プロローグ
●『シュシュ』編集部にて
タブロス市内の書店にて購入できる雑誌『シュシュ』。それは、主に舞台などで活躍するイケメン若手俳優たちの魅力満載のフォトやインタビューを中心に、イケメン料理男子のクッキングコーナーやタブロス市内のイケメンウォッチング等々も詰め込んだ、イケメン好きの乙女御用達の雑誌である。
そしてこれは、某日の『シュシュ』編集部でのお話。
「編集長! 『シュシュ特別号』のメイン企画、これでどうでしょう?」
編集部内でも随一のイケメン好き女子・イナバが元気いっぱいに簡単な企画案を編集長に提示する。編集長はそれに軽く目を通し、くいと眼鏡を上げた。
「ふーん。『イケメンだらけのドキドキウェディング』ねぇ。悪くはないけど、パンチに欠けないかしら?」
『シュシュ』読者の乙女の皆様は、イケメンに夢を見せてもらいたいのだ。ウェディング企画と言っても、タキシード姿のイケメンの隣に見知らぬ女の子が立っていたりしたら興醒めなのである。それでは、乙女の夢は満たされないのだ。だからと言って、タキシードを身に纏ったイケメンが笑顔でこちら側に向かって手を伸ばしている――というだけでは、雑誌の1ページは見事に飾れても、特別号のメイン企画にはちょっと弱い。
「大丈夫です! 私に秘策があります!」
きらり、とイナバの目が光る。
「イケメンとイケメンの結婚式です! 片方のイケメンには綺麗にお化粧して、ウェディングドレスを着てもらうんです! イケメン同士の組み合わせなら、乙女の夢は壊れません! むしろキャーキャー楽しんでもらえること間違いなしですっ!」
成る程、と編集長が顎に手をやる。
「で、場所のあてはあるの?」
「ばっちりです! 私、ウェディングパーティーにも使われる素敵レストラン『オリヴィエ』につてがあるんですよ!」
「モデルはどうするつもり?」
「そのレストラン自慢の全部食べられる巨大ウェディングケーキ、撮影用に発注するつもりなんです!」
「それで?」
「イケメン2人で来場してくれたら、1組様たったの100ジェールで夢の巨大ケーキ食べ放題だよーって宣伝するんです! 但し、片方にはウェディングドレスを着てもらって、片方にはタキシードを着てもらうという条件付きで!」
イナバは自信満々だが、「でも……」と編集長は難しいような顔をする。
「2人1組のイケメンなんて、どこで見つけてくるのよ?」
「何を言ってるんですか編集長! このタブロスには、A.R.O.A.本部があるじゃないですか! イケメン揃いのウィンクルムがよりどりみどりと噂のあのA.R.O.A.本部が!」
「あ、そうか。よし、採用!」
――かくして、A.R.O.A.本部へと『シュシュ』編集部からのちょっと珍妙なお誘いが届くのだった。
解説
●『シュシュ』編集部主催ウェディング撮影会について
男性2人1組でウェディング撮影会に参加していただきますと、人気レストラン『オリヴィエ』の巨大ウェディングケーキが1組様100ジェールで心行くまでお楽しみいただけます。
但し、片方はタキシード、片方はウェディングドレスを着用していただきます。
女性役の方にはメイクもさせていただきます。
ドレス等は全て『シュシュ』編集部にてご用意させていただきますが、こんなドレスが着たい! 等の希望がありましたらプランにてご指定くださいませ。
可能な限りリザルトに反映させていただきます。
●撮影会の詳細
まず、ケーキ入刀を撮影させていただきます。
ケーキ入刀しているところを撮ってほしいという方は、プランにてご指定ください。『切ってるふり』で撮りますので、複数名様の希望がありましてもOKです。
その後、自由にケーキを食べていただき、基本的には2人で一緒にいるところをパシャリと撮影させていただきます。
手を取ったり、キスの真似ごとしたりしてもいいよというウィンクルム様はプランにてご指定いただけますと編集部の皆さんが喜びます。
その他希望もプランに盛り込んでいただいてOKですが、親密度等により採用できない場合がございますことをご了承くださいませ。
●プランについて
公序良俗に反するプランは描写いたしかねますのでご注意ください。
また、白紙プランは描写が極端に薄くなります。お気を付けくださいませ。
ゲームマスターより
お世話になっております、巴めろです。
このページを開いてくださり、ありがとうございます!
ジューンブライドということで結婚式風なエピソードをお届けです。
らぶらぶするもよし、女装を楽しんだり楽しまれたりするもよし、巨大ケーキに夢中になるもよし。
お好きなように楽しんでいただけたらなぁと思います。
イケメンイケメン言っていますが、男前さんもダンディも美人さんもかわいこちゃんもその他いろんなタイプのウィンクルム様、大・大・大歓迎ですので!
