眠りの森の君へ(青ネコ マスター) 【難易度:とても簡単】

プロローグ

「はーい、この扉の向こうにお姫様が眠ってますよー」

 のんびりとした声が耳に入ってきて、あなたは意識をはっきりとさせた。斜め上にぷかぷかと浮かんでいるのは手のひら大の妖精。ニコニコと笑っている可愛らしい存在を見ながら、あなたは頭の中で考えをめぐらせる。
 ここは何処だ? ――確か茨の森を抜けてこの城に辿り着いた筈だ。
 つまりこの後は? ――この扉の向こうにあいつが眠っている筈だ。
 浮かんだ問いには自然と答えが出てくる。まるで古いお伽噺に迷い込んだような状況。けれど、それを不思議に思わず当たり前のことだと受け入れていた。
「さぁさぁ王子様ー、お姫様が目覚めのキスを待ってますよー」
 あなたは妖精に促されるまま扉を開ける。
 扉の中には天蓋付きの大きなベッドが一つ。
 そこにパートナーである自分の精霊が眠っている。自分はキスにより目覚めさせる。その為にここまで来たのだ。
 あなたは柔らかく垂れ下がっている薄布のカーテンをかき分け、ベッドを覗き込み……。

「何でだよ!!」

 思わず叫んだ。
 そこに確かに精霊はいた。ただし、フリルだらけのショッキングピンクのドレスに身を包み、絵の具のような真っ青のアイシャドウと紫のアイラインとぐりぐりのピンクチークと真っ赤な口紅を塗りたくった、そんな状況の精霊が、いた。
「こいつ一応美形なんだけど?! 美形の筈なんだけど?! 何この化物怖い! ていうかここまで来るとカワイソウなんだけど?! ねぇ何この格好?!」
「お姫様ですからー」
「俺の知ってるお姫様じゃないんですけど?!」
 無理だ。これは無理だ。キスをしようにも笑いがこみ上げる。愛の力を軽く吹っ飛ばす視覚の暴力。なんという事だ、強敵は茨ではなく姫だった。
「もうちょっとまともな格好に……!」
「いいですよー」
 あなたの呟きに妖精は笑顔で答えて「えーい」と小さな指をふるった。
 すると、目の前で精霊の姿が変わる。
 それはいつもの精霊の姿。変な衣装も変なメイクもなく、美しさがよくわかる安らかな寝顔をさらけ出している。
 これならば、とあなたは動き出す。
「キ、キスってやっぱり口か……?」
「何処にでもどうぞー」
 妖精の言葉にホッとして、あなたはおでこに狙いを定めた。
(……くそ、やっぱりこいつ、カッコイイな……)
 恥じらい、葛藤、愛情、そんな様々な感情と一緒に、キスを贈る。
 そして精霊は目覚め……。

「ぶっはッ!!!!!!」

 いきなり吹き出した。
 何故なら精霊の目の前にいたのは、ぐるんぐるんのカールの金髪のカツラをつけ、カボチャパンツに白タイツにフリルのシャツと玩具のような王冠で身を飾って、ついでにやっぱりぐりぐりとピンクチークを塗りたくった、そんな状況の神人だったのだから。
「何笑ってんだよ! せっかく起こしてやったのに!」
「だって、おま、お前! ぶふッ、何その格好!! うひゃひゃひゃ!!」
「は? 何? 格好って……」
「こんな格好ですー」
 ゲラゲラ笑う精霊に戸惑っていると、妖精がポンと大きな鏡を取り出してあなたに突き出した。
「はぁぁぁぁ?! 何だこの格好?!」
「王子様ですからー」
「俺の知ってる王子様じゃないんですけど?!」



 叫んだところで、あなた達は目を覚ます。
 ここはフィヨルネイジャ。
 古いお伽噺の中でもなく、現実のサプライズでもなく、理不尽極まりない夢の中にいたのだった。

解説

『きれいなおひめさま』になった精霊にちゅーして目覚めさせてあげてくださいねー

●精霊の格好について
・どう頑張っても笑うしかない格好をしています
・どんなアイツも美しく見えるぜ……という事はありません、必ず笑える格好です、夢の中の仕様です
・ただし、神人が「無理! チェンジ!」と妖精に訴えれば、普通の格好に変わります
・希望する格好があればプランに書いてください、無ければ青ネコが無駄に頑張って笑いを取りにいきます

