プロローグ
秋も終わり、やがて冬の訪れを迎えようという季節。
場所によってはもう雪を目にすることもあるだろう。
世界が白く染まるのは好ましい。だけど、だけれど……。
「華々しさも、やっぱりいつだって愛おしいものです」
語るのは天空塔の住人である、とある女性。
彼女は花をこよなく愛し、いつも花からインスピレーションを受け取るという、デザイナーだった。
そんな彼女にとって、冬という季節はやはり物寂しさを覚えるものなのだ。
「冬に咲く花も勿論好きですよ。クリスマスカラーとかも惹かれるものがありますが……いつでも色んな色に囲まれていたいんです」
天空塔には温室がある。年中色とりどりに咲き誇る花が、いつでもそこにある。
眺めるだけならそれで十分。だけれど、己はデザイナーであるゆえに。
「ドレスを、作ったんです」
ドレス。A.R.O.A.の受付が復唱した。
ウィンクルム、もとい精霊は男性しかいないのは周知のことで。
そのパートナーである神人も、男性しか確認されていないのが現状で。
知らない、はずはないのだが。
「えーと、その、ドレスを、どのように……」
「着ていただきたいんです。ウィンクルムさんに」
でーすーよーねー。
「念のためお伺いしますが、女装、ということですよね?」
「結果的にそうなるかもしれませんが……」
えぇと、と。女性はゆっくりと説明を始める。
作ったのは花をモチーフにしたドレス。大雑把に挙げると薔薇、鈴蘭、百合、チューリップ、ダリア。
「花言葉とかは今回考えないで、花の形状だけを取り入れる感じで作ったので……まぁ、ひらひらはしてます」
スカートという区分に相当するデザインであることは間違いない。
「ただ、えーと、ボディラインを出すデザインは少なく、むしろ長身の方に着ていただきたいものになっているものなので、あまりその……女性が着る、という想定はしていませんでした」
コンセプトは、冬でも華やか! なのである。
ゆえに、彼女自身は己のデザインしたドレスを男性に着せることを『女装』とは思っていない。
むしろすらっとした体躯のウィンクルムが着たらさぞ華やかだろうなーと期待に満ちた目をしている。
「感じ方は着る方次第かとは思いますが……お話だけでも通していただけないでしょうか。あ、着ていただくだけは申し訳ないので、お茶とケーキをご用意させていただいております」
悪意はない。他意もない。
おやつが出る。
断る理由は、まぁ、なかった。
「そういえば、背の低い人NGとかは……」
「あ、大丈夫です。ちゃんと背丈に合わせてサイズ調整しますので!」
愛らしいも美しいも、どちらも平等に良いものである。
そう、彼女は力強く語るのであった。
解説
目的:デザイナーさんが作った花モチーフドレスを着てきゃっきゃしよう
きゃっきゃしなくても大丈夫です。おすましフェイスも美しいです
ものすごくはしゃいでも大丈夫です。ひらひら翻る裾は良いものです
蝶々をモチーフにしたカップと、同じく蝶々をかたどったチョコが飾られているケーキが出ます
おやつにつられてきました!でも問題ありません
衣装:花モチーフのドレス
薔薇、鈴蘭、百合、チューリップ、ダリアの5種類から選べます
詳細な色や形状は決めていませんので、プランで指定して頂いても構いません
一口に薔薇と言っても色んな色があるよな。沢山有るけどどれにしようか。
あ、この色が気に入った!この程度のひらひらならそんな気にもならないな!
といった感じで、色々あるサンプルの中から選ぶイメージです
勿論錘里に全投げして頂いても構いません
メイク等はしなくても大丈夫です
室内なので寒くはありません
写真ぐらいは撮られてやって下さい
費用:天空塔までの移動費、入場料で300jr頂戴いたします
ゲームマスターより
好きにおし!!
