本当の幸せ(青ネコ マスター) 【難易度:とても簡単】

プロローグ

イシスとの戦いが終わった。
今後、ギルティが生まれることもなく、いずれはオーガも高位の者から消えていく。

世界は平和となったのだろう。
勿論、いきなりオーガの全てが消えて誰もがいつもの生活に戻れるようになったわけではない。暫くは街を復興させなければならないだろうし、残るオーガとも戦わなければならないだろう。

それでも。

「きっと、近いうちにウィンクルムを必要としない世界が来るんだろうな」
街の誰かが言った。
「そうだな、オーガがいなくなればもう誰も犠牲にならずにすむ」
街の誰かがそう答えた。
色々な場所でそんな話が交わされる。明るい未来の話として。幸せな未来の話として。
貴方達はそんな話をすれ違い様に聞いてしまう。

オーガの恐怖はなくなる。
――つまりウィンクルムも必要なくなる。
――では、自分達は?

今までは自衛の為にも正義の為にも一緒にいなければならなかった。そこに自分の意思があろうともなかろうとも。
けれどその理由もなくなるならば。

自分達は、自由だ。

自然とパートナーと視線がぶつかる。
どちらも何かを言おうと口を開きかけ、だけど上手く言えなくて互いに苦笑する。
二人の間にあるのは、ウィンクルムの間に積み重ねてきた絆。
その絆を捨てて、別の場所へ行って別の誰かと出会う事だって出来る。
その絆を抱きしめて、これからも共に歩んでいく事だって出来る。
まっさらな未来が目の前にぽかりと現れた。
ウィンクルムとしてではなく、ただ一人の人間として、精霊として、自由な世界が待っている。
貴方達は今、何の枷もなく『本当の幸せ』を掴む為に歩き出す事ができる。

「少し、話をしようか」

その為に、貴方達は今、どんな話をするのだろうか。

解説

二人の未来を語り合ってください

●場所
・何処でも構いませんので、希望があれば具体的に書いて下さい
 なければこちらで勝手に決めさせて頂きます。基本的には街中になると思います

●内容
・未来の話であればどんなものでも構いません
 それが明日の話であろうと十年後の話であろうと問題ありません
・ジャンルはロマンスになってますが、どんな内容でも構いません
 ハッピーでもバッドでもメリーバッドでも、それが二人の未来なら問題ありません

●街の復興の為に寄付したみたいですね
・300Jrいただきます


ゲームマスターより

これが青ネコによる男性側最後のエピソードになります。
要は二人の物語のエンディングです。

貴方達の未来を、本当の幸せを、是非教えてください。

リザルトノベル

◆アクション・プラン

信城いつき(レーゲン)

  植樹したの覚えてる?
『めでたしめでたし』な昔話を語りたいって言った事

イシスとジェンマの件は終わった。けど神も人も色々いる
遠い未来、また同じような事が起こるかもしれない
その時はトレントに語ってほしいんだ
大丈夫だよって、大切な人と一緒にいたいって思いは神と同じくらい強いんだって

……レーゲンとはね、まだ『めでたしめでたし』じゃないよ
だってこれからずーっと色んな事あるんだから!この先未来はいっぱい!

お店を開く準備もあるし
景色の綺麗なところへピクニックに行きたいし
もしかしたらケンカだってするかもしれない
最後の最期、見送るまでずっと一緒だよ!

俺もレーゲンの味方だし、そばにいるよ
ずっと…愛してます(赤面)


柊崎 直香(ゼク=ファル)
  ゼク、これからのことだけど――

全力で遮られた
さすがに僕も空気読むよ
無職になったキミを放っておけないし

え?
ゼク仕事してたの?

アクティブなニートかと思ってた
だっていつも家にいるから

矢継ぎ早の質問の大半に「知らない」と答える
そうしてさりげなさを装えなかった質問に
思わず笑ってしまう
白馬の王子様はそれはそれは愛らしいお姫様を
迎えに行くこと叶いました
その後は定番じゃないの?

しかし。うーん。そっかあ
ゼクこれからも在宅で問題ないなら
僕も勉学に専念できるかなー。
ん。医者目指してるからね
サポートよろしく?

