【夏の思い出】ドレスアップビーチ(錘里 マスター) 【難易度:とても簡単】

プロローグ

「第二回美(女)男子コンテストを開催したいと思います」
「いつ言うんだろうと思っていたが意外と早く来たな」
 ミラクル・トラベル・カンパニーの残念なくせに熱意だけは人一倍のコンダクターが、今宵もまた会議用の個室を占拠して切りだした。
 ホワイトボードに異常なほどの達筆加減で書かれた一文は、過去に一度、テーマパークで開催されたもの。
 早い話が女装男子コンテストである。
「あれは盛況だったはずだ」
「思ったより盛況だったな」
「ならば! 二度目を! 期待しても! 良いだろう!」

 括弧、俺たちが。

「で、ちなみに今回の開催場所はどこだ」
 問いに、待ってましたと言わんばかりに青年はきらりと眼鏡的な物を光らせる。かけてないけど。
「バシオン・シーのゴールドビーチだ」
 がたんっ!
 もう一人の青年が立ち上がった。机の上で握りしめられた拳が、わなわなと震えている。
「お、お前、まさか……まさか、水着を……!」
 じょしのみずぎをだんしにきせるつもりですか。
 言わんとすることを察し、にやりと笑った青年。
「ふっ、そのまさかさ……と言いたいところだが、流石にそれは参加者が激減するだろう」
「何だって! 俺得なのに!」
「本音仕舞え」

 座り直して、気を取り直して、コホン。咳払い一つ。
 青年は取り出した。何処からともなく、大量のファッション雑誌を。

「夏には、サマードレスというものが、あるんだぜ?」
 水着の上から着用する、薄手の纏。
 もう一度言おう。水着の上から着用する、薄手の、纏。
 ひらりとした裾や袖からちらりと覗いてみたり果てはうっすらと透けて見えちゃったりする肌!
 ……を、なんで女子に求めないんですかは聞いちゃいけない。
「……俺、お前と同僚で、本当に良かったと思っている……」
 感極まって泣き出した。大丈夫かこの人たち。

 と、言うわけで。
「バシオン・シーにて開催されますイベントへの参加者を募集しております」
 イベント開催時間以外は自由行動可。ビーチで遊ぶのも良し、近くの町で食事や買い物を楽しむのも良し。
 あれこれ夏の魅惑が盛りだくさんのバシオン・シーへのツアーも兼ねて、興味と度胸がおありならば、ぜひご参加を。
 美しさを競うわけではない。可愛らしさも無くていい。
 恥じらいはあってもいい。何より楽しんでいれば万事オッケー!
 コンテストの参加者には漏れなく近隣食堂のお食事券がついてくる。
 優勝者はなんとツアー料金半額という餌……もとい特典もあるので、釣られてみても良いかもしれない。
「夏の海を、楽しく満喫しませんか?」

 括弧、俺たちが。なんて注釈がつきそうなのは、触れないであげて欲しい。

解説

第二回美(女)男子コンテストです。
第一回は参照しなくても大丈夫です。大体プロローグのノリです。
要するに女装してきゃっきゃうふふして下さいという事です。

●審査基準
楽しんでるね!(↑↑↑)
美しいね!(↑)
可愛いね!(↑)
恥じらい美味しいです(↑↑)

●費用
ツアー費用となりますので往復バス代にお食事つきできっかり1000jrとなっております。
なお、優勝者はこの費用が半額となります。

●衣装
貸衣装もございます(無料)
サマードレスというコンセプトで、スカート限定でお願いします。
片方だけが女装でもOKですが、ドレスを着ない場合でも水着は必ず着用してください。
男性用ちゃんとありますのでご安心ください。
女子水着でも、良いんですよ?

ゲームマスターより

残念コンダクターコンビ再来。
勿論今回もスタッフ一同女装にてお待ちしておりますので奮ってご参加ください。

リザルトノベル

◆アクション・プラン

柊崎 直香(ゼク=ファル)

  いつぞやのスタッフさんだ
今日もかわいいね!