ご無沙汰しております、錘里です
女装に定評のある(かもしれない)錘里です
そのままイラスト発注できるぜ!というレベルの衣装デザインをぶっこんで頂いても構いませんよ
錘里にお任せする場合はプラン冒頭に☆印とかあると把握できます
基本的に常識の範囲内なら何をしても良い内容になっておりますので、肩の力を抜いてご参加頂ければ幸いです
天空塔に関しては、錘里エピソード『天空塔』シリーズをご参照下さい。知らなくても問題はありません
リザルトノベル
◆アクション・プラン
信城いつき(レーゲン)
※ノーブルギャザリング着用 レーゲンのこういう恰好中々見られないからワクワク どれがレーゲンに似合うかな 折角だからドレス着る前にメイクしていい? 大丈夫、ミカに教えてもらったから。アクセサリーも借りたよ …ミカちょっと笑ってた。写真とったら見せてって 髪も少し結うよ。これはご近所の女性陣に…こっちも写真見せてって さあドレス着てみて。 なんだか不思議、レーゲンだけどレーゲンじゃないみたい うん惚れ直した……っ!今ぽろっと口にでたの忘れて! はいはいっ、写真とるよ! (最初は一緒に撮るつもりだったけど、身長差が、ね) …いいの?。 じゃあ、お手をどうぞ 立ったままレーゲンへ優しく手を伸ばす |
セイリュー・グラシア(ラキア・ジェイドバイン)
☆ おやつに釣られて来た! ドレスの事も聞いた。でもそれはラキアの担当だな、と思ってた。 ドレスを選んでもらうラキアの姿を微笑ましく見ていたんたな。 ラキアがチラっとオレに視線を向けてさ。 「彼にも素敵なドレスをお願いしますね」 と華のような笑顔をデザイナーさんへ! マジ、紅茶拭きそうになった。 いやいや。 ラキアは似合うから良いじゃん。 オレの場合想像出来ないじゃん。 ぐぐう正論。 チャレンジと言われるとやらねば。という気に。 よし、試してみるぜ。さあ来い。 意外と足元も動きやすいじゃん。 と選んでもらった服着てウロウロ。 足に布が纏わりついて動きにくいかと思ったら、そうでもないじゃん。 ラキアと記念撮影だな! 面白い体験だ。 |
柳 大樹(クラウディオ)
☆ 今まで自分で決めてたし、「今回はデザイナーさんに任せてみようかな」 「クロちゃんもそれでいいよね?」 「お? おお、似合ってる」 今まで面白く女装させてたもんなあ。(自覚あり スラッとして見えて、見栄えいい。「やっぱ精霊はイケメンだわ」 あー、うん。 女装なら開き直れるけど。これはまたちょっと違うし。 なんつーか。(照れるか、流すか判断つかず黙る 皆も似合うわー。 「おう、新鮮な気持ちってやつ?」(ノリで裾が広がるように回る どっか出すんじゃないなら、写真くらい全然おっけー。 お待ちかねのケーキ。「半分はこれ目当てだよ」 普通は蝶々が花から蜜を吸うけど。(蝶々を見て 今回に限り、逆ってことで。 うん、旨い。(薄っすら笑う |
暁 千尋(ジルヴェール・シフォン)
☆ 百合 そうですね、先生ならどのドレスもお似合いだと思いますが… やはり百合かダリアあたりが良いんじゃないでしょうか 華やかで存在感のあるイメージですから え…ちょっと待ってください、僕は着ませんよ?! どうしてって……(先生が着るだけで、まさか自分も巻き込まれると思ってなかった うっ……視線が痛い……(結局根負け アリガトウゴザイマス 先生もお綺麗ですよ はぁ…分かったから、少し落ち着いてください 今の先生は蝶じゃなくて花なんですから 女子会……先生、楽しいですか? (先生が楽しんでるなら、なんかもう、どうでもいいっていうか どうにでもなれっていうか… それは止めてください 冗談に聞こえないんですけど… 写真はほぼ無表情 |
●純情な君、絢爛な貴方
