【夏の思い出】ビーチバレーで勝負!(瀬田一稀 マスター) 【難易度:とても簡単】

プロローグ

「いた……」
 少年は呟いた。素晴らしい青空、広い海。たくさんの人でにぎわうパシオン・シー。
 ゴールドビーチの片隅に『彼女』がいた。
「ねえ、兄さんたち、いたよ。ほら!」

「……ほんとだ、綺麗な人……」
「……うん、すごくかわいい」
「……確かに魅力的ですね」
「…………でも、邪魔者がいるな」
 少年に続き、若者たちがそれぞれ想い人を見つめて呟いた。最後『邪魔者』の言葉に、一同五名は顔を見合わせる。
「やるか?」
「俺たち兄弟の力を合わせて」

「おい!」
 ずざ! といきなり現れた五人の男の姿に、ウィンクルムは目を丸くした。
「その素敵な人を、俺たちによこせ!」

 なんだ、誘拐か?
 いやまた例の兄弟だよ。
 ああ、なんだっけ? 自称『麗しの人魚姫ハンター』だっけ?
 違うよ、ただの迷惑一目ぼれ兄弟さ。
 周囲から聞こえる声に、精霊たちは目を細めた。

「俺のパートナーを奪いに来ただと?」
「彼女の意思の確認もなしに?」

 金髪碧眼の兄弟五人は、ビーチバレー界にて名を知られている(かもしれない)メンバーだ。
「自己紹介!」
 年長の男が叫ぶ。

 長男 レッド 25歳。
「天使のごとく愛らしい君は、俺が手に入れる!」
 びしいっと『彼女』を指さして仁王立ち。
「俺のスパイクは君のハートも打ち抜くぜ!」

 次男 パープル 23歳。
「ボクは一瞬で、キュートな君の虜になった」
 光る白い歯、『彼女』にウインク。
「ボクのサーブは君に愛を届けるよ」

 三男 ブルー 18歳。
「麗しいあなたを、僕だけのものにしてしまいたい」
 胸に手を当て『彼女』に微笑む。
「僕はこの腕にボールを受けるように、君の全てを受け止めます」

 四男 ホワイト 15歳。
「子供だなんてバカにするなよ! 俺だってあんたがかわいいの、ちゃんとわかるんだからな!」
 両手を広げて『彼女』にアピール。
「ボールも愛も、俺は狙いをはずさない!」

 五男 イエロー 12歳。
「きれいな人は、ぼくが見つけたんだ。兄さんたちには負けませんっ!」
 両手で持ったビーチボールを持ち上げて『彼女』に真剣熱視線。
「僕の繊細なトスがなければ、兄さんは攻撃なんてできやしないんだ」

「ビーチバレーで勝負だっ!」

解説

主に男性精霊さんへの通達です。
ゴールドビーチで海を満喫していたあなたたちウィンクルムは、女性神人が魅力的であるばかりに、ビーチバレー勝負に巻き込まれてしまいました。
勝っても得はありませんが、負けたらこの強引な兄弟に、大事なパートナーがとられてしまいます。
自分のパートナーが熱烈に口説かれる姿なんて、見たくないですよね?
普段クールに構えているあなたも、ツンデレのあなたも、ここは素直になりましょう。
ほら、見たくないですよね?

ということで、ビーチバレーでこの兄弟と戦ってください。
ふっかけられた勝負なのでお金はかかりません。
ビーチバレーの後に、嫌がらせをするのはありです。
その際は、以下の品物を使うことができます。

兄弟に攻撃するための水鉄砲 100ジュール
兄弟を殴るためのピコピコハンマー 100ジュール
兄弟を砂に埋めるためのスコップ 100ジュール

なお、神人さんがパートナーを応援するためにはこちら。
頑張って! って叫ぶためのメガホン 100ジュール
なぜか音を出したいあなたのためのタンバリン 100ジュール
暑さに負けるな! 戦うパートナーにかけてあげるためのアロマ水 200ジュール
(コートの中のパートナーに水をかける、応援なのか嫌がらせなのかわからない代物です)

戦いの後、兄弟、あるいはパートナーと友好を深めるためのものはこちら
熱中症予防のためのスポーツドリンク 50ジュール
一緒に食べるための真っ赤なスイカ(カット済み) 200ジュール

なお、試合に参加する兄弟の数は、参加精霊の人数に合わせます。
人数で負けることはありませんので、ご心配なく。
それでは精霊諸君、グッドラック!


