プロローグ
――ね、今度の休みに女子会しない?
そんな約束を仲間の神人たちと交わして、休日にやって来たのが、最近話題になっているカフェだった。
品の良い調度品でととのえられた店内は、貴族の集まるサロンをイメージしてデザインされたのだそう。落ち着いたアンティーク調の雰囲気が、外の喧噪を忘れさせてくれる。
その分格式が高くて、お値段の方もかなりのものなのだけれど――今回はA.R.O.A.を通じて、ケーキバイキングのチケットを、手頃な価格で手に入れる事が出来た。
上品な甘さのケーキをフォークで切り分けながら、さあ、秘密の女子会で何を話そうか?
「やっぱり、みんなのパートナー……精霊のこと、かな?」
あんまり神人同士でお話しする機会も無いし、折角だからみんなの精霊の事も聞いてみたいな。精霊との関係で、悩んでいる事を相談し合ったり。ああ、でも結局、自分の精霊の素敵なところをあげていって、おのろけ大会になるのかもしれない……!
どんな話が聞けるだろうか、とどきどきしながら、神人は温かな紅茶を啜った。
そして、彼女達の座った隣のテーブルでは。
精緻なパーテーションと植物に遮られて気付かれなかったようだが――なんとそこには、彼女達の精霊もまた、お客として訪れていたのだった。
折角の休日、パートナーに「女子会に行くから」と告げられて予定が空いてしまって。同じ境遇の仲間を連れて、何気なく手に入れたチケットで訪れたカフェが、まさか同じ店だったとは……。
耳を澄ませば、隣のテーブルからは彼女達の楽しそうな声。しかもどうやら、パートナーの精霊について話をしよう、なんて言っているのが聞こえて来る。
(い、一体何を言うんだ……?)
気付けば、自然と身を乗り出すような格好になって。精霊たちも、どきどきしながら、味の良く分からない紅茶を啜り――ごくりと会話の行方を見守るのだった。
――これは、ある休日の女子会シュルプリーズ。
あの人の想いを吐き出して、あの人の想いに触れるときめきの時間。
解説
●休日の流れ
神人さんと精霊さんが偶然同じカフェに!(でも、神人は精霊が居る事に気付いていない)→神人女子会開催だよ。みんなの精霊についての話をしながらケーキ食べるよ→精霊、どきどきしながら女子会をこっそり盗み聞き→お店を出る所で合流、「偶然だね!」と、そのままウィンクルム同士で一緒に帰る
●神人さんの女子会
ケーキと紅茶を楽しみながら、みんなの精霊についてトークしようという女子会です。精霊との悩みを相談したり、精霊のここを直して欲しいと愚痴をこぼしてみたり。でもやっぱり精霊のここが好き! とのろけてみたり。会議室で、他の神人さんの悩みを聞いてアドバイスをしても良いかも知れませんね。
●聞き耳を立てる精霊さん
偶然遊びに来たカフェで、神人さんがまさかの女子会!? こっそーりと聞き耳を立てて、神人の言葉にどう反応するのか教えて下さい。仲間の精霊さんに同情したり、突っ込んでも大丈夫です。
●お店を出て……
お店を出るところで合流して、ウィンクルム同士で過ごします。帰り道、どんな事を話すか教えてください。神人さんはまさか、精霊に話を聞かれていたとは思ってもみないので、精霊は素直に事情を話すか、それとも誤魔化すか、対応を考えて下さいね。
●カフェ
アンティークな雰囲気が人気の、高級感漂うカフェ。今回、A.R.O.A.のツテで、ケーキバイキングのチケットを購入する事が出来ました。お一人で200ジェール、二人で400ジェールです。どんなケーキが食べたいのかもあれば記入して下さい。
ゲームマスターより
柚烏と申します。休日にまさかのハプニング? 女子会で普段はなかなか話せない精霊について、存分に語り合って下さい。
そして、あなたの精霊さんは、交わされる会話にどんな反応を返すのでしょうか? お店を出た後のアフターケアも大事です。
他のPCさんとの仲間感覚と言うか、絡みも書けたらいいなぁと思っております。ふたりがどんな休日を過ごすのか……そのお手伝いを精一杯頑張らせて頂きますね。
リザルトノベル
◆アクション・プラン
ニーナ・ルアルディ(グレン・カーヴェル)
