これ脱ぐと捕まるからマジで(瀬田一稀 マスター) 【難易度:とても簡単】

プロローグ

 あなたは今、脱衣所に衣装を用意して、自宅のお風呂に入っている。
 この後着替えて、相棒と合流し、ハロウィンパーティーに参加する予定だ。
 選んだ衣装は、定番だが、吸血鬼。
 待ち合わせの時刻までは時間があるから、まだ十分間に合うはず……と、思ったところで。
 玄関のチャイムが鳴った。
「おーい、待ちきれなくて迎えに来ちゃったよ」
 ドアが開く音と同時に、相棒の声が聞こえる。
「あれ? いないな……どこにいるの?」
 リビング、寝室、キッチンと、おそらくは探し回っているのだろう。
 ぱたぱたと廊下を歩く足音に、あなたは声を上げた。
「風呂入ってるんだよ! ちょっと待ってろ!」
 もう少しゆっくりしたかったが、仕方がない。
 あなたは、湯船の中に立ち上がり、洗い場を進んで扉を開けて、濡れた体のまま、脱衣所に向かう。
 そしてタオルを手に取り、いざ体を拭こうとしたドアの向こうで、相棒の声が響いた。
「ねえねえ、なんの格好するの? もう着た? 見てもいい?」
「えっ、ちょっと待てよ、まだっ……」
 とっさに裸の上に、吸血鬼のマントだけを羽織るあなた。
 同時にドアが開き、相棒は、首から足首までがマントで覆われているあなたの姿を見て、にこりと笑った。
「なんだ、準備できてるじゃん。じゃあ早く行こうよ、ハロウィンパーティー」

 場所はあなたの家の脱衣所付近。
 マントの下は、ほんとは裸。
 さて、どうしましょうか。

解説

最初に、吸血鬼の衣装代として、300jrいただきます。ご了承ください。
吸血鬼のマントは、襟がついている長いやつ。
わりとイメージしやすい(と思う)あれです。

一応自宅という設定なので、間取りや周囲にあるものは、たいていの家にある感じ、というアバウトな設定でお願いします。

お風呂に入っているのは、神人でも精霊でも構いませんが、こちらは吸血鬼の格好です。
相棒の服装は特に決めていませんので、着せたいものを指定してください。

あと、このようなエピを出してはいるのですが、公序良俗に反する描写はできません。
アクションプランにのっても恥ずかしくないぞ、というレベルなら大丈夫……じゃないかな?
そのあたり、ふわっとお願いします。ふわっと。
PLさん信じてます。


ゲームマスターより

お久しぶりです、瀬田です。
綺麗なエピソードが多い中、空気読まずにすみません。
一応コメディに指定しておりますが、どのようなプランでも大丈夫です。
また、ウィンクルムごとの描写になります。ご了承ください。

あ、アドリブNGな方は、プランの頭に×をお願いします。
何かしら入ります。たぶん。

リザルトノベル

◆アクション・プラン

セラフィム・ロイス(火山 タイガ)

  パーティか。お菓子は揃えたし、後は着替えてメイクして
上がり症は克服してきたけどうまくできるかなぁ。演技

タイガ?僕はここ。ちょっとまって
(心配かけたかな、いつもなら部屋で待っててくれるのに。ああ両親が出かけてるって伝えてたから。え、嘘?何で開けるの!?)
・・・タイガはフランケンなんだ。本格的
じゃなくて失礼だよ、急に
いくって!?ままま待って!
本当にできてないからお菓子はテーブルにあるから食べていいし待ってて
うん。メイクとか小物もないし・・・(赤面


・・・
驚いた。早くしないと
■脱いだ所で硬直

~タイガ!何考えてるの出てって!