自然に頷かれ悪戯心。
別れの言葉禁止されたけど
マタアイマショウならよかったの?

はいはい。じゃあ毎日言ってあげよう


柳 大樹(クラウディオ)
  4年後

「ちょっとついて来てよ」
(最寄りのバス停と実家の途中の道へ移動

「ここがさ。俺に取ってある意味始まり」(この辺かな、と地面を見る
今までが壊されて、違う事を強いられた。
「クロちゃんがさ。いつまで俺の護衛か知らないけど」
オーガ関係の依頼は少しずつ減って来てる。

……今なんつった?
「そういうのはもっと早く言えよ!」

「段取りとか全部吹っ飛んだ」(頭をがしがし掻く
ああ、もう。どうにでもなれ。
「クラウディオ。今でも俺のこと好きかは知らねえけど」
いつの間にか、だけど。(深呼吸
「ここに俺と同じ指輪はめて欲しい。……好き、なんだよ」

あー……、「必要必要。すげぇ必要。今から買いに行くぞ」(手首を掴んで街へ向かう


ユズリノ(シャーマイン)
  アドリブ大歓迎

場所
残党オーガ討伐に向う移送バスの中

依頼概要見てたら 彼が何だか慎重なトーンで話掛ける
ロディさんが?!(驚きの後喜び
シャミィが渋面になったので焦る
彼は僕がまだロディさんに想いを残してると思ってるらしく
残っているといえばそうだけどそうじゃない
そうなんだ これでやっとお礼が言える あの人のおかげで僕はタブロスに来ようと思えたし そのおかげでシャミィに会えた 感謝してるんだ お礼言えたら彼の事は完全に思い出に昇華できる

嫉妬…したの? あの人は恩人 そしてシャミィは最高に魅力的な僕の最愛の人(照れ笑み
そんな癖が!(怖い様な楽しみ?な様な
乗り越えよう(拳グッ

目的地到着
頑張ろうね 新しいスキル頼りにしてるよ!


■少し先の未来の話
 ウィンクルムは必要としなくなる世の中が来る。
 街中でのそんな会話を耳にして、『柳 大樹』は何かを言おうと隣にいた『クラウディオ』を見て、けれどそこで口を固く結んだ。
 まだだ、と思った。
『全部終わったらさ、改めて話そうか』
 そう言ったのは自分で、だから全部終わるまではまだ言えない。言いたくない。
 まだ自分達はウィンクルムだ。オーガは残っている。クラウディオに向き合うのはまだ早い。
 自分に言い聞かせるようにして大樹は街中を歩き出す。言い聞かせている時点で、心の中にある感情に気付いてはいたのだけれど。

