君と出会えたから(草壁楓 マスター) 【難易度:とても簡単】

プロローグ

●老いても共に

 長き戦いが終わり、平穏が訪れてどれぐらい経ったのだろう。
 長い長い人生の中、さまざまなことを経験し、その中で幸せや苦労、いろいろなことを体験してきた。
 神人としてパートナーとなる精霊と契約。
 ウィンクルムとなり背中を守り合いオーガと戦う。
 精霊との絆。
 心を許せる存在との出会い。
 思い返せば多くのことが貴方の頭の中を走馬灯のように駆け巡る思い出。

「どうかしたか?」
「いや、別に……」
 老齢となった貴方とパートナー。
 ウィンクルムとして戦ったのはもう遠い昔の思い出。
 
 暑さも弱まった秋空を眺めながら2人は和菓子とお茶を楽しみつつ思い出話を話し出す。
 初めて会った時。
 心にある想いを打ち明けたあの日。
 初めて交わした大事な約束。
 手を重ね、唇を重ねたくすぐったい思い出。

 どんなに話しても話したりない……。

 あと……何年一緒に過せるのか……。
 お互いの顔を見れば髪は白くなり、顔には皺も刻まれている。
 でも、少しも変わっていない。
 君と出会えてどんなに幸せだったのか……ちゃんと伝わっているのか……。
 本当に大切な君。

 君のその背中に守られた……その変わらぬ笑顔を一生忘れることはない。
 お互いの命の灯火が消えようとも……パートナーとは永久に。

解説

【目的】
 ●老齢となった2人、現在どうしているのかをお見せください。


【場所や状況について】
 ●場所はどこでも構いません。お好きな場所でお過ごしください。
  (自宅、どこかのカフェ、想い出の場所等)


 ●どのような状況で老齢の2人が過しているのか等。

  例:・自宅でのんびりとお茶をすすりながら会話。
    ・自宅に子供や孫などが遊びに来ていて楽しく過している。
    ・どちらかが病気や怪我をして病院にいる。
    ・悲しいですが、そろそろ永遠の別れが近そうな状態。

    上記例以外でも、お好きな設定をしてください。
  

【書いていただきたいこと】
 ・お互い何歳ぐらいになっているのか
 ・どのような場面でどのような話しをするか
 ・現在の2人の関係等(家族になっていて子供がいる、親友になった等)
 ・今後の2人について


【注意・その他】
  ・プランに準ずる描写をいたします。
  ・公序良俗に違反する内容は描写できかねますのでご注意ください。
  ・アドリブが入る場合がございます、NGな方はプランに『×』とお書きください。

 お茶代等として300jrいただきます。

ゲームマスターより

 ご閲覧誠にありがとうございます。
草壁 楓です。

 老齢になったウィンクルムはどうなるのか、と思い今回のエピソードを思いつきました。
幸せな大家族になって良い老後を、はたまた肉体はなくなってもウィンクルムは永久に共に……ではと考えてはいます。

 草壁の男性側最後のエピソードとなります。
今までご参加いただいた皆様大変ありがとうございました!
どこかでまたお会いできたら、今後もよろしくお願いいたします!

リザルトノベル

◆アクション・プラン

信城いつき(レーゲン)

  約60年後/のんびりレーゲンと街はずれまで散歩
もうウインクルムの事を直に知ってる人はだいぶ減ったね

そうだよ仲良しだよー。

……さてと。
明日は子供達と花火やるんだから。ここで悪さはしちゃだめだよ
オーガというより残り香みたいなものだけど、子供たちには危険だしね
俺が杖で軽く動きを封じて、レーゲンが弓でよろしく

せっかくだから手を繋いで帰ろう?だって仲良しだから(くすくす)
うん繋ぎたい。その皺が増えていくのもずっと見てきたからね
時計やアクセサリーを丁寧に直すその手を。大好きな手だよ

