マツタケ様のご降臨(瀬田一稀 マスター) 【難易度:とても簡単】

プロローグ

 さて、しつこくすずらん商店街である。
 すずらん商店街は、タブロス郊外にある通りだ。もうずいぶん長いこと、市民の生活を支えているために、多くの品物を提供してきた。
 ……が、この商店街。少々突飛な男が仕切っている。
 果物屋のハチである。

 その日ハチは、店先で煙草をくゆらせていた。見上げる空は青く、秋らしい冷ややかな風が吹いている。動けば汗をかくが、立っているだけだったら心地いい。
「過ごしやすくなったねえ、トミさん」
 ハチはふうっと肺から煙を吐き出して、傍らのトミを見た。ちなみにこちらはパン屋である。
「そうだねえ、ハチさん」
 特大マグカップから口を離して、トミは言った。昼食後のコーヒーは、トミにとって娯楽の一つだ。
「なあ、トミさん。こうも平和だとさあ」
「なんだい、ハチさん」
「また、やりたくないかい。大騒ぎを」
 ハチはふふふ、と悪巧みの笑みを見せた。何を考えているのだろうと聞くまでもない。絶対あまり良くないことだと、トミは過去の色々から知っている。しかし自分もふふふ、と笑ってしまうのだから、まあ同類ではあるのだが。
 ハチは「ちょっと待っててくれや」と店内に戻り、戻ってきたときには三十センチ四方ほどの箱を手にしていた。
「俺はな、やったんだよ。昨日な」
「昨日? 何をやったんだい、ハチさん?」
「これさ!」
 ハチは箱の蓋を開けた。トミは目を丸くする。なんとそこには、マツタケが並んでいたのだ。すずらん商店街でもこの秋はまだ見ていない、天下のマツタケ様である。
「おおお、どうしたんだい、ハチさんっ!」
 思わず手を打ち頭を下げて拝んでから、トミが聞く。するとハチはにやりと頬を歪めた。
「親戚のじいさんが山持ってんだけどよ、取りに来いっていうから言ったんだよ。そしたらじいさん山から落ちかけてさ、助けてやったらこれ、じいさんがとった分もくれたんだ。で、このマツタケでさ……」
 ひひひ、とハチは肩を揺する。
 ひひひ。トミも同じように体を震わせた。

 ※

「まーたすずらん商店街ですか。今度はなんですか?」
 A.R.O.A男性.職員は、壁に貼られたポスターにため息をついた。闇鍋にダンス。今度は何だ、きっとどうせくだらない内容だろうと思ったのだが。
「あら、今回はわりと普通よ。『秋の味覚を楽しもう。焼き芋とマツタケコース』だから」
 女性職員が、ポスターの文字を読み上げる。
「マツタケ!?」
「ええ、俺が血眼になって探しましたって、ハチさんって人の写真付き。えっと、参加費はウィンクルムで500jr……まあマツタケがあるなら安いんじゃない? あら?」
 職員はそこで眉間にしわを寄せた。最近めっきり目が悪くなってきた、老眼よね、嫌だわと、胸ポケットからルーペを取り出して細かい文字を読む。
「……えっと、マツタケには限りがありますので、ウィンクルムで一本でお願いします。食事はすずらん公園の掃除の後になります。集めた落ち葉で芋を焼きます。……この後は文字が大きくなっているわね。焼きたいもの持ち込み大歓迎、ですって」
「……それって、金払って掃除ってことですか? いくらマツタケ食べれるって言っても、なんか微妙……」

解説

すずらん公園の掃除の後に、焼き芋パーティをします。
落ち葉を燃やす中に、アルミホイルに包んだお芋をいれる感じです。
ほかに焼きたいものがあったら持って行ってください。ついでに焼けます。
マツタケはちゃんと網に乗せて、こちらは焚火ではない火で焼きますよ。
参加費はウィンクルムで500jrです。

掃除に必要な熊手やちりとりなどは貸し出します。燃やせるものが集まらないと焚火にならないので、頑張って掃除してください。


ゲームマスターより

またもやすずらん商店街です。
焼き芋は一人一本、マツタケはウィンクルムで一本なので、仲良しなら半分こしてください。いえ、とりあってもいいですが。
ウィンクルム以外の参加者は、ハチとトミ(どちらも中年男性)です。
他ウィンクルムたちとわいわい楽しんでいただけたらと思います。
それでは、お掃除頑張ってください。
働かざる者食うべからずですよ。

リザルトノベル

◆アクション・プラン

スウィン(イルド)

  本日もお世話になりま~す
…ん?掃除するんだからおっさん達がお世話?
まあいっか
ちゃちゃっと掃除しちゃいましょ!
この後はマツタケが待ってる!頑張るわよ!

