プロローグ
その日、A.R.O.A.の受付に現れた女は、まごうことなき美女だった。
たっぷりとした金の髪は緩く波打ち華奢な肢体を包み、惜しみなく晒されるパーフェクトボディには、上品な臙脂に光沢の入ったドレス。
思わず頬を紅潮させて見つめてしまった受付に、くすり、女は微笑んだ。
「楽しいお話があるの。聞いて下さらない?」
受付が凄い勢いで頷いたのは、余談である。
女は、リリィと名乗った。スリット全開の足を組み、勧められたお茶に優雅な所作で口をつけながら、切りだした。
「とても簡単なお話よ。私とお話をして頂きたいの」
「お、お話、ですか……?」
「そう、可愛いペットに逃げられてしまって傷心中の私を、慰めて欲しいの」
簡単でしょう? と微笑むリリィに、はぁ、確かに。と帰した職員は、えぇと、と言葉を濁してから、問い返す。
「動物好きな方に、集まって貰えば良いですかね」
「動物……そうね。それも悪くはないわ。でもそれより……」
す、と。瞳を細めて職員を見つめたリリィは、挟んだテーブルに肘をついて、品定めをするように職員を見つめた。
指先で近づくよう促すのに、応じて顔を近づけてくる職員に、気を浴したように微笑む。
「ねぇ、あなた、痛いのはお好きかしら?」
「へ?」
「もしくは……とても我慢強かったり、しないかしら?」
「え、っと、どちらかと言えば我慢強い方かとは……」
そう。呟いた女の唇が、真っ赤なルージュが、弧を描く。
覗き込む妖艶な眼差しに、冷たい冷たい色を見つけて、職員はぞくりとするのを感じた。
白魚のような指が、なまめかしく職員の輪郭を撫でて、擽るように頤を掬われて――。
「り、リリィさま……!」
思わず、恍惚とした声を上げていた。
「あら、まずまずね」
ふ、と。リリィが蠱惑的な表情を収めた途端、はっとして我に返る職員。
「え、あ、あれ?」
「あなた、素質あるわよ」
くす。愉しげに笑ったリリィに、職員は若干蒼褪めながら、まさか、と呟いて。
「ペットって……」
「皆まで、言う?」
「け、結構です! ていうかうちの大事なウィンクルムさん達をペットになんて駄目絶対です!」
職員さん、自分で言ってます。
愉快そうに笑いながら、リリィは肩を竦めた。
「しないわよ。言ったでしょう、傷心中だから慰めて欲しいだけって」
ふ、と。吐息のような笑みを零した女の表情が、寂しげに見えたのは、彼女の告げる言葉のせいだろうか。
「ちゃんと健全で普通のお店で、たのしくお茶をしながらお話してほしいだけよ? ……まぁ、望まれる、なら、披露ぐらいするけれど」
なにを、とは、言わないし聞けなかった。
蠱惑的に笑う彼女曰くの健全で普通なお店でのお茶とやらは、一癖も二癖もありそうな予感がひしひしとしたが、ちょっと怖くて聞けなかった。
むしろ、それは怖さではなくて、どきがむねむねしているこの感覚のせいかもしれない。
「あら、なぁに。求められるのはやぶさかではないわ。でも、そうね……聞いてあげるわ。何をそんなに、期待したお顔をしているのかしら?」
「リリィさ……」
「むやみに主の名前を連呼するものじゃないくってよ、坊や?」
「ご、ご主人様あぁ……!」
何かに目覚めてしまった哀れな職員からの説明が、果たしてまともな物だったかは……彼の事務能力スキルに期待するしかないだろう。
解説
●推奨
何かに目覚めたい人
何かに目覚めている人
何かに目覚めさせたい人
彼女と同じ嗜好を自負する人
●できる事
お洒落でアンティークなカフェでのお茶会
お好きな紅茶とプチスイーツプレートが付くアフタヌーンティーセットが200jrで楽しめます
追加メニューは下記の通り
紅茶・ハーブティ、珈琲…50jr
ソフトドリンク…20jr
お菓子類…80jr
軽食(サンドイッチ)…100jr
痛い事はしませんし、してはいけません
いかがわしい事もしませんし、してはいけません
でもちょっと傅いてみたり焦らされてみたりはお店の人も許容しちゃうかな!
