プロローグ
淡い光 白い天井 白衣……白衣?
「あっ!目が覚めました?!」
ボヤける視界を動かすと、白衣を着た若い女性と目が合い声をかけられた。
「お名前は?歳は?……ハイ。大丈夫ですね。何があったか覚えてますか?」
質問に答えるうちに次第にハッキリしてきた頭。
そうか。自分は確か……
「そうですね。大事にはなりませんでしたが、要するに事故で怪我をして今この病院で寝ているわけですね」
脳に問題は無さそうだとシートにチェックを入れながら、看護師と思われる女性がにっこりと続ける。
「検査結果も出てます。どこにも異常はナシ。ただ念のため、今日一日入院していって明日退院となります」
説明を受けながら、きょろり、と周りを見渡しているとその意味を察したのか誤解したのか
ああ!と看護師さんが付け足してきた。
「あなたが庇われた精霊さんも無事ですよ。簡単な事情聴取受けて、そろそろこちらに向かわれていると連絡がありました。
それにしても……」
看護師さんの顔がアップになった。
「ダメですよ!契約が完了されたウィンクルムさんは貴重なんですから!
まだ丈夫な精霊さんが庇うならいざ知らず、精霊さんを庇って神人さんが怪我するなんて!」
もっと自分を大事にしてくださいね!
……お叱りを受けてしまった。
そうだ。つい体が動いてしまって……
ハァ、とため息が漏れた。
「でも……今日はなにか、神人さんの厄日ですかね……」
どうやら自分以外にも、似た状況で運び込まれた神人がいるとのとこ。
確かに病室を見れば、閉じられたカーテンの隙間からそれぞれ誰かいる気配がする。
後で挨拶でもしておこうか。
「精霊さんにはお伝えしたんですが、一日とはいえ怪我をされてるかもしれない神人さんを一人にするのはやはり危険ということで。
精霊さんにもここに泊まってもらいますので。
ほらっ。簡素ですがお泊り用ベッドもありますし」
自分の横たわるベッドの下から、がこんっと音を立てて引き出されたのはソファとも言える本当に簡素なモノだった。
「この部屋にはウィンクルムさんと病院スタッフ以外入れないようにしてありますので。
消灯は21時です。夜更かしも止めませんが、くれぐれも安静にされてて下さいね」
一通り話し終えた看護師さんは、何かあればブザーでお呼び下さいと言って部屋を出て行った。
さてまいった。
パートナーが向かっているとか。
心配されているだろうか、叱られるだろうか、……来ない、なんてないだろうか。
そんなことをグルグルし始めた直後、部屋のドアが数度ノックされて開け放たれたのだった。
解説
●病室に精霊が見舞いに訪ねてきたところからのスタート!
・見舞いに行かない、は……お話終わっちゃいますので、ね!
・基本、参加者様方同室となります。
他の方の話に耳を傾けるのもOK。
ナイショ話っぽくしたい場合、ベッド周りのカーテンを閉めてみるとか。
・入院・検査費用は事故ってきた側(アナタは被害者)が受け持ってくれました。
が、精霊さんが泊まり込む分だけ数割負担となりました。
<200Jr>一律消費。
・事故内容を話す場合、お好きに書いて頂いて構いません。
※打ちどころが悪くて気絶⇒搬送⇒特に大きな怪我ナシ、だけ統一。
例:自転車練習中の小学生が後ろから突っ込んできた!精霊、どーん!と押して自分が……。
●手ぶらでウッカリ来ちゃった精霊様へ。
☆院内売店☆
・漫画・冊子 <40Jr>
・小説(各種ジャンル) <50Jr>
・ペットボトルジュース <20Jr>
・ぬいぐるみ(可愛い動物系) <100Jr>
・リンゴ(丸ごとリンゴ) <30Jr>
※ウィンクルムたちの病室のみ、飲食OK。
ゲームマスターより
お世話になっております!初めましてな方は初めまして!
ヘタレっぷりに定評のあるGM、蒼色クレヨンでございますッ。
たまには精霊様に、目一杯心配されたり怒られたりしてもいいんじゃないかなっ☆と
このエピソードをお届けしてみました。
……大事なお子さん入院させてスイマセンでした!!!