ふぅ、掃除はこんなもんでいいかしら?
綺麗になったわね
お待ちかねのマツタケ様~!
(ふざけて拝む
イルドからマツタケ一本全部食べていいと言われ)
ん?ダメダメ!折角だから一緒に食べましょ
イルドも掃除頑張ったんだから。ね?半分こ

皆が分けてくれる食べ物は遠慮なく
ありがた~くいただくわ
ありがとね♪
おっさんのマシュマロも遠慮なく貰ってちょうだい!
マツタケいい香り~♪他の食べ物も美味し♪
焼きマシュマロ凄く甘くて…幸せ♪
(頬が落ちそうという風に頬を押さえ笑顔)


アイオライト・セプテンバー(白露)
  今日はがんばってきれいにするねっ
あ、どんぐり落ちてる。拾っちゃおうっと
コスモスも咲いてる、きれいだなー
ススキもゆらゆらしてきれいだなー
落ち葉って黄色とか赤とかいろんな色があるよね
秋っておもしろいなー(にこにこ
パパ、どんぐりあげる

あたし、きのこ色々持ってくのー♪
昔っから香りマツタケ味シメジっていうでしょ
あれを確かめてみたいの
椎茸、榎茸、シメジ、舞茸…
見た目もいろいろできっとおもしろいよっ
野山で採ってきたんじゃなく、ちゃんと買ってきた(すずらん商店街で買えるかな?)やつだよ
多めに持ってってみんなで食べようっと
だから、じゃがバタとかマシュマロも分けてちょうだい♪

パパ、お口あーんして
食べさせてあげるね



エルド・Y・ルーク(ディナス・フォーシス)
 
そうですねぇ。まつたけで目くじら立てることはないかと思い……ますが、ディナス。通常の半分こは横ではなく縦切りですよ


秋の味覚と言うものはたまらないものがあります
しかし、まずは掃除に専念しましょうか
熊手を借りてきて、まずは手身近な落ち葉を集めましょう

ディナス、上手いのは認めますが、公園に箒で大きく私の似顔絵を描くのはやめましょう
このままでは、掃除をしていないと見なされてしまいますよ

さて、まつたけが二人で半分ことは余りにも切ないですねぇ…ディナス。切ってしまった物は仕方がありませんが、この切り方は明らかに確信犯ですね

では、提案どおり。勝敗はじゃんけんで、負けた方が下部分とお情けで焼き芋…という事で


鳥飼(鴉)
  焼き芋は秋の風物詩の一つですね。
公園の掃除は、皆さんで分担した方が早いでしょうか。
鴉さん、僕達はあっちの方を掃除しましょう。

火が怖くならないのかと言われると。……少し。
でも、あれは相手を甘く見た僕の問題です。
それに、怖がっていては前に進めません。
鴉さんは、怪我は大丈夫ですか?

(鴉さんは、右腕の動きが危ういのですし。僕が二人分掃除を頑張らないと)
鴉さん、何か言いました?(首傾げ

無理行って来ていただきましたから。
お詫びとお礼にマツタケどうぞ。

食べづらくないです?
僕が食べさせてあげますね。(にこり

皆さんの分もじゃがバターありますよ。(お裾分け

持参:じゃがいもとお椀人数分、バター、古新聞一冊(包む用)