普段着が概ね女装であるジルヴェール・シフォンは、試作室に並ぶドレスの数々に、感嘆の声を漏らす。
「まぁ、素敵なドレスばかりねぇ。ねぇチヒロちゃん、どれがいいと思う?」
「そうですね、先生ならどのドレスもお似合いだと思いますが……」
問いを受け、暁 千尋はドレスの一つ一つを眺める。
大きく分けて五つの花がモチーフとなっているドレス。そのうちの二つが、目についた。
「やはり百合かダリアあたりが良いんじゃないでしょうか。華やかで存在感のあるイメージですから」
「ふふ、それじゃあ色鮮やかなダリアにしようかしら」
ダリアと区分されたドレスの列を眺め始めるジルヴェールの姿に、改めて、似合うだろうとドレスを重ねて想像仕掛けた千尋だが、その思考は不意の声に掻き消される。
「百合はチヒロちゃんの方が似合いそうだもの」
ね。と。楽しげに振り返ったジルヴェールに、真顔になった。
「え……ちょっと待ってください、僕は着ませんよ?!」
「あら、どうして?」
「どうしてって……」
だって、千尋としてはジルヴェールが着たがるだろうとそれだけで、自分が着ることになる可能性なんて欠片も考えていなかったのだ。
ジルヴェールとしては、そんな千尋の思考はお見通しだったのかもしれない。
その上で、はじめから二人で着ることを、想定していたのだろう。
「大丈夫よ、メイクだってちゃんとしてあげるし」
デザイナーの彼女も期待しているだろう。と。女性が着ることを想定していないと言い切った事を思い起こしながら、ジルヴェールは満面の笑みで千尋を見つめる。
「ねぇ?」
そんな顔で見られては。ついでに、デザイナーの期待の眼差しも注がれては。
千尋には、断ることができなかった。
くるりと巻いた花弁を思わせる、大小様々なフリルの重なり。
全円のスカートをまぁるく彩る布の波は、ジルヴェールの髪や瞳と合わせた、上品に落ち着いた色合いのピンク色。
ボリュームのあるプリンセスラインとは対象的なトップは、すらりとしたラインを出しつつも、胸元に重ねられたフリルが華やかさを演出する。
レースロングスリーブに覆われた腕。その先から覗く指を口元に添えたジルヴェールから溢れたのは、やはり、感嘆だった。
「ふふ、やっぱりワタシの目に狂いはなかったわねぇ。とーってもよく似合ってるわ!」
「アリガトウゴザイマス」
視線の先には千尋の姿。
ワンショルダーの肩口に大きく咲かせた布の花だけは、混じりけのない白で。全体的な色合いは、純白の中にほんの少しの黄色を溶かし込んだ生成り色。
ダリアと比べれば布地が少なく見えるのは、花弁を模るように均一に入れられたスリットゆえ。
動けば足元がちらりと覗くが、背面に回れば同じ形状の布と黄色のリボンが重なり、しとりと瑞々しい百合の花が浮かび上がる。
アメリカンスリーブの首元にもひらひらと揺れる生成りを巻かれ、少し窮屈そうに指を添えながら、千尋は一つ息を吐いて気持ちを改めた。
「先生もお綺麗ですよ」
素直な感想を嬉しそうに受け取ったジルヴェールは、己の纏うドレスの裾を軽く持ち上げて、ひらりひらりと翻させる。
「やっぱりドレスって良いわねぇ。普段女装してるけど、こういうのって中々着る機会ないもの」
「はぁ…分かったから、少し落ち着いてください。今の先生は蝶じゃなくて花なんですから」
ふわふわとしたダリアを弾ませながら駆け出してしまいそうなジルヴェールの様子に、呆れるようなセリフを吐きながらも、その表情は微笑ましげで。
解ってるわよと微笑んで千尋の手を引く彼の促しのまま、向けられたカメラへ視線を向けて、用意されていたお茶の席についた。
ボリュームのある裾で座るのに悪戦苦闘しながらも、優雅なティータイムへ。
「ふふ、こうしてお茶してるのってなんだか女子会みたいね」
