえか試すぜ」
 高原 晃司は畑に落ちている野菜くずを手に取った。巨大亀、こんなもので腹が膨れるのか。それとも大量に食べるのだろうか。わからないので、とりあえず通りすがりにあるものは片っ端から拾ってみた。
「でも、ひっくり返すの大変だよな。三百キロだろ? みんなでやればいけるか?」
「そのことなんだが」
 セイジが一同を見る。
「依頼主の家に雨戸かなにか大きな板があれば、それにチッチをのせて、裏返すのがいいと思うんだ。なければシーツを使って代用するか……」
「雨戸ですか!」
 突然聞えた声に、ウィンクルムは驚き目を向けた。そこにはおそらく依頼主ファミリーの一員だろう。若いうさぎが、ちょこちょこと走って来る姿が見えた。
「遅くなってすみません。農区は広いので、迎えにきました。雨戸ですか、ありますよ! それ、持ってくればいいんですか?」
「ああ、頼めるか?」
 セイジが問うと、若うさぎは「任せてください!」と胸を張る。
「じゃあ僕、仲間と一緒に行って持ってきますんで、みなさんはチッチのとこへ行っといてください。あのへんです」
 若うさぎの耳が、一方へと傾いた。そこには見えるは大きな何か。あれがチッチということか。
「じゃ、お願いしますね!」
 とたとたと駆けていく若うさぎ。しかし数歩進んだところで、はたと振り返った。
「その方、なんで亀なんです? 虎の尻尾見えてますけど」
 みんなの視線がタイガに集まる。
「え? 友達の姿ならチッチと仲良くなれるだろ?」
「友達……。チッチにしたら子供みたいなものですかね。チッチ、あなたの倍くらいありますから」
 言い残して、若うさぎは雨戸をとりにかけて行く。
「……子供か」
 ぽつりと漏れた、タイガの一言。
「……タイガ、かわいい、よ?」
 セラが言うと、タイガはぐあっと顔を上げた。
「別に気にしないし! チッチが裏返れば俺は満足だっ!」


「見てみろセラ!でっけええええー――!怪獣みてええ!」
「大きいっ! あ、ほんとに翼がある」
 巨大亀に寄っていくタイガ。しかしセラフィムは、驚きながらもその場から動かない。いや、少しばかり、後ずさりをしたかもしれない。こんな大きさの亀は、初めてなのだ。
 チッチは大きな瞳で、ウィンクルムを興味深そうに見つめた。
「餌、やってみるか」
 道すがら拾ってきた野菜くずを、晃司がチッチの顔の前へと持って行く。大きな口を開けるのでそこに入れてやると、チッチはそれを一気に飲み込んだ。
「俺も俺も!」
「じゃあこれやれよ!」
 晃司に分けてもらった野菜を、タイガもチッチの口に入れた。しかしぱかりと開いた口は、タイガの手までを咥えてしまう。
「うおお、食われた!」
「おい! 大丈夫か?」
 晃司はタイガの腕を掴んだが、タイガはあっさり、平気、と言う。
「こいつらって歯ないんだな。痛くないけどもっしゃもっしゃする」
 その横に、セラフィムがやってきた。タイガの動じない様子に、近づく勇気を得たのだ。
「……踏みつぶされたらどうしようって心配したけど、温厚なんだ。大きい動物もいいね」
 セラフィムは言い、手に握ったオカリナを唇にそえる。
「音楽が好きなんだよね?」


