暗闇の中で煌くその名は(こーや マスター) 【難易度:簡単】

プロローグ

●おーっと
 A.R.O.A.の受付は、一見楽に見えて実はなかなかハードな仕事だ。
座りっぱなしで肩は凝るし、腰も痛い。
しかもA.R.O.A.の性質上、人命が関わる依頼を多く受ける。
その責任から来る精神的な疲労は、実はかなり大きい。
 疲労を癒す為にも、施設を訪れる人々で目の保養をしようとするのは仕方ないことだろう。


―あ、なかなかのイケメン。
 作業の合間、受付娘が息抜きがてらに顔を上げると、真っ直ぐに受付へと向かってくる青年がいた。
一歩進むごとに揺れる金髪が眩しく、不躾にならないよう注意しつつも視線はイケメンへ。
 こちらに来ないかと期待したものの、彼女の隣、先輩の方へと僅かに逸れた。
残念、とりあえずはこの書類を片付けよう……手元に目を落とした、ところで。
「ああ、もしや!君は僕の前世での恋人、カロリーナ!?」
 受付娘が顔を上げた先にはさっきのイケメン。
ナンパにしても場所も台詞もいろいろおかしい。
 もしかしなくともヤバイ人では、危機感が彼女を襲う。
しかし残念イケメンが先輩に話しかけてる以上、今は彼女が口出しするわけには行かない。
 大丈夫だろうかとハラハラしていると、先輩がすくっと立ち上がった。
眼鏡のブリッジを中指で持ち上げる、落ち着いた様子ととても冷静な表情が頼もしい。
「いいえ、お忘れですか、お兄様。私はあなたの前世での妹、キャロラインです」
 勿論、先輩の名前はカロリーナでもキャロラインでもない。
「……君、なかなかやるね」
「いえ、これも仕事ですので」
 どういう仕事だ、どういう。謎の業務を勝手に増やしてはいけない。
受付娘は、密かに尊敬していた先輩が遠い世界の人間になったように感じた。


●生命の煌き
「冗談はこのくらいにしといて、僕はジェフ。クーツ村から来たんだ。村長は父なんだけど、歳でね。代理って訳さ」
「水晶を産出するという、あのクーツ村ですか?」
「お、よく知ってるね」
「仕事ですので」
 これはあながち嘘ではない。
受けた依頼により多くの情報を付与出来るようにと、業務の合間に地理を勉強する者もいる。
 採掘した水晶を全て村で加工していることがクーツ村の特徴だ。
「じゃあ話は早いね。僕達の天敵、トロールが出たんだ。坑道に入ってくところを村の人間が見た」
「トロール……それは厄介ですね」
 トロールは石を食べる。
『石』を名産とする村にとって、その存在は間違いなく脅威だ。
「そう。でもただのトロールじゃない。それなら村の自警団で解決するなり、警察なり、そこらの腕利きなりに頼んでる」
「オーガ化していると?」
「断言は出来ない。見つけたのは五人だけど、皆、鉱山仕事で目が悪くなっているからね」
 村の人間は水晶鉱山での仕事の長さに反比例するように、視力をどんどん落としていく。
その五人も例外ではないという。
「角があったと言ったのは三人。残りの二人はそこまで見てなかったらしい。ただ一体だけなのは間違いない。そこはちゃんと確認したってさ」
「怪我をされた方は?」
「離れたところから見ただけだったからね、誰も怪我はしてない。幸運なことにね」
 だからこそ角があったとは断言できないということか。
「とはいえ、僕はオーガだと思ってる」
「と、言いますと?」
「三人とも頭の横に角が一本ずつあったって言い切った」
 ジェフは金の前髪をくるり、いじる。
軟派なその仕草とは裏腹に、ジェフの瞳には言いようのない危機感が宿っている。
「水晶はうちの村の生命線。これが駄目になったらやってけない、そんなことは村人皆がわかってることさ。
トロールなんてヤバイ生き物は、一日でも早くなんとかしなくちゃいけない。だからオーガじゃないと分かってて、オーガだと嘘つく必要なんてない」
 そうだろ?と同意を求められ、受付娘はこくりと頷いた。
それと共に再び眼鏡をくいと持ち上げる。
「僕はね、ちゃんとしたとこで宝飾について勉強してきたからどうとでもなる。ただ他の連中はそうも行かない。
特に、ずっと鉱山で働いてきたじい様方はね」
 まあ、村以外で仕事するなんてまっぴらだけどね。
その小さな呟きには、ジェフの村への想いがこもっていた。

