プロローグ
一つ目。いかなる時も領主として冷静に判断するところ。
二つ目。耳心地のいい落ち着いた声。
三つ目――。
「僕とマリエル、二人に同じように思いを傾けてくれているところ」
「はぁ」
改まって言われるとむず痒いものだな。肩を竦めて、ミハエルは苦笑を浮かべた。
対し、指折り三つ数えた精霊、エリックは、穏やかに笑う。
「だが、良い案だろう。相手の好きな所を三つ挙げる。たったそれだけのことだが、相手を思う切欠には、とても」
「ええ、とても。つかぬことを窺うが、これに例のランプを添えようなんて思ってはいないだろうね?」
「君は酷いねぇ。ロマンチストの僕がそんな無粋をすると思うかい?」
心外だと言わんばかりに大げさに首を振って見せて、それから、ふと、思い至ったように首を傾いで尋ねた。
「さては君、照れているね?」
「……無粋だな、貴方は」
むすりと膨らませた頬は、淡い赤に染まっていて。
逸らした瞳とその言葉が、といに肯定を返している。
ささやかだけれど心からの賛辞を、素直に受け止めてもらっているのを認識して、心が温まるのを感じた。
「ところで」
「うん?」
「君からは言ってくれないのかな」
互いが互いを思い合うというのは大切なことだろう。
にこやかに笑うエリックに、ミハエルはじわじわと燻っていた気恥ずかしさに火をつけられて沸騰する。
「貴方のっ、その時々人の悪い所は、嫌いだ!」
「ははは、いやぁ自覚しているとも」
爽やかに笑ったエリックは胸の内でのんびりと思考を馳せる。
きっと、ウィンクルム達にもこういった微笑ましい光景が見られることだろう。
あるいは、照れくさささえも飲み込むほどの愛を溢れさせるのか。
「あたたかく、なりそうだねぇ」
早咲きの梅は、もうそろそろ開花するだろう。
お茶の用意もしておこうか。今度も素敵なおもてなしができますように。
とある領地を治めるウィンクルムにより、不定期に催される領内イベント。
その案内が、今回も届いた。
なんでも、梅の花見にかこつけて、パートナーと語らい合うというのが目的らしい。
すべきことは至極単純。相手の好きなところを三つ、告げること。
そしてそれを、否定せずに受け止めること。
容姿でも良い。性格でも良い。こんな時のこんな姿、あの時のあの言葉。大雑把なものから具体的なことまで、なんでも良い。
暖を取るための羽織ものと、暖かい緑茶を振る舞うことが出来るとは告げられたが、領内イベントでもあるため、参加費を頂くことにはなるとも聞いた。
さて、そんな催事に、足を向けるか否かは貴方次第。
「我々は口を出す無粋はしないから、存分に愛を語らってくれたまえ」
内緒話が出来る場所は、たくさんあるのだから。
解説
●お互い、相手の好きなところを三つ挙げて下さい
それを、否定せずに受け止めて下さい
グループ参加可能ですが非推奨です
●場所は梅の花が映える公園をメインに、長閑な村を一通り
ベンチに座って、歩きながら、村外れで、などなど場所に拘りのある方は明記してくださって構いません
なければだいたい公園に居るものと判断します
●好きな所はプロローグにもあるように、大雑把でも具体的でも構いません
過去エピソードの話題を出していただくことは可能ですが、エピソード自体を参照はしません
プラン内で完結するよう、いついつの何々、と明記していただくようお願い致します。
●公園で緑茶が配布されます
肌寒ければショールや薄手のパーカー等貸し出してもらえます
参加費として、300jr頂戴いたします
●NPCは基本的にリザルトに登場しません(文字数次第で挨拶くらいはするかもしれません
ゲームマスターより
ご無沙汰しております、錘里です
最近は少なめ組数でなるべくがっつり書く方向性で行っております
イベントにもかすりませんが、興味がありましたら、宜しくお願い致します。
リザルトノベル
◆アクション・プラン
信城いつき(レーゲン)