皆さまに楽しんでいただけるよう力を尽くしますので、ご縁がありましたらよろしくお願いいたします!
また、余談ですがGMページにちょっとした近況を載せ始めました。
こちらもよろしくお願いいたします。
リザルトノベル
◆アクション・プラン
シルヴァ・アルネヴ(マギウス・マグス)
ウェディングドレス 膝上までのスリットが入った、マーメードラインのビスチェドレス(白) 髪はアップでヴェールやアクセサリー類はお任せ 「…すごかった…」 半分放心状態でドレス姿で椅子にどっかり 「花嫁さんって大変なんだなぁ」 化粧をほどこされ、ツルッツルになった片足をスリットの間から上げて撫でつつしみじみ (ケーキが入らないからと、コルセットは限界までは絞り上げないで貰っている) ケーキ入刀が終わり、いざカットされたケーキが出されたら 満面の笑みで「いただきまーす」 食べようとした所を遮るマギに?マーク。 あーんと口に入れて 「う……美味いっ。生きてて良かった……!」(じーん) 感涙を新郎のハンカチで拭われるワンシーン |
栗花落 雨佳(アルヴァード=ヴィスナー)
うーん、何だか最近僕女装しかして無い気がするんだけど何でかな…? 別に抵抗が無いだけで趣味な訳じゃないんだけど… アル、今回もドレス着ない?前回は黒のチャイナだったし、今回は白のドレスだから趣向は真逆だよ? …だよね…(ため息) まぁ、受けたからにはしっかりやらなきゃね アル、ドレス色々あるみたいだけど、どれが良いと思う? そう?じゃぁ、編集の人に見繕って貰おう 流石に本格的なドレスはちょっと重たいね… 女の人はコレが着たいのか…結構な重労働だね……わっ(バランス崩し) ごめんアル…何か凄い喜んでるね。編集さん(苦笑) ダメだよアル…今日は写真撮るのが目的なんだから… |
セラフィム・ロイス(火山 タイガ)
立体の花飾のスレンダーラインドレス 青薔薇とレースのベールで顔を隠す 鏡に自問自答 何で僕はこんな所に花嫁として(『ふり』だけど) 嬉しそうなタイガみてたら断れなくて…でも撮影会はハードル高いよ !嬉しくない …(笑顔が今日ほど憎らしいと思ったことはっ) 無理…だ。やはり人前で女装を晒すなんて顔向けできない! え…でも 物憂げで暗い僕しか写ってなかったから、だから避けていて、慣れてなくて …一緒なら、一緒なら頑張れそうな気がする ■ 緊張と羞恥心で足がすくむ。リードされ落ち着きつつ ?!キスって わかるけど…タイガに悪い。…(頷き目をつぶる) 心臓に悪いよ…(真っ赤) そんなに嬉しそうに笑わないでほしい。頑張りたくなるだろ |
鹿鳴館・リュウ・凛玖義(琥珀・アンブラー)
撮影会なんだよね?フフッ、楽しみだ 僕としては周りが楽しんでくれるなら、とことん盛り上げるよ! ねっ!琥珀ちゃん! ワインレッドのタキシードを着たいね、ネクタイの色は任せるよ 造花でもいいから、左の胸元に一輪の赤いバラも挿してくれる? ケーキの入刀も希望してるんだけど、撮ってくれる? 注目してくれた人全員にもれなく投げキッスを送っちゃうよ! ……やだなぁ、そんな顔しないでよ あくまでもエンターテイメントなんだからさぁ 出来れば、入刀してる琥珀ちゃんの後ろに回って 肩を添えているからそこを撮ってくれると嬉しいよ もちろん、編集部で指定のポーズがあれば、それにも従う ケーキ食べたら琥珀ちゃんを肩車するから、そこも撮ってね |
アレクサンドル・リシャール(クレメンス・ヴァイス)
単なる食べ放題と勘違い参加 精霊にドレスを振ろうとするが玉砕 (動きやすさ重視でネックホルダーのミニ丈白薔薇ドレスにショートベール、白薔薇のブーケ) もう脛も腋も背中も全部剃られて……うん?靴変える? 無理!足くじく!転ぶ!(左手で腰をホールドされ、右手で軽く左肩掴む) これ、諸々超恥ずかしいんだけどー (背中を触られて妙な声あげて)シルヴァ、やめろよー。(擽り返す) 椅子に座りテーブルに肘をつく 上品?無理だよ疲れたー。 へ?クレミー何やらかしてるんだよー! 片手じゃ食べにくいな そうだ、写真撮ってるし折角だからファーストバイトしよう はい、クレミー。あーん 意識したら照れるのか 意識されてるって思うとなんか照れるな |
●花嫁さんの作り方
「うーん、何だか最近僕女装しかして無い気がするんだけど何でかな……?」
控室にて。栗花落 雨佳がゆるりと首を傾げれば、相棒のアルヴァード=ヴィスナーは深い深いため息を零した。