「女子会……先生、楽しいですか?」
「ええ、とっても楽しいわ」
にこにことしたジルヴェールの表情に偽りは伺えなくて。
彼が楽しいのなら、ドレスだって、写真だって、そこに伴う羞恥の感情さえ、些細に思えた。
「さっき撮った写真、記念に一枚いただけないかしら」
「記念?」
「そう、もちろんお店に飾……ふふ、冗談よ」
それは止めてくださいと遮ってきた千尋に、くすくすと笑ったジルヴェールは、冗談に聞こえないと怪訝なため息をついた千尋を微笑ましげに見つめる。
我儘に付き合ってくれた可愛い神人への、感謝も含めた眼差しで。
●君と君とを彩る花弁
居並ぶドレス郡を一通り眺めてから、ふむ、と柳 大樹は一つ頷いた。
「今回はデザイナーさんに任せてみようかな」
こういうの今まで自分で決めてきたし、たまには。と。
「クロちゃんもそれでいいよね?」
「問題無い」
確かめるように振り返ったクラウディオが、躊躇なく頷くのを見て、じゃあお願いしますとデザイナーへ委ねる。
彼女は二人をじっと観察してから、目一杯悩んで、やがて二着のドレスをそれぞれに差し出してきた。
受け取った布の塊を着て、クラウディオは試着室の鏡を見つめる。
彼が身に纏うのは、大胆にも黒のマーメイドライン。
ただし『女性が着ることを想定していない』と豪語したデザイナーの言葉通り、人魚のラインを形作るのは女性的な体型ではなく、部分部分に重ねられた布。
体に心地よくフィットする布地に、くるり。肩から裾まで巻き付くようにあしらわれた一列のラインストーンは、茨のように鋭利な形状を煌めかせ。
胸元、腰の下、裾の広がる部分それぞれに、幾重にも重ねられた上品なベルベットの布。
黒き御柱に根を這わせる黒薔薇に、青の双眸が薄らと細められた。
(こういったものが、大樹の気を紛らわせるのには良いのだろうか)
気にかけるのはパートナーのことばかり。己のその姿には特に感嘆を覚えるでもなく試着室を抜けたクラウディオの瞳が捉えたのは、既に着終えた大樹の姿。
「お? おお、似合ってる」
ほんの一瞬意外そうに開かれた隻眼が、ぱちりと瞬いた後には上から下までじぃと観察するように見つめてくる。
「やっぱ精霊はイケメンだわ」
今までも面白半分で女装させてきたが、存外と酷いものではなかった。
それが、今日はデザイナーがその体躯に見合うようにと誂えた物を纏っているのだ。
元が美貌である精霊が、一層見栄えよく見えて、大樹は納得したように頷く。
そんな大樹に咲くのは青い薔薇。
前面の大半を占める純白に重ねられ、バッスルラインを形作るのは花の形にひだ寄せされたグラデーションの青。
腰の位置にはパステルブルーの薔薇が咲き、朝露を思わせる大粒の真珠がきらきらと光る。
下半身のラインをふんわりと広げるように、大小様々な薔薇を形作った布は、長いトレーンの先で、黒に……いや、濃紺に落ち着く。
ずるりと引きずる裾を軽く持ち上げて歩み寄ってくる大樹に、クラウディオは淡々と告げる。
「任務を行う上で行動の妨げになる姿だ。だが、大樹にそう言われる事に悪い気はしない」
ふぅん、と気のない返事。
だけれど。
「大樹もよく似合う」
ついで紡がれた言葉に、大樹は思わず顔を上げてクラウディオを見つめた。
驚いたようなその顔に、何か表現を間違っただろうかと考えたが、大樹を見た瞬間心が跳ねたのだ。ならば表現は間違っていないだろう。
だが、それを受けた大樹はといえば、あー、うん。と曖昧な言葉だけを零して、ふいと視線を背けてだんまり。
普段にはない沈黙は、見たことのない大樹で。軽く瞳を瞬かせたクラウディオは、一先ずその姿を記憶の内に留めた。
(女装なら開き直れるけど。これはまたちょっと違うし)
照れればいいの。流せばいいの。
わかんない。
