レッツ エンジョイ サイクリング!(瀬田一稀 マスター) 【難易度:普通】

プロローグ

 A.R.O.A.本部の壁には、様々な催しのポスターが貼ってある。その多くはウィンクルムが互いの絆を深めるために参加するイベントが多い。
「レッツ エンジョイ サイクリング?」
 さっき増えたばかりのポスターに、A.R.O.A.職員が目を向けた。
「うわあ、僕、サイクリング好きなんですよ。場所は……うん、タブロスから遠くないですね。自転車を貸してくれて、へえ、結構ちゃんとしたサイクリングコースだ。公園一周、爽快な風を感じながら、走りませんか、って書いてある。え? しかもA.R.O.A.で貸切? これ、一般人でも参加できますよね?」
 職員は振り返り、年配の女性職員に尋ねた。
 しかし女性職員は、浮かない顔だ。サイクリングが嫌いなのかと思いきや。
「私もさっき、いいと思ったのよね。最近旦那がメタボ気味だし、運動がてらに。でもそのポスター、よく見てごらんなさい」
 人差し指で紙面の右下端を示される。男性職員はそこに目を向けた。すると。
「あー、ダメだこれは」
「でしょう?」
 女性職員は小さくため息をついた。
「『出る』可能性があるって書き方はしてるけど、その日A.R.O.A.で貸切ってことは、要は必ず遭遇するから、退治しろってことでしょうね。やっぱりここは・ウィンクルムに行ってもらいましょう」
 ポスター右下端。そこにはこう書いてあったのだ。

『ただし、デミ・ベアーと遭遇する可能性があります。ご注意ください』

「でもいいところなのよ、そこ。子供が小さいころに行っただけどね、サイクリングコースはきちんと舗装されてて走りやすいし、周りの木は青々と葉を茂らせててきれいだし。森林浴も兼ねられるんじゃないかしら。それに公園内にある噴水が綺麗なのよ。とても大きくて、うちの子たちはびしょびしょになって遊んでたわね。ま、大人は足をつけて涼むくらいがせいぜいだろうけど……広さ的には入っても平気なのよ。でも、恥ずかしいじゃない」
「そんないいところなのに、デミ・ベアー……」
 肩を落とす男性職員に、
「ま、諦めなさいな。ウィンクルムにデミ・ベアーを退治してもらってから、行けばいいじゃない」
 女性職員は苦笑し、落ち込む肩をポンとたたいた。

解説

タブロスから遠くない町にあるサイクリングロードに、デミ・ベアー(一匹)が出るようです。
退治してあげてください。

デミ・ベアーは野生のクマがデミ化したもので、普通のクマよりも凶暴です。
嗅覚が鋭く、牙と爪で攻撃をしてきます。
サイクリングコースのどこに出るかわかりませんので、とりあえずはサイクリングをしていてください。途中でデミ・ベアーが現れたら戦闘開始、の流れです。
コースは広いので、食べ物でおびき寄せることはできません。

ちなみに自転車に乗れない神人さん、精霊さんは、根性で走るか、一台に二人乗りしちゃってください。本当はいけないことですが、任務のため大目に見てもらいましょう。
あえて走りたい方、二人乗りをしたい方はその旨をプランに記入願います。
ただし本来は一人乗りの自転車なので、転ぶ可能性があります。

コースは山間の舗装された道、全長5キロほどです。上り坂も下り坂もあります。
自転車はレンタルしてくれます。シティサイクル、いわゆるママチャリです。

デミ・ベアーを倒した後は、噴水で涼むこともできますよ。


ゲームマスターより

デミ・ベアーが出る前はサイクリングを、倒した後は水遊びを楽しめるプランです。
シリアスというより、ギャグ路線。
レジャーとバトルと、プランにはバランスよく記載していただけると助かります。
自転車について記載がなければ、一人一台、普通に運転できるものといたします。

それでは、初夏のサイクリング&バトル、ご武運を祈ります。

リザルトノベル

◆アクション・プラン

高原 晃司(アイン=ストレイフ)

