プロローグ
広々とした温室を眺め、一人の老婦人が思案を展開していた。
庭師に手入れを頼んでいるこの箱の中の花達は、それはそれは美しい。
だけれど、物足りない。
それがなぜかは、少しだけわかっていた。
「私一人で眺めてもねぇ……」
昔は、主人と共に温室を歩くのが日課だった。
老いた彼が、居なくなるのは必然の事。
寂しいものだと、今更ながら感じる。
だから――。
「おばあさんの管理している温室で、お茶を頂きましょう」
A.R.O.A.に持ちかけられたのは、そんな誘いの話。
タブロス市街のとある邸宅、その裏手に大きな温室があるのだと言う。
青々とした芝生が十字の道を刻み、その一角に一つずつ、温室がある。
それぞれの温室が、春、夏、秋、冬と、季節に咲く花を咲かせているため、ぐるりとすべて廻ればそれだけで一年分の花を楽しめるのだ。
また、十字の中央には硝子ドームのかかったテーブル席があり、そこでお茶を楽しみながら花を眺める事もできる。
花の好きな老婦人の為に、夫が設えた物だと、聞く。
「ゆくゆくは市に寄贈して、一般公開も考えているそうですが、まだまだおじいさんとの思い出の残る場所だから、今回はウィンクルムの方だけ、招待させてほしいとのことです」
難しい事は、特には無い。
テーブル席でお茶を飲みながら老婦人と話をしても良い。
四季の花々を眺め歩いても良い。
ただ一つだけ、条件がある。
「最後に、写真を撮らせてほしいという事です」
花冠とブーケを作るのが趣味の老婦人が作った、揃いのそれを持って。
出来るなら、笑顔を、残してほしい。
「子供の、居ないご夫婦だったようで。娘や息子の結婚、なんていうのにも、縁が無くて」
だから、孫を愛でるような心地で、寄り添った二人の姿が、見てみたいのだと。
「そんな思いがあるからでしょうか、寄贈した際は婚礼衣装の前撮りスポットとして活用して頂こうと思っているようなので、その宣伝も、兼ねてみてはいかがでしょう」
ずい、と差し出したのはA3サイズのボード。
俗に言う、ウェルカムボードという奴を作ろうと言うことらしい。
希望があれば、それようの衣装も用意できるとのこと。
「いかがですか? 興味があれば、ぜひ」
ほんわかとした心地に、職員は笑顔満面で言うのであった。
解説
●できる事
・お茶を飲みながら老婦人とお喋り
・温室を散策
・ボード作り(材料費100jrかかります。レンタル衣装を使用する場合は+200jr)
大きく分けて三つです。
どれかに絞って頂いても構いませんし、全部して頂いても構いません。
ボード作りはせずとも、記念撮影は普通に致します。
なお、ボードは宣伝用なので、お持ち帰りはできません。
●記念撮影
ブーケと花冠。どちらかを付けて下さい。
神人がブーケなら精霊は花冠。逆でも可。
ブーケも花冠も、メインの花+小さな花幾つかとなります。
花の種類はお任せでも指定して頂いても構いませんが、メインの花はお揃いになります。
ゲームマスターより
乗り遅れ気味ですが、ジューンブライドしたかったんです。
撮影はジューンブライド感のためのおまけみたいなものですが、
思い切りドレスアップして、前撮り気分で頂いても、構わないんですよ…?
