プロローグ
飴をくださいな。かわいいあの子に、あまーい飴を、くださいな。
そしてどうか、あの子を抱きしめてあげて。
血のない体を持つ私は、母親なのにあの子に触れない。
どうか、優しいあなた様。
もしも否とおっしゃるならば、あなたのお命頂戴いたします。
どうやら、鎮守の森には子育て中の妖怪がいるようだ。
そんな話が聞こえたのは、森から戻ったウィンクルムからだった。
「俺たちが別のデミ化した妖怪と戦っていたら、『飴をくれ』っていう女の声が聞こえたんだよ」
「でも誰も飴なんて持ってないし、そもそも姿が見えたわけじゃないから、放ってきたんだけどな」
武器をとり、何体ものデミ・オーガを退治してきた仲間の言葉に、あなた達は、顔を見合わせる。
「……ということは、飴を持って森に入ればいいのか?」
「それで、幽霊を探すってこと?」
森は広いし、なんとまあ大変なことか。
いっそ害がないなら、このまま放置でいいんじゃないか、という意見も出たのだが、それには当初幽霊の声を聞いたウィンクルムが首を振った。
「あれはさ、だからやばいって。何か聞いてると、すげえ不安になるんだよ。俺なんでこんなことしてるんだろうって、漠然と悲しくなるの」
「今後ぜったい、仲間に不具合出て来るって」
「特殊能力を身につけてるなんて、デミ化すると、普通の妖怪とは違うんだな」
正直、不安を呼び起こす幽霊など会いたくはないが、任務とあれば仕方がない。
あなた達は、A.R.O.A.が支給してくれたふたつの飴を手に、闇がうごめく鎮守の森へ入って行くことになった。
解説
幽霊の赤ん坊を抱きしめてあげてください。
【成功条件】
大成功:幽霊を怒らせず、赤ん坊を笑顔にすることができる
成功:幽霊を怒らせるが、最後には赤ん坊を笑顔にする
失敗:最後まで、赤ん坊が泣きやまない
【PL情報1】
幽霊の声は、上記内容にあった漠然とした不安のほかに、パートナーへの不信を生み出す場合もあるようです。
その根拠はなく、「なんでこんなとこにいるんだろう」「なんでこいつといるんだろう」となります。
耳栓などで対処はできません。
【PL情報2】
幽霊が、赤ん坊がいる場所まで導いてくれます。
赤ん坊は裸の男子。
両手にまん丸の石をひとつずつ持ち、それを交互に舐めています。
大木の根元、葉っぱがたくさん落ちている下で泣いているので、上手にあやしてあげてください。
笑顔になれば、母親と一緒に姿を消します。
ずっと泣き止まなかったり、危害を加えたりすると、母幽霊が襲いかかってくるので、気を付けましょう。
【幽霊の攻撃方法】
不思議な力でその辺の小石をぶつけてくる。
長い髪を伸ばして、首や手足を締め付けようとする。
スピードは、一般的な女性が全力疾走した程度。力は、一般的な男性が頑張ったくらい。
血の通ったものは、幽霊に触れません。無機物なら大丈夫です。
ゲームマスターより
うまくいけば戦わなくても大丈夫な、アドベンチャーエピソードです。
PL情報の内容は、PLは知っているけれど、ウィンクルムは知りません。
また、本来の飴買い幽霊とは設定が異なっていますが、このエピソード独自ということでお願いいたします。
リザルトノベル
◆アクション・プラン
初瀬=秀(イグニス=アルデバラン)
水飴持参 しっかし幽霊、ねえ よっぽど子供が心配だったのか…… まあ早いところ解決してやらんとな 赤ん坊をイグニスがあやすのを見ながら荷物を漁り ……いいお父さんだな この状況でなきゃさぞ絵になったろうに なんで俺こんなとこにいるんだか 仕事でなきゃ……ウィンクルムでさえなければこんなところ、っ!? あー、悪い。飲まれかけてた……あぁ、あったあった (水飴を割り箸につけて軽く練り) こんなもんか、ほら (幽霊に差し出す) なあ、これなら触れないか? 直接触れ合えなくても、母親の手から貰った方が嬉しいだろうよ 交代であやしながら赤ん坊の様子見 あぁ、そうだな、何とかなるだろ で?この手は何だっつうの!ったく(照れつつ手は離さず |