ゲームマスターより
(ふわっ)(優しい笑顔)
こーやどM…じゃない。こーやGMとの対エピソード
といってもお互いの成否判定は特に影響しないので、こちらはこちらで、思う存分、お好きにどうぞ
場所は違います。あちらとの遭遇等はありませんのでご了承ください。
リザルトノベル
◆アクション・プラン
柊崎 直香(ゼク=ファル)
初めまして、リリィさん。と一礼 素敵なお姉さまとの語らい、僕などでよろしければ。 ちゃんと大人しくしてるよ 熱くてすぐには飲めないミルクティーを楽しみつつ 普通に無難な話題でお茶を楽しむよ? プライド高そうな方だけどたまには生意気な子供の相手も如何と ぜひ伺いたいのはペットに戻ってきて欲しいか否かかな くろうと(何のかは言わない)のリリィさんのことだから はい次、ってぐらいにペット候補いそうな気がする どのくらいそのペットに思い入れがあるのかなと えーと、全く無くてもそれはそれで むりのない程度に訊きたい 従順なだけじゃつまらない、と僕は思う 少しじゃれつくぐらいの元気も欲しい 勿論後でしっかり躾け直さないといけないけど |
セラフィム・ロイス(火山 タイガ)
ペットといえば動物。耳と尻尾があるテイルスも入ると思うしいいんじゃない?(装着させ)用意していてよかった 紅茶おいしい SM好き、そうでなくても従いたくなる空気はあるけど (躾や門限、禁止事で育った僕はMよりかもしれない。でも彼を同情するし・・・そうだ) 仮にペットといいますが、辛くて逃げたんですか? 興味あって。貴方は魅力的ですし 今も微笑の下には想う所があるのではと思って。ペットの自慢や後悔のような 『慰める』依頼ですし聞きますよ 聞くだけです。変な期待しないで 頬が上気しても気丈 タイガ・・・ (廃病院でMの話したけど本物には程遠い 苛めたいなんて思えないし ・・・二人をみたくないな。変な事覚えないといいけど) |
アイオライト・セプテンバー(白露)
アフタヌーンティーセットとソフトドリンクとお菓子を注文 お菓子はあたしが食べるの パパは食欲ないんだって なんでかな こんにちはー! あのねー。うち(白露と二人暮らし)はペット飼ってないけど、パパはアヒル隊長大好きだよーっ リリィさんに訊きたいことあるの あたしね。おっきくなったら、おっぱいどーん!ウェストぎゅっ!の、男を振り回す悪女になるんだよ でね、リリィさんみたいな悪女になるには、どうすればいいの? …ん?リリィさんは悪女だって、さっきパパが言ってたよ? 今日は、お話ししてくれてありがとう 寂しいなら、パパのアヒル隊長と遊ぶ? お礼にちょっとだけパパを貸したげるけど、絶対に返してね パパはあたしの大事なパパだもん |
城 紅月(レオン・ラーセレナ)
レオンが依頼を請け負ってきたけれど… どうしてそんなに楽しげなの、レオン? 前から綺麗だなって思ってたけど…今日は目が離せない。 見つめて欲しい 俺のバイトはホストクラブだから、慰めて欲しいと言う彼女のために尽くせると思う(たぶん 「逃げたペットって、どんな子だったの?」 さり気なく会話をしようかな。 ペットを外人が「He」等で言う感覚だったんだけど、会話進行が妙だよ?寧ろ侵攻だよ(滝汗 おしぼりとか、傅いて手渡してみたり。 居合習ってたから、痛いのも平気だよ。練習も結構大変だから、我慢強い方だとは思う…けど? 「っ!」 レオンが耳元で囁いてくるっ。 「…ぁっ。やっ、やめっ」 思わず何かを口走った気が…(陥落 ※弄りOK |
●面白い事になる予感しかしない
「セラ、これは何、どういうこと」
「ペットといえば動物。耳と尻尾があるテイルスも入ると思うしいいんじゃない?」
淡々と告げたセラフィム・ロイスに、火山 タイガは自らの首元を示しながら問いただす。
華やかな色の肉食動物のテイルスであるタイガの首には、真っ赤なレザーの首輪。
「うん、用意していてよかった」
「機嫌悪くねーかああ!?」