解説

●目的
デミ・トロール一体の討伐

坑道の奥へ進ませてしまえば、水晶が傷つくことは間違いありません
そのような状況になれば村人達の生活は苦しいものになるでしょう


●場所
坑道の入り口から少し入ったところで、デミ・トロールは座り込んで石を貪っています
高さはデミ・トロールよりもぎりぎり高く
幅は5人がどうにか並べるくらいです
(デミ・トロールで換算すれば1.5体分くらいになります)
道の真ん中は問題ありませんが、壁側には大きな石が転がっています
内部は暗いです


●その他
坑道の入り口が見えるところまではジェフが案内してくれます
その後、彼はその場でウィンクルム達の報告を待つことになります

水晶を傷つけることなく討伐できれば
ちょっとしたお礼として鉱床を見せてくれるでしょう

ゲームマスターより

シリアスな依頼でもコメディ要素を仕込む……
そういう潔さも世には必要だと思ってます

リザルトノベル

◆アクション・プラン

マリアベル=マゼンダ(アーノルド=シュバルツ)

  デミ・トロールさん……ですか
こうどうの水晶はジェフさま達にとって大切なものです…
デミ・トロールさんもごはんを食べなきゃならないのはしょうがないですが…これ以上食べられてしまわないようにしなくてはなりませんね…

ジェフさま…あの…えっと…デミ・トロールさんはこうどうの中から追い出して来ますので、出口から少し離れていてくださいね…

デミ・トロールさん…大きいです…


水晶、とてもきれいですね…キラキラしているものは大好きです…この水晶が加工されたり細工されたりしてお店にならぶのですね…

はい、アルさま。守れてよかったです…ジェフさまや村の方々も安心してお仕事できますね…



ファリエリータ・ディアル(ヴァルフレード・ソルジェ)
  オーガでもオーガじゃなくても、トロールがいたら大変よねっ。
被害が出る前に倒さなきゃ!

水晶に被害が出ない様に、ヴァルにお願いして坑道から外へおびき出してもらうわっ。
他の人達と手分けするのも、ヴァルならきっと上手くやってくれると思うのっ。
私は他の人達と一緒に、後ろから押しだす感じで行くわねっ。
あと水晶の保護も!
村の人達が生活出来なくなっちゃったら大変だし、
将来のジュエリーデザイナーとしては水晶も守りたいものっ。
どうか上手くいきます様に!

無事倒せたら鉱床見せてもらえるのよね?
水晶の鉱床ってどんな感じかしら……!
宝石とか好きだからとっても気になるわっ。



リーヴェ・アレクシア(銀雪・レクアイア)
  目的:敵の誘導
心情:水晶を傷つけさせないようにな
手段:
対応チーム→誘導班

私の役目は銀雪のフォローだ。
銀雪がアプローチで敵を引きつけ、坑道の外に出るが、その間、私が威嚇攻撃を行い、こちらが劣勢を感じて逃げるという素振りを見せておく。
(来る時も迷い込んだ風を装うことが出来ればベスト)
坑道の外には仲間が控えているので、合流し、討つ形になるな。
これに関しては、報告を待つジェフや攻撃魔法を撃った仲間の直後の隙が狙われないよう注意する。
無事に終われば、敵の死体処理を行ったうえで再度確認し、村へ安全宣言を行おう。
水晶の鉱床が見られれば、それを素直に褒める。
これが、皆の手元で輝けば、皆綺麗になるな(※天然)



ロア・ディヒラー(クレドリック)
  村の人の大切な水晶を守るためにも、トロール退治慎重にいかないとね。
・・・それになんとなくあの依頼主の素直じゃない感じ・・・親近感沸くし。(小声で独り言)
ちょ、ちょっとなんで聞こえてるの・・・!?
耳がいいからってずるいよ。

戦闘前にトランスする。
あ、あのさいつも思うんだけど目、つぶってくれない?

オーラはライラック色。

戦闘中は依頼主のジェフとともに、坑道外で待ち構えるクレドリックの後方の木陰などに隠れ様子を見る。

鉱床をもし見せてもらうことになれば、目を輝かせて周りを見て。水晶の綺麗さに見とれたり、鉱床内触ってもいい所があれば遠慮なく触る。(変な感触のものを触るのが好きなので)


久野原 エリカ(久野木 佑)
  心情:
……初のオーガとの戦闘、か。
(小刀を強く握り締める。緊張からか)

……大丈夫だ。
引きつけ役、任せるからな。(ぽそりと)

行動:
他の人たちと共に、水晶の保護に回る。
水晶の方へオーガが行かないように押し出す。
(今回は人見知りモードは発生しない……訳ではないが、ある程度割り切っている様子)

「武器を手に取るのは……初めてなんだがな」
(慣れない手つきで小刀を振り回す)