  サイクリング中にデミ・ベアーか…
走行時は注意しねぇとな

俺は自前のマウンテンバイクを持っていくぜ!
結構スピード出る奴だ
基本は間隔をあけて走行をするぜ
「いやー!風が気持ちいいな!!」
デミ・ベアー登場して自転車同士が衝突ってなったら大変だしな

デミ・ベアーがきたらマウンテンバイクから下りる
そこから戦闘をするぜ
トランスは余程のことがない限りはしねぇ
俺も戦闘の補助程度はできるだろうから
ナイフで足とかを斬って行動の阻害を狙う
余程の事が起こった場合はトランスだ

デミ・ベアーを倒したらアインと一緒に
噴水で涼むぜ
「ふはー戦闘やってあっついあっつい。少し涼んでいこうぜ!」


アキ・セイジ(ヴェルトール・ランス)
  ◆任務
・皆で隊列
横は二列くらいかな

・ベアーが出たら
一旦距離を取ろう
隊列を組み直して戦うんだ
逃走経路は俺が塞ぐ。任せろ!

トドメをしっかり刺して埋葬

◆任務後
ヴァレリアーノ達に自転車の乗り方を丁寧に教える

後ろを支えてるから思い切って漕いでご覧
視線は遠くを見た方がいいんだ

…なんでランスまで一緒に聞いてるんだ?(何か察する

自転車もいいけどバイクも良いぞ
ランスはバイクはどうなんだ?

その後は持ってきた弁当を木陰で開く

そう急かすなよ
焦げてるのは俺が食べるから…って、ああ…食べちゃった(汗
…って、俺が毎回作ってくるなんて思うなよっ(赤

ランス?
寝ちゃったのか(撫で

◆AROAの職員にもう大丈夫だと教えてやらないとな



大槻 一輝(ガロン・エンヴィニオ)
  いあいあいあいあ・・・待って待って。
え、囮という名の要は生餌? 

このまま出て来ずに終わら…デスヨネー
自転車とか真面目に乗るの何年ぶりだろ。
だって態々休日にサイクリングなんてしねーって

現代っ子の体力の無さ舐めんな!?
なんやごっつい装備させられとんねんで!?


とりあえずはガロンの傍で。
全員一緒に行動

デミが出てきたら。とりあえず全員の動きを様子見。
注意が熊に向いてる間にトランス(

ガロンの指示に従い攻撃というか気を引く等


くそー…体力、なく、なってら・・・_ノ乙(、ン、)_


ヴァレリアーノ・アレンスキー(アレクサンドル)
  サーシャめ…肝心な事をわざと言わなかったな
ジテンシャに乗るなど俺は聞いてない
依頼はきちんとこなす

体力温存の為に秋乃達に頼んで後ろに乗せてもらう
初めて見る自転車に感嘆の声あげるも咳払いし平静装う
イチカの後ろへ跨って座る
慣れない二人乗りに微かに不安抱く
下り坂や少し凸凹してる道に驚きイチカにしがみつく

その時も警戒態勢は解かない
ベアーがいないか注意深く辺りを見渡す

ベアー出現後すぐ自転車から降りる
トランスして応戦
一般客を巻き込まない
前衛
小刀で胴を狙う

戦闘後アキから軽く自転車の乗り方を教わる
上手く乗れず何度も転ぶ
無事乗れたら森林浴を楽しむ

台詞
二人乗りの相手が俺ですまない
何故サーシャが乗れて俺が乗れない…ッ



天原 秋乃(イチカ・ククル)
  自転車に乗ったことがない、というアーノの精霊アレクサンドルさんを後ろに乗せて移動

これは、気合いいれてペダル漕がないと、置いてかれそうだな…
デミ・ベアーに遭遇するまでは、とにかくペダルを漕ぐことに集中。余計なこと考えてたら前進できそうもない…