ついに視線を合わせてくれなかったセラフィムに、タイガは頭を掻きながら嘆息する。
社員が放っておけなくて来てしまったわけだが、これは責任を取れと言うことか。
タイガも男である。ここまで来たならば腹を括るしかない。
いざや行かんと向き直った指定のカフェが、何故だろう、禍々しく見えるのは。
若干の尻込みをしているタイガらのやや後方にて。
「ねえ、ゼク、痛いのは好き?」
「は?」
「もしくは……とても我慢強かったり、しない?」
「どちらかと言えば我慢強い方だとは思うが……」
なんせ呼ばれる小悪魔系神人・柊崎 直香――と書いて「お前」と読む――の相手をしているのだから。とは飲み込んだ。
時に、怪訝な顔をしながらも意図が図れず首を傾げるゼク=ファルと直香のやり取りが、A.R.O.A.の目覚めてしまった可哀想な職員とリリィのやり取りと丸っきり被っている事に注目してみよう。
果たしてこれは、フラグなのだろうか。
「滅多に無い機会だ。お茶会をご一緒するんだから、お姉さまにちゃんと挨拶するんだよ。ペットの躾は主人の義務だし、僕が恥ずかしい思いをする」
加速する直香のSっ気。
このとんでもお茶会を経て、ゼクもついに何かに目覚めてしまうのだろうか。
乞う、ご期待!
「おい待て何の話をしてる」
乞う、ご期待!
「俺は何にも目覚めてないし目覚める予定もない」
いつもの仏頂面に呆れを孕んだゼクのきっぱりとした台詞に、直香はどこか満足気に、笑った。
「よく分かってるじゃないか。いいこだね」
……乞う、ご期待!
●ご満悦
「逆ハーレムって、言い響きよね」
うっとりと告げた彼女は、満足気な笑顔だった。
一方で、ウィンクルム側の面持はというと、楽しげだったり沈痛だったり動揺していたり色々だ。
その中でもとびっきり楽しげなのが、アイオライト・セプテンバーであった。
「こんにちはー! あのねー。うちはペット飼ってないけど、パパはアヒル隊長大好きだよーっ」
「アヒル隊長?」
「そう、黄色いアヒルさんっ」
浴槽に浮かべるおもちゃ的なあれである。余談であるがイケボの隊長は生命体なのだろうか。気になって仕方がない。
にこにこと告げるアイオライトの『パパ』らしい白露をちらと見やり、リリィは含んだ笑みで、「そう」と呟いた。
ちなみに白露の位置がリリィからかなり遠い席になっているのは、ああいうタイプの女性が特に苦手な白露の意志の表れである。
ガン見されてる辺り、遠くても関係なさそうだが。
平静を装いつつもちょっと視線が泳いでる三十路が小動物みたいで可愛いとか思われてそうだけど気付かない方が幸せだよね!
うふふと笑ったリリィは、テーブルの上に華やかなアフタヌーンティセットが並んだところで小さく会釈をした。
「今日はありがとう。ここのお茶もお菓子も美味しいから、どうぞ召し上がって」
主旨で言えば一風変わっているのだが、至ってノーマルなお茶会の始まりである。
とはいえ、一人の女性の周囲に毛色の違う幾人もの男性。ゆったりとしたソファ席で硝子の上品なテーブルを囲む光景は、なんとなく……。
(ホストクラブみたい、かな……)
並んでいるものはお茶とお菓子ではあるが。城 紅月がそう思うのも、自身がホストクラブでバイトをしているゆえだろう。
そしてそれゆえに、どこか似たような雰囲気を目の前に、少しだけほっとしたように微笑んだ。
パートナーであるレオン・ラーセレナが何だかとてもとても楽しげに見えるのは、最早疑いようのない現実なのだが、それは一先ずそれとして、今は、これである。
……が、レオンの綺麗な微笑からどうしても視線が逸らせない。前から綺麗だとは思っていたけれど、今日は特にで。もっと、見つめて欲しいとも思う。
ほんのりと見惚れていた紅月だが、かちゃ、と陶器のカップが小さな音を立てたのに気が付いて、はっとしたように、リリィの傍らへおしぼりを持って傅いた。
「良ければ、どうぞ」
「まぁ。お気遣いありがとう」