一つ目は「一緒に歩いてくれること」 身長違うのにレーゲン俺と歩幅合わせてくれるから一緒に歩けてるから だめ、受け止めないと。俺はすごく嬉しいんだから 「辛抱強いところ」 俺の記憶失っても戻ってもずっと支えてくれた事。ありがとう あとね…「俺を見て、笑ってくれた時の顔」 (いつも以上に笑顔が優しくて、なんて恥ずかしくて言えない) 『好き』って…違うよっ、こっちが照れるくらい言うのはレーゲンの方だよ 支えてくれた事とか、レーゲンから貰ってるのに比べたら全然足りないのに 否定はしちゃいけない、なら追いつくぐらいいっぱい伝えないと レーゲンの耳元でそっと「大好き、大好き、いっぱい大好き」とささやく これでどうだっ |
セイリュー・グラシア(ラキア・ジェイドバイン)
ラキアにそう言われると何だか嬉しいぜ(照れ。照れ。 俺が楽しいって思う事をラキアと一緒に体験したいし。 楽しい時を一緒に過ごしたいじゃん。 ラキアの好きなトコ? ・作ってくれるご飯が凄く美味しい!ココ大事だぞ。 栄養の事色々考えてくれて、なおかつ超ウマくて、一緒にご飯食べてると幸せをかみしめるぜ。 ・色々な事をちゃんと理屈だてて考えてくれるからすげー助かる。 オレが判ってナイコトとかちゃんと考えてくれて注意してくれるし、皆の身の安全の事色々と考えてくれるから任務の時も凄く安心。 ・ウマく言葉に出来ないけど、一緒に居ると凄く気が楽。ほっとする。楽しい! 何だかオレの事色々と理解してもらってるって実感する。大好き。 |
蒼崎 海十(フィン・ブラーシュ)
ショールを借りていこう お茶を手に公園のベンチに座って、梅の花を見ながら… こういうのは、先に言った方が勝ちな気がする 後からの方がハードルが上がる…と思う だから、先手必勝と思ったけど… 三つって意外と難しいぞ… 悩んでいたら、隣から同じ悩みが …うん、同じ事を考えてるっていうのが、嬉しい そう思った瞬間、自然と口に出た 一つ目。俺が何も言わなくても、わかってくれる所。 二つ目。優しい手。 三つ目。美味しい料理。 あー駄目だ。やっぱり三つじゃ足りない 笑って見れば、顔の赤いフィン フィンの言葉に俺も赤くなってしまって… お互い様だ(フィンに倣うように心臓の音を聞かせ) なら、こうして確認すればいい(抱き着いて、鼓動を重ねる |
ユズリノ(シャーマイン)
彼に誘われ参加 お茶も頂き楽しく梅観賞 彼が手を繋いでくれた 逸れない様に? またはしゃぎ過ぎかな僕 えへへ 最近彼と口論があって呆れられてないか不安だったから触れてくれて安心する 誘われ人気のないベンチへ ルール? 梅の鑑賞会とだけ聞いてたから彼から説明聞き驚く 心の準備なく言葉を受ける事に 恥かしくて あわわ しー のポーズするので大人しく聞く 彼の言葉は僕の闇を気遣ってのものだ 申し訳なさと感謝で胸が苦しい (神人でいいんだって言ってくれてるんだね) 「ありがと」 顔を至近距離に寄せられ リノは? と促され 照れつつ 「素敵な友人が多い所」 「深い懐で受け入れてくれる所」 「…僕に触れてくれる所」 抱擁がいつもより暖かく感じ不安が晴れる |
●君がくれる光
梅の花が頭上で花開いている。春の訪れを感じさせる光景と、温かなお茶を楽しみながら、ユズリノはふんわりと微笑んだ。
今日ここへ来ているのは、精霊であるシャーマインからの誘いによるもの。
それだけでも十分嬉しいことだが、不意に、シャーマインが手に触れ繋いでくれたのを感じて。
「どうか、した?」
「いいや、逸れないように」
とく、と胸の内が密やかに高鳴ったのを誤魔化すように問えば、優しい声で返してくれた。
――先日、ほんのつい最近、彼と口論してしまったのを、ユズリノは忘れてはいない。
不安を上手に抑えられず、それゆえに声を荒げてしまったユズリノに、シャーマインは呆れてしまったのではないか、なんて。
思って、しまっていたのだけれど。
「またはしゃぎ過ぎかな僕」