フラル(サウセ)
  暇なときは公園でまったりしたりして結構利用しているので、日頃の礼を兼ねて公園掃除。
たまには相棒を日干しせねばと思い、サウセを誘ってみる。

落ち葉は落ち葉用の袋に入れていく。
ゴミが見つかったら、
燃えるものと燃えないものは分別して落ち葉とは別の袋にそれぞれ入れていく。

焚火で焼くためにカボチャも持っていく。
ホイル焼きにすればかなり美味しいはず。
切り分けてホイルに包んで焼こう。

マツタケはサウセと半分に分ける。
均等に分けきれなかったら、サウセに大きい方をあげる。
サウセにいいのか聞かれ、いいから食えと言う。

どうも遠慮しがちなところがある相棒。
まだまだ他人に慣れていないようだ。
少しずつ馴染めればと思う。


「きゃ~、ハチさん、久しぶり!」
 アイオライト・セプテンバーは両手をバンザイのように高く上げた。その姿に、ハチがぱっと明るい顔を見せる。
「嬢ちゃん、また来てくれたのか! しかも別嬪さん一緒じゃねえか!」
「別嬪さん?」
 アオイライトが振り返る。後ろにいるのは白露であり、まあきれいな顔をしているけれど、決して別嬪さんではない。それにハチと初対面でもないし、今更だ。それなら誰がとちらりと目を動かして、納得。
「もしかして、主殿のことでしょうか」
 鴉が愉快そうに笑った。傍らの鳥飼は長く編んだ髪を揺らして、手に持ったじゃがいもの袋をハチに差し出した。
 しかし彼が喋るより早く「今日もお世話になりまーす」と声が上がる。スウィンである。
「あ、兄さん、なんだあんたも来てくれたのか!」
 イルドの会釈に手を上げて答え、じゃがいもを受け取りながら、ハチはトミを見やった。
「美人もいるし、慣れた奴らも来てくれたし、こいつは楽しいことになりそうだな、トミさん」
「そうだねえ、ハチさん」
 持ち込んだ熊手や軍手や竹ぼうきなど、掃除に必要なものを整理しながらトミが言う。その手を、一枚のビニール袋がすり抜けた。
「あっ!」
 袋はわずかな風に舞い、公園を飛んでいく。
「おやおや、これは」
 それを拾ったのは、エルド・Y・ルークだ。
「すんませんね、ご老人」
 近寄りトミは頭を下げた。
 散歩ですか、今日は陽気が良いですからねと言いかけて、その口をつぐんだ。そして顔を上げ、エルドをまじまじと見つめる。
「私がどうかしましたか?」
「いや、もしかして、ウィンクルムですかい?」
 傍らに立つディナス・フォーシスの尖った耳と、視線を下ろした際に見えた、エルドの手の赤い紋章。
「ええ。こちらが相棒のディナスです」
 ゆったり答えるエルドと頭を下げるディナスに、トミは驚きを隠せない。
 ぶっちゃけ、こんな年齢のウィンクルムもいるのか、ということである。
「なかなか素直なお人ですね」
 エルドは気分を害した様子もなくおっとりと笑った。そんな彼にトミはすみませんと頭を下げる。それを、ハチが呼んだ。
「トミさん、掃除始めるからこっち来てくれよ!」
「おう、了解だハチさん」
 トミの後を、エルドとディナスがついて行く。そしてハチの元についたとき、トミはもう一組のウィンクルムと顔を合わせた。
「……それ、目は見えてるのかい?」
 サウセと、フラルである。
 突然の問いかけに仮面を付けているサウセは身を引きかけたが、フラルは愛想良く微笑んだ。
「大丈夫ですよ。目はオレよりずっといいですから」
 メタルフレームの眼鏡の青年に言われては、まあそうだろうと納得するしかない。その驚いた顔をハチがなんととったのか。そっちの彼も良い顔してるよなあ、といかにも楽しそうな声。
「ハチさん、あたしは?」
 アイオライトの声に、「嬢ちゃんもかわいいぜ」とハチが言う。トミは思う。ハチは面食いなのだろうか、今まで気付かなかったけれど。……まあ彼らほどの美男美女がすずらん商店街にはいないのだから、仕方はあるまい。
 ……商店街女性陣に聞こえたら死を見るので、当然思っただけである。