リザルトノベル
◆アクション・プラン
リーリア=エスペリット(ジャスティ=カレック)
素敵な温室や邸宅に心を躍らせる。 ジャスティと一緒に見に行ってみる。 一通り見て回りたい。 とくに、ジャスティが好きな花の多い春と冬の温室はよく見てみたい。 素敵な花々に心躍るが、ジャスティは考え事をしているのか、花を見ても反応がおかしい。 どうしたのか聞いてみる。 なんでもないと言う彼に対して、「あまり自分の中に溜め込み過ぎないでね。私じゃあまり頼りにならないかもしれないけど、少しは頼ってよ?」と伝える。 最近、少し考え込むことが増えたようだが、どうしたのだろうか。 (原因が自分だと気づいていない) 最後に、みんなと一緒におばあさんに歌のプレゼント。 あまり歌うのは得意ではないが、心をこめて歌う。 |
アリシエンテ(エスト)
ご婦人を喜ばせたいと思っているわっ! 貸衣装にウェディングドレスを借りて、エストには白のタキシードを 「わ、私とて恥ずかしいと思っているのだから、エストも着るべきだわ!一蓮托生よっ!!」 ウェルカムボード作成中その材料で、こっそりメッセージボードを作っておくわ エストに花冠は…似合わないわね、ブーケを持たせて恥ずかしいけれども私が花冠を頭に乗せて記念撮影をするわ 作ったメッセージボードに「おばあ様、ありがとう」の文字を添えて両手に持つのっ 解散前に輝の案に乗って皆で歌を歌う 歌なんて恥ずかしく性にも合わず一度も歌った事が無い 人生で初めて歌うけれども、連れ合いの方を亡くしたご婦人の為ならばやぶさかではないわね |
月野 輝(アルベルト)
四季の花が見れる温室なんて素敵よね この花達を育ててるおばあ様ってどんな方なのかしら? せっかく招待して下さったのだもの、おばあ様にも喜んで欲しいわね お好きな歌とか無いか、ちょっと事前に調べてみましょう そして同じ日に温室を見に行く方達にもお願い 素敵なお花のお礼におばあ様のお好きな歌をプレゼントしたいの 一緒に歌ってくれませんか? もしピアノがあれば伴奏できるのだけど… おばあ様とは少しお話ししてみたいわ どんな話を喜んでくれるかしら 孫のように思ってくれると言うなら どんな話でも喜んでくれるかも? (実家の祖母を思い出しつつ この間雨の中で散歩した話なんてどうかしら とても楽しく不思議な気分になった歌う鳥籠のお話を |
Elly Schwarz(Curt)
【心情】 僕、祖父母には先立たれていたので、お喋りはなんだか緊張します。 温室の四季の花々を眺め歩くのも楽しみです。 【行動】 僕は主に温室を散策したいです。 いろんな花を見るのは楽しいです。クルトさんは楽しく……ないですか? 老婦人に花の事、もっと聞ければ良いなと思います。 当日お礼として輝さん達皆さんと歌を歌う。 そこで僕は「歌唱」スキルで歌を担当しますね。 【記念撮影】 花冠(小さな色とりどりの薔薇×メイン:ピンクの薔薇) 笑顔を作るのは苦手です……って、あれクルトさん?どうしたんですか?? なんだか不機嫌そうですけど……へ? 構えって……相変わらずクルトさんは強引なんですから。(微笑) 【主に使用するスキル】 歌唱 |
フィオナ・ローワン(クルセイド)
少々変わった依頼ですが 公開予定の温室を先に散策できるのは楽しみです 散策前に、老婦人のもとで、お茶を飲みつつ この温室のお話を聞かせてもらいます (お花を植えた逸話とか色々と) そのうえで、中をゆっくりと見て回ります 「こうやって、居乍らにして、四季の花々を楽しめるだなんて…素敵ですね」 記念撮影はお衣裳も、ウェルカムボードもなしです これが、はじめてのお出かけですし 私たちはまだ、そこまで、親密でもないですので… クルセイドと寄り添い、写真に収まります 無論、笑顔を作って ブーケと花冠は薔薇を主としたものを選択します 主催者の老婦人のために、歌を歌うとのことですので 私達も、それに参加し、心を込め、歌います |
●君が一番
十字路の真ん中。くるりと見渡した四方には、硝子越しの色取り取り。
Elly Schwarzは少し緊張した面持ちで、老婦人に挨拶をした。
自身の祖父母はすでに先立っているエリーにとって、年配の、しかも、自分たちを自身の孫のような瞳で見つめてくる彼女と言葉を交わすのは、何だかどきどきする。