えへへ、と笑うユズリノの表情には、安堵があった。
手のひらから伝わる彼の体温が、不安を緩やかに溶かしてくれるから。
(触れて、くれた)
遠慮がちに握り返せば、また優しく力が込められる。
そのことにまた言い得ない喜びを感じていたユズリノは、くい、と繋いだ手が引かれる感覚に顔を上げる。
かち合った視線が、何かを示そうとするのを追いかけてみれば、人気のない場所にぽつんと置かれたベンチが目についた。
梅の花もまばらに咲いている足元で、二人並んで一休み。
そこで、さて、とシャーマインが切り出した。
「リノは、この催しのルールを知ってるか?」
「ルール?」
梅の鑑賞会としか聞いていなかったのだけれど。
疑問符の浮かぶユズリノに、だよな、と微笑んで、シャーマインは今回の趣旨を説明した。
相手の好きなところを三つずつ。挙げて、受け止める、それだけだ、と。
「え? そ、そんなの聞いてない……」
「じゃあ、俺から」
恥ずかしさであわあわ狼狽え、心の準備も出来ていないのに! と叫びそうになっているユズリノに、しー、と人差し指を立てて。
大人しくなったのを見届けると、シャーマインは語りだした。
「一つ、素直な反応を見せてくれる所」
今日もいい反応で、誘った甲斐がある。
嬉しい、楽しい。そんな感情を表に出してくれるのは、嬉しいこと。
「二つ、俺の勝手を受け入れてくれる所」
ユズリノが可愛くて、ついキスをしてしまったことがある。
その時だって、拒絶は、されなかった。
「三つ、誰とも違う存在感」
一つ二つと指折り数えて語られた話と、三つ目は、少し、毛色が違っていた。
それは、ユズリノの内面に関するものではなく、外側、ユズリノという個人ではない枠を、薄っすらと示唆しているようで……。
「『リノが神人だから』それは否定しない」
はっきりとした声に、ぴくり、ユズリノの表情が強張る。
それを真正面から見据えて、シャーマインは努めて優しく、彼の髪を撫でた。
「神人で友人で可愛い人でこれまで築いたもの全てがあってこその存在感だ」
神人であるということは、ほんの些細な切欠でしか無いのだ。
そうであったからこそ出会い、今までの時を紡いでこれたのだ。
その積み重ねは、まだまだささやかなものかもしれないけれど、それを大切だと思う感情は、確かなものなのだ。
シャーマインの丁寧な言葉に、彼の思いが伝わってくるのを感じて。ユズリノは、きゅぅ、と胸元の服を握りしめた。
嬉しいのだ。ふくふくと暖かな想いが湧いて、溢れそうになる。
それと同時に、申し訳なくも思ってしまう。神人としての顕現を『危惧』され疎まれ続けた過去を気遣われているのが、ひしと伝わるから。
だが、否定はしない。
そういうルールだからではなく、彼の言葉だから。
(神人でいいんだって言ってくれてるんだね)
たった一言で全てが晴れるほど淡い闇ではないけれど。
光の差し込む、そんな暖かな感覚が、確かに宿ったのだ。
「ありがと」
綻ぶように笑ったユズリノに安堵したように表情を緩めたシャーマインは、つぃと顔を寄せ、「リノは?」と促してくる。
嬉しい言葉を沢山貰った照れくささが残っている中で、シャーマインへ贈る言葉を改めて考えると、ますます頬が照るようだが、少し冷えた手でその熱をかすかに冷まして、微笑む。
「素敵な友人が多い所」
だってそれは、シャーマインの人徳がなせること。
「深い懐で受け入れてくれる所」
いつだって、呆れもしないで優しく見守ってくれている。
それから、何よりも。
「……僕に触れてくれる所」
ぽつりと零された言葉に、シャーマインは笑みのまま首を傾げた。
触れることは、彼にとって特別なのだろうか。
考えてみたが、考えるまでもなかった。
幼少の頃から疎まれもので、一人きりで居続けた彼は、触れられることに飢えている。
思い至った瞬間、シャーマインの腕は、ユズリノを抱きしめていた。