●道
 村に入ったウィンクルム達をジェフが出迎えた。
いつでも案内出来るように待っていたようだ。
「君達は……」
「A.R.O.A.から来ま……」
「間違いない。二つ前の生で僕と共に七つの大陸を駆けた仲間達だね。
懐かしい……今でも思い出すよ、あの戦いのことを……」
「「……」」
「あれ、反応なし?」
 おっかしいなと首を傾げるジェフにかける言葉を、ウィンクルム達は誰一人として持っていなかった。
多分、それが人として正解。



「ほら、あそこ。見えるだろ?あれが入り口」
 所々に茂っている緑の隙間をジェフが指差す。
ぽっかり大きく開いた入り口の内側は闇色。
この位置からでは中を窺うことは出来ない。
あそこがそうか、頷くウィンクルム達にジェフが別れを告げる。
「じゃ、僕はここまで」
 てっきり入り口まで案内されるものだと思っていたマリアベル=マゼンダは少し驚きを見せた。
その様子を見咎めたジェフがマリアベルを覗き込もうとすると、彼女はすぐにアーノルド=シュバルツの影に隠れた。
「ん?もっと僕と一緒にいたい?」
「いえ、入り口まで案内して頂けるものだと思っていたので」
 ジェフの問い掛けにすぐさまアーノルドが割り込む。
邪魔されたと、おどけた仕草でジェフは肩をすくめた。
「どういう風に戦うかは知らないけど、あんまり近くにいると邪魔になるからね。
見えるところから留守番くらいが丁度いいだろ?それと……」
 ベルトに吊り下げていた二つのカンテラを取り外し、ウィンクルム達に差し出す。
「これ、持っていくといいよ。中は暗いしね」
「ありがたい。気遣い、感謝する」
 リーヴェ・アレクシアは素直に謝意を示し、カンテラを受け取る。
「頼んだよ」
 毅然と、けれど縋るような眼差しでの請いに、ウィンクルム達は力強い頷きを返した。


「絶対に、水晶を守らないとね」
 ジェフと別れ、坑道へと歩きながら銀雪・レクアイアは呟いた。
ファリエリータ・ディアルがすかさず同調する。
「そうね。オーガでもオーガじゃなくても、トロールがいたら大変よね」
 『石』を食すトロールはオーガであろうがなかろうが、鉱山を糧に生きる人々にはまさに脅威。
ジュエリーデザイナーを目指すファリエリータにとっても他人事ではない。
絶対に倒さなくちゃね、ファリエリータのその言葉は、彼女と並んで歩くヴァルフレード・ソルジェだけでなく皆が胸に抱く想いと同じ。
いや、クレドリックだけは少し違う。
彼は『村の糧』としてではなく、『魔法に関わりのあるもの』だから保護しなくてはと思っている。
それを口にすることはないが。
そんなパートナーの心中を知ってか知らずか、ロア・ディヒラーも同意した。
「村の人の為にもトロール退治、慎重にいかないとね」
 ……それになんとなくあの依頼主の素直じゃない感じ……親近感沸くし。
付け足した小さな呟きは誰にも聞こえていない……そう思ったけれど、隣を歩く精霊が聞き逃す筈はない。
「言っている事から本心を推し量りにくいという意味では似ているかも知れんな」
「ちょ、ちょっとなんで聞こえてるの……!?」
 耳がいいからってずるい、ロアの抗議をクレドリックは右から左へと聞き流す。
そんな二人のやり取りは笑いを誘う。
 ただ、一行の一番後ろを歩く久野原 エリカの顔に笑みはない。
いくつかの場数を踏んだ他のウィンクルム達と違い、彼女と久野木 佑はオーガと戦ったことがない。
小刀をきつく握り締めているのは緊張の表れだろう。
「エリカ……さん?」
 佑からの呼びかけで、弾かれるようにエリカが顔を上げた。
すると心配そうな佑の眼差しに気付く
 エリカは大きく息をした。
緊張がほぐれることはないが、気持ちには余裕が持てた気がする。
「……大丈夫だ。引きつけ役、任せるからな」
「は、はいっ! 任されました!!エリカさん、気をつけて!」
テイルスの証である尻尾が、ぴんと立つ。
とはいえ、くるり丸まった尻尾がぴんと立っていると分かるのは本人とエリカだけなのだが。
 佑は思う。
決して坑道の奥へ進ませるわけには行かないと。
水晶と、エリカの為にも。

 坑道の入り口に辿り着き、真っ先にトランス状態への移行を始めたのはリーヴェたち。
「その光は剣となれ、その光は盾となれ」
躊躇いもなく照れも皆無のリーヴェは、ずいと銀雪に歩み寄る。
詰められた距離とキスをするという事実に銀雪はつい照れてしまう。
リーヴェが躊躇わないからこそ銀雪が余計に照れてしまうのだということに、リーヴェは気付いているのかいないのか。