セイリュー・グラシア(ラキア・ジェイドバイン)
飴は支給品以外のも準備してくぜ。 森で迷った時、非常食になるし。 ラキアの予想からするとお腹空かせた子供がいるかもしれないから。 狐やうさぎのパペットてぶくろも持って行こう。 「飴持ってきたけど幽霊はドコだろ」 と森を探すぜ。襲われない限りトランスは無し。 (殺気は盾で判るし) 赤ちゃん見付けたら抱き上げてパペットであやすぜ。 ぴょこぴょこ視界から外したり現れたり、パペットでいないいないばぁをするぜ。「かわいいなぁ」と頬をぷにぷに。 お母さんはドコだろ? 幽霊が出たら事情を聞くぜ。飴が欲しいならあげる。 「沢山持ってきたからママも飴食べなよ」と綿あめを差し出す。 コレなら食べられそうな気がするじゃん? 元気に育てよ。 |
アイオライト・セプテンバー(白露)
折角だからいっぱい持ってこうよ 水飴でしょー(砂糖不使用で健康にいいの)綿飴でしょー林檎飴でしょー 大丈夫、余ったらあたしが食べるから♪ ←ぶっちゃけ食べたい 森に入ってからは、ウィンクルムがバラバラになって赤ちゃんを探せばいいかな で、連絡取り合いながら、辿り着いた人から順番にチャレンジ(なんか違う)するの わーほんとうに赤ちゃんだ あたしの赤ちゃんの頃もこんなかんじだったかな? 暇だなあ…なんだか不安になっちゃう…赤ちゃんにパパ取られちゃいそうな… うわあん、そんなんやだあー えっと、それだけパパは優しいんだよってお母さんに言おうっと だから心配しないでって パパはあげないけど、その分めいっぱい優しくしてくれるよ |
A.R.O.A.が支給した飴を受け取ったウィンクルムたちは、そのまま森に出発する……かと思いきや。
「飴を買いに来るお母さん幽霊の昔話があるよね」
それぞれが自宅から持ち寄った荷物を確認する途中、ラキア・ジェイドバインはそう切り出して、その伝承を話し始めた。
「なるほど、飴買い幽霊ですか。うーん、いつの世もお母様は大変ですねえ」
話を聞き終えた後、イグニス=アルデバランが深く頷く。
その『いつの世』発言に、俺より若い身空で何を言うかと眉をひそめるのが、初瀬=秀である。彼ははっと短い息を吐いた。
「しっかし幽霊、ねえ。よっぽど子供が心配だったのか……」
だとしたら、いくら命なき身とはいえ、不憫なことだ。
「まあ早いとこ解決してやらんとな」
秀が、なあ、とイグニスを見やる。
「ええ、もちろんです」
対するイグニスは、荷物の中の水飴を確認しながら、言葉を返した。赤ん坊には柔らかい物が良いだろうと、用意したものである。
「オレも、飴は支給品以外のも準備してきたぜ。森で迷った時、非常食になるし」
言いながら、セイリュー・グラシアは、荷物の中から、金平糖や、黒糖飴を取り出して見せた。べっ甲飴はパンダの形、他には綿あめの袋も持ってきてみた。これは依頼を聞くためにA.R.O.A.に向かう途中、新装開店のお店の前で配っていた小さなものだ。
「パペット手袋も持ってこようと思ったんだけど、テディにしたんだ」
「俺は、アヒル特攻隊の仲間をね」
ほら、と取り出したそれを、二人は動かして見せた。テディもアヒルも本来の用途とは違うが、見た目がかわいいから、赤ん坊なら喜んでくれるかもしれない。
セイリューの手により、生き物のように動かされているテディを見て、嬉々と目を輝かせたのは、アイオライト・セプテンバーだ。
「かわいい!」
くりんと丸く青い瞳で、クマの動きを追うアイオライト。