ゲームマスターより

なんとかレンジャーとかではありません。
ビーチバレーです。
精霊たちでチームを組んで戦ってください。
神人の皆さんは「彼は私のために戦ってくれているのね」とキュンキュンしながら精霊を応援してください。
兄弟にヤジを飛ばすのは構いませんが、それくらいでは兄弟はへこたれません。あなたへの愛も冷めません。
いらっとしたら、あとから自分のパートナーと一緒に、兄弟に小さな嫌がらせをしましょう。
それでは皆さん、頑張ってくださいね。

なお、どの兄弟に一目惚れされたいか、希望がある方は「長男」等お書きください。のちほどの嫌がらせおよび和解は、基本的にその兄弟にすることになります。記載がなければこちらで割り振ります。

リザルトノベル

◆アクション・プラン

ミサ・フルール(エミリオ・シュトルツ)

  (売店にて)エミリオさん、ぬいぐるみ買ってくれて有り難う
えへへ、嬉しいな(水着ピンナップ参照)
あれ? 誰かに見られてる・・・?

イエロー君って言うんだね、よろしくね
ビーチバレー楽しそう
いいな、私もやりたい
え、何で私はダメなの?(しゅん)
う~ん・・・それじゃあ私は応援するね
エミリオさん、イエロー君、頑張れ!

試合終了後エミリオさんとイエロー君にドリンクの差し入れするよ
エミリオさん、どこ行くの!?
ごめんね、イエロー君
私はエミリオさんのことが・・・

エミリオさん、もしかして怒ってる?
っ、エミリオさんは私のこと・・・妹だって思ってるんじゃなかったの・・・?

☆領収証
スポーツドリンク×2 100Jr 支払



アリシエンテ(エスト)
  (三男指定)
一瞬何が起こっているのか本気で理解が出来なかったから、つい『素・無表情』で沈黙してしまったではない!

そして状況把握
何というか…普通に、恥ずかしいわね
質に賭けられているのがエストの方ならば、殺す気で襲い掛かれるというものを…(ポソリ)

(試合中)
「本当に、私の全てを受け止めてくれると言うのね…?」思わずうっすらと浮ぶ黒い笑みが止まらない
エストのアタックに合わせて叫ぶ!

「では・受け取りなさい! どん底の・絶望を!!」
(嬉々として叫ぶ)


「エスト!アロマ水よっ!!」

投げて掛けるわ!
……え、容れ物ごと。だってそうしないとエストにちゃんと届かないではない

あ…頭にクリーンヒットした……(戦慄



かのん(天藍)
 
縹色のホルターネックビキニ、胸元と腰の左右に結び目風リボン
白地 肩を起点に薄墨日本画風の竜がプリントされたパーカー着用(天藍の物なので大きい、指先が袖口から少し出る程度)
スポーツドリンク2個(天藍と長男)
スコップ
メガホン確保
長男(苦手なタイプ)寄ってきた時点で天藍の背後に避難
巻き込まれた感に溜息
天藍?あの、やり過ぎないでくださいね
試合中
大声は苦手だけど声を出して天藍を応援
試合後
顔と片手だけ出した状態で埋められている長男にスポーツドリンク手渡し、まだ何か言うようなら氷の微笑をむける
天藍には笑顔を向けて飲み物とタオルを渡す
肩に片手を置き背伸びして髪についた砂を落としながら勝利とお礼の気持ちを贈る



テレーズ(山吹)
  「次男」

これは…まさかナンパでしょうか?
すごい、初めてです!
山吹さん、私キュートだそうですよ!

あ、勿論付いていく気はないですよ
山吹さん絶対勝ってくださいね!