●神人の格好について
・普通の格好をしています
・ただし「精霊の格好無理です! チェンジ!」と妖精にお願いした時のみ『かっこいいおうじさま』に変わります
・『かっこいいおうじさま』に変わった事に本人は絶対に気付きません、夢の中の仕様です
・希望する格好があればプランに書いてください、無ければ青ネコが無駄に頑張って笑いを取りにいきます

●その他
・キスは何処にしても大丈夫です、髪でもおでこでも首でも手でも何なら足でも! 勿論! 口でも!!
・妖精と絡んでもOKです、基本のらりくらりとした返答になります
・キスしないと目覚めないので、必ずキスはして下さい

●で、プランどうすればいいの?
・笑いを堪えてちゅーしてもらいたいわけです!!
・もしくはイケメンの寝顔にちゅーする葛藤やら惚気やらが見たいわけです!!
・そして目覚めた精霊とのやり取りを見たいわけです!!

●ここに来るまでに実はお金落としてたんだ……
・300Jrいただきます


ゲームマスターより

どう転んでも、コメディ。

いや、プランによっては甘くする事も可能だと思います。(ぶん投げ)

リザルトノベル

◆アクション・プラン

セイリュー・グラシア(ラキア・ジェイドバイン)

  「うむ、目覚めのキズだな!」
ヤベ、超役得じゃん。
フィヨルネイジャも偶には役に立つじゃーん、との喜びが。
一瞬にして腹筋崩壊の危機に。
ラキアのどんな姿でも萌えられる自信はあったのだが!
笑いは偉大だな!
ラキアでこんなに笑い転げたのは初めてだぜ。
頬にはなまる!どれだけ花好きだ。
ベッドをバシバシ叩いて、ひとしきり笑った。
コレ、スマフォで撮っといて良い?
キスしなきゃ寝っぱなし、笑い転げるには好設定だ(サムアップ。
キスする前に呼吸困難になりそう。
「やっぱ無理、チェンジ!」
やっぱラキアはこれでなくちゃ。
さっきまでの姿が脳裏をチラついて。笑いをかみ殺しつつだな。
おでこにキスして起こそう。
「おはよう?」と笑顔で。


柳 大樹(クラウディオ)
  お姫様なんだし、ドレス着てたり?
クロちゃん、顔はいいけどガタイがなー。

目撃後:(盛大に吹きだす
「なに、この格好! っ、あはは! まさに、視界の暴力……!」
(ベッドに手をついて崩れ落ちる
「え、なに。これにキスすんの?」(ツボにハマり再び笑いの渦に
「まじ、うけ……。ここまで来るとセンス感じる」(笑い過ぎて息絶え絶え

「キスって口?」
顔の近くは無理だわ。どこでもいいなら手にでも。
あ、爪まで凝ってる。(指先にキスする

キス後:
「おめ、御目覚めですか。お姫さ......ぶっは!」(堪え切れず吹く
動くと威力倍増すぎ。やば、腹筋つら。
「クロちゃんに、見せたげて」(妖精にお願い

あー、笑った笑った。(いつになく晴れやか


信城いつき(ミカ)
  目覚めのキスか、手の甲で良いよね、簡単かんた…ええっ!?
ミカの姿、普段とのギャップが…

まずいこの姿ミカが気づいたら怒る、そして俺に八つ当たりする絶対!
目覚めさせて…気づかれないうちにここから出よう

起きた?さあ帰ろうか、さあさあ
だ、大丈夫なんでもない(笑いをこらえつつ)
だめー!鏡見せちゃ!(鏡を見ないようベッドに押さえ込み)

どうしよう、押さえ込んだのはいいけどこのままじゃお互い動けない
耳?なに?
ぎゃーっ!ばかばかばかっ!

楽しんでって…俺のせいじゃないよ!
ねぇ妖精さんミカの姿戻せる?(結果いつきの姿変身)
?もー何これ!ミカ笑いすぎっ!

