性格反転?ミラクルドロップ(巴めろ マスター) 【難易度:とても簡単】

プロローグ

●不思議なドロップは如何ですか?
「お初にお目にかかります。僕はこういう者でして」
A.R.O.A.本部の受付にて。ぴしりとした白衣を身に纏った謎の美青年は、うっとりするような笑顔で受付の男へと1枚の名刺を差し出した。後ろには、同じく白衣を着た山のように静かな巨躯の男が控えている。
「ええと……『ストレンジラボ代表・ミツキ=ストレンジ』様、ですか」
「はい、僕はミツキと申します。あ、それからこっちは研究員のシャトラ。以後、お見知りおきを」
またにっこりとするミツキ。その後ろでシャトラと呼ばれた大男も、小さく頭を下げた。
「それで、ミツキ様。本日はどのようなご用件で?」
「ああ、実はですね、今日は我が研究所の最高傑作をお届けに参ったのです。是非ウィンクルムの皆様でじっけ……こほん。ウィンクルムの皆様にお試しいただければと思いまして」
――あれ、今こいつ『実験』って言いかけなかったか?
受付の男にじとーっとした目つきを向けられるも、ミツキはそれを気にする様子もなく相変わらずにこにこしている。
「シャトラ、例の物を」
にこにこ顔のまま存外厳しい声でミツキはシャトラに言いつけた。シャトラが無言のまま、受付カウンターへと置いたのは――ドロップの缶?
「これは、舐めた者の性格を一時的に本来のものと真逆にしてしまう不思議なドロップです。名づけて、『性格反転ドロップ』!」
何て安直なネーミング。そして、漂うあからさまな怪しさ。
受付の男の疑るような視線に気づいてか、ミツキは柔らかな笑顔のまま再び言葉を紡ぎ始める。
「ええ、ええ。この世紀の大発明、にわかには信じがたい気持ちもわかります。――シャトラ」
ミツキは相変わらず笑顔のまま、冷たい声で研究員の名を呼んだ。すると呼ばれたシャトラは、相変わらず無言のままドロップを缶から1粒取り出して、一切の躊躇なくその口に放り込む。
しばしの沈黙。それを破ったのは、受付の男の呆れ果てたような声だった。
「……何も起きませんね。ええと、申し訳ありませんが一旦お引き取り……」
いただけませんでしょうかと、男は話し切ることができなかった。ドン! と乱暴にカウンターが叩かれる。叩いたのは、シャトラだ。ミツキはその様子を、にこにこしながら眺めている。
「御託はいいからさっさとウィンクルムを出せ! これ以上ミツキを待たせるな」
低いどすの効いた声でシャトラは言って、受付の男を睨みつけた。先ほどまでの静けさが嘘のような荒々しさと剣幕に、受付の男は身を引く。ミツキが口を開いた。
「どうです? これで信じていただけましたでしょうか? 御覧のように、ドロップを舐めた者の性格は180度変わりますが、その本質は変わりません。シャトラの僕への忠誠心が、ドロップを舐める前と後で変わらないように」
だから色々な使い方ができるはずだとミツキは言う。
「普段は素直になれない方も、このドロップを舐めれば素直に自分の気持ちを相手に伝えることができます。こっそり知り人に舐めさせるのも面白いかもしれませんね。意外な反応が見えるかも」
つらつらと流暢に語るミツキ。受付の男は、シャトラの恐ろしい豹変ぶりにビビリながらも、やっとのことで声を上げた。
「で、ですが、シャトラ様が演技をしている可能性も……」
「貴様、何だと?!」
「ひっ……!」
「シャトラ、止めなさい。失礼ですよ」
ミツキ、やんわりとシャトラを諌め、にっこりとして曰く。
「それこそ、ドロップを口にしていただければ嘘か真かは自然わかること。ウィンクルムの皆様にお試しいただいてこれはインチキだということになりましたら、勿論責任は取らせていただきます」
ですからどうか話を通してほしいとミツキ。シャトラにぎろりと睨みを効かされて、受付の男はこくこくと頷いた。
「ありがとうございます。いやあ、貴方が物分かりの良い方で本当によかった。あ、そうそう、ドロップは1粒300ジェールになります。ウィンクルムの皆様によろしくお伝えくださいね」
――金、取るのかよ。
受付の男は、心内で密かつっこみを入れたのだった。