悩み:グレンが夜歩き・喧嘩etc危ないことばかりする 戦闘だって怪我気にせずに前に出ちゃうし… あ、でも戦闘中のグレンって活き活きしてて格好いいんですよねぇ… いつも色々文句言いつつ守ってくれますs え、ノロけてないです!相談です! >月野さん 逆に心配をかけてみる… 成程、今度危険な目に遭ってみます! 心配してくれなかったらショック… >油屋。さん 悪ふざけって本当に心臓に悪いですよね! 怒っても反省してなかったりしますし むしろその怒ってる所を見て楽しんでる節も… >皆 やっぱり考えてること分かりませんよねぇ… 分かればもっと仲良くなれそうですけど… ケーキ美味しかったし、グレンに会ったら このお店のこと教えてあげましょう |
月野 輝(アルベルト)
女の子同士のお喋りってなんだか久しぶり ケーキもたくさんあるし、みんなの話を聞くのも楽しみよ♪ ■精霊の事 アルの事?そうねえ…一言で言うなら腹黒? いつも笑顔だし敬語で喋るから、初見の人は礼儀正しいいい人って思うみたいなんだけどとんでもないのよ 本心はどうなんだか… 笑顔の裏で何か企んでる事多いし 人の事はすぐからかうしっ …でも 何だかんだでいつも気に掛けてくれてるし この間も溜め込むなって言ってくれて それに時々感じるデジャヴ… もしかして前世でも縁があったのかしらなんて思う時があるの ■出口にて あら、アルもここにいたの? って聞いてたの!? もっと近いってどういう意味? ほんと意地悪なんだから…(赤くなり手を握り返し |
油屋。(サマエル)
皆の話に耳を傾け、アドバイス アイツは最近悪ふざけが多いんだよね 寝ているアタシの顔に落書きしたり 気に入らないと突然噛みついてきたり この間なんてにッ、任務中にいいい!(依頼30) うがァーッ!あの悪魔野郎マジ許せん! 今度ビシッと言ってやろう ごめん つい… 相変わらず喧嘩も多いけどさ サマエルの事 別に嫌いじゃないっていうか 好きだよ? あ、異性としてっていう意味じゃないからね!(真顔) いつもアタシの事気にかけてくれるし 普段は良い奴なんだ すごく楽しかった 今度はサマエルと行ってみたいな 話したい事もあるから! 手を握って帰る サマエルと一緒に過ごす時間も悪くないな 自然と笑顔に ※両者アドリブOK |
ロア・ディヒラー(クレドリック)
このお店来てみたかったんだー神人やってて良かった… 皆同じぐらいの年齢だね (憧れの女子会ー!) チーズケーキ食べながら話に加わる クレちゃんと友だちなんだけど、近くにいると胸の動機が激しくなる事があって…異性だから緊張しちゃうのかな (輝ちゃんの話に同意し)クレちゃんも全然表情変わらないから分かんないよ。あ、でも慣れてきて嬉しいのかなとか分かるようになったかも。でも私の事どう思ってるかはわかんないや クレちゃんもいたの!? 話って全部聞いて…るよねそうだよね… 帰り道、手渡された物に驚く。これ私が前にお店で見てたのだ!あの時1人だったはずなんだけど…ともかくありがとう!大切にするね ※神人達は名前にちゃん付け |
ジェシカ(ルイス)
楽しみだわ、女子会! ケーキはどんどん食べ進めつつ会話には適宜相槌をうつ 私、ウィンクルムっていったらカップルなイメージだったのよ それで実際なってみて私とルイスはどうなのかなって思ったけど…ないわね 異性として見れないというか なんかこう、女々しいというか 昔はルイスって本当に可愛くてどう見ても女の子だったし 多分本当に女に生まれてたら物凄いモテたんじゃないかしら 頭では理解してるんだけど、どうしてもルイスはルイスというか… あー、楽しかった! あら、ルイスじゃない …もしかしていたの?ねえ。ねえってば どう、楽しかった? 個性… 多分、関係ないと思うわよ 別に外見は普通に格好いいんだから自信持ちなさいよ 私が保証するわ! |
●壁越しの女子会、はじまる
アンティーク調の雰囲気で統一された、最近ちょっと話題のカフェ。淡いランプに照らされた店内には、優雅なクラシックのレコードがかけられている。
「このお店来てみたかったんだー神人やってて良かった……」
気だるげな雰囲気の中にも喜色を滲ませて、ロア・ディヒラーは凝った意匠のテーブルに指を滑らせた。そう言えば、今回開催された女子会に集まった神人たちは皆同じ位の年齢だね、と思いながら――さて、どんな話が出来るだろうと、ロアは胸をときめかせる。
(憧れの女子会ー!)