目覚後
文句言うつもりが、あのミカの姿思い出したら吹き出しちゃった


セツカ=ノートン(マオ・ローリゼン)
  ・行動
キス、この恰好のマオにキス
笑いしかこみあげてこないけど、でも、やっぱり綺麗なんだよなー…
「ねぇ、妖精さんもマオ綺麗だって思う?」
もしも綺麗だって言われたら、きいといてなんだけどむっとしそう
むむ、なんか、…なんか、むっ
額にしようかなって思ったけど、マオは僕のだもん…
唇にキス、する!どこでもいいんだもんね

・対精霊
わ、わー?!
マオも照れるんだ、照れるんだ!でもその恰好で!!
笑ってしまって多分、当分おさまんないかも
でも、マオこんな姿でもやっぱり綺麗でかっこいいよ
僕の自慢の教育係だもの
でも、思い出したら当分笑えそうだなぁ


■せくしーだいなまいつなお姫様
「王子様ー、こちらですー、どうぞお姫様に何処でもいいのでキスをー」
 妖精に促されるまま『信城いつき』は部屋の中へ進む。自分が王子ならつまり、あの天蓋付きのベッドに眠っているお姫様は『ミカ』なのだろう。
「目覚めのキスか、手の甲で良いよね、簡単かんた……ええっ!?」
 言いながら薄い布をかき分ければ、そこには確かにミカが寝ていた。
「ミカの姿、普段とのギャップが……」
 いつきはひくりと頬を引き攣らせ、微かに体を震わせながら言う。
 そう、ミカだ。これはきっと、恐らく、多分、ミカなのだ。
 たとえ毛先がくるんくるんに巻かれていて、紫のラメ入りアイシャドウをこってり塗り、真っ赤で艶やかな口紅をはみ出し気味に塗り、ピンクのスパンコールのオフショルダードレスを身に着けていても! 残念なことにミカなのだ! ちなみに胸は水風船で巨乳だ! わーお、せくしー!
(まずいこの姿ミカが気づいたら怒る、そして俺に八つ当たりする絶対!)
 いつきは崩壊寸前の自分の頬と腹の筋肉を意志の力で押さえつけながら、現状を把握し自分の取るべき行動を考える。
(この部屋には他に人はいない、鏡とかもない……よし、じゃあ、目覚めさせて……気づかれないうちにここから出よう)

 手の甲に何かが触れた。その感触でもってミカは意識を覚醒させた。
「……ん、寝てたのか」
 ミカが目を開いて最初に見たものは、頬をひくつかせたいつきだった。
「起きた? さあ帰ろうか、さあさあ」
「どうしたチビ? なんか様子変だぞ」
 手を引くいつきを不審に思い、ミカは体を起こしながら訊ねる。
「だ、大丈夫なんでもない」
 声は震えていた。体も微妙に震えていた。明らかに何かに耐えている。
 ミカが周囲を見回せば、やたらとはしゃいでいる妖精がいた。何故かミカを見てはにっこにこの笑顔を振り撒く。
(楽しそうに笑ってる……これは何かあるな)
 いつきから聞きだすのは諦め、ミカは妖精に狙いを定める。
「なぁ何があったんだ?」
「お姫様が目覚めたから嬉しいんですー、鏡を見ますかー」
「鏡を見ろ? って、ここに鏡は……」
「どうぞー」
 ポンッという軽快な音を立てて何処からともなく鏡を出現させた。それに慌てたのはいつきだ。
「だめー! 鏡見せちゃ!」
 鏡とミカの間に割り込むように飛び出したいつきは、そのまま勢いでミカを押し倒した。
 こうして王子様はせくしーだいなまいつなお姫様をベッドに押さえ込んだことになる。「ふーん、俺を押し倒すとは成長したな、チビちゃん。で、これからどうする気だ?」
 ミカは驚きながらもにやりと笑って挑発するが、いつきは押さえ込むのに必死で気付いていなかった。
(どうしよう、押さえ込んだのはいいけどこのままじゃお互い動けない)
 どうすればいいのか、どうしようもないんじゃないのこれ、いやどうにかせねば、でもでも!
 ぐるぐる悩むいつきを面白そうに見ていたミカは、やはり面白そうに「チビ、ちょっと耳貸せ」と声をかける。
「耳? なに?」
 いつきがよく考えずに内緒話でも聞くかのように耳を寄せれば。
 ふぅー、と、ミカに耳へと息を吹きかけられた。
「ぎゃーっ! ばかばかばかっ!」
 小動物のようにビクンッと飛び跳ねミカから離れる。
「弱点、初めて会った時から変わらないなー」
 ミカは喉を鳴らして笑った。

