プロローグ
紅月ノ神社に、ズラリと並ぶ縁日の屋台。
ふと、その中の一つの店が目にとまった。看板には「妖ヨー釣り」とある。
「さあさあ。狐の術のかかった妖ヨーだよ」
ねじりハチマキをした青年妖狐が、手際良く定番の水ヨーヨーを作っていく。それらを水に浮かべる前に、妖狐はそれぞれのヨーヨーに不思議な身振りで術をかけた。
「コイツは狐火妖ヨーだ。弾ませるたびに、青い陰火がボッと吹く!」
妖ヨーなるものの紹介がはじまった。妖ヨーから出る青い火は熱い本物の炎と違い、何かを燃やしたり火傷をするようなことはないようだ。
「風雅にいくなら、花散妖ヨー。パシャリとつくたび、どこからともなく花が散る」
青年妖狐の実演では、最初はパッと菊の花弁が舞い、次は青バラ。最後にひときわ大きく妖ヨーをつくと、季節外れの桜の花吹雪が起きた。この花は持ち主の好みによって、出るものをある程度変えられるようだ。
「派手なのが好きなら、雷光妖ヨーで決まりだね。バチバチ電気が体を伝う!」
こちらも狐火同様に幻術なのだろう。ものを壊したり人体に悪影響のあるものではなさそうだ。
「金銀財宝に埋もれたきゃ、玉石妖ヨーがその夢叶えてしんぜましょう」
シャランと小気味の良い音を立て、金の粒やら宝石の欠片がわんさと出てくること出てくること。しかし地面をどれだけ探しても、幻術なので跡形もない。
「飴玉、クッキー、チョコレート。お菓子の出てくる甘味妖ヨー。虫歯もダイエットも心配ご無用! なにせ幻だから食べられない」
可愛いお菓子の幻が浮かぶ。もちろん食べることはできないが、ほんのりとかすかに甘い香りが広がった。
狐の妖術がかかった5種類の妖ヨー。
紅月ノ神社でしか手に入らない、ちょっと珍しいオモチャ。
興味を持ったのなら、妖ヨー釣りに挑戦してみるのも一興だろう。
解説
・必須費用
妖ヨー釣り挑戦料:1回150ジェール
エピソードに参加するためには、神人か精霊のどちらかが妖ヨー釣りに参加することになります。300ジェール払って二人で参加することも可能です。
釣りに使用するのは、フックつきの紙こよりです。
上手く釣れなかった場合でも、残念賞で小ぶりの妖ヨーをもらえます。
・妖ヨーの種類
狐火妖ヨー
花散妖ヨー
雷光妖ヨー
玉石妖ヨー
甘味妖ヨー
狙う妖ヨーは5種類の中から選べます。
この妖ヨーから出てくるものは全て幻です。
お祭りのオモチャですので、ずっと残るものではありません。数日ほどで妖術は消え、通常の水ヨーヨーと同様に時間がたつとしぼんでしまいます。
・釣り判定
これはあくまでも「キャラが妖ヨーを釣ることができたか」の判定で、ハピネスでの「デートは成功したか」による親密度上昇値の判定とは無関係です。
釣りに挑戦するキャラのステータスによって、妖ヨーが上手く釣れるかの判定にボーナスが加わります。
次の中から作戦を選んで、プランにてご指定ください。
A:活発性:反射神経を研ぎ澄まし、妖ヨーを狙う。
B:社交性:店の妖狐と雑談し、妖ヨー釣りのアドバイスやヒントをもらう。
C:知性:水の抵抗やこよりの強度を考慮し、妖ヨーを狙う。
ゲームマスターより
山内ヤトです!
紅月ノ神社でしかゲットできない、不思議な妖ヨー釣りにチャレンジしてみませんか?