どうぞゆっくり見てきてね。優しく促されて、エリーはCurtと共に温室へと向かった。
踏み込んだ温室は、外とあまり変わらない気温。暖かな春のエリアを、エリーは好奇心に満ち溢れた顔で、一つ一つの花を、眺めて歩いた。
(……この件のエリーの好奇心は止められそうにないな)
花屋の手伝いをしている彼女をちらりと見て、クルトはほんの少し拗ねた顔をする。
エリーが楽しそうなのは、良い。百歩譲っても。
だが、そのせいで自分は置いてきぼり。
(つまらん)
クルトの表情は、ますます不機嫌になる。
「楽しんで頂けたかしら」
「はい、色んな花を見るのは楽しいです。ね、クルトさ……」
同意を求めるように振り返ったパートナーは、露骨だった。
先へ先へ、ゆっくりとだが勝手に進んでいくエリーを追って温室を一巡りした頃には、クルトの機嫌はすっかり底辺に至っていたのだ。
だが、表情にまともに出ているそれを、老婦人はくすくすと微笑ましげに見つめていた。
「ご一緒に、お茶でもいかがかしら」
硝子ドームの足元に設えられた席から、今しがた歩いてきた温室の景色を思い起こせば、お茶の味も華やかに彩られる。
老婦人に花の話を聞きながら、エリーは時々、クルトに相槌を求めるが、返るのは素っ気ない台詞ばかり。
(今回も、エリーに近づく事は出来そうにない、か……)
不機嫌の中に、少しだけ寂しげな表情が混ざっていたけれど、それはクルト一人の自覚だけ。
けれど、どうすればこちらを見るのだろうと、縋るような目でエリーを見つめていたことは、もう一人、老婦人には、知られていた。
記念撮影には、ピンクの薔薇をメインに、小さな薔薇を色取り取りにちりばめた物を選んだ。
エリーは花冠を。クルトはブーケを。それぞれに持ち、カメラマンの促しに寄り添って並ぶ。
笑顔を作るのは苦手だ。上手く動かない頬の表情筋を軽く解しながら、傍らの彼はと見やれば。この期に及んで不機嫌面だった。
「クルトさん? どうしたんですか? 何だか不機嫌そうですけど……」
さっきから、というのは、飲み込んだ。
小声の問いに、ちらり、エリーを一瞥すると、ふくれっ面が呟く。
「そりゃあお前が他の奴とばかり話してるからだろ、もっと構え」
ぱちくり。
その言葉に、エリーは瞳を瞬かせて、きょとんとして。
「構えって……」
繰り返した言葉の響きに、緩く、微笑んだ。
「相変わらず、クルトさんは強引なんですから」
「っ……!」
その顔に、クルトはぎょっとした……もとい、うっかりときめいた。
頬が紅潮するのを、自覚できるほどに。
「い、いきなり笑われると心臓に悪い! 不意打ちは卑怯だ!」
「いつも不意を打つのはクルトさんの方じゃないですか」
珍しく大慌てのクルトが、少しだけ、可笑しくて。
乏しい表情の中に笑顔が綻んだ瞬間を、カメラに収められていたのに気が付いたのは、後で渡された写真を見てから。
●幸福の形
大きな姿見の前で、アリシエンテは度々顔を覆いたい衝動に駆られていた。
(これもご婦人を喜ばせるため……!)
繰り返すアリシエンテの決意は固かった。
連れ合いを亡くした老婦人を喜ばせたい。そのために自分ができる事は何か。
考えた結果、アリシエンテは目一杯『婚礼』の装いを出すことにしたのだ。
純白のウェディングドレスに、ヴェール。それは美しい金糸に金色の瞳を持つ彼女を引き立てる色だった。
が、いかんせん、顔の赤いのは誤魔化せない。ヴェールで顔を隠して見ても、誤魔化せない。
裕福な家で、綺麗な服には何度も袖を通したはずなのだが、この特別な意味を持つドレスは、まるで別物だった。
(お、思った以上に、恥ずかしいものね……)
ぎくしゃくしながらも、アリシエンテは事前にもらったウェルカムボードの材料を見つめ、せっせと何かを作り始めた。
一方、そんなアリシエンテから白のタキシードを押し付けられたエストは、鏡で確かめた自分の姿に、やはり違和感を禁じ得ないでいた。
不思議な物を見るような目で、手袋をした指を、鏡の中の自分に這わせてみる。
けれど、不意にその顔に、微笑みが浮かんだ。
『エストもこれを着なさい!』
新郎服を渡してきた主の言葉は、あまりに突飛だった。