「ちゃちゃっと掃除しちゃいましょ! この後はマツタケが待ってる! 頑張るわよ!」
 スウィンは熊手をどんと地面に置いた。
「おっさん、やる気じゃねえか」
 こちらも熊手を持ったイルドが言う。しかしそんなことを言う彼の足元には、ちりとりとごみ袋と、バケツに雑巾まである。つまりマツタケは、それほどの威力を持っているのである。この二人にとっては。
 だがスウィンはイルドのやる気を指摘せず、笑んだのみだった。二人は大きな木の下にベンチがある場所を中心に掃除を始め、その、しばらく後。
「恋人たちの語らいに良さそうな場所ね」
 色褪せた……とはいっても古ぼけているのではない、風情のあるベンチに、スウィンは視線を向ける。
「秋、落ち葉が舞う中のベンチ。なんか絵になるわ」
「……そうか?」
 イルドは集めた落ち葉を、器用に熊手でちりとりに入れた。あとはこのベンチをふきあげればいいだけだが。
「おっさん年だから、動きっぱなしだと疲れるだろ。ちょっと座ったらどうだ?」
 言うなりイルドは、ベンチの端に腰かけた。平気よと言いながらも、察するところがあり、スウィンも端に座る。
 落ち葉は舞っていないし手には熊手を持ってはいる。でも。
 ……なかなかね。
 仏頂面のイルドを横目に、スウィンは口の端を上げた。


「本もいいですけど、外もいいですね」
 サウセは高く澄んだ空を見上げた。その横で、フラルは落ち葉を袋に入れている。サウセがそんなことを言ってくれるのならば、誘ったかいがあったというものだ。
 ここではないが、暇なときには公園を訪れることも多い。掃除をするのは日頃の礼も兼ねているつもりだった。
「これは燃えるごみ、これは燃えないごみ、と」
 腰を曲げて、フラルはごみの分別をしている。そのとき視界の片隅に、通り過ぎるものがあった。あれは、ひょっとして、いやひょっとしなくても。
「く、蜘蛛……!」
 世の中の何よりも、この八本足の生物が苦手なフラルである。まずい、動けない。
 そのときの、サウセの行動は早かった。彼はすぐさま、ほうきとちりとりを使って蜘蛛を捕えると、それを既に掃除を終えた大木の根元へと離してしまった。
「あ、ありがとう、サウセ」
「いえ……こんなことくらい、別に」
 戻ったサウセはフラルの隣にしゃがみ、ごみを袋に入れていく。
 フラルと出会わなければ、こうして公園掃除をすることも、誰かのために何かをしてやろうと思うこともなかっただろう。この変化は自分ですら驚きであるのに、嬉しくもあるのだから、不思議なものだ。
 ……フラルさんのおかげですね。
 並ぶ相棒を見、仮面の下で。サウセは目を細めた。


 鼻歌を歌いながら、ディナスは竹ぼうきで地面に絵を描いている。
「ディナス、上手いのは認めますが、公園に大きく私の似顔絵を描くのはやめましょう」
 エルドに言われ、ディナスは鼻歌と、手を動かすことをやめた。
「ちゃ、ちゃんと掃除もしますよ、もちろん」
 言ってはみたが、ついさっきまでしっかり絵を描くことに夢中になっていた。
 子供の頃に掃除をした場所といえば、家の周りの小さな森だった。そのときは木も草も多くてこんな絵を描くことができなかった。公園の掃除は初めてで、ちょっと楽しくなってしまったのだ。
 エルドは熊手で枯葉を集めている。ざ、ざと勢いよく、丁寧に。トミがこちらを見ているのは、エルドがこの場の最年長だからだろう。まったく、心配することなどないというのに。ミスターはその辺のお年寄りとは違うんですからね、と思わず視線を向ければ。眼鏡の奥の優しい瞳と目が合った。
「ディナス、どうしたんですか?」
 ディナス、は慌ててさっき描いた絵を、ほうきの先で消した。ちゃんと掃除をしていますよのアピールだ。エルドは柔らかく笑んで、すぐに掃除を再開する。
「まったく、子ども扱い……」
 文句を言いながらも、結構甘んじてしまっていたりもするディナスである。