リザルトノベル
◆アクション・プラン
スウィン(イルド)
あ、イルド…?(相手の様子に少したじたじ) えっと、イルドは怪我しなかった? バイクの人も大丈夫だったかしら? …そう、よかった (大声を出し始めたので慌てて手でイルドの口を塞ぎ) ちょ、ちょっと!ここ他の人もいるから! …ごめんね。咄嗟に体が動いてたのよ ひらりと避けられたらよかったんだけど、ちょっと失敗したわ 今度からは気を付けるから。ね? (心配されて嬉しく思いつつ、イルドの機嫌を直そうと明るく話す また何かあったら庇うつもりだが、それは言葉にしない) 差し入れありがとね。って、この林檎はあんまりじゃない? こういう時は兎型にしてくれるとか~ (けらけら笑いながら林檎を齧る 礼の言葉はしっかり聞こえ、無言で微笑む) |
信城いつき(レーゲン)
※大型犬がじゃれてレーゲンに不意打ちで飛びかかり、 いつきが間に入り逆にはね飛ばされた あー気絶までしちゃってレーゲン心配してるだろうなぁ ……って言ってたら、ものすごい勢いで入ってきた だ、だから無事!頭部も異常ないって! みんな見てるって、いたたたたっ!みんな助けてーっ! りんご買いにいってもらう間に、みんなにお詫び 心配性なんで……と軽く言ったら、看護婦さんが怒ってる? 俺の顕現直後の怪我の話を聞いた。 ……俺、何 気楽に言ってたんだよ 一度死にかけたのに。今回も似た状況で意識なくしたのに。 レーゲン心配するのあたりまえじゃないか ベッドに正座して帰ってきたら本気で謝ろう 俺元気だから…ごめんね一杯心配かけて |
ヴァレリアーノ・アレンスキー(アレクサンドル)
普段しない事はするものではないな… サイクリング依頼で多少乗れるようになった自転車に練習がてら乗ってたら事故に すぐ退院しようと無理に起き上がったら激痛 思うように動けず苛々 向日葵を見てすぐ目を逸らす 他に入院してる見知った顔に今の姿を見られて複雑な表情 入院した経緯や他の人の会話を聞く 病院食は渋々食べる 果実大福は美味しそうに食べるが我に返り普通に食す サーシャの子供扱いにムっとする 消灯時間後、眠りの狭間で親との楽しい思い出や看病の時のこと、 悲劇を同時に夢で見て跳ね起きる 嫌な汗が止まらず風に当たろうとするが、 握られていた手に何故か安堵したのが悔しい 台詞 普通の同年代に比べたら頑丈な方だ 病院食は口に合わない |
西園寺優純絆(ルーカス・ウェル・ファブレ)
アドリブOK あっルカさまこっちだよ~ ユズはここなのだよ~♪ わぁイルカさんのぬいぐるみ!! ルカさま、おみまいとイルカさんありがとうですの! あと、しんぱいかけちゃってごめんなさいなの…(ショボン) でも、ユズはルカさまを守れて嬉しいの(ニコニコ) だってルカさまは、ユズのパパさんだもんね! ウィンクルムだけど、ユズのパパさんになってくれたもんね! 姉様達をさがすのに、こんなんでへこたれないのだよ! それに、これくらいケガじゃないもん! ……せなかとか、あたま、いたいけど……(小声) あうぅ… ごめんなさいなの…(ショボン) はいですの!! 分かったなのですよ!! 次からは、かれーにちゃくち、しますですの! |
●見舞い
「だ、だから無事!頭部も異常ないって!