嬉しそうに微笑んだリリィを挟んだ反対側に、レオンも腰を下ろす。
「お隣、宜しいかな」
「光栄よ。……あら」
ちろ、とレオンを見たリリィは、微笑みと視線を合わせて、緩やかに口角を上げる。その顔は、一目で彼が『同類』と悟れた印。
だが、それを表には出さず、コホン、と少しの誤魔化しを含んで尋ねた。
「二人はパートナーでしょう? 私が間に居て、いいのかしら」
「今日は、貴方に尽くす日だから」
どうぞこのまま、とホストスマイルを向ける紅月に、それなら、と笑みを返したリリィへ、さりげなく質問を向ける。
「逃げたペットって、どんな子だったの?」
興味本位を眼差しに乗せて、小首を傾げる姿は無垢そのものに。
女は特に怪訝な顔をするでもなく、長い睫毛を緩やかに伏せて、肩を竦める。
「愛らしい子よ。それ以上でも、それ以下でもないわ」
「そんな子を失くしてしまっては、さぞ寂しい事でしょうに」
「そうね。だからこうして慰めを求めているのよ?」
絶妙なタイミングで紅月が差し出したシュガーポットから砂糖を一つ取り出して、そっと彼の口元へ。
「甘い味のするお喋りは、これでも好きなのよ」
ね、と。微笑むリリィの瞳は、食んで御覧なさいと言葉にせずに告げてくる。
唇に柔らかく押し当てられた砂糖とリリィを見比べて、困ったようにレオンへ視線を向ける紅月だが、しれっとした顔で紅茶を啜っている彼は、我関せずの体。
助けてくれないの、と不安げに眉を寄せる紅月だが、これも仕事と腹を括って、砂糖を口に含んだ。
仄かな甘みを口の中で転がしていると、くすくす、レオンのささやかな笑みが聞こえてくる。
「甘いですか、紅月?」
「ん、うん……」
ころころ。砂糖を転がす。何だか不思議な雰囲気は、本当にホストクラブみたいに思えて、バイトで慣れているはずなのに、少し居心地が悪い。
「リリィさんがお美しいから、緊張しているんでしょうかね、紅月は」
「あら、困った坊やね。貴方にばかり視線が向いていることに、気が付いてないなんて言わないでしょう?」
くすくす。くすくす。
何がと言わないが同類同士の他愛もない会話は、零す笑みにも何だか艶があって、それだけで耳に毒で。
視線についてのささやかな言及に、つぃと紅月が逸らしたところで、リリィは小さく微笑んだ。
「仲睦まじい事ね」
微笑ましげな呟きが聞こえて、レオンは小声で返す。
「そう、見えますか?」
「ええ、とても。私の様な毒の袂に連れてきて良いのかと、思うほどにね」
動揺しきりの紅月を見てから、『毒』を自称したリリィは問うようにレオンを伺った。
けろりとした顔で見つめ返し、ソファに深く腰を掛け直して、黒い部分の覗く微笑を模った。
「私のSな部分を紅月に味わわせたいんですよ。えぇ。可愛い子はちょうきょ……」
「あら、いけないわ坊や」
ぴたり。レオンの唇に触れる直前の位置で、リリィの指先が止まる。
挑発的な表情のレオンに負けず、蠱惑的に微笑んだ女は、くすり、吐息で笑みをこぼす。
「嗜みよ。主たる者、品は備えて然るべき、でしょう?」
咎めるでもなく、窘めるように嫣然と笑ったリリィは、レオンの唇を掠めた指先で、紅月の顎を掬う。
「ほら、坊や。いつまでも膝をついていては勿体無いわ? 彼のお隣に掛けていらっしゃい」
リリィの視線と指で促され、ふ、と微笑むレオンの誘うような眼差しにそろりと隣へ掛ければ、やれやれと嘆息したように肩を竦めたレオンが、不意に耳元に唇を寄せた。
「困った『坊や』ですね、紅月」
今日はお持て成しの日でしょう? 囁く声は、甘く、甘く。砂糖のように。
「っ!」
ふわりと蕩けるような声が、耳朶から脳裡へ、滑り込んで――。
「ぅにゃあ~~ん」
甘い雰囲気をぶち壊す突然の猫。
「あら。失礼」
ひょいと抱き上げたリリィは、膝の上で猫を撫でる。
どこから湧いた猫だろう。リリィに懐いている辺り、彼女のリアルペットなのかもしれないが、そこはリリィである。通りすがりの猫を飼い慣らしたとておかしくはない!
