プロローグ
夏の楽しい思い出作りにぴったりの場所、パシオンシー。
だが、そんな楽しい場所にもオーガは現れる――。
「通報によれば、オーガはDスケール。カエルっぽいオーガ、ヤグマアルだ。
ネトネトの粘液で覆われていて、なんか臭いし、唾や舌で攻撃するわ、酸の雨は降らすわ……。
いやらしい敵だよな、あいつ! ほんとメーワクだわ!!」
と憤慨するA.R.O.A.職員の格好は、休暇の最中に呼び出されたのか、アロハシャツにハーフパンツ、ビーチサンダル、額の上にはサングラス。
楽しい時間の邪魔をされたと考えれば、この怒りっぷりも納得である。
お仕事お疲れ様です……。とはいえ、ウィンクルムたちもタブロスから車で一日かかるパシオンシーにいた理由はバカンスなので、身の上は同じである。
夜のデートコースとして名高いヤシ林の散歩道、ムーングロウにオーガは潜伏中だという。
「このままじゃ、ロマンチックな夜デートが惨劇になっちまうからな。とりあえずムーングロウは立ち入り禁止にした」
A.R.O.A.職員は苦い顔をする。
ムーングロウは月光をうけて、ぼんやり道が輝くという素敵な場所なのだ。そんな美しい場所がヤグマアルの臭い粘液でベトベトになるのは悲劇だろう。
善は急げだ、さっそく討伐に行ってくれ、と職員はウィンクルムを朗らかに促す。
「今からだと夜だが、大丈夫。ムーングロウは夜でも明るいから戦闘には支障ないよ。
それに、夜のほうが人目も少ないから何かといいだろうし……」
だが相手はDスケールでもオーガ。くれぐれも気をつけろ、と職員は顔を引き締め、皆を激励するのだった。
解説
●成功条件:ヤグマアル討伐
●敵 ヤグマアル 1体
2mの二足歩行蛙オーガ。酸っぱい匂いがするぬめぬめで覆われて、臭い
「強きを助け、弱きを挫く」姑息な性格でウィンクルムをナメてかかっています
べっとり唾液を遠くまで吐き出したり、長い舌を伸ばして攻撃
酸の雨を広範囲に降らせる魔法スキルを使います
●場所 夜のムーングロウ「月明かりの散歩道」
パシオンシーのゴールドビーチ沿いにある、ヤシ林の散歩コース
月(ルーメン)の光で、ぼんやりと道が輝くロマンチックな場所
敵はムーングロウのどこかにいますが、人を見れば寄ってくるので
探す必要はないでしょう(奇襲の危険はあります)
●注意
神人とトランス前の精霊はオーガに対して攻撃力を有していません
精霊に比べ、神人は身体能力で劣ります
神人がオーガに積極的に向かうのは大変危険です
ゲームマスターより
お世話になっております。あき缶でございます。
うわーい、触手だーい!!(舌です)
ちょっと! お色気なことに! なるかも! しれない!!
も、もちろんシリアスに純粋にバトルしていただいて構いません!!
そこらへんは皆様のプラン次第ですが、意思統一はしておいた方がいいかもです。
リザルトノベル
◆アクション・プラン
叶(桐華)
バカンス中に迷惑な話! 奇襲されたら大変だし、行く前にトランスしておくよ 基本は神人を内側にした五角形。道幅にあわせ臨機応変に 僕と桐華は左前方を中心に警戒 物音とか動く影とかがあったらすぐに報告 戦闘中は後ろで邪魔にならないようにしてるよ でもハーブ水詰めたカラーボールぶつけてやるんだ せめて良い匂いになっちゃえ 酸の雨対策にレインコート重ね着 後で楽なように、下は水着にしとこう 服が溶けるくらいならまぁ良いけど、肌とか武器は保護したい みんな、怪我しないよーにね あんまりべたべたになったら泣いちゃう うえぇ気持ち悪い!後で海行こう、海!もしくはお風呂! 後片付けはちゃんとしてくよ。後の子の為に、お掃除 消臭剤ばら撒こう |
高原 晃司(アイン=ストレイフ)
うごごご…折角のバカンスが! くっそーくっそー!!!俺の休暇をよくも! オーガはやっぱ相容れない存在のようだな! ぶっころだ! 陣形は道幅が広ければ五角形の右後ろか左後ろで 狭ければ横二列で並んでいく感じで 五角形の内側に俺ら神人が行く感じで 事前にトランスはしておくぜ 不意打ちをしてくるだろうから道中警戒をしておく オーガが出てきたらまずロープで括りつけたコネクトハーツを投擲してみる! んで、上手く当たったらロープを引っ張って回収をするぜ 休み潰された恨みをありったけこめる! 他の神人が危ない時は何回かは前に出て攻撃に行くぜ! 服が溶けてもぶっちゃけ男同士だし気にしない方面で 全裸まで溶けないだろうし |