解説

●『性格反転ドロップ』について
プロローグにあるように舐めた人の性格を反転させるドロップ。
性格は反転しますが、その人が抱いている感情等は変わりません。
プロローグにて受付の男がインチキでは? と疑っていますが、効果は本物です。
効果が続く時間は個人差がありますが、数分~長くても数十分ほど。
どんなふうに性格が変わるのかプランにてご指定くださいませ。
お値段は1粒300ジェールです。
ちなみに味は普通のフルーツ味。色によって味が違います。
もしも味・色にこだわりがあればプランにてご指定を。

●『性格反転ドロップ』について2
手元のドロップは1粒のみ、性格を反転させられるのもお一組様につき1人のみです。
ドロップを手に入れたのは神人でもパートナーでも構いませんし、勿論2人でゲットした前提でもOKです。
2人でいる時に手に入れたドロップを片方が面白がって舐めてしまった、とか。
ドロップを手に入れたあなたは普段と違う自分になりたくてドロップを口に運んだ、とか。
手に入れたドロップを、何も知らないパートナーにこっそり食べさせたり、或いはその逆も。
上記以外の使い方も勿論歓迎いたしますので、お好きなように扱っていただければ幸いです。

●ストレンジラボについて
すごいのはすごいのだけれどもよくわからない物を研究開発しているタブロス市内の小さな小さな研究所。
研究所の代表で(性格はともかく)優秀な研究者のミツキと、研究員という名の雑用係兼実験体のシャトラが2人で頑張っています。
皆様のプラン次第ですが、2人ともリザルトには登場しないか、登場してもほんの少しの予定です。

●プランについて
公序良俗に反するプランは描写いたしかねますのでご注意ください。
また、白紙プランは描写が極端に薄くなりますので、どうかお気をつけくださいませ。

ゲームマスターより

お世話になっております、巴めろです。
このページを開いてくださり、ありがとうございます!

定番のハプニング物を色々お届けしたいなぁ企画、第1弾です。
Q.ドロップ1粒にしては値段が高くありませんか?
A.ミツキ「ええ、ええ。お気持ちはよくわかります。けれどこのドロップは、ただのドロップではありません。我が研究所の技術の粋を尽くした特別な逸品です。そもそもこのドロップは……(以下略」
皆さまに楽しんでいただけるよう力を尽くしますので、ご縁がありましたらよろしくお願いいたします!

また、余談ではありますがGMページにちょっとした近況を載せております。
こちらもよろしくお願いいたします。

リザルトノベル

◆アクション・プラン

リリコ・ゲインズブール(イーヴォ・ルミヤルヴィ)

  ……今日のいーくん、何だか雰囲気が違うみたい。
いつもは真面目で穏やかなのに、今の彼は強気で男らしいけど、何だかがさつで乱暴な感じがして……
確かに頼り甲斐があるようには見えるけど、でもいつもの彼の印象が強いだけに、どうしても違和感が拭えなくて。

そういえば昨日の彼、妙に思いつめた顔をしてたけど、何か関係があるのかな……


大変!彼が街の不良と喧嘩してる!
誰か止めて!彼が死んじゃう!


あのね、私はあなたのこと、弱いなんて思ってないよ。
人々の命を救うために一生懸命勉強してるあなたも、
私を守るために戦ってくれたあなたも、
どちらも本当の、優しいいーくんだもの。
背伸びなんかしなくても、私は今のあなたが大好きだよ。



八神 伊万里(アスカ・ベルウィレッジ)
  頭が固すぎるのが私の短所です
これで少しは柔軟な思考が身につくでしょうか…

自宅で使用
ズボラな性格になりスキンシップが多くなる
任務に熱心なのは変わらない
キャミソール姿でリビングのソファに寝そべる

あーアスカ君お帰り~
ねえ次の任務だけどアスカ君が決めちゃって
依頼書はその辺
だって暑いんだもん…(キャミ裾ぱたぱた)
依頼のドロップ舐めたらなんだかきっちりしてるのが息苦しくなって
別に面倒だから丸投げしたわけじゃないよ
最初の任務(ホテル・エンプーサ)の時に言ったよね?
「私はアスカ君を信じてる」って

えいっ!仕返しのハグ~!
…!?きゃぁあああっ!?(照
わ、私どうして寝巻きを…
うぅ…お嫁に行けなくなったらどうしよう…



ロア・ディヒラー(クレドリック)
  面白そうなドロップをもらったけど・・・クレちゃんが舐めたらどんな風になるんだろう。効果の有る無しはっきりわかりそうだし、こっそり舐めさせちゃおう。