衣装は自前
僕のワードローブを舐めて貰っちゃ困る
裾短め、花柄のサマードレスに
女物の白のレースビキニ

コンニチハ、みんなの直香ちゃんだよー
今日はこんな格好でごめん、はしゃいでたら濡れちゃった
とコンテスト前に海でこの服装のまま遊んでたら
多少は濡れてしまうわけで。それだけなんだけどね
裾ぺろりと捲ったりサービスは過剰ぐらいがちょうどいい
透けて水着見えちゃうけど計算通りです
ゼクが酷いことになるかもなので中和します

そんなわけで開催前は海で砂遊び城作り
頃合い見て帽子海へ飛ばされちゃったゼク取ってきて?
で後ろからドーンですよ

終わったらゼクを慰めつつのお食事会をしてあげよう


エルド・Y・ルーク(ディナス・フォーシス)
  『水着の上から着用する、薄手の纏……!』
そんな素晴らしいフェティシズム、この歳まで考えもしませんでしたねぇ

私も早速実践しましょう
水着はもちろん露出の多い黒メインに赤生地を差したビキニを
流石にこの歳で女性用は着れません
身体の傷が気になるところなので、ドーランで隠します
背中の傷はディナスにお願いしましょう

サマードレスは本気ですよ
色は純白。サイドは重ね布のスリットが腰近くまで入ったものをチョイスします
恐らく、水着が見えるか見えないかのスレスレ感がまた堪らないと思うのですよ
風が吹いて布地が揺れると恥じらいも出てくるというもの
思わず「きゃっ///」と身をよじりましょう
…これは、やみつきになりそうですねぇ



●騒然
「た、大変だ、大変だ……!」
「どーしたんです。参加者が集まらなくて企画倒れと化したんですか」
「馬鹿野郎! その手の需要は必ずあるもんだ!」
「先輩とかにですか」
「そう! じゃなくて!」
 手伝いに(無理やり)駆り出された新入りのコンダクターが、抑揚のない声で限りない悪意を放ちながら告げるのを意にも介さず、企画主の青年はがしりとその肩を掴んで詰め寄った。
「今回は、やばいぞ」
 鬼気迫るその顔に、やる気の欠片も無かった新入りの表情も、心なしか険しく引き締まった。

 ――ちなみに、そんな彼らの服装は、ふんわりとしたスタッフTシャツ(レディース)にふりっふりのミニスカート&ビーチサンダル(生足)という、間違いなく状況にはそぐわない格好であることを、余談として記しておく。

●あいつが帰ってきた。
「帰りたい」
 括弧、家へ。
 表情のない、若干白い灰のようにも見える様子で、ゼク=ファルは零す。
 そして記憶を遡る。
 所謂、どうしてこうなった。と頭を抱えたくなる、経緯を。