「お前が似たような依頼受けるから職員がそうゆう奴だって認定したんだろ」
「別に抵抗が無いだけで趣味な訳じゃないんだけど……」
「知るかよ……だから簡単に依頼をひょいひょい受けてくんなっつってんだろ……」
苦虫を噛み潰したような顔のアルヴァードを尻目に、雨佳は「そうだ」と柔らかに笑む。
「アル、今回もドレス着ない? 前回は黒のチャイナだったし、今回は白のドレスだから趣向は真逆だよ?」
「ふざけんな……っ」
「……だよね……」
疲れ果てたような声で応えるアルヴァードとどこか遠い目をしてため息をつく雨佳である。が。
「まぁ、受けたからにはしっかりやらなきゃね」
なおもグロッキーなアルヴァードを尻目に、さっさと気を取り直す雨佳。
「アル、ドレス色々あるみたいだけど、どれが良いと思う?」
「知らねーよもう……好きなの着てくれ……俺はもう何も言わん……」
顔を覆い項垂れるアルヴァードに雨佳は温かい言葉をかける――ことは特になく、
「そう? じゃあ、編集の人に見繕って貰おう」
とさらりと返すや否や、「すいませーん」と同行しているイナバへと声をかけにいってしまう。アルヴァードも、本意ではないもののタキシードの準備をしなくてはならない。
「取り敢えず、この地獄が終わればケーキが食える……『オリヴィエ』のケーキなら今後の勉強になるだろ……我慢だ……」
トラットリアのシェフたるアルヴァードは、至極ストイックな動機でモチベーションを上げようと試みるが。
「……つーか、コレ雑誌に載るんだよな? ……なんちゅー依頼を受けてきやがったんだアイツは……」
雑誌が書店に並ぶ日のことを思い、再びのため息を禁じえないアルヴァードだった。
「ドレスって……食べ放題だと思って来たらドレスって……!」
しかも、ただのドレスじゃなくてウェディングドレスである。アレクサンドル・リシャールの盛大な勘違いにクレメンス・ヴァイスはぴしゃりと一声。
「あんさんの早とちりが悪い」
ぐうの音も出ないアレクサンドル。ならばと提案することには。
「なあクレミー。ドレス着てみない?」
「却下や」
「ですよねー」
アレクサンドル、あえなく花嫁担当に決定。スタッフに着付けてもらったのは、動きやすさを重視したネックホルダーのミニ丈白薔薇ドレス。ショートベールを被り白薔薇のブーケを手にすれば、素敵な花嫁さんに変身! ……のはずが。
「いやこれ大変だわ。もう脛も腋も背中も全部剃られて……」
疲れたような声を零しながら歩み寄ってくるアレクサンドルはいつも通りの大股歩き。ミニ丈のドレスからチラ見えするパンツに、クレメンスはため息を零した。ちなみにクレメンスは、空色のベストとタイがアクセントの、純白のタキシード姿だ。
「見てられへんわ……せや。アレクス、これ履き」
「え? 靴変えるの?」
クレメンスが選び出したるは5cmのピンヒール。強制的に上品に歩かせるという策である。しかしこれ、ヒールに慣れていない男子にはかなりハードルが高い。
「無理! 足くじく! 転ぶ!」
「……仕方あらへんねぇ」
言って、クレメンスはアレクサンドルの右側に立つと、左手で彼の腰を支える。アレクサンドルの右手が、クレメンスの左肩を軽く掴んだ。安定はした。したのだが。
「これ、諸々超恥ずかしいんだけどー」
「って、恥ずかしそうに睨まれても迫力あらへんよ」
軽く一蹴されるアレクサンドル。と。
「あれ? シルヴァにマギウスじゃん!」
控室に入ってきた知り人たちへとアレクサンドルが声をかければ、それに気づいたシルヴァ・アルネヴが嬉しそうに駆け寄ってくる。その後ろに、マギウス・マグスも続いて。
「なあ、どっちがドレス着るんだ?」
「え? そりゃ勿論マ……」
「シルヴァです」
無情にも断ち切られるシルヴァの軽口。アレクサンドル、これからドレスを纏うシルヴァに助言を一つ。
「気をつけろよー。背中とかつるっつるにされるぞ」
「つるっつる?! すごい! 触ってもいいか?」
シルヴァ、妙なところに食いついた。そして尋ねた割には是も否もなくアレクサンドルの背中を撫ぜる。
「ひゃうっ?!」
「おお、すげー。本当につるつるだー。な、マギも触って……」
「みません」
「アレクス、妙な声出さんといて」
「いやだってシルヴァが急に触るから……って、シルヴァ、いい加減にやめろよー」