主旨的には温室で花を愛でて老婦人とお茶をする、と聞いていたはずなのだが、何故。と。
「ウェルカムボード」と「前撮りスポットとしての宣伝」と聞いて、一応の納得はしたものの、それならもっと相応しい相手を連れてくるべきだとも、思った。
けれど、動揺に狼狽えていると、ふと、彼女の姿が目に入って。
『わ、私とて恥ずかしいと思っているのだから、エストも着るべきだわ! 一蓮托生よっ!!』
顔を真っ赤にして、視線を泳がせ、それでも常と変らぬ凛とした態度を見せようとする彼女が、とても、微笑ましく思えて。
素直に、頷いていたのだ。
「似合うかどうかは、今一つ、判りませんが……」
アリシエンテの望みの傍らに立てるのは、光栄だったから。
「まぁ……素敵ね。とても」
着替えを終えて出てきた二人を見て、老婦人は幸せそうに笑った。
もっとよく見せて頂戴、と、ゆっくりと二人を見比べて、ぎこちなく顔を背けている二人に、微笑ましい顔をして。そっと、アリシエンテの頭に花冠を乗せた。
金糸に映える、白の百合。
それから、温かな心を示す、ピンク色のミニ薔薇を、あしらって。
「さぁ、折角の綺麗な姿、綺麗に撮って頂いて」
エストにも同じ花のブーケを手渡すと、カメラの前に立たせた。
微妙な距離を指摘されて、そっと寄り添ってから、数枚。それから、最後にもう一枚、と告げられて、アリシエンテは先ほど作っていたものを手に取った。
――おばあ様、ありがとう――。
両手に持って、満面の笑顔を見せたアリシエンテに、老婦人は目を瞠って。
涙の滲んだ瞳を細め、静かに、静かに、微笑んだ。
●思い出の色
夏も間近のこの季節にさえ漂うセンチメンタルな気配は、気温と、そこにある色のせい。
秋のエリアに差し掛かったフィオナ・ローワンは、人の気配が希薄な温室を、クルセイドと共にのんびり、歩いた。
人ごみの中に混ざるのは、苦手だ。事前公開という機会は、フィオナにとってありがたいものであった。
コスモスの花弁にそぅっと指先を添えて、フィオナは、温室に入る前に老婦人と交わした言葉を思い起こす。
「温室は、元々庭弄りの好きだった私の為に、主人が考えてくれた物なの。全部は無理だけど、業者の方にも頼みながら、あの人と二人で、お世話してきたのよ」
少女のような顔で語る老婦人の話を、興味深げに二人は聞く。
一番好きな花は、何かとか。思い出の逸話などは無いのかとか。聞きたい事は色々で、お茶がすっかり冷めてしまってから、ようやく飲み干し、礼を述べて温室へと向かったのだ。
「コスモスが、一番好きだと……言ってましたね」
「この家に嫁いで一番最初に植えた花、だったか」
淡く、濃く。ピンクを基調とした中に、時折見える黄色や白。
風の無い温室なのに、何故だか、それらは平原でそよ風に煽られているような光景に、見えた。
「こうやって、居乍らにして、四季の花々を楽しめるだなんて……素敵ですね」
元々老婦人は、季節の折々に花を植えて、楽しんでいたのだろう。
――季節感がなくなるじゃない、なんて文句も言ってみたわ。
笑って告げた老婦人は、それでも、と添えた上で、フィオナと同じ感想を口にしていた。
思い起こし、クルセイドもまた、頷く。
彼女の夫は、ああして自分が亡くなった後も笑ってくれることを、祈っていたのだろう。
「まぁ、たまには、こういうのも悪くはないな」
人の思いに、触れる時間というのも。
記念撮影の折、クルセイドは薔薇の花を基調としたブーケと花冠をそれぞれ見やり、悩んでいた。
(どちらも、女性向けの気がしてならない……)
脳裡に描いた一般的な花嫁姿は、花冠もブーケも所持しているものが多い。それが絵になるものだと、認識している。
かといって、二つともフィオナに押し付けて自分が何も持たないわけにも、行かず。
暫しの思案の後、きょとんとしているフィオナの頭に、花冠を乗せて。
ブーケは、二人で持った。
「これで、どうだろうか」
提案に、フィオナは寄り添う事で応えて。
「クルセイド」
にこりと笑顔を作ったフィオナが、見上げてくる。
「笑いましょう」
薔薇の中に、コスモスを一輪だけ添えたブーケを手に、写真に納まったクルセイドの表情は、常よりほんの少し、柔らかく見えた。
●傍で、笑おう
月野 輝がおばあちゃんっ子なのを、アルベルトは良く知っていた。