クレちゃん、飴あげる!レモン味の飴なんだけど、舐めてると味が変わるかもしれないんだって。試してみてっ。
(A.O.R.A玄関付近(そこそこ人目がある)で渡す)

え、あのクレちゃん?
(クレドリックが赤くなってあせってる!なんだか新鮮な・・・ちょっと面白いかも)
ちょっとクレドリックどこ行くの!?お、追わないと・・・

こんな所にいた・・・恥ずかしい!?(珍しい!)
森の時様子おかしかったよね、もう大丈夫?
・・・ん、まあいいよ安心するなら(不思議と恥ずかしくない)


エリー・アッシェン(ラダ・ブッチャー)
  変化
口数が減り笑いが消える。やや男性的な口調と雰囲気。一人称私、精霊呼び捨て。
悲観的で後ろ向き。一日が……早く終わってしまえば良い……。オーガに殺された友のことを思うと……涙が止まらない。私は無力だ。
通常時が心情を秘めるのに対し、反転時は思ったことを素直にいう。オーガは……怖い。でも倒さねば。あの娘の意志は私の左手に引き継いだ。ラダと一緒だと……安心する。

変わらないもの
死んだ友との友情、オーガへの闘志、ラダに感謝、不気味趣味

精霊へ
性格が反転するドロップですか。まったく奇妙なものを食べさせてくれましたね。何? 私の性格が明るくノーテンキになると思った? ……人の心はそれほど単純ではないのですよ。


アマリリス(ヴェルナー)
  性格が反転ですか
効果はいかがなものか興味はありますのでヴェルナーに渡してみますわ
別に食べろとは言っておりませんもの
あくまで食べるかどうかヴェルナーに委ねますわ

…ヴェルナー?本当にヴェルナーなのですか?
何やらチャラ…いえ、言動が軽いですわね
あ、あの、少し距離が近いですわ

なんでしょう、この主導権を握られる事への腑に落ちない気持ちは
あの鈍感っぷりさえなければとは常々思っていましたが
察しがいいヴェルナーというのも中々違和感がありますわ
いつの間にか慣れてしまったのかしら…

あら、効果がきれたようですね
ヴェルナー、わたくしの事は好きですか?
ふふ、素晴らしい回答です
それでこそヴェルナーですわ
抓りたいですが



●メロンドロップと大パニック
「頭が固すぎるのが私の短所です」
自宅にて。八神 伊万里は、自分の瞳によく似た緑色のドロップを電灯の光にかざして、ぽつり独り言を漏らした。そして、えいっ! とばかりにドロップを口の中へと放り込む。
(これで少しは柔軟な思考が身につくでしょうか……)
彼女らしく生真面目に思いながら口の中で転がすドロップは、メロンの味がした。