 マリアベルはアーノルドを見上げる。
落ち着いた紫の瞳が確かに彼女を捉えているのを確認し、インスパイア・スペルを口にした。
すっとアーノルドがその身をかがめて唇を重ねることにより、トランス状態に入る。
マリアベルが背伸びをしてもアーノルドの唇には届かない。
だから、どうしてもアーノルドがその距離を縮めてやらなくてはいけない。
けれどアーノルドはその作業が嫌いではなかった。

「……ちょっと待って」
 インスパイア・スペルをロアが唱えてそのまま口付けへ……という流れの前に上がった制止の声。
どうかしたか、クレドリックの問いにロアは目を泳がせる。
「あ、あのさ。いつも思うんだけど目、つぶってくれない?」
 それは若い女性ゆえの恥じらいから来る言葉。
多くの男性ならば分かったと答えるのだろうが、ロアのパートナーは少数派なわけで。
「何故だ?私はトランス時におけるロアの表情の変化まですべて知っておきたい」
 不思議そうに言うクレドリックに、ロアは適切な説明をしてやることは出来なかった。
結局はクレドリックのお望み通り。
彼は恥らうロアの表情をとくと堪能した。

 ファリエリータとヴァルフレードの唇が離れた。
 ファリエリータはにっこりと笑う。
「無理はしないで気をつけてねっ」
心配の色を滲ませながらも明るいその声に、ヴァルフレードは「おう、そっちもな」と返す。
心配しているのはファリエリータだけではない。
けれどヴァルフレードは言葉にしない。
「私は後ろの方で水晶を保護したりしてるから大丈夫っ」
 だから、心配しないでね。
そんな思いをファリエリータも口にはしない。
伝わっているのだと、ファリエリータはちゃんとわかっているから。


 準備を整えたウィンクルム達は、ロアとクレドリックを残し次々に坑道へと踏み込んでいく。
水晶を傷付けず、さらにトロールの死骸で坑道を塞ぐことがないようにと、坑道の外へ誘き出し、外で止めを刺す……それが今回の作戦だ。
エンドウィザードであるクレドリックはすぐに止めを刺せるように、そしてロアはジェフに万が一のことが起こらないようにと坑道外に残ったのだ。
「暗いです……」
マリアベルはぎゅっとアーノルドのローブを握る。
彼女の言葉通り、暗い。
数歩進むだけで入り口からの光は当てにできなくなった。
ジェフから借り受けたカンテラの灯りが頼りだが、それでも万全とは言い難い。
この灯りでトロールに気付かれるかもしれない……アーノルドは懸念する。
トロールを誘き出すだけでなく、その横をすり抜け水晶への道を閉ざしておきたい。
その為にもトロールに気付かれずに奥へ進みたいが、そこはもう賭けだ。
何より、暗闇の中で同士討ちとなるよりかは遥かにいい。
 ふいに音が聞こえた。
ウィンクルム達の足音でも、武器が立てる音でも、坑道を抜けていく風の音でもない。
第一、彼らは物音を立てぬように細心の注意を払っていた。
 リーヴェが柄に手をかける。
それを合図に、他の神人や精霊達も各々の武器を構えた。
 ばり、ごり。
日常では聞き得ないその音が明確になるにつれ、ウィンクルム達は確信する。
トロールが石を喰らっている音だ。
 今は気付かれていないのだろう。
ウィンクルム達は顔を見合わせ、頷きあった。
そして一斉に駆け出す。
各々の役割を果たすための場所に向かって駆け出した。


