おいしく作ろう、オーガパフェ(瀬田一稀 マスター) 【難易度:簡単】

プロローグ

「パフェにオーガをトッピング……自由に作るオリジナル・オーガパフェ? お店は……明後日オープンなんですね」
 A.R.O.A.本部、入口カウンターの上にどんと置かれたちらしを見、A.R.O.A.職員は口を開いた。
「そうです! 憎きオーガをおいしく食べて、憂さを晴らそうってパフェなんです!」
 スウィーツ専門店『さくら』の店長、サクラが、ボールペンの先でたんたんとチラシをたたく。
 そこにはさっきA.R.O.A.職員が読み上げた文言がそのまま書かれているが、それだけだ。宣伝ならたいてい印刷されているイラストも写真もなく、文字だけ。シンプル イズ ザ ベストという言葉もあるが、広告としてはちょっと華やかさが足りない。
「オーガを食べる? それって、どういうことですか?」
 A.R.O.A.職員は首をかしげた。胸を張り、サクラは自慢げに説明する。
「当店のウリは、バイキング形式に置いてあるフルーツやアイスを使って、自分だけのパフェを作れるってことなんです。その最後に必ず入れるのが、オーガを模した食べ物なんですよ!」
 模したものとは、何ともあいまいな表現だ。
 当然、職員は尋ねる。
「オーガって、なにで作ってあるんですか?」
 ここでも、サクラは意気揚々と答えるのだと、職員は思っていた。しかし今回は違った。サクラはカウンターに両腕をつき、がっくりと頭を下げたのだ。
「クッキーなんですけど……完成していないんです」
「え? お店のオープンが明後日なのに?」
「わたしたちのメンバー、幸運にも誰もオーガを見たことがないんですよ。これがオーガだって思って作っても、単なるお化けみたくなっちゃうです。そこでA.R.O.A.所属のウィンクルムなら、オーガを見たことがあるだろうって思って、協力を仰ぎに来たんです」
「……たしかにうちのウィンクルムたちは、オーガと戦ってますからね、見たことはありますけど……」
「……やっぱ、不謹慎ですか?」
「それはまあ……」
 職員はもにょもにょと語尾を濁した。オーガやデミ・オーガは人類に敵対する生き物であり、彼らによって失われた命もある。それを「おいしく食べちゃおう」などと食べ物に模すことは、不謹慎と言えばそうだろう。
「でも、そのくらい前向きな気持ちも大切かもしれませんね……涙にくれるばかりが人生でもないし」
 ちらしを見つめ、職員はつぶやく。
「ウィンクルムたちはなにをすればいいんですか?」
「クッキー生地で、オーガの形を作ってほしいんです。それまでとそのあと焼くのはうちのスタッフがやりますから。エプロンや三角巾も用意しますし、完成したらあとは自由にパフェ作りを楽しんでもらって構いません。このままじゃ、うちのお店で売るのは、オーガパフェではなくてただのパフェになってしまいます。どうか、よろしくお願いします」

解説

スウィーツ専門店『さくら』では、オーガ型のクッキーがうまく作れず困っているようです。
ウィンクルムの皆さん、ぜひクッキー作りを手伝ってあげてください。

お手伝いした後は、バイキング形式においてあるフルーツやアイスを使って、オリジナルパフェを作ることができます。料金はかかりません。

パフェを作るために置いてあるものは

バニラアイス・チョコアイス・ストロベリーアイス
コーンフレーク、ウエハース
バナナ、グレープフルーツ、リンゴ、メロン、マンゴー、いちご
ほか、小さなチョコプレートにチョコペンで文字を書けます。

その後は店内のテーブル席で食べることができます。
ぜひ、仕切りで区切られたカップル席をご利用ください。
二人掛けのソファとミニテーブルが置いてあります。

ちなみにエプロンは、お店の決まりでひらひらのレースがついたものしかありません。
男性精霊もそれを着ることになりますので、ご了承ください。
嫌がる精霊には、神人から、着てくれるように上手にお願いしてくださいね。


ゲームマスターより

厳しい任務の間に、甘いものを食べてゆっくりするのはいかがですか?
二人でひとつのパフェを作れば、絆もぐっと深まるかも!
もちろん一人ひとつでも構いません。
精霊とのあまーい時間を楽しんでください。