釣りに失敗しても、小さめの妖ヨーを残念賞で必ずもらえるので、お気軽に挑戦してみてください。
リザルトノベル
◆アクション・プラン
ミサ・フルール(エミリオ・シュトルツ)
妖ヨー釣り…! 狐の術がかかった妖ヨーだなんて不思議だね、素敵だねっ 釣るのすごく楽しみだよ、ね、エミリオさん! 私甘いものが大好きだから 【甘味妖ヨー】が欲しいな… ありがとう、でも大丈夫 いつもエミリオさんにとってもらってばかりだから今回は自分でチャレンジしてみるよ! 私 妖ヨー釣りって初めてだし、店長さんと雑談したいな(B選択) 妖ヨーを作ったきっかけとかあったら知りたいです 店長さんがアドバイスやヒントをくれたらお礼を言うよ (妖ヨー釣り終了後) ふふ、妖ヨー釣りに夢中になっちゃった あれエミリオさんも妖ヨー釣りやったんだ 上手く釣れた? え、私に渡すものがあるの? なんだろう、ドキドキするよ… ☆使用スキル 会話術 |
信楽・隆良(トウカ・クローネ)
A うわ、いいな! 甘味妖ヨーに目を輝かせ 飛びついたけど 狙う前にちらりトウカを見る トウカなら… 花、好きそうだったし 迷って掬うのは花散妖ヨー 現れるのはひまわり 驚くトウカに しょうがないじゃん あたし花には詳しくないんだから 褒められたらほっとして 気づかれないよう得意げに笑ってみる トウカが好きだと思ったから 口にして …なんか今の言葉ヘンじゃなかったか? 慌てて視線を逸らし 釣れなかったと落ち込む女の子に じゃあ俺がって取ってあげる姿を見かけ なんかああいうの羨ま… ってあたしは何考えてるんだ! 自分で狙った物が取れる方がいいに決まってる!うん! わ!あたしの好きなものばっかりだ! うあ、あ、ありがとなトウカ 不意打ちに顔伏せて |
アマリリス(ヴェルナー)
こういった屋台は初めてなので楽しみですわ うまく釣れるといいのですけれど 花散妖ヨー狙い 作戦B 使える物は使う 初心者ですもの、色々とコツを聞いてみますわ 紙こよりってこんなに頼りないものなのですね 本当に取れるのでしょうか 少し不安になったのでヴェルナーが挑戦している所を見たあとに私も試してみますわ 頑張ってくださいませ お互い一つもとれなかった場合は笑顔で 取れるまでやってくださいとヴェルナーに告げる 2人とも終了したら早速花散妖ヨーを試してみる まぁ、素敵ですね… 頑張った甲斐がありましたわ ヴェルナーも試してみてはいかがです? あら、この花って… 他意がないということはよーく存じております でも…悪い気はいたしませんわ |
紫月 彩夢(紫月 咲姫)
浴衣なんか着ないわよ。咲姫が着ればいいでしょ どうせあたしより似合うんだから 二人で一回ずつ。取れた奴を、交換? …ふーん。じゃああたしは花のやつがほしい 咲姫は?狐火?分かった、頑張ってあげるからさ… 話しかけないで 釣り判定はAで 考えるの苦手だし、集中して一気に狙う 釣れても釣れなくても、けっこう楽しかったから満足 花の散るのも、見てて可愛いし 手の中で妖ヨーを遊ばせながら、お祭を眺めて歩く 何よ。別に遊びに行くのくらい、嫌じゃないわよ うるさいわね、顔にぶつけるわよ …やっぱやめた。咲姫の周りに花が散ってるのなんて、似合いすぎて何か腹立つし 咲姫の笑う顔は、自慢したいくらい綺麗 これが兄じゃなきゃ、なお良いんだけど |
メリッサ・クロフォード(キース・バラクロフ)