 およそ一時間前の、話。

 青い海と空、広がる真っ白な海岸と雲。おー、と歓声を上げた柊崎 直香は、ひょい、とバスから降りて、ゼクを振り返る。
「ゼク、おやつ持った?」
「ああ」
「お食事楽しみ。お魚新鮮だろうなー」
「ああ」
「ちゃんとイベント一緒に出ようね」
「ああ」
 ゼクの適当な返事は、投げやりなわけではなく、丸一日かかるパシオン・シー行きのバスに酔ったせい。
 ふらふらしているゼクだったが、意識の端で最後の台詞を拾い、ふと、思い出したように尋ねる。
「……そういやなんのイベントなんだ」
「お楽しみにー」
 にっこにこの直香についてイベント会場にたどり着いた途端、ゼクの表情が露骨に冷めたのは、言うまでもない。
 またか。またお前らか。口には出さない大人のゼクだが、顔面が語りまくっている。
「わぁ、いつぞやのスタッフさんだ。今日もかわいいね!」
 笑顔満点で受付スタッフに声を掛けた直香に、スタッフはTシャツの裾を広げつつはにかんだ。
「前回は急ごしらえだったんですけど、折角なんで今回は揃いの衣装にしてみました!」
「柊崎さんのアドバイスのおかげです!」
「そっかー、役に立てたなら何より」
「柊崎さんは今日も自前ですか!」
「ふっ、僕のワードローブを舐めて貰っちゃ困る」
「さすがだー!」
 にこにこと会話を楽しんでいる後ろで、ゼクがげんなりとしているのはもう振り返らなくても判っていた。
 だから、我関せずと言った体でいる彼を見ることはせずに、にんまり、直香は笑ったのだ。
「あのね、今回はスタッフさんにちょっと相談が……」
 企み事のあるのは明らかなその笑顔が、後に、小悪魔スマイルとスタッフ間で呼ばれたとか呼ばれなかったとかは、さておいて。
「ゼク、コンテストまでまだ時間あるから、ちょっと海で遊んで来よう」
 楽しげに腕を引いてくる直香に素直に従ってしまったのがゼクの運の尽きである。
 サマードレスに帽子を被った姿で砂浜遊びをしている直香が傍目には本当にただの少女にしか見えない。とか思っている場合ではなかったのだ。
「あ……」
 ふわり、悪戯な風に煽られて、帽子が海の方へ飛ばされていく。
 波打ち際に着地した帽子が攫われるのを見て、サマードレスの裾を摘まんだ直香が、しょんぼりとした顔で、言う。
「濡れちゃう。ゼク、取ってきて?」
 それが悪魔の囁きであったことは、後にならねば知れぬ事で。
 仕様がないなというような小さな溜息と共に浅瀬に屈んだゼクが帽子を拾い上げた所で、たたっと駆け寄った直香が後ろからドーン。
 どーん、あんど、ざっぱーん。
 あっという間にずぶずぶの濡れ鼠が完成だ。
「わぁ、ゼク大変。ずぶ濡れじゃない」
 棒読みだった。笑顔だった。さすがにイラッとした。
 ぽたぽたと水の滴る髪の隙間から睨まれて、肩を竦めた直香は、手を伸ばしてゼクを起こすと、シャワー室へ連れていく。
「ごめんね、ちょっと悪戯したくなっちゃって」
「はいはい……」
「着替え貸して貰えたから、着替えておいでよ」
「ああ」
 ――どこの誰に?
 シャワー室で濡れた服を預ける前に思い至るべきだった。
 今更慌てて出たところで、手遅れでる。何せゼクは全裸だ。
 敢えてもう一度言おう。全裸だ。
 しかもご丁寧な事にフェイスタオル一枚しか用意されていないため、腰に巻く事も無理だった。流石にこのまま更衣室から出ては社会的に死ぬ。
 突発ミッション「更衣室からの脱出」をクリアするには、嫌な予感しかしない『着替え』を身につけるしかない。
 痛む頭を抑えて、恐る恐る、用意されていた着替えを見て。
「…………帰りたい」
 十分ほど蹲っていたのは、仕方のない事である。

 そんなわけで、今に至る。
 鏡に映るのは濃紺のサマードレス。シンプルなデザインだが、まごうことなきひらひらドレス。
 ……を、纏った、180cm細マッチョのディアボロ(27歳男性)。
 ゼクは、泣いていいはずだ。
 だがゼクは、泣かなかった。
 大丈夫、意外と似合ってる。そう思ってなんとか心を繋いでいた。
 すっぱーんと扉をあけ放った直香がわーおと意外そうに驚く程度には、似合っていた。
「思ったより酷くない!」
「酷くなる予感がしてたならなんでやらせた」
「え、ノリと勢い?」
 しれっ。
 イラッ。
「まぁまぁ、ほらゼク笑って……は、無理か。適当に恥ずかしがってれば特殊嗜好の人に受けるんじゃない?」
 ふんわりと愛らしい笑顔で「諦めが肝心だよ」と諭されて。ゼクはもう何も言わなかった。