ゆえに、彼女が老婦人とゆっくり話をできるよう、執事の素振りでお茶の準備をしていた。
が。
「音楽を嗜まれているのかしら」
座って頂戴。促す老婦人の言葉のままに腰を下ろしたアルベルトは、持参し預けていたヴァイオリンの事を、尋ねられていた。
「ええ、まだ少しですが」
「あら、ヴァイオリンが弾けるのに、少しだなんて。謙遜が多い方なのかしら」
「そ、そう……かしら」
結構慇懃無礼です。とは、言えなかった。
老婦人が、孫の交際相手を見定めるような、どこかわくわくした顔をしているのだから。
「そのワンピース、とても似合っているわ。白いお洋服だから、色の多い物を、選んでも良いかしら」
「おばあ様が選んでくれる者なら、何でも!」
輝は綻んだ笑顔を見せながら、実家の祖母を思い起こした。
自分の祖母もまた、輝の話をいつだって楽しそうに聞いてくれる人だった。
そんな祖父母に懐いている輝もまた、楽しそうに話をしていたものだと、アルベルトは思い起こす。
「そう言えば、この間不思議なお散歩に行って来たの」
「まぁ、どんなお散歩?」
「雨の中でのお散歩だったのだけれど、ずっと音が聞こえていてね――」
アルベルトと二人、連れ立って歩いた路地の思い出。廃墟から響いてくる音色は、空っぽの鳥籠の歌声。
不思議な心地になった思い出を、老婦人はやはり、一つ一つに頷きながら楽しそうに、聞いてくれた。
一頻り話をした後、輝は綺麗な温室をわくわくと眺め歩いた。
見事な温室に、アルベルトもまた感嘆したような声を漏らして。
それから、記念撮影の前にささやかなドレスアップをした服をきちんと見直した。
そうして、輝は大振りのダリアにペチュニアの花などを添えた、老婦人が告げたようにカラフルな花冠を、アルベルトの頭に乗せる。
「普通、花冠を女性が被りませんか……?」
「だってよく似合うわよ、アル」
くすくすと笑う輝の言葉に、やれやれと肩を竦めたアルベルトは、カメラを向けられれば、さりげなく輝の肩に手を回した。
「ちょっと、アル……」
「手持無沙汰でして」
しれっとした顔で笑うアルベルトに、輝は一度だけむくれたけれど、綺麗なブーケを見つめれば、自然と、笑みが零れていた。
●心根の奥深く
ひやり、と。一瞬だけ肌の冷える心地がしたのは、そこが冬のエリアだったからだろう。
特にプレートが掛けられているわけでもなく、それでも気温で悟れる各々の温室。見渡せば、椿の花にポインセチアと赤の目立つ。
かと思えば、蝋梅やクレマチスなど、彩も綺麗に計算されたように配置されていて。
リーリア=エスペリットは心の踊るまま、歩み進んだ。
「冬にも、こんなにたくさんの花が咲くのね」
ほぅ、と独り言のように零した言葉は、そのまま、リーリア一人だけの耳に届いて、終わる。
返ると思っていた相槌のない事に、不思議そうに振り返れば、パートナーのジャスティ=カレックは、どこか心ここにあらずと言った顔で、ぼんやり、温室を眺めて居た。
「……え? あ、あぁ、そうですね、そうですね……」
じっ、と見つめた視線にようやく気付いたジャスティからの返答は、適当だった。
春と冬の花には、彼の好きな花が多いはず。だというのに、興味の乏しいような顔は、何を見ているのだろう。
(そういえば、最近考え事が多いみたい……)
緩く首を傾げて、そっとジャスティを見上げたリーリアは、そっと、どうかしたのか尋ねたけれど。
「なんでもありません」
すぃ、と、逸らされる視線。淡白ではないけれど、どこか突き放すような態度に、ほんの少し、眉を下げた。
彼がそう言うのなら、仕方がない。何でもないで納得するしか、無いのだ。
ふぅん、と抑揚のない声で呟いて、くるり、踵を返したリーリア。そのまま、一歩二歩とジャスティから離れてから、あのね、と呟いた。
「ジャスティがそう言うのなら、それ以上は聞かないけど……あまり自分の中に溜め込み過ぎないでね。私じゃあまり頼りにならないかもしれないけど、少しは頼ってよ?」
ね? と。肩越しに振り返ったリーリアに、ジャスティは目を瞠る。
それから、少しずつ、少しずつ、表情を緩めて、小さく微笑んだ。
「その時は、きっと」
「うん、きっとね」
穏やかに笑って再び温室を進みだしたリーリアのやや後ろに付きながら、ジャスティは胸中だけで溜息をついた。