身体は歳をとっていくけれど
好きな気持ちはずーっと変わってないよ

明日のおやつは新作だから楽しみにしててね
明日も、きっと楽しいよ


ヴァレリアーノ・アレンスキー(イサーク)
  年は不明(濁す
男の色気有
クールな大人
サーシャと現在二人暮らし
核心に触れるや否やイーサは忽然と行方を晦ます

場所は宿り木の下
契約した日に偶然再会(必然

今までどこに…!
聞きたい事は山ほどあった
俺は忘れていた
時折、彼女の目が激情に揺れていた事を
時折、俺を見る目がどこか冷めていた事を
でも紛れもなく愛は在った
最期も…

今でもサーシャのした事は許せないし赦すつもりもない
それでも
俺には必要だった
契約した時点でもう─

…お前はまだ俺に言う事があるだろう
もう一つの真実は…そういう事か
イーサ、昔も今もお前は俺の”友”だ
だから呼べない

っ(止められない
何故もっと早く…
背負わせて欲しかった
幼かった俺には何も出来なかったのか


柳 恭樹(ハーランド)
 


 ●いくつになっても

 その日空には雲一つない晴天だった。
 夏の茹だるような暑さもなくなり、通り過ぎる風が幾分か涼しさを増している。
 タブロスの街。
 今は平穏な日常を人々は過している。昔とは少し街並みも変わり、人々も笑顔である。
 そんな中、歩いているのは80代前後の信城いつきとレーゲンの2人である。
 最終決戦が終わり世界からはオーガが消えていったあの日から60年程が過ぎていた。
 そんな秋が始まりそうなある日の2人の話である。

 その日街に繰り出していた2人。
 街外れまでゆったりと散歩を楽しんでいた。
 道すがらご近所さんに声を掛けられる。
「相変わらず仲がよろしくて」
 なんて。
 そんな言葉に返すのは決まって同じ言葉である。
「そうだよ仲良しだよー」
 変わらない口調のいつきだが、幾分か声が少し低くなりゆっくりとしたものになっている。
「うん、今日も仲良しだよ」
 レーゲンも変わらず少し皺の入った顔に微笑みを浮かべつつ、クスクス笑いながら返す。
「良いご夫婦ですね」
 と更に言われれば、照れたように2人はその人へとはにかんだ。


 最終決戦を終え、オーガの残党との戦いも終えた2人……あれからいつきは小さいながらも客が途絶えないアクセサリー屋を営んだ。
 そして今でも店先に出て商売を営んでいる。
 歳なんてなんのその!と。
 あの若かりし頃の威勢は変わっていないいつきである。
 しかし近所の子供たちからは『おいしいおやつのおじいちゃん』と今では思われている。
 おいしいおやつを笑顔で渡すと、子供たちはとても喜んでくれる。
 今子供たちの笑顔があるのはその昔激闘の末に勝ち取った平和からくるもの。
 そして彼の精霊レーゲンと言えば、
『水鉄砲の上手な優しいおじいちゃん』と子供たちから人気だ。
 レーゲンは『プレストガンナー』である……そりゃあうまくて当然!なのだが、子供たちはその事実を知らない。
 そして更にはこっそり街の平和を守る元ウィンクルムでもあるレーゲン。
 今の平和で平穏な時を、子供たちの笑顔を絶やさぬように、と日々散歩という名の警備を行なっている。
 
 近所の人に軽く挨拶をした後に別れ、2人は街外れまで歩き続ける。
「もうウィンクルムの事を直に知ってる人はだいぶ減ったね」
 ふといつきは言う。
 あれから60年……そんなに時が経てば当時の事を知る人は大半は老齢の人。
 当時の子供だってその中に入るほどである。
「そうだね、ウィンクルムの数も随分減ったみたいだよ」
 少し悲しげにしているレーゲンにいつきも頷きつつ微笑み返す。
 暫く歩くと賑やかな街の声から遠ざかりタブロス付近にある森林の中。
 気の早い木々は紅葉を始めようと黄色などに変色し始めている。
 鳥の囀りや風が木の葉を躍らせる音。
 どれも心地良くて2人は瞳を閉じた。