●新たなる刺客
 運命の悪戯とは、残酷な物である。
 むしろ言い様の無い感覚を突きつけてくる現実を運命の悪戯と言ってしまう辺りが残酷とかは聞こえない。
 とにもかくにも、頭の残念なコンダクター達のとんでも企画が、エルド・Y・ルークの耳に入ってしまった事が、彼のパートナーであるディナス・フォーシスにとっての何度目かになる誤算だった。
「水着の上から着用する、薄手の纏……!」
 がたん。比較的控えめに、けれど何かに駆り立てられるように、エルドは席を立ったのだ。そうして、嫌な予感がしたディナスを尻目に、優しく微笑んだのだ。
「そんな素晴らしいフェティシズム、この歳まで考えもしませんでしたねぇ」
 あ、これ参加する気満々だ。
 悟りは、一瞬。
 パシオン・シー行きのツアーバスに乗り込む前にミスター・エルドを説得できなかったディナスの負けなのだ。
「どうして僕までサマードレスを着なくてはいけないのでしょう……」
 ほろほろほろほろ。
 心の中でさめざめと泣きながら、ディナスはそれでも素直にエルドの体にドーランを塗っていく。
 まじまじと見ることの少ない主の肉体は、改めて見ても初老とは思えないほどに引き締まっているし、体中の傷からは決して浅くはない戦いの歴史が容易に想像できる。
 ライフビショップになる前にこれを確認しておけば。なんて、今更悔やんでも仕方のない事だった。
 とにかく今は、目立つ傷が隠れるよう、丁寧に背中へのメイクを施した。
「流石に傷だらけの体では薄手の纏には映えませんからねぇ」
 手の届く所は自分で。のんびりと穏やかな口調で傷を隠してはよしと頷くエルドが、黒ビキニであることをここらへんで明かしておこう。
 上品な黒には赤い生地を指し色に。優雅な色合いの水着の露出度は、お察しください。
「それにしても、男性用があってよかったですねぇ。流石にこの歳で女性用は着れません」
 ビキニと聞いて一瞬女性用を思い浮かべた貴方。(スタッフと)握手しましょう。
 それはさておき、傷補正メイクを終えたエルドが鏡で確かめているのを、ディナスは悲しい瞳で眺めて居た。
「ミスター……出来ればまず、歳以前に性別を考えて貰いたかった……」
「はて。何か問題が?」
「いえっ、なにも。何もないです」
 そんな今更過ぎるそもそもの事を言っては、コンテストそのものの存在を疑うようだと、口を噤む。
 が、むしろ疑ってもいいんじゃないかと思ったりしたのは、ディナスの心の中だけに秘めた事。
「さて、準備もできたところで、さっそくドレスを選びましょう」
 パートナーがやる気なのだ。
 そして楽しそうなのだ。
 たとえ明らかに「その手の嗜好のスタッフによる俺得企画」だとしても、それに自ら参加し、齢68にして少年のような瞳をしているエルドが居るのもまた事実。
 付き添う事になったのは誤算だけれど。
 やるからには、本気を出そうと決めたディナスであった。
「これなんか、涼しげでいいんじゃないですかねぇ」
「いやいやミスター、こっちの方が……」
「あぁ、確かにこれもまた……」
 時に。女性の買い物が男性に比べて時間のかかるものであるのは、周知の事かと思う。
 それが何故かというと、結果を重視する男性に比べ、女性は過程を重視する傾向にあるからだと聞く。
 女性にとっては、選ぶという時間そのものが、大切なのである。
 何が言いたいかというと、本気になるあまりドレスを吟味しまくる彼らは、ウインドウショッピングにはしゃぐ女子並に、それはそれは真剣かつ楽しそうにサマードレスをコーディネートしていたのだった。
 それが、後には戻れない道を着々と進んでいるという事には、気付かないまま……。