作戦:B キースと一緒にお祭りに行けて、とても嬉しく思う。 手をつながれ、はぐれないようにという彼の優しさからなのは十分に分かっているが、それでもドキッとしてしまう。 妖ヨーの屋台を見つけたので行ってみる。 初めて見た妖ヨーに興味深々。 キースに言われ、1回やってみることにした。 花散妖ヨーを狙うことにする。 失敗しないでゲットしたいので、お店の人に可愛らしい笑顔で話しかけ、どうやって作ったのかとか妖ヨーについて聞いてみて、雑談の中で、取るためのアドバイスも受けてみたい。 アドバイスをもとに集中して妖ヨーを釣る。 釣れたら素直に大喜び。 花散妖ヨーを弾ませたらピンクの薔薇やアヤメ、マーガレットが出て目を輝かせる。 |
ハチマキをした青年妖狐が切り盛りする、不思議な妖ヨー釣りの屋台。
紅月ノ神社の一角でお客を待っている。
●誇り高いその花
「こういった屋台は初めてなので楽しみですわ」
品良く微笑む『アマリリス』。こういった庶民的な空気は彼女にとって新鮮だった。
「妖狐にかかればこんな品もできるのですね。なかなか興味深いです」
いたって真面目な感想を述べるのは好青年の『ヴェルナー』だ。
「花散妖ヨーがほしいのですけれど、ちゃんと釣れるか少し不安ですわ」
あまり縁日に慣れていないアマリリスは、他の客の成果を邪魔にならない場所でうかがっていた。妖ヨー釣りに失敗している客の姿もチラホラと見られた。
店主の妖狐にコツを尋ねる。
「こういった遊戯は経験がありませんの。釣り方を教えていただきたいですわ」
「こよりの紙が水に濡れないようにすると良いよ」
基本的だが大事なポイントだ。コツを聞き出した後で、アマリリスはしれっとヴェルナーに順番を譲る。
「先に挑戦なさったら? 頑張ってくださいませ」
ヴェルナーはどの妖ヨーを狙うか迷ったが、アマリリスと同じく花散妖ヨーを釣ると決めた。
「やりましたよ!」
真剣勝負の気迫で挑み、妖ヨーを釣り上げる。
「アマリリス様? いかがしました」
ようやく彼はアマリリスに凝視されていたことに気づく。妖ヨーに集中していた彼は、その視線に驚いたようだ。
「なんでもありませんわ」
「そうですか?」
堅物の彼は、アマリリスの視線に込められた感情を読み取れない。
「次はアマリリス様の番ですね」
爽やかな笑顔で神人を応援する。
アマリリスは店主から聞いたコツを参考にする。
(こよりを水につけないようにするには、引っ掛ける輪が水上に出ているものを探すのが合理的ですわ)
簡単に取れそうな妖ヨーを見つけ、アマリリスも妖ヨー釣りに成功した。
「初心者でしたが上手くいきましたわね。お互い一つも釣れなければ、取れるまでやる決意をしていましたのに」
さすがアマリリスだ。
お揃いで手に入れた妖ヨーをアマリリスは試しに軽くついてみた。小さく弾ませれば清楚なノバラが、勢いをつければ深紅のバラが現れた。花は一度ふわりと浮かび上がり、それからゆっくり落ちていく。そして雪のように消えた。
「頑張った甲斐がありましたわ」
花散妖ヨーをつくアマリリスの姿をヴェルナーは熱心に見ていた。彼の口から出てきた言葉は。
「面白いものですね、どういった仕組みなんでしょう」
可憐な神人が目の前にいるというのに、彼は妖ヨーの幻術について考えていたらしい。
「ヴェルナーも試してみてはいかがです?」
この朴念仁ぶりにも慣れてきた。アマリリスはほんの少しだけ苦笑して、ヴェルナーを遊戯に誘う。
彼は一定の強さとリズムで妖ヨーをつく。周りに多種多様な花が散っていく。最後に大きめに妖ヨーを弾ませた後、この繊細なオモチャが壊れないよう、手でしっかりと受け止めた。
「あら、この花って……」
最後に大きく舞った花。鮮烈に赤いこの花は。
アマリリスの花。
「なんでしょうね。見覚えはあるのですが」