 そうして二人は世界が変わる気配を肌で感じながらも、残ったオーガを倒す日々を過ごしていき……。

 ――四年後。

「ちょっとついて来てよ」
 何の予定も入っていない日。大樹はクラウディオを誘い、ある場所へと向かった。
 そこは最寄りのバス停と実家の途中の道。雑草の生えた土が剥き出しの、言ってしまえば何処にでもあるような道。
 けれど、大樹にとっては忘れられない場所。
「ここがさ。俺に取ってある意味始まり」
 この辺かな、と大樹は地面を見る。
 何があった場所なのか口にせずとも、クラウディオはわかっていた。
(大樹が顕現した際に襲われた場所だ)
 ウィンクルムとして生きざるを得なくなった、始まりの場所。
 その結果、今までの生活が壊されて、違う事を強いられた。拒否権はなかった。拒否すれば死が待っていた。
 大樹が地面から目を離し、相対するクラウディオの顔を見る。
 片目を失っている大樹は眼帯をしている。その眼帯を気分で変えるようになったのはこの数年での話だ。もう一人の精霊であるアルベリヒが作った眼帯を幾つか持っているようで、今は紺に蝶の刺繍が施された物を着けている。
 蝶は幸運を運ぶ象徴、という考えは、何処の地域のものだったか。
「クロちゃんがさ。いつまで俺の護衛か知らないけど」
 大樹は語り始める。先延ばしにしていた話を。
 オーガ関係の依頼は少しずつ減ってきている。きっともうすぐ『全部が終わる』のだ。
 だから、その時には……。
「おそらく、私が死ぬまでは大樹の護衛だ」
 ……今なんつった?
 思わず目が死ぬ大樹に、クラウディオは不思議そうに目を瞬かせた。
『オーガが消滅し、確認が取れるまでは有事に備えよ』という、追加任務の詳細を告げる必要はないと思っていたから特に言わなかった。護衛は継続であり、報告は不要と思っていた。だが大樹が「いつまで」と問うならば答えるだけ。ただそれだけの事だったのだが。
「そういうのはもっと早く言えよ!」
 どうやらクラウディオは何か間違っていたらしい。大樹の罵声に近い声でそれがわかった。
「段取りとか全部吹っ飛んだ」
 はぁー、と息を長く吐き出しながら頭をがしがし掻く大樹を見て、クラウディオは何事かと頭を捻る。
「何かあったのか?」
 クラウディオが一歩距離を詰めれば、自然と互いの目が合う。
(ああ、もう。どうにでもなれ)
 もう何度も絡ませてきた視線が、今、大樹の背を押す。
「クラウディオ。今でも俺のこと好きかは知らねえけど」
 恋心、その感情の行方は保留にされていた。
 もう何年も前だ。何を言うのか。ああ、けれどそうだ。きっともうすぐ全部が終わるのだ。
 始まりは最悪だった。
 生活は一変した。合わない相手だと思った。常識のなさに呆れて、笑えて。その手を汚させてしまって。それを当たり前のこととして受け入れているのが癪で。だけどそれを変える劇的なことなんて無くて。それでも、死んで欲しくはなくて。
 いつの間にか、だけど。
 深呼吸を一つ。大樹はクラウディオの左手を取り、薬指の付け根を親指で撫でる。
「ここに俺と同じ指輪はめて欲しい」
 そして想いに向き合って、言葉を贈る。
「……好き、なんだよ」
 それが答え。
「……」
 クラウディオはすぐに言葉を返せない。それでも胸のどこかでじわりと感情が滲んでいくのを感じた。なんて名前かはわからない。けれど温かくてくすぐったくて柔らかい何か。
 その感情に満たされていく自分を感じながら、けれどクラウディオは疑問に思っていたことを口にする。
「私の大樹への好意は変わらない。だが、指輪は必要か?」
 しかも何故左手の薬指限定なのか。
 心底からの疑問の声に、大樹の目がもう一度死ぬ。
(あー……)
 まぁ、クロちゃんがそういうの知ってるわけ無いか、うん、ある意味予想通りの反応だ、そういう事にしておこう。
 大樹は自分を納得させ、クラウディオの手首を掴む。
「必要必要。すげぇ必要。今から買いに行くぞ」
「そうか、必要ならば買わなければな」
 真面目なクラウディオの言葉にフッと笑う。
 そして二人は一緒に街へと向かう。
 きっとこれからも、ウィンクルムではなくなっても、二人は一緒に何処へでも行くのだろう。