「……さてと」
 暫く瞳を閉じた後にいつきは杖を取り出した。
「明日は子供達と花火やるんだから。ここで悪さはしちゃだめだよ」
 明日この森林では近隣の子供たちを集めて花火をする予定を立てていた。
 平和になった世の中ではあるが、未だたまにではあるが瘴気を帯びたモノが出てきたりしているのだ。
 それにすこしおっとりとした口調でいつきが告げる。
「オーガというより残り香みたいなものだけど、子供たちには危険だしね」
 まだ危険は残っているのだ、年老いたとしてもこれでも元ウィンクルム。安全を保たねばと若い頃と考えは変わらない。
「俺が杖で軽く動きを封じて、レーゲンが弓でよろしく」
 いつきがそう言うと、人気がないことを確認しレーゲンは弓を取り出した。
「これでも元ウィンクルムだからね。簡単には外さないよ」
 そう言うと弦を引く。
 確かに昔に比べれば幾分かは衰えているかもしれない……でもあの激戦を戦い続けた2人、今もまだその力は健在なのである。
 2人のその力は衰えていない……獲物を真っ直ぐと見据えるその瞳は揺らぐことなくそのモノたちを捉えていく。
 数分するとそのモノの気配は無くなった。
 レーゲンは辺りをしっかりと見渡すと、居ないことを再確認。
「さあ無事に片付いたところで帰ろうか」
 と皺の増えた優しい微笑みでいつきにそう告げる。
 するといつきは右手を差し出した。そして……
「せっかくだから手を繋いで帰ろう?だって仲良しだから」
 クスクスと音を立てて笑ういつき、それに左手を差し出しながら言う。
「もう皺だらけで文様もわかりづらくなったおじいさんの手でもいい?」
 と。
 もう文様も皺のせいであまり分からなくなった……でもいつきは笑顔で言うのだ。
「うん繋ぎたい。その皺が増えていくのもずっと見てきたからね」
 しっかりとレーゲンの左手を掴む、攫うように。
「時計やアクセサリーを丁寧に直すその手を。大好きな手だよ」
 どんな形状であれ、どんなに皺が増えたってレーゲンはレーゲンの手であると両手で包み込む。
 それに応えるようにレーゲンは言う。
「私もね、いつきの笑いじわとか見ていてとても好きだよ」
 と。
 いつも一緒にいるいつき……お互い老齢になったが何も変わらない愛おしい人だと言うように。
 身体は歳をとっていくけれど、といつきは言いながら顔に深く皺を刻みながら言う。
「好きな気持ちはずーっと変わってないよ」
 心にあるこの暖かさは何も変わっていない、変わることはないのだと。
 ね、レーゲン!と元気良く。

「明日のおやつは新作だから楽しみにしててね」
 帰路に付く2人。
 空は少し夕焼けのようにオレンジ色を帯びてきた。
 明日は今年最後の子供たちとの花火。
 新作のおやつとともに楽しもう、と握っている手を少し揺らす。
「新作のおやつか。子供達と争奪戦になりそうだな」
 前回の花火会もいつきのおやつは大人気で、子供たちはこぞって争奪戦を繰り広げた。
 80前後の2人、止めようにもなかなか難しい……もし争奪戦になったらどう止めようか……予定より沢山作ろう!
 といつきは笑う。
「明日も、楽しみだね」
 変わらない2人。
 一緒に居れば楽しいこと間違いない。
「明日も、きっと楽しいよ」
 いつきは老齢とは思えない軽い足取りで歩き出す。
「明日……ミカも来れないかな……」
 いつきのその言葉にレーゲンは顔の皺を深くして『連絡してみたら?』と言う。
 昔のように少年のような顔で大きくいつきは頷いた。