 セラフィムの吹く曲は、しっとりと優しく響く。子守歌だ。
「では僕も」
 ディナスはキーボードの鍵盤に指を置いた。セラフィムが主旋律を奏でる曲は、音楽を知る者には有名なものだ。即興でも、ディナスが演奏に苦労することはない。
 エルドは目を細めて、ディナスを見た。それに気付き、ディナスが言う。
「楽器はミスターの前で弾くのは初めてですね。それにしても懐かし……っ」
 思わず指が躍りかけ、慌てて気を引き締める。
 こっ、これは任務です、と言い聞かせ、一瞬乱れた音を整えた。
 一方セラフィムは、初めて人と合わせる演奏を、純粋に楽しんでいた。ひとりで吹くオカリナもそれはそれでいいけれど、人と一緒に曲を奏でるのは、別の心地よさがある。
 その前……というかチッチの前で、タイガは曲に合わせて踊っている。
「なんだ、それ?」
 餌をやっている晃司が吹きだすが、全くもって気にしない。
「亀と仲良くなるだめだろ! ってか、親子亀のピラミッドしてえ……な、のってもいいかな?」
「まあお前、子亀サイズらしいからな」
 晃司は、さっき若うさぎが残した言葉を言った。タイガが唇を尖らせる。それでも「子供なら平気だよな」と自分で言ってしまうあたり、前向きだ。
 タイガはチッチに登ろうとしたが、それをアイン=ストレイフが止めた。
「熱くなるのは腹だけらしいですが、念のため私が手伝いましょう」
 そう言うが早いか、アインはタイガの両脇に手を入れた。軽々と体を持ち上げると、チッチの甲羅の上に、タイガをのせる。チッチは動じず、晃司が差し出す餌を食べている。
「サンキュ! おおお、すげえ! 亀の上とか! なあ写真頼む!」
 言いながら、タイガは亀の上に、亀らしく四つん這いになった。その様子をアインは見つめていたが、何分誰もカメラを持参していない。
「うおおお、俺も持ってなかった!」
 心底残念がるタイガ。その腹に手を添えて、もういいでしょうとアインがまた持ち上げる。
 そうやってタイガが宙に浮いているときに、やっと雨戸が到着した。


「この上にチッチを呼び寄せよう」
 チッチの前に置かれた雨戸の脇に立ち、セイジが言った。チッチがのった後だと持ち上げるために手を入れることが難しくなるので、片側の下には木片を入れて、空間をつくってある。チッチは音楽が気に入ったのか、大人しくしている。
「このまま前に誘導できねえかな?」
 晃司は餌を手に、チッチの眼前から一歩後ろに後退った。しかしチッチは動かない。もう腹が膨れてしまったのだろうか。
「たしか、首の上の翼を撫でられるのが好きなんだったよな」
 セイジがそこに手で触れる。翼というよりは、産毛かわたの感触が、セイジの手のひらを包んだ。
「ふわふわだ……」
 チッチはうっとりと目を細めた。その一メートルほど前に、ラキアが野菜を差し出す。
「ほら、チッチ。おいで」
 チッチは目を開け、ゆっくりゆっくり、ラキアの手元の餌に向かって歩いていく。片足が雨戸にのるとみしりと鳴ったが、木製の雨戸はどうやら耐えてくれているようだ。
「ちょっと前にうちの子うさぎたちが壊しましてね、新調したばかりなんですよ。ええ、とびきり頑丈にしてもらいました」
 依頼主が自慢げに胸を張る。
「それは運が良かったな」
 セイリューはラキアと晃司が、地道にチッチを誘導するのを眺めていた。あとは後ろ足だけだ。それがのれば――。
「のりましたねえ」
 エルドは念のため持参した耐熱手袋をはめ、チッチののった雨戸に近寄った。それと同じ方向に、楽器を弾いている以外の、セイジとランス、晃司とアイン、エルド、セイリューが集まってくる。
「せーので持ち上げるぞ。いいか? せーの!」
 セイジの合図で、一同はえいっと雨戸を持ち上げた。かなり重い……と思いきや、少し上げたところで、バランスの取れなくなったチッチが、上がらなかった片側にコロンと転がる。固い甲羅のお蔭で、特に怪我をおったりはしていないようだ。ただ、衝撃は相当だった。地面が揺らいだかのような音が響く。
「ごめんね、チッチ。びっくりした? 大丈夫?」
 ラキアは、チッチの翼を優しく撫ぜた。タンポポの綿毛のように軽く、柔らかい。チッチは喉を震わせ、ころころと左右に揺れた。
「気持ちいいの?」
 ラキアはチッチの首元を撫ぜ続けた。チッチが楽しんでいるような様子を見せれば見せるほど、赤い腹はどんどん熱くなっていくようだった。そこに触れずとも熱が感じられる。
「ころころするのも好きなんだな」
 セイリューがチッチの甲羅に手を置いて、ゆりかごのように揺らす。腹はどんどん熱くなり、「頃合いでしょう!」とうさぎたちが言った。
「そろそろ肉を焼きましょう!」
「チッチ、肉焼くって。よろしくな」
 セイリューがチッチから手を離す。
「すまねぇ! 後で絶対戻すから、しばらくこのままでいてくれ!」
 晃司はチッチの甲羅をなだめるように叩いた。