スウィン(イルド)
オーガ相手だものね!神人は無茶しないで後ろにいなきゃね! 心苦しいけど仕方ないわよね!精霊の皆ファイトー! (前に出なくてよくて嬉しい。わざとらしい) ■隊列 道幅に余裕があれば神人を内側にした五角形 イルドが一番前、俺がその後 前方メインに奇襲警戒 道幅に余裕がなければ精霊と神人交互に二列に 俺達は前側で奇襲警戒 ■戦闘 後衛で回避・防御に徹する 敵が後衛側にきてやむを得ない場合のみ バトルフライパンで攻撃し敵の気絶を狙う 酸の雨…服が溶けたりしないでしょうね? 物理的に舐められるのも精神的に舐められるのも まっぴらごめんよ! ぎゃあぁ!ぬめぬめする!キモイ! ■後 はぁ、場所は素敵なのに… 次は普通に遊びにきましょ |
栗花落 雨佳(アルヴァード=ヴィスナー)
うん、皆戦闘経験豊富な人達ばかりで心強いね それにしても、こんな所に現れるなんて…AROAの職員さんも折角の休みに駆り出されて可哀想だし、早く退治出来ると良いね そんなに怒らないで、困ってる時はお互い様だよ うーん、ネトネトの粘液に酸の雨…か ネトネトは嫌だねちょっと厚着して行こうかな 皮膚溶けたら痛いもんね? 唾や舌の攻撃にも注意しなきゃ…アルは魔法詠唱に専念してね? …いや、大丈夫だよ 服が溶ける位なら別に… アルは心配性だよね。大丈夫だよ オーガが相手なんだから無理はしない ベタベタはやっぱり気持ち悪い… 海に入っていく? 今度は塩でベタベタしそうだけど…体液でべとべとするよりはマシ…かな? |
ヴァレリアーノ・アレンスキー(アレクサンドル)
依頼遂行は絶対 一体だが油断しない しかし何故ここをヤグマアルが潜伏場所としたのか… カップルに恨みでもあるのか? 戦闘に適した普段の動きやすい格好に下に一枚タンクトップを着こむ フードは被る 今回はなるべく前へ出ない 精霊達の内側で警戒態勢 奇襲を受けないよう周囲の様子を窺う 予めトランスする 酸の雨に動揺せず敵に集中 舌を伸ばす時に出来る隙を見て、敵の足を小刀で狙い動きを封じる 敵の攻撃は出来る限りいなす 他の仲間と協力して攻撃 戦闘後、体がべとべとするので海に走り洗い落とす 怒るサーシャの様子に首傾げ 台詞 お前のような輩にこのような場所は相応しくない、即刻消えてもらう っ…気持ちが、悪い 何を勝手な事を…勘違いも甚だしい |
●ツキアカリ
月光を受け、ぼんやりと薄く白く光る道。
椰子林を吹き抜けていく涼しいそよ風が、パシオンシーの微かな磯の香りと潮騒を届ける。
オーガが出るからと立ち入りを制限されたムーングロウは、潮騒と風が揺らす椰子の葉がこすれる音だけが聞こえていた。
静かにロマンチックな光を孕む月明かりの散歩道を、一団となったウィンクルムがゆっくりと進む。道だけでなく彼らもうっすらと光っていて、既に対オーガ戦闘の準備が完了していることを示していた。
「バカンス中に迷惑な話!」
叶は溜息と共に、苦言を吐き出す。
「くっそ、何で此処まで来てA.R.O.A.の仕事受けて来てるんだよっ!」
アルヴァード=ヴィスナーが栗花落 雨佳に噛み付く。
「そんなに怒らないで、困ってる時はお互い様だよ」
困ったように微笑んで、雨佳は精霊を宥めた。その笑顔にどうにも強く出られないアルヴァードは、眉を寄せたが目をそらし、
「仕方ねぇ、さっさと終わらせて宿に帰るぞ」
と言って、それ以上の文句は言わずに黙る。それに、ここまで来てしまったら退くわけにも行かない。
パシオンシーでの楽しい休暇の最中に呼び出された一同の気持ちは、口にせずとも皆同じ。
だが放置しておけば、一般人の楽しい休暇すら壊れてしまうから、行くしか無い。
「任務遂行は絶対だ。相手が一体でも油断はするな」
キリリと真剣な声で、ヴァレリアーノ・アレンスキーが皆の気持ちを引き締める。
言葉通り油断なく、潜伏しているオーガがどこから現れようとも見逃すまいと視線を四方八方に巡らせながら、ヴァレリアーノは首を傾げた。
(しかし何故ここをヤグマアルが潜伏場所としたのか……カップルに恨みでもあるのか?)