水分補給は大事とアロマ水を準備しておきます
あれ、これ飲む用じゃないんですか?
んー、その用途でしたら終わったら山吹さんに渡し自分で使って貰う事にします

試合中は頑張って応援します
あんまり体を動かすの得意そうなイメージではありませんでしたが
流石に男の人ですね、とっても力強いです

試合お疲れ様でした
白熱していましたね!見ててどきどきしちゃいました

魚?
特に何もいませんでしたよ…って、あら?
スイカ!いいですね、きっとみんなで食べるスイカは美味しいですよ


イドゥベルガ=アイマー(御伽 世辞)
  性格設定:気さく
購入:スポーツドリンク…50jr

希望:四男

あや?なんッスか?
うちが可愛いッスか!?
うち、そんな事初めて言われたッスよ~♪
ありがとうッスー♪(ハグ

わーっ何するッスか?
…え?
挨拶しただけなのになんでそんなに怒ってるッスか?(きょとん

でも、うちの好きな人は御伽さんッス!
いわゆる一目ぼれって奴なんス!
だから、君の気持は嬉しいッスけどごめんなさいッス!

え、御伽さんがうちの為に戦ってくれるッスか!?
嬉しいッス♪

じゃあ、御伽さんが煩わしく思わないように隅でスポーツドリンクを冷やして応援してるッスね

えへへ、四男さんには感謝しなきゃいけないッス!
顔がにやけるッス~w

はい、スポーツドリンク♪


●長男レッドと天使の君

「愛らしい天使の君……白い肌に、露草色の水着が似合ってるな! 縹色っていうんだったか? でもその羽織ってるパーカーはだめだ。竜がプリントされているってことは、あんたの好みじゃないだろ? 腕も隠してるし、いや、その爪だけでも綺麗だけど。その服、そいつのもんか?」
 レッドは天藍を睨み付けた。かのんがレッドと話している最中に、天藍の背中の後ろの隠れてしまったからだ。
「人の神人、目の前で口説くとはいい度胸だ」
 天藍もまた、レッドを見やる。口から生まれてきたような、軽そうな男だ。気に入らない。かのんを口説くのならなおさら。
「こういう身の程知らずからの勝負の申し出は、後腐れのないように、言い値以上で買い上げて、叩きのめしてやらないとな」
 にやりと悪い笑みを浮かべる天藍の肩の上に、かのんが後ろからそっと手をかける。
「あの……やりすぎないでくださいね?」

●次男パープルとキュートな妖精

「キミはキュートな妖精さんか? たとえキミに羽根が生えていても、ボクは疑わないよ」
 パープルはそう言ってテレーズに腕を伸ばした。知らない男からの突然の愛の言葉。当然テレーズは逃げると山吹は思っていたのだが、テレーズは嬉々として山吹を見上げた。
「これは……まさかナンパでしょうか? すごい、初めてです! 山吹さん、私キュートだそうですよ!」
 山吹は内心肩を落とした。そこを喜んでしまうのか。
「まあ……お二人の合意があるのならば私の出る幕ではありませんが……自分の都合を押し付けて相手の意向を組まない人には、テレーズさんを渡したくはありませんね」
 自分とほぼ同じ位置にある青色の目を見る。パープルは口の端を上げた。
「へえ、キミが彼女の騎士(ナイト)というわけか。でも彼女はボクの誘いを不快には思ってない……」
 そこで、パープルの言葉を遮るようにテレーズが口を開く。
「あ、私もちろんついて行く気はないですよ。山吹さん、絶対勝ってくださいね!」

●三男ブルーと麗しのあなた

「試してくれても構いません。僕は麗しいあなたの全てを受け止めるに足る男です」
 アリシエンテは呆然と、無表情でブルーを見つめた。当然言葉はない。頭の中に浮かんだ言葉は「なに、何が起こっているの?」だ。
「どうしたんですか? 口がきけなくなっているのは、喜びのため? それとも感動ですか? ねえ、麗しのあなた」
 にこりと微笑むブルーの姿に、やっと自分が口説かれているという状況を把握する。それなりにきれいな男が自信満々に口説くというのは何と言うか――。
 普通に恥ずかしいわね……。
「アリシエンテ、どうしましたか? 貴方、またなにかしましたか?」
 追ってきたエストに、アリシエンテが状況を説明する。
「……珍しい。貴方が元凶ではないのですね。それにしても……」
 半ば呆れ絶句して、エストはブルーを見やった。アリシエンテにこんな情熱的な想いを向ける人がいるとは、いや、しかし。
 この男性とアリシエンテが? ありえないでしょうとエストは首を振る。
「……この方は、害はあれども利はなさそうです。排除しましょう。ええ、私がやりますよ」
「質にかけられているのがエストの方ならば、殺す気で襲いかかれるというものを……」
 アリシエンテのつぶやきは、誰の耳にも届かなかった。