すっかり毒気を抜かれたレオンが肩を竦め、茹蛸のようになっている紅月と共に席を開ければ、猫はそそそと退散した。
「猫……」
少し、名残惜しげに揺れる尻尾を見送ったのは、セラフィム。
その視線と声を見止めて、リリィはちらり、隣に掛けているタイガを見つつ、身を乗り出して尋ねた。
「動物が、好きなのかしら」
「それなりに、だと思いますが」
「赤の似合う愛らしい子は、いつもそれを?」
「似合……ありがと、ございます。これは今日だけの、ペットらしさ補給、かな……?」
興味津々の目を、セラフィムはさらりと受け流し、タイガはぎこちなく逃れて。ふぅん、と二人を見比べたリリィは、少し近い位置へと掛け直した。
「テイルスの子を、こんな風にじっくりと眺める機会は、少ないのよね……」
大きな瞳が、まじまじと見つめてくる。その眼が、触れても? と尋ねているように、思えて。
「普段セラとこんな事するわけじゃねぇけど……毛並みは、本物だし……な、撫でてみても……」
「良いのかしら」
「タイガが良いならどうぞ」
敢えて、セラフィムに尋ねたけれど。返る台詞は淡々としていて。思わず笑ったリリィは、素直な興味に従って手を伸ばし、ふわふわ、撫でた。
しかも、耳ばっかり。
しつこいくらい、耳ばっかり。
「……あのー?」
「なぁに?」
「そこばっかで、楽しいか?」
「ええ、とっても」
ふにふに。
ふにふにふに。
ふにふにふにふに。
「ちょ、流石にくすぐったいから!」
「あら、もうちょっと」
ぐいぐいくるリリィとタイガがじゃれているのを、横目でちらり、盗み見て。セラフィムは紅茶を無表情で啜ってから、ふと、思い出したように尋ねた。
「仮に、ペットと言いますが……辛くて逃げだしたんですか?」
ぴたり。質問に、リリィのふにふに攻撃が止まる。
その間にそそくさと離れようとしたタイガの尻尾がやんわりとホールドされている辺り抜け目は無い。
「興味あって。貴方は魅力的ですし……」
「綺麗な坊やにそう言われると、素直に嬉しいわ」
微笑むリリィの笑顔の下に、思う所があるのではと。そう、思うから。
「『慰める』依頼ですし、聞きますよ。ペットの自慢でも……後悔でも」
乏しいながらも真摯を湛えたセラフィムの顔に、リリィは微笑にほんの少し、艶を乗せて見つめ返す。
「聞いて、坊やはどう『慰めて』くれるのかしら?」
「聞くだけです。変な期待しないで」
「ふふっ。まぁ、残念」
くす、と笑うリリィは、口ぶりに反して残念そうには見えず。仄めかすような台詞に、薄く頬を上気させたセラフィムの反応を楽しむようにも見える。
じとーっ、と、タイガはそんな二人のやり取りを、見て。
尻尾をふるふると振って存在を主張させると、少しむっとした顔で、間に割り込んだ。
「セラは良いだろ! ……オレが居るんだし」
驚いたような、まぁるい瞳。思わずタイガを見つめたリリィは、その後ろでセラフィムが少し悲しげな顔をしたのを見つけて、くすりと微笑む。
「可愛いわね。やきもち妬きさん」
ぱ、と。ホールドしていた尻尾を手放して、代わりにマカロンを一つ摘まんで口元へ。
隠し切れない唇は、楽しげに弧を描いていた。
「虎の子は、綺麗な坊やに撫でて貰う方がお好きなんじゃないかしら」
ぱちくり。ぱちくり。
お互いに顔を見合わせるのを確かめてから、追撃。
「主は、どちらなのかしら」
「……主?」
思考への促しに、タイガは思わず、思案する。
(美人は、嫌いじゃないけど……主人ならセラが良いな……むしろ逆だったら……って!)