「公園の掃除は、皆さんで分担したほうが早いでしょうか。鴉さん、僕たちはあっちの方を掃除しましょう」
 ほうきとごみ袋を手に、鳥飼はさっさと歩き始めた。それに鴉もくっついている。常の笑みだ。だが、それは口元だけ。
「鴉さん?」
 返事のないことに、鳥飼が振り返る。その彼に、鴉は問うた。
「主殿は、前回の任務で重症であったと記憶していますが。何故、臆せず火に近づく行事に参加できるのです」
 鳥飼は鴉の顔を見つめた。薄い笑みは消えていた。
「火が怖くないのかと言われると。……少し」
 相手を知るにはまず自分からと、鳥飼は素直に口にする。
「でも、あれは相手を甘く見た僕の問題です。それに、怖がっていては前に進めません」
 鴉は顔を動かさず、目線だけを下げた。
 僕の責任? 違います。あれはあの場にいた全員の問題です。無理に前に進もうとせずとも、怖がり留まろうと、誰も責めはしないというのに。
 ……言えない、こんなことは。顔を上げている鳥飼を前にして。
「鴉さんは、怪我は大丈夫ですか?」
「……妖狐殿たちのお蔭で、経過は良好ですよ」
 だから、心配なのはあなただと……。
 これも言わず、鴉はゆるく首を振る。
「そろそろ掃除を始めましょう、主殿」
「そうですね」
 穏やかに吹く風に、鴉の闇色の髪がなびいた。


「アイ共々、商店街の皆様にはいつもお世話になっていますからね。しっかり掃除させていただきましょう」
 白露は両手に熊手を握った。自然豊かな公園だけあって、落ち葉は相当な量だ。これはマツタケを餌に掃除人を募るのも理解できる。
「……アイ、ちりとり持ってきてください。……アイ?」
 腰を伸ばして周囲を見渡す。と、うろうろしているアイオライトを見つけた。
「あ、どんぐり落ちてる。拾っちゃおっと。……コスモスも咲いてる。ススキもゆらゆらして、きれいだなー」
 木の実や落ち葉を拾いながら、あっちを向いたりこっちを向いたり。頭に赤い葉をのっけて、気付かない。
「秋っておもしろいなー」
「やっぱり、他に気をとられていますね」
 白露は苦笑した。がんばってきれいにするねっ! なんて言ってはいたが、アイオライトらしいというか。
「パパ、どんぐりあげる!」
 小さな実がのった手をつき出されて受け取るも、言うべきことは言わねばならない。
「アイ、この後食事をいただくのだから、ちゃんと掃除もしましょう。どんぐりは、ありがとうございます。ポケットにしまっておきますね」
「掃除しなくてごめんなさい」と「喜んでくれて嬉しい」の間で、アイが笑う。何とも微妙な眉の下がった笑顔に、白露はふき出した。


 それでも人数がいるので、掃除は無事に終了した。がさっと集まった、大量の落ち葉で山を作って火をつける。その中には、洗ったさつまいもを、アルミホイルで包んで入れた。焼き芋である。
「マツタケはこっちで焼くからな~」
 ハチは準備済みだったらしい七輪の上に網を置いて、その上にマツタケを並べた。香ばしい匂い……を感じる前に「そうだ、あたしね」とアイオライトが大量のきのこの山(チョコではありません)を取り出す。
「昔っから、香りマツタケ味しめじって言うでしょ? 確かめてみたくて、いろいろ持ってきちゃった!」
 言うなりマツタケの横に並べ始めるアイオライト。しいたけ、えのき、しめじ、まいたけ。網の上のキノコが増えるにつれ、ハチは深い、それは深いため息をついた。
「嬢ちゃん……せめてマツタケが焼き上がってからとかさ、考えようぜ。香りマツタケの香りがよお……」
「す、すみませんっ!」
 白露が慌ててキノコに手を伸ばすが、すぐに「熱っ!」とひっこめる。
「兄さん箸使えよ、ったく、かわいい保護者と嬢ちゃんだぜ」
 ハチは苦笑しきりである。