◆戦闘
一般人に配慮しつつ戦闘。近づかないように、あるいは早く離れるように促す

◆依頼後
イチカのことだから「水遊びしよう!」なんて言いだしそうだが、二人乗り&戦闘で体力が限界
噴水の近くで涼をとりながら休息。疲れた……

帰りもまた自転車に乗って帰らないと行けないんだろうか…?
だったら、アレクサンドルさんだけでも自転車に乗れるようになってもらいたいな…



 山間のサイクリングロードは今、平坦な直線コースが続いている。山を吹きぬける風は、タブロスのものよりもいくぶん冷たく、体感温度は少し低い。
「いやー! 風が気持ちいいな!!」
 並んで走るグループの先頭で、高原 晃司は、背中を伸ばした。ぴんと張った筋に、汗が流れる。それすらも心地いいと思うのは、こうして体を動かしているからだ。オーガと戦うときとは違う高揚が、晃司にはある。このマウンテンバイクを持ち込めてよかった。やっぱり乗り慣れたものが一番だからな。
 並走するアイン=ストレイフに目をやれば、借りたシティサイクルの、しかも赤色にのる姿に、壮絶な違和感がある。自転車がかわいすぎるのだ。ついでとばかりに振り返ると、アキ・セイジと目が合った。
 普段は学生をしているセイジには、自転車は特別珍しいものではない。道の両側にある木々や咲く草花に目を向ける余裕もある。デミ・ベアーが出てくる予感はまだないので、今は普通のサイクリングだ。前のかごに入れた弁当箱が、かたかたと鳴っている。そんなセイジの隣に、ヴェルトール・ランスが並んでいる。
「うわっ、やべっ」
 テイルスのランスはもともとの運動神経はいい、はずだ。にもかかわらず、ランスからは時々小さな悲鳴が聞こえた。ハンドルを持つ手がガタリと揺れて、自転車がセイジの方へと傾く。
「……ランス、実は自転車苦手なのか?」
「いや? だってこげばいいんだろ?」
 ……だったらどうしてそんなによろよろしてるんだ?
 セイジがひやひやと相棒を眺める後ろには、イチカ・ククルがついている。あえて荷台のついたママチャリを選んだのには、もちろんそれなりの理由がある。
「ヴァレリアーノ君は軽いなあ。すいすい進むよ」
「そ、そうか?」
 荷台を跨いでイチカの腰に手を添えて、ヴァレリアーノ・アレンスキーは周囲の景色ではなく、足元、自転車の車体を見つめた。初めて見る自転車に興味深々なのだ。前後に並んだ二つのタイヤで、ペダルをこぐだけでこんなにきっちりまっすぐ進めることが不思議だった。
「あ、カーブだよ。しっかりつかまっててね」
 イチカに言われ腰にしがみつこうとし、いや待て、それはと手のひらにわずかに力を込めるにとどめる。
 がさがさと、時折周囲の木々が鳴る。そのたびにデミ・ベアーが現れたかと目を向けて、風が葉を揺らしたに過ぎないことを知る。でも次の瞬間には、敵が出てくる可能性だってあるのだ。ヴァレリアーノは自転車の仕組みについて考えることをやめた。任務優先、デミ・ベアーへの警戒を強めることにする。
 ハンドルを握るイチカは、ヴァレリアーノを弟のようだと思いながらも、相棒の秋乃が気になって仕方がなかった。自転車の運転ができないペアを、こうして後ろにのせることはやぶさかではない。でものせるなら秋乃の方がよかったな~、なんて。思ったりもするのだ。
「二人乗りの相手が俺ですまない、イチカ」
 何かを感じ取っているのか、ヴァレリアーノが口にする。しかしそれは肯定しない。気にしないで、と首を振った。
「それより次、またカーブだからね」