「皆さん、今日はよろしくお願いしますね!」
可憐な花が綻ぶように微笑んだのは、ニーナ・ルアルディ。蜂蜜色の髪がさらさらと揺れると、辺りには何とも言えない温かな空気が満ちる。そんなニーナの前に置かれたのは、まるで彼女を表したかのようなふわふわのシフォンケーキだ。
「楽しみだわ、女子会! どんどん食べるわよ!」
「……だね、遠慮とかなしで行こうか!」
瞳を輝かせたジェシカが、トレイにずらりと並べたケーキにフォークを突き付けると、油屋。もにやりと笑って仲間たちを見渡す。ちなみに彼女が選んだケーキは、生クリームたっぷりの苺ショート。断じて精霊に乳女などと呼ばれているから……ではない。
「女の子同士のお喋りってなんだか久しぶり」
そう言って、月野 輝は涼やかな黒曜石の瞳を瞬かせた。落ち着いた、大人びた雰囲気を持つ彼女だが、その実年相応の女の子らしい一面も併せ持っており――テーブルの上に置かれているのは、片っ端から選んできた、可愛らしい見た目のケーキの山だ。
「ケーキもたくさんあるし、みんなの話を聞くのも楽しみよ♪」
輝が微笑を浮かべると、皆が一斉に「おー!」と拳を突き上げて。さぁ、秘密の女子会のはじまりだ。
――そんな彼女たちと、壁一枚隔てた反対側のテーブルでは。如何なる偶然か、彼女たちの精霊もまた、休日を過ごしに訪れていたのであった。
(この店で例の女子会とやらをやっているとは。折角の機会だ、観察しておこうではないか)
ひそひそと仲間の精霊たちに囁くのは、ロアの精霊であるクレドリック。休日だと言うのに、彼は普段と変わらぬ薄汚れた白衣姿で――目の下に隈を作って、無表情にチーズケーキを食べようとしている姿は、かなり浮いているような気がしないでもない。
(顔こわっ!)
そんなクレドリックの姿を見て。大人な精霊たちに囲まれ、縮こまっていたルイスはびくっと身をすくめた。しかし、人を見かけで判断しちゃだめだと思い直し、緊張しながら皆を見つめる。
(それにしても……みんな大人の男の人って感じで格好いいなぁ。なんか僕の場違い感がすごいというか何というか……)
と、何気なくルイスが視線を向けると、山ほどのケーキにかぶりつくグレン・カーヴェルと目が合った。切れ長の瞳で尊大に椅子に腰掛けるグレンは、口の端についたクリームを乱暴に拭うと、「は?」と言った表情でルイスをねめつけてきた。
(……格好いいけど、食べるペースがやばい……)
(ケーキ多すぎ? せっかくだ、食わないと勿体ねーだろ)
そんな二人のやり取りを、優雅な微笑を湛えながら見守っているのはアルベルト。若いですねぇとでも言うように吐息を零し、彼はザッハトルテを切り分け、上品な香りの紅茶を飲み干す。
(ほう、早瀬も来ていたのか。流石に乙女の中にゴリラが混ざっていると目立つな)
油屋。の本名を呟き、サマエルがそっとパーテーション越しに、隣のテーブルの会話へ聞き耳を立てた。神人が居ない休日で少し寂しく思っていたものの――偶然に同じ店に居合わせた事で、彼の尻尾が嬉しさのあまりにゆらゆらと揺れる。
それにしても、とサマエルは思う。何とはなしに集まった精霊たちだが――何と言うか、皆キャラが濃い。そんな中で一人奮闘しているルイスが可哀そうと言うか、頑張れと応援したくなると言うか。
クレドリックは怖いが、そんな彼は本心では皆とわいわいするのを喜んでいるようだ。表情には全く出ないのだが。特にサマエルには、どこか自分と似た空気を感じているらしく――不思議と親近感が湧いていた。
ウィンクルムとしての片割れ。その存在に執着し、独占したいと願うような狂気にも似た感情を、ふたりは秘めているように見えた。
――そんなこんなで、其々に抱く想いは様々だったけれど。偶然が生んだ休日の女子会は、軽やかなワルツに導かれて始まったのだった。
●神人お悩み相談室
「じゃあ早速、みんなの精霊についてのトーク行ってみよう! ……というわけで、まずはニーナから」
