マイナス40℃! ひんやり動物園(山内ヤト マスター) 【難易度:普通】

プロローグ

 ひんやりキャンペーン開催中!
 気温なんとマイナス40℃! 極寒の世界を再現!
 寒い地域に暮らす動物たちと触れ合おう!

 タブロス郊外にある動物園の宣伝ポスターには、涼し気なレイアウトでそう記されていた。活き活きとした動物たちの写真も載せられている。
 人工雪の上で悠然と過ごすシロクマ。
 コウテイ。アデリー。ジェンツー。ペンギンの中でも特に寒い地域に暮らす種類だ。
 白くふわふわしたゴマフアザラシの赤ちゃん。名前はマフちゃんという。

 寒い地方の動物たちが夏を快適に過ごせるよう、この動物園では一定ゾーン内をマイナス40℃の超低温の世界にするという企画を打ち出した!

 コールドゾーン用に、動物園内には特別製の建物が建てられた。涼しいをとおりこして寒すぎる屋内ではシロクマ、ペンギン、アザラシなどを鑑賞できる。冷たい水が飛び散らないよう、動物たちと来園者の間は強化アクリル板で仕切られている。
 来園者用の通路も極寒仕様だ。小ぶりの雪像や氷の彫刻などが飾られ、幻想的な雰囲気になっている。ただしものすご~く寒いので、体を温めないとあまり長居はしていられないかも?

 通常ゾーンでは、普段どおりの動物が展示されている他、カフェテリアでの飲食ができる。ひんやりキャンペーン中のため、工夫をこらした冷たいメニューが充実している。
 売れ筋は、シロクマを模したフルーツたっぷりのかき氷。
 北極ソーダは、シロクマの顔のバニラフロートを浮かべた、青く澄んだ色の炭酸飲料だ。
 寒さに凍えた人たちのためのホットドリンクも用意してある。
 カフェの席に座りメニューを注文する形式で、外への持ち出しはできない。

 この動物園では、動物たちと触れ合うこともできる。
 元気なペンギンたちに餌の魚をやるコーナーと、ゴマフアザラシの赤ちゃんとの触れ合いコーナーには、かなりの行列と人だたりができる。この二つの体験コーナーは来園者の間で大変人気のため、参加できるのはどちらか一つまでとなっている。

解説

・必須費用
入園料:1組200jr

・プラン次第のオプション料金
アザラシの赤ちゃん触れ合い体験:1組100jr
ペンギンに餌やり体験:1組100jr
動物体験コーナーは、どちらか片方までの参加です。

シロクマかき氷:1つ40jr
北極ソーダ:1つ30jr
ホットドリンク各種(コーヒー、紅茶、ココア):1つ20jr



・その他
ゴマフアザラシの赤ちゃんは意外と大きいです。赤ちゃんの時期でも、体重は大人の中型犬ほどあります。立ってゴマフアザラシを抱っこするのは重さ的に危険なので、座った状態での抱っこか膝枕をしてあげるような感じになります。
ペンギンの餌やりは、ゴム手袋を貸してもらい、餌の魚が入った小さめのバケツを二人で一つ渡されて、飼育員さんの案内で飼育施設の中に入り餌をあげる、という流れになります。

コールドゾーンといっても、本格的な防寒具などを着て挑むわけではありません。夏の普段着のまま入って、寒さに凍えましょう! そういう趣旨のイベントです。

コールドゾーンで動物を見て、カフェテリアでホットドリンクを飲んで、ペンギンに餌やり、という風に動物園内の複数の場所で遊ぶことも可能です。
複数の行動をとる場合、特に描写を濃くしたいシーンがありましたら、プランにてご指定ください。

ゲームマスターより

山内ヤトです!
夏休みだけのアイスクリームを保管する倉庫内のバイトで、極寒の世界にいた経験があります。
さすがにマイナス40℃はなかったですけどね。
その時の寒さを思い出しながら、ひんやり動物園に訪れたウィンクルムの皆さんのプレイを書かせていただきます!