リザルトノベル

◆アクション・プラン

ミサ・フルール(エミリオ・シュトルツ)

  クッキーは『ヤグアート』を参考にして作るよ
長いくちばしと鳥のような頭をしたオーガなの
全体的に可愛らしい感じに作ろうと思ってるんだ
オーガに怯える人達に『オーガは怖くないよ、私達A.R.O.Aがいるから大丈夫』って、希望を与えられるようなクッキーにしたいな
材料に余裕があったら『A.R.O.Aのエンブレム』の形をしたクッキーも作るよ

心配してくれて有り難う、私は大丈夫だよ
だってエミリオさんが傍にいてくれるから

私達 甘いもの大好きだからパフェは大きめのグラスで作るよ
グラスの数は一個
エミリオさんと仲良く分け合って食べたいなと思って
具材を全種類入れた豪華なパフェにしたいな♪

☆使用スキル
調理
菓子・スイーツ



テレーズ(山吹)
  クッキーもパフェも大好きです
山吹さん、頑張って作りましょうね

エプロンふりふりで可愛いです
山吹さんにもきっと似合…うかどうかは着てみないと分からないですよね
なので着用お願いします!どちらにせよこれしかないようなので!

まずはオーガの形のクッキー作りですね
確か目があって鼻があってー……あれ?
あ、山吹さん上手ですね!そうです、こんな顔してた気がします

山吹さんは甘いものあまり好きじゃないんですよね
だからパフェはフルーツをたくさん使って甘いものは控えめにしてみます
一緒に作るのなら食べるのも一緒に、ですよね!
一人で食べるのは寂しいですもの
好きなところをどうぞ
余った所は私が残さず食べますから安心して下さいね!



Elly Schwarz(Curt)
  【心情】
パフェがただで食べられるなんて……ゆ、夢のようです!
クルトさんには申し訳ないですけどね!


【行動】
エプロン似合ってますよ。(震笑)

オーガ形のクッキーは
最近オーガを見たので大丈夫な気がします。きっと。
歪になるかもしれませんが、頑張って作ります!

そしてパフェは全部乗せられないんでしょうか……!?((
え?食べられますよ。食べられなかったらこんな事言いません!
……それを食べると思うだけで幸せですね。

チョコペンでも何か書きたいです!って
クルトさん、何を書くつもりで!?

しかも何ですかこの体勢は!離して下さーい!
こ、こんなの恥ずかしいですよ!

……で、でもなんで
弱みを使ってでもそんな事するんでしょうか?



ロア・ディヒラー(クレドリック)
  オーガを食べて憂さ晴らしって気持ち、ポジティブでいいかもね。パフェの為に頑張ろう。

持ち物
ヘアゴム

その白衣却下。…意味不明な薬品染みてる雰囲気だし!フリフリでも色は白、白い衣、「白衣」よ!…一緒に着れば恥ずかしくないでしょ。
髪の毛結ぶからそこの椅子座って。
…気が向いたら結んであげる。

クッキーは、任務で見たデミ・ワイルドドッグ、デミ・大ラットを模して作るよ。私が鼠の方、犬の方お願い!鋭い目と角強調すればぽいかも!

クレドリックのクッキー妙に可愛い…!?

パフェ作る時コーンフレークは少し。コーンフレークで底上げパフェは邪道!バニラ、チョコアイスを沢山入れよう。飾り付けは任せた。

こっち見すぎ!食べなよ!