はあはあ両親がいなくて本当よかった。正直に言ってた方が余計な恥をかかなかったかも


蒼崎 海十(フィン・ブラーシュ)
  吸血鬼のマントだけを羽織る方

出掛ける前にシャワーなんて浴びるんじゃなかった
咄嗟に何でマントを羽織った俺…!
マントの下が裸なんて…とてもじゃないが言えない

ちょ、ちょっと待ってくれ、フィン
その、と、トイレに行かせてくれ…
フィンは先に玄関で待ってて

よし、何とかフィンを玄関に行かせたぞ
後は何とか、フィンに気取られないように脱衣所に戻って衣装を…

って、何で…玄関に行ったんじゃ…
な、何も隠してない!
付いてくるな…!
慌てて自室へ逃げようとし、フィンに手首を掴まれて転倒

恥ずかし過ぎて何も言えない
大体、フィンが悪い!
俺の返事を碌に聞かずに入ってくるから…
誘ってないし、フィンの為でもないし!
何言ってるんだ、バカッ


李月(ゼノアス・グールン)
  仮装 おばけ

プチクラス会兼ねている為浮かれ気味
故に気付けなかった

「会うの卒業以来なんだよなぁ
 女子がお前に会いたがってるらしいぞ(笑
話をしながらじゃあ行こうかと玄関開けた所でがばりされ
腕が素肌で異変に気付く 
「…おい 袖どうした?
腕から湯気が
背中が湿っぽい?
マント上から触り愕然
今 全裸男に抱き付かれてる!?
「い 家に入れ!
動かない相棒と意識してしまう自分に超焦る
うわっくっつくな何か当たる
こんなとこ誰かに見られ…ぎゃーご近所さん
マント掴み隠してやり 言葉に被せ
「は ハッピーハロウィン! こいつパーティで酔っ払っちゃって はは

恥かしいが仕方ない
「誰と会おうとお前以上に楽しめる奴はいないから!
家に一時撤退

少し遅刻した


セツカ=ノートン(マオ・ローリゼン)
  心情
なんだか、触れられると安心するんだ
なんでだろうね

行動
とりあえずマントは羽織ったけど、髪の毛はぐしゃぐしゃだし、濡れてるしですぐに気付かれた。
「ね、マオ、髪の毛拭いてー!」
って、甘えてみるね
マオってば一緒にお風呂もはいってくれなくなったし、身支度も全部一人でしなさいっていうし、ちょっとさびしかったんだ
言われた通り目をつぶって、されるがままに
教育係な口調だけど、全部やってくれて、大満足!
えへへ、マオは優しいね

ん、ねぇ、まって。
(今のって……)
髪に触れたのは、ひょっとして…?
一緒に行こう、って言ってくれるマオをひっぱって、頬にお返しのキスを
僕の誕生日、エスコートしてね?
さ、パーティー、行こう


●吸血鬼の教育係

 とりあえず、マントは羽織っている。
 しかし乱れたままの雪の髪から、水滴が。
 マオ・ローリゼンは、おそらくは裸身に布一枚を身につけただけのセツカ=ノートンから、わずかばかり視線を逸らした。
 今、彼の素肌で見えているところといえば、首から上と、足首から下のみ。それなのに、どうしてこんなにいたたまれないと感じてしまうのか。
「セツカ」
 名を呼んだのは、その空気を払しょくしたかったからだ。
 小さな相棒は、そんなマオの心情に気付かずに「ばれちゃった?」と首を傾げた。
 濡れ髪から、また、ぽたぽたと滴が落ちる。それが気になったのだろう。
「ね、マオ、髪の毛拭いてー!」
「かしこまりました。でも服を着ないと、風邪をひきますよ」
 マオが教育係然として言えば、セツカは「ん!」と返事をした。直後、マントをパサリと落としてしまう。
 大胆というか、なんというか。
 なんにせよ、いつものマオならば、自分のことは自分で、と言うべきところだ。
 でも、前までよくやってたし、今日は特別な日でもあるし。
 もちろんこれですませる気はないけれど、洋服を着せてあげるくらいはいいだろう。
 すっかり冷えてしまう前に、髪の水分を少しでも吸ってくれるように、とタオルを置いてから。
 マオは、セツカのシャツを手に取った。
 それを目の前の細い肩に、丁寧に羽織らせる。

 マオの指先が自身の肌に触れる感覚に、セツカは笑みを浮かべていた。
 ……実は、最近。
 マオってば一緒にお風呂はいってくれなくなったし、身支度も全部一人でしなさいっていうし、ちょっとさびしかったんだ。
 でも、今日はそのマオが、世話を焼いてくれている。