零れたため息は無意識のもの。気を取り直して周りを見やれば、同じ依頼を受けたウィンクルムが華やかな装いで戯れているのが目に留まる。
「皆も似合うわー」
気安い調子で言葉を交わして、くるりと裾を翻して見せれば、会話にも楽しげな色が灯る。
(これが華やかというものだろうか)
目に鮮やかで、喜色が見えて。だけれどそんな雰囲気以上に、大樹が翻させた裾が、クラウディオの思考を占める。
揺れる感覚。その乱れに『恋心』という名前が付くことを、先日知った。
乱されることを認識しているクラウディオと対象的に、すっかりいつもの調子になった大樹はデザイナーが向けてくるカメラへ快い了承を返し、クラウディオの隣に並ぶ。
黒と青の薔薇が一枚に収められれば、デザイナーも満足げで。
任務完了、とばかりに大樹は用意されたテーブル席へと意識を移した。
「クロちゃんも行こ」
手を引くでもなく促す大樹に応じて席につけば、「半分はこれ目当てだよ」と大樹は声を弾ませる。
「大樹」
「ほら、食べよ。普通は蝶々が花から蜜を吸うけど。今回に限り、逆ってことで」
半分どころではなく決め手だったろうと、話を聞いた時の様子を思い起こして訴えかけたが、早々にチョコレートの蝶々にフォークを添えた大樹に、それ以上は黙った。
ただ、目が離せなかった。
「うん、旨い」
蝶々を食んで、薄っすらと笑う大樹の表情から。
乱れる。乱される。
作り物の蝶々が、美しく華やかな大樹の元へ寄り添うようなその光景が。
なんだか少し、不愉快に思えた。
●あか、しろ、きいろ
おやつに釣られてきました!
はっきりとした宣言に、デザイナーは用意できてますとくすくす笑い、セイリュー・グラシアを促す。
「ドレス担当、行ってらっしゃい!」
精霊のラキア・ジェイドバインを振り返り、ぐっと親指を立てたセイリューに、ラキアも肩を竦めて笑う。
そうして、デザイナーの説明を聞きながらドレスをゆっくりと眺め始めた。
テーマが華やかということもあり、どれも色鮮やかで、布地が多い。
「茎や葉を表す緑色も入ってる方がいいな。花弁な所はグラデーションでもいいし……」
要望を告げれば、あれは、これは、と色々と勧められる。
一つ一つを真剣に見つめているラキアの姿を、セイリューは美味しいケーキに舌鼓を打ちながら微笑ましく眺めていた。
やがてある程度の数を絞ったらしい。あとは自分で決めますと言ったラキアが、不意にセイリューを振り返る。
「それから」
そうして、どのドレスにも劣らない、華のような笑顔を咲かせて。
「彼にも素敵なドレスをお願いしますね」
「!?」
危うく紅茶を吹き出すところだった。耐えたオレ偉い。
なんて言っている場合ではなかった。そんな展開になるとは思ってもいなかったと言うのに。
「ドレス姿のセイリューを1回見てみたいなって」
「いやいや。ラキアは似合うから良いじゃん。オレの場合想像出来ないじゃん」
「そんなことないよ。大体、古の衣服は大体こういうスタイルでしょ。大昔の王様だって裾の長い衣服+マントでドレスっぽい」
ラキアに薀蓄を語らせたらもうそれは負けのフラグである。
そう言われれば、と口元でもごもごしているセイリューに、止めのひと押し。
「君も時にはこういうチャレンジが必要だよ」
ラキアはよく知っている。セイリューがこの単語に弱いということを。
案の定、途端にやる気を見せたセイリューが、デザイナーに向き直る。
「よし、試してみるぜ。さあ来い」
やり取りを微笑ましげに眺めていた彼女は、喜んで、とドレスを選び始めるのであった。
ひょい、ひょい。カーペットの敷かれた上を、素足で跳ねる。
ふわふわとスカートが揺れるが、足に纏わりつく感覚はなくて。おぉ、とセイリューは驚いたような声を上げた。
「意外と足元も動きやすいじゃん」