リザルトノベル

◆アクション・プラン

かのん(天藍)

  まずはコールドゾーン見学に
氷の彫刻等とても綺麗なのですが襟付きのノースリーブシャツは失敗だったでしょうか
かなり冷えますね

隣を歩く天藍が差し出す腕に思わず自分の腕を回して体を寄せる
伝わる温もりにほっと一息
アクリル板の向こう側プールで優雅に泳ぐシロクマ
光があたり輝くような白い毛並みが水に揺れる綺麗な光景に寒さ忘れて足を止める
不意に外された腕に隣を見上げる
包み込まれる暖かさに自然と背中を預け、回された腕に両手を重ねる
心が高鳴るこの気持ちに名前をつけてしまう事に戸惑いはあるのですが、ただそれでも

「こんな風に、天藍と一緒に過ごせるのは嬉しいです」

すっかり冷え切った後はカフェテリアでゆるりと紅茶を頂きます



ハロルド(ディエゴ・ルナ・クィンテロ)
  ペンギンの餌やり体験希望

最近考え込むことが多くなったのを心配されたのか
今回の動物園はディエゴさんから誘われたんだ…
甘えないって決めたばかりなのに、こんな風に心配かけちゃって自分が情けない…とは思うけど難しい顔していちゃ駄目だよね、楽しまないと。

ペンギンの家族や、それを楽しそうに見てる人間の家族、恋人達の姿を見てまた私は考え込んでしまう
きっとこれは羨望なんだって
私の本当の家族や大切な恋人友人は記憶にすら残ってない
だから人の繋がりが欲しいんだと思う

ディエゴさんは…
私はディエゴさんとはどうなりたいんだろう?
養子にしてほしいわけじゃないのは確かだよね。
……



七草・シエテ・イルゴ(翡翠・フェイツィ)
  こんなイベント、一生に一度しかないですし、折角です
今日ぐらい貪欲に楽しみましょう!

まず、ペンギンさんを見に行きます
肌寒くなりますけど、少しは我慢
上着?大丈夫ですよ!まだ平気ですから
それより、ほら!
ペンギンさんに餌をあげに行きましょう

次にペンギンさんの餌やりです
ずいぶんと混んでいましたが、やっと順番が来ましたね
翡翠さん、行きましょうか
服なら濡れてしまっても平気ですから

私はココアを注文。
翡翠さん、どうしました?
風邪!?ごめんなさい!

わ、私のせいです・・・・・・!
翡翠さん、いったん外に出ましょう!

ちょっと、翡翠さん!離して下さい!
皆に見られちゃいますよ!?
私なら大丈夫です!もう大丈夫ですから!





シャルル・アンデルセン(ノグリエ・オルト)
  「動物園」って初めてです。
記憶がない部分では行ったことがあるのかもしれませんがでもやっぱり…初めてのような気がします。
動物園に行きたいなんて言ったら子供っぽいって思われるかなってちょっと心配したのですが…ノグリエさんは全然そう言う事言わなくて…ほっとしました。

マイナス40°ってどれくらい寒いのか想像もつきませんでしたがやっぱり寒い…ですね。いえ、夏に少しだけはいるのにはちょうどいいと思います。

ノグリエさん見てください!ペンギンさんとっても可愛いです。餌やりが出来るんですよね!わわっ可愛いです!

温かい飲み物がしみわたりますね。心も体もほっこりします。

今日は…ううん、今日もありがとうございます。



エメリ(イヴァン)
  アザラシやペンギンに会えるなんて楽しみ!
ちょっと寒いみたいだけど可愛い動物見てればきっと気にならないよね

あ、こ、これは想像以上の寒さだね
温もりが欲しいかも
そういえば暖めるには人肌がいいとか…

どっちにするか悩んだけどペンギンに餌やり体験にするね
私は餌をあげてみたいからバケツ持ってて貰ってもいいかな?
あれ、イヴァンくんいいなー、もてもてだね
動物に好かれるのって羨ましいな

寒かったけどどの子もとっても可愛かったし満足だよ
通常エリアに戻ってきたら何か食べたいな
私はシロクマかき氷と北極ソーダにするね
暖かいものもいいなって思うけどこういう限定メニューみたいなのは外せないと思うの
うん、美味しい
幸せだなぁ…