「アイ、確かにかわいいですけど、持ってきたものをお知らせしないと」
「あ、そうだった!」
白露に言われ、アイオライトは自分の荷物の中を探り出した。そして次々と取り出したのは。
「水飴でしょー、あ、これは砂糖使ってなくて、健康にいいんだって。あと棒飴でしょー、林檎飴でしょー」
だがそれに驚いたのは、白露である。飴はあたしが選ぶね、と言われていたが、まさかこんな種類だったとは。林檎飴はこの間、駄菓子屋で買った物だろう。
「アイ、赤ん坊に棒飴や林檎飴は無理です」
「大丈夫、余ったらあたしが食べるから♪」
ぱっと上がった顔に、白露は苦笑する。
たしかにアイが食べたいだけというのは伝わってきました、けれども。
「……太りますよ」
思わず呟けば、アイオライトはぱちりと瞬きをし――。
「じゃあ、走っていくもん! パパもちゃんとついてきてね」
と来たものだ。
※
広い森の中である。まさか、母幽霊を呼んで、出て来てくれるとも限らない。一同は、別行動で母親を探し、見つかったら連絡を取りあって、合流することにした。
その策を事前に話すと、A.R.O.A.の担当職員は「もうみなさんは使い慣れているでしょうが」と、インカムを貸してくれた。
「飴持ってきたけど、幽霊はドコだろ」
セイリューは暗い森を見まわして、落ち葉を踏んで歩いている。たとえば相手が殺気を持っているのならば、盾で察知することができるが、話に聞いた通り幽霊がただ声をかけて来るのだとしたら、その存在を確認するには、自身の耳と目を使うしかなかった。
傍らでラキアは、周囲に耳を澄ませている。どこかで女性が飴を求めていないか、赤ん坊の泣き声が聞こえないか、と思ってのことだ。時折、何者かわからぬような咆哮が耳に届いたが、それは遠く、こちらに向かってくる気配は感じられなかった。だが、もし話に聞いたような幽霊と赤ん坊がこの森にいるのだとしたら、それなりに恐怖や不都合があるのではないだろうか。それを想像するからこそ、ラキアは、なるべく早く彼らに出会えることを願った。
「困っているなら、助けてあげたいからね」
「そうだな」
セイリューは相棒の言葉に短く答える。この優しさがラキアであると、いつもながらに思った。
秀とイグニスは、セイリュー達とは別の道を選んで、森の中を歩いていた。
「……お母様、姿が見えませんねえ……」
イグニスが、きょろりと木の陰を覗きこむ。その横では秀が、大木の根元、少し離れた先にこんもり積もった落ち葉に視線を落とした。どうしてここにだけ、こんなにたくさんの葉が積もっているのだろうかと、ふと疑問に思ったのだ。
「……なあ、イグニス」
「はい?」
金の髪を揺らして、イグニスが振り返る。――と、声が聞こえたのは、その時だった。
「飴を……かわいいあの子に飴をくださいな」
二人は、その声の主へと顔を向けた。そこにいたのは、いかにも幽霊といった風情の、白い着物に身を包んだ女性だった。
長く黒い髪が、背の大半を覆っている。乱れた長い前髪が、ひどく疲れた印象を与えていた。
「……飴を、かわいいあの子に、飴を頂戴」
幽霊は、ゆったりと手を伸ばした。袂から伸びた白い手のひら。それを見ながら秀は、インカムに向かって、幽霊が見つかったことを告げる。
「わかった、すぐに行く!」
「急いで向かいますね」
セイリューと白露の返事は素早い。
一方イグニスは、仲間への連絡を秀に任せて、幽霊に対峙していた。
「仲間も、いろいろな種類の飴を持っているんです。すぐにここに来るので、ちょっと待っていてもらえますか?」
「……あなたが、そこをどいてくれたら」
幽霊はそこで初めて、秀を見やった。
「俺!?」
秀は意味がわからないままその場を一歩、イグニスの側へと近寄る。すると幽霊は、しずしずと秀がいた場所までやって来た。
ここに何があるのか?