●四男ホワイトとかわいいあんた

「そんな男と一緒にいるなよ! かわいいあんたには釣り合わないぜ」
 ホワイトのまっすぐな言葉に、イドゥベルガー=アイマーは目をキラキラと輝かせた。
「うちがかわいいッスか!? うち、そんなこと初めて言われたッスよ~♪ ありがとうッス~♪」
 そう叫んで、アイマーは目の前のホワイトをいきなり抱きしめる。
 焦ったのは御伽 世辞だ。
「おい馬鹿、いきなり何やってんだ!」
 アイマーの首根っこ……は水着のため素肌だったので、どうしたらいいかと一瞬悩み、肩のあたりを掴んで引き離す。
「アイマー、あんた一応女だろう……。不用意に男子に抱き付くのはやめろ」
「何するんッスか? あいさつしただけなのに、なんでそんなに怒ってるッスか?」
 アイマーのきょとんとした瞳が御伽を見る。
「あ、でも、うちの好きな人は御伽さんッス! いわゆる一目惚れってやつなんス! だから君の気持ちは嬉しいッスけど、こめんなさいッス!」
 御伽を見たり、ホワイトを見たり、アイマーは忙しい。謝られたホワイトはしばらく呆然とした顔をしていたがすぐに立ち直った。
「男がいるくらいなんだ! 俺が奪ってやるぜ!」
 御伽はため息をつく。
「とりあえずビーチバレーで勝負だったな。いいよ、受けてやる」
「え? 御伽さんがうちのために戦ってくれるッスか!? 嬉しいッス♪」
 喜ぶアイマー、いきり立つホワイト。脱力する御伽。まったく、巻き込まれた感がありありだ。

●五男イエローときれいな人

「エミリオさん、ぬいぐるみありがとう。えへへ、嬉しいな」
 ピンクのフリルがたくさんついた水着を着たミサ・フルールは、ペンギンのぬいぐるみを抱きしめている。
「ミサが喜んでくれて、俺も嬉しいよ」
 エミリオ・シュトルツはそんなミサを見下ろしていた。売店のぬいぐるみひとつでこんな笑顔が見られるのなら安いものだ。
 そのときふと、ミサが横を向いた。
「あれ……あの子」
 エミリオも視線を向けたが、そこでは気が強そうな少年が、ビーチボールを腕に抱え、ミサをまっすぐに見つめていた。
「どうしたの? 私に何か用?」
 ミサが話しかけると少年はぱっと頬を赤らめたが、目線はミサからそらさない。しかも口から出た言葉は「やっぱり近くで見ても、きれいな人」だ。
「お兄さん、このきれいな人を賭けて、ビーチバレーで勝負しましょう!」
 イエローがエミリオを見上げる。
 隣から、ビーチバレー楽しそう、私もやりたい、とミサののんきな声が聞こえるが、エミリオはそれどころではない。
 この少年は『ミサを賭けて』と言ったのだ。
「ミサは俺に希望をくれた大切な子なんだ。突然現れた奴に渡すわけにはいかない。相手が年下だろうと、俺は手加減しないよ」
「望むところです!」
 イエローは胸を張って声を上げた。
「僕たち兄弟に、即席チームがかなうなんて思えませんからね!」

●ビーチバレーで勝負!