くすぐり返すアレクサンドル、じたばたするシルヴァ。はしゃぐ神人たちを見やり呆れ返った顔の精霊2人のため息が、綺麗にハモる。
(相変わらず苦労してはるんやね……)
(良識のある人がいてくれて本当によかった……)
口には出さずとも、通じ合うクレメンスとマギウス。こく、と頷いて2人は互いの健闘を祈り合った。
さて、そんなシルヴァが身に纏うウェディングドレスは。膝上までのスリットが入った、マーメードラインのセクシーなビスチェドレスだ。色は純白。ちなみに、ケーキを存分に食べるためコルセットは限界までは絞らないでもらっている。
「なぁなぁマギ。オレのドレスの尻パットが半端ない! 触ってみるか?」
「……結構です」
色っぽい姿ながらも、そんなことは微塵も気にせず目を輝かせるシルヴァ。そんな彼の様子を冷めた目で見やるマギウスは、チャコールグレーのフロックコートタキシードを大人っぽく着こなしている。靴は花嫁のヒールに合わせて上げ底だ。
「それよりシルヴァ。大変なのはここからですよ」
「え、何で? ドレス着る時に俺もつるっつるにされちゃってるし、もういいんじゃ……」
「ヘアメイク。まだ終わってないでしょう?」
「あ……」
タイミング良く、スタッフがシルヴァを呼ぶ声が聞こえてきて。
「いってらっしゃい。頑張ってくださいね、シルヴァ」
相棒に淡々と見送られながら、シルヴァはメイクさんに連行されていった。
「撮影会かぁ……。フフッ、楽しみだ」
言葉通りことさら楽しそうに笑み零すのは、ワインレッドのタキシードにブラックタイと同色のベストという大人な出で立ちの鹿鳴館・リュウ・凛玖義。
「僕としては周りが楽しんでくれるなら、とことん盛り上げるよ! ねっ! 琥珀ちゃん!」
両手を広げれば、胸元の赤薔薇がつやりと光った。凛玖義、ノリノリである。対する琥珀・アンブラーは甘えるように凛玖義にぎゅうとしがみつき、舌っ足らずな口調で訴える。
「りくぅ! はく、ケーキ食べたい~! まだなの~、ねぇねぇ~!」
上目遣いに訴えられて、「もう、琥珀ちゃんってば可愛いんだから」とでれでれになる凛玖義。今すぐにでもケーキを「あーん」してあげたいが、それにはまだ準備が整っていない。
「ケーキは、琥珀ちゃんがウェディングドレスに着替えてからだよ。そしたら2人でケーキを切るふりをして、それが終わったらいっぱい食べられるからね」
「……りくがタキシード着るなら、はくも着たい」
どうやら凛玖義のタキシード姿がお気に召した様子の琥珀。
「でもダメなんだっけ? わかった……はく、ウエディングドレス着る。着るの初めてだけど、似合うかな?」
「うんうん、琥珀ちゃんなら絶対似合うよ」
間もなく、やってきたスタッフが琥珀を変身させるため別室へと連れていく。なかなかの待ち時間の後凛玖義の元へと戻ってきた琥珀は。
「……可愛い。すっごく可愛いよ琥珀ちゃんっ!!」
オーガンジーのふわふわボリュームスカートが愛らしいプリンセスラインのドレスにはたくさんのリボンを飾って。純白のドレスを纏った琥珀ちゃんはまるで天使のよう!(凛玖義談)
「うー、うごきにくい……」
「大丈夫大丈夫。僕がエスコートするから。ね?」
エスコートの意味がわかっているのかはわからないが、こくりと頷く琥珀。準備が整ったら、楽しい楽しいショータイムの始まりだ。
視線を落とせば、立体の花飾が美しいスレンダーラインのドレスがひらり。目前の鏡へと目を向ければ、青薔薇とレースのベールから覗く、あまりにも見慣れた自身の顔。これは花嫁の『ふり』だけれど、それでも。
(何で僕は、こんな所に花嫁として……)
セラフィム・ロイスは、鏡の中の自分に問う。全ては、相棒である火山 タイガの無邪気なお誘いから始まった。
「巨大ケーキ食べ放題なんだって。一度制覇してみたかったんだ!」
男同士でも結婚できると知ったタイガは、ならば女装もごく一般的なことに違いないと思い込んでしまったらしく。よって、一切の躊躇もなしにセラフィムをこの撮影会に誘ったようなのだが、セラフィムの心持ちは彼とは違う。けれど。
(嬉しそうなタイガ見てたら断れなくて……でも撮影会はハードル高いよ)
鏡には、陰鬱な面持ちの自分が映っている。そこに、着替えを終えてやってきたもうひとりの姿が入り込んだ。純白のタキシードを着たタイガだ。いつもより背が高いのは、厚底ブーツの力である。
「おー! 細身だし似合ってんじゃん!」