「ただいまー……うえぇっ!?」
八神家に住み込んでいるアスカ・ベルウィレッジは、帰宅しリビングに入るや否や、思わず妙な声を零してしまった。眼前に広がった、常とは異なる光景へのあまりの驚きのためである。
「あー、アスカ君お帰り~」
ソファにべたりと寝そべっていた伊万里が、顔だけ上げてアスカに笑いかける。キャミソール1枚という普段の彼女からは想像もできないような姿、そして、らしくなく乱雑な様子の部屋。
「あ。ねえ、次の任務だけどアスカ君が決めちゃって。依頼書はその辺」
のろのろとソファに座り直しつつ言葉を続ける伊万里。指し示された場所には、幾らかの依頼書がいかにも適当に置きました的な感じで散らばっている。
(きわどい格好だわ、だらしない姿勢だわ、部屋散らかってるわ……)
どこから突っ込めばいいんだ? とアスカはしばしフリーズし、キャミソールの裾をぱたぱたとしている伊万里の姿を見て、
「やめろって! はしたない!」
と半ば反射的にお母さんのようなことを口走ってしまった。伊万里が口を尖らせる。
「だって暑いんだもん……」
「暑いんだもんじゃない! おい、しっかりしろ! 暑さでおかしくなったのか?」
相棒のあまりの豹変っぷりに、アスカの混乱は収まらない。とりあえず彼女の肩を掴んで、頼むから元に戻ってくれとばかりに揺さぶれば、ゆっさゆっさとされながら伊万里が言葉を零した。
「なんかさぁ、依頼のドロップ舐めたら、何だかきっちりしてるのが息苦しくなって……」
「……え? ドロップ? 依頼?」
混乱を極めるアスカに、伊万里は気だるげに事のあらましを説明した。事情を知ったアスカの肩から、力が抜ける。
「……何だ。はぁ、よかった……」
事情を知って、思わず、本当に思わずアスカは伊万里を抱き締めた。伊万里の急な変化に、自分で感じていた以上に不安な気持ちになっていたのだとアスカはやっと気づく。それと同時に自覚した想いは。
(俺、伊万里のいる日常を心地良く感じるようになってきてるんだな)
そんなことを思うアスカの腕の中で、伊万里が口を開いた。
「アスカ君。私、別に面倒だから丸投げしたわけじゃないよ。最初の任務の時に言ったよね? 『私はアスカ君を信じてる』って」
言われて、アスカはホテル・エンプーサでのやり取りを思い出す。彼女に信頼されている、そのことを改めて知ることができたのが嬉しかった。
「……これからも俺が伊万里を守るから」
腕を解き、真っ直ぐに緑の目を見つめて決意を言葉にすれば、伊万里は嬉しそうにふにゃりと笑んだ。自然、アスカの目元も柔らかくなる。
(今のはちゃんと呼べた、かな)
等と思うアスカの腕に、今度は伊万里がとび込んできた。慌てて彼女を受け止めるアスカ。
「えいっ! 仕返しのハグ~!」
……なんてはしゃいでいた伊万里の頭の中で、不意に、パチン! と何かが弾けるような音が、した。
「……!? きゃぁあああっ!?」
突然真っ赤になり、アスカを突きとばさんばかりの勢いで彼と距離を取る伊万里。
「! 元に戻っ……」
「わ、私どうして寝巻きを……」
「!? ね、寝巻き!?」
つまり今まで夜はこんな格好の伊万里と一つ屋根の下……? とかつい思ってしまったアスカの前で、伊万里は混乱のあまり今にも泣き出しそうだ。
「うぅ……お嫁に行けなくなったらどうしよう……」
「だ、大丈夫だ! その時は俺が貰っ……」
「え……?」
「……何でもない」
どうやらアスカも、まだ混乱している様子。
(全部その妙なドロップのせいだ……!)
とりあえず今夜は眠れそうにないと、痛む頭を抑えるアスカだった。

●葡萄ドロップと彼女の心
A.R.O.A.本部の廊下を、ラダ・ブッチャーは機嫌よく歩いていた。手に入れたばかりの深い紫色のドロップは、ラダの手の中で、窓から差し込む光にとっておきの宝石のように輝く。
「ヒャッハーッ! 面白いものゲットしちゃったぁ。エリーに食べさせてみよっと!」
近頃ようやく打ち解けてきたような気がするパートナーのエリー・アッシェンは、このドロップを口にしたらどんな反応を見せてくれるだろうか。自然、ラダは悪戯好きの子どものような笑みを漏らした。と。
「あら……? うふぅ、こんなところで会うとは奇遇ですね、ラダさん」
本部の一室から顔を覗かせたのは当のエリーだ。ラダはこの素敵な偶然にぱああと顔を輝かせる。
「あ、エリー! ちょうどいいところに……」
エリーが首を傾げた。
「ちょうどいいところ、とは……?」
「あ、いやいや、何でもないよ! こっちの話、こっちの話!」
ちょっと休憩室ででも話していかない? と誘いをかければ、エリーはどこかいぶかしむような様子ながらも、「まあいいでしょう」と素直に応じた。