●岩
「こっちだ!」
 銀雪が言葉と共に放ったオーラがトロールを捉えた。
貪っていた石をそのままに、のそり、緩慢な動作で銀雪を振り返る。
その額には一本の角。
間違いない、オーガだ。
 銀雪が注意を引き付けている間に、奥への道を塞ぐ役割の者達がデミ・トロールの横を駆け抜けた。
アーノルドを先頭に、ファリエリータ、エリカ、マリアベルが続く。
そして迅速に道を塞ぐ。
 暗闇とトロールの巨体のせいで、完全に把握出来ていないであろう引き付け役の仲間達にエリカが叫んだ。
「こっちは塞いだ!引き付けを頼む!!」
これでデミ・トロールは彼らを倒さない限りは奥へ進めないが、歯牙にも掛けていない。
その一対の目は銀雪だけを捉えているのだ。
 立ち上がろうとするデミ・トロールにヴァルフレードが猛獣の大爪と化した刃を振るい、すぐにバックステップ。
「メシ食ってる場合じゃねぇぞ!」
 石のように硬い皮膚を切り裂かれ、挑発の言葉を受けてなお、デミ・トロールは銀雪を見ている。
けれど先ほどまでとは違い、その瞳には怒りの炎が揺らめいている。
 デミ・トロールの後ろで、アーノルドがいくつもの光輪を展開させる。
道を塞ぐ神人達までをカバーすることは出来ないが、奥への突破をより困難なものにさせたのは間違いない。
 エリカとファリエリータは武器を構えながらも、手出しを控えている。
デミ・トロールの注意が銀雪に向いている以上、手を出して目標を変えられるわけにはいかない。
 じりじりと、銀雪はオーラの届く範囲を保ちながら後ろに下がり続ける。
立ち上がりゆっくり距離を詰めるデミ・トロールに、佑は重い鈍器を叩きつけようとするも、たたらを踏む。
しかし、すぐに立て直し急いで離れる。
 挑発するように尻尾を揺らす佑。
狩猟犬のような目の輝きと、獰猛な笑み。
 一方、完全に立ち上がったトロールはまるで大岩。
その巨体と比べるとウィンクルム達は赤子。
 それでもリーヴェは臆することなく小刀と短剣を交互に振るい、間髪入れず銀雪も斧を叩きつける。
リーヴェの攻撃はデミ・トロールの固い皮膚に阻まれ、傷をつけることは出来ないが構わない。
二人はあくまでも引き付けることに専念しているのだ。
 デミ・トロールが石の棍棒を頭上から銀雪へと斜めに振り下ろす。
その巨体と棍棒の重さも相まって、すさまじい風きり音が坑道に響く。
 銀雪は避けようとせず、しかと大地を踏みしめ盾を構えた。
避けた攻撃が仲間に当たることを危惧し、ならばと、ロイヤルガードならではの防御力を見せることを選択したのだ。
「……ぐっ!」
 衝撃は重い。
けれど見事、受け止めて見せ、再び距離をとる。
 着実に坑道の外へは近づいている。
けれど。
「っ、傷が……!」
 ヴァルフレードが驚愕の声を上げた。
彼がデミ・トロールの身に刻んだ傷が、癒えているのだから無理もない。
 淡く光る本のページをはらりとめくり、アーノルドが呟いた。
「……トロールの再生能力、ですか」


 坑道の外からは中の様子は全く見えないが、音はよく聞こえる。
武器がぶつかる音やウィンクルム達の声。
ずしりと響くのはトロールの足音だろう。
 徐々に近づいてくるそれらの音をロアは聞いていた。
もう少しだろう。
彼女が隠れている木陰から様子を窺えば、クレドリックが練り上げ続けている魔法は完成に近づきつつあるし、ジェフも先の場所を動いていない。
 こちらに問題はない。
今は坑道へ進んだ仲間達を信じて待つだけだ。
 柔らかな風がロアの黒い髪を揺らし、坑道へと吹き込んでいった。


 ひゅっと、音を立てて風が吹き抜けた。
動き続けで熱くなった体にはありがたい。
佑は油断なく鈍器を構えたまま、肩で目に入りかけた汗を拭う。
「このっ!!」
 ヴァルフレードは力のままに長大な太刀を薙ぐ。
侵食の影響を感じ、憑依を解除した為に威力が落ちている。
 小さな傷はすぐに癒え、ヴァルフレードと佑が与えた大きな傷も時間を掛けて消えていく。
しかし、着実にダメージを重ねてはいる。
その証拠に再生が追いついていない傷が出来ている。
 リーヴェは斬りつけ、銀雪が放つオーラの元へすぐに飛び退く。
彼女はそうやって、歩みの遅いデミ・トロールを巧く誘導し続けてきた。
すでに銀雪のオーラとは違う、別の暖かな光をその背に感じ始めている。
先ほど振り返ったときにはすでにクレドリックの姿が見えていた。
坑道の終わりは近い。
 銀雪は慎重に距離を見定めながら、後ろに下がる。
何度その行為を繰り返してきたか、銀雪には分からない。
囮にして盾、その役割を果たすことだけに彼は専念し続けてきた。
 その成果が今、実る。
「暗闇から出て浴びる光はさぞ眩しかろう」
 響くクレドリックの声。
その杖の先はデミ・トロールへと向けられている。
「即座に貴様を馴染みの闇の中へ葬り去ってやる、永遠に眠りたまえ」
 彼が練り上げた魔法が解き放たれた。
体内に炎を宿すように、身を焦がすその魔法は狙い違わずデミ・トロールに命中する。
「グオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!!!!」
 絶叫。
デミ・トロールは胸を押さえ、蹲る。
立ち上がる余力はないようだが、まだ息がある。
 様子を窺うことなく、ヴァルフレードは飛び掛った。
猛獣の大爪へと再び姿を変えた野太刀は、はっきりとデミ・トロールの体に一文字を刻む。
高い再生能力を持つデミ・トロールといえど、もはやその身の傷を癒すことは出来なかった。