おそらくヤグマアルは蛙型が故に日差しが苦手なため、パシオンシーで最も日差しを避けられるムーングロウを選んだのだろう。
ウィンクルムは神人を護るように精霊が外周につく、五角形の陣営で動いている。
先頭をイルド、右をアレクサンドル、左を桐華、後ろをアイン=ストレイフとアルヴァードが歩く。
「ゲコッ」
前方のヤシの茂みから、月光の逆光を浴びた影が出てきた。異形としかあらわせない気味の悪い容姿。ぬらぬらと褐色がかった粘液にまみれた蛙の横長の瞳孔が、確かにこちらを見つめていた。
「! いやがったな!」
イルドが構える。
「お前がせっかくのバカンスを中断させた張本人か! うごごごご、くっそーくっそー!!! 俺の休暇をよくも! ぶっころだ!!」
高原 晃司の不平不満を詰めこんだ刃が飛ぶ。遠距離に対応できないか、とヒモをつないでみた短剣コネクトハーツだが、うまく力をこめられないため、
「ゲコ」
ぺしんと難なく叩かれてしまった。
変な匂いのぬめぬめがついてしまった刃が戻ってくる。
「……」
匂いに閉口するが、臭いからといって逃亡するわけにはいかない。
「オーガ相手に自分の得意ではない距離からの神人の攻撃は無意味だ。防御に専念しろ」
ヴァレリアーノが晃司に厳しい言葉を投げるが、実は有効打を出せなかったことにこっそり落ち込んでいる晃司への、彼なりのフォローだ。
スウィンが軽い調子で合わせる。
「そうそう。オーガ相手だものね! 神人は無茶しないで後ろにいなきゃね! 心苦しいけど仕方ないわよね! 精霊の皆ファイトー!」
攻撃されたとわかっても、ヤグマアルは動かない。ウィンクルムを軽く見ているのだろう、逃げるつもりはないようだ。初撃が神人からの攻撃だったこともあり、完全に油断しているのか、口を開いて笑っている。
(ちっ、ナメやがって!)
魔法詠唱をしながらアルヴァードが舌を打つ。詠唱完成したら覚悟しろ、と内心で悪態をつく。
「引きもせず、進みもしない……こちらは相手の射程内なわけですね」
アインが銃を構える。この距離がヤグマアルの射程ならば、アインのリボルバー「スペーラ」の射程でもある。
「相手がこちらをナメてくれているのは好都合。本気になられる前に、一気に畳み掛けたいですね」
――撃つ。
粘液の膜を貫いて、弾丸がヤグマアルの柔らかな両生類の肌にめり込む。
「桐華、畳み掛けなら得意でしょ。GO!」
叶がポンと精霊の背を押す。むっと顰め面をしながらも、言われたことはもっともなので、桐華は俊足で疾走る。
着弾の直後にまず一合。トランスした精霊の刃は、ぬめった肌など問題ではなく切り裂く。月の出ない日に人を襲う不可視の蛇の名を持つカタールだが、月光の下でも十分すぎる切れ味を誇った。
飛び散る血液よりも速く、二合、三合。
桐華はバックステップで、彼の後にヤグマアルに殺到してきた二人の精霊に前を譲る。
アレクサンドルの無骨なバトルアックスが、重い一撃でヤグマアルの足を揺らがせる。
ヴォン! と近未来的な効果音をあげながら、イルドのバトルハンマーがヤグマアルの脳天を狙う。
「ゲゲコッ」
流石にこれは見切られ、避けられたが、瞬時にイルドは返すように下からすくい上げて、ハンマーはヤグマアルの脇腹にめり込んだ。
「ゲエッ」
臭いヌメヌメした唾液を吐いたヤグマアルの無表情な蛙の目には、憎しみが宿っていた。
どばっと白濁したどろどろの液体がアレクサンドルの肩から腹をびっしょり濡らす。悪臭が漂い、不快感がアレクサンドルを苛む。
「せめて良い匂いになってよ!」