ケーキをぱくつきつつ、元気よく進行役を務めるジェシカに、急に話を振られたニーナが「わ」と慌てる。けれど、皆に相談してみたいことがあったから、ニーナは意を決して心に秘めた悩みを打ち明けた。
「えっと、実はグレンが……夜歩きとか喧嘩とか、その他色々……とにかく危ない事ばかりするんです」
「わぁー……いきなり大変な悩みが来たね」
ロアが同情するようにうんうんと唸ると、ジェシカは碧玉を怒りに染めてニーナの手を握る。
「ニーナがいるのに夜歩きなんて、男の風上にも置けないわね! これがルイスだったらとっちめている所だわ」
「喧嘩は、まぁその……売られたのなら仕方ないかな?」
自身も喧嘩っ早い油屋。は、ちょっと歯切れが悪い。そんな中、落ち着いた物腰でアドバイスをするのが輝だった。
「グレンさんってそんな危ない事ばかりするの? そう言う人は、周りがどれだけ自分を心配してくれてるか判らないんだと思うから、いっそ、逆に思いっ切り心配掛けてみたらどうかしら」
少しは心配する方の気持ちが判るんじゃないか、と悪戯っぽく微笑む輝に勇気を貰ったように、ニーナは真剣な表情で拳を握りしめた。
「逆に心配をかけてみる……成程、今度危険な目に遭ってみます!」
(おい余計なこと吹き込むな!)
盛り上がる女子同士の会話に、隣のテーブルで聞き耳を立てていたグレンが思わず突っ込む。たまに斜め上なことをやらかすニーナのこと、このままではとんでもないことをやりかねない。暫くは大人しくしてるしかねーな、と頭を抱えるグレンだった。
心配してくれなかったらショック、と思っていたニーナだが、彼女の精霊はきちんとその身を案じていたようである。
「あ、私。ウィンクルムっていったらカップルなイメージだったのよ。それで実際なってみて、私とルイスはどうなのかなって思ったけど……ないわね」
続いて相談と言うか、精霊との付き合い方について話を切り出したのはジェシカ。きっぱりと言い切った潔い彼女の姿に、なんだか精霊であるルイスがいたたまれなくなって――苦笑しながらロアが助け舟を出す。
「でも、ジェシカちゃんたちは幼馴染だそうだから、今までの関係とかを引っ張ってるんじゃない?」
「でもね、異性として見れないというか。なんかこう、女々しいというか」
――衝立の影になって分からないが、反対側ではルイスが乾いた笑みを浮かべて、遠い目で空を仰いでいた。
(女々しいのは……否定できない)
(おーい、ルイスの目が死んだ魚のようになってんぞ)
(おや、この中にお医者様はいらっしゃいますか?)
(……心配だな、私で良ければ薬をやるが)
傷付いたルイスを囲み、グレン、サマエル、そしてクレドリックが口々に会話を交わす。そんな彼らの姿を、アルベルトは惚れ惚れするような笑みを浮かべて見守っていた。
「……と、話を変えてだね! 今度はアタシだね。アイツ――サマエルは、最近悪ふざけが多いんだよね」
何だか話が変な方向に飛んだので、軌道修正を試みようと油屋。が悩み相談に移る。マシュマロのような胸の前で手を組んで、彼女はぽつりぽつりと言葉を紡いでいった。
「寝ているアタシの顔に落書きしたり、気に入らないと突然噛みついてきたり」
「悪ふざけって本当に心臓に悪いですよね! 怒っても反省してなかったりしますし、むしろその怒ってる所を見て楽しんでる節も……」
「あー、それ良く分かる!」
思わず同意するニーナの言葉に、油屋。は仲間を見つけたとばかりに、がしっと手を握りしめて。盛り上がる女子たちの声を聞いて、はあと溜息を吐くのはグレンである。
(薬指に指輪嵌めようとした件、まだ根に持ってんのかよ……)
「……けど割と容赦ないわね、それは」
色々な関係があるのだなぁと輝がしみじみしている内に、油屋。はどんどんヒートアップしていく。
「この間なんて、にッ、任務中にいいい!」
サマエルによって唇に施された血化粧を思い出し、油屋。は真っ赤になってテーブルをどん! と叩いた。
「うがァーッ! あの悪魔野郎マジ許せん! 今度ビシッと言ってやろう」
(む、乳女のくせに生意気な)