 老齢となっても変わらぬ愛という光を灯している2人。
 おじいちゃんになっても楽しい風は吹いている。
 もちろんもう1人の精霊もそうだろう……いくつになってもこのまま2人はもっと良い老後を過していく。
 子供たちの笑顔、人々の平穏な日常と共に。


●喧嘩するほど……

 夏も終わりなのかセミの声が少しずつ小さくなってきているとある日。
 オーガの咆哮も聞こえなくなってどれぐらいの時が過ぎたのだろう。
 公園では子供たちの声が響き渡っている。
 柳 恭樹48歳のとある日常の話である。

 午前10時頃、恭機は自宅近くにある公園のベンチに腰掛けていた。
 もちろんその隣には彼の精霊であるハーランドの姿がある。
「また来たのか。暇なやつめ」
 公園で寛ごうと公園にやってくれば、わかったようにハーランドも午前10時にやってくる。
「余暇を思うがままに、心のままにしている」
 と返す。
 2人の関係は若かりし頃とあまり変わっていない。
 恭樹が口を開けばハーランドは真面目にそう返すのだ。
 その昔『長い付き合いになる相手に、無視は確かに礼儀が無かった』と反省した日々もあったが、不真面目にも思える言動に合わないものを感じた日もある。
 でも2人は今でもこうして会うのだ。会うというよりは会ってしまうという表現の方が正しいかもしれない。
 しかし、と恭樹がいいながらハーランドに視線を移しつつ言う。
「若作りにも程がないか」
 と。
 見た目は恭樹と変わりなく42歳程に見えるのだが……実年齢は72歳。
 豊かな長い金髪にガーネット色の瞳。
 少しは老けたかもしれないが昔とそれほどハーランドには変化がない。
「何かしている覚えはないのだが、生命の神秘というものか」
 そんな答えをフフっと声に出しつつ笑うのだ。
「ほざけ」
 そんな様子のハーランドに恭樹は大きな声でそう言った。
 その声は子供たちの楽しい声にかき消されてはいるものの、表情から面白くない、と感じているのはわかるのだ。
 ハーランドは元来、人が何かに葛藤してる様を好む人物で、故意に精神的な傷を突いて楽しむ節もあるのだが。
 どうやら今も目下それを楽しんでいるようだ。
 恭樹はあれから20年程の月日の中で歳相応な日々を過してきた。
 目尻と眉間には軽い皺が刻まれ、薄茶色の緩い天然パーマは幾分かは少なくなったようにも感じられる。
 そよ風にハーランドの髪が靡く。
「精霊とは元来そんなものではないか……?」
 神人との違いを話しつつ再び鼻で笑う。
「恭樹も変わらんだろう」
 まぁ、少し皺が? なんて皮肉のようにハーランドは付け足した。
「余計なことを!」
 恭樹の膝の上にある手が微かに震える。
 ハーランドは楽しんでた、『面白い観察対象』ということは変わりがないのだと。
 回顧する気は2人とも毛頭ない。
 今も共にいるのだからこそ今の会話を繰り広げるだけなのだ。
 恭樹は思う。
 最終決戦からオーガが消えていき、余り会うこともなくなるだろうと感じていた。
 しかし、そんなことはない。
 なんだかんだと毎日のように顔を合わせている。
 仕事だって違うのに……。
 切ろうにも切れない腐れ縁なのだと、今でもひしひしと感じる。
 ハーランドは思う。
 年を取って頑固さに磨きがかかったかも知れない恭樹……反応は今だ同じことに楽しんでしまう、と。
 ウィンクルムという運命が結んだ恭樹と切れぬ糸がある、感じるのだ。
 