 タブロス郊外の動物園ではこの夏、マイナス40℃の極寒の世界を再現したひんやりキャンペーンを開催中だ。五組のウィンクルムが、この動物園に遊びにきていた。

●複雑な二人の距離
 『かのん』と『天藍』はマイナス40℃のコールドゾーンにいた。本来は動物を鑑賞するための通路でもあるが、ところどころに雪像や氷の彫刻が置かれ、こちらも来園者の目を楽しませている。
「この氷の彫刻、よくできていますね」
 かのんが目をとめたのは、花弁が丁寧に彫り込まれた氷のバラの彫刻だ。本物の花ではないけれど、氷でできたバラは幻想的な光景を演出していた。
「ああ。そうだな」
 短く返事をする天藍は、バラよりもかのんの様子を気にかけていた。コールドゾーンは極寒の世界だ。
「かなり冷えますね」
 その言葉さえも、すぐに凍って白い吐息へと変わる。
 今日のかのんの服装は、襟付きのノースリーブシャツ。この服装できたのは失敗だったかもしれない。そう思いながら、自分の体を抱きしめた。
「ほら。腕」
 隣を歩いていた天藍が腕を差し出す。
「ありがとうございます」
 あまりの寒さに、かのんは思わず天藍と自分の腕を絡ませ体を寄せた。細身だが力強い天藍の腕から、ぬくもりが伝わってくる。
「かのん?」
 手を繋ぐだけのつもりだった天藍は、驚いたようだった。かのんが大胆な行動をとれたのは、極寒の世界の後押しもあるだろう。
「悪い気はしないな」
 天藍が小声でつぶやく。
「もう少しで私も氷の彫像になってしまうところでした」
 ホッとしたためか、普段はマジメなかのんからそんな冗談もこぼれる。
 天藍の体に寄り添いつつ、かのんの視線はアクリル板のむこうのシロクマへむけられる。
 冷たい氷が浮かんだプールの中をシロクマは悠々と泳いでいた。水中に光が差し込み複雑に反射する。美しい陰影。輝くような白い毛並みが水に揺れている。
「キレイですね」
 その光景に、かのんは寒さも忘れて足を止めた。しばらく優雅に泳ぐシロクマを眺める。
 客足がとぎれ、その場にいるのがかのんと天藍の二人きりになる時が訪れた。
 ふいに、絡めていた腕が外される。
「天藍?」
 一度離れた腕はすぐに優しくかのんの体を包んだ。
「この方が寒くないだろう? 俺も温いしな」
 背後から天藍に抱きしめられている。
「……」
 これまで一人で生きてきたせいか、かのんは人を頼ったり、好意に甘えることが苦手だ。パートナーの精霊である天藍に対しても、体が硬直してしまうことがあった。
 けど、今だけは。
「そうですね。これなら寒くないです」
 包み込まれる温かさに、かのんは自然と背中を預けることができた。回された天藍の腕に自分の両手を重ねる。二人の体温をわかちあうように。
 この気持に名前をつけてしまうことに、かのんはまだ戸惑いがある。ただ、それでも。
 白い吐息と共に、静かに思いを口に出す。
「こんな風に、天藍と一緒に過ごせるのは嬉しいです」
 小さな声だったが、その言葉はたしかに天藍に届いた。背後の彼が微笑みを浮かべていることをかのんはしらない。
「俺もかのんの傍に居られることが嬉しいんだ」
 耳元でささやかれた声を聞けば、彼がどんな表情をしているか想像するのは簡単だった。
 天藍の腕に力が入る。距離を縮めたその状態のままで、二人は泳ぐシロクマたちを眺めていた。

「すっかり体が冷えきってしまいましたね」
 コールドゾーンから出て、カフェテリアへ。カウンター席に並んで座る。
「温かい飲み物を頼もうか。かのんは何にする?」
「私は紅茶を」
 天藍も同じものを注文する。
「けっこう寒い場所に長居したな。冷えてるんじゃないか」
 かのんの頬に天藍が触れようとした。
「っ。恥ずかしいです、天藍」
 カフェテリアには人目も多い。かのんはつい身を引いてしまった。二人の関係は進展してきているものの、状況次第ではまだ照れや恥じらいが先行してしまう。
「気遣ってくれるのは、ありがたいですけど……。それに、私なら大丈夫ですから」
 その言葉は本当だ。
 あれだけ二人の距離が近かったのだ。かのんの体が冷えるはずもない。