■愛の聖域
『ユズリノ』と『シャーマイン』は移送バスに揺られていた。
 オーガはいつかいなくなるのだろう。けれどそれは今ではない。だから今日も二人は、残ったオーガを討伐するべく現場へと向かっていた。
(いつかウィンクルムが必要なくなっても……)
 バスに揺られながら、シャーマインはぼんやりと考える。
(俺達は家族になるのだから離れる事はない。未来の夢だって語り合った。不安な事は無い、と言いたい所だが……)
 シャーマインは溜息とまではいかない小さな吐息。
「リノ、ちょっといいか?」
 今日のオーガ事件の依頼概要見ていたユズリノは、話しかけるシャーマインの声がいつもよりも慎重なトーンである事に気付いてシャーマインへと向き直る。
「どうしたの?」
 何か問題が発生したのかと考えながら訊ねれば、シャーマインは一息置いてから話し始めた
「今日おじさんから連絡があった。近い内タブロスに帰って来るそうだ」
「ロディさんが?!」
 予想外の報告に、ユズリノは驚きの声をあげ、そしてその後に喜びを零すように顔をほころばせた。
 ユズリノの喜ぶ顔は普段なら最高のご褒美なのだが、今のシャーマインにとってはどうにも苦く焦るものでしかなかった。
 それがつい顔に出てしまった。それを見て、今度はユズリノが焦ってしまう。
 シャーマインが十歳から十八歳までを共にした精霊、ロディ。彼は、孤独に過ごしていたユズリノに、広い視野を持たせてくれるきっかけをくれた人。
 ユズリノにとって大切な人で、恩人で、そして……初恋の人。
 勿論、今は恋心とは決別していて、ユズリノの今の一番は他でもないシャーマインだ。
 けれど、シャーマインはユズリノのその過去を知っているからこそ、ユズリノはまだロディに想いを残しているのではと思ってるらしく。
(残っているといえばそうだけどそうじゃない)
 この心にある想いは何だろうと、ユズリノも考えたのだ。そして出たのが……。
「そうなんだ、これでやっとお礼が言える」
 シャーマインが目を見開く。するとユズリノはくすりと笑って続けた。シャーマインの不安などお見通しといわんばかりに、はっきりと。
「あの人のおかげで僕はタブロスに来ようと思えたし、そのおかげでシャミィに会えた。感謝してるんだ。お礼言えたら彼の事は完全に思い出に昇華できる」
 そう、あるのは混じり気のない好意と、憧憬と、感謝。
 ここまで辿り着けた事に、シャーマインと出会えた事に、シャーマインと家族になる未来に、その全てに喜びを覚えるからこそ、感謝もつきない。
 微笑むユズリノにシャーマインは苦笑し、そして抱き寄せて髪を撫でた。
「余裕無いな俺」
 自嘲するシャーマインをユズリノは馬鹿にしたりしない。撫でる手に擦り寄るように軽く寄りかかる。それがシャーマインの力を抜いて本音を零させた。
「おじさんは魅力的な人だからつい気を揉む」
 二人で愛を誓って、未来を約束して、それでももしかして、と考えてしまう。
「嫉妬……したの?」
 それを認めてしまえば本当に余裕が無いようでつい答えに詰まってしまう。
 けれどユズリノはそれすらもお見通しのようで。
 ぺちり、とユズリノはシャーマインの頬を自身の両手で軽く叩く。
「あの人は恩人」
 軽く叩いて、そしてそのまま優しく頬を包み、照れたように赤く甘く微笑む。
「そしてシャミィは最高に魅力的な僕の最愛の人」
 その前面に押し出された愛に、シャーマインの余裕が戻ってこないわけも無く。
「ああ、嫉妬だ」
 素直に認めて、それでも力強く笑む。この愛を確かなものだと実感しながら。
 ただ、それでも気を揉んでしまう自分がいる。だが、それには理由があるのだ。
「あの人は俺にとっても恩人で家族だ……が! 人の恋路掻き乱す悪癖がある!」
「そんな癖が!」
 ひくり、と笑顔のままユズリノも声をあげてしまう。
 なるほど、これでは確かにシャーマインが諸手を挙げて再会を喜べないものわかる。ユズリノにとってもそんな癖は怖い様な、少し、楽しみ? の様な……?
 いやいやいや。
 ぷるり、と素早く首を振ったユズリノに、シャーマインは拳をグッと握ってみせる。
「これは試練だ」
 それを見たユズリノも、同じように拳をグッと握る。
「乗り越えよう」
 言いあって、そして二人で笑いあう。
 愛を試す嵐が起る予感がする。シャーマインはそう思うが、それでもさっきまでの焦りはすっかり薄らいでいた。

 移送バスは目的地に着く。
 インスパイアスペルを唱えてキスをすれば、優しく力強いオーラが二人を包み込む。
「頑張ろうね、新しいスキル頼りにしてるよ!」
「ああ、守り固めて攻めるぞ。俺達の不変の愛の為に!」
 そう話しながら駆け出せば、問題のオーガも姿を出した。
 けれど二人は負けない。
 繰り出されるのは『フォトンサークルII』、光り輝くその聖域の中にいる二人は、きっと何者に引き裂かれることは無いだろう。