 いつきという障害物がいなくなれば、ミカは鏡を見ることが出来る。
「なるほど、そういう事か」
 我ながらひどい。これはない。笑いしかでてこない。
「ずいぶん人の寝顔で楽しんでたみたいだなー」
 視線を合わせようとしないいつきの頬をつんつんと乱暴につつく。
「楽しんでって……俺のせいじゃないよ! ねぇ妖精さんミカの姿戻せる?」
「いいですよー」
 駄目元で頼めば、あっさりと妖精は首を縦に振り、「えーい」と小さな指をふるう。すると、ポンと音を立ててミカの周りに小さく煙が立つ。
「これで元に戻ったのか?」
 ミカは戻った自分の体を確認してから顔を上げ、そして目を丸くする。
「? 何、どうしたの?」
 自分を見て固まったミカに疑問を投げかけるが、その次の瞬間。
「……ぷっ」
 ミカは耐え切れないとばかりに吹き出し、そして。
「アッハハハハハハ!!」
「?!」
 お腹かかえて盛大に笑い出した。
 いつきは助けを求めるように妖精を見て、そしてそこで妖精が抱えていた鏡を見る。見てしまう。
 そこには、画用紙で出来た王冠をかぶり、目元にはキラキラ光る星のシールを貼り付け、頬にぐるぐる渦巻き、立て襟の服にカボチャパンツをはいている、そんないつきがいた。
「もー何これ! ミカ笑いすぎっ!」
 鏡を見て顔を赤くして憤るいつきだが、ミカの笑い声は止まることはなかった。

 目が覚めれば、そこはフィヨルネイジャ。
 なんというふざけた悪夢だったのか。
 そう思って二人は顔を見合わせ、そこで夢の中の素晴らしい格好を思い出し大笑い。
「お互い痛み分けだな」
 笑いながら言うミカに、いつきも笑いながら頷いた。


■らぶりーごーじゃすなお姫様
「うむ、目覚めのキスだな!」
「はいー」
 何となく全てを察した『セイリュー・グラシア』は、妖精と共に豪華な扉を開けて中へと入る。
 正々堂々とキスが出来る。その事実に頬が緩む。ヤベ、超役得じゃん、とニコニコ笑顔でスキップ気味にベッドへ近づく。
 フィヨルネイジャも偶には役に立つじゃーん、との喜びながら薄布をかき分け、、そして一瞬にしてずしゃあ!と崩れ落ちる。腹筋崩壊の危機に。
 ベッドには『ラキア・ジェイドバイン』が寝ていた。何故か髪型はゴージャスな縦ロール、ピンクのつけ睫に、頬にぐるるんと花丸のピンクチークを施し、ピンクパールのぷるぷるリップ、そして花飾りをいたる所に散らしたピンクのドレス、そんなオールピンクのらぶりーごーじゃすな格好で! アイドルもかくやという格好で!!
「ラキアのどんな姿でも萌えられる自信はあったのだが!」
 叫びながらセイリューは笑う。笑い転げる。腹筋などとうの昔に崩壊した。
「笑いは偉大だな! ラキアでこんなに笑い転げたのは初めてだぜ」
 ひーひー笑いながらよくよく顔をのぞき見て、もう一度吹き出す。
「頬にはなまる! どれだけ花好きだ」
 ベッドをバシバシ叩いて、ひとしきり笑った。
 そしてようやくなんとか立て直したセイリューは、ポケットから携帯電話を取り出し「コレ、撮っといて良い?」と妖精に聞く始末。その顔はまだまだ笑っている。
「いいですよー」
「やった!」
 妖精の答えを聞いた瞬間から連写しまくる。こんなこと普段だったら無理だ。キスしなきゃ寝っぱなし、笑い転げるにも記念撮影をするにもなんと素晴らしい状況か。思わず親指をグッと立てたくもなる。
 色々と堪能したセイリューが、さてキスをしようとラキアの顔を見つめ。
「やっぱ無理、チェンジ!」
 思わず叫んだ。キスする前に笑いで呼吸困難になりそうだったのだ。
「いいですよー」
 軽い妖精の声が聞こえたと思ったら、ラキアの姿がしゃららんという音と光と共にいつもの格好に戻る。
「やっぱラキアはこれでなくちゃ」
 整った美しい顔に、セイリューはさっきまでとは違う笑顔になる。
 それでもさっきまでの姿が脳裏をチラついて、笑いをかみ殺しつつ顔を近づける。
 眠れるお姫様には、おでこに優しく目覚めのキスを。