●芽生えかけの思い
 動物園にいこうと誘いをかけたのは、『ディエゴ・ルナ・クィンテロ』の方からだった。最近考え込むことの多くなった様子の『ハロルド』を心配しての提案だったのだろう。
 ディエゴの思いやりは、しかしチクリとハロルドの心を刺す。パシオン・シーの散歩道で、ハロルドはこういった。ディエゴの重荷にはなりたくない、もう寂しくはないのだと。ハロルド自身で甘えないと決めたはずだ。
 それなのに、結局自分は彼に気を遣わせてしまっている。そのことがハロルドの心に重くのしかかる。
「どうかしたのか、ハル?」
 動物園にきても浮かない顔をしているハロルドに、ディエゴが声をかける。
 ああ。こうしてまた彼を心配させてしまった。そんな自分が情けなくなる。
「ううん。なんでもないよ、ディエゴさん」
 難しい顔ばかりしていても事態は変わらない。ハロルドはなんとか気持ちを切り替えようと努力した。
「動物園、楽しまないと」
 そうつぶやき、ペンギンの餌やり体験ができるというコーナーへとむかった。

 どうやら楽しむということは、努力してできるものではないようだ。
 ペンギンに餌をあげれば少しは気もまぎれるかと思ったが、むしろ逆だった。
 賑やかなペンギンの家族や、動物園を楽しんでいる家族連れや恋人たち。その姿を目にして、ハロルドはまた考え込んでしまう。ペンギンに餌をあげるのも、ほとんど機械的な動作になっている。
 記憶喪失の彼女には、本当の家族や友人たちの記憶はまったく残っていない。だからこそ、羨望する。人の繋がりを求めてしまう。
 ハロルドの強い思いは、一番身近な存在であるディエゴへとむけられる。
(……ディエゴさん……)
 心の中で自問自答する。いったい自分は、彼とどうなりたいのかと。
(養子にしてほしいわけじゃないのは確実だけど)
 親としてではないのなら、友だちとして? いや、それは違う。
 なら恋人?
(恋人……?)
 自分はディエゴの恋人になりたい、そう思っているのだろうか。ハロルドはいまいちその実感が沸かずにいた。
 近くにいるディエゴの姿をそっとうかがう。
 ディエゴは本当に優しくしてくれた。人として当たり前のことすらも忘れて、廃人同然だったハロルドが今こうしていられるのは、彼の教育のおかげだ。
 ディエゴは頭も良くて、頼りになる。それに……。
 整えられた黒い髪。伊達眼鏡の奥で静かに輝く瞳。
(格好良い……方だよね)
 そのようなことをあれこれ考えていると、気づけばディエゴがハロルドの顔をじっと見つめていた。
「大丈夫かお前、具合悪いんじゃないのか?」
 そういいながら、ディエゴの手がハロルドの頬へと伸ばされる。
「なんでもない!」
 ハロルドは勢い良くディエゴから離れた。
「ハル?」
「……なんでもないから」
 なんでもない、とハロルドが口にしたのは、今日だけでこれが三度目だ。
(ディエゴさんに変に思われてないかな……。今日の私、何か変だ。心臓の辺りが落ち着かない気がする……)
 ほんの少しだけ頬に触れたディエゴの指先の感触を思い出すたびに、鼓動が早くなっていく。ハロルドは自分にいい聞かせる。この胸のドキドキは、単にビックリしたせいだと。
(きっと、そう……)
 いいや、違う。
 ディエゴのことをなんとも思っていなければ、もっと自然に振る舞えた。彼のことを気にしているからこそ、あんな風に避けてしまった。

 ハロルドは、ディエゴのことを異性として意識しはじめているのかもしれない。
 これまで自身の感情にさえ無頓着だった記憶喪失の神人に訪れた、変化。
 精霊はまだ、彼女の心に芽生えたばかりの感情をしることはない。

●ペンギンの証言「身の危険を感じました」
「動物園って初めてです」
 『シャルル・アンデルセン』はふんわりと微笑んだ。見ているだけで幸せになれそうな柔らかな笑顔。『ノグリエ・オルト』には、その表情はよりいっそう魅力的に映る。
「あ。でも、初めて、で合ってるんでしょうか?」
 ふと彼女の顔が曇る。
「記憶がない部分では行ったことがあるのかもしれませんが、でもやっぱり……初めてのような気がします」
 シャルルはノグリエと出会うまでの記憶が曖昧で、気がついた時には教会で保護されている状態だった。
(私は知ってるんです。貴女が動物園に来るのは初めてだって。内緒、ですけどね)
 純粋さゆえにあまり疑いを持たないシャルルは、ノグリエが秘めている思惑などしるよしもなかった。