 うさぎたちはせっせせっせと野菜を焼いている。対してウィンクルムの多くは、せっせせっせと肉を焼いている。
「とりあえず肉肉肉! 肉をいっぱい焼くぜ!」
 晃司はチッチの赤い腹の上に、生肉を並べた。別に全部一人で食べようというつもりではない。とりあえず焼けるスペースがあるから、置いただけだ。
「晃司、野菜も食べましょう。健康に悪いですよ」
 アインは自分が焼いていた野菜を晃司の方へと寄せるが、若い体は食物繊維よりもタンパク質だとばかり。
「野菜? そんなもんはどうでもいいんだよ! この年齢の男子は肉が足りないんだ!」
 ときたものだ。
 まあ、そんなことは言われなくてもわかっている。相棒に野菜を食べろと言われているのは、何も晃司だけではないのだ。
「セイリュー、肉ばかりじゃ駄目。ちゃんと野菜も食べなきゃね」
 ラキアは、セイリューの取り皿の上に、焼き野菜を入れた。それはセイリューの視界に入りはしただろうが、彼は熱心に肉を食んでいる。
「ウマー!」
 口いっぱいの肉に、幸せが顔ににじみ出る。そしてその隣には、同じように肉合戦に参戦しているタイガが、やっぱり同じように満面の笑みを見せていた。
「あー、肉肉! うまっ! それとお勧めの焼き野菜だろ~、これもうまっ! 焼くと甘みが出ていいよな~」
 時折チッチの口元に、焼いた野菜を差し出してやる。チッチは焼き野菜など口にしたことはなかったのだろう。はじめは無視をしたが、そのうちぱくりぱくりと食べだした。それを見ていたタイガの視線の先では、セラはオカリナを吹いている。今はカノンだ。
「セラは食わないのか?」
 肉と野菜のたんまりのった皿を掲げれば、セラはいらない、とばかり首を振った。


「手伝おうか?」
 チッチと遊びながら、ランスはセイジに声をかけた。相棒は、さっきからずっと肉焼き係をしているのだ。晃司は食べながら焼いているが、こちらは焼くのみである。
「俺よりお前だ。たくさん食って、元気になってくれよ」
 セイジは焼けたばかりの肉を、ランスの唇の前へと持っていった。
「セイジ、これは熱いって」
 言いながらも、はふはふと肉を頬張るランス。セイジはそれを満足そうに眺めていたが、ふと表情を暗くした。
「あのとき、一緒にいたらよかったのかな……」
 あのとき。それはすなわち、あのライブ会場で、自分が怪我をしたときだ。
 そんなに気にすることないのに、と思う。だってセイジはあのとき、俺に肩を貸してくれたじゃないか。
 かすかにうつむいたセイジの額を、ランスはぺしりとはたいた。
「俺だから、何とかなったんだよ」
 セイジは顔を上げない。
「……怖いんだ」
「……どうして。俺は此処にいる。何処にも行かない。だから、セイジは怖がらなくていんだ」
 沈黙。セイジはゆるゆると顔を上げ……その前に、ずいっと大量の肉が載った皿が、つき出された。
「ほら、さっきから食ってないだろ? 肉食えよ!」
 セイリューのにっこり笑顔に、セイジは半ば呆然とした表情ながら、皿を受け取った。ランスと顔を見合わせ、ぷは、と吹きだす。セイリューは意味がわからず、不思議そうな顔をした後、またラキアの横に戻っていった。そして不在の間に、皿の上に山となった野菜に目を見開いた。これはぜったいラキアの仕業だ。
「……わかったよ、ちゃんと食べるよ」
 セイリューは、野菜を食べつつ、肉を食む。
 その食欲に、ラキアは苦笑した。
「まったく、君はいつまで食べ盛りなんだい」