●煌
「水晶はっ!?」
 デミ・トロールが倒れるとすぐにジェフはウィンクルム達の下へ走ってきた。
乱れた呼吸を整えることもせず水晶の安否を問うジェフに、坑道から出てきたウィンクルム達は笑顔を見せた。
「無事だ。奥へ行くのは食い止めた」
 僅かに距離を取り、目を合わせないようにエリカは答えた。
任務だからとある程度は割り切っていたものの、デミ・トロールを討伐したことでエリカの人見知りが顔を覗かせた。
 ジェフはそれに気付かないどころか、心底安堵したのだろう。
目に見えてその肩から力が抜ける。
「そう、か……。よかった、ありがとう、これで村が救われた」
 よしと、ジェフは顔を上げた。
「じゃあ、行こうか」
「……どこへ?」
 一人すたすたと歩き出したジェフに、マリアベルがアーノルドの影から小さく問いかける
「決まってるじゃないか。あの中だよ」
 坑道を指差し、ジェフは悪戯っぽく笑った。


 カンテラを持つジェフを先頭に、ウィンクルム達は坑道を進む。
もう一つのカンテラはアーノルドが持っている。
「足元、気をつけてね」
 ジェフがウィンクルム達に注意を促したのはデミ・トロールがいたあたりから。
端に寄せられてはいるものの、それまでの道のりと違い随分石が転がっている。
 あまりにもごろごろ転がっているので佑は気になったらしい。
「邪魔じゃないんですか?」
「ぶっちゃけ邪魔だね。でもまあ、どかす訳にはいかないんだよね」
「一体、何故?」
 アーノルドも気になったらしく、会話に加わる。
「トロールが入ってきた時の時間稼ぎになるんだよ。鉱床のよりも先に、落ちてる石を食べるからね」
「成る程。鉱山に生きる人々の知恵ですか」
「そういうこと」
 答えて、ジェフは振り返った。
近くにいたクレドリックにカンテラを渡し、ウィンクルム達に奥へ進むよう促す。
「驚くといいさ」
 軽口めいたその言葉が自信の表れだと知ったのは、鉱床を目にしてからだった。


 ウィンクルム達は一様に驚嘆の声を上げた。
マリアベルはアーノルドのローブを握りながらも、カンテラの灯りを受け煌く水晶に見入っている。
アーノルドはそんなマリアベルの頭を優しく撫でてやる。
「綺麗な水晶、守れて良かったですね。マリー」
「はい、アルさま。守れてよかったです……ジェフさまや村の方々も安心してお仕事できますね……」
 水晶の輝きの様にマリアベルは微笑んだ。

「宝石箱の中にいるみたい……」
 ファリエリータの言葉は、四方八方から伸びる水晶に囲まれているから出たものだろう。
「これは驚くってもんじゃすまないだろ……」
 ヴァルフレードも驚きを隠せない様子で辺りを見回している。
大小様々な大きさの水晶は透明なものだけでなく、色の付いた物まである。
 鉱石に興味のある二人はその光景に心を奪われていた。


「見事なものだな」
 短くも賞賛のこもったリーヴェの言葉に、銀雪も頷く。
「綺麗だね」
「ああ。これが皆の手元で輝けば、皆綺麗になるな」
 リーヴェの感想はどうやら無自覚らしい。
男前にも程がある。
「リーヴェも手元にあれば、きっと綺麗だよ」
「それはありがとう。照れなければ、上出来なんだが」
 銀雪がなんとか搾り出した言葉も、あっさりリーヴェは打ち砕く。
銀雪の連敗記録はしばらく続きそうだ。


「わ、わ、わ!!」
 きらきらと目を輝かせ、ロアは水晶を見つめる。
カンテラが二つしかないことで、ぼんやり光を照り返す水晶の輝きに目を奪われている。
「ん~、いい反応だね」
 ウィンクルム達を後ろから眺めていたジェフは、ロアの反応が気に入ったようだ。
「ねぇ、触ってもいい!?」
「構わないよ。ただし気をつけてね」
 承諾を貰うと、すぐに手を伸ばして水晶に触れる。
ひんやり冷たく、滑らかな先端に対し、ざらつく根元との感触の差が面白い。
 クレドリックは興味深そうに見渡しながらも、しっかりロアの様子も観察している。
トランスのときに彼が言ったように、ロアの表情の変化をすべて知っておきたいのだ。
その瞳と同じ色をした紫の水晶に触れる表情まで、なにもかも。