静かに油屋。の愚痴を聞いていたサマエルの顔が、ムスッとした感じにしかめられる。きっと彼は気付いていないのだろう――そうやって彼女をからかうのは、彼女の事が好きすぎるからなのだと言う事を。
「と、ところで、輝さんの方はどうなの?」
「私の方、と言うと……アルの事? そうねえ……一言で言うなら腹黒?」
とんでもない事をさらりと言い、輝はミルフィーユを丁寧に切って口に運ぶ。
「いつも笑顔だし敬語で喋るから、初見の人は礼儀正しい、いい人って思うみたいなんだけど、とんでもないのよ。本心はどうなんだか……」
(え、優しそうな人だと思ってたけど、なんか腹黒って聞こえてきたんだけど……)
輝の声を聞いたルイスは、衝立の向こうとアルベルトを交互に見遣るが、アルベルトはにこにこと微笑んだまま涼しい顔を崩さない。
「笑顔の裏で何か企んでる事多いし、人の事はすぐからかうしっ」
(おやおや、腹黒だなんて、また褒められてしまいました)
そして。心底嬉しそうに呟いたアルベルトの姿に、彼らは下手にいじらない方が良いと判断したのだった。
「あ、私もそう。クレちゃんも全然表情変わらないからわかんないよ。あ、でも慣れてきて、嬉しいのかなとか分かるようになったかも」
――でも、私の事どう思ってるかはわかんないや。そう言ったロアに、皆も一斉にうんうん、と頷く。はぁ、と紅茶を一口飲んで、ニーナの甘い吐息が空に溶けていった。
「やっぱり考えてること分かりませんよねぇ……。分かればもっと仲良くなれそうですけど……」
何処かしんみりした女子会の空気に、反対側に居たグレンはやれやれと言った感じでテーブルに肘をつく。色々と言われてんぞーと精霊の皆に声を掛けつつ、グレンは今更だが、神人との考え方の違いに戸惑っていた。
(しっかし相手が何考えてるか分からないっつー愚痴多いな。全部把握しないと気が済まねーもんなのか、女って)
●あの人への想いは
「でもね、クレちゃんと友だちなんだけど、近くにいると胸の動悸が激しくなる事があって……異性だから緊張しちゃうのかな」
と、そんな中。ぽつりと投入されたロアの告白に、仲間の神人たちは色めきたった。自分のことはさておいて、やっぱりこういった仲間のコイバナには敏感なお年頃なのである。
「うふふ、それは緊張なんかじゃないかもね! きゃー、ロアもいい感じじゃないの!」
屈託なく笑うジェシカに肩を叩かれて、まだ自分の気持ちが良く分かっていないロアが首を傾げる。それは、彼女を見守るクレドリックも同じで。
(動悸を感じる? ロアは何かの持病があるのだろうか。少々心配だ)
真剣に悩むクレドリックを、年長者の余裕で以てアルベルトが見つめていた。そして、私もね――と続けた輝のちょっぴり恥ずかしそうな声に、アルベルトは眼鏡の奥の瞳を面白そうに細める。
「何だかんだで、アルはいつも気に掛けてくれてるし。この間も溜め込むなって言ってくれて」
こんなことを言うなんて、らしくないかもしれない。けれど、仲間たちが居たから素直に口に出せた。輝は瞳を和らげ、過去の記憶を手繰り寄せるように軽く瞬きをする。
「それに時々感じるデジャヴ……もしかして前世でも縁があったのかしらなんて、思う時があるの」
(前世……ですか。相変わらず面白い発想をしますね、輝は)
ふわりと漂う、甘い空気。それがひどくくすぐったくて、同時にちょっと心地よくもあったりして――ジェシカも皆とこの気持ちを分かち合いたいと、精霊について語り出した。
「ルイスはね、昔は本当に可愛くてどう見ても女の子だったし、多分本当に女に生まれてたら物凄いモテたんじゃないかしら!」
きらきらとした素敵な笑顔で言い切ったジェシカに対し、反対側のテーブルでは再度ルイスが撃沈していた。実は昔、実際に女と間違われた事があり、彼はそれを引きずっていたのだ。ジェシカの悪意のない一言は、瀕死のルイスに止めを刺してしまった。
(もう背も抜いたし、細いとはいえ筋肉だってついてるのに……)
(落ち着け、その……傷は浅い、と思われる)
(何で疑問形!?)