「晃司、野菜を食べないのは……好き嫌いするのは、男としてどうかと思いますけどね? 自分の体を考えない男は、嫌われますよ? ……女性にもきっとモテません」
 あまりにも肉ばかりを食べる晃司に、ついにアインはそう切り出した。晃司は肉だけがのった皿に視線を落とし、チッチの上の肉を見て、ついにはアインを見上げた。
「アインはそういうとこ、きっちりしてるもんな。お前も嫌いになるか? それとも今更か?」
 晃司がそんなことを聞いてくるので、アインの野菜を焼く手が止まる。
「……今更、好きも嫌いもありませんよ。晃司を育てたのは、私ですよ?」
「じゃ、俺の肉好きはアインのせいだ」
 そう言って晃司が見せた笑顔の、なんと爽やかなことか。そうだ、自分が育てた。こんな気立てのいい男に育ってくれた。
 アインは大量の野菜を、晃司の皿の上にのせた。
「…………それなら、今からでも野菜好きに育てましょう」
 それこそ今更だ、と。叫ぶ晃司は無視をして。


 キーボードを弾きながら、ディナスは焼き野菜を楽しむうさぎファミリーを見つめていた。依頼主を中心に、様々な年齢のうさぎたちが集まっている。小さな子供は母親ににんじんを切り分けてもらって食べており、男たちは熱心にキャベツを炒めていた。
 ――家族……温かいっていいですね。
 弾き慣れた鍵盤だから、指使いに迷いはない。でも頭では、そんなことを考えていた。
 エルドは、空の皿を持ってディナスに近づいた。
「……貴方も、是非召し上がるべきですよ」
「でも、演奏が……」
「もう大丈夫でしょう。チッチさん、ご機嫌のようですし」
 ディナスは裏返ったままの、チッチを見た。首元の翼を震わせ、目を細め。チッチはどこか、うっとりしたような顔をしていた。
 隣のセラフィムが、ディナスを見て深くうなずく。行っていいということなのだろう。
 キーボードを弾くのをやめ、ディナスはエルドから皿を受け取った。
「ミスターのお勧めはなんですか?」
「私は野菜をメインにいただきましたが、他の皆さんは肉とり合戦みたくなっていましたよ」
 エルドはくすくすと笑った。さてディナスはどっちなのだろう。若いから肉を選ぶだろうか。
「ほら、早く行かないと、全部食べられてしまいます」
 エルドはディナスの背中を静かに押した。


 焼肉パーティーも、終盤に近づいている。
 タイガは食べるのをやめ、オカリナを吹き続けるセラフィムの傍へと寄った。
 セラフィムが、オカリナから唇を離す。音楽は途絶え、あたりに響くは、一同が談笑する声だ。タイガが問う。
「いいのか? とめて」
「……そろそろ……タイガと一緒にいたいし……」
 そう言うセラフィムの表情は、まるで昔、家に閉じこもっていた頃のようだった。それでもこうして自分の気持ちを言ってくれるだけ、状況は変わっているのだが。
 でもさっきまで楽しそうに演奏していたのに……。タイガは考え、はたと気付く。それこそさっきまで、自分はセイリューたちと賑やかに肉合戦していたことに。
 ……嫉妬、なのか? なら、言えばいいのに。言わないで、チッチのために曲を弾き続けてくれるなんて。
「優しいよな……セラって」
 気づけば、そう口にしていた。
 しかしセラフィムは、目をそらす。
「……優しくなんかないよ。気まぐれ。それに猫舌で、熱いの食べられないからちょうどいいんだ」
 そんな相棒に、タイガは肉と野菜がのった皿を渡した。
「じゃあ、これなら食べられるよな。俺が焼いたんだ。特にかぼちゃがおすすめな。甘くてうまいぞ」
「……甘い。こんな食べ方もあったんだ」
 一口齧り、まじまじとかぼちゃを見つめる相棒に、タイガは笑う。
「そうだぞ。さつまいもに栗にかぼちゃにきのこ! 秋は焼いたら美味いものが多いんだ。収獲体験とかあればいいのにな! そうしたら、セラ、一緒に行こう!」