叶が投げたのは、いい香りのするハーブ水が入ったビニール袋。カラーボールを投げたかったが、中身を詰め替えられるボールが手に入らなかったので、苦肉の策だ。
ビチャッとヤグマアルの頭を濡らしたハーブ水だが、この程度の香りではヤグマアルの悪臭をかき消すことはできなかった。
精霊を穢されたことに機嫌を損ね、ヴァレリアーノはオーガを睨みつけた。
「……汚い。お前のような輩にこのような場所は相応しくない、即刻消えてもらう」
「ゲコ」
ヴァレリアーノに、ヤグマアルはニヤアと真っ赤な口の中を見せた。
●アシッドレイン
イルドの強打で褐色の粘液が飛び散る。アレクサンドルの斧でオーガの体勢を崩し、無防備なむき出しの肌に向けて、桐華が切り込む。
前衛陣の連携の合間、オーガに息をもつかせまいとアインの銃弾が奔る。
「喰らえっ!」
アルヴァードのスタッフから魔法弾が、オーガの腹に飛び込む。ジジジと煙が上がり、オーガの腹が焦げた。
「……ゲコ」
それでもヤグマアルは立っている。オーガが、何やらあやしい踊りを踊ると、もくもくと後衛精霊や神人達の頭上に雲が現れた。
「酸の雨か」
事前に聞いていたから、神人達に動揺はない。
まるで夕立のように勢い良く雲からすえた臭いの雨が落ちてくる。
「っ……!」
厚着を難なく染み通ってくる酸の雨に、雨佳が眉をひそめる。服が溶け落ちていく程の強酸は、彼の青白いまでに白い皮膚を容赦なく傷めつける。
「雨佳!」
側に居たアルヴァードがとっさに神人を守ろうと近寄りかけるが、雨佳は手をかざすことで、アルヴァードの移動を押しとどめる。
「大丈夫だよ……。アルは魔法詠唱に専念して」
「けど……」
雨佳のきれいな肌がうっすら赤くなっていることに動揺を隠せないアルヴァードに、雨佳は無理に微笑みを向けた。
「アルは心配性だよね。大丈夫だよ。はやく倒そう」
アルヴァードも酸の雨にうたれてボロボロなのに、自分のことはそっちのけらしいことに、雨佳は苦笑する。
「……くそっ」
根本的に雨を止めるには、オーガを倒すしかない。アルヴァードは歯噛みしながらも、詠唱を再開した。
「うぇえ、気持ち悪い! レインコート溶かさないでくれる!?」
すっかり水着姿になってしまった叶が抗議の声をオーガに投げつけた。重ね着したレインコートが身を挺してくれたおかげで、肌に痛みはあまりないが、今すぐにでも水場に飛び込みたいくらい不快なことは確かだ。
「悪い予感があたっちゃったわ。イタタ……。ゲホッゲホッ。それに、げほっ、酢みたいな匂いね。むせちゃうわ」
すっかり上半身の服が溶けてしまったスウィンは、肌をも溶かす酸の痛みに耐えながらも、気管を刺激する匂いに咳き込む。
「おっさん、大丈夫か!?」
前衛にいたイルドが振り向いて叫ぶので、スウィンは気合で咳をこらえて、気丈に手を振ってみせる。
「大丈夫よ、すっっごくキモイけど!! これくらいでぶっ倒れたりはしないわ!」
「ちっ、おっさんに何しやがる! 遠距離から服脱がせてんじゃねえよ! 気色悪いセクハラしやがって!」
怒ったイルドがハンマーをぶん回しながら叫ぶのを聞いて、スウィンは驚いた。
「そっち!? お怒りの理由、そっち!?」
「ふん……フードでは耐えられなかったか」
半裸になったというのに、ヴァレリアーノは何でもなさそうである。淡々と裸を晒している神人に、アレクサンドルはわけも分からず苛立つ。
酸の雨だろうが、いつもの戦闘時の負傷と変わらない。ヴァレリアーノの精神は全く揺らがなかった。
「すっかり後衛は全裸寸前だな。ここが立入禁止でよかったぜ。オーガと戦闘中ったって女の人に見せられる状況じゃねーもんな、これ」