大真面目なクレドリックにグレンがツッコミを入れて。こっちもこっちで賑やかになってきたようだ。一方で、せめてルイスの矜持を守ってあげようと、輝がにこやかに声を掛けた。
「ジェシカさん、それってあんまりフォローになっていないかも?」
「うーん……頭では理解してるんだけど、どうしてもルイスはルイスというか……」
どうやら、このふたりが互いを意識するのはまだまだ先のようだった。けれど、今のままの距離感も素敵なんじゃないかな、と皆は思う。
(私は……)
ニーナもグレンに対する悩みはあれど、それも彼が彼である証なのだと――心の奥では、分かっているようだった。戦いの時だって、グレンは怪我を気にせずに前に出ちゃうけれど、それも。
「あ、でも戦闘中のグレンって、活き活きしてて格好いいんですよねぇ……いつも色々文句言いつつ守ってくれますし」
「おおー! おのろけキター!」
油屋。が茶化すと、ニーナは真っ赤になって首をぶんぶんと振る。え、ノロけてないです、相談です――そう言ったニーナの反対側、グレンもまた、手で顔を覆って俯いていた。
(ほうほう、格好いいと。素敵な言葉ですね、グレンさん。おや、顔が赤いようですが)
(戦闘中は、ねぇ……って、照れてねぇ!! 気のせい……おいニヤニヤすんな!)
そんなグレンを見て、ここぞとばかりに良い笑顔でからかい出すアルベルトに、グレンは噛みつくような顔で威嚇する。けれど――ニーナの言葉が、彼の心に届いたのは確かなようだった。
アタシもね、と最後に告白をしたのは油屋。だった。先程取り乱した事をごめんと謝ってから、彼女は晴れ晴れとした顔で告げる。
「相変わらず喧嘩も多いけどさ。サマエルの事、別に嫌いじゃないっていうか……好きだよ?」
ぶしゃー!! 好き、と言う言葉が響くと同時、サマエルが豪快に紅茶を吹き出した。うわっ、と派手なリアクションにルイスがびびり、失礼致しましたとサマエルが頭を下げる。
(おい、ケーキに紅茶汁かかったじゃねーか表出ろ)
気が付けばグレンに襟首を掴まれていたが、そんな中でもサマエルの心は此処にあらず、と言った状態だった。これだけ動揺するとは――サマエルは自分に驚き、改めて自分の感情を理解する。
(そうか、やはり俺はあの女に惚れているのか。よりにもよってあの乳ゴリラに)
彼が、その後の油屋。の言葉を聞かなかったのは幸か不幸か。彼女は続けてこう言ったのだった。
「あ、異性としてっていう意味じゃないからね! いつもアタシの事気にかけてくれるし、普段は良い奴なんだ」
――そして。相手の想いを吐き出して、相手の想いに触れる時間にも終わりが訪れる。甘いケーキと紅茶を堪能しながら、楽しい女子会は幕を閉じたのだった。
●帰り路
神人たちが揃ってカフェを出た所で。偶然を装って精霊たちが近付き合流を果たし、この後はウィンクルム同士で帰ろうという事になった。
「よ、よぉ……」
「グレン、楽しい女子会でしたよ! ケーキも美味しかったし、今度お店紹介しますね」
合流したニーナは、まさかグレンが隣に居たなど思っても居ない様子。屈託なく笑う彼女に、グレンも余計な事は言わないと決めたようだ。
「美味しいカフェ、ねぇ……どうしてもっていうなら今度一緒に行ってやらんでもない」
と、そこで。グレンはふいと空を見上げて。
「……暫く出歩かねーから、家で大人しくしとけ」
一方のルイスは、楽しかったと伸びをするジェシカに「もしかしていたの?」と迫られて、結局あの店に居た事を吐かされてしまっていた。
「みんな、濃かった。格好いい精霊になるには個性が必要なのかな」
もう自棄になってジェシカへ尋ねるルイスに、彼女は少し考える素振りを見せてから、ばーんとルイスの肩を叩いた。
「個性……多分、関係ないと思うわよ。別に外見は普通に格好いいんだから自信持ちなさいよ。私が保証するわ!」
きっと、これもジェシカなりの励ましなのだろう。けれど――とルイスは、彼女に聞こえない位の声で、そっと呟く。
「……嬉しいけど、内面が格好よくなりたい」
そして。サマエルは油屋。に誤魔化す事を決めて、どうだった、と問いかける。
「すごく楽しかった。今度はサマエルと行ってみたいな。話したいこともあるから!」