「くしゅん!」
 コールドゾーンの通路で、シャルルは小さくくしゃみをした。
「おやおや。シャルル、寒くないですか?」
「うう。マイナス40℃って、どれくらい寒いのか想像もつきませんでしたが、やっぱり寒いですね」
 この動物園に連れてきてくれたノグリエに配慮するように、シャルルは凍えながらも明るくつけ足した。
「夏に少しだけ入るのにはちょうど良いと思います」
「ガマンは体に毒ですよ。ボクの上着なら貸しますから」
「いいえ! そんな、悪いですよ」
 そうすれば、今度はノグリエの体が冷えてしまう。シャルルはそのことを気にして、申し出を遠慮した。
「それならせめて手を繋ぎましょう。その方が温かいですよ」
 これならノグリエだけが寒さにさらされることはない。
「はい」
 シャルルの華奢な手をノグリエの手が握る。包み、覆い隠すかのように。彼の心にあったのは思いやりか、あるいは独占欲だったのか。

 二人が次にむかったのはペンギンの餌やり体験だ。
「わわっ! ペンギンさん、可愛いです!」
「ペンギンが可愛いと言うシャルルの方が可愛いと思うんですけどねぇ」
「クワーッ!」
「クエーッ!」
 ノグリエの言葉は、餌を求めて騒ぎ立てるペンギンの鳴き声でかき消された。ノグリエの表情は笑顔のままだったが、一瞬だけ目元がピクッと不穏に動いた。
 シャルルはペンギンへの餌やりに夢中だ。
「餌の取り合いでケンカしちゃダメですよ。まだたくさんあるので、仲良く食べてくださいね」
 優しくペンギンたちに接するシャルルの姿。ノグリエは笑顔を浮かべたまま、彼女を黙って見つめていた。
 そして去り際。ノグリエはくるりと振り返り、シャルルに特にまとわりついていたペンギンたちに一瞥をくれる。他の者には聞こえないほどの小声でつぶやく。
「……シャルルに可愛がってもらったからといって、良い気にならないことですね」
 ペンギンたちは目撃する!
 普段はにこやかに細められているノグリエの目が見開かれたことを!
 その冷たく鋭い眼光は、マイナス40℃の世界に生きるペンギンたちをも震え上がらせた。
「まあ……、ペンギンに言ってもしかたないのですが」

 恐怖で凍りついたペンギンを残し、二人はカフェテリアへ。ホットドリンクを飲んで一息つく。
「温かい飲み物がしみわたりますね。心も体もほっこりします」
 ノグリエがペンギンたちに見せた怖い一面をシャルルはしらない。彼女にとっては親切で優しい精霊なのだ。
「ノグリエさん。今日は……ううん、今日もありがとうございます」
 シャルルはかしこまって感謝の言葉を述べた。礼儀正しい彼女の真摯な気持ちがこめられている。
「めっそうもありません。お姫様」
 微笑みながら、ノグリエは少し気取ったお辞儀をしてみせた。

●いかなる時でもぶれない彼女
「こ、これは想像以上の寒さだね」
 マイナス40℃のコールドゾーンで、『エメリ』は体を震わせていた。彼女のパートナー『イヴァン』は、素っ気なく応える。
「本格的なのは結構ですが涼しいを通り越して寒いですね。マイナス40℃というと、バナナで釘が打て、水鉄砲で噴射した水が一瞬で雪状になる温度ですよ」
「どうりで凍えるわけだね。これはぬくもりがほしいかも」
 エメリはチラッとイヴァンの方を見た。
「そういえば暖を取るには人肌がいいとか……」
「それでなぜこちらを見てるんでしょうか。とりあえずにじり寄ってくるのはやめてください」
 イヴァンはサッと身をかわす。彼は神人と絆を深めていくことに、まだ戸惑いがあった。
「気をまぎらわせるためにも早く行きましょう」
 そういってツカツカと進んでしまう。
「イヴァンくん。急ぐと転ぶよー」
 だが彼の神人はそんな態度にすねることも怒りもしない。のほほんとしたおおらかさで、ゆったりとイヴァンの後を追う。