鏡越しに見るタイガの表情は、太陽のような眩しさだ。光が強くなれば、影もまた色濃くなる。タイガの笑顔を、今日ほど憎らしいと思ったことはなかった。
「! 嬉しくない……」
「セラ? こっち向けよ、どうした?」
言われて振り返ったセラフィムの花咲くような美しさと――それとあまりにもアンバランスなその表情の暗さにタイガは継ぐべき言葉を失う。
(こんなセラ、初めて見たかも)
そんなことを思うタイガの目の前で、セラフィムは唇を噛み締め視線を床に落とした。握られた手は、僅か震えていて。
「無理……だ。やはり人前で女装を晒すなんて顔向けできない!」
「……じゃあ、やめるか。別でも食えるし」
あまりにもあっけらかんと零された言葉に、セラフィムは驚いて顔を上げる。
「え、でも……」
「セラにそんな辛い顔させてまで、ケーキ食べたい! なんて思わねぇもん。嫌なのに来てくれたんだな。……そういや、写真嫌いだったっけ」
タイガの優しい言葉に、セラフィムはこくと頷いて。
「物憂げで暗い僕しか写ってなかったから、だから避けていて、慣れてなくて」
でも、とセラフィムはタイガの目を真っ直ぐに見る。
「……一緒なら、一緒なら頑張れそうな気がする」
だから、と紡がれるのはひたむきな決意。セラフィムの表情の変化に気づいて、タイガはにっと笑みを零す。
「おう! もちろん!」
応えながら、今セラフィムがどんなにいい顔をしているか教えてやりたいと思うタイガだった。
●ケーキ入刀の時間です
「さーて、ケーキ入刀! いやぁ、ワクワクするねぇ」
ケーキ入刀(今回は『ふり』ではあるが)の瞬間をばっちり収めようとカメラを構えるスタッフを始めとする一大イベントを見守る一同。サービス精神に満ち溢れた凛玖義は彼らに向かって、余裕綽々で投げキッスなどしてみたり。反応が薄くても、気にしない。
「……やだなぁ、そんな顔しないでよ。あくまでもエンターテイメントなんだからさぁ」
なんてけらけら笑う凛玖義には、緊張の気配もない。
「ケーキ切ったふりみたいだけど、はく、やる!」
琥珀も、想像以上の大きさの素敵ケーキに目を輝かせながら、なかなかにやる気充分で。凛玖義が琥珀の後ろに回って、肩を添えてケーキ入刀。パシャパシャとシャッターが切られた。大事なシーンの撮影は無事終了だ。琥珀が、凛玖義を見上げる。
「りくぅ、もうケーキ食べられる?」
「うん、そうだよ、琥珀ちゃん。お疲れさま」
「わーい、ケーキたのしみ!」
2人が顔を見合わせてにっこりするのも、しっかりと写真に収められたのだった。
クレメンスに席に着くのを助けられ、アレクサンドルはやっと椅子に座ることができた。ケーキ入刀は丁重にお断りした。慣れないヒールが痛くてとてもやっていられない。
「つ、疲れた……!」
テーブルに肘をつき、足を開いて座る花嫁の姿にクレメンスは本日何度目かのため息を零す。
「アレクス。上品にせな丸見えやろ」
「上品? 無理だってもうほんと」
「はぁ。仕方あらへんねぇ」
ついと神人の足元に跪き、クレメンスは自分の髪を束ねるリボンを解いた。それを神人の左手首に結んだ後、両太腿と纏めて縛り付ければ――強制的に足閉じ&左手は膝上の状態でキープされる。画期的だがあまりにも荒療治。
「写真に写ったら大変やから、ブーケで隠しといてな」
「って、ちょ、何やらかしてるんだよクレミー!」
低い声音で囁くクレメンスに、慌てて抗議の声を上げるアレクサンドルである。
「……すごかった……」
半ば放心状態で椅子にどっかりと腰を下ろすシルヴァ。メイクを施された上、アップにした髪にビーディングベールを纏わせてますます大人っぽい仕上がりだ。けれど。
「ヘアメイクがあんなに時間がかかるなんて聞いてない……。花嫁さんって大変なんだなぁ……」
つるっつるになったおみ足をスリットの間から上げて撫でつつしみじみとシルヴァは呟く。と、シルヴァの視界に、クレメンスの『指導』が映った。シルヴァは慌てて足を閉じ、そんな相棒の様子を見てマギウスは僅か笑み零す。
「暫くそうやって行儀よくしてて下さいね。花嫁さん」
からかうような口調に、仄か赤面したシルヴァが視線で抗議するもマギウスはそれをさらりと受け流し花嫁の手を取って。
「それでは、ケーキ入刀といきましょうか」
似合いの2人のケーキ入刀の様子は、しっかりばっちり撮影されたのだった。
●ドレスとケーキと撮影会
「流石に本格的なドレスはちょっと重たいね……」