 和やかな食事の後、ウィンクルムとうさぎファミリーの全員で、チッチを表に返してやった。チッチはふるふると首の翼を震わせて、広いつきうさ農区を歩いていった。
「チッチ、ありがとな!」
 みんなで手を振ると、チッチは一度だけ振り返り、つぶらな瞳を細めた。



依頼結果:大成功
MVP

メモリアルピンナップ


エピソード情報

マスター 瀬田一稀
エピソードの種類 ハピネスエピソード
男性用or女性用 男性のみ
エピソードジャンル コメディ
エピソードタイプ ショート
エピソードモード ノーマル
シンパシー 使用不可
難易度 普通
参加費 1,000ハートコイン
参加人数 5 / 2 ~ 5
報酬 なし
リリース日 09月15日
出発日 09月23日 00:00
予定納品日 10月03日

参加者

会議室

  • [18]エルド・Y・ルーク

    2014/09/22-23:35 

    >実験
    正直なところ。アキさんの、その実験を試みるという、弛みない精神に感銘を覚えずにはいられません。

    それでは、プランの一部をアキさんのお手伝いをするという方針に書き換えておきましょう。
    皆さんでおいしくお肉をいただく。素晴らしいことですね。
    健康の為にも、怪我を治す活力の為にも、美味しく頂ける様に尽力出来ると良いですねぇ(しみじみ)

  • よしプラン書けた。

    これはシアワセのハピエピなのさ。
    お肉いっぱいで、なんて幸せなエピソード。
    皆でお肉を沢山、もりもり食べていますように。
    (ラキア「ちゃんと野菜も食べようね!」)

  • [16]アキ・セイジ

    2014/09/22-22:52 

    ありがとう、助かるよ。

    雨戸板が無い場合はシーツを利用するが、延焼防止に塗らしておくつもりだ。
    また、戸板(か簡易担架)の片方を持ち上げる時、その、持ち上げて顕になる面に、
    そちらの武器等を押し当てて、転倒を補助してもらえると助かるよ。
    傾きかけたカマボコ板の真ん中を箸で突くイメージだ。

    そんなわけで、プランは書き終えた。
    うまくいっているといいな。

    …あれ?これ、アドベシナじゃなかったっけ(苦笑
    ともあれ宜しく。

  • なるほど、線より面で、という感じか?
    面だとより人手が必要、手伝うぜ。

  • [14]アキ・セイジ

    2014/09/22-22:18 

    タワシの下に棒を置いて、テコの原理を使って引っ繰り返そうとしてみた所、とても難しかった。
    タワシの下に棒を2本置いて、同じようにやろうとしたら、多少はマシだったが、タイミングが難しかった。
    タワシをカマボコの板の上に乗せて、両端を掴んで片側を持ち上げたら、簡単にひっくり返った。

    家には雨戸はないだろうか。
    あれば「雨戸板の上に乗せて引っ繰り返す」を提案し実行する予定だ。
    なければ、「シーツ」を使って同様に試みる予定で居る。