「……また、カーブ……」
 ぜえぜえと、喉の奥がうるさく騒いでいる。
 曲がり道。バランスを崩さないように気を付けて、天原 秋乃はハンドルを切った。平坦だった道が、少しだけ登り道になる。
 これは、気合を入れてこがないと、置いてかれそうだな……。思ったけれど、後ろにのせている人物の手前、声にすることはない。
 しかし、アレクサンドルは、それに気づかぬ人ではなかった。横乗りにちょこんと座った体勢で、思案顔をする。
「……やはり重いかね。一応装備は重量の少ない剣にかえてきたのだが」
「いや、大丈夫……」
 秋乃はそう答えたが、足は震えそうになっている。坂が急になってきたのだ。
「自転車に興味があった故、依頼に参加したのだが……煩わせてしまい、すまない」
「やっ、そんな、ことっ」
 言葉が途切れる急こう配。ああもう! 秋乃は自転車をこぐことに集中する。余計なことを考えていたら、前進すらできそうもない。
 しかしこんな二人乗りよりも後を行く、単身ペアがいた。大槻 一輝とガロン・エンヴィニオである。
「いあいあいあいあ……待って、待てってガロン!」
「どうしたんだ? そんな必死の形相をして」
「おま、自転車なんてのるの何年振りだろってレベルだぞ? ってかこの坂なんだよ。現代っ子の体力のなさなめんなよ!? こっちはなんやごっつい装備させられとんねんで!?」
 額から流れる汗がうっとおしい。一輝はぶるりと頭を振った。その勢いで、背中に背負った大きなクマのぬいぐるみも揺れる。おもちゃ屋で売っているような可愛い代物ではない。リアルにそっくりなクマの子供である。しかもこれが結構重い。
「しかもこんなん……クマって背中見せたら襲ってくると違うん? それで最後尾とか、俺は囮か生餌か!」
「……いいんじゃないか? わかりやすくて。見つけるまで延々と探すよりはいいだろう? だったら頑張ろうじゃないか」
 ガロンは爽やかに言うのだが、セリフの合間にくつくつ笑いが混じるのだから、説得力に欠けるというものだ。
「こんなんで、クマがくるか……っ」
「ほら、それだけ叫べれば大丈夫だろう」
「こんのっ……!」


 そのときだった。
 がさがさと、道に面した木々が鳴る。風の音かと思いきや、それよりずっと地面に近いところから聞こえるようだ。
 イチカがすっと目を向けて、わあっ! と大きな声を上げた。
「クマ、クマがいたよ! 右側見て!」
 その声に、並ぶ八台の自転車は、一斉に進みを止めた。しかし各々視線を向けるものの、イチカの指す場所には、動くものは何もない。
「あれ……?」
「クマは隠れて移動すると言いますからね」
 アインは銃を取り出した。木々の奥に目を凝らす。デミ・ベアーなら体は大きいはずだ。どこにいる。どこに……。
「ガアアアッ!」
「うわあっ、ほんまや! おった!」
 最後尾、一輝が叫び声を上げた。デミ・ベアーは狭い木の間から、突然姿を現した。その体は想像以上の大きさだ。
「ガロン!」
 一輝は相棒の名を呼んだ。それだけで、ガロンには一輝の意味することがわかる。自転車を降り、ガロンは一輝のもとへと向かった。クマのぬいぐるみを自分の背からひっぺがし、一輝は近寄るガロンの頬に口づけた。くそう、またか! なんでこれしか方法がないんだ。思いはするものの、みんなの注目はデミ・ベアー。こちらを見ていない今が、トランス化のチャンスでもある。スピード重視だといわんばかり、かすめるだけのキスをする。
「絶えざる光を我等が上に」
 ふわりと二人の間の空気が揺れる。それを敏感に感じ取り、ヴァレリアーノも自転車を降りた。相棒のもとに駆け寄って、座ったままのアレクサンドルの頬に唇を寄せる。普段なら困る身長差だが、今は高さが合ってちょうどいい。
「委ねよ、夜の帳に紛れし契約の名の元に」
 アレクサンドルがまとうオーラは紫。それがちらりと周囲の空気に混じる。
「ランス!」
「よっしゃ!」
 こちらも相棒に呼ばれ、ランスは嬉しそうに自転車を飛び下りた。胸の前で、両の拳をがつんと合わせる。その頬に、セイジがそっと口づける。
「コンタクト」
 周囲に舞うは、清涼感さえ漂う緑の気。いつもなら真顔でのトランス化。しかし今日、ランスはにっかり笑顔を絶やさない
 セイジはちらりとランスを見やった。
「……お前、自転車降りられて嬉しいだけだろ?」
 ランスがにやりと口の端を上げる。悪戯坊主が笑った感じ。しかしその和やかな一瞬を、両断する音が響いた。

 がああんっ!