みんな見てるって、いたたたたっ!みんな助けてーっ!」
各々が目を覚まし、初対面にはすでに挨拶もすませつつ、おやキミもか?等意外と顔見知りが多く集まったウィンクルム専用病室内。
そろそろパートナーが来る頃だと知ると、それぞれがワクワク、そわそわ、びくびく、と落ち着かなくなっていた丁度そんな時。
1番で飛び込んで来たレーゲンは、長く青い髪も乱れ、肩で息をしながらノックもそこそこにドアを開け放つと、視線の先に見つけた信城いつきを勢いよく抱き締めたのだった。
「あらあら。いつきが羨ましいわぁ。うちのイルドはきっと……」
「違うって!羨ましがるところじゃないってスウィン!!」
いつきの正面のベッドで抱擁を微笑ましく眺めているスウィンは、己のパートナーがどんな顔で入ってくるか、何となく予想出来てすでに目が遠くなっている。
いつきの突っ込みはキレイに耳に入っていないようだ。
「……それが 心配 というやつなのだろう。甘んじて受けたらどうだ」
「ええ!?ヴァレリアーノまで!?」
隣りのベッドから聞こえた声に思わず反応するいつき。
声を発した主、ヴァレリアーノ・アレンスキーはしかし何故か機嫌よろしくない様子。
眉間に皺が入り腕を組み、もういつきを視界から外しては大きな溜息を吐いている。
それはいつきへ、というわけでなく、どうやら己自身へといった風に。
「普段しない事はするもんじゃないな……」
そんな呟きが漏れていた。
「いつきお兄ちゃんいいなー。ユズのパパも、ユズのこと抱き締めてくれるかなぁ……」
「あぁ、ユズキ、だっけ?そ、そうだよな心細いよな。早く来るといいな、……ってそろそろ本当離してくれよレーゲン……!!」
スウィンの隣のベッド、いつきの斜向かいでしょんぼりしながら凝視していた西園寺優純絆の幼い口からそんな言葉が放たれれば、
何となく申し訳なく思いつつも視線が痛い。色々痛い。
故にいつきはレーゲンの背中をばしばしと叩いた。
「……あ!ご、ごめん、いつき……」
いつもならいつきの叫びにすぐに我に返っているはずのレーゲンの、必死な抱擁と呆けたような今の表情に、少し眉をしかめるいつき。
彼の性格からして分からなくもないが、それにしても今日はなんだか……?
「……りんごっ」
「え?」
「りんご!食べたい!!」
レーゲンの思い詰めたともとれる表情に、いつきは敢えて変化球を飛ばした。
そんな大袈裟だよ。気にするな。とでも言うように。
いつきなりの気遣いを受け取ったのか、レーゲンは僅かに微笑みを浮かべると一度病室を出るのだった。
レーゲンと入れ替わりに入ってきたのは、アレクサンドル。
その姿を見た途端、更に眉間の皺を深くするヴァレリアーノ。
そんなヴァレリアーノの顔を愉快そうに一度見つめてから、アレクサンドルはゆっくりとそちらへ歩み寄る。
「全く。折角受け止めようと構えていた我を避けて怪我をしていては、元も子もなかろう」
「……うるさい」
生まれて初めて、少しずつだが乗れるようになった自転車。
練習の為アレクサンドルに見つからないよう一人走らせていたはずが、坂を下りている途中、まさかのその当人が普通に坂下の道を横から出てきて。
それに気を取られている所に、更に手前の脇道から子供が飛び出してきて。
咄嗟に子供を避けたのは良かったが、完全にバランスを失いコントロール不能になり。
そんな状況を見つけたアレクサンドルが広げた手すら避けられ、壁に激突。
完全に己の過失、と自覚しているヴァレリアーノはこれ以上事故のことに触れて欲しくなかった。
「こんな怪我大したことなかったんだ。俺は今すぐ退院す……、っっ」
無理にベッドから降りようと体を捻らせた途端、打ち身の痛みにヴァレリアーノは顔を歪めた。
「すでに入院手続きは完了しているのだよ。
一晩寝て回復するのと、無理矢理動いて今後の任務が来た時まで長引かせるの、どちらが良いかね?」
やんわりと、しかし有無を言わせない圧力でヴァレリアーノの両手を掴みベッドへと押し倒すアレクサンドル。
気高いこの少年の扱い方を心得ているように諭す言葉。
悔しそうに二の句が告げず、そっぽを向くしかないヴァレリアーノに、満足そうに笑みを浮かべその手を解放する。
「……しょうがないから入院はしてやる。……おい、それはなんだ」