差し伸べた手を取って、油屋。が微笑んだ。繋いだ手の温もりが心地よい。意識したら余計に愛おしくなってしまったなどとは口に出さず、サマエルはただ「それは楽しみだ」とだけ返した。
「さぁ、帰ろう」
「……サマエルと一緒に過ごす時間も悪くないな」
――見つめた彼女の顔は、自然と笑顔になっていた。
アルもここにいたの? と問う輝に、アルベルトは「輝達もここにいたのですか」としれっと返して。ふたりで帰路につく中で、アルベルトはふっと、今思い出したと言うように囁く。
「……デジャヴは前世よりも、もっと近い記憶かもしれませんよ」
「って聞いてたの!? もっと近いってどういう意味?」
カフェでの言葉に反応を返されて、輝の頬がかっと赤くなった。けれどアルベルトはその質問には答えず、「帰りましょうか」とさりげなく手を取って歩き出す。
「ほんと意地悪なんだから……」
その手を握り返して、拗ねたように輝が呟いたけれど。いつか、彼女は思い出すだろうか――自分達は昔、一度会っていたのだという事を。
「クレちゃんもいたの!?」
「ああ。一言一句すべて覚えているから安心したまえ」
クレドリックは、自分達が居た事を隠さず、ロアに告げる事にしたようだ。少し照れたようにロアは俯いて、どう反応するべきかともじもじしている。
「話って全部聞いて……るよねそうだよね……」
けれど、その時。無表情ながらもクレドリックがロアに手渡したのは、渡しそびれていた彼女の誕生日プレゼント。それは、皇帝ダリアがモチーフの髪飾りだった。
「これ、私が前にお店で見てたのだ!」
「熱心に見ていただろう? ロアにとてもよく似合うと思ったのだよ」
あの時一人だったはずなんだけど、と呟くロアは知らない。クレドリックが観察と称し、自分をストーキングしていたなどとは。
「ともかくありがとう! 大切にするね」
其々が其々に、今日という休日に終わりを告げる。帰り路をあのひとと一緒に辿れば、また新たな一日が待っている。
女子会シュルプリーズ――このささやかな思い出を胸に秘めながら、これからもあのひとと一緒に、歩いて行こう。
依頼結果:成功
MVP:
エピソード情報 |
|
---|---|
マスター | 柚烏 |
エピソードの種類 | ハピネスエピソード |
男性用or女性用 | 女性のみ |
エピソードジャンル | ハートフル |
エピソードタイプ | ショート |
エピソードモード | ノーマル |
シンパシー | 使用不可 |
難易度 | 簡単 |
参加費 | 1,000ハートコイン |
参加人数 | 5 / 2 ~ 5 |
報酬 | なし |
リリース日 | 09月10日 |
出発日 | 09月18日 00:00 |
予定納品日 | 09月28日 |
参加者
会議室
-
2014/09/17-00:40
ケーキ、どのくらいあるんでしょうねぇ…
皆で手分けして全種類制覇したいですよね!
>月野さん
逆に心配をかける…ですか、思いつきませんでしたっ!
今度思いっきり危ない目に遭ってみますね!
具体的に何をするかは今度考えておきましょう…
戦闘中はかっこいいんですけどね!でも日常生活でまで危ないことしてほしくないです。
PLより:
精霊サイドについて、甘党らしいのでバイキングのケーキ全滅させる勢いで黙々と食べてるかと。
ケーキ全滅を阻止するためにも紅茶汁の被害にあってしまえばいいと思うの。
あとは他の精霊の皆さんに茶々入れたりちょっかいかけたり。
ニーナ相談中は、夜間に出かけたり売られた喧嘩勝ったりしてるくらいで大袈裟な…とかぶつくさ言ってるはず。
ニーナに褒められると分かり難いですが照れます、弄るなら絶好のチャンスかと。 -
2014/09/15-17:33
あ、背後が言い忘れてたって言ってるわ。
(PL:精霊の方は、神人の会話を聞きつつ、他の精霊さん方の反応を眺めて楽しんでると思います。
外面はいいので、にこやかに普通に皆さんの話に混ざるかなと。隙を見せるとからかい始めますけど。
縮こまってる若者は恰好の標的かも、しれません←(待ちなさい) -
2014/09/15-17:26
色々皆さん悩み事がありますよね…あ、クレちゃんも何考えてるか全然わからないので凄く気持ちわかります!悩み事もパーッと話してケーキいっぱい食べてスカッとしちゃいましょうね!