 うっすらとラキアの目が開かれ、鮮やかな緑の目が見えてくる。
「おはよう?」
 セイリューが笑顔で優しく言う、の、だが……。
「……ッふ……!」
 ラキアは耐え切れないとばかりに体を震わせ、そして声をあげて笑い出した。セイリューを思い切り指差しながら。
 セイリューは何事かと目を瞬かせ首を捻る。だが、これは仕方ないのだ。
 金髪カールのカツラの頂点には何故かおもちゃのお花が一本ちょこんと生えていて、白いファー付きの赤いマントはぶっかぶか、そして頬にはぐるるんと花丸のピンクチーク、さらにキラッキラのかぼちゃぱんつにラメ入り白タイツ。この笑撃的な姿で素敵に頬笑まれても! キメ顔されても!!
「君は笑いを取りに行くのも全力なの?」
 ラキアは目尻にはうっすらと涙を溜め、息も絶え絶えに突っ込む。
 そこでようやくセイリューは自分を見下ろし「あれ?!」と叫んで自分の格好に気付いて。
「よろしかったらどうぞー」
 やはり軽く言う妖精がポンッと音を立てて鏡を取り出す。
 そこでようやく自分の全身像をみたセイリューは、一度ぽかんと目も口も大きく開ける。
 あ、頬の花丸がさっきまでのラキアとお揃いだ。そんな事に気付きちょっと嬉しくなるが、嬉しさを軽く吹っ飛ばすこの衝撃、攻撃力マックス、攻撃対象は主に腹筋、押し寄せる笑いの大軍、もう限界だ。
「ぶふーッ!!」
 そしてセイリューは鏡を指差し、ラキアに負けないほどの大声で笑い出した。
「いやー、これはひどい! ひどすぎる!」
 笑いに笑うセイリューにつられて、ラキアもまた笑い出す。
「スゴイ格好になったねぇ」
「王子様だからな!」
 ベッドの上で二人は笑い転げる。楽しそうに、楽しそうに。

「あー!」
 目が覚めたセイリューは、あるモノを確認してがくりと肩を落とす。
「どうしたの?」
 同じく目が覚めたラキアが不思議そうに訊ねるが、言えない。言えるわけがない。
 夢の中で撮った、らぶりーごーじゃすなお姫様の写真が、無い、だなんて。
「いいんだ、脳みそにばっちり刻みつけたから」
「何を?」
 不思議そうに首を傾げるラキアを見て、セイリューはらぶりーごーじゃすなお姫様を思い出す。
 思い出して、プッと吹き出す。
 夢の中の続きのように笑い出したセイリューに、ラキアもつられて笑い出す。
「あー、面白い夢だった」
 二人は笑いながらそう言って、フィヨルネイジャを後にした。



■くーるびゅーてぃーなお姫様
「王子様どうぞー」
 妖精に案内された『柳 大樹』は、扉を開けながらこの先に待ち構えているであろう光景を想像する。
 恐らく、ベッドに寝ているのは『クラウディオ』だ。
「お姫様なんだし、ドレス着てたり?」
 口に出してみるものの、あまり想像できない、というかしたくない。
「クロちゃん、顔はいいけどガタイがなー」
 衣装を考えれば、メイクを頑張れば、元は整っているのだから美しく仕上がるのだろうが、さてどうなっているのか。
 大樹は少し何かを期待しながら天蓋から下がる薄布をかき分ける。
 そしてその先で、見てしまった。
 説明しよう! ベッドに寝ていたのはクラウディオ! しかしてその外見は! 明らかにカツラとわかるウェービーな銀髪は足元まで広がり、シルバーのアイシャドウにブルーのアイライン、頬骨をなぞるようなピンクのチークはやたらと濃く、唇はゴールドにとぅるんとしたグロス、そして星空を切り取ったようなキラッキラした生地で出来たエンパイアドレスだ!! ちなみに胸は肉まんです☆
「ぶふーッ!!」
 盛大に吹き出した大樹を誰が責められよう。いいんです、笑ってください。むしろ笑わなければクラウディオも報われない。さぁ笑え!
「なに、この格好! っ、あはは! まさに、視界の暴力……!」
 ベッドに手をついて崩れ落ちる大樹はひたすら笑い続けている。それに業を煮やしたのか、妖精が困ったように「キスしてくださいー」と訴える。
「え、なに。これにキスすんの?」
 キス。この視界の暴力に。キス?
「ぶほおッ!!」
 考えただけで再び笑いの渦である。
「まじ、うけ……。ここまで来るとセンス感じる」
 笑い過ぎて息絶え絶えになって、ようやく頭が回ってくる。
 キスをしなければきっと何も進まない。
「キスって口?」
 顔の近くは無理だわ、と妖精に先に宣言すれば、何処でもいいという答えが返ってくる。
 どこでもいいなら手にでも、と考え右手を掴めば、宇宙を切り取ったようなネイルが目に入る。
「あ、爪まで凝ってる」
 そもそもこんなに長くて綺麗な形に整えられてなかっただろう。もはや指という認識も出来なくなるほどだ。大樹はそんな事を考えながら指先にキスをした。