 一方マオは、セツカのそんな思いを知る由もなく、手早く服を着せながら、その細く白い身体に目を向けていた。
 あまり身長は変わってないみたい。
 怪我もしてないね、良かった。
 シャツを着せ終え、ボタンも閉めて、マオはセツカの足元にしゃがみ込む。
「セツカ、足を上げてください」
 まるで幼児にするように、ズボンをはかせるべく言えば、子供特有のしなやかな足が、すっと持ちあがった。
 自身の肩にわずかに重みを感じるのは、セツカがそこに、手を置いているから。
 転ばないようにだとは、わかっている。だが、着替えを手伝うのはなんでもないのに、こうして、セツカから触れられると。
 ――理性を、試されてる気がする。

 一瞬、逞しい体の筋肉に力が入ったことを、セツカは見逃さなかった。
「マオ?」
 ズボンをはかせてもらいつつ、彼の様子を気にするも、俯いているマオの表情は見えない。
 たしかに今日はちょっと甘えちゃってるけど、それほどいけないことはしてないと思うんだけどなあ……。
 再び首をひねると、頭に載せていたタオルが、ぱさりと足元に落ちた。
 マオがそれを拾って、顔を上げる。
「さて、髪の毛はじっくりやらせてもらおうか」
 そう言った彼は、もうすっかりいつものマオだった。

「セツカ、ちょっと目を閉じてね」
 言われた通り目をつぶり、セツカはすべてをマオに任せることにした。
 痛くないように注意した、適度な力で、タオル越しに頭を撫ぜられる。
 その大きな手の感触が、最近構ってもらえなかった時間を埋めてくれるようで、嬉しかった。
 タオルがどいたら、今度は髪を指ですいてくれる。セツカの髪はそれほど長くはないから、解けないほどに絡んでしまうことはないのだけれど、それでもマオの指先は、とても優しく、丁寧に動いた。
「痛くないですか?」
「熱くないですか?」
 問われる言葉に、「大丈夫」「平気だよ」と返しながら、セツカの心は喜びに満ちている。
 教育係な口調だけど、こうして全部やってくれるのが、嬉しい。
 頬にあたる横髪が、すっかり乾いてしまう頃。いつもの自分の完成だ……と、思いきや。
「……え?」
 髪に、何かが押しあてられたような感じがした。
 しかし問う間はなく、届いたのは、マオの声。
「さて、準備もできたね。パーティーへ行こうか」
「ねえ、まって」
 セツカは思わず、ドライヤーを片付けるマオの手をとった。
 今のって……。髪に触れたのは、ひょっとして……?
 思うけれどはっきり聞けないでいるうちに、マオは静かに、セツカの手をほどく。
「どうしたの? ほら、一緒に行こうよ」
 セツカはもう一度、今度はマオの腕を、両手でぎゅっと握った。それを思い切り引っ張ると、そんなことでは足が揺らぐはずもないマオが、腰を曲げてくれる。
 その優しさに気を良くして、さっきの、おそらくはキスにお返しを。
 背伸びをして、マオの頬に唇を押し付ける。
「セッ……」
 自分だってさっき似たようなことをしたくせに、驚くマオが、面白い。
 セツカはマオから両手を話すと、にこりと微笑み、マオを見つめた。
「僕の誕生日、エスコートしてね? さ、パーティー、行こう」