ふてくされたように横になったヴァレリアーノの視界に、鮮やかな黄色い花が飛び込んできた。
それは大好きな、大嫌いな、向日葵の花。神々しく咲き誇り村を守ってくれるはずだった。
そう思っていた幼き日の自分が胸に突き刺さるよう蘇る。
守れなかったのは自分なのに。それを突きつけられるようで、ヴァレリアーノは向日葵から目を逸らす。
「そんなもの……俺の視界に飾るな」
「何も無くては殺風景と思ったのだがな。ああ、『花あらし』の果実大福もあるが?」
「……お前、わざとか……?」
「何のことやら」
口角を上げたアレクサンドルに、苛立つ視線を向けながら大福だけむしり取るように受け取った。
「一気に華やかねぇ」
あまり会話は聞き取らないようにしながらも、ヴァレリアーノたちの方へと和んだ視線を向けていたスウィン。
その耳に再びドアの開く音。移した視線に映るは紫の髪。
「あ、ら。イルド……」
はぁい、と手を振りながら己の精霊を迎え入れる。しかしその振り方は弱々しい。
それはイルドの明らかな不機嫌オーラがビシバシと感じ取れたからに他ならなかった。
ずんずんと迫力もって近づいてくるパートナーに恐る恐る先手で声をかける。
「えっと、イルドは怪我しなかった?バイクの人も大丈夫だったかしら?」
「え?スウィンっ、バイクに轢かれたの?!」
先についといつきが反応してきた。
「あー轢かれたワケじゃないのよ。運転誤ったのか、向こうが突っ込んできたのを避けたら失敗しただけで……」
カッコ悪いわねぇ、と後頭部をかくスウィンへ、低音の声がぼそりと響く。
「俺に怪我はない。……バイクの奴も問題ねぇよ。後で向こうも見舞い来るって」
「そう。良かった。逆に申し訳ないことしちゃったわね」
ピクッと、スウィンの言葉にイルドの眉間が動く。スウィンもそれを見逃さなかった。
いや気付かない方がある意味良かったのかもだが。
イルドが、がし!と畳まれたカーテンを掴んだと思うと……
「ええ!?なんでカーテン閉めるの?!みみみんな助け……っ(シャーーーーッ)」
いつきの時とは若干異なった救難信号。しかしてそれはあっという間に覆われたカーテンで即途絶えることとなった。
そして一切が仕切られたその瞬間。
「ちっともよくねー!このバッ……!!!」
「ちょちょちょっと他の病室まで響いちゃうわよ……!」
隣りの優純絆がビクゥ!と怯えるほどの、盛大な怒声と大慌てでその口を塞ぎにかかったと思われるスウィンの声。
ヴァレリアーノといつきは一度目を合わせ、心の中で合掌していたとかいないとか。
院内売店にはいつきにりんごを頼まれたレーゲンの姿。
(やれやれ……我ながらちょっと不自然、だったよね。いつきが気にしてないといいんだけど……)
レーゲンの中で一つの過去がまざまざと蘇った結果である、病室での自分を振り返って深い息を漏らした。
そんな彼の横を、和服姿の男性がぬいぐるみを抱えて通り過ぎる。
「悩んでいるうちに随分時間を取られてしまいましたね……さて、ユズの部屋はどっちでしょう……」
途方にくれた声色で周囲を見渡す少し年配のファータに、レーゲンは「うん?」と首を傾げた。
契約の印を手の甲に見つけると、もしかしてと声を掛ける。
「えぇと、失礼します。もしかして、パートナーの神人さんが入院されてらっしゃる?」
「え?はい、其の通りですが」
眼鏡の奥の瞳を瞬かせ、温和な顔をレーゲンへと向き直らせる。そしてレーゲンの手の甲に気づけば、あぁ、とニッコリ微笑んだ。
「ルーカス・ウェル・ファブレと申します。今日、ここに西園寺優純絆という少年が運び込まれたはずなのですが……」
「レーゲンです。それならひょっとしたら、私の連れと同じ病室かもしれませんね。幼い少年が居た気がします」
「本当ですか?今から病室へ戻られるのならば、ご一緒しても?」
「ええ、勿論です」
穏やかな会話をしながら連れ立って病室へと向かう精霊二人。
「あ!ルカさまこっちだよ~!」
ルーカスが扉を開けた途端、パァッと瞳を輝かせて両手を振る優純絆。
元気そうな姿にホッと安堵の息を吐きながら、レーゲンへと一礼してから足早にベッドへと向かうルーカス。
「ユズ、遅くなりすみませんでしたね……」
悩んでしまいましてね、と苦笑いを浮かべながらルーカスは脇に抱えていたぬいぐるみを差し出す。
「わぁイルカさんのぬいぐるみ!!ルカさま、おみまいとイルカさんありがとうですの!」