 クラウディオの意識は覚醒する。どうやらいつの間にか眠っていたらしい。
 ふと、手が何かに触れている感触に気付き、確認しようと目を開く。
 すると自分を見ている大樹がいた。手に触れているのも大樹だ。珍しい、そう思っていたら大樹が口を開いた。
「おめ、御目覚めですか。お姫さ……ぶっは!」
 三回目の吹き出しです。
 そんな事は知らないクラウディオは「……大樹?」と不思議そうに名前を呼ぶ。何故いきなり笑いだしたのか、何かあるのか、そんな事を考えて辺りを見回すが特に何もない。
 だがそんな些細な動きが視覚の暴力の威力を倍増させているのだ。
「やば、腹筋つら」
 ぜーぜーと、笑い疲れ苦しそうに呼吸を整える。そして楽しそうな妖精に「クロちゃんに、見せたげて」とお願いする。
「はいー」
 妖精が答えて鏡を取り出す。それを覗き込んだクラウディオが動きを止める。
「何だこれは」
 鏡に写った自分を一瞬認識できない。笑いよりも困惑がでてくる。
(これは、私か?)
 疑って身じろぎすれば、鏡の中のお姫様も同じように動く。お気の毒ですがあなたです。
(原型を留めていないが、化粧とはここまで変わるものか)
 鏡をマジマジと見るクラウディオがおかしくて、大樹はまたも笑い転げる。
(大樹のこの状態は抱腹絶倒、というのだったか)
 そろそろ笑いよりも呼吸困難の疑いが出てくる勢いだ。クラウディオは背を撫でて落ち着かせようとするが、ツボに入ってる大樹は全然落ち着かない。
 それでも辛抱強く暫く撫でていれば、疲れきった様子の大樹がぜーはーと息を整え始める。
「あー、笑った笑った」
 いつになく晴れやかな様子の大樹を見て、クラウディオは知らず静かに首肯する。
(大樹の気が晴れたのなら、良いのだろう)
 呼吸困難を疑う程に笑う姿を見たのは久しぶりで、だからこそ安心したのだが、笑い過ぎが毎度心配になる。
 そもそも大樹が自分の姿に笑う時はおかしい姿になっているのだろうと察しているのだが、自分でもおかしいと思ったのは今回が初めてだった。
(もう少し程よいおかしな格好になれればいいのだが)
 そんな斜め上の事を考えながら、もう一度鏡を覗き見る。
 謎の生き物がいた。
 クラウディオにもこみ上げる何かが若干出てきたが、それを吹き飛ばすように、大樹が「いつまで鏡見てんの」とまた笑った。


■すいーとふぇみにんなお姫様
 妖精の導きに従い辿り着いたベッドには『セツカ=ノートン』の精霊『マオ・ローリゼン』が眠っていた。
 残念ながら美しい精霊はそこにいなかった。
 いたのは、髪の毛に適当なお花を適当にぶっ刺し、グリーンのアイシャドウに濃紺のアイラインを乗せ、更に小さな花のシールとラインストーンが目元を飾り、オレンジのキラキラした口紅を塗り、フリルにフリルを重ねまくって更に適当なお花を適当にぶっ刺したダークグリーンのドレスを着ている、そんなふざけた外見の精霊だった。何だこれは、野原の擬人化か。
 セツカは思わず床に手をつき項垂れてしまう。
 キス、この恰好のマオにキス。何の嫌がらせだというのか。
 セツカは一度深呼吸をしてから、改めてマオを見る。「ん゛んッ!」と変な咳払いをして何かを誤魔化した。しょうがない、その反応はしょうがないよむしろよく耐えた。
 腹筋に力を込めながら眠る精霊を見つめる。
(笑いしかこみあげてこないけど、でも、やっぱり綺麗なんだよなー……)
 目の前のマオにいつものマオの姿を重ねて思い出す。いや、今だって笑いとタッグを組んでるだけで多分きっと恐らく欲目でなくとも綺麗だ、と信じたい
「ねぇ、妖精さんもマオ綺麗だって思う?」
 気になって妖精に聞いてみれば、妖精はニコニコ笑顔で「はいー、なんせお姫様ですからー、とても綺麗ですー」
 その答えに、何となくむっとしてしまう。
(むむ、なんか……なんか、むっ)
 きっとこの妖精の言っている綺麗と自分の思っている綺麗は違う。それ位はわかるが、それでもくすぶるこの想いはなんだろうか。
(額にしようかなって思ったけど)
 いや、わかっている。この感情の名前は、独占欲だ。
「マオは僕のだもん……」
 小さく呟いてから、キッと妖精と眠るマオに宣言する。
「唇にキス、する! どこでもいいんだもんね」
 ぱちぱちと妖精が小さな拍手を贈る。
 それを聞きながら、セツカはマオの頬に手を添え、そしてそのオレンジの唇へ……