ついでにセラフィムの思考も捗る。
(廃病院でそう言う話はしたけど……タイガを苛めたいなんて思えないし……どちらかというと、僕の方が……いや、待とう、なんか違う)
お互いほぼ同時に自分の思考を押しやるように頭を振るのを、それはそれは楽しそうに見つめるリリィであった。
●盛り上がってまいりました
「初めまして、リリィさん」
ちょこん、と丁寧に礼をした直香は、にこりとリリィを見上げた。
「素敵なお姉さまとの語らい、僕などで宜しければ」
「あら。礼儀正しい子ね」
普段はもっとはっちゃけている気もするが、今日はちゃんと大人しい直香。ふかふかしたソファを勧められ腰を下ろせば、ちらり、傍らのゼクを振り返る。
「ゼクはお茶会で優雅に談話とかできそうにないし、そこに立ってたら?」
頭痛が痛い状態のゼクの心中はお察しいただけるだろうか。
二人のやり取りを見たリリィが少し楽しげに表情を変えるのを直香が横目で盗み見ている辺り、彼女へのサービスのつもりなのだろう。
ゼクが反論する余地を見いだせずにいると、直香は思いついたように、ああ、と呟く。
「その図体じゃ邪魔か……仕方ない。リリィさんに相席の許可を頂かないと」
つぃと流された視線は、悪戯気に微笑んでいる。
「僕には跪いた事もあるんだから、お願いしますぐらい言えるでしょ」
(跪いたのは契約の時だけだ……!)
声を大にして主張したかったが、これも仕事と己に言い聞かせ、渋々ながら跪こうと、したところで。
「わっ!?」
唐突な声に顔を上げれば、満面笑顔のリリィが直香をひょいと抱きすくめているのが、目に留まった。
「随分と楽しい事をしてくれる坊やね。精悍な男に傅かれるのも悪くないけど……坊やみたいな子に甘えられるのも、好きなのよ?」
あれ、おかしいぞ、プライド高そうなお姉さんだから生意気な子供に翻弄されたり辟易させたりするはずの予定がっ!
とは思いつつ、顔に露骨に出さないのが直香である。
びっくりしたー、と笑いつつ、抱きすくめられた状態でちろりと上目遣いで見上げてみる。
「ところで……リリィさんは、ペットに戻ってきてほしいって、思ってるの?」
ぱちりと合った視線は、ほんの少し丸くなったが、すぐに艶美に微笑まれる。
「そうね、愛らしい子がずぅっと傍に居てくれるなら、寂しくなんてないとも、思うけれど」
愛らしい子、の部分が思い切り強調されて、熱視線が送られた気がするけれど子供だから判んなーい(はーと)の素振りで乗り切る事にした。
徐々に密着度が上がってる気がするのも気づかない事にした。
「思い入れ、とか、ないのかな」
くろうと(何のかは察して)の彼女の事だ。ペット候補なんて次から次へと、それこそ掃いて捨てるくらい居るのではないか。
そんな中で、わざわざ「逃げられたから慰めて欲しい」なんて引き合いに出すような存在に、何もないわけがないのでは、と、直香はさりげなく探りを入れる。
「さぁ、どうかしら。どうしても聞きたいなら、そうね……あっちの席でじっくり、聞く?」
緩やかに細められる瞳には、獲物を狩る肉食動物の気配が全力で現れていて。
これあかんやつや(確信)となった所で、直香は、ひょーい、と己の体が持ち上げられたのに、気が付いた。
「ぜ、ゼク?」
すっかり置いてけぼりを喰らっていたゼクが、リリィから引き剥がした直香を少し離れたソファに降ろすのを、それはもう楽しげにリリィが見つめていた。
「そう。そうよ、坊や。良く出来ました」
その『坊や』の対象は、ゼクで。
直香は、二人の顔を交互に見た。
「主の窮地をきちんと救えるなら、他人に対して傅く必要なんて無いわ。私のペットは躾も出来た子だけれど……そう言うことよ、愛らしい坊や」
これが大人の余裕という奴か。それとも数多の男を手玉に取ってきた手腕だと言うあれか。
程よく冷めたミルクティーを目の前に置きつつ、直香はちびりとカップに口を付けた。
「助けて、貰ったことが?」
「心の慰めはいつだって必要なのよ」
温くなったカップなのに、舌に触れたミルクティーが何だか熱く感じたのは、きっとふんわりと微笑むリリィの顔が、乙女じみて見えたから。
「リリィさんのペットは従順だったのかもしれないけど、それだけじゃつまらない、と僕は思う」
逃げ出したのは、ささやかな反抗で。
少しじゃれつくくらいの元気が、裏に出ただけだと。
「それが寂しいって思うなら、しっかり躾け直せば、いいんじゃないかな」
「検討するわ」
そしてそんなリリィを、きらっきらの瞳で見つめる、アイオライト。
「リリィさんみたいな悪女になるにはどうすればいいの?」
無垢な瞳でさらっと言った。
しかし、リリィが怒る様子はない。きょとんとした顔をした後、ふふ、と笑う。
「お嬢さんの、悪女の定義を聞きたいところだけれど」
「……ん? リリィさんは悪女だって、さっきパパが言ってたよ?」
~ほんの数分前の回想~
『良いですかアイ。幾ら綺麗でも、ああいう悪女にはなってはいけないんですよ』
『ふーん?』
~ほんの数秒の回想終わり~
「って!」
ぶっはぁっ!