 エリカは佑と並び、ゆっくり歩きながら水晶を眺めていた。
一歩動くたびに水晶は表情を変えて見せるのだから不思議なものだ。
 ふと、視線を感じて入り口を振り返った。
ジェフだ。
 彼は水晶を堪能するウィンクルム達を見ていた。
はしゃぐ者、見入る者……そんな様子をまじまじと。
 ジェフの瞳は誇らしげに輝いていた。
暗闇の奥で煌く水晶のように。



依頼結果:成功
MVP

メモリアルピンナップ


エピソード情報

マスター こーや
エピソードの種類 アドベンチャーエピソード
男性用or女性用 女性のみ
エピソードジャンル 戦闘
エピソードタイプ ショート
エピソードモード ノーマル
シンパシー 使用不可
難易度 簡単
参加費 1,000ハートコイン
参加人数 5 / 2 ~ 5
報酬 通常
リリース日 06月19日
出発日 06月25日 00:00
予定納品日 07月05日

参加者

会議室

  • こちらも提出。
    上手くいくといいな。

  • 私もプラン提出したわっ。
    村の人達の生活を守れる様、頑張りましょうねっ!
    鉱床も見せてもらえるといいなあ。

  • [19]久野原 エリカ

    2014/06/24-23:13 

    こちらもプラン提出完了、した。
    後ろで水晶の保護に回ることにした……当日は、よろしく。(ぽそぽそ

  • わたくしたちの方は、プランの、ていしゅつがおわりました……。
    デミ・トロールさん…ちゃんと、追い出せると、いい…ですね……。

  • [17]ロア・ディヒラー

    2014/06/24-21:13 

    >リーヴェさん
    はい、アプローチで敵を引きつける役お願いいたします!
    銀雪さんが敵をひきつけて坑道の外までトロールを出していただけたら後はクレドリックに頑張ってもらいます。で、ですが本当にとどめ的な威力を発揮できるか不明なので(ジョブスキルにⅡとついてるとはいえ)、取りこぼしたときには追撃どうぞよろしくお願いいたします。

    クーツ村の貴重な鉱山に巣食うトロール、頑張って倒しましょうね!

  • >ロア
    久しぶり。こちらこそよろしく。

    >ファリエリータ
    こちらこそ。
    はは、あの時はファリエリータは綺麗だったよ。

    私、というより、銀雪は、アプローチを使って敵を引きつける役をと思っているんだが…。
    一応、逃げる素振りをしつつ、適度に威嚇すればまず大丈夫かなと思うのだが、どうだろう。

  • リーヴェもよろしくねっ。
    ベルガモ団の時のリーヴェ、かっこよかったわ!

    他のみんなも言ってるけど、
    ロイヤルナイトが来てくれると心強いわっ。

  • [14]ロア・ディヒラー

    2014/06/23-21:37 

    >リーヴェさん
    ピエロの時以来ですねお久しぶりです。よろしくお願いしますね。
    作戦はアーノルドさんがおっしゃっている通りの作戦の流れです。
    パートナーさん、ロイヤルナイトなのですね。
    トロールを坑道内から引きずり出すのにとっても心強いです!
    懸念が減って一安心です。水晶の安全は守れそうですね。

  • >リーヴェさん
    よろしくお願いします。

    そうですね。坑道から外へ追い出し、エンドウィザードの魔法で止め。という様な流れです。


    >エリカさん
    エリカさんの立ち位置はお好きな所で大丈夫ですよ。
    パートナーと一緒に戦いたいと言われるのでしたら、それでも良いですし、後ろに来られるのでしたら、私がお守りします(にっこり)

  • ……リーヴェさま、よろしくおねがいいたします……(ぺこり)
    ロイヤルナイトさまですと、作戦が、スムーズにいきそうですね……。

  • [11]久野原 エリカ

    2014/06/23-00:20 

    >引きつけ・誘導
    ……わかった。
    引きつけをあいつに任せることにする。
    佑:任されました! ……ただスキルないのでお役に立てるかは微妙ですけど(苦笑)

    私自身は水晶の保護に回ったらいいんだろうか……?