 アザラシの抱っことペンギンへの餌やり。どちらにするか悩んだ末にエメリが出した結論は……。
「ペンギンの餌やり体験にするね」
 エメリはイヴァンに小さな頼み事を持ちかける。
「私は餌をあげてみたいから、餌が入ったバケツを持っててもらっても良いかな?」
 イヴァンは軽く頷き、バケツを持つ役目を引き受ける。もともと彼はそれほど積極的にペンギンと触れ合おうという気はなかった。
 だが、ふっくらした体でヨチヨチと一生懸命こちらにむかってくるペンギンを見ていると、次第にイヴァンの気持ちもほぐれてきた。
「間近で見ると案外可愛いものですね」
 ペンギンの何匹かはエメリに餌をねだっているが、それよりも多くの数のペンギンたちが魚の入っているバケツを持っているイヴァンの周りに集結した。
「イヴァンくん。モテモテだね」
「いや、これは僕がバケツを持っているせいでしょう」
「動物に好かれるのって羨ましいなー」
「僕の話を聞いていましたか? 眺めてないで早く餌をやってください!」
 イヴァンの厳しいツッコミが入る。
「あ、そうだね。イヴァンくんとペンギンを見てて、餌やりのことすっかり忘れてたよ」
 エメリは彼女なりのペースでバケツから魚を取り出し、ペンギンたちに渡していった。

 コールドゾーンから出たばかりだと、真夏の熱気がむしろありがたく思えてくる。
「気温の変化が大きいですから風邪には注意してください」
 一度はエメリを気遣う言葉をかけた後で、イヴァンはすぐに憎まれ口を追加した。
「ああ、でも何とかは風邪引かないとか……」
 けれどもエメリは嫌味を気にもせず、キョロキョロとカフェテリアの場所を探していた。
「お腹がすいちゃった。何か食べたいな。えーっと。飲食できるコーナーはどこだろう?」
 見つけたカフェテリアで、イヴァンはホットココアを注文する。
「私はシロクマかき氷と北極ソーダにするね」
「エメリさんは冷たいもの尽くしですね」
 温かいものも捨てがたいが、エメリはこういった限定メニューに心惹かれてしまう。
「寒い所から出てきたばかりなのによく食べれるなとある意味感心します」
「えへへ。イヴァンくんが私のこと褒めるなんて、珍しいね」
「いえ。褒め言葉ではありませんから」
 そんなやりとりをかわしながら、エメリはフルーツがふんだんに使われたかき氷と、バニラフロートが浮かんだ青いソーダをお腹の中に収めていく。
 見ているだけでコールドゾーンのあの寒さがぶり返しそうだが、エメリ本人はいたって満足そうだ。
「うん、美味しい。幸せだなぁ……」
「本当にあなたはぶれない人ですよね」
 温厚でのんきなエメリ。春の日差しのような彼女の振る舞いは、きっといつかイヴァンの心の氷を溶かしていくことだろう。

●突発アクシデント
「こんなイベント、一生に一度しかないですよ。今日ぐらい貪欲に楽しみましょう!」
 『七草・シエテ・イルゴ』はご機嫌だ。コールドゾーンの通路で、ウキウキとペンギンを鑑賞している。
「シエって時々子どもっぽい所あるんだよな……」
 そうぼやいたのは『翡翠・フェイツィ』だ。
「しかもあんなにペンギン見入っちゃってるし、女って皆ペンギンみたいな可愛い動物が好きなのかな」
 パートナーのはしゃぎ具合に呆れつつも、神人を思いやることは忘れない。翡翠はシエテに長袖のシャツを差し出す。
「シエ、寒い? このシャツを着てよ」
「上着? 大丈夫ですよ」
「遠慮したって強引に着せるからね」
 そういうなり、翡翠はシエテの肩にふわりとシャツをかけた。
「翡翠さん……。ありがとうございます」
 シエテの頬がほんのりと桜色に色づく。しかし次の瞬間には、この動物園の人気イベントのことを思い出したようだ。
「それより、ほら! ペンギンさんに餌をあげに行きましょう」
「まったく……」
 わずかに肩をすくめつつも、翡翠は動物園を楽しむシエテに付き合うことに決めたようだ。
 体験コーナーの受付は混んでいたが、順番待ちは苦痛ではなかった。待っている間、シエテと翡翠と何気ない会話をかわす。待ち時間すらも充実していた。
「あ。やっと順番がきましたね」
「ペンギンの餌やりか。ゴム手袋ごと食べられたりしないか?」
「怖いんですか、翡翠さん?」
「いや、怖くないけど」
 ペンギンに餌をあげるのも楽しい体験だが、こんな風に翡翠としゃべることもシエテにとってはかけがえのない時間だった。