 それから少しの時間同じような会話が繰り返された。
「ハーランド……今何やってる?」
「余暇を悠々と過している」
 何を聞いてもハーランドは具体的な返答はくれない。
「これでも老人だ」
 続けてそう言われても、見た目は恭樹より幾分か若く見える。
「そういえば……」
 と恭樹は話し出す。
 妹と弟が尋ねてきたと。
 妹に関して言えば甥っ子を連れての訪問で、丁度やんちゃ盛りの3歳。
 一緒に散歩をしていると犬と遭遇したのだと。
「恭樹は犬が苦手だろう?」
 嘲笑うかのように恭樹にそう告げる。
 言われなくとも、と恭樹のこめかみには青筋が。
 そして案の定、苦手なために犬に警戒された……そして一言『ワンッ!!』と吠えられたじろいだ。
 すると3歳の甥っ子は『めっ』と犬の頭を撫ぜながらしかったのだ。
 自分が母親にされたように。
(甥の自慢……?)
 ハーランドは黙って聞いていたのだが、何が言いたいのかと試行錯誤を繰り返していた。
「こうやって怯えることも無く、今は平穏だな……」
 オーガの咆哮が聞こえた日々はもう無く、その犬を叱る甥を思い出して恭樹は笑む。
 あの戦いの日々、ハーランドとの日々。
 それがあったからこそ、甥の花咲くような笑顔が見れたのだと。
「回顧、か?」
 片方の口角を上げてハーランドは言う。
「回顧じゃない……今は平和で良かったと感じてるだけだ」
 静かに恭樹は返した。
 公園の中で遊びまわり楽しそうな声を上げる子供たち。
 昔はその場面が一変して悲鳴へと変わる時もあったのだ。
「たまには……茶でもするか?」
 そう言ったのはハーランドだった。
 いつも公園でこうして話をし適当な時間に別れる。
 だがたまにはいいのではないだろうか……。
 昔を懐かしむのではない。ただ恭樹の変わらずの今のままでもう少し時は過ごそうかと。
「茶?」
「そう、犬カフェででも……」
 悪戯っ子のようにハーランドは言う。
 すると恭樹はその場で立ち上がると、
「ふざけんなよ!」
「冗談だ」
 やはり面白いとハーランドは思う。
 冗談が通じず、真面目に返してくる恭樹……何も変わっていない。
 恋愛関係にならずとも、友情という絆でなくとも、2人には何かそんな縁があるのだ。
「普通のカフェだ」
「ハーランド……お前な……」
 いいかげんにしろ、と言いたいのだが、そんなハーランドがいつまでも変わらない、そして変わることのないハーランドなのだ。
「行かないのか?」
 返答も聞かずにハーランドはベンチから立ち上がると歩みだす。
「丁度昼時だし、付き合ってやるよ」
 恭樹は少し小走りにハーランドの横へと歩き出す。
「おじいさん、手貸しましょうか?」
 なんて恭樹が柄にも無く少し上ずった声で冗談を言ってみる。
「じゃあお願いしようか……」
「なっ!!誰がやるか!!」
 ハーランドの差し出した手を軽く叩き返す恭樹。
 ハーランドは上手である……そう簡単には恭樹のそれに応えることはない。
 手を繋ぐ、なんてことは無いだろう。
 でも2人しか見えない糸が繋がっている。
 太陽が一番高く上がると前方は光に満たされた。
 その道を2人は歩いていくのだ。

 これからも2人は会っては話し、そしてまた喧嘩をしつつ過していくことだろう。
 ウィンクルムだから恋愛関係に、などというのは2人にはない未来なのだろう。
 端から見れば喧嘩するほど仲が良いというやつで……この先もこのままの関係が終ることは無い。
 ハーランドは観察を楽しみつつ、恭樹は彼の言動に振り回されつつ。
 光への道はまだまだ続くのだ。


●もう一つの真実

 少し冷たくなった風の中を歩く男がいる。
 行きたい場所がある……否、行かなくてはいけない場所かもしれない。
 そんな少し年を取ったヴァレリアーノ・アレンスキーのとある日の話。