 次男パープルのサーブで、試合はスタートした。
「山吹さん、頑張ってください!」
 ポーンと飛んできたボールをレシーブする山吹に、テレーズは声を上げた。傍らにはアロマ水の入った入れ物を用意している。
「やっぱり水分補給は大事ですものね」
「テレーズさん、これは飲むための水じゃないのよ。お店の人は汗をかいた体にかけるためって言っていたわ」
 隣に座るアリシエンテは、テレーズにそう声をかけた。
「え? そうなんですか? んー、その用途でしたら、終わったら山吹さんに渡して、自分で使ってもらうことにします」
 山吹が受けたボールはまっすぐに上がった。その下にエミリオが入り込む。腕を曲げ、ボールの中央を指ではじく形でトスをすれば、ボールはふわりと青空高くに舞っていく。
「エミリオさん、イエローくん、頑張れ!」
 ミサの声が聞こえてきて、エミリオは眉根を寄せた。まったく、どうしてミサは……。文句を言いたい気持ちを押さえ、今は試合に集中する。ここで負けたら、元も子もないからだ。
 エミリオが上げたトスは、天藍の元へ届いた。天藍は高くジャンプし、ネットよりもだいぶ高い位置でボールを打つ。それはブロックに飛んだレッドの顔に当たった。
「ぐえっ!」
 ボールははじかれ、再びウィンクルムチームのコートへ。
「やりましたね! 天藍!」
 メガホンを口にあてたかのんが叫ぶと、天藍は振り返り、小さく手を上げて答えた。
「レッド兄さんをよくもやったな……!」
「くそ、ちょっとでかいからって」
 相手チームの年少組が、口々に文句を言う。
 額を押さえ、レッドは唇をぺろりと舐めた。
「生意気な……。負けるわけにはいかねえな」


 戻ったビーチボールは御伽が受けた。
「やべっ!」
 少しだけそれたボールは山吹へと向かう。それを山吹がトスする直前、エストが大きく手を上げた。
「私に打たせてください!」
 アリシエンテはうっすらと笑みをうかべ、ブルーを見た。
「本当に、私のすべてを受け止めてくれるというのね……?」
 ブルーはごくりと息を飲んだ。当然ですと、返すより早く。
 エストが跳ね、手がボールに伸ばされる。アリシエンテが叫んだ。
「では受け取りなさい! どん底の絶望を!!」
 その一言で、エストはアリシエンテの想いを察する。抱えるものの多い彼女だから、ブルーが簡単に言った「すべてを受け止める」という言葉が気に入らなかったのだろう、と。
 となれば、狙うのは当然ブルーである。
 このボールを受けるべく腰を落として構えている彼の、腕ではなくあえて顔面を狙う。だん! という音とともに進むボールは、目標を違わず三男の眼前へ。
「え? ちょっと待ってくだ……ぶっ」
「やった!」
 アリシエンテは手を叩き、準備していたアロマ水を手に取った。
「この間に……エスト! アロマ水よ!」
 本来ならば、いい香りの水がエストにかかるはずであった。しかし……。

 ガゴッ!!

「アリシ……エンテ……?」
 どうしてあなたは、よりにもよって入れ物ごと投げるのですか……。
 頭を押さえしゃがむエストに、アリシエンテは告げる。
「だ、だって……入れ物ごとじゃないと、エストにちゃんと届かないじゃない」
 エストは一度大きく頭を振って、ゆっくりと立ち上がった。
「沸き立つ何かを感じますね。ええ、いい具合に闘争心が沸き起こりました」


 エストが倒れている間にも、試合は続いていた。ブルーの顔面から落ちたボールをホワイトが拾い、イエローが天高く上げた。打つのは次男パープルだ。
「妖精さん、見ていてね!」
 そんな叫びとともに撃たれるスパイク。結構な威力だが、後方へと下がった天藍があっさり受け止めた。しかしそれは思いのほかネットの近くに返る。その落下に合わせて膝を曲げたのは御伽である。
「行くぜっ!」
 相手チームの誰もが身構えた。しかし飛ぶだろうと思った瞬間御伽は飛ばず、スパイクが撃たれたのは、その数秒後だった。
「えっ?」
 相手チームの足元の砂を、ビーチボールが深くえぐる。
「一人時間差ってやつだっけ?」
 にやりと笑う御伽に、アイマーは手にしていたスポーツドリンクを高く上げた。
「御伽さん、かっこいいッス!」
 ボールを追う姿も笑う姿もかっこいい。こんな御伽が見られるなんて。
「四男さんには感謝しなきゃいけないッスね! 顔がにやけるッス~」