    「簡易担架をシーツでつくる」ことがあるだろ?あれの要領だ。

    では、今からプランを書いてくる。

  • [13]エルド・Y・ルーク

    2014/09/22-21:23 

    >転がし棒
    タイガさんの武器なら頑丈そうですねぇ。
    折れてしまっては元も子もありませんから、個人的にはぜひ、と。

    >合わせる

    ディナス:
    目的が同じなんです。お互いが別の曲を弾いては不協和音となってしまうでしょう?
    それなら、二人が合わせて弾いた方が良い。
    セラフィムさんの演奏の邪魔にはならない様に、上手く合わせられればって思っています。
    僕的にはぜひセラフィムさんの音を主軸に合わせられればって思ってます。どうかよろしくおねがいします(とても嬉しそう)

  • [12]セラフィム・ロイス

    2014/09/22-19:24 

    >ミ・ドリ・ガメ
    ああ?!セイリューの見てエルドのをみてやっと気づいた
    皆頭良いなあ。セイジのアッチッチのも気づかなかったし。ミドリガメは正解そうだが(MS的に)

    >転がし棒
    タイガの両手ハンマーをかそうか?
    柄の部分を亀の下にいれて、真ん中を石の上においてを軸にして、乗ったり(あれ?梃子にはやりにくい?)

    >食べ盛りコンビ
    似てるよな(くす)ランスも全快だったら3人一緒に盛り上がってそうだけど
    (セイジたちに)ライブ線ではお疲れ様。療養ゆっくりとっておくれ

    タイガ『おう!セラ細くて心配になってくるぜー。一緒に食いまくろう!』
    (じりじり後ずさり)お手柔らかにね

    >エルド(演奏
    あ。先走ってしまったな。『合わせたい』とは言ってなかったのに同じ気持ちで嬉しい
    ではせっかくだしディナスもよろしく頼むよ
    妥協ショルダーキーかっこいいじゃないか。もったいない。PL的にはぜひといってるが
    ハーモニカの方がやりやすいかな?(PLは音楽にうとい)
    その場で同じ意図だと気づいてあわせるでいいかな?

    悪い。掲示板覗ける時間がもう1、2時間あるかないかなんだ。
    貸せるなら貸すとしてこちらはプラン提出しておくよ
    間に合ううちは返信する

  • [11]エルド・Y・ルーク

    2014/09/22-00:03 

    焼肉は素晴らしいですねぇ。それを途中で断絶してしまうとは、運命とは何と残酷なのでしょう……!

    ネーミングについては、触れていくらというものです。ここで触れずにいつ触れれば良いのかという考えは確かに私の頭の中にもありました……!(チッチさんはアキさんに教えてもらい、ミ・ドリ・ガメも気付いて驚愕)


    >セイリューさん
    雪女さんの件については、本当にお世話になりました。皆さんのお陰で最高の結果となりましたので、セイリューさんも含め、皆様には感謝が隠し切れません。
    精霊がチッチさんを大人しくさせる為に何故か哀愁に浸っていて、気にはなっていたのですが、祝いを兼ねていてはそれはもちろん食べないわけには行かないでしょう。(意気揚々)


    >ひっくり返す前
    野菜クズがお好みとの事ですから、そちらを用意しては如何でしょう?
    肉食ではなさそうですからねぇ……


    >チッチさん転がし
    木を使ったてこの原理以外に何があるでしょうかねぇ。
    木を使った原理を聞いて、余計に気軽に転がってくださるでしょうという案が消えました。
    これは当面は『木の棒』にて、新案が浮んだら更新と言う形になりそうですねぇ。(納得)


    >セラフィムさん
    ええ、うちの精霊がもし合わせられるのでしたら合わせたいと申しておりまして。
    ピアノが一番弾きたい!と『妥協ショルダーキー』を持ち込みたいと叫んでおりましたが、妥協でもショルダーキーボードは引っ掛かりそうだと言う事で、安価で手に入るハーモニカなどを探している真っ只中です。
    セラフィムさんと合わせられるのは私の身からしても、嬉しいですねぇ。

    精霊もきっと喜ぶ事でしょう。上手く音が添えられるようにうちの精霊には努力して頂きましょう。(心なし幸せそうに)

  • ∑ ミ・ドリ・カメだいう事に、今!気がついたー!!
    エルドさんありがとーっ!
    (色々残念な頭脳なのだった。あちちのチッチは判ったけど)