(PL→精霊の方は不気味ななりですが、本人なりにフレンドリーに(あくまで本人なりに)接してくるかと。始終ロアの方を観察してますが他は会話にチョコチョコと混ざってくると思います) -
2014/09/15-00:04
アタシの事は好きに呼んでね!
離すとしたら愚痴かなー。最近、サマエルの悪ふざけが多いって事とか
任務中もヘラヘラしてる時があるし!もうホント訳わかんない!!
PL:精霊は紅茶汁を吹き出しますブシャー
(それ以外は普通に会話に混ざると思われます) -
2014/09/14-22:36
PL:書き忘れました。
精霊の方は1人だけ10代+少し臆病なので多分縮こまってると思います。 -
2014/09/14-22:31
こんばんは、初めましての方は初めまして。
私はジェシカよ。よろしくね。
あら、みんな同年代なのね。私も呼び方は好きに呼んで貰って構わないわ。
私が好きに呼んだ場合は呼び捨てになるわね。
ケーキもお喋りも楽しみよね!
女子会なんて初めてだから楽しみだわ。地元じゃこんなお洒落なお店とかないし(田舎者)。
やっぱこういう時って恋バナとかが定番なのかしら。
ウィンクルムだしそういう話には事欠かないイメージだったけど、こちらは幼馴染だったからあんまそういう話はないかなって感じね。 -
2014/09/14-22:06
そう言えば、みんな17~8歳ね。同年代同士って言うのも楽しそう♪
会議室で少し内容を話しててもいいって解説にもあるし、
どんな事を話すのか、それに対してどんな返答をするのか、
ちょっとお話しした方が良いのかしら?
私が話す内容は、アルが普段何を考えてるのかよく判らない事や、
笑顔の裏で何を企んでるのか謎な所とか…いっつもからかわれる所とか。
そんなあたりかしらね…ほんとに、いつもどこまで本気なのか判らないのよね、アルの言う事って…
>ロアちゃん
呼び方は好きにしてくれて構わないわよ。同い年だもの、気楽に行きましょv
>ニーナさん
グレンさんってそんな危ない事ばかりするの?
そう言う人は周りがどれだけ自分を心配してくれてるか判らないんだと思うから、
いっそ、逆に思いっ切り心配掛けてみたらどうかしら。
少しは心配する方の気持ちが判るんじゃないかなって。 -
2014/09/14-00:16
こんにちはとお久しぶりなのです!
ケーキ、いっぱい食べれるみたいで幸せです~
私は呼び名は何でも構わないですよ。
皆さんと精霊さん方との普段のやり取りを色々聞くことが出来そうで
ちょっと楽しみだったり…
せっかくですし、私は日頃気になってたことでも相談しましょうか。
危ないことばっかりする人って一体どうすれば大人しくしてくれるんでしょう… -
2014/09/13-22:54
こんにちはーです!
皆さんお久しぶりですっ。なんだか同じぐらいの年齢で集まりましたね。
え、えっとあの、よ、よろしければ名前にちゃん付けで呼んでもいいですか・・・?
駄目ならば良いのですが、私の名前は好きに呼んでもらって大丈夫なので!
美味しいケーキを食べながら楽しくお話っていいなあー・・・
女子会ってちょっとあこがれで。私は多分、友だちなのにたまに近くにいると胸の動機が激しくなるんだけどこれってなんだろうみたいな事を話すかもしれないです。
・・・異性だから緊張してるのかな。でも近くにいると安心するし楽しいんだけど謎なんですよね。 -
2014/09/13-09:21
こんちゃー!油屋。だよ~ 輝さんはさっきぶりだね!
初めましての人もそうでない人も宜しく♪
皆とケーキ食べてお話出来るなんて嬉しいなぁ~ -
2014/09/13-07:55
こんにちは。
ジェシカさんは初めましてね。私は月野輝と言います。
ロアちゃんとニーナさんはお久しぶりで、油屋ちゃんは先程ぶりよね。
皆さん、よろしくお願いしますね。
ふふ、女子会楽しみよね。
さっきまで凄く頭使ってたから甘い物が恋しいわ……
みんなの話を聞くのも楽しみ♪
私はきっと「腹黒」しか言わない気がするのだけど、気にしないでね、ふふ♪