そんな彼の服装は、白。腰から下がふんわりと丸いバルーンラインで、裾には少し細かいフリル。
足首から下だけが覗くアンクル丈の内側には、スカートをしっかりと支えるパニエ。
なるほどこれで足元が軽いのかと少し捲って確かめていると、試着室のカーテンが開く音。
「おー! すごい華やかじゃん」
現れたラキアが纏うのは、真っ赤なドレス。しかし全面赤というわけでもなく、大きな花弁が数枚重ねられたようなベルラインは、内側へ向かうほど色が薄くなる。
そしてスカートの一番上には柔らかく透けるレースの葉。淡い緑色が、赤色を上品な色合いに落ち着けているようだった。
「チューリップか」
「セイリューのは、鈴蘭、かな?」
広めの襟元にロングスリーブ。ふんわりと丸い形状のスカートまでは、どこかお揃いのようだけれど。
ラキアの方は、左側の腰から右肩の辺りまで、レースの葉があしらわれており。
セイリューの方は、肩が覗く程度の襟周りにぐるりと、少し濃い緑色のフリル。
どちらも花と葉の色が入っているのを見止め、ラキアは嬉しそうに見比べていた。
「ラキアのもスカートの中にこんなのはいてるのか?」
「俺のは布の重なりが多いからないみたい。その分ちょっと重たいね」
なるほど、と納得するセイリューを、じ、と見て。ラキアは「それにしても」嬉しそうに微笑んだ。
「似合ってるよ」
「ラキアほどじゃないけどな!」
からりと笑って、二人揃って記念撮影。
髪とかもちょっと整えた方がいいかなとヘアワックスで軽く撫で付けてみたりを試みながら、楽しく過ごす二人。
「うん。新たな君の魅力発見だね!」
「魅力かどうかはわからないけど、面白い体験だ」
おやつも堪能したし、と付け加えて。写真に収められたのは、二人分の満足げな笑顔。
●ハッピーエンドの物語
きちんと纏った黒衣は正装。一流の人々が集うサロンに着ていくような貴族のコート。
その袖を少しだけ捲って、信城いつきは真剣な目を向けていた。
「もう少しで終わるよ」
瞳を伏せて、目の周りにふわふわとした刷毛の感覚を受けながら、レーゲンは口元を緩める。
品のいい薄紅を乗せた唇、少しだけ赤を添えた頬、目元には、彼の髪と瞳に合わせた青色を少し。
己の精霊にメイクを施すいつきは、その手技を留守番中の二人目の精霊に教わったという。
(絶対大笑いしてたな……)
「ん、こんな感じ、かな……? 髪も少し結うよ。これはご近所の女性陣に……あ、ミカもご近所さんも、写真見せてって」
「ご近所さんまで知れ渡ったのか……」
軽く苦笑するレーゲンだが、それでもいつきが楽しそうなのだ。
レーゲンのこういう恰好中々見られないから、と、ワクワクとした表情を向けてくる神人が愛おしくて、何も言わずされるまま。
鏡さえ見せてもらえないから、一体どんな状態なのやらと思案だけを走らせつつ。
ぐいと首の後が引かれるような感覚に、長い髪がアップに纏められたことだけ把握した。
そこまできたら後はドレスだ。既に着る衣装は決めている。
「じゃあ、少し待っててね」
行ってきますと試着室に消えたレーゲンを、いつきはそわそわしながら待っていた。
試着室の鏡で、レーゲンは一先ず己の様子を確認する。
(真面目にメイク教えてくれたんだな)
とんでもないことにはなっていなかったのでホッと一安心。纏められた髪を確認してみると、何箇所か編みこんであることがわかった。
目立たない色のピンで留めて、ビーズの垂れるチェーンを飾って、最後に二輪だけ挿し込まれた花に触れる。
青と白の、薔薇。
ちらと見た衣装は、純白の薔薇。
なんだかウエディングドレスのようだと、レーゲンはほんの少し、笑った。
待ちわびたその人の姿を目に留めたいつきは、何度も瞳を瞬かせて見つめていた。