 宿り木の下、探していた人物がヴァレリアーノを待つようにそこに佇んでいる。
 昔長かった黒髪を短髪にした壮年になった精霊……イサークである。
 最終決戦後、そしてヴァレリアーノが過去の忌まわしい出来事の核心に触れたところ……彼は忽然と姿を消した。
 大人の男の色気を身に纏ったヴァレリアーノは急ぐでもなくゆるりでもなくイサークへと近付き言葉を投げかけた。
「今までどこに……!」
 さぁ、と紫の瞳を細めてイサークは返してくる。
 そんな昔と変わらぬ態度にヴァレリアーノはほんの少し視線を外しつつ続ける。
「聞きたい事は山ほどあった」
 あったのに、居なくなった……どんなに探しても……。
 ヴァレリアーノは苦虫を噛み潰す。
 そんな彼を見てもイサークの態度は変わることなく、
「なァんも話したくない」
 と返してくる。
 本当に話したくないのだろう。
 ヴァレリアーノを見ているもののそれは空に視線がいっているようだ。
「俺は忘れていた」
 俯き加減だった顔を上げイサークを真っ直ぐと見つめるヴァレリアーノ。
 忘れてはいけないことを長く彼は忘れていた。
 でも、もう1人の精霊アレクサンドルから聞いたことで、核心に触れ、イサークに確認したかった、自身の過去。
 あの神人としてヴァレリアーノが始まった日。
「真実は墓場まで持ってくつもりだったのにナー」
 ヴァレリアーノのその様子にイサークは踵を反すように背中を向け、そう言った。
「時折、彼女の目が激情に揺れていた事を」
 アレクサンドルから告げられた。
 『オーガからヴァレリアーノを守って死んだのはイサークの母親で、アレクサンドルに殺されたのはヴァレリアーノの母親だった』
 その事実。
「時折、俺を見る目がどこか冷めていた事を」
 なぜあの瞳で自分を見ていたのか……全てのピースが音を立てて嵌っても、イサークからも真実を聞きたかった。
「でも紛れもなく愛は在った」
 あの冷たい瞳、イサークの母は冷たい瞳の中に愛情もあったのを覚えている。
 イサークは動くことなく呟く……、
「坊やは知る必要がなかったのに」
 と。
「最期も……」
 ヴァレリアーノが次を言おうとするとイサークは静止するように振り向いた。
 その顔は今まで見たこともないほどの自嘲した顔。
 でも中には心が通っているという顔で。


「全てを捨てさせて教会(とりかご)から出たテノーリャにあれ以上、代替役を強いれなかった」
 もう限界だった。
 ヴァレリアーノの母テノールとイサークの母マリーナは双子。
 精霊として産まれた子に辛く当たった。しかし姉のテノールはイサークに母親のように優しく接した。
 そんな時、マリーナは教会で不祥事を起こし、後に追放される。
 その時、髪色を交換することをテノールは持ちかけた。
 『アーノをちゃんと愛し育ててくれる?』と。
 それに承諾し、髪色を交換するとテノールはイサークを連れてマリーナとして教会を去った。
 そしてある森で生活をしていたが、後に悲劇が起こってしまった。
「あの女の名を口にして欲しくなかった」
 そしてあの日アレクサンドルが口にした名前……それを思い出せば思い出すほど――
「思い出すと虫唾が走る」
 見たこともない憎しみに満ちたその顔で近くにある木を殴る。
 その振動で鳥たちは一斉に飛び立ち、そしてまた辺りは静まり返る。
「せめて外では在りのままで生きて欲しくて」
 イサークが敬愛し親愛を抱いていたテノール。
「結局アレクへの復讐は果たせなかったナ」
 テノールを殺したアレクサンドル。
 でも異母ではあるが弟のヴァレリアーノ、テノールの面影が残る弟に出会えた。
 真実を知っても、とヴァレリアーノは言葉は放つ。
「今でもサーシャのした事は許せないし赦すつもりもない」
 サーシャ、アレクサンドルが自分の母を殺したという事実――それでも、
「俺には必要だった」
 そうヴァレリアーノにはアレクサンドルは必要な存在だった。
 両親の敵であるオーガを駆逐するために。
「契約した時点でもう─」
 駆逐するためだけではない、今ではもう一緒に居るだけで落ち着いてしまう自分もいる。
 イサークは思う『坊ちゃんが悲しむ姿は見たくない』と。
 だから2人の関係がどうであれ、それが理由ではないとイサークは言う。
「ボクはお役御免だから消えたダケ」
 ヴァレリアーノを気遣いつつ。