理由は、折角リーリアが誘ってくれたというのに、楽しめていない自分の情けなさが半分。
もう半分は、その要因となっているのが、ほかならぬリーリア自身であるという事に、彼女が気づいていないだろうという、思い。
ここ最近のジャスティは、複雑な気持ちを抱えていた。
それはリーリアに対しての、感情。
初恋の少女に似た面影の彼女に、心癒される事もある。正反対の性格ゆえに反発することもある。それでも、パートナーとしてはまずまずの信頼関係は、あったと思っていた。
けれど時折、心の底に沈んでいるもやのようなものが、ふわりと胸中を漂っているような……そんな、不思議な感覚も、自覚していた。
不愉快なような、心地いいような。
自分自身にも判らない感情。整理がつくまでは自分の中にだけしまっておくつもりだったのだが、彼女にも伝わってしまっていたようだ。
「最近、考え事多いよね」
「……聞かないんじゃなかったんですか」
記念撮影にて、花冠を被ったジャスティの表情が相変わらずなことに、しれっと尋ねたリーリアは、手にしたブーケで口元を隠して笑った。
色とりどりのプリムラは、少女の笑顔を彩り、映えさせる。
そんな顔を見ていると、心配はかけまいと思ってみたり、いっそ気付けと思ってみたり。
(あぁ、また……)
もやが、漂う。
けれど、温室での彼女の言葉と表情は、もやを綺麗に払う優しさを持っていて。
何故だか、懐かしく感じた。
●感謝
どこからともなく運び込まれたキーボードはクルセイドに託して。
預けていたヴァイオリンを手に、アルベルトは輝に目配せする。
「おばあ様、どうか聞いてください」
硝子ドームの下で、きょとんとした老婦人。
今日という日を共にしたウィンクルム達は、全員で、この憩いの時間を提供してくれた老婦人へ歌のお礼をすることを決めていた。
彼女が好きな歌を調べ、声を掛けた輝は、少しの緊張を吐息と共に押し出して、代わりにたっぷり、息を吸った。
いつかの、機械仕掛けの鳥籠とは違う、人の紡ぐ音色。
エリーの美声を披露する相手が男で無くて良かったと心から思いながら、クルトはそっと、一番傍らでその声に聞き入る。
勿体無いと思うのは、ささやかな独占欲の表れ。
意外と上手く弾いているクルセイドを横目に、フィオナは夢中になれる話をくれた老婦人へ、精一杯の気持ちを籠めて歌う。
彼の奏でる音色も、今日の大切な収穫の一つ。
生まれてから一度も歌ったことなどない主が歌うとは思わなかった。
エストは意外な顔をしながらも、誠実足り得んとするアリシエンテの、ばつの悪そうな顔を見て、初めて、彼女を可愛らしいと思った。
得意でない事は自覚していた。それでも、籠められるだけの気持ちは籠めている。
リーリアとジャスティの声は、正反対な性格とは思えないほど、綺麗に重なった。
即興で合わせた曲は、コンサートのように精度の高いものではなかったけれど。
心を籠めて響かせたそれは、老婦人の瞳に涙を溢れさせた。
志を同じくしてくれた同好の彼らへ。
素敵な時間を齎してくれた老婦人へ。
それから、共に過ごしてくれたパートナーへ。
「また遊びに来るわね、おばあちゃん」
ありったけの感謝を籠めて、輝は朗らかに笑った。
依頼結果:普通
MVP:
エピソード情報 |
|
---|---|
マスター | 錘里 |
エピソードの種類 | ハピネスエピソード |
男性用or女性用 | 女性のみ |
エピソードジャンル | ハートフル |
エピソードタイプ | ショート |
エピソードモード | ノーマル |
シンパシー | 使用不可 |
難易度 | とても簡単 |
参加費 | 1,000ハートコイン |
参加人数 | 5 / 2 ~ 5 |
報酬 | なし |
リリース日 | 06月24日 |
出発日 | 07月02日 00:00 |
予定納品日 | 07月12日 |
参加者
- リーリア=エスペリット(ジャスティ=カレック)
- アリシエンテ(エスト)
- 月野 輝(アルベルト)
- Elly Schwarz(Curt)
- フィオナ・ローワン(クルセイド)
会議室
-
2014/06/29-20:56
歌のプレゼント、ね。
頑張って、心をこめて歌うわ!