休憩室にて。オーガ退治について熱く語るエリーに相槌は打ちつつも、ラダは気もそぞろ。どのタイミングでドロップを渡そうかとそわそわしてしまうラダである。
「……と、いうわけなのですよ。ところでラダさん、さっきから全然私の話を聞いていませんね?」
「え。そ、そんなことないよぉ」
あ、そうだ! とラダは今まさに思いついたというように声を上げる。
「エリー、ドロップ食べない? 美味しいよぉ」
「ドロップ、ですか? うふふ。まあ、頂いておきましょう」
ありがとうございますと、エリーは受け取ったドロップを口に入れる。その様子を、ラダはわくわくしながら見つめていた。
(アヒャヒャ、きっと愉快なことに……)
なる、と思ったが、ならなかった。
「一日が……早く終わってしまえば良い……」
エリーの顔から、表情が消える。普段から明るい印象を与えるタイプではないエリーだが、俯いた顔は常とは比べものにならないほど暗い。
(え、何で?! ウヒャァ……なんか深刻な変化だよぉ!?)
予想外の反応に慌てるラダの傍ら、エリーの目の端からつうと涙が零れる。
「オーガに殺された友のことを思うと……涙が止まらない。私は無力だ」
静かに泣きながら、エリーは自らの左手の甲の文様をそっと撫でた。
「オーガは……怖い。でも倒さねば。あの娘の意志は私の左手に引き継いだ」
零される言葉は、ずしりと重い。ラダは狼狽する。常は、人に与える印象は暗くとも、メンタル面はタフなエリーである。その彼女が本気で悲しんでいるのを、ラダは初めて見たのだった。
(友だちを亡くしたことも、オーガ退治に熱心な理由も、今までボク知らなかったよぅ)
オーガが怖いくせにわざわざ自分から近づいていくエリーを変わっていると思っていたラダ。そこに、そんな理由があっただなんて。ラダは、文様に触れる彼女の手に、そっと自分の手を重ねた。
「ごめんよぅ、エリー。軽いイタズラのつもりで、こんな風に落ち込ませて泣かすつもりはなかったんだよぉ~」
真摯に謝り、ラダはエリーを慰めようとする。エリーが、顔を上げた。銀の瞳が、ラダを真っ直ぐに見つめる。
「ラダと一緒だと……安心する」
ありがとう、とエリーは言った。瞬間、彼女の頭の中で何かが弾ける。
「!? うふぅ……これは一体、どういうことでしょう……」
その顔に表情を取り戻したエリーが、どこか凄みのあるような笑みをラダに向けて。観念して、ラダは全てを白状した。
「成る程、性格が反転するドロップですか。まったく奇妙なものを食べさせてくれましたね」
「うう、ごめんよぉ。エリーの性格が明るくノーテンキになると思ったんだけど……」
ラダの言葉に、エリーはため息を零した。薄い笑みを浮かべて曰く。
「……人の心は、それほど単純ではないのですよ」
ごめんねと、ラダはもう一度呟いた。

●オレンジドロップと変身願望
夜の礼拝堂にて。イーヴォ・ルミヤルヴィは、A.R.O.A.本部で手に入れた橙色のドロップをぎゅうと握り締める。
「……今の気弱な自分を変えたい」
強張った声が、その口から漏れる。
「リリコさんを立派に守れるような、ウィンクルムとして恥ずかしくない、強く男らしい自分になりたい」
このドロップで、その望みが叶うなら……と、イーヴォはひとり胸の内に強く思った。

「……いーくん、だよね?」
翌日の朝のこと。イーヴォと顔を合わせたリリコ・ゲインズブールは、まだ夢でも見ているのだろうかと目をぱちぱちした。イーヴォの与える印象が、昨日までとは何だか違っていたから。そんなリリコに、余裕っぽく笑みかけるイーヴォ。
「どうしたんだよ、リリコ。そんな驚いた顔して」
口を開けば、リリコが感じた違和はより確かなものとなった。
「……今日のいーくん、何だか雰囲気が違うみたい」
思わず漏らせば、イーヴォはふっと口の端を上げて。
「俺はもう、昨日までのひ弱な坊やじゃねえんだ。これからはもっと戦闘技術やスポーツを特訓して、強くなってお前のこと守ってやるから、心配すんな」
何がどうなってイーヴォがこうなったのかわからないけれど、リリコを見つめる瞳の真摯さは変わらない。『守ってやる』という言葉は、やや横柄な物言いながらもどこまでも真っ直ぐだ。けれど。
(いーくん、いつもは真面目で穏やかなのに。今の彼は強気で男らしいけど、何だかがさつで乱暴な感じがして……)
確かに頼り甲斐があるようには見えるけれど、いつもの彼の印象が強いだけにどうしても違和感は拭えない。
(そういえば昨日の彼、妙に思いつめた顔をしてたけど、何か関係があるのかな……?)
自分のことを案じるリリコの心境には気づかずに、「ほら行くぞ」とイーヴォは歩き出す。今日は2人で本部へと出向く日だ。
「あ、ま、待って!」
リリコは慌てて、イーヴォの背中を追った。