 オーガの形をしたおどろおどろしい看板は、パフェの店にはふさわしくないと、たぶん訪れた誰もが思うだろう。それは、ウィンクルムたちもけして例外ではなかった。この看板をまねて作れば、クッキーだって上手にできそうだ。いや、お化け屋敷さながらの絵柄ではさすがに無理か。
 あえて山野をイメージしたという、草木にぎやかな小道を通る。数メートルを歩いた後、一同は少々驚いた。見えた店の建物は、ナチュラルカラーでまとめられた、いかにも女性が好きそうなデザインだったのだ。
「ギャップがいいのよ、ギャップが!」
 目の前でさっきまで力説していた店長・サクラは、今は仲間とともに、クッキー生地を作っている。

「オーガを模したクッキーですか。抵抗がないとは言い切れませんが、キャラ弁などもありますし、案外人気が出るかもしれませんね」
 ふむ、と腕を組んで、山吹はそう分析した。その横で、テレーズは大興奮だ。
「クッキーもパフェも大好きです。山吹さん、頑張って作りましょうね」
 テレーズは山吹の手をぎゅっと握った。実際、甘いものはあまり得意ではない山吹だが、相棒のこの喜びようは、見ている側も嬉しくなる。
「私は作成過程を楽しむことにしますね」
 笑顔と同時、そんな言葉が口から漏れた。テレーズはなんでも美味しそうに食べるから、見ていてもきっと楽しいだろう。
 テレーズの興奮はおさまらない。今度は自分が着ている白いレースのついたエプロンを見下ろしている。
「エプロン、ふりふりで可愛いです。山吹さんにもきっと似合……うかどうかは着てみないとわからないですよね。なので着用お願いします! どちらにせよ、これしかないようなので!」
「これしかないのなら……似合わないとは思いますが、仕方ないですね」
 テレーズからエプロンを受け取った山吹は、両手を通し、背中で紐をきゅっと結んだ。自分では着た姿が見えないが、目の前でテレーズが口元を押さえていることからして……。
「ええ、わかっていましたが、やはりこういったものは女性が着てこそですね……」

「オーガを食べて憂さ晴らしって気持ち、ポジティブでいいかもね。パフェのために頑張ろう」
 と言っていたロア・ディヒラーだったが。
「その白衣却下」
 相棒クレドリックの服装に、ロアは冷たく言い放った。目の前では、言われた本人が大きくショックを受けた顔をしている。
「……意味不明な薬品染みてる雰囲気だし! フリフリでも色は白、白い衣、『白衣』よ!……一緒に着れば恥ずかしくないでしょ」
「白い衣、白衣……そうか。これも白衣だと思えば特に問題などないではないか! 着替える、貸したまえ!」
 叫び、クレドリックはロアの手からエプロンを奪い取る。紐に絡まりそうになりながら腕を通し、後ろできゅっと大きなちょうちょを作る。
「ふむ、悪くない」
「ほら、髪の毛結ぶからそこの椅子座って!」
 クレドリックは言われた通り、ロアが指した椅子に腰を下ろした。ロアの指がクレドリックの髪を、首の後ろで一つに結ぶ。
「これは邪魔にならなくていいな。実験の際にはまた結べ」
「このくらい、自分でやればいいじゃない」
 結んだ髪をピンとはじいてロアは言う。しかしクレドリックは、心底納得いかない顔で、くるりとロアを振り返った。
「は? 自分で? もちろん却下だ。私の髪に触っていいのはロアだけだからな」
 どうしてこんな場所で臆面もなくそんなことを言い切るのか。ロアは頭を抱えそうになったが、こんなクレドリックでも、自分のパートナーである。
「……気が向いたら、結んであげる」

「パフェがただで食べられるなんて……ゆ、夢のようです! クルトさんには申し訳ないですけどね!」
 Elly Schwarzは声を弾ませ、そのくせ無表情な顔で言う。しかし相棒のCurtにとって、この場は苦痛以外何物でもない。充満する香りを嗅ぐだけで気持ちが悪くなりそうだ。
「エリー……てめぇ、俺への当てつけか? そうなのか? ならば良いだろう。とっておきの一時にしてやる」
 クルトは黒い笑みを浮かべ、ふるふるとこぶしを震わせた。
 甘いものが苦手なのだ。それはエリーもわかっているはずだ。それなのにこの仕打ち。しかも。
「エプロン、似合ってますよ」
「……おい、笑ってんじゃねえ!」
 いよいよクルトは大きな声を上げた。その震える肩は何だ、隠しても隠しきれてないぞと、エリーに言ってやりたい。というかむしろ言った。
「いつまでも調子に乗るなよ? くそっ、クッキーはおとなしく作ってやる、食わないけどな!」