 それはカフェテリアでの出来事だった。
 コーヒーを飲んでいた翡翠が軽く鼻をこする。
「ああ。ヤバい。風邪ひいたかな」
 何気ない発言だったが、翡翠のことを心配したシエテは動揺する。
「風邪? わ、私のせいです……! 翡翠さん、いったん外に出ましょう!」
 シエテは飲みかけのココアをタンとテーブルに置き、ガタリと席を立つ。適度に冷房の効いたカフェから屋外に出ようとした。
「気にするな、シエのせいじゃ……って、おい! 待て!」
 彼女を止めようとして、翡翠はとっさに手をつかみ、思わずシエテの体を抱きしめてしまった。
「っ!?」
 美男美女の抱擁。周囲の客の視線がいっせいに二人へ注がれた。それはけして悪意ある眼差しではなく、むしろ憧れを含んだ好意的なものだったのだが……。
 大勢の目。奥手な関係。両者の心の準備もできていない、予期せぬハプニング。
 このままロマンチックなムードに発展するには状況的に難しかった。
「翡翠さん! 離して下さい!」
 恥ずかしさで軽くパニック状態になったシエテと、彼女をどうにか落ち着かせようとする翡翠。

 数分後。二人は席に座って話し合っていた。
「あのっ、私……。突然のことでビックリしてしまって」
 シエテはある職業に就いていた経験から、翡翠との身体的接触に抵抗感があった。翡翠の本音を聞いたことで不安感は薄れたが、完全にシエテの心から消え去ったわけではない。
「せっかくの動物園なのに、最後の最後でこんな風になってしまうなんて……。本当にごめんなさい」
「シエが謝ることは何もないだろう? 急に抱きしめたのは俺だ」
 お互いに謝り合う。しばらく話しているうちに、だんだんと深刻な空気は薄れていく。最終的には、さっきの出来事を冗談めかして笑えるほどになった。
 いつも全てが順調にいくわけではない。運命の流れの前では、理想どおりには物事が進まない時もある。
(……ですが)
 シエテは思う。常に順風満帆でなんの試練もないカップルよりも、望まぬ事態が起きてもきちんと解決できる二人の方が、より深い絆を築けるのではないかと。
 傍らで微笑む翡翠を見て、シエテはそう感じた。



依頼結果:普通
MVP

メモリアルピンナップ


エピソード情報

マスター 山内ヤト
エピソードの種類 ハピネスエピソード
男性用or女性用 女性のみ
エピソードジャンル ハートフル
エピソードタイプ ショート
エピソードモード ノーマル
シンパシー 使用不可
難易度 普通
参加費 1,000ハートコイン
参加人数 5 / 2 ~ 5
報酬 なし
リリース日 07月25日
出発日 08月03日 00:00
予定納品日 08月13日

参加者

会議室

  • [5]エメリ

    2014/07/31-00:46 

    こんばんは、エメリです。よろしくね。

    アザラシやペンギンかぁ、きっと可愛いんだろうな。
    会えるのが今からとっても楽しみ!

  • [4]ハロルド

    2014/07/30-21:07 

    こんばんはーハロルドです

    普段は見られない動物を見られるのでドキドキですね

  • こんばんは、七草シエテです。
    どのイベントも楽しそうで迷っちゃいますね、うふふ。

    とはいえ、風邪をひいたりしないよう気をつけましょう。

  • こんばんは、シャルル・アンデルセンです(ぺこり)

    ペンギンさんもシロクマさんもアザラシさんもきっとかわいいでしょうね!
    今から楽しみです。

  • [1]かのん

    2014/07/28-20:08 

    こんばんは、パートナーの天藍と、かのんと申します。
    初めましての方も、何度か御一緒している方もどうぞよろしくお願いします。

    暑い日が続いているので涼しい所に行きたいと思ったら、通り越して寒い所になってしまいました。
    シロクマ、アザラシ、ペンギン、見ているだけで楽しそうw


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