肌は痛むが、お肌の調子がどうこうということに無頓着な晃司は、屁でもない様子だ。笑顔で軽口をアインにとばすが……アインから返事がない。
「……?? アイン?」
「っ、そうですね」
裸ばかりになってしまった状況に、アインの腹の底が熱くなるのをスルーしようと精神を整えている最中に話しかけられたので、反応が遅れてしまった。
(気づかれていないようですので、一安心ですね)
晃司はただきょとんとしているので、アインは内心ほっとしつつ、誤魔化すようにオーガの眉間を狙って銃を撃つ。
「ゲッ!」
痛烈な一撃に、ヤグマアルが悶絶する。
「折角の一張羅を溶かされるのも困るのだよ」
怒りに任せ、斧を振り落とすアレクサンドルの直後、桐華がパンチダガーを突き出す。
桐華は怒りに引きずられ、精神的に揺らいでいるらしく、狙いがブレた刃はヤグマアルにペシペシといなされた。
刃のゆらぎに気づいた叶は見えないように小さく舌を出した。
(あー、まぁた桐華サン怒ってるな……)
彼は叶が怪我をすると非常に怒るのだ。おそらく先日のオーガ戦が起因しているのだろう。
このまま放置すると、怒りに我を忘れ、逆に隙が出来てしまうだろう。
「桐華! 僕、桐華が危なかったら、前に出るからね!」
「!?」
振り向いた桐華に、ソードをヒラヒラと振ってみせる叶はヘラヘラ笑っていた。
「嫌ー? なら、僕を危ない目に遭わせたくなかったら自分の身もちゃんと守ること!」
「わかってる!」
怒鳴り、桐華は前を向いた。
(……気に食わない)
叶の言葉で、気が引き締まったのは事実だ。うまく手玉に取られていることに、桐華は眉を寄せる。
「息あってるのね」
スウィンが叶に微笑んだ。
叶は困ったように苦笑を返す。
「そ? ……ま、桐華は不本意だと思うけどね」
「そうかしら? むしろ、案外嫌じゃないことが不本意なんじゃないのかしらね、彼」
スウィンは優しいまなざしで、白髪のディアボロを眺めた。
●スネイルタン
オーガは、前衛達にどれだけ攻撃されても、後衛の神人を狙い続ける。
「っ……気持ちが、悪い」
にゅるりとした舌を伸ばし、ヴァレリアーノが巻かれた。酸の雨で素肌を晒している少年の柔肌にヌメヌメと赤い舌が絡みつく。
無表情を続けられず、ヴァレリアーノが顔を歪める。
「卑怯者め!」
アレクサンドルが叫ぶ。姑息な性格のオーガは、あくまで強い精霊とやりあうつもりは無いらしい。弱者たる神人が全部倒れるまで、なぶり続けるつもりだ。
「大丈夫!? やだやだ、キモイ!! 離れなさいよっ」
舌をフライパンで殴って、スウィンはヴァレリアーノを助け出そうとする。
「任せろ、前に出れないからストレス貯まってたんだ!」
晃司が走ってきて、舌をマンゴーシュで突き刺す。さすがに痛いらしく、ようやく神人を開放する舌がヤグマアルの口内に戻っていく。
びゅるるっと発条仕掛けのように戻る舌を狙いすまし、ウルフファングが噛み付こうとするが、舌の速度が勝った。
ウルフファングをかいくぐり、得意気に舌が口の中に収まった瞬間、
「ゲゴゴッ」
ヤグマアルは口から体液を吐いた。
アインの弾が舌と同時に口の中に飛び込んだのだ。
苦しむヤグマアルは唾液をそこらに吐き散らかす。
「きったねえな!」
頭からひっかぶってしまった晃司は慌てて顔を拭った。とんでもなく臭い……。
「あと少しだ。くらいやがれ!!」
イルドのハンマーが再び唸り、ヤグマアルの粘液を弾き飛ばす。
満を持して、アルヴァードはマジックスタッフをヤグマアルに指し向けた。
「このクソ蛙っ! 散々コケにしやがって!! これで終わりだ!」
無防備なヤグマアルの焦げた腹の中へとエナジーが照射される。
パァンッ!