にこにこ笑顔のアイオライトの超直球な台詞に、遠くで紅茶を飲んでいた白露が盛大に吹き出した。
あたふたとおしぼりを広げながら、ぎこちなく彼女らの方を見やれば。
こっち、いらっしゃい。
目が、訴えている気がした。
むしろ「ちょっと面貸せよ」的な裏に連れて行かれそうな威圧感を感じるのは気のせいだと思いたい。
だってアイオライトと楽しくきゃっきゃと女子トークしながらなのにそんなオーラ迸らせるとかありえないでしょう!(白露、心の声)
「それでね、それでね、おっぱいどーん! ウェストぎゅっ! の、男を振り回す……」
「アイ……その辺にしておきなさい」
それ以上の告げ口はやめてくれと言わんばかりに窘めに入るが、威圧感のせいで若干ぷるぷるしている白露。
「悪女、だそうで」
「いや、その、他意はないんです……」
「ええ、素直な感想よね?」
光栄よ。にっこりと告げるリリィは、白露に隣を促した。
もとい、白露を隣に座らせた。
「お嬢さんのパパは、素敵な方ね」
「でしょー」
誇らしげなアイオライトに助け舟は求めようが無かった。
しかしこの無垢が傍に居てくれればきっと大丈夫。
「お話してくれたお礼に、ちょっとだけパパを貸したげるね。あたしはあっちでお菓子食べてくるから」
アイオライトの何気ない裏切り!
白露の精神に強烈なダメージ!!
「けど絶対に返してね、パパはあたしの大事なパパだもん!」
「ありがとう、お嬢さん」
アイ、私と彼女を二人きりにするのはやめて下さい私こういうタイプの女性は苦手というかむしろ怖いというかしかも悪女とか言っちゃった後でとか私に何か怨みでもそもそも私に内緒でこういう妙な頼みを引受けと来るのはやめなさいと何度も……!
言いたい事は色々あったけどすたこらとお菓子に走ってしまったアイオライトに切ない手を伸ばしただけで終わってしまった。
その手に、そっと手を重ねて指を絡めるリリィ。
「折角、貸して頂いたのだから、ゆっくりお話ししましょうか」
「……えっと……や、優しくしてください……」
うなぁあぁん。
白露最大のピンチを、猫が呑気に眺めて居た。
「ウィンクルムの皆さん、今日はありがとう」
なんだかんだで、気が付けばすっかりそれぞれのパートナーとお茶を楽しむ会になっていたけれど、リリィは至極満足気だった。
「貴方達の絆を羨んでみたけれど、やっぱり我慢は性に合わないみたい」
きらり。むしろぎらり。肉食動物の眼差し、再び。ごろごろしていた猫が急にぴしりと姿勢を正す。
「教え込んで差し上げる事にしたわ。貴方達の主が一体、誰なのか」
良いご報告を聞かせられればいいけれど。そう言って、リリィは最後に、少女のように笑った。
一人の主とその『ペット』が、その後円満によりを戻したらしい事を、ウィンクルム達は「ご主人様ぁ」と涙ながらに語る職員の口から聞いたのであった。
依頼結果:成功
MVP:
エピソード情報 |
|
---|---|
マスター | 錘里 |
エピソードの種類 | ハピネスエピソード |
男性用or女性用 | 男性のみ |
エピソードジャンル | コメディ |
エピソードタイプ | ショート |
エピソードモード | ノーマル |
シンパシー | 使用不可 |
難易度 | とても簡単 |
参加費 | 1,000ハートコイン |
参加人数 | 4 / 2 ~ 5 |
報酬 | なし |
リリース日 | 08月20日 |
出発日 | 08月27日 00:00 |
予定納品日 | 09月06日 |
参加者
- 柊崎 直香(ゼク=ファル)
- セラフィム・ロイス(火山 タイガ)
- アイオライト・セプテンバー(白露)
- 城 紅月(レオン・ラーセレナ)
会議室
-
2014/08/26-23:18
あ、遊んでたのばれちゃった(汗) ←するな
城さん、うん、たのしいよ♪
どうなるか、あたしも楽しみー♪ -
2014/08/26-23:09
仮プラン送ったよー。
レオンがイキイキとしてて、ヤバい(ガクガク
どうなるんだろう。うん、さっぱりわからない\(T▽T)/
>あおちゃん
俺もスタンプ欲しくなってきた~。
絵は楽しいよねv -
2014/08/26-23:00
-
2014/08/26-20:26
もう残り時間も少ないな。皆すすんでるか?