首を傾げるヴェルナー。
ヴェルナーは騎士としては優秀なのだが、恋愛に関しては超がつくほど鈍感だ。彼がへし折ってきたフラグは数しれない。
(無意識か偶然、でしたのね。ええ、他意がないということはよーく存じております)
無意識か偶然でも、アマリリスの花が出てきたことが嬉しくて。つい表情が緩んでしまう。
その笑顔をヴェルナーは、彼女が妖ヨーに満足したため、と解釈した。
「花散妖ヨー、お気に召したようですね。来てよかったですね、アマリリス様」
明るい笑顔で、ヴェルナーが微笑みかける。
真面目さゆえに、チグハグなやりとりになってしまう。以前はそのことにやきもきしていたが、今はその真っ直ぐさが彼らしい個性に思える。
「ええ。楽しい一時ですわ」
アマリリスはにこやかに頷いた。
●末恐ろしい小さな淑女
ロリータファッションに身を包んだ少女と、面倒見の良い快活なおじさまのペア。『メリッサ・クロフォード』と『キース・バラクロ』は、親子ほどの歳の差がある。
「混んでるな。はぐれないよう、しっかり手を繋いでおこう」
キースの大きな手が、メリッサの小さな手をにぎる。
あくまでも保護者的な優しさからだと頭では理解している。けれども、メリッサの心臓は高鳴った。
メリッサの初恋の相手はキースである。この思いは秘密だ。ドキドキする気持ちをごまかすように、メリッサは祭りの屋台へ意識をむける。妖ヨーの文字を見つけ、興味を引かれた。
「いらっしゃい」
店主の妖狐は客集めのために、妖ヨーの幻術の見本を披露していた。はじめて見た妖ヨーに、メリッサは興味を持つ。
「おじさま! 妖狐の幻術がかかった妖ヨーでしてよ。なんて珍しいのかしら」
顔を輝かせるメリッサを見て、キースは笑顔で頷いた。一回分の料金を店主に支払う。
「試しにやってみろ」
優しく後押しするような抱擁感のある声だった。
「あら、仕方がないですわね。やってさしあげますわ」
ちょっとワガママでツンとしたところも愛らしい。妖ヨー釣りに専念するため、メリッサは持っていた縫いぐるみをキースに預ける。
メリッサが狙うのは花散妖ヨー。釣りの前にまずは情報収集だ。
「この妖ヨーって、とても不思議ですわね。どうやって作っていらっしゃるの?」
純真そうな笑顔でメリッサが店主に話しかける。
「やはり通常のヨーヨーとは、釣り上げるコツも違ってくるのかしら?」
無邪気に雑談する風を装いつつも、メリッサの目的はあくまでもアドバイスを聞き出すことにある!
(いつの間にそんな技法を身につけたんだ。うちの子、末恐ろしい……!)
うちの子とはいうものの、二人の間に血縁関係はない。
「いんや。釣りの難易度は、普通のヨーヨーと変わらんよ。こよりをヒョイと避けるような、ケチな妖術はかけちゃいない」
メリッサは集中して、花散妖ヨーの輪にフックを引っ掛ける。そして慎重に引っ張るが……。
「ああっ!」
妖ヨーの重みでフックが外れてしまった。運のめぐりが悪かったようだ。
「あー、惜しかったな!」
元気づけるように、キースは軽くメリッサの肩に手を置いた。
「失敗したくなかったのに。ガッカリですわね」
「そう気を落とすなよ。お嬢」
メリッサは残念賞の小ぶりな妖ヨーをついてみる。
花火のようにほんの一瞬、小さな花弁がポンと出た。どうやら大きな妖ヨーに比べて、出る花が小ぶりだったり、幻の持続時間が短めのようだ。
儚げなかすみ草。淡いピンクのバラの花弁。純白のマーガレット。紅色のサルスベリの花。
「へえ。色んな花があるもんだな」
感心するキースの言葉に、メリッサは少し機嫌を良くした。ポンポンと花の幻を産み出していく。