大喜びする優純絆を微笑を浮かべ見つめていれば、その目が急にしょんぼりしたのに一気に心配顔を向けるルーカス。
「ユズ?どうしました?どこか痛む……」
「あと、しんぱいもかけちゃってごめんなさいなの……」
素直に紡がれた謝罪の言葉に、一度目を丸くしてからその頭をぽんと一度撫で。
「ちゃんと御免なさいが言えて偉いです」
「……えへへ~」
褒められればまた屈託ない表情に戻る優純絆へ優しく視線を合わせたまま。
(本当に……我が子がいればこんな気分なのでしょうかね。
……それとも、ユズがあまりにイイ子でこんな幸せな気持ちにさせてもらえるのでしょうか)
一家散り散りで残った優純絆。優純絆にとっては悲惨な出来事があった故といえるそれ。
それでも、優純絆を引き取ったこと、契約出来たことを、ひっそりと人知れず心の底で感謝するルーカスがいた。
●見える思い 見えない想い
ルーカスが無事神人と会えたのを見届けてから、さて、といつきのベッド方向へ足を向けた途端、
その視界に飛び込んできたのはベッドの上で正座待機していたいつきの姿だった。
「ど、どうしたのいつき……っ?」
「ごめん。レーゲン、本当ごめん……!」
ベッドの横には、検温しに来たらしい看護師が踵を返すところだった。レーゲンの横を通り抜ける間際、彼の耳に小さな声で告げられた。
この病院は、以前にいつきが生死の境を彷徨う程の大怪我をして運び込まれた所だと。
その時もレーゲンが付きっきりでいつきのそばから離れずにいたことを。
「ごめんなさい。つい言っちゃったのよ……。そうしたらとっても落ち込んじゃって……」
申し訳なさそうにしながら、後はお願いね、とそそくさと逃げていく看護師の背中を見送って。
(あー……知っちゃったか)
記憶喪失であるいつき。無理に戻ってもらうことは望んでいなかったレーゲンにとって、当時のその話はいつきにするつもりの無かった話だったのだ。
「俺……知らなかったことだけど……気楽に考えちゃって……レーゲンが心配するの、当たり前なのに……」
縮こまった子犬のように少し肩を震わせながら、ポソポソと呟くいつき。
「いつき、いつき。顔を上げて?」
そっとベッド脇の床に膝をついていつきの顔を覗き込むようにレーゲンは優しく声をかける。
「謝らなくて良いから……笑って。いつきが笑ってくれれば不安じゃなくなるんだ」
「……そんなことで、いいのか……?」
「そんなことじゃないよ。いつきが笑って、ずっと私の隣にいてくれること、それが今一番嬉しいことなんだ」
(俺より……大事な人が、いるはずなのに……)
ずっと誤解したままのいつきは、それでもそんなレーゲンの胸の内に自分の居場所を確かに感じ取って。
まだ若干不自然だがそれでもいつきらしい、はにかんだ笑みを見せれば、それを見つめるレーゲンの瞳も穏やかに細められるのだった。
「病院食は口に合わない」
「完食しなければ果実大福はお預けなのだよ」
「……」
受け取ったはずの大福を再び奪われ、ヴァレリアーノは渋々出された夕食を完食していた。
ようやく口直しな勢いでありつけた大福を美味しそうに食していたが、緩む顔に気付きハッと表情を戻す。
そんなヴァレリアーノの百面相も面白そうに見ていたアレクサンドルだが、ふと先ほど痛がっていた小さな肩口に手を触れる。
「こんな事で我を心配……否、我が身を危険に晒さないように」
「なんだ突然。同年代に比べたら頑丈な方だ」
「それでも……我たちに比べたら遥かに脆い、であろう」
む、と口を閉じるヴァレリアーノ。その頬についた大福の粉を指ですくって自らの口へと運びながら、アレクサンドルは複雑な笑みを作る。
「脆いのだよ」
(だからまだ己を大事にしたまえ。我はまだ楽しみ足りない)
もう一度確かめるように言葉にして。アレクサンドルは夜の帳で二人を覆うのだった。
「今度から気をつけるから。ねっ?」
「精霊が神人を守るもんだろーが!自覚あんのかっ。お前は大人しく守られてろっ」
夕食時になっても、カーテンに仕切られたスウィンのベッド方向からは未だにお説教が続いていた。
「本当に気をつけるわ。……たぶん」
「……リンゴやらねーぞ」
「ごめんなさいもうしません」
こちらも病院食が口に合わなかったらしく、イルドが持ってきたリンゴを楽しみに無理矢理食した後だった。