 焚火の方は、トミが中心となり芋を焼いていた。
「なんかマツタケ……だけじゃない香りがしますね」
 鳥飼はくんと鼻を鳴らした。公園のベンチの上に人数分のお椀を並べ、スタンバイはOKだ。後はさつまいもと一緒に火の中に入れた、アルミホイルに包んだじゃがいも待ち。ここにバターをのせれば、じゃがバタ―の完成だ。
 同じくホイルに包んだ、こちらはかぼちゃを待っているのは、フラルである。金を払って掃除に参加し、差し入れまで持って行く。サウセにしてみれば微妙なことだが、フラルが楽しそうだから、まあいいだろう。
 その焚火の傍らで、キノコに負けじと思っているかはわからないが、スウィンとイルドが甘い香りを生み出していた。持参したマシュマロを、串に刺して焼くのだ。外はかりっと、仲はトロッと。
「うーん、美味しい! すごく甘くて……幸せ♪」
 熱い一つを口に入れて、スウィンは頬に手のひらを当てた。
「あ、熱っ! これ中、やべっ!」
「イルドダメよ、先にふーふーしなくっちゃ」
 口を押さえて涙目になっているイルドに苦笑して、スウィンは次のマシュマロ串をとる。
「もう、しょうがないから、おっさんが冷やしてあげるわよ。あ、みなさんもどうぞ! 熱いから気を付けてね」
「お、こっちのマツタケとその他キノコも焼けたぞ!」
 ハチが手を上げる。
「ハチさん、その他キノコって……ちゃんと言ってよ」
「いーや、俺は言わねえよ嬢ちゃん。香りマツタケの香りを奪ったお前さんにはなっ」
 白露がまたも、すみませんと頭を下げた。
 それを聞きながら、トミは焚火の中から取り出した芋を、軍手をはめた手で割った。なかはほっこり黄色く、甘い香りがする。
「こっちの焼き芋も完成したよ! じゃがいももかぼちゃもそろそろいいだろう。さ、食事会のはじまりだ」


「マツタケは半分ですね」
 ディナスは言うなり、それを上下で割った。
「おおおおい、お・ま・え!」
 ハチが思い切り大きな声を出したが、ディナスは気にしない。
「……明らかに確信犯ですね」
 エルドは上下半分、すなわち傘有りと無しに分けられたマツタケを、さみしい顔で見つめた。二人で一つと言うだけでも切ないのに、この切り方は……。
「切ってしまったものは仕方がありません。しかしこの分け方では下半分があまりにも惨めというもの。どうです? じゃんけんで負けた方が、下半分。お情けで焼き芋つきということでは」
「いいですよ」
 エルドの提案を、ディナスはあっさり受け入れた。もちろん、勝つ気満々である。
 そしてじゃーんけーん、と勝負の結果――。
「勝利です! これでマツタケの上半分は僕のもので……あれ? ミスター、僕の焼き芋の取り分は……?」
 マツタケのみが乗った皿を手に、ディナスはエルドに視線を向けた。エルドはいつも通りの穏やかな笑みで、しかしクールに言い放つ。
「焼き芋といえば全てです」
「ミ、ミスターッ!恩情……ッ!」
 ディナスは両手でマツタケの皿を握りしめた。
 その上に、ぽいっとしめじが放り込まれる。
「あたし、たくさんキノコ持って来たから分けてあげる!」
「あ、ありがとうございます……でも、あの」
「ああ、マツタケは醤油もいいですが、すだちを絞っても美味しいですよ。」
 アイオライトからのたくさんのキノコ、そして白露に渡されたすだち。エルドは笑っているし、もうなにがなんやらだ。

「ところでアイはキノコ、食べないんですか?」
 焚火の方へと向かったアイオライトの背中に、白露は声をかけた。
「はあひ?(なあに?)」
 アイオライトは振り返る。手にはじゃがバターのお椀を持ち、口はマシュマロでいっぱいだ。
「ひのこ、はべうよ(きのこ、食べるよ)」
 もぐもぐしながら戻り、マシュマロを飲み込んで、アイオライトはキノコの皿を手に取った。
「あー、じゃがバターとマシュマロ、美味しかった♪ パパ、お口あーんして。食べさせてあげるね」
「アイ、無理やりキノコを口に押し込むのは……ぐむっ」