すっと細い首筋から鎖骨、肩までが顕になったオフショルダー。厚手のレースがふわりと腕を包み、小さな真珠をいくつも揺らしている。
胸の位置には大きな布の薔薇。細かい刺繍をいくつも入れたコルセットを経て、幾重ものティアードが踊るスカートがゆったりとした歩調に合わせて揺れる。
どう、かな。そんなレーゲンの声が遅れて聞こえたような気がする。
ポケッとした顔で見つめてしまっていたことに気がついたいつきは、はっとしたように頷いた。
「なんだか不思議、レーゲンだけどレーゲンじゃないみたい」
「変では、ないかな。こんな感じだけど、気に入ってくれた?」
「うん惚れ直した……」
ぽろり、口からこぼれ出た素直な言葉。
慌てて口を抑えるが、もう遅い。忘れて! と赤面するいつきだが、レーゲンがそんな嬉しい台詞を忘れるはずがあろうか。
メイクとは違った色にほんのりと頬を染めてにこにことしているレーゲンをちらと見て、いつきは早々に話題を切り替えた。
「はいはいっ写真とるよ!」
三脚に備えられた立派なカメラを操作してもらって、パシャリ。
何枚か撮ったところで、レーゲンはいつきを見て不思議そうに首を傾げた。
「二人の写真もとらないの? せっかく素敵なコート着てきたのに」
問いに、あぁうん、と曖昧な返事を返すいつきは、少し難しい顔。
(だって、身長差が……)
レーゲンといつきの間にある頭一個分以上という壁。
並ぶとアンバランスな事になってしまいそうで、気が引ける。
そんないつきの心情を、レーゲンは把握できていた。少しの思案の後、ふわり、裾を広げて床に座り込んだ。
少し斜めに重ねられていた布が一斉に広がり、大きな白い薔薇を床に描く。その中で、レーゲンの青い髪と瞳が、髪に飾られた青薔薇のように、可憐に映えた。
「これならどう?」
見上げてくるレーゲンの姿に、意図を察して。
「……いいの?」
おずおずと尋ねれば、優しい肯定が返される。
「手を取ってくれるかい」
レースの手袋をした手を差し伸べて、たおやかに微笑むレーゲン。
その姿に、いつきも嬉しそうに微笑んで。
「じゃあ、お手をどうぞ」
白薔薇の園に佇む、青薔薇の姫を。
黒衣の王子様が優しく迎え入れる。
それはまるで御伽噺の一幕のような、二人の記念写真。
依頼結果:大成功
MVP:
エピソード情報 |
|
---|---|
マスター | 錘里 |
エピソードの種類 | ハピネスエピソード |
男性用or女性用 | 男性のみ |
エピソードジャンル | ハートフル |
エピソードタイプ | ショート |
エピソードモード | ノーマル |
シンパシー | 使用不可 |
難易度 | とても簡単 |
参加費 | 1,000ハートコイン |
参加人数 | 4 / 2 ~ 4 |
報酬 | なし |
リリース日 | 11月12日 |
出発日 | 11月18日 00:00 |
予定納品日 | 11月28日 |
参加者
- 信城いつき(レーゲン)
- セイリュー・グラシア(ラキア・ジェイドバイン)
- 柳 大樹(クラウディオ)
- 暁 千尋(ジルヴェール・シフォン)
会議室
-
2016/11/17-23:03
セイリュー・グラシアと精霊ラキアだ。
皆、ヨロシク。
ラキアのドレス姿、綺麗だろうなぁ。
おやつにも、当然、釣られたさ。
プランは出来てる。色々と楽しみだ! -
2016/11/16-01:03
柳大樹とクラウディオ参加ー。
よろしく。(右手をひらひら振る
おやつが出ると聞いて。
クラウディオ「大樹」
(無視)今更ドレスぐらいは何の問題もないし。
むしろ男向けのドレスのデザインがどんな感じになるのか逆に気になるっていうか。
とりあえず楽しみだね。 -
2016/11/15-22:21
-
2016/11/15-00:45