一瞬だけ瞳を見開いたユズリノは、けれど、先程差し込んだ光が強く煌めくような心地に、幸せそうに微笑んだ。
そんな、彼の表情が。
シャーマインの感情を、昂ぶらせる。
(……リノ、愛してる)
自覚、する。
(俺はリノを愛してる)
それは、気づいてしまって良かったのだろうか――。
●君と交わる想い
ふわり、優しい暖かさをくれるショールを羽織り、指先を温めてくれるお茶を手に公園のベンチに腰掛ける。
そうやって梅の花を見ながら、蒼崎 海十はしきりに考えていた。
相手の好きなところを三つ挙げる。たったそれだけのことだと軽く言われたが、こういうのは先に言った方が勝ちだろう。
後からの方が照れくささとプレッシャーでハードルが挙がってしまうのだ。
だから、先手必勝。海十は自分が先に切り出そうと、思っていたのだ。
が。
(三つって意外と難しいぞ……)
考えても、いや、考えるほどに、悩んでしまう。
三つに決めることが、出来なくて。
パートナーであるフィン・ブラーシュのことは、一から十まで指を使っても足りないくらい好きなのだ。
だと言うのに、その中から三つだなんて、あまりに少なすぎる。
あれも、これも、それも。挙げ始めればキリのない事項に、うんうんと唸るようにして悩んでいた、その時だった。
「三つって難しいよね……」
ぽつり。隣から溢れてきたのは、正しく海十の悩みそのものだった。
思わず顔を上げ、ぱちくりと瞬く瞳でフィンを見つめると、困ったな、というように苦笑して肩をすくめる彼と目が合って。
(……同じ事、考えてたんだな)
ゆるり、頬が緩む。
口元まで綻んで、「うん、難しい」と零れた同意を追いかけるように、するりと海十の唇から言葉が溢れてくる。
「一つ目。俺が何も言わなくても、わかってくれる所」
以心伝心、なんていうと御大層だろうか。だけれどそれくらい、分かって貰えているのだ。
案外似た者同士なのかもしれない、とも思う。今だって、ほら。同じ事を考えていたのだし。
ふふ、と小さな笑みが漏れて、軽くなった口がまたするりと言葉を紡ぐ。
「二つ目。優しい手」
繋いで、撫でて、抱きしめて、いつだって、フィンの手は優しく触れてくれる。
かと言って壊れ物を扱うようでもなくて、力強く引き寄せてもくれる、頼もしい手。
「三つ目。美味しい料理」
これはもう文句の付け所がない。
自分のために、二人で過ごす有意義な時間のために作ってくれる料理は、幸せな味のするものだ。
三つ指折り数えてみたが、言い切ったところで、うーん、と唸る声。
「あー駄目だ。やっぱり三つじゃ足りない」
笑う顔も、真剣な顔も、今までくれた言葉の一つ一つも、どれも特別で大切で愛おしい。
なんともしまらない、と笑ってフィンを見やれば、今度は真っ赤になった彼と目が合った。
「……フィン?」
「ん、うん、うん……あのね、ちょっと、待って」
ゆるゆると口元を抑えて、一度顔を背けたフィンは、耳まで赤くなっている。
反則だ、と小さく呟くのが聞こえた気がした。
(完全に不意打ち……)
あれだけ悩んでいたはずなのに、改まるでもなく世間話の延長のようなノリで告げられて。
けれど、語るほどにきらきらと瞳が幸せの色に光るのだから、そこに伴う想いが容易に気取れてしまう。
要するに惚気けられたのだ。それも唐突に。心構えのない隙に。
はー、と。大きく息を吐いて、顔の火照りを収めようと試みたフィンは、ちらりと海十を見やる。
そんなに照れるとは、と言いたげな顔をしている海十もまた、フィンの盛大な照れように当てられてか、微かに頬を染めているようで。
その少し前に、三つじゃ足りないと笑った顔を思い起こして、ふ、と表情を緩めた。
(足りないよね。俺も、同じ)
だけど、今なら言える。胸の内にふわりと浮き上がった言葉を、丁寧に拾い上げて。
真っ直ぐ、真っ直ぐ、海十を見つめた。
「一つ目。俺を幸せにしてくれる所」
海十が与えてくれるものは、全てがたまらなく愛おしい。
「二つ目。俺と一緒に幸せになってくれる所」