事件は、本部へと向かう道中で起こった。リリコに目を付けた不良たちに、運悪く絡まれたのだ。
「おいおい、そんなビビんなくてもいいじゃねぇかよ、嬢ちゃん」
下卑た笑い声を上げる不良たちと身を固くするリリコの間に、イーヴォが立つ。
「い、いーくん……?」
「リリコ、お前は下がってろ」
言って、イーヴォはリリコを背に庇う。キッと不良たちを見据えるイーヴォ。
「弱い者いじめしか出来ないチンピラなんざ、俺の敵じゃねえ! 俺が相手になってやるぜ!」
まだ幼さの残るイーヴォに啖呵を切られて、不良たちはいきり立った。
「調子に乗ってんじゃねぇぞ、ガキが!」
そこからは一方的だった。いかにイーヴォが精霊とはいえど、多勢に無勢。それに、イーヴォは荒事の得意な性質ではない。
「誰か止めて! 彼が死んじゃう!」
警察を呼んだぞ! と見かねた誰かが叫んだ。不良たちが慌てていなくなれば、後に残るのは傷だらけで地に倒れ伏すイーヴォ。リリコはイーヴォの元へと駆け寄った。
「いーくん!」
泣きそうな声で呼べば、イーヴォは拳をぎゅうと握り締めて。
「……何だよ、性格が変わっても、力は変わんねえのかよ……俺はまだ、自分の女一人守れない、ひ弱な坊やのままなのかよ……ちくしょう」
悔しいと零すイーヴォの声は、泣き出しそうに震えていた。
「あのね、私はあなたのこと、弱いなんて思ってないよ」
どうやら、イーヴォに大事はないようだ。そのことを確認したリリコは、彼へと優しく声をかける。
「人々の命を救うために一生懸命勉強してるあなたも、私を守るために戦ってくれたあなたも、どちらも本当の、優しいいーくんだもの」
イーヴォが身を起こし、リリコを見つめる。リリコは彼へとそっと笑みを零した。
「背伸びなんかしなくても、私は今のあなたが大好きだよ」
瞬間、イーヴォの頭の中で、パチンと何かが切り変わる音がする。
「……リリコさん、僕……」
「助けてくれてありがとう、いーくん」
リリコの言葉に、イーヴォは僅か口元を柔らかくした。

●レモンドロップと好奇心
「面白そうなドロップをもらったけど……」
A.R.O.A.の正面入り口付近にてクレドリックの来るのを待つロア・ディヒラーの胸に、むくむくと湧く悪戯心。
「……クレちゃんが舐めたらどんなふうになるんだろう」
純粋に興味があるし、それに彼ならば効果のあるなしもはっきりとわかりそうだ。こっそり舐めさせちゃおう、とロアが密か心に決めた、その時。
「ロア、待たせてしまったか?」
汚れた白衣の裾をはためかせて、当のクレドリックがやってきた。好奇心を胸の奥に押し隠し、「ううん、私もさっき来たとこ」とロアは答える。そして、何でもないようなふりをして作戦を決行した。
「クレちゃん、飴あげる! レモン味の飴なんだけど、舐めてると味が変わるかもしれないんだって。試してみてっ」
差し出すは日の光に煌めく澄んだ黄色。何を疑うでもなく、クレドリックはロアの手からそれを受け取った。
「ふむ、味が変わるのかね? ちょうど甘味が欲しいところだった。貰おうか」
口に放り込めば――何故だろう、じっと自分を見つめるロアの瞳が、きらきらと輝いているような。
(……しかし、変わるどころかレモン味のままなのだが……? ……!?)
口の中に広がる味は微塵も変わらないが、何かスイッチの切り替わったような感じがした。途端、自分を見つめる紫の瞳を直視できなくなり、クレドリックは視線を明後日の方向に逸らす。
「……あの、クレちゃん?」
呼ぶ声が、妙に耳にくすぐったい。頬が火照るのは暑さのせいだけではないだろう。
「あ、飴をもらったからといって心を許したりなんてしない! 勘違いしないでくれたまえ! ……ま、まあ一応礼は言う」
この反応に、ロアは目を丸くした。まるでクレドリックではないみたいだ。
(クレドリックが赤くなって焦ってる! なんだか新鮮な……ちょっと、面白いかも)
なんて思いつついつもとは違うパートナーの姿をしげしげと観察していると、クレドリックはますます真っ赤になって。
「あ、あんまりこっちを見つめないでくれたまえ!」
言うなり、ダッと走り去るクレドリック。道行く人々が、何事かと足を止めたり顔を向けたり。
「ちょっとクレドリックどこ行くの!? お、追わないと……」
ロアは慌てて、クレドリックの背中を追いかけた。