 道と山のちょうど切れ目、木々の合間から。
 人ならば到底一人では持ち上げられないほどの巨石を、デミ・ベアーがサイクリングロード向かって放り投げたのだ。それは先頭にいた晃司めがけて落下する。
「晃司っ」
 アインが叫び、横っ飛びに晃司に飛びつく。ちょうど自転車から降りたばかりの晃司はアインの腕に抱えられ、二人まとめて地に転がった。だん、とアインの左肩に、強い衝撃。
「くっ……」
 日に焼けたアスファルトが、じんわりと体に熱を伝えた。
 落ちた石は、ぎりぎり晃司の自転車の横。
「大丈夫か!」
 遠くから叫ぶ声は誰のものか。わからないが、うなずくアインの顔を見て、「大丈夫だ!」と晃司が答える。
「グルルル……」
 デミ・ベアーは、サイクリングロードの端に降り立った。見上げるほどに大きな体。距離にして数メートル先に敵はいる。ガオオと獣の声が、周囲に響く。
「くそっ!」
 両手にダガーを構え、真っ先に向かっていくのはイチカである。
「イチカ!」
 秋乃が叫ぶ。しかし敵に寄ることはしない。足手まといにはなりたくないからだ。
 晃司とアインが身を起こす。
「やってくれるじゃねえか!」
「晃司、気を付けてくださいね!」
 飛び出していく晃司の横から、アインはベアーに、銃口を向けた。ガッ! とアインの銃が鳴る。弾はまっすぐにクマへと向かい、その肩に当たる。
「グアアッ!」
 デミ・ベアーが吠える。振り回された腕を避け、体勢を低くしたイチカが、クマの太い右足を切りつける。左足は、晃司が狙った。デミ・ベアーはそれを避けようと後退ったが、そのとき。
「いくら攻撃力があっても、目が見えなければ、どうすることもできないだろう?」
 ガロンの武器が光り輝く。暗緑の宝玉のついたマジックワンド。そこから生まれた鮮やかな閃光が、デミ・ベアーとウィンクルムを包み、周囲全体を照らした。
「全知全能の神よ、汝の審判は真なるかな、義なるかな」
 ガロンが最初言った通り、ベアーはぴたりと腕の動きを止めた。きょろきょろと辺りを見渡している。その胴に、ヴァレリアーノの小刀の刃が当たる。
「ガアッ!」
 デミ・ベアーは怒り、再びめちゃくちゃに前脚を振り回したが、攻撃はあてずっぽう。避けるのは容易なことだ。よろりと一歩前に進むも、閉ざされた視界では歩みは遅い。
「アーノ、避けたまえ!」
 アレクサンドルの大剣が、デミ・オーガの腹をなぐ。猛獣の力が憑依した武器は、大きな爪となり、その先で、容赦なくクマの体をえぐった。
 デミ・ベアーの体が大きくかしぐ。そこにランスが持つ杖の先から光が照射された。濃紺の宝玉が輝き、圧倒的な熱がデミ・ベアーを襲う!
「グアアアッ……」
 デミ・ベアーは低いうなり声を上げ、前脚で胸を押さえた。皮膚をかきむしるように暴れている。敵がこの攻撃を耐えきるのか、否か。誰もが武器を手に持ち息をつめ、その場から動けない。
 そのうちに。
 どさり。巨体はアスファルトの上に落ちた。
「……勝った、のか?」
「そうだよ、秋乃!」
 初任務の成功に、秋乃とイチカは互いの右手を合わせた。

 その後、セイジとランスが倒れたベアーを埋葬した。
 道の上にクマが倒れていたら邪魔になるし、だからと言って運ぶのは手間だ。弔うという意味でも、山に埋めるのが一番だろう。
「デミ化してなければ、食えたかもしれないのにな」
「俺はこんなでかいの、解体できないからな」

 ※

 サイクリングロードが囲む公園、中央に大きな噴水がある。そのまわりにはベンチが並び、足元は緑の芝。いつもなら、ここで小さな子供が遊ぶのだろう。
「ふはー、戦闘やってあっついあっつい。少し涼んでいこうぜ!」
 晃司は靴を脱いだ素足を噴水に突っ込んで、その淵に腰を下ろした。
「あー、きもっちいなこれ!」
 な! と声をかける相手はさっきかばってくれた相棒。アインは水に足こそ入れてはいないが、噴水から感じる冷気に目を細めている。
「さっきはありがとな。結構思いっきり体ぶつけてただろ。大丈夫か?」
「それほど軟な体はしていません……と言いたいところですが、ガロンさんの呪文の影響か、痛みは全くありませんよ」
「そっか、ならよかった」
 にかり。アインは笑い、ぴしゃりと足で水を蹴りあげる。