貰った幸せと同じくらい、幸福を差し伸べられていられるのだと実感させてくれる。
「三つ目。俺をときめかせる所」
今も、こんなにも。
「俺、今……顔真っ赤でしょ? 海十のせいで、心臓なんかもうバクバクで……ほら」
そっと己の胸に触れさせて、その鼓動を確かめさせる。
言葉通り、早鐘のように高鳴っている心臓を、手のひらに感じるけれど。でもそれは、海十だって同じだった。
すっかり真っ赤になってしまった顔を隠すでもなく、お互い様だとフィンの手を同様に自分の胸元へ導く。
二人揃って同じようにドキドキしているのは明らかなのに、いやいや、とフィンは首を振る。
「海十より俺の方が絶対早いし、顔も赤いよ」
自分の方がときめかされているのだと、妙な対抗心を発揮させるフィンに、吹き出しそうになるのを堪え、海十は不意に、フィンの手を離して。
「なら、こうして確認すればいい」
ぱっ、と抱きついた。
重なり合った胸が、同じリズムの鼓動を刻んでいるのが伝わって。
伝わるのを、噛み締めて。フィンはまた一つ、幸せを与えられたのを感じる。
「……本当だ、一緒だね」
『君と同じ』は魔法の言葉。
二人の間にだけ掛けられる、とびきりな、幸せの魔法を。
●君へ捧げる愛
梅の花に色づいた枝が、かすかに揺れる。
さぁさ存分に語らってと、促すように。
「一緒に歩いてくれること」
一つ目、と指を立てて、信城いつきはハキハキと告げる。
「身長違うのに、レーゲン俺と歩幅合わせてくれるから」
「歩幅は大した事じゃないよ。一緒に歩きたいだけで」
「だめ、受け止めないと。俺はすごく嬉しいんだから」
一緒に歩けている。それは、いつきにとっては大きなことである。
いつでも、顔を上げればレーゲンと視線を合わせることが出来るのだから。
なかなか背が伸びないことを気にしていないわけではないが、レーゲンはそんなことさえも気にならなくしてくれる。
傍らにずっと居てくれる。それが、いつきにとってはたまらなく幸福なのだ。
「辛抱強い所」
そう、レーゲンはずっと、居てくれた。
いつきの記憶が失くなった時も、目が覚めた時に一番最初に見たのは彼だった。
それからずっと支えてくれて、記憶が戻らないこと、戻ろうとしていること、どちらにも不安を覚えていたいつきを、見守ってくれた。
思い出さないほうがいいのではと悩ませた時期もあったのに、戻った後も、こうやって傍で笑ってくれている。
「ありがとう」
はにかむような笑顔に、うん、と一言、レーゲンは頷いた。
愛おしむような瞳と、柔らかな口元。レーゲンの優しさが形になったような笑顔。
それを見上げて、いつきは、あぁ、やっぱり。と胸中だけで呟く。
「俺を見て、笑ってくれた時の顔」
やっぱり、この顔が大好きだ。
ただ、今日の笑顔は、いつも以上に優しく見える気がする。
じっと見つめて気がついた事柄は、いつきの頬を染めただけ。恥ずかしくて、言葉にまではできなかった。
そんないつきの胸中は、レーゲンにはお見通しである。
あぁ、本当に好きだと思ってくれているのだな、と。ゆっくりと心で噛み締めて、レーゲンは改まったようにいつきに向き直った。
「私の一つ目はね、ありがとうと『思って』くれる事」
告げられた言葉に、いつきは少しだけ不思議そうな顔をしている。
そう、いつきにとってはごく自然な言葉であり感情であるのが、感謝の言葉なのだ。
「ドアを開けたりとかほんの少しの事も、挨拶じゃなくて本当に「してくれてありがとう!」って嬉しそうな表情するのが好きだよ」
それを改めて言われると、何だかくすぐったい。
特別なことではないと思っていたけれど、レーゲンに快く思って貰えていたのは、純粋に嬉しいことである。
「二つ目は、頑張り屋なところ」
自分たちはウィンクルムであるから、幾つもの理不尽を目の当たりにしてきた。
そんな中でも、いつきはできない事があっても、泣きそうになっても諦めないで前を向こうとする。
一生懸命、解決する手段を探してきた。