「こんな所にいた……!」
ロアがクレドリックを追いつめた(?)のは、人目のない路地裏だった。視線は逸らしたままながら、息を切らせるロアにクレドリックは小さく言葉を零す。
「……すまない……恥ずかしくて」
「恥ずかしい!?」
珍しい! とロアは胸の内で声を上げた。ドロップの効果は抜群のようだ。最近、クレドリックの色々な姿を垣間見ているような気がする。と、そういえば。
「森の時も様子おかしかったよね、もう大丈夫?」
『夢喰い』の森での一連の出来事は、まだ記憶に新しい。大丈夫だと返す代わりに、クレドリックはこくと頷いた。
「森でもそうだったな。取り乱したところを見せた。……あの時とても安心したんだ」
『あの時』。夢から覚めたロアをクレドリックは抱き締めて、ロアはそんな彼の背をぽんぽんと叩いてやったのだった。
「だからその……ちょっと抱きしめてもらっても良いだろうか?」
それは、客観的に見ればあまりにも唐突な願いだった。けれど、その願いは何故だかすとんとロアの胸に落ちる。
「……ん、まあいいよ。安心するなら」
ロアは、クレドリックのことをそっと抱き締めてやった。不思議と恥ずかしくはない。ロアの腕の中で、クレドリックは頭の中で何かがパチン! と弾ける音を聞いた。途端、先ほどまでの奇妙な感じは消え、常の自分が戻ってきたことをクレドリックは把握する。
(先ほどまでの感じは何だったのか……あの飴のせいか?)
核心に迫りつつもクレドリックはロアを追及することはせず、黙してその心地良い温もりに身を委ねるのだった。

●苺ドロップと硬派な彼
「性格が反転ですか……効果はいかがなものか興味はありますわね」
「反転となると一体どんな性格になるのでしょうか。気にはなりますが少々不安ですね」
赤のドロップを日にかざし、ぽつりと漏らしたアマリリスにヴェルナーが続く。アマリリスは微笑みひとつ、ドロップをヴェルナーの手のひらに落とした。
「? アマリリス様……?」
「別に食べろとは言っておりませんわ。あくまで食べるかどうかはヴェルナーに委ねます」
にっこりと、アマリリスは笑みを零す。真面目で、忠誠心に厚いヴェルナー。アマリリスの『興味がある』との言葉を反芻し、彼が導き出した結論は。
「わかりました。万が一の事があるかもしれませんし私が試してみることにします」
よろしい、というようにアマリリスは笑みを深くした。覚悟を決め、ヴェルナーはドロップを口に運ぶ。甘い苺味が口の中に広がり、暫くの後にはドロップは溶けてなくなってしまった。果たして効果はあっただろうかと、ヴェルナーはアマリリスの方をちらと見やる。と。
「……アマリリス様の瞳の色は、私が口にしたドロップの色によく似ていますね」
するりと、言の葉が口から漏れる。
「? ヴェルナー?」
「ああいや、失礼なことを申しました。アマリリス様の瞳は、もっと高貴で美しい。まるで、一等質の良い宝石のようです」
そのかんばせに爽やかな笑みを浮かべて、ヴェルナーはアマリリスとの距離をごく自然に詰めた。あまりの変貌ぶりに、じり、と僅か後ずさるアマリリス。
「ほ、本当にヴェルナーなのですか? 何やらチャラ……いえ、言動が軽いですわね」
「軽いだなんて、そんなことはありませんよ。思ったことを口にしたまでです」
「あ、あの、さっきから少し距離が近いですわ」
動揺を見せるアマリリスに、ヴェルナーがくすりと笑み零す。
「アマリリス様。私の神人が貴方であることを、私はとても嬉しく思います」
言って、ヴェルナーはアマリリスの手を取りその場で跪いた。そして、契約の儀式の再現のようにアマリリスの手の甲に口づけを落とす。あまりの出来事に驚くアマリリスに、ヴェルナーが零すのは王子様の笑み。
「可愛い人だ」
「なっ……?!」
甘く囁かれ、動揺するアマリリス。主導権は、もうすっかりヴェルナーのものだ。
(なんでしょう、この腑に落ちない気持ちは……)
日頃の鈍感っぷりさえなければと常々思っていたアマリリスだが、察しがいいヴェルナーというのも中々に違和感があっていけない。
(いつの間にか慣れてしまったのかしら……)
そんなふうに思うアマリリスの傍ら、ヴェルナーの頭の中で、不意に何かがパチン! と弾けた。
「あ、れ……私は……?」
ヴェルナーの瞳が落ち着きなく揺れ、暫しの後状況を理解した彼は風のような素早さでアマリリスから距離を取った。
「し、失礼しましたアマリリス様!」
「あら、効果が切れたようですね」
「はい、どうやらそのようです。……それにしても、今までのあれは本当に私だったのでしょうか……?」
ひとり首を傾げるヴェルナーを見やりつつ、アマリリスはごく密かに安堵の息を吐く。そして、問うた。
「ヴェルナー、わたくしの事は好きですか?」
「好き……好き!?」
ヴェルナーの声が裏返る。そして彼はひとり目を伏せ思案の世界に沈み――やがて、ようやっと腑に落ちたとでも言わんばかりに晴れ晴れと顔を上げた。
「……成程。元に戻ったかの確認の為に私を試しているんですね」
どこまでも真面目にヴェルナーが言う。
「主として尊敬に値する方と思っております」
言い切った彼の顔は清々しいを通り越して若干ドヤ顔だ。この答えに、アマリリスはふんわりと笑みを零した。
「ふふ、素晴らしい回答です。それでこそヴェルナーですわ」
抓りたいですが、という言葉は胸の内だけで呟いて。