 精霊たちがエプロンに反抗する中、エミリオ・シュトルツの反応はまた別だった。
「ふりふりエプロン……どうして他のはないの? って文句を言いたいところだけど、スイーツのためだし仕方ないね、着るよ」
 エミリオはおとなしくエプロンに袖を通した。叫んでいたクルツには悪いが、こちらは甘みが大好きなのだ。おいしいパフェを食べるためなら、エプロンの一枚くらいどうってことはない。要は考え方次第だ。
「恥ずかしがることはない、俺は俺だ」
 どんな格好をしようと、周りからどう見られようと堂々していれば問題はないのだ。
 しかしそんなエミリオに、ミサ・フルールが思いもかけない声をかけた。
「エミリオさん、堂々としててカッコイイ……」
 その言葉に衆目が集まる。
 ほんと、よく似合ってるなどとサクラに言われ、それもどうなんだと思ってみたり。とりあえず、ミサに言うのは、これだ。
「何を言い出すんだ、バカ!」

 ※

「型抜きじゃなくて、一個ずつ、粘土で作るように作ってほしいの」
 サクラはウィンクルム一同に、そう説明した。
「その方が、手作り感があっていいでしょ?」
 店のオープンが迫っているのにそんな余裕があるのかと思ったが、そもそもオーガ型など、ここにはない。だからこそ、店主は苦労をしてきたのだ。

「まずはオーガの形のクッキー作りですね。確か目があって鼻があって……」
 テレーズは楽しそうに、クッキー生地でオーガの顔を作っていく。しかし数分後「あれ?」と首を傾げ、手が止まった。
「なんかこれ……」
「お手伝いしましょうか?」
 器用とは決して言えないテレーズの奮闘ぶりを、山吹はそれまで黙って見ていたが、横からすっと手を出した。作りかけの、何とも言えない形のクッキー。テレーズの後を継ぎ、指先で形を調整をしていく。
「あ、山吹さん上手ですね! そうです、こんな顔してた気がします」
 テレーズはぱちぱちと手をたたいた。その音につられ、店主サクラが「どれどれ」と様子を見にやって来る。
「すごい上手にできてる! やっぱ本物を見たことがあると違うわね」

「クッキーは『ヤグアート』を参考にして作るよ。長いくちばしと、鶏のような頭をしたオーガなの。全体的に可愛らしい感じに作ろうと思ってるんだ」
 ミサはそう、サクラに説明した。
「え~、オーガだから怖くてもいいのに」
 サクラは残念そうだったが、ミサは左右に首を振る。
「オーガに怯える人たちに『オーガは怖くないよ、私達A.R.O.A.がいるから大丈夫』って、希望を与えられるようなクッキーにしたいの」
 もともとお菓子を作るのが好きで、パティシエを目指しているミサである。作業に迷いやためらいはない。
 しかしミサのアシスタントとして隣に立つエミリオは、少しだけ眉を寄せた。
 ミサは一見楽しそうにクッキーを作ってはいるが、エミリオには、彼女が少し、無理をしていることがわかる。
 だってミサの両親はオーガに……。
 普段は言いたいことははっきりと言うエミリオも、ここではさすがに口をつぐんだ。ミサの髪を彩る薔薇の髪飾りを見つめたのは、それが彼女の親の形見だと知っているからだ。
 熱心に作業をしていたミサが、不意に視線を上げて、エミリオを見る。
「どうしたの?」
「いや」
 エミリオは目をそらした。しかしミサは、そんな彼ににっこりと笑いかける。
「ありがとう。私は大丈夫だよ。だってエミリオさんがそばにいてくれるから」
 その言葉に、エミリオはミサに視線を戻した。
「ミサのその前向きなとこ……すごいなって思う」
 本当は、前向きなとこが好きだと言おうとした。でもそれは今ここで言う言葉ではない気がして、エミリオは言葉をかえた。