「後ろを支えているから、思い切ってこいでごらん。視線は遠くを見たほうがいいんだ」
 セイジが言うと、ヴァレリアーノはこくりとうなずいた。初めて一人で、自転車にまたがっている。セイジが乗っていた自転車は、子供のヴァレリアーノには大きく、サドルに座ると、つま先は地面に触れる程度だった。
「遠くか……」
 セイジの耳に男性の低い声が届く。ヴァレリアーノのものではない。声の主に、セイジはちらりと視線を動かした。
「……なんでランスまで一緒に聞いてるんだ?」
「まあまあまあ、ほら、アーノ行くぞ」
 青い自転車で、ランスはすいすい先に進んでいく。途中がたん、と体勢が崩れたりもしたが、運転に危険はないレベルではあるだろう。その背中を、アレクサンドルが追っていく。彼もまた問題なく走っている。さっきまでヴァレリアーノと一緒にセイジの講習を受けていたとは、信じがたい上達ぶりだ。
「何故サーシャが乗れて俺が乗れない……ッ」
 ヴァレリアーノはぎりぎりとハンドルを握りしめた。こうして悔しがるところが子供らしくて微笑ましいと、先生役のセイジは思う。
「ほら、後ろ押さえてるから、走ってみよう」
「……わかった」
 ヴァレリアーノがつま先で地面を蹴る。足がつかないせいで、体勢が崩れる。しかしペダルを回し始めると、ゆらゆら不安定ながらも、車体は前に進んでいく。
「そうだ、その調子だ」
 セイジは自転車を持ったまま、小走りについて行く。手を放すタイミングが難しい。が、そろそろ平気だろう。思い切ってぱっと離してみたが、自転車はちゃんと前に進んでいく。
「お、よし!」
 そう声をかけてしまったのが間違いだったのか。わっ! と上がった小さな叫び。がしゃん! 大きな音とともに、自転車が倒れる。
「おい、平気か?」
「……もう一度、頼む」
 よろよろと自転車を起こして、ヴァレリアーノはセイジを振り返った。

 そんな自転車講習会が、始まる前のことである。
「秋乃と水遊びだ!」
 イチカはそう言って、噴水に手を入れた。
「ね、秋乃!」
 振り返ると、秋乃は「あ~」と言いながら、どっかりと芝の上に腰を下ろし、
「俺、もう限界……」
 そのままころりと芝の上に横になる。
「……帰りもまた自転車乗って帰らないといけないのかな……。アレクサンドルさんだけでも乗れるようになってもらいたいな……」
 秋乃は芝の先、地面の見えている場所にいるアレクサンドルに目を向けた。彼は相棒と、なぜかランスと一緒に並び、セイジに自転車の乗り方を習っている。
「重かった? アレクサンドル君」
「そりゃあもう」
 イチカはそれは大変だねと言い、秋乃の横に並んでころりと横になった。見上げる空は健やかに青い。
「こうやって一緒にのんびりするのもいいよね」
 さらりと言っただけなのに、隣で秋乃が微妙な顔をしている。どうしてそんな顔をするんだ。

 こんな秋乃と、似たような状態になっている人がほかに一名。一輝である。
 サイクリングロードから、公園へ来るにも体力がぎりぎりだった。自転車をこぐ気力はなく、ずるずると引っ張ってきたのだけれど、それでももう、限界だ。
「くそ……体力、なく、なってら……」
 なんとかたどり着いた噴水前。自転車を放り、ばたりと芝の上に倒れ込む。
「おや、疲れてしまったか」
 自分の自転車をきっちり止め、一輝の自転車を起こし、転がったぬいぐるみを拾って。ガロンは一輝を見下ろした。
「少し休んでもいいんじゃないか? デミ・ベアーは倒したのだから、帰りまで全員で、ということでなくてもいいだろう」
「帰りは下り坂だといいなあ……」
 はあ~、と一輝が息を吐く。そこに聞こえてきたのは、騒ぐウィンクルムたちの声だ。
 一輝は顔だけを持ち上げた。
「元気だなあ、みんな」