●張っちゃけたもん勝ちですよね?
 花柄のサマードレスの短めの裾が、白い太腿に張り付いている。
 うっすらと透けて見える水着は、白のレースビキニ。
「コンニチハ、みんなの直香ちゃんだよー」
 柊崎直香は、今回もノリノリだった。
「今日はこんな格好でごめん、はしゃいでたら濡れちゃった」
 どの口が言うか。とかなんとか、隣で灰になっているゼクさんが思ったとか思わなかったとかは、本人の心の内側だけの秘密。
 若干透けた感じを狙い済ましたあざとさがあったりするが、実際はしゃいでたのだから嘘は言っていない。
 美(女)男子コンテストのステージ上には、マイクパフォーマンスを楽しむ直香、遠い目をしているゼク。そしてエルドとディナスの姿もあった。
 本気×3+αという事態に興奮したスタッフが、もう全部まとめて見よう! 見せよう! むしろ見せろ! と予定の進行をそっくり無視して同時に立たせたという裏事情があったりするが、当人たちのあずかり知らぬところである。
 そうして居並んだ、美女と美少女とイケメンとおば……おじーちゃん。
 濃い。
 とにかく濃い。
 スタッフも騒然としていたが会場も騒然としていた。
「流石に夏の行楽地……イベント好きな人は、多いんですね……」
 思ったより観客が多くてほんの少し萎縮したディナスだが、今更後に引く気は微塵もない。
 何より己の素材が悪くないのは自覚していた。
 高いヒールのミュールをかつりと鳴らして、スレンダー美女と化したディナスがステージ上で歩み出れば、白のドレスが優雅にたなびく。
 美しい金髪がさらりと靡けば女性が騒ぎ、それを際立たせる白から同色のビキニ(女性もの)が覗き見えれば男性が騒いだ。
 ふうわりとしたドレスに揺れるドレープは、金と白を最大限引き立てる、エメラルドグリーン。
 ひらりと裾が翻れば、ムダ毛の処理もきっちり済ませた美脚が覗いた。
「おおおおおお!!」
 上がる歓声に、ぴくり、直香は反応した。
 そうしてすかさず、太腿に張り付いていたスカートを、さりげない仕草で捲った。
「うおおおおお!!」
 一層野太い声が上がった。
 最前列の野郎共が思わず下から覗き込んだとかそんなことはない……こともない。
「なかなかウケてますねぇ」
 さすが、と言うように微笑ましげに頷いたエルドのドレスはやはり、白。余計な色を伴わない純白は、きちんと纏めたエルドの白髪と合わせ、夏の日差しに煌めいた。
 重ね布のスリットの開きは、腰に近い。見える。ビキニ見える。見えそうで見えないぎりぎり加減がこのフェティズムには合うのだろうと踏んだエルドだが、その前にディナスや直香とは違った意味で見ごたえのある逞しいおみ足が惜しみなく晒されている方が重大である。
 夏、最高。なんて筋肉嗜好の視線が惚れ惚れと向けられている事なんてきっと気づいていない。
 と、そこへ流れ込んできた悪戯な風。ふわりと風にスカートが靡いた瞬間、エルドは「きゃっ」と恥ずかしげに身を捩った。
「うわああああ!!」
 なんか違う声が上がった。
 敢えて言おう、悲喜交々だったと。
 何かに目覚めた観客が居たかもしれない。
「……帰りたい……」
 括弧、ここじゃないどこかへ。
 遠くを見ているゼクだが、再びの悪戯な風に、咄嗟にスカートを抑える事は出来た。
 出来てしまった。
「きゃああああ!!」
 黄色い歓声が上がってしまった。
 びくりとして思わず振り返った直香が、いい笑顔でサムズアップしていた。
 なるほど、自然な仕草。なんてエルドがぶつぶつ呟いていたり。
 ぎりっ、と爪を噛む(ような所作をしている)ディナスにライバル目線を送られたり。
「いやぁ……四人、並べて良かったなぁ……」
「ですねぇ……先輩、ぐっじょぶ」
 舞台袖で、きらきらと微笑ましい、愛でる眼差しがあったことは、知らぬが仏という奴だろう。