栗花落さんには雰囲気があるからとイナバが雨佳に選んだのは、スレンダーラインのシンプルなドレス。ドレスは、雨佳の中性的な美しさを存分に引き出していて。
(くっそ……無駄に似合ってやがるから始末が悪ぃ……)
そんな感想を胸に抱くアルヴァードは、黒一色のシックなタキシード姿。イナバ曰く「花嫁さんの瞳の色に合わせたんですよ!」な深い青色のブートニアがアクセントだ。
「アル、よく似合ってる」
「……そりゃどーも」
目元を柔らかくする雨佳とやや拗ねたような表情のアルヴァードは、傍から見れば完全にお似合いの花嫁花婿だ。密か、パシャパシャと切られまくるシャッター。
「それにしても……女の人はコレが着たいのか。結構な重労働だね……」
「そんなに重いのか? って、そんなことはどうでもいい。ほら、ケーキ取りにいくぞ」
「あ、待って、アル……わっ?!」
「あっ! おい……っ!」
幾ら似合っていても、今日初めて袖を通したドレス姿。バランスを崩し危うく転倒するところを、アルヴァードが咄嗟に抱きとめ支える。
「……ごめん、アル」
「全く、そんなヒラッヒラしてんの着てんだからちゃんと気をつけろ……って何見てんだ見世物じゃねぇぞ!」
イナバを始めとするスタッフ一同、美味しすぎる、そしてあまりにも絵になるアクシデントに思わず見惚れ。そして、アルヴァードの声にハッと我に返ったイナバの第一声は。
「シャッターチャンス!」
これである。構えられるカメラ。響くシャッター音。
「……何か凄い喜んでるね、編集さん」
「って苦笑してる場合か?! おいっ!! 写真撮んなっ!!」
「ダメだよアル……今日は写真撮るのが目的なんだから……」
後日、この時の写真が雑誌の1ページをばっちり飾ります。
タイガに手を引かれ、セラフィムは少し遅れて会場へと足を踏み入れた。緊張と羞恥心にすくむ足。けれど手を取りリードしてくれるタイガの温もりが、セラフィムの心を落ち着かせてくれる。一方のタイガは、セラフィムがついてきてくれる嬉しさからかむずむずとしていた。
「大丈夫だって、セラ」
「う、うん……」
タイガがドレス姿のセラフィムの手を引く様子は、一枚の絵のようで。自分たちを追うレンズに気づいたタイガは、「そうだ」と思い付きに小さく声を上げる。
「な、誓いのキスのふり、してみねぇ?」
「?! キスって……!」
「寸止めするから、目を瞑ってじっとしてりゃいい。カメラも見せ場がないままじゃ可哀想だろ?」
「わかるけど……タイガに悪い」
セラフィムの物言いに、タイガは笑みを漏らした。
「オレに悪いなんてそんなことねぇよ。嫌じゃねーし、むしろ……」
――むしろ?
(あれ、オレ今何を言おうとして……?)
思考の迷路に迷い込むタイガの前で、セラフィムは心を決めたように頷きひとつ目を瞑る。そのかんばせに惹かれるようにして、タイガはそっと口づけの真似事をした。シャッターの音が響く。
「心臓に悪いよ……」
瞳を開いたセラフィムが、耳まで真っ赤になって小さく呟く。そんなセラフィムを見て、タイガはにっと笑みを返して。
(そんなに嬉しそうに笑わないでほしい。頑張りたくなるだろ)
そう胸の内に思うセラフィムの目元も、ほんのりと和らいでいた。
いざケーキ入刀が終われば、お待ちかねのケーキ食べ放題の時間だ。比較的動きやすい恰好のマギウスが、シルヴァの分のケーキも席へと運んできてくれる。『オリヴィエ』のとっておきのケーキは、華やかで美しく、それでいてとんでもなく美味しそうで。シルヴァのかんばせに、満面の笑みが浮かぶ。
「いただきまーす!」
手を合わせてきちんと挨拶を済ませれば、自分を待っている愛しのケーキにフォークを伸ばし――と、その手をマギウスが遮った。
「シルヴァ、ちょっと待ってください」
一体これ以上何を待つことがあるのか。頭上にクエスチョンマークを浮かべるシルヴァの目の前で、マギウスはそっとフォークでケーキを掬い、シルヴァの口元へとそれを運んだ。
「ファーストバイトです。ほら、『あ』」
促されるまま「あーん」と大きく口を開ければ、とび込んでくるのは至高の美味。ここに至るまでの苦労が脳裏を過ぎり、シルヴァの目元にうっすらと涙が浮かぶ。
「う……美味いっ。生きてて良かった……!」
じーん、と幸せを噛み締めるシルヴァに「大袈裟ですよ」と返しつつも、マギウスは化粧が落ちないようそっと花嫁の涙をハンカチで拭ってやる。
……あ、このシーン、勿論撮影済みです。
「ケーキ多めに貰うてきたよ」