  • 話し合いがだいぶ進んでいるので少々躊躇ったのだが、飛び入りで。
    リーヴェだ。
    パートナーはロイヤルナイトの銀雪。

    出来る限り頑張りたいと思うので、よろしく。
    作戦を見る限り、誘導を行い、水晶が傷つかない場所での戦闘ということでいいだろうか。

  • [9]ロア・ディヒラー

    2014/06/22-23:24 

    >電波
    ・・・はっ電波について完全に失念してました!
    インカムは多分使えないですねこれは・・・
    連絡手段はなくとも、中から出てくる入り口はひとつだけですし、入り口出たところで待ち構えていれば大丈夫そうですね!
    いつでも魔法を発動できるようクレドリックに伝えておきますね。

  • >ジェフ
    あぁ、そうでした。彼が行動の入り口まで案内してくれるのでしたね。
    彼にはちょっと離れていて頂きましょう。

    >ロアさん
    ええ。魔法の発動のタイミングはお任せします。
    良いタイミングで止めを刺して頂ければと。

    インカムですか。私はあまり機械類が得意でないので何とも言えないのですが、坑道内で使える物なのでしょうか…。
    電波…?ですか?あるのですかね…。

    >ファリエリータさん
    私はシャイニングアローを装備して行きますので、しっかりとお守りしますよ。

    ただ私を含め後方は飽く迄防御と牽制。
    ヴァルフレードさんと佑さんがヘイトを稼いで頂かないといけませんね。
    私達の方に向かってこられて後退されたら困ってしまいますから(苦笑)

  • 私もアーノルドさんの提案に賛成!
    ヴァルに、トロールを外に誘導してくれる様頼んでみるわねっ。
    私自身は……どうしようかしら。
    マリアベルさん達と一緒に水晶の保護&後ろから押し出すのがいいかしら?

  • [6]ロア・ディヒラー

    2014/06/22-21:35 

    >押し出し作戦
    そうですね、坑道内にある水晶を守るためにはやはりトロールを坑道内から追い出したいですね!
    アーノルドさん提案の作戦が一番安全かつ、より水晶を守れると思うので賛成です。
    あ、この作戦を実行する場合は、案内してくれる予定のジェフさんに入り口付近じゃなくて入り口からちょっと離れた所で待っていてもらえるように言っておけばいいですね。
    私たちが外で止め要員でいるのであれば、私もクレドリックの後方でジェフさんに危険が無いよう気をつけておきますね。

    後は詠唱していつでも魔法を使えるようにクレドリックに待機していてもらって、トロールが出てきたら発動、で良いでしょうか。一応止めにならなかった場合にはシンクロサモナーのお二人に追撃していただけるとありがたいです。
    洞窟内とも連携したいので(トロールの動きなど)インカムだけはA.R.O.Aに支給要請をしてもっておきたいですね。



  • 1つご提案を。
    私達の依頼自体はデミ・トロールの討伐ですが、折角ですのでしっかり水晶も保護できればと思っています。

    なので、できるだけデミ・トロールを坑道から追いだす様な戦い方が望ましいと思うのです。
    炭鉱の中で討伐して仕舞うと水晶の保護にも支障をきたしますし、なにより道をふさいでしまって、其れを退かす作業も生まれてしまいますし。

    今いるメンバーでしたら
    ヴァルフレードさんと佑さんでトロールの気を引きつつ外へ誘導
    私とマリーが後ろに回って水晶を保護しつつ押し出し、
    外に出た所でクレドリックさんの魔法で止め。というのが理想かと思いますが、如何でしょう?

  • [4]ロア・ディヒラー

    2014/06/22-16:53 

    こんにちは、皆さん初めまして。
    えと、ロア・ディヒラーと申します。
    パートナーはエンドウィザードのクレドリックです。
    ・・・悪人面のどう見てもマッドサイエンティストですが、無害ですので!多分。
    どうぞよろしくお願いしますね。

    村の方の為にも、トロール退治がんばらないとですね。
    後方から魔法で攻撃していきたいと思っています。
    体の内部を攻撃するジョブスキル「乙女の恋心2」でトロールの心臓部分に攻撃を与えようかと。坑道内での戦闘、緊張しますががんばりますねっ

  • [3]久野原 エリカ

    2014/06/22-13:51 

    ……久野原 エリカ……。
    パートナーはシンクロサモナーのバカi……んっ、久野木 佑、だ。

    アドベンチャーエピソードの方は初参加になる……その、よろしく。
    (そう言って佑の後ろに隠れる)

  • 私はファリエリータ・ディアル! よろしくねっ。
    パートナーはシンクロサモナーのヴァルフレードよ。

    水晶もクーツ村の生活も守る為に頑張らなきゃねっ。
    鉱床も是非見てみたいし!

  • こ……こんにちは……。

    マリアベル・マゼンダともうします…。こちらは、パートナーのアーノルドさまです。
    よろしくおねがいします。

    わたくしたちはライフビショップのとくせいを活かして、水晶を守りたいと思います…。


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