●おばけを捕まえろ

 白いポンチョは、付属のフードを深く被り、指先が袋状になった袖に手を通せば、あっという間におばけになれる。簡単なコスプレだ。
 これを自ら選んで身につけた李月はご機嫌で、ゼノアス・グールンの頭に、シルクハットを載せた。
「おい、リツキ」
「ん? 準備できてるんだろう?」
 おばけのくせに生き生きと。
 李月は、差し入れのオードブルを手に持って、足取り軽やかに玄関に向かって行く。
「皆に会うの、卒業以来なんだよなぁ」
 浮かれた声。だがゼノアスは、その場を動かない。
 ったく、何でこんな気持ち。
 ……なんとかしなければいけないとわかってはいるのだ。
 だって、李月は、プチクラス会を兼ねているこの日を、それは心待ちにしていたんだ。
 だからこそ、当日の今日、元気なお化けとなって、吸血鬼の自分とともに、パーティーに参加しようとしている。
 ……でも、やっぱり面白くはない。
「なんか、女子がお前に会いたがってるらしいぞ」
 李月はいよいよ、玄関に到着した。
 後ろにゼノアスがくっついてきていないことなんて、まったく気付いていない。
 そしてそのまま、おばけのくせに靴を履いてドアを開き、「じゃあ行こうか」と外に一歩踏み出そうとするから――。
 短い距離を走り、ゼノアスは、李月の背中を抱きしめた。
「他の奴なんて知るか。オレはオマエがいればいいんだよ」
 布に覆われていない腕に、力強く拘束され、李月は思わず、動きを止める。
「…おい、袖どうした?」
 白い素肌をさらした腕は、ほかほかと湯気を立てているよう。
 そしてゼノアスがぴったりと胸をくっつけている背中は、心なしか湿っぽく感じた。
「オマエの手料理はオレのモンなのに」
 李月の荷物にゼノアスの目が向いて、拘束がさらにきつくなる。
 だが李月は、それでもなんとか手を伸ばし、ゼノアスの腰や背中に触れてみた。じんわりしみる体温……はいいとして。
 やっぱりこれ絶対濡れてる、間違いない!
 もしかして、今、全裸男に抱き付かれてる!?
「い、家に入れ!」
 振り返って自分のものより厚い胸を押してやりたいが、そうすることは叶わぬこの状態。
 腕の中で焦り始めた李月に、ゼノアスはそっと目を伏せた。
 オレの行動が、大事なリツキを困らせてる。
 わかっているのに、ここから逃したくない。
 もっと近くに、と思ってぎゅうっと腕に力を込めると、李月はいっきに身を硬くした。
 なんだこれ、なんでこんなことになってるんだ……!
 今までには、ありえないくらいの力で、抱きしめられている。
 首筋に当たるゼノアスの湿った髪が冷たくて、肌をかすめる呼吸がくすぐったくて。
 そして、他の部分は……。
「くっつくな何か当たる、こんなとこ誰かに見られ……」
 逃げるべく身をよじるも、それで余計に感覚が露骨になった。それなのにゼノアスは、そんなことはお構いなし。
 いや、構えないというべきか。
「そんなにアイツ等に会うのが楽しみか!」
 もっとオレを見ろ、オレだけを。
 惚れてると口にしてから、どうにも気持ちが抑えられなくなっている。
 だから声音も必死になるけれど、李月だって、必死にならざるを得ない。
 なぜなら、彼の肩に顔を埋めているゼノアスには見えないだろうが、李月の眼鏡越しの瞳には、見慣れた道が映っているのだから。
 そして不幸なことに、少し先の曲がり角から、人影が。
 30メートル、15メートル、5メートル――。
 やばい、まずい。
「だから離せって、ちょっと待……ぎゃー、ご近所さん!」
 李月はとっさに、ゼノアスのマントを引いて、自分の身体ごとくるまった。
 きっとこれが、一番手っ取り早く、いろいろ隠せる方法なのだから仕方がない。
 それなのにゼノアスはやっぱり、ご近所さんに気付かずに。
「オレといるよりも……」
 なんて言いかけるものだから、李月は作り笑いを浮かべ、わざと大きな声を出した。
「は、ハッピーハロウィン! こいつパーティーで酔っぱらっちゃって、はは」
 カボチャの帽子をかぶった猫を抱き、可愛らしい魔女に扮したご近所さんは、大きな目をぱちぱちと。
 その後「大変ですね」と苦笑して、その場を立ち去って行った。
 大人の対応、ありがとう!
 そこで李月は、後ろに足を蹴り上げて、おそらく裸の、ゼノアスの脛を蹴る。
「ちょっと、力緩めろよ!」
「でも」
「いいから!」
 解放された身体を反転し、ゼノアスを見上げて。
 いつもの余裕はどこへやら、拗ねた顔の相棒に、普段なら言わない言葉を投げる。
「誰と会おうと、お前以上に楽しめる奴はいないから!」
 断言した直後、ぼっと顔が熱くなったけど、仕方がないじゃないか。ゼノが、こんなに静かになっちゃってるんだから。
 ほら、さっさと部屋に入ってと、胸を押されてゼノアスは、やっと落ち着きを取り戻し。
「そういやマッパだった、すまね……ぶえっくしょい!」