 その頃、ハチは涙ながらにマツタケを食べていた。
 さっきアイオライトに「やっぱしめじの方が美味しいね」と笑顔で言われたのだ。
 俺が苦労してとったマツタケの立場は……と悲しんでいたところ。やっとマツタケを欲する人が現れてくれた。

「お待ちかねのマツタケ様ー!」
 皿の上に横たわるキノコを、スウィンは両手を合わせて拝んだ。
「別に物凄く食いたいってわけじゃねーから、おっさんマツタケ一本全部食っていいぞ?」
 半分に割る前にと、イルドはその皿をスウィンの方へと押しやった。しかしスウィンはダメダメ! と首を横に振る。
「せっかくだから一緒に食べましょ。イルドも掃除頑張ったんだから、ね? 半分こ」

 フラルとサウセも、一本を仲良く分けている。
「あれ、均等に割れなかったな」
 フラルは別れた二本を見比べた。大きい方をサウセに渡す。
「いいんですか?」
「いいから食え」
 ありがとうございますと礼を述べ、サウセは皿を受け取った。

「無理言って来ていただきましたから、お詫びとお礼にマツタケどうぞ」
 鳥飼は一本丸ごとがのったままの皿を、鴉に渡した。しかし鴉は「半分で構いません」と言う。
「香りマツタケ、味しめじと言いますので」
「おいっ!!」
 ハチが叫ぶ。もう涙目である。その肩をトミが叩く。
「ハチさん、落ち着いてくれよ」
「そうよ、ハチさん、美味しいわよマツタケ! ねえ、若者たち!」
 スウィンの「美味しいって言いなさい」ビームを受け、フラルとサウセはこくりと頷いた。
「ああ、美味い。俺は好きだ」
 イルドの言葉は短かったが、寡黙のイメージのある彼の言だからこそ、ハチは嬉しかったようで。
「そう言ってもらえると……兄さん、ありがとな!」
 がっしと肩を組まれて、さすがに困惑するイルドである。
 その騒ぎをよそに、鳥飼は鴉に問いかける。
「食べ辛くないですか? 僕が食べさせてあげますね」
 自分の右腕の動きが危ういからこその申し出と、鴉はわかっている。しかしこれは過去のものであり、食事ができないほどではない。
「……本気で言っているのですか?」
 ……まったく、悪気がない分性質が悪い。
「自分で食べれますから」
 自分で聞いても冷ややかだと感じる声を、鴉は出した。しかし鳥飼は気にした様子もなく鴉が食べるのを眺め、その後はじゃがバターを配っている。
「皆さんの分もじゃがバターありますよ」
「おっさんのマシュマロも遠慮なく貰ってちょうだい!」
 スウィンが焼きたての串を振る。
「かぼちゃもいい具合に焼き上がっているから、みんな食べてくれ。……ほら、サウセも。遠慮しなくていいぞ」
 フラルはサウセにアルミホイルの包まっているかぼちゃを渡した。遠慮しがちな相棒と、少しでも馴染みたいと思っているのだ。


「きちんと仕事をした後の食事は美味しいですね」
 白露はのんびり呟いた。その目に映るのは、賑やかなみんなの姿と、アイオライトが「あげる!」と追加で置いて行ったどんぐりだ。
「……やじろべえでも作りますか」
 その一言を、ハチが拾う
「やじろべえなんて、なっつかしいな。トミさん、俺らよく作ったよな」
「ああ、キリで穴開けてねえ。このどんぐりで作るのかい?」
「おうよ、やろうぜ! おい若者ども! やじろべえ知ってるか? 知らねえだろ? ははは、このハチさまが作ってやるからな。な、兄さんもっ」
「……ハチさん、お酒、入ってないですよね?」
 白露がうかがうも、ハチが酒を飲んだ形跡はない。ここにはアルコールは持ち込まれていないのだから、当然だ。
 トミがキリなどの道具を取りに戻り、ハチはどんぐりの吟味を始める。あっちで芋やキノコを食べる者、興味を持って寄ってくる者、ウィンクルムは様々だ。