私もそろそろプランをまとめないと…! -
2014/06/29-10:42
リーリアさんも、フィオナさんもご一緒させて頂いた事があるわねっ。今回もどうぞよろしくお願いするわっ。
庭園、気になるわよね……!自分もやりたい事が個別行動になってしまいそうだし、共同行動は「歌を歌う」だけに賛同するわ。
ちなみに自分も歌のスキルなど、そんな高尚なものは持ち合わせていない!(ぐっ)
そもそも歌自体が得意ではないから、蚊の羽音のような声が良い所ねっ!(無意味に自信満々)
さて、自分も仮プランを立ててしまいましょう。日付があるからと油断していると白紙提出という事になりかねないわ……(汗) -
2014/06/29-00:17
立て込んでてあまり顔を出せず申し訳ないです。
皆さんで行う事は「歌を贈る」で決まりそうでしょうか?
キーボードの持ち込みはどうなのでしょうかね?
日にちもありますし、心配でしたら問い合わせるのも手かと……。
では、この方向でプラン作成してみますね。 -
2014/06/28-23:28
リーリアさん、フィオナさん、何だかせかすような発言しててごめんなさい。どうぞよろしくね。
歌って、スキルがなくても歌えると思うのよ。
(リアルでも)習ってなくてもみんな普通に歌ってるものだものね。
だからお二人ともスキル無しは気にしなくても…私達も歌はスキル無いけど気にしてないわ(笑)
実際、以前別の依頼で、招待してくれた女の子のためにバースデーソング歌ったけど、普通にみんな歌えてたの。
ちなみに、私はピアノとかキーボード、アルはヴァイオリンとかギターなら弾けると思うわ。
でもピアノはさすがに無さそうよね……キーボード持ち込みってできるかしら…
えと、それぞれ皆さんやりたい事があるでしょうから、団体行動とまで行かなくてもいいと思うの。
プランの文字数も厳しい事だし…一つに絞って、歌って事でどうかしら?
事前調査の件は私が書いておくので、皆さんは「一緒に歌う」って事だけ書いて下されば…
それぞれ楽しんだ後に、帰る前にでも歌ってお別れ…とかだとスッキリ纏まらないかなって思うのだけど、
その辺はマスター様次第かしら?
と言う事で、歌を歌う事にさせて貰っちゃいますね。宜しくお願いします!
-
2014/06/28-10:24
おはようございます。ご挨拶、遅れて申し訳ありません。
初めての方は、初めまして。
そして、お会いしたことある方は、お久しぶりです。
フィオナと申します、よろしくお願いいたします。
依頼者のご婦人のために歌うアイデアは、悪くはないかと思います。
私は、まだ、それで身を立てられるほどではない(スキルなし)のですが。
歌も楽器も、無理というわけではないと思いますので(スキル習得予定)。
パートナーは…たぶん、楽器くらいはいけるかも、とは思うのですが…
…なんとか、頼んでみることにしますね。
ウェルカムボードの件、寄せ書きになるようでしたら、ふたりで、一言づつ書かせていただきますね。
寄せ書きになるようなら。割り勘、という手もあるのではと、ふと思ったのですが…
いかがなものなのでしょうか? -
2014/06/28-08:50
おはよう。
ちょっと遅れちゃった…。
初めての人と会ったことある人もいるわね。
私はリーリア。よろしくね。
えーと、おばあさんのために歌や楽器、メッセージを書いたボード作成についてかな?
私もパートナーも歌と楽器はあまり得意じゃない(スキルとってない)けど、それでも大丈夫だったら協力できたらと思うわ…。
あと、ちょっと温室も見たいので、そっちに行っちゃうこともあるかもだけど…。 -
2014/06/28-07:20
楽器は楽器で自分が音を出すだけで妙に恥ずかしいから、歌で……っ。
3組でも構わないと判断するわっ。残りのお二方は、いらっしゃるかいらっしゃらないかで考えて……
寄せ書きボードは……歌を歌う以外にもやりたい事があったりすると文字数的には厳しかったりするわね。個人的にレンタル衣装を着てご婦人を喜ばせてあげたいと思っているのっ。
あ、ボード作りの方ではなく、記念撮影でだったら「おばあ様、ありがとう」の文字を書いた小さな一言の看板を持って写真が撮れr……こちら、輝が[2]で発言していた内容ではないっ!orz
でも、どちらにしろ文字数的にはギリギリ入る位かしら?