依頼結果:大成功
MVP
名前:八神 伊万里
呼び名:伊万里
  名前:アスカ・ベルウィレッジ
呼び名:アスカ君

 

名前:エリー・アッシェン
呼び名:エリー
  名前:ラダ・ブッチャー
呼び名:ラダさん

 

メモリアルピンナップ


エピソード情報

マスター 巴めろ
エピソードの種類 ハピネスエピソード
男性用or女性用 女性のみ
エピソードジャンル イベント
エピソードタイプ ショート
エピソードモード ノーマル
シンパシー 使用不可
難易度 とても簡単
参加費 1,000ハートコイン
参加人数 5 / 2 ~ 5
報酬 なし
リリース日 07月15日
出発日 07月22日 00:00
予定納品日 08月01日

参加者

会議室

  • [5]ロア・ディヒラー

    2014/07/20-00:15 

    こんにちは、リリコさん、八神さんは初めまして、ロア・ディヒラーと申します!
    エリーさんとアマリリスさんはお久しぶりです、またご一緒できて嬉しいです。

    このドロップ本当に効果あるのかな・・・
    ちょっとクレドリックに試してみようと思います。私のこと研究対象呼ばわりしてたので、たまには自分も実験体になってもらってもいいんじゃないかと。
    それにクレちゃん嘘とか演技とかしなさそうなので、本当に効果があるかどうかもわかりそうですし。どうなるかな。

  • [4]アマリリス

    2014/07/19-12:44 

    ごきげんよう、アマリリスと申します。
    初めましての方もお久しぶりの方もよろしくお願いいたします。

    不思議な効果のあるドロップですのね。
    本当に効果があるのか気になりますしヴェルナーに渡してみる事にしますわ。

  • [3]エリー・アッシェン

    2014/07/18-17:02 

    発言者:エリー・アッシェン
    八神さん、ロアさん、アマリリスさん、お久しぶりです。こうして顔を合わせると、ご一緒した冒険のことを思い出しますね。
    リリコさん、はじめまして。うふふ。エリー・アッシェンと申します。よろしくお願いしますね。


    発言者:ラダ・ブッチャー
    アヒャヒャ! 面白いもの手に入れちゃったぁ。
    エリーの性格が反転したらどうなるんだろうねぇ? 食べさせてみようっと!

  • リリコ・ゲインズブールです。よろしくお願いしますね。


    ……あれ? いーくん、いつもと様子が違うみたい……?

  • [1]八神 伊万里

    2014/07/18-00:49 

    八神伊万里とパートナーのアスカ君です。
    エリーさん、また一緒ですね!よろしくお願いします。

    ドロップは、私が舐めてみる予定です。
    性格が変われば、少しは柔軟な思考が身について
    もっと幅広い戦術が立てられるんじゃないかと思ったので。


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