 自転車にのれるようになったヴァレリアーノとアレクサンドルは、二人で森林浴に出かけて行った。
「よく頑張った」
 アレクサンドルに、ぽんと頭をなでられて、ヴァレリアーノは子ども扱いと怒ってはいたが、まんざらでもなさそうだった。
「自転車もいいけどバイクもいいぞ。ランスはバイクはどうなんだ?」
 セイジはランスが自転車が苦手なことに気付いている。だから聞いたのだが、ランスはセイジが取り出した弁当箱に夢中のようだ。
「そんなことより俺腹減った!」
 きらきらと輝く瞳で見つめられ、そうせかすな、とセイジは弁当箱を開く。
「焦げてるのは俺が食べるから……ってああ!」
「そんな、焦げてるくらい気にしないって!」
 厚焼き卵をぱくりとくわえ、ランスはにっこり笑顔を見せる。
「ったく、俺が毎回作って来るなんて思うなよっ」
 そう言うセイジの頬はわずかに赤い。

 腹が膨れたら眠くなるのは道理である。
「……ランス、寝ちゃったのか?」
 隣でうとうとと目を閉じる相棒の髪に、セイジはそっと手をのせた。耳のあたりを撫ぜてみると、ふんわりしていて本当に動物の耳なんだなと思う。
「こんな硬いとこに寝て、体痛くならないのか?」
 思わず呟くと、まるで聞こえたように、ランスがもぞもぞとセイジの膝に上りかける。……ので、思わず身を引いてしまった。がつん、とランスの頭が芝に落ちる。
「痛っ」
「あ、すまない」

 噴水の冷気を帯びた涼やかな風。木々の緑。鮮やかに青い空。

「カズキ、もしかして寝てるのか?」
「寝ないと体力回復しない……」

「晃司、足がびしょびしょじゃないですか。拭くものはあるんですか?」
「平気平気。ぷらぷらしてれば乾くって!」

「ね、秋乃。復活できそう?」
「……もう少し休ませろ……」

「……セイジ、ありがとう。おかげでサイクリングが楽しめた」
「しかし……やはりアーノにはもう少し小さな自転車がいいだろう。何度か転びそうになった」

 任務の後にしては、平和な午後の時間である。



依頼結果:成功
MVP

メモリアルピンナップ


( イラストレーター: 楠木なっく  )


エピソード情報

マスター 瀬田一稀
エピソードの種類 アドベンチャーエピソード
男性用or女性用 男性のみ
エピソードジャンル 日常
エピソードタイプ ショート
エピソードモード ノーマル
シンパシー 使用不可
難易度 普通
参加費 1,000ハートコイン
参加人数 5 / 2 ~ 5
報酬 通常
リリース日 05月31日
出発日 06月07日 00:00
予定納品日 06月17日

参加者

会議室

  • [10]アキ・セイジ

    2014/06/05-23:31 

    >ヴァレリアーノさん
    ではお言葉に甘えましてアーノで。(ちょっと照れ
    アクションに教える旨書いておくよ。

    それと俺は、お弁当も持って行くよ。
    勿論、依頼は油断せずに完遂するつもりだけどな(笑

  • [9]高原 晃司

    2014/06/05-02:53 

    >ヴァレリアーノ
    おう!マウンテンバイクはスピード出るぜ!
    ただ二人乗りはできねぇんだよな…

    今回は全員で走っていく方向でよさそうだな
    間隔を少しあけて襲われた際に自転車と自転車が衝突しねぇように注意しねぇと
    ちょいとやべぇかな?