「紫の……。ええと、カキツバタか?」
「アヤメですわ。とてもよく似ていますけれど、花弁が微妙に違いますの」
小さな花散妖ヨーだが、それなりに楽しんではいるようだ。次々に現れる花の幻影にメリッサは目を輝かせる。
「おじさま、見てくださいな!」
小さな花散妖ヨーを弾ませるメリッサの周りには、たくさんの花が次々に浮かび上がっては儚く消えていく。
「これはすごいな」
幻の花に囲まれたメリッサの姿はまるで一枚の絵画だった。
祭りに連れてきて良かったと、キースはメリッサを見て思う。両親を亡くし、最近はウィンクルムの任務で忙しいメリッサにとって、この祭りは息抜きになっただろう。
キースは喜ぶメリッサを見ながら、顔をほころばせた。
●精一杯のサプライズ
「狐の術がかかった妖ヨーだなんて不思議だね」
『ミサ・フルール』はパッと顔を輝かせる。
「釣るのすごく楽しみだよ、ね、エミリオさん!」
「妖ヨーか、珍しいね」
『エミリオ・シュトルツ』は妖ヨーを見て、あることを思いついた。このアイディアが実現できれば、きっとステキな思い出になるだろう。だがミサを驚かせるために、今はまだ秘密にしておく。
ミサが一番心惹かれたのは甘味妖ヨーだ。
「お菓子が出るなんて可愛い! これを狙ってみるね」
「ミサはそれが欲しいの? 俺がとってあげる」
エミリオの申し出をミサは穏やかに断った。
「ありがとう、でも大丈夫。いつもエミリオさんにとってもらってばかりだから今回は自分でチャレンジしてみるよ!」
「そうか。頑張って」
ミサは釣りをする前に店主と雑談をかわす。
「妖ヨーって面白いですね。作ったきっかけとかあるんですか?」
「いやぁ。お客さんにアピールするため、ちょいと変わった趣向をこらしてみようって思ってね」
会話の流れでコツなども教えてもらえた。社交的で話術の上手いミサの性格のおかげだろう。
甘味妖ヨーを釣ろうと夢中になっているミサにはないしょで、エミリオは静かに店主に話しかける。
「俺、彼女に誕生日プレゼントを渡そうと思ってるんだ。ピンクのバラのペンダントを」
「おっ! 熱いねー」
「だから花散妖ヨーに、バラの花弁が散った後彼女の首元にこのペンダントが現れるよう、狐の術をかけてもらえないかな?」
「そいつは……、難しい注文だな」
「その分、追加料金がかかっても構わない。アイツの喜ぶ顔が見たいんだ」
エミリオの思いは真剣で誠実だ。
「ううむ。お兄さんの気持ちはわかるし、応援したいのは山々なんだが、こればかりは規則が絡んでなぁ。ご法度だ」
妖ヨーから出るものはあくまでも幻。実物を出すことはできない。そう告知してある。限られた客にだけ実物を出す術をかけることは、縁日組合に申請してある妖ヨー釣りの商売内容から逸脱してしまう。
だが、できる範囲内でサプライズに協力したいと店主も考えているようだ。
「花散妖ヨーの幻は、持ち主の好みに応じて出てくる花をある程度変えられるようにできてる。実物のペンダントは無理だが、バラの花の幻を首飾り風に出すことは不可能じゃあない。で、本物のプレゼントは後でお兄さんが直々に渡しちゃあどうかね?」
「……そうしよう」
最初に思い描いていたものとは違うが、それでもミサは驚いてくれるだろう。何もしないよりはマシだ。
「上手に幻を出すには、具体的なイメージを念じるんだぜ」
「アドバイスどうも」
エミリオはいくらかのチップを店主に渡す。
サプライズのためには、まず花散妖ヨーを釣り上げる必要がある。エミリオは持ち前の反射神経を研ぎ澄まして妖ヨーを狙う。ミサの喜ぶ顔が見たいから。