スウィンの胡散臭い即答にまだ睨みつけるも、折り畳ナイフを取り出してようやくリンゴを剥き始めたイルドに、
ホーッとあからさまに安心するスウィン。
まだスッキリしないイルドの嫌がらせで、丸々形を残したまま皮だけ剥かれたりんごを差し出されれば。
「差し入れありがとね。って、この林檎はあんまりじゃない?こういう時は兎型にしてくれるとか~」
ケラケラと笑いながらも嬉しそうにそれを頬張るスウィンを見つめ。
カーテンがしっかり閉まっていることを確かめてから、横を向いたままイルドは呟く。
「ありがと、な」
感謝を伝える気は最初からあった。ただそれを他に見られるのが照れくさすぎて、カーテンを利用したのがイルドの心情であったようだ。
そんなイルドの言葉も、気持ちも汲み取って、スウィンはただただ微笑みを向けるのだった。
すでに大変素直な謝罪や感謝を伝え終わっているはずなのに、何故か苦戦を始めているウィンクルムがいたりも。
「姉様達をさがすのに、こんなんでへこたれないのだよ!それに、これくらいケガじゃないもん!」
「何がこれ位怪我じゃ無いですか!ユズが気を失い打ち身打撲ですよ!?コレが車だったらかと思うとゾッとします!」
普段声を荒げないであろうルーカスも、我が子を心配するときは別である。
「でも、ユズはルカさまを守れて嬉しいの!」
「まさか私を庇って下り坂から来た危険運転していた自転車と衝突するなんて……」
片や誇らしげ、片やハァと額に手を置いて困惑顔。
そして向かいのベッドで、少々耳が痛そうに眉を歪めている銀髪の少年もいたり。
「嬉しかったですが心臓に悪いです!ユズは可愛い私の子供なんですから……
ですからウィンクルムでも親が子心配するのが当たり前です。もうしないで下さいね」
「あうぅ……ごめんなさいなの、パパさん」
「はい。今後は無茶をしないように」
やれやれやっと分かってもらえたでしょうか、と胸をなで下ろしたのも束の間だった。
「分かったなのですよ!!次からは、かれーにちゃくち、しますですの!」
それならいいでしょ?☆といった閃いた顔を向けられ、再びがっくりするルーカスの姿。
「違います……そういうわけじゃ……」
まだまだ前途は多難なようである。
●月は見る 絆の光
(眠れない……)
慣れないベッドの上でゴロリゴロリと寝返って。ふと隣りの呼吸音に耳を澄ます。
(レーゲン……もう寝てるかな……)
ちょっとだけ。温もりに触れれば落ち着く気がする。ちょっとだけ。
そうしていつきは、ベッドより一段下にいるハズのソファへと手を伸ばす。
ひたり。
お互いが横を向いて驚いた顔を向ける。二つの手がぶつかった。
無言で互いに握り返す掌から、同じ想いを感じ取って。
月は静かに笑顔を浮かべる二人を照らしていた。
いつきたちのベッドの隣り。今は閉じられたカーテンの奥。
悪夢にうなされているらしいその汗の滲む額から前髪を払い、病院着の下からチラリと見える戦いの傷跡に一度触れ無意識に苦い笑い。
どこまでも真っ白な出で立ちの影を薄く照らす月明かり。
それはひっそりと繋がれた文様同士も映し出す。
がばっと跳ね起きるヴァレリアーノ。
楽しい思い出から一転悪夢に突き落とされる心臓の音に、ぎゅっと胸を掴んで。
夜風にあたりに行こうとしたところで気付く。不思議な温もりに。
触れ合った手から、心臓の音が緩やかになっていくのを感じた。
そんな己が悔しくて、それでもそれを払うことはせずヴァレリアーノは静かに横たわるのだった。
「イルド、まだ起きてる?」
「……ああ」
もう一つの閉じられたカーテンの向こうから、密やかに声が灯る。
(俺が先に寝ちゃ何かあったとき守れねぇだろーが)
イルドは瞳を閉じたままベッド上の気配に集中する。
「ねぇ、何かお話しましょうよ」
「寝ろよおっさん」
「そういえばこの間、一緒にお酒飲んだじゃない?あれ、結構嬉しかったのよね~」
「……聞けよおっさん」
「あんなちっちゃかったコが、立派にお酒飲めるようになっておっさん感激よぉ。
……でもあんなオシャレなお酒まで頼めるようになるなんて……イルド、どこで覚えたの?」
「……いいじゃねーか別に」
「育った軌跡を教えてくれてもいいじゃないっ。ケチね~」
「あのなぁぁぁ」