風船をはじけさせたような音がしてオーガの腹から炎が吹き出た。
吹き出た炎が全身に回り、火達磨になったオーガが悶え苦しみ、宙を掻く。
「ぐげっ、グゲゲゲゲ……ゲ」
炎が収まった頃、ひくひくと痙攣していたオーガはゆっくりと倒れ、動かなくなった。
●グリーンアイ
「あーーーもう、気持ち悪い! 海行こう、海! もしくはお風呂!」
半泣きで叶は叫びながら、消臭剤をばらまく。応急処置レベルだが、少しはマシなはずだ。
大騒ぎの叶を桐華が無言で眺めている。いろいろ今回も思うところがあったらしい。
(青春ねぇー……)
とスウィンが桐華の背中を微笑ましく眺めていると、イルドが近寄ってハンマーを見せてくるので、向き直る。あまり他人の精霊に気を向けていたら、イルドのご機嫌が傾いてしまうかもしれない。
「武器もぬめぬめだ。洗いたいな」
「海水でサビないかしら……」
「とりあえずで、帰ったらシャワーしなおそうぜ」
と言い合いながら、スウィンとイルドはゴールドビーチへと足早に向かう。
「僕達も海に入っていく? 塩でベタベタしそうだけど、……体液でべとべとするよりはマシ……かな?」
と雨佳が首をかしげるも、アルヴァードは難色を示した。
「真っ赤な肌したまま海に入ったら、滲みるぞ。真水が出るシャワーを探そうぜ」
バスタオルは持ってきているから、何処で水を浴びても準備は万端だ。
「汚らわしいオーガでしたね……。匂いが酷いですから、どっかで水浴びをしましょうか」
「海の家かどっかでコインシャワーあるんじゃないか? アインも俺もべっとべとだし、一緒に入っちまうか?」
「…………」
戦闘の緊張で抑えていた腹の底の熱が再燃しそうで、晃司の何の気なしのお誘いに、アインは思わず口ごもってしまった。
自分もさっさと体を洗いたい、とヴァレリアーノは海に走りだしかけ……アレクサンドルに腕を強引に引っ張られた。
「サーシャ?」
無言でズンズンと月光の道を進むアレクサンドルを、ヴァレリアーノは不思議そうに見上げる。
「勝ったのに、何を怒っているんだ、サーシャ」
椰子の木の陰で、ヴァレリアーノを解放し、アレクサンドルはタオルでゴシゴシと神人を拭う。
「そんなに擦るな、痛い」
「…………」
アレクサンドルは手を止め、ヴァレリアーノをじぃっと見つめる。
「本当に、どうしたんだ?」
「あんな破廉恥な姿……見せつけていたのか? 案外楽しんでいたかね?」
精霊のトゲのある物言いに、ヴァレリアーノはムッとして言い返す。
「何を勝手な事を……勘違いも甚だしい」
一蹴され、アレクサンドルは反駁を控えるも、二人は月下で睨み合った。
無言は、精霊の溜息で途絶えた。
冷静に考えれば、ヴァレリアーノの負傷は不可抗力だ。何を言える立場でもない。
「……帰ろう」
さっきまでの勢いはどこへやら、力なくアレクサンドルはヴァレリアーノに帰還を促した。
「? ああ……」
結局意味がわからないヴァレリアーノは、釈然としない気持ちを抱えながらも、ここに長居をしている理由もないので、アレクサンドルの促すまま、帰路についた。
あとは静かな潮騒と椰子の木の擦れる音……。
依頼結果:成功
MVP:
エピソード情報 |
|
---|---|
マスター | あき缶 |
エピソードの種類 | アドベンチャーエピソード |
男性用or女性用 | 男性のみ |
エピソードジャンル | 戦闘 |
エピソードタイプ | ショート |
エピソードモード | ノーマル |
シンパシー | 使用不可 |
難易度 | 普通 |
参加費 | 1,000ハートコイン |
参加人数 | 5 / 2 ~ 5 |
報酬 | 通常 |
リリース日 | 07月17日 |
出発日 | 07月25日 00:00 |
予定納品日 | 08月04日 |
参加者
- 叶(桐華)
- 高原 晃司(アイン=ストレイフ)
- スウィン(イルド)
- 栗花落 雨佳(アルヴァード=ヴィスナー)
- ヴァレリアーノ・アレンスキー(アレクサンドル)
会議室
-
2014/07/24-22:40
>陣形
あ、ごめんなさい。陣形は前1人なので【7】の形が理想ですね。
【10】は道幅かせまい場合二列のやつ(→側の陣形)です!
紛らわしくてすみません……っ! -
2014/07/24-21:20
体調不良は仕方ないわよ。高原はお大事にね。改めて、よろしく!