 兄弟とウィンクルムの戦いは過熱し、見物人が出るまでにもなった。多くの人の反応は「あのお騒がせ兄弟とよくやるなあ」である。

「俺の天使に笑顔を向けるな!」
「ふざけるな、かのんがお前のものになるか!」

「妖精さん、ボクのことも応援してくれよ!」
「テレーズさんをそんな呼び方、しないでください!」

「……ああ、麗しの人。僕の想い人は結構強烈な人のようですね」
「アリシエンテにお仕えできるのは、私くらいですよ」

「くそ、あの男を応援する姿もかわいいなんてっ! さっきは俺に抱き付いてきたのに」
「あんた、アイマーがどう見えてるんだ?」

「くそう、きれいな人には僕だけを見ていてほしいのに」
「ミサは渡さないって言ったよね?」

 最後の一点を求めて、十名の男たちが砂浜の上、ボールを追って暴れまわる。
 相変わらず自身とイエローを応援しているミサに目を向けため息をつきながら、エミリオはたった今ボールを受けた仲間へと、声を上げた。
「次は俺に上げて。もういろいろ我慢ならないよ」
「わかりました、シュトルツさん」
 山吹がエミリオに向かってボールを上げる。
 エミリオは高く飛んだ。大人げないとは思うけれど、手加減しないと宣言したし問題はないはずだ。
「行くよ、イエロー!」
 叫んで狙って、スパイクを。
 イエローはボールをレシーブすべく身を低くした。それはどんな因果か彼の指先へと当たってしまう。
「あっ」
「イエロー、何やっているんですか!」
 ブルーが飛んでいったボールに飛びついたが、あと少しのところで届かない。ボールは無情にも砂の上を転がっていた。
「お前ら、肝心なところでミスしやがって!」
 灼熱の砂浜に、レッドの叱責が響き渡った。

●戦い、その後

「勝ち? 勝ちッスね? 御伽さん、勝ちッス!」
 アイマーは両手を上げて、御伽の元へと駆け寄った。興奮のためか手の中で振られているスポーツドリンクはすっかり泡だっているが、気づかずそれを御伽に差し出す。
「はい、スポーツドリンク。どうぞッス!」
 満面の笑みに見上げられ、御伽は思わず目をそらした。なんでこんなに真正面から来るんだ。俺のことを好きならもっと恥じらうべきじゃないのか。とはいえ、好意を向けられるのは不快ではない。
「俺は……まあ理由もないのに好きと言われるのは理解できないが……お前を嫌いとかじゃない……からな」


「試合お疲れ様でした!」
 テレーズもまた、山吹に駆け寄った。アロマ水を山吹に渡して、笑顔を見せる。
「白熱していましたね! 見ていてドキドキしちゃいました」
 そうやって、山吹と、いつの間にかやってきたパープルにも声をかける。
「ボクたち強かったでしょ?」
「はい! 好勝負でしたね!」
 パープルとテレーズ。楽しそうに話す二人を見、山吹は言葉をはさむことができない。
 ……彼女は彼について行く気はないと言ってくれていたのに、この落ち着かない気持ちは何なのでしょう。
 どうしても、パープルとテレーズを引き離したくなる。
 山吹は見える海原を指さした。
「ああテレーズさん、あそこに珍しい魚がいますよ」
「魚?」
 素直なテレーズが海に近寄り、水面を覗き込む。その間に山吹は、貰ったアロマ水の蓋を開けた。テレーズについて行こうとしているパープルの腕を掴み、その水を頭から一気にかける。パープルが水滴を散らして振り返る。
「おい、いきなり何するんだよ!」
「いえ、暑そうでしたので」
 山吹はにっこり最上の微笑みを見せた。そこにテレーズが帰って来、濡れたパープルに首を傾げる。
「山吹さん、特になにもいませんでしたよ……あら? パープルさん、どうしたんですか?」
「どうしたもなにも、今この男に……」
 不満げに声を荒げるパープル。しかしその語尾に、山吹はあえて言葉をかぶせた。
「テレーズさん、みんなで一緒にスイカを食べませんか」
 テレーズはぽんと手を打った。
「スイカ! いいですね。きっとみんなで食べるスイカは美味しいですよ」

 文句を言いたいパープルも含めて、三人並んでスイカを食べている。
 この間に、元の自分に戻らなくては。
 どうしてあんな短絡的な行動をしたのか、山吹は本気でわからない。
「スイカ、冷たくて美味しいですね」
 テレーズばかりがご機嫌の笑みだ。