「クッキーは、任務で見たデミ・ワイルドドック、デミ・大ラットを模して作るよ。私がネズミの方。犬の方は、クレドリック、お願いね!」
「犬の方か」
 クレドリックはそう言ったきり、無心に手を動かしている。隣でロアも、黙って生地を形成している。
「うん、鋭い目と角を強調すればそれっぽいかも!」
 なんとか普通のネズミとは違う感じは出ている気がする。ロアは一人納得してつぶやき、ついでとばかり、クレドリックの手元を見やったのだが……。
「クレドリックのクッキー、妙に可愛い……!?」
 ロアが上げた声に、クレドリックの手が止まる。
「……可愛い? ああ、絵を描くと怪訝そうな顔で、私と絵とを見比べられたりすることはあるな」
 黙ってしまったロアの顔には、悔しい、と書いてある。
 その後何とか頑張って作ったが、ロアはクレドリックのクッキーを越えるものを作ることはできなかった。
 クレドリックのマスコット的に愛らしいクッキーと、ロアのなんとかデミ・大ラットに見えるクッキーは、サクラの手によってオーブンに入れられた。

「オーガ型のクッキーは、最近オーガを見たので、大丈夫な気がします、きっと」
 エリーは記憶を呼び起こし、クッキー生地をオーガ型にしていった。手つきは少々怪しいものだが、目つきは真剣そのものだ。
 隣では、クルトもまたクッキーを作っている。大人しく作ってやると言ったとおり、黙々と生地に触れている。
 そんな彼を見ながらも、エリーの中には不安がよぎる。
 静かすぎて怖いんですけど……! クルトさん、ぜったいなにかたくらんでる気がします……!
 互いに無言で進める作業は、思いのほか早く終わった。ここまでは問題なし。しかしこの後は……?

 ※

 あとはオーブンに入れて焼くだけという状況になったので、テレーズと山吹はバイキングへと向かった。
「山吹さんは甘いもの、あまり好きじゃないんですよね。だからパフェはフルーツをたくさん使って、甘いものは少しにしてみます」
 バナナ、グレープフルーツ、リンゴ、メロン、マンゴー、いちご。底にちょっとだけのバニラアイス、その上は色とりどりのフルーツ全種。いっぱいになったグラスを見、しかしテレーズは、物足りなさそうな顔をした。
「なんかこれだとただのフルーツバイキングみたいですね。やっぱりなにか……あっ」
 何を突然思い立ったのか、ぽんと手を打つテレーズ。そんな彼女は、ウエハースをとると、フルーツの上にずぶりと刺した。その上にさらに少量のチョコアイスをのせる。なんとも豪快なパフェが出来上がり、山吹は苦笑をおさえることができない。
「これで完成でいいですか、山吹さん」
「ええ、美味しそうですね」
 フルーツのてっぺんに刺さったウエハースが、とても不思議な感じですけど。
 一生懸命作ってくれたテレーズのことを思うと、さすがにそれは言うことができなかった。

「私達、甘いもの大好きだからパフェは大きめのグラスで作るよ」
 そう言って、ミサは一番大きなグラスを選んだ。
「私達じゃなくて、ミサが、でしょ」
 自分も好きだが隠しているエミリオは、すかさずそう訂正する。しかしミサは否定の言葉は口にせず、はにかむようにほほ笑み、グラスをエミリオの前に差し出してきた。
「エミリオさんと仲良く分け合って食べたいから、一個でいいよね。具材を全種類入れた豪華なパフェにしたいな。ね?」
「……うん、そうだね」
 コーンフレークの上に載せるアイスはバランスよく、その上にはあふれんほどのフルーツを。どうしたらたくさん詰めるかと、ミサは悩み悩み果実を選ぶ。見た目もよくとグラスの脇につけたり角度を調整したり。そんなところまでこだわるのは、さすがパティシエ見習いと言うべきだろうか。
「できた!」
 ミサが満面の笑みとともに見せてきたパフェは、このまま売り物に出してもおかしくないほどに美しかった。