諸事情で動けないアレクサンドルに代わり、クレメンスが席へとケーキを運んでくる。待ちに待った甘い時間――なのだが。
「これじゃ食べにくいな……」
これもまた諸事情で左手が使えないアレクサンドル。クレメンスが、フォークでケーキを掬ってそっとアレクサンドルの口元へと運んだ。
「片手では食べにくいやろからね」
途端、待ってましたとばかりにシャッターが切られる。その音に、「そうだ」とアレクサンドルは閃いた。
「写真撮ってるし、折角だからファーストバイトしよう」
「へ? ふぁ、ファーストバイトって……!」
「はい、クレミー。あーん」
差し出されたケーキを前に、目に見えて赤くなるクレメンス。意識したら照れるのかと考察するアレクサンドルも、意識されていると思うと何だか自分まで照れてくる。
「……何でアレクスまで赤くなるん。何や、余計に照れてまう……」
2人して真っ赤になりながら行われたファーストバイトは、当然のように雑誌に収録されることになる。
「あ、カメラさん! ねぇ、1枚撮ってもらえないかな?」
ケーキを存分に楽しんだ後。琥珀を肩車した凛玖義が、カメラを持ったスタッフへとにこやかに声をかける。スタッフは当然それに快く応じ、雑誌を飾る1枚がまた増えた。
「しゃしん、いっぱい撮ったね」
「そうだね、琥珀ちゃん。今日の思い出が、たくさん残るよ」
「ケーキもたくさん?」
「うん、ケーキもたくさん。ああ、雑誌ができるのが今から楽しみだねぇ」
「はくも、たのしみっ!」
凛玖義の肩の上で、琥珀がはしゃぐ。その幸せな重みに、凛玖義は表情を柔らかくした。そしてその瞬間もまた、カメラマンの手によって密か形として残ったのだが、そのことを凛玖義たちが知るのは、もう少し先の話。
皆様、どうぞ『シュシュ特別号』の完成をお楽しみに。
依頼結果:成功
MVP:
名前:セラフィム・ロイス 呼び名:セラ |
名前:火山 タイガ 呼び名:タイガ |
エピソード情報 |
|
---|---|
マスター | 巴めろ |
エピソードの種類 | ハピネスエピソード |
男性用or女性用 | 男性のみ |
エピソードジャンル | イベント |
エピソードタイプ | ショート |
エピソードモード | ノーマル |
シンパシー | 使用不可 |
難易度 | とても簡単 |
参加費 | 1,000ハートコイン |
参加人数 | 5 / 2 ~ 5 |
報酬 | なし |
リリース日 | 06月13日 |
出発日 | 06月24日 00:00 |
予定納品日 | 07月04日 |
参加者
- シルヴァ・アルネヴ(マギウス・マグス)
- 栗花落 雨佳(アルヴァード=ヴィスナー)
- セラフィム・ロイス(火山 タイガ)
- 鹿鳴館・リュウ・凛玖義(琥珀・アンブラー)
- アレクサンドル・リシャール(クレメンス・ヴァイス)
会議室
-
2014/06/23-23:30
>アレックス
いた! 良かった、ほんとギリギリで悪い!
ありがとうなー。 -
2014/06/23-23:24
>シルヴァ
物好きだなあ。
構わないけど、擽り返すぞー。
(文字数との戦いが、今・始まる) -
2014/06/23-23:18
締切りまで時間があったから、のんびり構え過ぎた!
>アレックス
ぎりぎりになったけど、その背中触って良いか? -
2014/06/23-08:32
>鹿鳴館
アドベンチャーはともかく、ハピネスは基本的に他の人の行動に指図出したりしないと思うぞ?
なんだ、目立ちたがりってちょっと意外だったな。
快くやってくれるならよかった。
俺慣れない靴で足が痛くってさー。あまり動きたくないんだよ。
>セラフィム
気にしてないならよかった
当日楽しくすごそうな。
羞恥で体が動かないのも、それはそれで美味し(強制退場) -
2014/06/23-01:24
実は皆が何かああしろこうしろって発言するかどうか気になってたんだけど……。
……気にしすぎかな。
>アレックス君
そしたら、当日のケーキ入刀はシルヴァ君と僕がするのかな……。((6)(7)の発言より)
ああ、気にしないで。
僕、何かと目立ちたがるのが好きなんでね、編集部の人が喜んでくれるなら、
いくらでもファンサービスしたいんだ。TPOはわきまえるけどね。
>シルヴァ君
お嫁さんは、綺麗なドレス着るんだから、体も魅せておかないとね。
それに撮影会っていうんだから、綺麗に撮られた方がいいじゃない?