 ミサもまた、スポーツドリンクを手にコートに駆け寄った。
「お疲れ様、エミリオさん、イエローくん」
 にこにこと笑いながら、二人に向かってドリンクを差し出す。イエローは少々驚いた顔をしたもの受け取ったが、エミリオは手すら伸ばしてくれない。それどころか、ミサに背中を向けると、さっさと歩き始めてしまう。
「エミリオさん、どこ行くの?」
 声をかけても、振り返らない。
「ちょっと考えてあげてくださいよ、きれいな人」
 イエローが、ドリンクを開けながら言った。
 その言葉に、ミサはイエローに頭を下げた。
「ごめんね、イエローくん。私はエミリオさんのことが……」
「最初からわかってるから、追っかければいいでしょ?」

 早足で追いかけているつもりが、いつしか小走りになり、そのうちに駆け出していた。ミサの髪の上で、クリスタルの髪飾りアクエリアが、きらきらと太陽の光を反射して輝く。
 美しいからつけてきた。精霊の加護があったらいいな、なんて少しばかり思った。しかし今は、目の前にいる精霊、エミリオの方がよほど大切だ。
 ミサがエミリオの後を追って着いた先は、砂浜の端にある木の下だった。
「エミリオさん……もしかして怒ってる?」
 なんとか息を整えて恐る恐る声をかけると、エミリオは今度は無視せず振り返ってくれた。しかし顔には不満が満ちている。砂を踏み、ゆっくりミサに近づいて――ミサの背中を、木の幹に押し付ける。
 痛むほどではない。でも……怖い。
 エミリオは吐き出すような勢いで言った。
「ミサ、なんでアイツのことまで応援するの? ……その様子じゃ、俺たちがなんで勝負したのか、わかってないだろ?」
 なんで勝負したか……なんて。そんな……そんな言い方されたら、まるで。
 ミサは小さく口を開いた。
「エミリオさんは私のこと……妹だって思ってるんじゃなかったの……?」
 エミリオは眉根を寄せ、ミサを睨み付けた。
「いい加減気づけよ」
 丸で放り出すような、いつものエミリオとはまるで違う言い方だった。エミリオの顔がミサに近づく。トランスのキスより近く、耳元にその唇が埋まる。その耳朶に触れそうな、距離で――。
「俺はお前が……好きだ」
 囁かれる。
「え、あの、そんなっ」
 逃げようとしても逃れられない。ミサはうつむいた。どうしよう、なんて言ったらいいの。だってエミリオさん、普段と違うから。
 こんないきなり。答えられないよ。


 にぎやかな浜の方では、レッドが砂に埋まっていた。
「お前はさらし首の刑でも受けておけ。……とはいっても俺も鬼ではないからな。右手だけは出しといてやる」
「……暑いぞこれは」
「自業自得だ。口説くんなら男連れ以外の子を探すんだな」
 スコップを持って見下ろしている天藍の隣から、かのんはレッドにスポーツドリンクを差し出した。
「一応、死なれたら困るので」
「おお、君は天使じゃなくて女神だったのか。そこの悪魔な男よりも俺のほうが……」
 破顔しなおも言葉を重ねようとするレッドに、かのんは氷さながらの笑みを向ける。
「……氷の女王か、それもいい」
 レッド、懲りない男である。

 そんなレッドを浜に残し、かのんと天藍は木陰に向かった。レッドはさすがにずっと放置はまずいだろうが、そのうち掘り起こせば問題はないだろう。
「お疲れ様」
 かのんは笑顔で、天藍にタオルとスポーツドリンクを差し出した。その時ふと、彼の髪が汚れてしまっていることに気付いた。
「あれ、天藍、髪に砂が……。ちょっと待ってください。とりますね」
 あれだけ砂の上で暴れたのだから、仕方がない。そのまま払おうとしたのだが、頭上は良く見えず様子がわからない。かのんは片手を天藍の肩に置いて背伸びをした。黒髪についた砂を丁寧にはらう。
 天藍がこんなになるまで頑張ってくれたのは、私をレッドさんに渡さないためなんですよね……。突如温かい気持ちが胸の内に生まれ、かのんはおずおずと口を開いた。
「……勝ってくれて、ありがとうございます。あの、嬉しかったです」
 どうしたらこの感謝を伝えられるだろう。考え、かのんはためらいがちに、天藍の頬に口づけた。頬へのキスはトランスするときもしているが、それよりは短い、一瞬にも満たない時間。でも普段と違う理由で行うキスに、一気に顔が熱くなる。
 顔を上げることができなくて、上目づかいに天藍を見る。天藍は目を見開いて、かのんを見ていた。
「今日はやけに大胆だな。……いや、問題はないが……そうか、くだらない戦いだったが、勝った甲斐があったな!」
 天藍の一気にはじけた高揚は、試合の余韻か、キスの余波か。
 片腕でかのんの肩を抱きその頬に、天藍もまたかすめるだけのキスをする。
「ちょ、天藍?」
「はは、真っ赤だ。たまにはこんなことがあってもいいな」
 天藍は高らかに笑った。