ちょうど妖ヨー釣りを終えたミサが、エミリオのそばにやってくる。彼女の手には、甘味妖ヨーがぶら下がっていた。カラフルなマカロンの幻影が浮かび上がる。
「あれエミリオさんも妖ヨー釣りやったんだ。上手く釣れた?」
「ああ。それと、ミサに渡したいものがある」
そういってエミリオは花散妖ヨーを差し出した。
「わ。ありが……」
ミサが妖ヨーを受け取る前に、エミリオはヒョイと手を引っ込める。
「もうっ、イジワルだね」
「そう思った?」
エミリオはクスッと笑い、花散妖ヨーを弾ませた。ピンクのバラの花の幻影が、首飾りのように連なってミサの首元に出現した。
「改めて、ミサ誕生日おめでとう」
「……エミリオさん。ありがとう、うれしいよ」
ミサは目をうるませて、エミリオを見上げる。
「俺はミサの幸せを一番に願ってるから」
ミサの額にエミリオの唇が軽く触れる。そのキスの意味は、祝福。
●ある兄妹の事情
「彩夢ちゃん、浴衣着ないの? え、着ないの? 本当に着ないの? お祭りなのに」
「浴衣なんか着ないわよ。咲姫が着ればいいでしょ」
はたから見れば姉妹ゲンカに見えるだろう。『紫月 彩夢』と『紫月 咲姫』は個性的なウィンクルムだ。二人は血縁関係にある。そしてミステリアスな美貌を持つディアボロの咲姫は、れっきとした男性。女装しているのは本人の趣味ではなく家庭の事情だ。
「お揃いで、買ったのに……」
「どうせあたしより似合うんだから」
彩夢はそんな咲姫に複雑な感情を抱いている。女の自分よりも美しい兄。そんな兄がパートナーであること。運命の皮肉を呪いたい。
彩夢のツンとした態度にもめげす、咲姫は妹のことを大切に思っている。彼の抱える感情もまた複雑だ。
「ねぇねぇ、残念賞の小さいのでも良いから、貰った妖ヨー交換しよう?」
「……ふーん。じゃああたしは花のやつがほしい」
水に浮かんでいる花散妖ヨーを指差す。
「彩夢ちゃんはお花の? ふふ、可愛い。彩夢ちゃんに似合うと思う」
「……別に」
ふい、と彩夢はそっぽをむく。咲姫のことが憎いわけではないのだが、時々その存在にコンプレックスを刺激される。
「咲姫は? どれにするのよ」
「私ね、狐火のがいい」
「狐火? 分かった、頑張ってあげるからさ」
こよりを受け取り、二人は妖ヨーを狙う。咲姫は楽しげに話しかける。
「ありがとう、彩夢ちゃん。妖狐さん見てたら、なんか欲しくなっちゃって。それでね」
「話しかけないで」
「え、あ、ごめん、頑張って……」
あからさまにしょんぼりとする咲姫。
彩夢は妖ヨー釣りに集中したい。運動神経を駆使して狐火妖ヨーを狙う。
咲姫は頭を使って、釣りやすい妖ヨーはどれか見極めようとした。
「釣れたわよ」
首尾良く妖ヨーを手に入れた彩夢。
「うう……。ごめんね、彩夢ちゃん。大きいの取ってあげたかったんだけど」
咲姫の方は、ちょっとした誤算で釣りに失敗してしまった。運が悪かったのだろう。
「へえ。咲姫でも失敗することってあるのね」
それは彩夢にとっては少しばかり意外な事実。彩夢は、咲姫は何でもできるものだと思っていた。万能だと思っていた咲姫のささやかな失敗は、彩夢の反発心を弱める。
「ほら。狐火妖ヨー」
「はい。交換。ちょっと小さいけど……」
申し訳なさそうに咲姫が差し出すのは、残念賞の小ぶりな花散妖ヨーだ。
「ありがとう」
彩夢はそれを快く受け取った。
彩夢の手の中で幻影の花弁がいくども舞う。妖ヨーを弾ませながら、二人はぶらりと紅月ノ神社の縁日を眺めて回る。
「ふふ、楽しかったねー」
狐火を自在に操りながら咲姫は微笑む。青い炎をまるでペットのように飼い慣らしている。狐火を操る手をとめて、咲姫は彩夢の横顔を見ながら話しかける。