 ちなみにパーティーは遅刻した。

●デビルは悪魔

 咄嗟に何でマントを羽織った俺……!
 脱衣所のドアを開けたところで。
 蒼崎 海十はマントが開かないように内側から押さえながら、フィン・ブラーシュを振り返った。
 仕事の急用で外に出ていた彼は、今は戻り、デビルの仮装をしている。
 基本は黒のスーツ姿なのだが、金髪の間から尖った角が伸び、腿には同じく、尖った尻尾が絡みついていた。そして黒光りする靴の先も鋭角。さらに一番目立つのは、背中についている小さな黒い羽である。
 かっこいいのかお茶目なのか、よくわからない優美なデビル。
 だが今の海十は、普段ならば見惚れたであろうその格好にも、心を惹かれる余裕がない。
 なにせ、自分はマント以外、どんな布も身につけていないのだから。
 ああ、出掛ける前にシャワーなんて浴びるんじゃなかった。
 この下が裸なんて……とてもじゃないが言えない。
「海十、待たせてごめんね」
 フィンはいつもどおり見事な微笑みで、海十の顔を見て、それから全身に視線を巡らせた。
「吸血鬼か」
 黒いマント以外なにも見えないはずなのに、一瞬にしてわかってくれるあたりは、さすがというべきか。
「うん、海十の黒い髪と黒い目に、凄く似合う。かっこいいよ」
 フィンは納得したようにうなずいて、海十に手を差し出してきた。
「さ、時間も押しちゃったし、出掛けようか」
 まるでエスコートするような仕草だが、当然海十は、その手を取るわけにはいかない。
 腕を持ち上げるかわりに、焦って口を開く。
「ちょ、ちょっと待ってくれフィン。その、と、トイレに行かせてくれ……」
 今、深い理由を述べずに一人になれそうな場所が、とっさにそこしか思いつかなかった。
 だから海十はそう言ったのだけれど、フィンは怪訝な顔をする。
「トイレ? いいけど……」
「じゃあ、フィンは先に玄関で待ってて」
 ほらほらと、追いやるように肩を押され、フィンは海十に背を向けた。背後では、海十がトイレに向かって歩き始める気配がする。
 だが、このまま大人しく玄関に向かっていいものか。
 どこが、とははっきり言えない。でも、海十の様子がおかしい気がするのだ。
 ……もしかして具合でも悪いのかな? たとえば、お風呂で湯あたりしたとか。
 それが当たっていようと違っていようと、小さな不安の種に気付けば、放っておけるフィンではない。
「海十!」
 大きな声で名前を呼んで、フィンは海十がいるであろう、トイレへと向かった。

「よし、なんとかフィンを玄関に行かせたぞ」
 海十は、トイレへ向かうふりをして、その途中で足を止めた。
 後は何とか、フィンに気取られないように脱衣所に戻って、衣装に着替えなくてはならない。くるりと振り返る。――と。
 フィンが呼ぶ声、そして。
「って、何で……玄関に行ったんじゃ……」
 目の前に現れた恋人の姿に、海十は思わず、一歩、後退った。
 それを見て、フィンは確信する。やっぱり、今日の海十はおかしい。
 調子が悪いというより、俺から……逃げようとしてる?
「海十、どうかした? 何か隠してない?」
 フィンは、ことさら穏やかな声で問いかけた。
 やろうと思えば、海十を手放したくないと、力づくで抱きしめることだってできる。でもその前に、理由を聞かなければ。
 それなのに、海十はぶんぶんと首を振る。
「な、何も隠してない!」
 焦った声で言い放ち、慌てて向かうは、彼の部屋。
「待って……!」
 フィンは思わず、その手首をとった、のだが。
「うわっ!」
「海十!」
 勢いあまった海十が、バランスを崩して床に倒れ込む。フィンはその体の両側に手をついて、覆いかぶさる格好だ。
 まあ、体勢は問題ない。それより重大なのは、すっかり開いてしまった、マントの下。
「……海十、それっ……!」
 海十の顔が、いや、首筋までもが、いっきに赤く、染まっていく。
「大体、フィンが悪い! 俺の返事を録に聞かずに、入ってくるから……」
 なんとも不条理な発言を、しかしフィンは聞いていなかった。
 だって、今目の前に、海十の肌がある。
 黒いマントと白い肢体、そして染まった頬のコントラストは、それはもう、なかなかのインパクトで。
「ねえ……俺を誘ってる?」
 気付けばフィンは、そう口にしていた。
 驚いたのは、羞恥に全身を染めていた海十である。
「誘ってないし、フィンのためでもないし!」
「……でも誘われちゃったから、この後の予定はキャンセル。いいね?」
「よ、よくない! 何言ってるんだ、バカッ!」
 なんとかこの場から抜け出そうと、マントで体を包もうとするも、フィンの手がそれを邪魔している。
 海十はうう、と呻いて目をつぶった。自らを捕えているフィンの青い瞳から、視線を逸らして、一言。
「悪魔め……」
「今日の俺には、似合いの言葉だね」
 フィンは口角を上げ、ゆっくりと、自らの体重を支えている腕を曲げていった。