「そんないつきだから一緒に歩きたいって思うんだ」
いつきが迎えてきた幾つもの困難。二人で乗り越えてきた様々を思い起こし、しみじみと語るレーゲン。
これからも、いつきと一緒に、挑んでいけると……いきたいと、思う。
勿論、平穏無事であれば、きっとそれに越したことはないのだろうけど。きっと、彼は見過ごすことを良しとしないだろうから。
「最後は……いつも『好き』って伝えてくれるところ」
ゆっくりと、大切なものを扱うような丁寧さで紡ぎ出された言葉に、いつきの目が丸くなる。
「『好き』って……違うよっ、こっちが照れるくらい言うのはレーゲンの方だよ」
自分なんてまだまだ上手く伝えられていない。感謝も幸福も溢れそうなほどだと言うのに、まだちっとも返せていない。
慌てたように主張するいつきに、レーゲンは、おや、と少しだけ意地の悪い顔をしてみせる。
「否定はしちゃいけないんじゃなかったっけ?」
「うっ」
それを言われてしまうと、黙らざるをえない。
でも、とか、だって、と言った言葉をもごもごと口元で繰り返しているいつきを、くすくす、微笑ましげに見つめる。
「違わないよ。いつだって私に真っ直ぐに言葉や行動で伝えてくれてるのに」
これ以上だなんて、一体どうなってしまうんだろうね。そんな一言は冗談めかして呟かれただけのものだけれど。
ぐぐ、と言葉に詰まっていたいつきは、意を決したように、レーゲンの耳元に唇を寄せる。
否定をしてはいけないのなら、追いつくぐらい、釣り合うくらい、いっぱい伝えなければ。
「大好き、大好き、いっぱい大好き」
一度、二度、三度。まだまだ足りない。
好き。好き。大好き。
今あるありったけを込めた囁きは、内緒話をするような小さな声だったけれど、レーゲンの心には力強く響く。
これでどうだっ! と、真っ赤になりながらも言い切ったいつきは、少し離れた彼の顔が、真っ赤になっているのに気がついた。
「ほんとうに、もう……」
囁かれた耳に、手を触れて。一度、ほんの少しの間だけ、注がれた言葉を閉じ込めるように、手のひらで蓋をした。
「だからそういうところが好きなんだって」
染み込む。まだ冷たさの残る風を物ともしないほどに、熱く、熱く――。
●君と重ねる毎日
「俺が、セイリューのどんな所が好きかって言うとね」
ラキア・ジェイドバインは、そうやって切り出した。
梅の花と、それが彩る景観を楽しみ、傍らで温かいお茶にほっこりしているセイリュー・グラシアにくすりと優しい笑みを零し、程よく散策した後で。
二人がけのベンチの周りには、あまり人がいる様子はない。しっかりと聞く姿勢を取ったセイリューに、真っ直ぐ、告げていく。
「どんな時も凄く前向きな所」
まず、一つ目。セイリューの前向きさは、考え方だけに留まらない。それをしっかりと行動に移せる所が、凄いと思う。
「二つ目は、言動に裏表が無いところ」
言動一致な部分は言わずもがな、考えていることが顔に出るのも、ラキアにとっては好ましい部分である。
隠し事が出来ないタイプと言うと微笑ましくも聞こえるだろうか。だが、それは即ち考えていることが真実であると判断できるということでもある。
それが、とても安心できるのだと、ラキアは微笑んだ。
「で、君の考えている事だいたい解ってるのに、予想外? 予想以上? 思っていなかったような行動をするのも好き」
三つ目、と告げた言葉に、ラキアはセイリューとの様々な思い出を乗せる。
セイリューはいつだって思い切りが良い。ラキアなら思わず尻込みして行動に移せない事だって、セイリューはあっさり行動してみせる。
時と場合によっては、それを無鉄砲と人は言うかもしれない。
しかし、セイリューが踏み出してくれるから、ラキアの世界は大きく広がったのだ。
「一緒に居て、自分だけなら体験できない世界を君が見せてくれる」
振り回されているとも言うかもしれない。それは、否定しない。