陣形は[10]でりょーかい。プラン提出済みよ。ぎりぎりまで修正はできるわ。頑張りましょうね! -
2014/07/24-04:52
超申し訳ない!!
ちょいと夏バテでダウンしてた!
改めて晃司だ。よろしく頼むぜ
相談内容は拝見させてもらった
陣形については【10】で言ってるので問題ないと思うぜ
>お色気
俺らはそんなに色気とかはねぇしなー
そういうのは他の奴に任せようと思ってるぜ
>戦闘
アインが丁度オーガ特化の装備を持ってるから今回は攻撃特化でいくかなー
狙い辛ければダブルシューターⅡを狙えるようであればスナイピングかな…
今回はできるかどうかわかんねぇが武器に紐をくくりつけて近づかないで攻撃できるか試してみるつもり
できれば武器効果で殲滅力あがるしな -
2014/07/24-00:19
>陣形
あ、そうですね。
左を前としてです。分かりにくくてすみません。
で、陣形なんですけど五角形なので、前に二組配置するか後ろに二組配置するかで変わってきます。
奇襲を警戒するなら前1組後ろに2組の【10】で言っている様な形が理想かなと思っています。
なので、叶さんがおっしゃっている配置で大丈夫です。
>お色気?
僕の方もアルがあんまり前に出るなって言うんですよね。アルは後衛だから僕が前に出た方がバランスが良いと思うのですけど……
アル『………』
アル、無言で圧掛けるのやめてよ…
-
2014/07/24-00:00
>陣形
ひし形から五角形…ということでいいんだろうか?
進行方向は[10]の雨佳のレスを見ると→になっているように見えたな。
理解度が低くてすまない。
カナが言うイメージで問題なければ俺もそのようにプランに書いておく。
>お色気
皆、案外ノリノリだな。見ている此方としては楽しみだ(くす -
2014/07/23-23:10
陣形】
えーと、雨佳の出してくれてる図は、進行方向は←って解釈でいいのかな?
で、最前列(or最後尾)(イルド)
右前(アレクサンドル)、左前(桐華)、
右後、左後…を、アルヴァードとアインにお願いする感じー?
イメージ違ってたらごめんね指摘おねがーい。
お色気?】
僕、あんまり前に出ると桐華に怒られるから…
だから、考えたんだよね。
僕より前に桐華が居ればいいんじゃん。って(突き出す構え)
そんな程度には前のめりだから、どんな展開でもばっちこーい。 -
2014/07/23-23:08
>陣形
まぁ、もしくは前を2人とかにしても良いかなと。
■ ■
◇ ◇
◇■ 道幅により精霊と神人交互で→ ◇■◇■◇
◇ ◇ ■◇■◇■
■ ■
こんな感じですかね。取り敢えず、二列位しか道幅が無ければ神人と精霊と交互で並ぶようにという感じでしょうか。
僕達はやはり後ろ側希望ですね…。一番後ろか二列目がいいです。
>お色気
……背中を押される……?(小首傾げ)
生贄に出されると言う事でしょうか……← -
2014/07/23-20:42
【陣形】
おっと、五角形了解?イルドは前担当でいいかね?
たしかに道幅不安だから、「神人を内側にした五角形。道幅にあわせ臨機応変に」って感じ?
【お色気】
叶と栗花落の背中を押す要員が必要かしら?(にこっ)
とまあそれは冗談として、NOお色気!な人はいなそうかね。 -
2014/07/22-17:42
>陣形
五組だと五角形……ベース型ですね。
■ ■
◇ ◇
■◇
◇ ◇
■ ■
こんな感じですかね?前後どちらに重きをおいても良いと思いますが。
……所で、自分で案を出しておいて何なのですが、四人並んで歩けるくらい道幅ありますかね…?
まぁ、多少ずれてもいいとは思いますが…。
>お色気
……これってお色気要素が何処かにあるのですかね?(きょとん)←
-
2014/07/22-12:42
あ、揃った。改めて宜しくねー。
奇襲対策】
ん、んー。5組だと、ひし形にしたらちょっとはみ出ちゃう感じ?
後衛希望な子がちょっと真ん中に寄る感じでバランスとれば、良いかなぁ。
あ、桐華も余ってる所でいいと思うけど…
目安って事で、とりあえず左側に立たせとこうかな。
お色気】
僕はみんながきゃわきゃわ言ってるのを楽しく眺めるのも、良いなって思ってます(穏やかな微笑
傷の残っちゃうような怪我するよりはいっかなって!