1.歌を歌う
2.ウェルカムボード作成中にこっそりご婦人への感謝の言葉のボード作成
3.『記念撮影時』にそれを持って記念撮影
この位だったら入りそうな気がするわね。
私も上記がまだ没案でなければ、上記ウェルカムボードと自分の記念撮影用にご夫人への言葉を入れたメッセージボードをこっそり作成しようかと思う次第だけれども、如何かしら……? -
2014/06/28-00:26
エリーさん、賛同ありがと♪
アリシエンテさんも、苦手だって言うのに、やるなら頑張ってくれるって嬉しいわ。ありがとう(にこっ
アリシエンテさんが歌が苦手なのだったら、楽器って手もあるわよ。
何か弾けるものがあればそれを、なくてもタンバリンとかやりやすい楽器はあると思うわ。
ボードはそうなのよね、あれ、お金掛かるのよね。
作るならみんなで一つのを作って、寄せ書き風にしてもいいかなって。
一つ分だったら私が出すわ、ボード代。
プランに書き込むのが大変そうかなって思うから…ボツかしらね。
お二人まだ見えてないから勝手に決める訳にもいかないけど…
もし何だったら3組でって手も、なくはないかしら、ね。 -
2014/06/27-13:32
こんにちは、お邪魔するわね。アリシエンテと言うわっ。宜しくお願いするわねっ。
輝とエリーはまた会えて嬉しい限りだわっ!
私は……歌は…苦手で……むしろ一度も歌った事が無くて。
口パクとなってしまうか、頑張っても蚊が鳴く様な声になってしまうのが目に見えていて……それでも良ければやらせて頂くけれども……(非常に深刻そうな様子で)
ウェルカムボードは説明を受けた限り、それぞれ個人単位よね。(ジェールも個人単位そうだし)
ならば、そのメッセージは皆で作成しつつ各個人で持つ形で良いのかしらっ。
しかし、『婚礼の宣伝用』と言っているから、個人的なメッセージを持つのは難しいのではないかと判断するわ……。少し切ないわね。
裏でカメラマンを脅…ry お、お願いして、
各人もう一枚ずつ秘密裏に、ご婦人へのメッセージボードを持った専用写真を撮ってもらって、最後に一気にご婦人へ渡す手もあるけれども、こちらはどうかしら? -
2014/06/27-12:55
こんにちわ。僕はElly Schwarz、エリーと言います。精霊はディアボロのクルトさんです。
リーリアさんとフィオナさんには初めまして、輝さんとアリシエンテさんはお久しぶりです。
皆さん、今回よろしくお願いします。
僕は祖父母と言う存在は、生まれる前に先立たれていたようなので緊張しますが
僕も皆さんと楽しめたらと思っていました。(微笑)
そうですね……皆さんで何かをするのだとしたら
僕も老婦人の好きな歌を事前に調査して、当日みんなで歌ってあげる案、良いと思います。
実はLv1ですが、「歌唱」スキルも持っているのでご協力出来ればと……。
ウェルカムボードを作る案も、余裕があればやってみたいところですね。
僕ももう少し考えてみますね。 -
2014/06/27-12:42
連投でごめんなさい。
「皆さんで何かします?」って言っておいて案を言ってないのって、もしかして
発言しにくくしてるかしら?と思ったので、私が考えてたのを少し出してみますね。
・老婦人の好きな歌を事前に調査、当日みんなで歌ってあげる
この場合、私達は伴奏をすることもできると思うわ。
・ウェルカムボードを作る時にこっそり「おばあ様ありがとう」ボードをみんなで作成
最後の写真の時に一緒に入れて撮って貰う
・それぞれがサプライズでプレゼントを用意してくる
あたりを考えていたの。
全部するのは大変だろうし一つでいいと思うんだけど、個人的には歌のプレゼントがいいかなって思うわ。
おばあ様、私達を孫のように思いたいって事だし、お金のかからない事の方が喜んでくれるんじゃないかなって。
…うちのおばあちゃんがそうだって言うだけなんだけど。
もちろん、他に何かあればこれに拘る必要はないし、
皆で何かやらなくてもいいんじゃないって意見もアリだと思うので
その時は遠慮しないで言ってね。 -
2014/06/27-00:59
こんばんは、月野輝とパートナーのアルベルトです。
リーリアさんとフィオナさんには初めまして、アリシエンテさんとエリーさんはお久しぶりです。
皆さん、よろしくお願いします。
私、祖父母に育てられたものだから、おばあさんの話を聞いてぜひ参加させて欲しいと思ってたの。
できたらおばあさんとお話がしたいなって思うんだけど、皆さんとやりたい事が被るようなら違う事でも構わないので言って下さい。
それとも皆で、おばあさんのために何かします?