「パフェ作るときは、コーンフレークは少し。コーンフレークで底上げパフェは邪道!」
 ロアはグラスを手に、そう熱く語った。クレドリックはそんな彼女について歩きながら「そういうものか」とうなずいている。クレドリックにとって大事なのはパフェではない。観察対象のロアの言動だ。
「バニラ、チョコアイスをたくさん入れよう」
 少量のコーンフレークの上に、大きなスプーンで器用に隙間なく、ロアはアイスを詰めていく。右半分がチョコレート、左半分がバニラだ。茶色と白はきっぱり真ん中で分かれており、見た目もなかなかきれいである。
「よし、クレドリック、盛り付けは任せた!」
「なぜ私がこんなことを?」
「だってクレドリックのほうが綺麗にできるでしょ。さっきあれだけ可愛いクッキー作ったんだから」
 ロアが作ったものを思い出し、しかしうなずくことはせず。クレドリックはロアからグラスを受け取った。アイスがたっぷりのそこに、ウエハースとバナナを刺す。それだけではさみしかろうと、チョコプレートとチョコペンを手に取った。
「何書いてるの?」
 覗き込むロアに
「実験台1号、と書いている。あとは……」
「それってもしかして、私?」
 デフォルメしたロアの似顔絵は、さっきのオーガ同様愛らしい出来だ。それに文字にしても、実験途中のような走り書きではない。クレドリックが書いたと思うと、なんとも言い難い丸文字である。
「クレドリックって、女子力高いんだね……」
「女子力? なんのことだ?」
 実験以外は門外漢の男である。不思議そうな顔をしたクレドリックを、ロアはうらめしそうににらみつけた。

「パフェは全部載せられないんでしょうか……」
 エリーは、パフェ用グラスと並んでいるフルーツ諸々を見比べていた。このサイズにいかにしてうまく盛るか、ということを計算しているらしい。
「そんなに食えるのか?」
 クルトが聞くと、エリーはクルトに視線を向けた。何をそんな当たり前のことをという表情である。
「食べられますよ。食べられなかったらこんなこと言いません! ……それを食べると思うだけで、幸せですね」
 ほう、と喜びあふれた吐息が漏れる。そんなものだろうかと、クッキーの焼ける甘い匂いに鼻を侵されながら、クルトは考える。
 バイキングの最後は、チョコプレートとチョコペンを使った飾りつけだ。
「チョコペンでも、何か書きたいです」
 エリーは小さなペンを手にしたが、それを横からクルトが奪い取る。バイキングを始めて以降初めてのクルトの積極的な行動に、エリーは興味深そうに尋ねた。
「クルトさん、何を書くつもりで!?」
 しかしクルトは、答えるつもりはないようである。
「お前は別のとこ見てろ」
 そう言って、チョコプレートを隠してしまった。

 ※

 スプーンを二本もって、二人掛けの席へと陣取った。
「好きなところをどうぞ」
 テレーズは長いスプーンの柄を持って、目の前でにっこりしている。甘いものが好きな彼女は、終始ご機嫌だ。
「では、いただきますね」
 アイスのてっぺんに突き刺さり、どうしていいかわからないウエハースではなく、甘そうなアイスでもなく。山吹はグレープフルーツをひとつ手に取った。口に含めばしゅわっと広がる酸味が爽快だ。
「余ったところは、私が残さず食べますから、安心してくださいね!」
 スプーンでチョコアイスをすくったテレーズは、満面の笑み。
「アイス、こってり甘くておいしいです!」
 その表情に、山吹の唇も自然とほころんだ。

 ミサもまたご機嫌だ。二人で食べる大きなパフェ。いつもは自分をからかってくることが多いエミリオが、今日はなぜかちょっと優しい。これは自分の過去について心配してくれていたことと、関係しているのだろうか。
 今はエミリオさんがいるから、全然平気なのにな。
 さっきも伝えた言葉が、頭の中をぐるぐるしている。でもそれを言うのは恥ずかしくて、甘いメロンを頬張った。
「ねえ、エミリオさん。今度は一緒にケーキを作ろうね」

 並んで座ったソファの近い場所から、クレドリックはロアを見つめている。甘いものが関係するとロアはやる気を出すらしい。分析する彼の横、さっきの不満顔はよそに、ロアはにこにことパフェを口に運んでいる。
 今日はなかなかいいものが観察できた。ロアのいつもとは違った一面だ。クレドリックはそういった意味で機嫌がいい。しかしいくらなんでもじっくり眺めすぎたのだろう。ロアはパフェから顔をあげた。クレドリックを見るまなざしは、当然厳しい。
「こっち見すぎ! 食べなよ!」
 そう言って、ぐいっと無理やり、パフェを口に押し込んでくるのだが、その分量が。
「ちょ、待て、多い、多いから!」
「大丈夫、男の人だからぱくっといけるよ」
 口にいっぱいの冷たいアイス(果物のせ)に、クレドリックは切ない声を上げた。