●明朗フランケン

 軽くジャンプして枝を握り、幹に足をつける。腕力と脚力で体を引き上げ、足が枝を踏むようになれば、進むのは簡単だ。
 火山 タイガは長身としなやかな筋肉を生かして、すいすいと木を登って行った。最後は枝が通じる屋根に降り、見慣れた窓の、ガラスをノックする。
 一度、二度。軽く拳で叩いたところで、首を傾げた。いつもならすぐに返事があることが多いのに、何の物音もしないとは。
 ガラス越しから見える場所には、人の姿はない。
 タイガはがしゃりと遠慮なく窓を開け、部屋の中に身を滑り込ませた。
「セラ! パーティー行く用意できたかー!」
 これならこの部屋のどこにいても聞こえるだろう、という音量の声を張り上げる。

「タイガ?」
 セラフィム・ロイスは、浴室の中でその声を聞いた。
 今日はタイガと一緒に、ハロウィンパーティーに出掛ける予定だ。
 お菓子はもう揃えてあるから、後は着替えてメイクをすればいい。そう思っていたので、ちょっとゆっくりしすぎたらしい。
 まあ中で、今日の演技について心配していたからでもあるのだけれど。
 上がり症は克服してきているとはいえ、人の多いパーティーだ、緊張しないわけがない。
 それにしてもタイガ、ちょっと来るの早すぎじゃないかな。
「いねえ。どこだセラー!」
 先ほどにも勝る大音声が耳に届き、セラフィムは、湯船の中で立ちあがった。
 いつもは部屋で待っていてくれる彼だが、一度目の呼びかけで返事をしなかったことで、心配させたのかもしれない。
 それとも、ああそうか。両親が出掛けてるって、伝えていたからか。
「僕はここ、ちょっと待って」
 セラフィムにしては、大きめの声で答え、風呂場のドアを開ける。さっさとタオルで体を拭いて、着替えをすませてしまわなくては。

 一方タイガは、虎耳を揺らしながら、長い廊下を歩いていた。
 たぶん、セラフィムの声が聞こえたのはこの辺……。
「そこか!」
 あたりを付けたドアを開けるべく視線を向けて、そこが風呂場だと気付く。
 しかし。
 覗いても入っても、恋人の特権だからいいよな!
 タイガはあっさりと結論を出し、2人を遮るドアの取っ手に、手を伸ばした。ひねる前に、一瞬だけ、どうかなー? と思ったけれど、深くは気にしない方向で。
 