    タイガくんとは食べざかりコンビが組めそうな気がするぜ。
    セラフィムさんも線が細いから
    「食え、どんどん食え」と言いたくなるよな。
    セイジさんにも。食え。どんどん食え。

  • [9]セラフィム・ロイス

    2014/09/21-23:33 

    あ。僕は翼がついてるから鳥にかけてかな?と「チッチ」だと思ってた
    聞いてみるのもいいかもな

    >エルド
    そうなのか!それは楽しみだ。あ・・・いや、人とあわせたことはなくて
    僕はいつも持ち歩いてるオカリナで演奏しようと思うよ(眼差しに照れ焦り)

    曲は子守唄やカノン的、静かなのが大半かな。
    (タイガが仲良くなろうとしてる時は陽気なのを選曲してみるけど)


    >ひっくり返し
    そうなった時はもちろん手伝うけど(タイガあて)
    一応、昼寝の真似事をしてみるから自然に「したいな」とチッチが移行してくれるように
    振舞ってみる(タイガが)
    タイガ:「いざという時はまかせとけ~!」

  • お・に・く!お・に・く!
    食べざかりにはお肉がとても魅惑的だ。
    モチロン、オレが食べざかりなのは言うまでもない。

    >セイジさん
    棒を調達してきてエイッとひっくり返そうと思っていた。
    食事の前には動いて腹減らさなきゃ!
    ひっくり返ってもらうから先に何かチッチに食べさせたいとはラキアの言。
    何か食べた後の方が甲羅も温まるかなぁと。

    >エルドさん
    先日の雪女さんの件はお疲れ。上手く行って良かったよな!
    その祝いも兼ねて今回食べて食べて食べて・・・と!
    棒以外にも何か亀をひっくり返すのにいい物があるかな?
    協力しようぜ!

  • [7]エルド・Y・ルーク

    2014/09/21-23:03 


    ディナス:なるほど! では、亀はきっと『みどり色』をしていて……!!
    エルド:はいはい、きちんと小さく羽が生えているのですから、そこだけについては温かく見守りましょう。


    ……そう言えば。精霊に演奏していただいて、大人しくなったところを餌で誘導して、ころんとしてはもらえないでしょうかと本気で考えていましたが、自分で起き上がれない亀さんにそれをこなしていただくのは、酷極まりないですねぇ。

    確かにこれは転がしてくださる方が必要かも知れません。お邪魔でなければ、私で宜しければ是非お力になれれば幸いですが、如何でしょう。

    しかし、私は何分非力ですので、他の方のお力もお借り出来たら、この上なく嬉しいですねぇ……(しみじみ)

  • [6]アキ・セイジ

    2014/09/21-19:42 

    熱い(あっちっち)→チッチ
    ……だよな?(あえて突っ込む

    相棒が怪我養生中なので俺が頑張る予定のセイジだ。
    肉を食べてもらって早く治るといいなあ。

    力仕事の「ひっくり返し」のとき、力かしてくれると助かるよ。

  • [5]エルド・Y・ルーク

    2014/09/20-20:59 



    ディナス:
    ミスターの代わりに、改めてよろしくお願いします。

    >セラフィムさん
    あ。ちょうど、僕も演奏をしようと思っていたところだったんです。
    楽器は重ならない方がきっと素敵だろうと思われるので、楽器を教えてもらってもいいですか?(期待に満ちた眼差し)

  • [4]エルド・Y・ルーク

    2014/09/20-19:27 

  • [3]セラフィム・ロイス

    2014/09/18-00:31 

    タイガ:はりきって食うぞー!おー!

    どうも。僕セラフィムと、騒いでるのがタイガだ
    すでにプランも提出してる(入る前に考えてる人)
    僕は演奏、タイガは・・・仮装(?)して仲良くなる予定だよ
    よろしく頼む

    スタンプ挨拶や提出そろえようかなぁ・・(もんもん)

  • [2]セラフィム・ロイス

    2014/09/18-00:27 


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