■それでは、また……
「きっと、近いうちにウィンクルムを必要としない世界が来るんだろうな」
 そんな声を聞いたのは、買い物中の『柊崎 直香』と『ゼク=ファル』で。
 二人は顔を見合わせる。今の声を笑うでも怒るでもなく、ただ顔を見合わせ、そして、直香が口を開いた。
「ゼク、これからのことだけど――」
「言わせないぞ」
 全力で遮ったゼクは、若干牽制するような鋭い眼をして。
 全力で遮られた直香は、まさかの反応に目をパチリと瞬かせ。
 そして二人の間にしばし沈黙が横たわった。
(……気持ちは確認し合ったが)
 ゼクが内心溜息をつきながら考えるのは、当然横にいる相手のことだ。
 この捻くれすぎて千切れそうな神人のことだ、次にくるのが別れの言葉であっても不思議はない。そう、悲しいことに、不思議はないのだ。
 なので、ゼクは先手を打つ。
「サヨナラバイバイその他類語禁止令だ」
 ウィンクルムはもう必要ないみたいだから、それでは……! など、冗談ではない。けれどそれに対して、直香は呆れたようにからかうように笑う。
「さすがに僕も空気読むよ」
 その言葉が信じきれない。そう言いたげなゼクに、直香は今度こそからかう意図のみで発言する。
「無職になったキミを放っておけないし」
 その言葉に目を瞬かせたのは、今度はゼクで。ただし、すぐに呆れたようにジトリとねめつける。
「任務以外でも仕事してるぞ」
「え?」
 きょとんとして、直香はまじまじとゼクを覗きこむ。
「ゼク仕事してたの?」
「お前、俺を何だと……」
「アクティブなニートかと思ってた」
 脱力するゼクに対して、何の悪気も無く「だっていつも家にいるから」と補足する。
「そのマンションの管理人なんだが?」
「え、そうなの?」
 ゼクが自身の仕事を言っても、直香はまだきょとんとしている。
 ゼクは溜息をひとつ吐く。
「わかった。よーくわかった」
 そしてそれだけ言うと、キッと直香の目を見る。直香は思わず可愛らしく小首を傾げてしまう。
「直香。俺の年齢は知ってるか?」
「え、知らない」
「出身地は?」
「知らないなぁ」
「家族構成は?」
「知らにゃーい」
「――将来の夢は?」
 矢継ぎ早の質問に紛れ込ませたようで紛れ込めてない、さり気なさなど何も装えなかった最後の質問。それを聞いた直香は笑ってしまう。
「白馬の王子様はそれはそれは愛らしいお姫様を迎えに行くことが叶いました。その後は定番じゃないの?」
 色々知らない精霊の素性。その中で確かに知っている情報。ゼクの夢。それは、いつか白馬を駆って可憐な少女を迎えに行く、というもの。
『マーメイド・レジェンディア』で乗ったメリーゴーランドで、夢は今叶っていると言った王子様。
 その王子様が白馬に乗せたお姫様は確かに可憐で可愛くて、けれどとても捻くれていました。
 捻くれているから『その後』を語る事をせず、はぐらかすように笑みを浮かべている。
 その笑みにやきもきしながら、それでも拒絶の色がないことに安堵する。
「……というか俺達は互いのことを知らなさすぎだ」
「そうかもねー」
 あはは、と笑う直香は、『知らない』という事実を認めても、『じゃあ知ろう』とは進まないらしい。そんなことは予想できていたゼクは、もう一度溜息を一つ。
「しかし。うーん。そっかあ」
 疲れたようなゼクを気にせず、直香は何かを考え口にする。
「ゼクこれからも在宅で問題ないなら、僕も勉学に専念できるかなー」
 この発言は予想していなかったゼクは、純粋に疑問を口にする。
「勉学? 何か専門に学ぶのか?」
「ん。医者目指してるからね」
 さっきまでのはぐらかす調子などなく、真っ直ぐにさらりと告げられた職業。それを聞いてゼクは瞠目する。
 直香にしてみれば両親の事を考えればそれほど不自然な目標ではない。不自然ではないどころか納得できるものだ。けれど、ゼクにとっては初耳で。
「サポートよろしく?」
 初耳だけれど、それを教えてもらったという事が、直香から語られた『その後』のようで。
「……それは。勿論」
 ゼクは素直に自然に頷く。
 そのあまりの自然さに、むくむくむくりと湧き上がるのは、直香の悪戯心。
「ねぇ、さっきさぁ、別れの言葉禁止されたけど、マタアイマショウならよかったの?」
 言っちゃおうかなー、と猫のように笑いながら言えば、ゼクは数秒考える。
「また“明日”逢いましょう、なら許可する」
 その返しに、直香はくすぐったさを感じながら、降参とばかりに両手を軽く挙げて笑う。
「はいはい。じゃあ毎日言ってあげよう」
 今日、ふらりと街中で姿をくらませても、一人部屋にこもって勉強をしていたとしても、それでも明日また出会う約束がされているのなら、それでいい。
 そうして一日を一つずつ重ねていって辿り着くのはきっと、お姫様と王子様の物語の定番にして揺ぎ無い『いつまでも幸せに過ごしました』という終幕なのだ。