 最高の目覚めだった。
 唇への感触で目を覚ませば、目の前には愛おしいセツカの顔。
 つまり自分は、セツカのキスで、目を。
「わ、わー?!」
 体を起こしたセツカが驚きの声をあげる。信じられないものを見た、とばかりに。
「マオも照れるんだ、照れるんだ!」
 言われて、マオは自分の頬が熱いのに気づく。きっと、今の自分はセツカの目より赤いだろう。
「セツ……」
「でもその恰好で!!」
 手を伸ばし名前を呼びかければ、何故か突然笑われた。
 わけがわからず固まっていれば、妖精が「素敵な格好ですー」と鏡を何処からともなく持ち出した。
 そしてそれでセツカが笑っている理由を知る。
「なにかとおもえば……!」
 がくりと項垂れるマオをよそに、セツカはなおも笑い続ける。当分おさまらないかもしれない。
(これは流石にないでしょ)
 ああ、さっきまでは幸せの絶頂だったのに、まさかその幸せの最中からこの愉快な格好だったとは。
 心の中で盛大に嘆きながら「もう少し……なんかなかったのか。ないのか、そうか」とブツブツと呟く。これぐらいの愚痴は許されるだろう。許されるべきだ。
 そんな呟きに気がついたセツカは、笑いをおさめながらマオの顔を覗きこむ。
「でも、マオこんな姿でもやっぱり綺麗でかっこいいよ」
 こんなに笑えるのに、それでも綺麗でかっこいい。そう思ってしまうのは、どうしたってこの胸に占める感情ゆえだ。
「僕の自慢の教育係だもの」
 笑顔で言うセツカを見れば、マオとしては脱力しつつも苦笑するしかない。
(念願の初キス……だとカウントしたくないような、したいような……だし、嬉しい、ような)
 心の中で自分の感情を整理していると、セツカがまた小さく吹き出す。
「でも、思い出したら当分笑えそうだなぁ」
 その声に、整理しかけた感情がまた崩れる。
(あぁもう、思い出すたびこの恰好も思いだすわけ?)
 出来れば奇跡が起きてこの格好だけ記憶から抹消して欲しい。そう願いながらセツカを見れば、実に楽しそうに笑っている。
(まぁ……セツカとの思い出ならこれもいいのかな、いいと思い込みたい……)

 二人はまだ気付いていない。ここが夢の中だと。
 そう、夢なのだ。
 つまりこのキスは二人にとって初めてのキスだけれど、二人は実際にはまだキスを交わしていない。
 二人がそのことに気がつくのは、数分後。目を覚ましてから。
 幻となるキス。
 だからこそ、今度は。今度こそは。いつの日か。
 二人ともが目を覚ましている状態で、ただひたすらに愛に彩られた、キスを。
 



依頼結果:大成功
MVP

メモリアルピンナップ


( イラストレーター: 笹舟  )


エピソード情報

マスター 青ネコ
エピソードの種類 ハピネスエピソード
男性用or女性用 男性のみ
エピソードジャンル コメディ
エピソードタイプ ショート
エピソードモード ノーマル
シンパシー 使用不可
難易度 とても簡単
参加費 1,000ハートコイン
参加人数 4 / 2 ~ 4
報酬 なし
リリース日 04月12日
出発日 04月18日 00:00
予定納品日 04月28日

参加者

会議室


PAGE TOP