「それに彩夢ちゃんとこうして遊びに行けるのも、嬉しいし」
「何よ。別に遊びに行くのくらい、嫌じゃないわよ」
半歩だけ、咲姫の歩みが遅れた。
「……嫌じゃ、無い?」
それから彩夢に駆け寄り。
「本当? 本当に?」
「あたしがそんなウソつく意味なんてあるわけ?」
「えへへ、嬉しいなぁー」
そういった咲姫の顔は、今日一番の笑顔。
「うるさいわね、顔にぶつけるわよ」
と、花散妖ヨーを軽く振りかぶる素振りをした。だが実際にぶつけはしない。
「やっぱやめた」
もし花散妖ヨーをぶつければ、咲姫の周りに花が舞い散ることだろう。そんな光景はあまりに咲姫に似合いすぎて、想像してみただけで彩夢は腹が立った。
「駄目じゃないなら、また遊びに行こう? ね、約束、約束!」
「はいはい。約束、ね」
歓喜する咲姫を軽くあしらい、彩夢はわざと歩調を早めた。
(咲姫の笑う顔は、自慢したいくらい綺麗)
悔しいけれどそう思う。
(これが兄じゃなきゃ、なお良いんだけど)
不服そうに、彩夢は左手の紋章に視線を落とす。この運命はどうしたものか。
●二人の好みと思いやり
「うわ、いいな! 面白そう」
『信楽・隆良』は妖ヨーの屋台を見つけると、目を輝かせて飛びついた。
気になるのはお菓子が出るという甘味妖ヨーだ。幻影だから食べられないが、お菓子の幻に包まれたのなら、幸福な気分になれること間違いない。
ワクワクしながら代金を支払い、紙こよりを店主からもらう。その前に、ちらりとパートナーの『トウカ・クローネ』を見上げる。
(あたしが好きなのはお菓子だけど。トウカなら……)
彼は花の方を好むだろう。
隆良は甘味妖ヨーと花散妖ヨーを見比べた。結局迷った末に花散妖ヨーに狙いを定める。自分の好みではなく、トウカのことを思って。
そんな隆良の真剣な横顔をトウカは静かに見つめる。
「取れた!」
成功を素直に喜ぶ。
「よかったですね」
声をかけたトウカは、隆良が手にしているものが甘味妖ヨーではなく花散妖ヨーであることに気づく。隆良の好みから、きっと彼女が選ぶのは甘味妖ヨーではないかと思っていたのだが。不思議に思ったが、彼の表情には現れない。
「見てて!」
隆良は花散妖ヨーを大きくついてみせた。ポンと勢い良く空中に咲いたのは、大輪のヒマワリ。
トウカはただ無言で瞬く。
花の幻影が地面にゆっくりと落ちて消えた後、隆良が口を開いた。
「しょうがないじゃん。あたし花には詳しくないんだから」
「あ、いえ。とてもきれいです」
トウカは淡々と正直に思ったことを話した。
「でもタカラは違うものを選ぶと思っていたので」
だから意外で驚いたのだと伝える。
「うん! トウカが好きだと思ったから」
そういった後で、なんとなく自分が口にした言葉のニュアンスが引っかかる。
「……なんか今の言葉ヘンじゃなかったか? あ、あんまり気にすんな!」
正確な表現なら、トウカが花散妖ヨーを好きだと思ったから。言葉を省略したせいで、別の意味合いにもとれる発言になってしまった。
気まずいのか、隆良はごまかすように慌てて視線をそらす。
トウカはヒマワリの幻影を思い出していた。ヒマワリの花は、明るく元気な隆良らしい。けれど隆良は太陽のようでもある。その太陽を追うヒマワリなのは、自分の方かもしれない、と。
隆良は何気なく妖ヨー釣りの客を眺めていた。上手く釣れなかった女の子の代わりに、少年が挑戦しているところだった。
(なんかああいうの羨ま……)
と、そこまで思いかけたところで、隆良はブンブンと首を振る。
(ってあたしは何考えてるんだ! 自分で狙った物が取れる方がいいに決まってる! うん!)