彼女の足元の落ち葉がふわりと宙に舞いあがる。茶色く掠れたそれは、幽霊の膝辺りまで持ちあがり、周囲に散って行った。そして葉がなくなったそこには……。
「赤ん坊……」
幽霊の子だからといって、足がないわけではない。人間の見た目とまったく同じ、言ってしまえば普通の裸の赤ん坊が、すやすやと眠り込んでいた。
しかしおそらくは、葉をどけたことによりわずかに差し込んだ光が、その小さな子を目覚めさせてしまったのだろう。赤ん坊はゆっくりと目を開け、黒い瞳をぽっかりと開けた後、ふにゃあ、と泣き始めたのだ。
「わあ、大変です!」
イグニスはすぐさま赤ん坊に手を伸ばし、その柔らかい体を抱きあげた。しかしゆりかごを揺らすかのように赤ん坊を揺らしても、彼は一向に泣きやまず、子猫のような声を上げ続ける。
「はーいいいこいいこーたかいたかーい」
赤ん坊をあやすイグニスを、秀はほうっと息を吐いて見ていた。
「……いいお父さんだな」
にこやかで優しい若い父親と、愛らしい赤ん坊。この状況でなければ、さぞ絵になっただろうに。
秀は唐突に、自分がどうしてこの場にいるのかと思った。仕事でなければ……ウィンクルムでさえなけれれば、こんなところ……と顔をしかめる。
それに気付いたのは、当然イグニスだ。
……あ、秀様のあの感じは、また余計な事を考えてハマっている奴!
まったくいつもいつも秀様は、という小言はやめて、声を出す。
「秀様! 飴くださいー!!」
そこで秀は、はっと意識を戻したようだった。
「あー、悪い、飲まれかけてた」
そう言って、すぐに荷物をあさり始める秀。
「まったく、繊細なママですねーって、あ、違いますね。貴方のお母様はあちらでした」
ちらりと幽霊に視線を向けるが、彼女は何の感情も表してはいない様子だ。
そこにやって来たのが、セイリューとラキアである。
「その子がその幽霊の赤ちゃんか!」
「それで、そこにいるのがお母さんだね」
幽霊が、二人を振り返る。
「どうしてこんなことになってるんだ?」
セイリューは、母幽霊に問いかけた。しかし彼女は、首を左右に緩く振る。そして言うのは。
「……どうか、かわいいあの子を泣き止ませてあげて」
事情は、理由があって言えないのか。あるいは突然現れた者には、言うつもりはないのかもしれない。それならそれで、仕方がないことではあるだろう。
ラキアはセイリューの肩に一度とん、と手を置いてから、自分の上着を脱いで手に持ち、イグニスの傍へと寄って行った。
「そのままだと寒いかもしれない。これでくるんであげたらどうかな」
「あ、そうですね! ありがとうございます!」
上着を載せ広げられたラキアの腕に、イグニスはそっと赤ん坊を置いた。ちらと秀に視線だけを向け、空になった手ですかさず彼の手を握る。赤ん坊に夢中になっているセイリュー達は気付かない。
「大丈夫ですよ」と小さな声で言ってみた。秀は包まれた手をもどかしそうに動かしたが、イグニスは彼の耳元に唇を寄せ、もう一度強く、繰り返す。
「大丈夫! ですよ!」
だから、心配しないでください、と。先ほど囚われかけた彼を、案じての言葉だ。
「……ああ」
秀はごくごく小さな返事とともに、その手を強く握り返してきた。
その間に、ラキアは赤ん坊の体を優しく布で包み込んでいた。しかし赤ん坊は、ラキアに抱かれた後も、ふみゃあ、ふみゃあと泣き続ける。
「ほら、クマさんとアヒルさんが来たぞ~」
セイリューが、右手にテディ、左手にアヒルを持って遊び始めた。
クマは、ジャンプをしているようにぴょこぴょこと高く動かして。
アヒルのほうは、ぜんまいを巻いてみる。
泣き止ませるために自分はここにいるのだが、泣いていてもかわいいのは、どうしたものか。
「かわいいなあ」