>セラフィム君
確かに僕ら男神人って、依頼の度に1人は知っている人に会っている気がするような……
いつの間にか顔見知りになる内に、依頼でも一緒だったんじゃないか、って感覚になっちゃったかな?
あ、入刀しないのね。了解。 -
2014/06/20-19:37
ああ。凛玖義と僕とははじめてなのか
他のシナリオでたまに見かけるからそんな気しなかった。よろしくな
>入刀
?気を使わせたか。背後は共同パソコンで応答できないとこが多々ある
アレクサンドルみたいな明るい責任感あるタイプは好きだし気にしてもないよ
(背後は世話好きだしむしろ親近感)
タイガ『よっしゃ!俺らもやっか!もごもご』(口押さえ
…色々考えたんだがプランが消極的(羞恥心で動けないほど)
になってしまったので辞退おくよ
シルヴァがんばってくれ。ノリがいい方がいい写真になるだろうしな
>ドレス
足が見えるドレス着る手もあるな -
2014/06/20-10:03
ちょっと言葉きつかったな、ごめんな。
ハピエピなんだし、そうガチガチに考えなくても、いなきゃいないで成立するし
それこそ、興味があるかどうかだよな。
返ってケーキ入刀行きにくくなってたりしたらすまない。
逆に、「俺に押し付けらたから」とかを動機に使ってくれてもいいぞ。
俺自身は、シルヴァが楽しく行ってくれるらしいから、
喜んで隅に引っ込んでるよ。
>シルヴァ
よろしくなー。
足どころか、なんか背中までツルッツルにされたんだけど……。
女装って厳しいな。 -
2014/06/20-01:16
挨拶遅くなったけど、よろしくなー。
あの『オリヴィエ』の巨大ウェディングケーキを食べられるなら
ドレスの一枚や二枚や三枚、お色直しもばっちこいだな!
ケーキ入刀もやるやる!!
この場合、面識あるメンバーばかりなのが良いのか悪いのかだけどさ
……ドレス着てる方の足が、どれくらいツルっツルになってるか気になるぞ。
(ドレスの裾辺りをじーっ) -
2014/06/19-09:43
>雨佳
こちらこそ、よろしくな。
……アルヴァード、俺もドレス見たいなー。
雨佳のタキシードも見たいなー。
>セラフィム
よろしくなー。
ケーキ入刀は、興味のあるなしじゃなくて
そもそも参加者に振る舞うためじゃなく、
ケーキ入刀シーン撮影の為に結構な経費投入して用意された物だから
誰も希望者いないって訳にはいかないだろうなって思ってさ
むしろ複数いた方が、記者さんも助かるだろ。
そんな訳で、セラフィムも義務感と相方のプッシュ!って奴でどうだ?ケーキ入刀。
>鹿鳴館
ケーキ入刀希望者ゲットー。
二組いりゃ約半数だし、面目立つだろ。よろしくなー。 -
2014/06/19-02:07
こーんばんは!
・・・と思ったらセラフィム君以外、皆、顔合わせていたんだね。
改めまして。鹿鳴館・リュウ・凛玖義っていうよ。はじめましても何度目ましての人もよろしくね。
希望が通れば、琥珀ちゃんにドレスを着せて、僕はタキシードを着る予定。
入刀は・・・誰もやらないなら挙手するよ・・・。 -
2014/06/16-19:01
確かにな。親しみを感じてしまうよ
と、セラフィムとタイガだ。・・・なぜこの場にいるかは聞いてくれるな(頭抱え)
女装は・・・僕、かな。不本意だけど
>入刀
時間もたっぷりあることだしプランも含め考えておく
タイガは好きそうだけど、僕は目立つのは勘弁してほしいしね
ただ複数で『ふり』も大丈夫とあるし
記念(?)にやってもいいかもね。興味ある人は
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2014/06/16-15:42
こんにちは。
ふふ、男性神人は数が少ないみたいだからね。
これから先も頻繁に顔を合わせると思うからよろしく。
僕達はケーキの入刀は遠慮しておくよ。
うーん、それにしても、最近僕女装ばっかりしてる気がするな…。別に抵抗が無いだけで、趣味な訳ではないのだけど……。
アル、代わりにドレス着ない?
アル『ふざけんな』
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2014/06/16-00:38
アレックスだ、よろしくなー。
って、あれ、物凄く近々に見た顔が(笑)
相方にばっさりとドレス着用を却下されてしまったので、俺がドレスだなあ。
鬼畜気味なヒギンズ教授にマイ・フェア・レディ化されつつ、隅でケーキ食べてる予定。
ケーキカット、立候補する奴いるんだろうか。
いなかったら一応たってもいいけど、いたらひっそり隅にいたいな。