 カップル席は、カップルと名がつくだけあってそれなりに狭い。密着感がいいのだろうが、これはいくらなんでも、とエリーは思う。
「離してくださーい! こ、こんなの恥ずかしいですよ!」
「クッキー作りに参加したら『なんでも言うこと聞く』んだろ?」
 ほとんど無理やり、捕獲する勢いで肩を抱かれている。目の前のテーブルの上には作ったばかりの美味しそうなパフェ、そこには、クルトの手によって「クルト様大好き!」と書かれたチョコプレート……。
「ほら、口あけよ。アーンってしてやる」
「だめです、恥ずかしすぎますっ」
「って、首振るな! ったく、頬にアイスついただろうが!」
「……なんで弱みを使ってでも、こんなことするんですか?」
「なんでこんなことするか? 楽しいからに決まってるだろ。お前が恥ずかしがる顔は悪くないからな」

 ※

「みんなのおかげで、素敵なクッキーができたわ。あとはうちの方でアレンジさせてもらうわね」
 オーブンの板の上にある焼きたてクッキーに、サクラは満足しているようだ。
 ウィンクルムの反応はそれぞれ。また来たいという者もいれば、もう勘弁だと首を振るものもいる。

 スウィーツ専門店さくらの開店は明後日。これで無事、オーガ・パフェが完成すること間違いなしだ。



依頼結果:成功
MVP

メモリアルピンナップ


エピソード情報

マスター 瀬田一稀
エピソードの種類 ハピネスエピソード
男性用or女性用 女性のみ
エピソードジャンル コメディ
エピソードタイプ ショート
エピソードモード ノーマル
シンパシー 使用不可
難易度 簡単
参加費 1,000ハートコイン
参加人数 4 / 2 ~ 4
報酬 なし
リリース日 05月14日
出発日 05月22日 00:00
予定納品日 06月01日

参加者

会議室

  • [5]ミサ・フルール

    2014/05/19-05:59 

    こんにちは、そして初めまして!
    私はミサ・フルールって、いいます。
    パートナーはディアボロのエミリオさんです。
    皆さんどうぞよろしくお願いします(お辞儀)

    ふりふりエプロン・・・。
    エミリオさん、着てくれるといいんだけれど(遠い目)

  • こんばんわ。テレーズさん、ロアさん、お久しぶりですね。
    ミサさんはこちらでは初めましてになりますね。
    甘いものにつられて参加しましたElly Schwarz、エリーです。精霊はディアボロのCurt、クルトさんです。
    皆さん宜しくお願いします!

    オーガ形のクッキーは先日実物と戦ったので、それを想像すればいいですよね。
    問題はクルトさん……頑張って説得しなければ……。(いろんな意味で)
    ふりふりエプロン……着てくれますよね?

  • [3]ロア・ディヒラー

    2014/05/18-00:41 

    こんにちは、ロア・ディヒラーと申します。パートナーはそこの白衣の…クレドリックです。
    テレーズさん、先日はねずみ退治でお世話になりました!
    今回もよろしくお願いしますー。

    オーガ…デミオーガ(犬とかネズミとか)は実際見たことあるものの、オーガは実物を見たことないのですが、が、頑張ります。
    フリフリエプロン、私もあまり乗り気ではないけれど、これもパフェのため…!
    クレドリックにはちゃんと白衣脱いで着てもらわないと!怪しげな薬品とかしみこんでそうですしっ。

  • [1]テレーズ

    2014/05/17-15:45 

    こんにちは、テレーズと申します。パートナーは山吹さんです。
    ロアさんは先日ぶりですねー、前回はお世話になりました。
    今回もよろしくお願いしますー。

    オーガの形のクッキーなんて面白いですね。
    最近初めてみたばかり(のはず)なので張り切って作ろうかと思いますー。
    エプロンは……きっと山吹さんなら着てくれるはずです!


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