自分にそういい聞かせる。隆良はねだるようなことは何もいわなかった。
が、トウカは隆良の視線の先にあるものに気づいていた。そこには少女のために甘味妖ヨーを釣り上げる少年がいて。
「……」
少し考えた後、トウカは店主に代金を渡した。
「あれ? トウカ、その妖ヨーどうした? すくったのか?」
トウカは静かに頷く。
いつの間に、と隆良は少し驚いた。
そしてトウカはすくい上げた妖ヨーを隆良の前で弾ませる。出てくる幻は、タルトにキャンディ、チョコレート。
「わ! あたしの好きなものばっかりだ!」
子供のように無邪気に喜んだ後、トウカにお礼の言葉を告げる。
「うあ、あ、ありがとなトウカ」
「はい」
甘味妖ヨーをそっと隆良に差し出して、トウカがいう。
「俺も、タカラが好きだと思ったので」
先ほどの隆良の言葉を真似て。隆良の好みのことをいっているのだが、言葉だけ抜き出せば愛の告白に聞こえる。
隆良は頬が熱くなるのを感じた。
(不意打ちだろ……!)
赤面しているのがトウカにバレないように、顔を伏せる。
「タカラ、大丈夫ですか」
トウカはそんな隆良の様子を心配して、顔を覗きこもうとする。目線を合わせるように。
「大丈夫! お腹すいただけ!」
隆良は元気よく駆け出した。
慌てる隆良の姿をトウカは微笑ましく見守った。太陽のように明るい、彼の神人を。
依頼結果:普通
MVP:
エピソード情報 |
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---|---|
マスター | 山内ヤト |
エピソードの種類 | ハピネスエピソード |
男性用or女性用 | 女性のみ |
エピソードジャンル | イベント |
エピソードタイプ | ショート |
エピソードモード | ノーマル |
シンパシー | 使用不可 |
難易度 | 普通 |
参加費 | 1,000ハートコイン |
参加人数 | 5 / 2 ~ 5 |
報酬 | なし |
リリース日 | 08月12日 |
出発日 | 08月19日 00:00 |
予定納品日 | 08月29日 |
参加者
- ミサ・フルール(エミリオ・シュトルツ)
- 信楽・隆良(トウカ・クローネ)
- アマリリス(ヴェルナー)
- 紫月 彩夢(紫月 咲姫)
- メリッサ・クロフォード(キース・バラクロフ)
会議室
-
2014/08/16-23:57
はじめましてーっ!信楽隆良だよ。
へへ、なんか面白そうなもんがあるっていうから来てみたぜ!
こっちはトウカ。よろしくな。
そーだなっ、お互いばっちり妖ヨー釣りあげて
楽しめたらいいよな! -
2014/08/16-21:38
こんばんわ。紫月彩夢というわ。
姉がどうしてもというから、お祭り気分を味わいに来てみたの。
初めましての人ばかりよね。お祭だから、邪魔にはならないと思うけれど…
お互い、楽しめればなにより、かしら -
2014/08/16-00:15
こんばんは、ミサ・フルールです。
ディアボロのエミリオさんと一緒に参加するよ。
妖ヨー釣り、楽しみだね♪
私達は 【甘味妖ヨー】 が気になっているの。
釣れるよう頑張らなくちゃ! -
2014/08/15-23:17
ごきげんよう、アマリリスと申します。
パートナーはヴェルナーですわ。
メリッサさんとはぱん……いえ、くまーの時にご一緒でしたね。
こちらこそよろしくお願いいたします。
こういったものは初めてなので楽しみですわ。
うまく釣れるといいのですけれど。 -
2014/08/15-14:44
こんにちは。メリッサ・クロフォードと申します。
パートナーはキースおじさまですの。
アマリリスさんは、先日の任務でお世話になりました。
今回もよろしくですの。
妖ヨー釣り、とても面白そうで楽しみです♪
どれを狙うか悩みますわ…。