 秋の日の平和な一日が過ぎていく。
 マツタケ様の影は……薄い。
 結局は、香りマツタケ、味しめじ……なのだろうか。

「そんなことねえよっ! っていうか思っても言うなよ! 持ってくるなんで言語道断だ! 俺の、俺のとったマツタケがっ」byハチ




依頼結果:成功
MVP

メモリアルピンナップ


エピソード情報

マスター 瀬田一稀
エピソードの種類 ハピネスエピソード
男性用or女性用 男性のみ
エピソードジャンル コメディ
エピソードタイプ ショート
エピソードモード ノーマル
シンパシー 使用不可
難易度 とても簡単
参加費 1,000ハートコイン
参加人数 5 / 2 ~ 5
報酬 なし
リリース日 09月09日
出発日 09月16日 00:00
予定納品日 09月26日

参加者

会議室

  • [11]スウィン

    2014/09/15-23:58 

  • はーいはいはいマシュマロもじゃがバターも食べたいですっ!
    じゃ、あたしもきのこいっぱい持ってくね♪

  • [9]スウィン

    2014/09/14-20:03 

    鳥飼とフラルはお初ね。おっさんはスウィン、こっちはパートナーのイルドよ。
    アイちゃんとエルドは今回もよろしく♪
    イケメン…じゃなくてイケアヒルもよろしく!
    ちゃちゃっと掃除やっちゃってマツタケ食べるわよ~!

    >鳥飼
    はいはいはい!(挙手)おっさんもじゃがバター食べた~い♪

    おっさんはマシュマロと串持って行って焼きマシュマロにしようかな?
    多めに持って行くから欲しい人は言ってね!

  • [8]鳥飼

    2014/09/14-14:45 

    エルドさん、またお会いしましたね。
    今回は公園のお掃除、お互いがんばりましょう。(微笑む

    スウィンさん、はじめまして。よろしくお願いしますね。

    >アイオライトさん
    食べ比べですか。いいですね。


    僕は、じゃがいもを持っていこうと思います。
    器とバターも一緒に。
    はい、じゃがバターにしようかと。(にっこり

    一応、新聞紙も一冊持って行こうと思います。
    アルミホイルは、解説にあるのでいらないですよね。

    じゃがいも、他にも食べたい方がいらっしゃるなら少し多めに持ってきますけど。
    食べます?(首傾げ

    (抜けがあったので再投稿しました。)

  • アヒル隊長効果すごーーいっ
    鳥飼さんとフラルさんは初めまして
    エルドさんとスウィンさんは今回もよろしくー♪

    >焼くもの
    あたし、折角だからきのこいろいろ持ってきたいなーって。
    そんで食べ比べするの

  • [5]エルド・Y・ルーク

    2014/09/13-00:13 

    …ふむ、やはり世界は広い。私の知らない世界があるのですねぇ(イケボなアヒルさんをじっくりと拝見しつつ)

    これはご挨拶を失念してしまい失礼致しました。
    私、エルド・Y・ルークと申します。これは精霊のディナスです。自由に呼んでやって頂ければ幸いです。どうか宜しくお願いしますよ。

    アイオライトさんにも、鳥飼さんにもお世話になり放しで……
    フラルさんは初めてですね。これからどうぞ宜しくお願いしますよ。

  • [4]鳥飼

    2014/09/12-21:18 

    初めまして。
    僕は鳥飼と呼ばれています。お好きに呼んでくださいね。
    こちらは鴉さんです。

    かっこいいアヒルさんですね。(にこ
    よろしくお願いします。
    フラルさん達も、一緒にお掃除頑張りましょうね。

    焼きたいもの、何にしましょうか。

  • [3]フラル

    2014/09/12-20:50 

    …。なんだかすごいアヒルを見たような気がした。

    はじめまして。オレはフラル。
    相棒はマキナのサウセだ。
    よろしく。

    暇なときに公園でまったりすることも多かったから、日頃の礼も兼ねて掃除は頑張るか。
    マツタケや焼き芋は楽しみだな。
    焼き芋に追加で何を入れるかも考えておくか。

  • ってかんじで待ってます☆


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