●お疲れ様でした。
 コンテストは大盛り上がりだった。
 そして今回も、スタッフたちは好みやフェチという名の私情を大いに挟みまくった熱い議論を交わしている真っ最中。
 結果が出るまでは長くかかりそうだからと、イベント会場から程近い位置の食堂にて、配布されたお食事券でのんびりと食事を楽しむ姿が。
 ……見られるはずだった。
「殺して……誰か、殺してくださ……うぅっ」
 机に突っ伏して泣いているのはディナス。
「…………」
 組んだ手に額を乗せ俯いたまま、何も言わず微動だにしないゼク。
 イベント会場から(省略)にあったのは、目に見えて落ち込んでいる精霊二人を、パートナーの神人二人がのんびりと眺めて居る姿だった。
「ゼク~? ご飯冷めちゃうよ?」
「いやぁ、若い者には思い悩む時間も必要なのでしょうねぇ」
 生クリームの上のさくらんぼをひょいと摘まんでもぐもぐしながら、直香はひょいひょいとあちこちからゼクの顔を覗く。泣いてないのだけは把握した。
 軽食を口にしながらににこにこと見渡しているエルドは、傍目にはすっかり孫守りをしているおじいちゃん状態。
 だがこの老紳士、つい先ほどまでドレス姿だったのだ。
 色んな声と熱気に包まれた会場を思い起こし、楽しげに口元の髭を撫でた。
「あれはなかなか、やみつきになりそうですねぇ」
「次があるとしても一人で……ぜひとも一人でお願いしますミスター……」
 ディナスの涙ながらの訴えに、密かにゼクも頷いていたりした。
 と。そこへ勢いよく飛び込んできたのは、コンテストのスタッフ。
「ゆ、優勝者、決まりました……!」
「お疲れ様ー。で、どっち?」
 ぜぇぜぇ言ってるスタッフに水を差し出しつつ問いかけた直香に、一気に飲み干したスタッフは告げる。
「今回も、基本がペア参加、という事で、お二人とも楽しんでらした様子の、エルドさんディナスさんペアに優勝特典を、という意見で落ち着きました」
「おや。ディナス、優勝だそうですよ」
「ミスター……!」
 正直嬉しいようなそうでないような複雑な気分です。とは、言えなかった。
 ただ、頑張った甲斐はあった。咽び泣きだしたディナスをうんうんと見守るエルド。
 それをちらりと見やりながら、ちぇー、と悔しげな台詞を零しつつもにこにこしている直香を、ようやく顔を上げたゼクは見やって。
「……俺がやってもひどい事になるだけだから今後は……」
「個人的には今回はゼクさんに着て貰えたってことがとっても嬉しかったんですけどね! 柊崎さんぐっじょぶ!」
 きらきらのめで、いぇーぃと己の神人とハイタッチを決めているスタッフの台詞に、再び顔を覆ったゼクの心境は、と、言うと。
(このままだと、第三回、あるかもしれない……)
 推して、知るべし。



依頼結果:大成功
MVP
名前:柊崎 直香
呼び名:直香
  名前:ゼク=ファル
呼び名:ゼク

 

メモリアルピンナップ


エピソード情報

マスター 錘里
エピソードの種類 ハピネスエピソード
男性用or女性用 男性のみ
エピソードジャンル コメディ
エピソードタイプ ショート
エピソードモード ノーマル
シンパシー 使用不可
難易度 とても簡単
参加費 1,000ハートコイン
参加人数 2 / 2 ~ 5
報酬 なし
リリース日 07月06日
出発日 07月13日 00:00
予定納品日 07月23日

参加者

会議室

  • [3]柊崎 直香

    2014/07/12-23:50 

    …………。
    (死んだ魚のような目をした男が、いる。)

  • [2]エルド・Y・ルーク

    2014/07/11-23:37 

    初めまして、エルド・Y・ルークと申します。

    おや、参加者の方にこんなにも可愛らしい方がいらっしゃるとは。
    これは尚一層の事、懸命に努力に励まなければなりませんねぇ。

    この老体に女性物の水着は厳しいので、せめて精霊には女性物の水着を着て……
    ──おやおや、まあまあ。せっかくの楽しいイベント会場で『死なせてください…!』等と叫んではいけませんよ。

    物事には、覚悟と諦めが肝要です。
    あちらの勇ましい精霊の殿方であっても、スカートを履こうと云うのです。
    これは貴方が穿かないでどうするのですか。穿きましょう、ささ穿きましょう。ここは真剣勝負の場ですよ。

  • [1]柊崎 直香

    2014/07/11-02:26 

    はろーはろー。クキザキ・タダカです。よろしくどうぞ!
    第一回にも参加してたけど、基本はしゃいでるだけだよー。

    女装に慣れた感のある僕は水着もありかなーと思ってるサービス過剰系プラン。
    問題は毎度の精霊の方である。
    なんとかアレコレしてスカート穿かせたいところです。


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