依頼結果:大成功
MVP
名前:かのん
呼び名:かのん
  名前:天藍
呼び名:天藍

 

メモリアルピンナップ


( イラストレーター: 白金  )


エピソード情報

マスター 瀬田一稀
エピソードの種類 ハピネスエピソード
男性用or女性用 女性のみ
エピソードジャンル コメディ
エピソードタイプ ショート
エピソードモード ノーマル
シンパシー 使用不可
難易度 とても簡単
参加費 1,000ハートコイン
参加人数 5 / 2 ~ 5
報酬 なし
リリース日 07月14日
出発日 07月21日 00:00
予定納品日 07月31日

参加者

会議室

  • [7]アリシエンテ

    2014/07/20-08:47 

    最終日ね……
    自分がお姫様状態では、プランがワイルド過ぎて落ち着かないわ……
    それでも後ろの方から、『悪いが、今回のプランは親密度もらえて2だ!』という悪魔のような声が…!

    頑張りましょうっ!全力疾走ーーーっ!

  • 今日で最終日ッスね~…
    これ以上書き込みないなら、うちは四男さんでいっちゃおうかなぁって思ってたッス!

    ということで、頑張ってビーチバレー頑張るッスー♪(えいえいおー♪

  • [5]テレーズ

    2014/07/17-21:17 

    こんばんは、テレーズと申します。
    今回はよろしくお願いしますね。

    面白い兄弟さん達ですねー。
    ビーチバレーどうなってしまうのか今から楽しみです!
    こちらは次男さんかなーってところですね。

  • [4]ミサ・フルール

    2014/07/17-08:20 


    ミサ・フルールです。
    ディアボロのエミリオさんと一緒に参加します。
    かのんさん、アリシエンテちゃん、テレーズちゃんはお久しぶりです、また会えて嬉しい!(笑顔で手を振る)イドゥちゃんは初めましてだね。私のことは気楽にミサって呼んでくれると嬉しいな(微笑み)

    皆さんどうぞよろしくお願いします(ぺこり)

    >希望する対戦相手

    第1希望:五男
    第2希望:四男

    エミリオさんも希望する相手が被っていたら他の兄弟でいいと言っていたので、その時は遠慮せず言ってくださいね。

  • 皆さんこんにちわの初めましてッスー♪(両手上げて楽しそうに挨拶

    うちはイドゥベルガ=アイマーって言うッス!
    本名は長いからイドゥって呼んでくれると嬉しいッスー♪

    うちはしゃべると残念って良く言われるからあれッスけど
    思わぬところで需要があったんッスねぇ(しみじみ

    >希望兄弟
    うちは四男か五男推しで行きたいッスー♪
    勿論重なるなら他の人でも構わないッスー♪

  • [2]アリシエンテ

    2014/07/17-00:26 

    今回は、テレーズさんとかのんさんと……久しぶりだわっ、ミサ!!
    イドゥベルガさんは初めてねっ。どうぞ宜しくお願いするわっ!
    (皆さんに、嬉しそうに改めて挨拶をして)

    そうね、個人的には三男の方が楽しすぎるわっ!
    是非言ってみたい台詞があるのっ、他の方と重なるかしらっ?
    重なるようならば、他の兄弟の方にするわっ!

  • [1]かのん

    2014/07/17-00:19 

    こんばんは、かのんと申します。
    何と言うか・・・な状況ですが、皆様よろしくお願いします。

    え~と、所で皆さんは、主な対戦相手の御希望あります?
    此方の天藍があまり年下の子を相手にするのはやりにくいみたいなので、第1候補に長男、時点で次男と言っているのですが・・・


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