■はてしない物語
 さくり、と草を踏みしめながら『信城いつき』と『レーゲン』は森の中を進む。目的の場所へと歩き続ける。
 そこは『記憶の森』。王家が管理している古い森で、四百年以上の歴史を持つ場所。
「植樹したの覚えてる? 『めでたしめでたし』な昔話を語りたいって言った事」
 いつきの問いにレーゲンは頷く。
 トレントになる確率が高いといわれているシルバームーン・オークを選んで植樹したのは、やがてその木がトレントになってくれれば、と思ってのことだ。
 あの時はただ、オーガを倒して世界が平和になれば、と思っていた。そしてその平和になった世界でトレントが『めでたしめでたし』な昔話を語ってくれれば、と思っていた。
 けれど、今は少し違う。
「イシスとジェンマの件は終わった。けど神も人も色々いる。遠い未来、また同じような事が起こるかもしれない」
 神が今もなお息づく世界では、もしかしたらまた誰かと誰かの想いがすれ違ったり報われなかったりするかもしれない。その結果、世界を巻き込むほどの悲劇が起こるかもしれない。そんな一抹の不安が残っている。
「その時はトレントに語ってほしいんだ」
 いつきは言う。目的の場所である、自分達が植えた木の前に立って。
「大丈夫だよって、大切な人と一緒にいたいって思いは神と同じくらい強いんだって」
 しあわせになる昔話を伝えてもらいたい。そして万が一、世界が再び悲劇に襲われたなら、その時には。
「伝えたいのは戒めじゃなくて希望か……いつきらしいね」
 レーゲンは微笑む。
 それは確かに、不幸になった世界の住人にとって希望の灯火となるだろう。
「千年後も一日一日の歩みの先だよ。この先も時々語りに来よう『めでたしめでたし』が続くかぎり」
「うん!」
 成長が遅い木とはいえ、それでも植樹した時よりも大きくなっているシルバームーン・オークの前でそんな会話をすれば、まるでそれに応えるかのように、さわさわと風に吹かれてシルバームーン・オークの葉が揺れた。
「いつきとも色々あったけど……『めでたしめでたし』になれたかな」
 オーガの数は減っていくだろう。いずれウィンクルムを必要としない世界がやってくる。ウィンクルムとしての終わりがやってくる。
 それを考えながらのレーゲンの言葉は、いつきのはっきりとした声で否定される。
「……レーゲンとはね、まだ『めでたしめでたし』じゃないよ」
 思わぬ返事に、レーゲンは慌てていつきの方を見る。そこにいたのは、目を輝かせてまっすぐにレーゲンを見据えたいつきだった。
「だってこれからずーっと色んな事あるんだから! この先未来はいっぱい!」
 否定されたのは、手に入れた今の平和な時間ではなく、終わりを迎えたのではないという事。それがわかって、レーゲンはまた柔らかく微笑む。
「……そうだね、またこれからも続くね」
 レーゲンもいつきの言に乗れば、いつきは満面の笑みで強く頷く。そして夢を語る。いや、叶えるべき未来を語る。
「お店を開く準備もあるし」
「店を手伝えるように勉強するし」
「景色の綺麗なところへピクニックに行きたいし」
「サンドイッチ以外のお弁当も作れるようになりたいし」
「もしかしたらケンカだってするかもしれない」
「ケンカになったら納得するまで話し合おう」
 二人の物語は何も終わっていない。枷が無くなればどこまでも広がる世界が待っている。その広い世界の中でも、変わらない大切な仲間と一緒に、幾つも幾つも新しい出来事が待っている。
「最後の最期、見送るまでずっと一緒だよ!」
「看取るのは……できれば自分の方がいいな」
 返しながら、レーゲンは自然といつきの両手をとる。それにいつきは少し慌てて、けれど嬉しそうに笑う。
「どちらが先かは分からないけど、最期の時は一緒にいよう」
「うん……!」
 沢山の日々を経て、そしていつか訪れる最後の瞬間。その時に本当に『めでたしめでたし』だという事がわかる。
「改めて誓うよ」
 レーゲンはそれまでよりも少しだけ真面目な声で、けれど今までと同じか今まで以上に優しい笑みでいつきに言う。
 その微笑みと声色を受けて、いつきもまた背筋を伸ばしてその続きを待つ。
「私はずっといつきの味方だし、ずっとそばにいたいよ」
「俺もレーゲンの味方だし、そばにいるよ」
 人間の信城いつきと精霊のレーゲン。二人がウィンクルムではなくなっても、心から。
「ずっと……愛してます」
 顔を赤くするいつきが愛おしくて、レーゲンもまた少し頬を赤らめながらいつきに近づく。
「うん、私も、愛してるよ」
 そうして交わされるのは、ウィンクルムではない、ただの二人の誓いの口づけ。
 森の木漏れ日が二人を祝福するかのように踊る。
 シルバームーン・オークの木は、いつの日かトレントになった時、今のこの瞬間を何処かで覚えているだろう。
 二人の想いの強さを。二人の愛の深さを。希望を。