こちらは逃げたリリィさんのペットの話を聞いて
タイガはペット代わり(首輪つき)のつもり
逃げたペットが人かどうかは追及しないが、察してる感じかな。(自分からはいわない)
そちらは皆にまかす
・・・SMの話を広げたり傅いたりもできるようだし(?)
ペット談義にいくのもまた幅場がでていいかw
まあ、頑張っていこう -
2014/08/26-19:30
プラン出したよー。細部はこれからも修整するかもしれないけど。
基本ペットのおはなしするだけだよ♪
>城さん
ありがとーう♪
潜入段ボール箱のアヒル隊長気付いてくれて嬉しいなっ。 -
2014/08/25-23:02
こんばんは。城紅月だよ。
俺は……うーん、「リリィさん」だと…思う。たぶん、そう呼ぶんじゃないかな。
セラフィムさん、こんばんは。覚えていてくれてありがとう^^
ほぼ同じようなタイミングであおちゃんも参加してたね。今度もよろしく。
柊崎さんははじめましてかな。
うちも依頼を取ってきたのはレオンなんだけど。
妙に楽しげなのは気のせいかな。気のせいだよね。
で、ペットって、何?
俺の家はペットいないけど。
でも、亀は可愛いよね♪←
どうやって慰めようかな。うん、さっぱりわからない\(^^)/
あおちゃんところのアヒル隊長さんは可愛いと思う♪
写真とかスタンプとか潜入段ボール箱とか← -
2014/08/25-19:18
どうも。セラフィムだ。僕は「貴方(あなた)」呼びかな
参加者集うか心配だったけど取り越し苦労だったようだね
紅月は「あなたのつくる本の世界」以来だね。他の皆もよろしく頼むよ
僕は請け負ってきたタイガに任せてお茶を楽しんでるとするよ
テイルスだからぴったりだし(意味深)
まあ、話ぐらいは聞かないとね
と、こちらは・・・個室じゃなくて皆で慰めるタイプかな? -
2014/08/25-12:26
おじゃましまーす。アイオライト・セプテンバーだよっ♪
いまんとこ「初めまして」はいないよね。
あたしも呼ぶなら、リリィさんかなあ。
悪女(←最近のマイブーム)になる方法おしえてもらうのーー♪
ペット?
精霊さんがペット?
あ、着ぐるみな精霊さんかなあ。それとも、テイルスさんかなあ。
うちはペットいないけど、アヒル隊長さんがいるよっ♪ -
2014/08/24-19:49
リリィ様、女王様、ご主人様……うーん、僕はリリィさん呼びだな。うん。
ごきげんよう、本日はお日柄もよく。
クキザキ・タダカくんですよ。よろしくよろしく。
綺麗なお姉さまとのお茶会と聞いて穢れなき気持ちでやってきました。
精霊が訝しんでるけれどそんな些細なことは捨て置くよ。
こっちには書いてないけど、こーやGMのエピソードと対なら
リリィさんは神人で、逃げられたペットくんは精霊。
の、ウィンクルムってことでいいのかにゃー。
あえて書いてない気もするので、普通に動物話持ち込んでもいいけど。