しかし、セイリューは自分勝手に突っ込むのではなく、いつだってラキアを慮ってくれている。
だから、楽しいと。楽しかったと。そう、言えるのだ。
改めて告げられる言葉に、普段はあっけらかんとしているセイリューも照れたように頬を掻く。
「ラキアにそう言われると何だか嬉しいぜ」
ラキアの好きな植物鑑賞のついで、くらいになるかと思っていたが、思っていた以上に、面と向かって好意を述べられるのは照れくさいものだと知った。
だが、同時に嬉しくもあった。ラキアが、自分と一緒にいる時間を楽しいと思ってくれていると知れて。
「俺が楽しいって思う事をラキアと一緒に体験したいし」
動機なんて、たったそれだけなのだ。
楽しいことは、二人で楽しめば倍楽しい。そんな、単純な理屈。
「楽しい時を一緒に過ごしたいじゃん」
「うん、そう思って、いつも楽しませてくれて、ありがとう」
朗らかに笑って、ラキアは、「セイリューは?」と促す。
それを受けて、セイリューは暫し思案する。ラキアの好きなところ、とは。
「まず作ってくれるご飯が美味しい! ココ大事だぞ」
さして悩む間を挟まずに紡ぎ出されたのは、力一杯の主張。
テスト前の黒板で下線に二重丸まで付きそうな勢いで、セイリューは語る。
「栄養の事色々考えてくれて、なおかつ超ウマくて、一緒にご飯食べてると幸せをかみしめるぜ」
ご飯が美味しいのは良いことだ。美味しくて体にいいご飯を作ってもらえてしかも一緒に食べられるという至福。
思い起こすだけで少しお腹が空いたようなきがするのは、ご愛嬌ということで。
気を取り直して、二つ目。
「色々な事をちゃんと理屈だてて考えてくれるからすげー助かる」
セイリューは、自慢じゃないが考えるのは苦手だという自覚がある。
だが、セイリューが無理に頭を捻って理解しようとしなくても、ラキアが考えてくれている。そうして、セイリューにも分かるように告げて、注意してくれる。
真っ直ぐ突っ込むことしか出来ないセイリューの分まで、皆の身の安全の事を色々と考えてくれるラキアは、任務の時も頼もしい。
安心して背を任せられると言うのは、大切なことである。
「それから、三つ目……えーっと、ウマく言葉に出来ないけど……」
伝えたい感情は認識しているのに、言葉に変換しようとすると上手くいかない。
だが、ああでもないこうでもないと考えたのはほんの少し。セイリューは変に飾らない、真っ直ぐな言葉を選んだ。
「一緒に居ると凄く気が楽。ほっとする。楽しい!」
ぱっ、と。心底楽しいのだというような笑顔が咲く。
「何だかオレの事色々と理解してもらってるって実感する。大好き」
真っ直ぐで、偽りのない言葉と笑顔を、ラキアはしみじみと噛みしめるように受け止める。
「セイリューにそうやって褒めて貰えると嬉しいな」
やっぱりこちらも照れくささは滲んでいるようで、頬が薄らと赤い。
だけどそれを隠すこともせず、素直に、喜びを湛えて、セイリューを見つめた。
「一緒に居てほっとするし気が楽っていうのは俺も同じだよ」
君のお陰で広がって、君がいたから彩られて。
そんな世界を、君と同じ目線で見られること。
改めて思う、幸せなことだと。
そして改めて、思う。
君のことが、大好きだと。
依頼結果:大成功
MVP:
エピソード情報 |
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マスター | 錘里 |
エピソードの種類 | ハピネスエピソード |
男性用or女性用 | 男性のみ |
エピソードジャンル | ロマンス |
エピソードタイプ | ショート |
エピソードモード | ノーマル |
シンパシー | 使用不可 |
難易度 | とても簡単 |
参加費 | 1,000ハートコイン |
参加人数 | 4 / 2 ~ 4 |
報酬 | なし |
リリース日 | 03月07日 |
出発日 | 03月14日 00:00 |
予定納品日 | 03月24日 |