「セラ―!」
 ご機嫌な声とともに、がちゃり、と開いたドアに、焦ったのはセラフィムだ。
 え、嘘? なんで開けるの!? と思ったけれど、もう止める間なんてありはしない。とっさにマントを羽織り、肌を隠すことには成功した、けれど。
 当然、緊張はしてしまう。
 しかしタイガは、やっと恋人を見つけられた喜びで、そんなことは察せない。
「あーっ……セラは吸血鬼か」
「……タイガはフランケンなんだ」
 セラフィムは、マントが肌蹴ないように身を硬くして、満面の笑みのタイガを見やった。
 ちゃんとこめかみにネジ……と言えばいいのだろうか。金属が刺さっているふうだが、あれはどうなっているのだろう。
「本格的」
 思わず呟けば、タイガは「おう!」と寄ってきた。
「俺は兄貴に手伝ってもらったんだ! この金具なんかリアルだろ」
 にこにこと頭のものを指して言う。
 セラフィムは頷きつつも、あえて厳しい声を出した。
「じゃなくて、失礼だよ急に」
 自分がちゃんと着替えられていたら、脱衣所に入ってこられたところで、気にしない。でも今ばかりは、これ以上近付かれては困るのだ。
 だがタイガは「まーまー」と軽く受け流し、こともあろうか、セラフィムの手首を掴んでくる。
「準備済んだんなら行こうぜ! 早く行って去年より菓子集めたいしさ」
「行くって!? ままま待って!」
 このまま引かれたら、腕が持ちあがり、マントの中が丸見えだ。それはなんたる大参事。
 タイガが「へ?」と動きを止める。
「準備、できたんだろ?」
「ううん、まだできてないから! お菓子はテーブルにあるから食べていいし、待ってて」
「……髪型変えたり? そういや、風呂から上がったばかりで濡れてるな」
「うん。メイクとか小物もないし……」
 返事をしながら、セラフィムの顔はだんだん赤くなっている。
 狭い空間に二人きり。自分はこんな恰好で、本当のことは言えなくて。なんか急に、恥ずかしくなってきた。
 だが、細かいところを気にしない、素直な性格が長所のタイガは、「わーった待ってる」と、セラフィムの手を離してくれた。
 脱衣所を出て行く背中を見送って、セラフィムはほっと一息。
 安心したの、だが。

 数分後。
「美味いな……。なあセラ、これもっとねぇかな、皆に配りて―んだけど」
 突如開いたドアに、セラフィムは呼吸も忘れ、固まった。
 足元に、たった今脱いだばかりのマントが、パサリと落ちる。
 脱衣所の明かりの下。
 白く、細いセラフィムの身体は、タイガの目には、眩しいほどで。
「なんで裸……? 俺へのご褒美?」
 ぽろりと漏れた言葉に、セラフィムの大声が重なった。
「タイガ! 何考えてるの出てって!」

 ドアを挟んで、二人は互いに考える。
「両親がいなくて、本当よかった。正直に言ってた方が、余計な恥をかかなかったかも」
「なんで……ああ元から下は裸だったのか。だから照れて。恋人だし堂々としてもいいのに」
 そして、どちらも二人、思うのは。
「でも、見られたのがタイガで、まだ良かった……のかも」
「まあ、恥じらうのがセラ、ではあるだろうな」


 ウィンクルムそれぞれ、今宵はパーティー。
 ハッピーハロウィン!



依頼結果:大成功
MVP

メモリアルピンナップ


エピソード情報

マスター 瀬田一稀
エピソードの種類 ハピネスエピソード
男性用or女性用 男性のみ
エピソードジャンル コメディ
エピソードタイプ ショート
エピソードモード ノーマル
シンパシー 使用可
難易度 とても簡単
参加費 1,000ハートコイン
参加人数 4 / 3 ~ 5
報酬 なし
リリース日 10月19日
出発日 10月26日 00:00
予定納品日 11月05日

参加者

会議室

  • [5]蒼崎 海十

    2016/10/25-01:03 

    蒼崎海十です。
    パートナーはフィン。
    皆様、よろしくお願いいたします!

    …どうしてこうなった(頭を抱えつつ)
    なんとか…なんとか切り抜けたいです…!

  • [4]セラフィム・ロイス

    2016/10/24-23:48 

    どうも、僕セラフィム。と相棒のタイガだよ。よろしくね
    ・・・パーティで浮かれるのはわかるけどせっかち(?) な相棒もつと苦労するよね(苦笑)
    皆の健闘も祈ってるよ

  • [3]セツカ=ノートン

    2016/10/24-20:12 

    セツカと、マオです。
    宜しくお願いします。

  • [2]李月

    2016/10/24-10:49 

    李月と相棒ゼノアスです。
    どうぞよろしくお願いします。

  • [1]蒼崎 海十

    2016/10/23-00:51 


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