ほら、心の傷はきっと海が癒してくれるって、信じてる。 -
2014/07/21-22:45
発言が遅くなってすまない。ヴァレリアーノ・アレンスキーだ。
見知った顔が多くて心強い。今回も宜しく頼む。
>奇襲対策
俺達も最初にトランスしておく。
神人を内側にした陣形も異議無しだ。
今回、俺はあまり前へ出ない方が良さそうか。
精霊の担当場所は前衛が多いようだが、右(→)側を担当させてもらえればと思う。
>戦闘
別に服が溶けようが溶けまいが関係ない。目の前の敵を倒す、それだけだ。
スキルは「タイガークローⅡ」の予定だ。
スキルが二つ使えるようになれたら、攻撃の幅が広がるのだがな。
敵はどうやら油断しているようなので、その隙を突きたい。
俺は服が溶けるより臭いの方が気になるかもしれない。
戦闘後は恐らく海に走っているだろう。
>色気
…俺がこんな事を言うのもおかしな話だが、お色気ギャグ路線は歓迎する。 -
2014/07/21-21:32
フルメンバーね!ジョブは
テンペストダンサー1
シンクロサモナー1
ハードブレイカー1
プレストガンナー1
エンドウィザード1
【奇襲対策】
神人を内側にしたひし形陣形、いいと思うわ。
精霊の担当場所(前後左右)を決めてそっちを重点的に警戒してもらえば叶の案もクリアね。
担当の希望はあるかしら?イルドはとくに希望はないみたいだから、あいてるとこでいいけど。
【戦闘】
男の子でも素っ裸はやだわぁ。とりあえず頑張る!
【お色気】
背後は「お色気(?)ギャグ」路線で考えてて、
正統派お色気でもお色気なしでも皆自由にしていいんじゃないかって思ってるみたい。
お色気駄目、絶対!な人がいれば考えるけど…? -
2014/07/20-03:23
こんばんは。皆さん見知った方ばかりで心強いです。
栗花落雨佳と相方はエンドウィザードのアルヴァードです。よろしくお願いします。
>奇襲対策
そうですね。最初にトランスはしておきます。
神人を内側にして二列、ひし形陣形ですかね?(四組なら)
>戦闘
酸ですからね……体が溶けてしまうのは困るなぁ…(全く困った顔はして無い)
一応、多めに服は着て行きますね。
僕とアルは後衛になりますね…。エンドウィザードなので技の発動まで時間が掛りますし…。
武器を酸で溶かされない様に注意する必要とかもありそうですね。
-
2014/07/20-01:09
カナっていいまーす。相方さんはテンペストダンサーな桐華。宜しくね。
奇襲対策】
予めトランス、は、必須だろうねー。
出来るだけ固まって、各組で警戒する方向決めておくとか、どーかな。
戦闘】
後ろでそわそわしてるだけってのはちょっともどかしいけど…
精霊の子達の足も引っ張りたくないし、大人しく自衛に徹した方が、良いよねぇ。
服の溶ける危険は考慮して、ちょっと着込んでおくのは正解かも。
まー、服しか溶けないんなら別にそんな…男の子ですし?とも思うけど。
べたべたするなら手っ取り早く海に走った方がいいかもね。
桐華さんは前に突き出しまーす。
使うならアルペジオかな。もしくは、エトワールで引きつけ役でもできたらと。
火力は心許ないから、得意な子に確実に決めて貰えたらとも思うし。 -
2014/07/20-00:38
スウィンよ、よろしくぅ。話し合う事は…
「お色気か否か」「奇襲対策」「戦闘について」とかかしら?
【奇襲対策】予めトランスして、周りを警戒した方がよさそうね
【戦闘】立ち入り禁止になってるから、一般人の心配はいらなそうね。
敵はオーガだから、神人は後衛で自分の身を守るくらいにしといた方がよさそう?
酸の雨…服が溶けたりしないでしょうね?レインコートみたいなの用意したら効果はあるかしら?
とりあえずタオルと着替え持っていって…
戦いが終わったらお風呂入れるとこあればいいけど。最悪海?
ってことで、おっさんは後衛。イルドは前衛で、スキルは
「グラビティブレイク:敵の防御力を下げる+威力92の攻撃」と
「インプロージョン:パッシブ。威力+30」予定よ