依頼結果:大成功
MVP

メモリアルピンナップ


エピソード情報

マスター 青ネコ
エピソードの種類 ハピネスエピソード
男性用or女性用 男性のみ
エピソードジャンル ロマンス
エピソードタイプ ショート
エピソードモード ノーマル
シンパシー 使用不可
難易度 とても簡単
参加費 1,000ハートコイン
参加人数 4 / 2 ~ 4
報酬 なし
リリース日 08月21日
出発日 08月27日 00:00
予定納品日 09月06日

参加者

会議室

  • [7]信城いつき

    2018/08/26-23:52 

  • [6]信城いつき

    2018/08/26-23:51 

    信城いつきと相棒のレーゲンだよ。
    相変わらず書きたいことがいっぱいありすぎて、ギリギリまで考えてた。

    考えて考えて、ちゃんと幸せだって実感できた。
    これまでもこれからもね

    考える機会をくれてありがとう。

  • [5]柊崎 直香

    2018/08/26-22:27 

    お暑い中どーもどーも。クキザキ・タダカと、ゼク=ファルだー。

    明日とかそんな未来の話はわかりませんと、言いたいところだけど
    わりと、普通に、いつも通り? 喋ってそうだ。

  • [4]柊崎 直香

    2018/08/26-22:22 

  • [3]ユズリノ

    2018/08/26-19:31 

    シャーマイン:
    最後だからな、俺も顔出しとく。
    未来というか、ちょっと先の話をしておくか…(少し不安気な表情

    最後までエピソード出して貰えて、大感謝だ。
    ありがとう青ネコGMさん。

  • [2]ユズリノ

    2018/08/26-19:25 

    ユズリノとパートナーのシャーマインです。
    よろしくお願いします。

  • [1]柳 大樹

    2018/08/24-21:51 

    柳大樹とー、クラウディオでーす。
    どうぞよろしく。(ひらっと右手を振る

    未来でエンディングってことらしいんで。
    俺とクロちゃんはー、……たぶん数年後の話になるかな?
    いや、詰めてみないとわかんないけどね。


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