いい加減文句を言おうと上半身を起こしたイルド。その目には此方を向いたまま寝息を立てているスウィンの寝顔があった。
(……起きてたのか寝言だったのかどっちだおっさん……)
一瞬で寝息の中に身を投じるはめになったイルド。
寝息につられてやってきた睡魔にあくびをし、もう一度しっかり寝ているか隣を見つめ。
そうして、数十分後には二つの寝息が重なった。
……二つの寝息、が、一度一つ減る。
「……こればっかりは、譲れないのよねぇ」
不敵な笑みを浮かべ、紫の髪を静かに梳いてスウィンは呟く。
自分とて守る気満々なのだ。そう、何度でも。
まだどこかあどけなさの残る寝顔を見つめ、おやすみ と隣へ、月へと紡がれた。
「ルカさまぁ……そっちに行っても、いい?」
見慣れない真っ白な天井。イルカのぬいぐるみを抱き締めて、隣に居てくれていると分かっていても寂しさはやっぱり訪れて。
優純絆はころりと向きを変え、ベッド横ソファにいるルーカスへと声をかけた。
「構いませんが……狭いですよ?」
「いいのですの!わ~~~い!」
ベッドから飛び降りるようにやってきた優純絆を受け止めて、その小さな体が収まるようスペースを空ける。
もぞもぞと潜り込むその方向から、小さく小さく囁かれる言葉。
「……もしも姉さまたちが、ユズが病院にいるって知ったら……ユズのこと心配してくれるかなぁ……」
いつも気丈に、前向きに姉たちを探すと力強く言い続ける優純絆。
それでもこんな夜は不安も顔を出してくる。
まだ不安定な幼いその体を抱きしめながら、ルーカスは静かに口を開く。
「ええ。きっと、絶対に飛んできてくれますよ。なんたって優しいユズのお姉さまたちなのですから……」
「……うんっ。ルカさまありがとうなの……」
しばらくすれば、安心したような寝息が響いて。
ルーカスも月へ微笑みかけてから、薄い毛布を二つの体へと掛けるのだった。
全てを見ていた月も、すっかり影を潜めた青空冴え渡る翌朝。
元気に病院玄関を後にする神人たちと、いつでも支えられるように寄り添う精霊の姿があった。
依頼結果:成功
MVP:
名前:信城いつき 呼び名:いつき |
名前:レーゲン 呼び名:レーゲン |
エピソード情報 |
|
---|---|
マスター | 蒼色クレヨン |
エピソードの種類 | ハピネスエピソード |
男性用or女性用 | 男性のみ |
エピソードジャンル | ハートフル |
エピソードタイプ | ショート |
エピソードモード | ノーマル |
シンパシー | 使用不可 |
難易度 | 簡単 |
参加費 | 1,000ハートコイン |
参加人数 | 4 / 2 ~ 4 |
報酬 | なし |
リリース日 | 07月26日 |
出発日 | 08月01日 00:00 |
予定納品日 | 08月11日 |
参加者
- スウィン(イルド)
- 信城いつき(レーゲン)
- ヴァレリアーノ・アレンスキー(アレクサンドル)
- 西園寺優純絆(ルーカス・ウェル・ファブレ)
会議室
-
2014/07/31-22:03
かなりギリギリになってしまって今更ながらとは思うが一応。
挨拶が遅れてすまない。ヴァレリアーノ・アレンスキーだ。
優純絆は初めましてだな。宜しく。
病院の独特な空気はやはり落ち着かないな。
早々に退院出来ればいいんだが。 -
2014/07/29-22:26
こんばんは、信城いつきの相棒のレーゲンです
みんな大変だったね。
うちのいつきは大型犬に飛びつかれて転倒したよ……
過去がらみもあり、我ながらかなり動揺しているので
ちょっと騒がしくしてしまいそう。
同室のみんなに先に謝っておくよ、ごめんね。 -
2014/07/29-20:01
優純絆:
初めましてですの!
ユズは西園寺優純絆(サイオンジユズキ)っていいますの!
しんじんさんなのだよ(ニコニコ)
ルーカス:
横から失礼致します。
お初にお目にかかります。
私はユズのパートナーである、ルーカスと申します
以後お見知り置きを…(ペコ)
ユズは、下り坂からの自転車に追突されましてね…
まさか私を庇うとは思いませんでしたよ(苦笑) -
2014/07/29-19:04
こんちは。 西園寺はお初ね。皆災難だったわねぇ。
事故内容があんま思いつかなくて、今のとこバイクに突っ込まれたってしてるわ。
怒られると思うと気が滅入るわ~…。