  • これで面子が揃ったようだな。皆、宜しく。
    俺も一緒にサイクリングをするものだと思っていた。
    一緒ならばベアーに遭遇しても誰かすぐフォローに行けるだろう。
    大槻達は先頭を走らない方がいいのかもしれないな。

    >アキ
    …!乗り方を伝授してくれるのか。
    無事依頼が終わりその後アキが特に何をするか決めていなかったら是非頼みたい。
    いい機会だしここで乗れるようになれば、今後何かの役に立つかもしれないしな。
    …サーシャと二人でサイクリングに行く事はなさそうだが。
    あと、俺の事はアレンやアーノなど呼び捨てで構わない。

  • [7]大槻 一輝

    2014/06/04-19:13 

    大槻です。宜しくお願いしますね。

    そうですね。
    一緒に行動で良いと思います。

    因みにやっぱり自転車に乗ってる所に鉢合わせする可能性もあるんですよね…
    クラスによってはトランスしないと戦闘能力が無い精霊も居るんで・・・・・俺とか。
    突然の対応についても考えておいた方がいいかもしれません、ね

  • [6]天原 秋乃

    2014/06/04-00:53 

    改めて、みんなよろしくな。

    デミ・ベアーは一匹だけなんだろ?
    だったら皆一緒に行動するほうがいいかもしれないな。
    俺とアーノ達は二人乗りしてる分、ちょっと危なっかしいかもだし…。

    >アーノ
    二人乗りの組み合わせについては異論ない。

  • [5]アキ・セイジ

    2014/06/04-00:10 

    滑り込み参加でこんばんは。
    見知った顔も多くて一寸安心しているアキ・セイジだ。

    俺達は各自一台ずつの自転車でサイクリングの予定だ。
    ところでこのサイクリングは皆で一緒に行く感じなのだろうか?
    そこだけ一寸確認したい。
    できたら一緒がいいなあ…なんて(笑

    >ヴァレリアーノさん
    依頼の後で自転車の乗り方を簡単に練習するかい?
    乗れるようになって2人でサイクリングにいくのも良いものだし。
    別に、いいならいいんだけど、よかったらってことで…

  • 俺の申し出に応えてくれて感謝する、秋乃。
    その好意に甘えさせてもらう。是非とも乗せてもらいたい。
    今までジテンシャと無縁な生活を送ってきたのもあり、
    実を言うと今回初めてジテンシャを見ることになる。
    その所為で迷惑をかけたらすまない。

    二人乗りの最中に襲われる可能性が高い為、何かあった時すぐ対処できるように、
    ペアは俺・イチカ、秋乃・サーシャの神人と精霊で分けておきたいんだがどうだ?
    もし上記で問題なければ、二人乗りの最中はサーシャに秋乃を守らせる。
    また、俺の事はアーノで構わない。呼びやすいように呼べ。


    晃司と一輝は今回も宜しく頼む。
    晃司のそのマウンテンバイクとやらはスピードが相当出るんだろうか。

    ベアーが現れた際、もし他の一般客がいたらそちらに被害がいかないよう注意したいと思う。

  • [3]高原 晃司

    2014/06/03-02:26 

    うっす!晃司だ。よろしくたのむ!
    まずは自転車でサイクリングすればいいんだよな?
    得意って訳ではねぇが自前のマウンテンバイクを駆り出していくかなー

    デミ・ベアーは一匹だけど自転車乗ってるから転倒して怪我だけは注意しねぇといけねぇよな

  • [2]天原 秋乃

    2014/06/03-00:25 

    天原秋乃だ。
    初めての依頼なんで不慣れなとこあるが…まあ、よろしく頼む。

    >ヴァレリアーノ
    (……名前長いな)アーノでいいか?
    あんたら2人とも自転車に乗ったことないのか?
    俺達でよければ後ろに乗せてやるぜ。
    ……安全性は保障できないけどな。

  • ヴァレリアーノ・アレンスキーだ。
    俺の事は好きに呼んでくれて構わない。

    それはそうとベアー退治としかサーシャから聞いてないまま依頼を受けてしまったが、
    出没するポイントが決まっている上に「ジテンシャ」で走るコース内だったのか…。
    俺とサーシャ両方ともその「ジテンシャ」とやらに乗った事がない故、
    誰か俺達を乗せてもいいという奴はいるか?
    走っても良いとの事だが、出来れば戦闘までに体力を温存しておきたい。
    誰もいないようだったら走るまでだが。


PAGE TOP