「……お前はまだ俺に言う事があるだろう」
 あるはずだ、とヴァレリアーノは1歩イサークへと近付いた。
 しかしいつもの飄々としたイサークの表情になると、
「ふ……語り足りナイ?」
 なんて少し茶化したように小首を傾けて返される。
 もう、無いのか、とヴァレリアーノは1つ息を呑んだ。
「もう一つの真実は……そういう事か」
 まだあるのでは、俺が記憶から無くした何かが。
「ボクのヴァーレへの想いは変わらない」
 言いたいことはそれなのだ。
「старший брат」
 『兄』というその意味。それが全ての真実――しかヴァレリアーノは言うのだ。
「イーサ、昔も今もお前は俺の”友”だ」
 紫の瞳の輝きを強くして。
 真実を知ったのだ……、
「ねぇ呼んで?」
 呼んでくれと『兄』と。
 更に眼光鋭くヴァレリアーノは首を振りつつ言う。
「だから呼べない」
 と。
 『兄』ではなく『友』なのだと。
 その強い視線に参った、というようにイサークは自嘲して笑う。
「報われないなァ」
 どんなに時が経っても『старший брат』とは呼んでくれないのかと。

「さて望まれないボクは先にいくヨ」
 そう言うとイサークはその場に座り込む……。
 イサークの光が消える……命という光が。
「っ!」
 手を伸ばすヴァレリアーノ、イサークの体を抱え顔を見ればそこには薄っすらと微笑む彼が居る。
「最期に会えてよかった」
 消え入りそうな声でイサークははっきりと言った。
 坊ちゃん……口がそう動く。
「何故もっと早く……」
 背負わせて欲しかった――、一人で背負わせてしまった。
 幼かった俺には何も出来なかったのか――どうして――
 声にならない想いがヴァレリアーノの心そして全身を包み込む。
 そしてイサークは黄泉への道へと旅立った『前へ』という言葉を発してから。
 イサークの手をそっと取ればその中にはペンダントがあった。
 それはヴァレリアーノが手作りしたミルフィオリペンダントだった。
「イーサ……」
 それをそっとイサークの胸元へと掛けてやる、黄泉への供として。

 彼は黄泉へ旅立った。
 いつかイサークが旅立った場所へ行く日が来るかもしれない……でも、まだ……。
 『先にいくヨ』と彼は言った。そう先に行っていて……全てが終わればいつの日か……。
 そしてまた、会おう――『старший брат』



依頼結果:大成功
MVP
名前:ヴァレリアーノ・アレンスキー
呼び名:お前
  名前:イサーク
呼び名:坊ちゃん、坊や

 

メモリアルピンナップ


エピソード情報

マスター 草壁楓
エピソードの種類 ハピネスエピソード
男性用or女性用 男性のみ
エピソードジャンル ロマンス
エピソードタイプ ショート
エピソードモード ノーマル
シンパシー 使用可
難易度 とても簡単
参加費 1,000ハートコイン
参加人数 3 / 2 ~ 5
報酬 なし
リリース日 09月01日
出発日 09月08日 00:00
予定納品日 09月18日

参加者

会議室

  • [1]信城いつき

    2018/09/07-23:51 

    信城いつきと相棒のレーゲンだよ
    これが最後の挨拶かな(しみじみ)

    ……おじいちゃんになっても俺達は仲良くやってるよ。
    みんなも、元気でね。


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