セイリューは思わず呟き、指先で、赤ん坊の頬をちょん、と突いた。赤ん坊はきょとりと目を瞬かせ、その間は声も止んだのだが、すぐにまた、泣き始めてしまう。
その声に、寂しげに見つめていた母親の肩が、びくりと揺れる。
まるで条件反射のように、赤ん坊に伸ばされる腕。だがその指先は、小さな体をすっと通り抜けてしまった。
「……どうか、この子に飴を……どうか」
透き通る手のひらを握り締め、母親がラキアを、セイリューを、そして傍らに立つ秀とイグニスを、順に見つめていく。
「べっ甲飴があるんだ」
切なげな眼差しから目を逸らし、セイリューが黄色く透き通った飴を、赤ん坊に差し出した。
しかし赤ん坊は、見向きをしない。泣き声も、だんだん大きくなってきて、母親の眉は、次第に下がっていく。
アイオライトと白露がやって来たのは、ちょうどその時だった。
「あー、やっと赤ちゃんいたー!」
アイオライトは、赤ん坊を発見するなり、ぱたぱたと走り出した。両手に棒飴と林檎飴を持っている。白露はその後に続いて、アオイライトとともに、赤ん坊を覗きこんだ。
「わーほんとうに赤ちゃんだ。あたしの赤ちゃんの頃もこんなかんじだったかな? ねえ赤ちゃん、飴食べる?」
ためらうこともなく、アイオライトは飴を差し出した。赤ん坊はあいかわらず小さな手を握り締め、泣き続けている。だから、アイオライトがそれに気付いたのは、偶然といえば偶然だろう。
「あれ、この赤ちゃん、なんか持ってる?」
アイオライトが、赤ん坊の手を自らの手を添え、小さく柔らかな拳を開こうとする。
「アイ、そんな無理やり……」
白露は慌てた。アイオライトが自分が赤ちゃんの頃、と口にした時も、内心焦りはした。なにせ自分は実父ではなく、要はアイオライトの赤ん坊時代の世話をしていないのだ。もし「ねえパパ、あたしが赤ちゃんの頃、どんな子だった?」とでも聞かれたら、いくら素直な愛娘……もとい、愛息子が相手とはいえ、うまくごまかせるかどうかは微妙だった。
でも今は、それ以上に困っている。母幽霊は、口は出してこないものの、赤ん坊によく似た黒い瞳を細めて、じっとこちらを見ている。その髪がふわりふわりと宙に持ちあがってきたのは、気のせいではないはずだ。これでアイオライトが小さな手を開けた途端、赤ん坊が嫌がって何事かが起こったら、と考える。
しかしそれは幸運にも、杞憂に終わった。赤ん坊はアイオライトのキラキラの髪が気に入ったのか、それをじいっと興味深そうに見つめて、口をつぐんだからだ。
アイオライトはそれを気にせず、手を開く――と。
「ほら、やっぱり持ってた!」
紅葉のような手の中には、丸い石が握り込まれていた。
「じゃあ、この代わりに飴をあげるね」
アオイライトが林檎飴を差し出すと、赤ん坊はその棒の部分を小さな手で握ろうとした、が。
がん! とすぐそれが、赤ん坊の胸の上に落ちる。重かったのか、それとも飴のバランスをとるのが難しかったのか。
「ふえええ、ふえええ!」
ラキアの腕の中で再び泣き始める赤ん坊。
「ああ、すみませんうちのアイが!」
「大丈夫だよ。ね、今度こそ……べっ甲飴なら、サイズ的には大丈夫かな?」
ラキアの言葉の後、横からセイリューがパンダの形の飴を渡すと、赤ん坊はそれを右手で掴んだ。だが、泣き声はまだ止まらない。
「あれ、この飴は嫌いなのかな?」
「ラキアもクマとアヒルであやしてみるか?」
「じゃあ私が抱っこしましょうか」
首を傾げるラキアから白露が赤ん坊を受け取り、セイリューがラキアにテディを渡す。
「赤ん坊みたいな神人ならいつも傍にいますけど、本物のお世話は初めてですね」
白露は赤ん坊の顔を覗きこんだ。よしよし、と言いながら左右に体を揺らしてみる。
その横に、なぜか母幽霊がすっと寄り添った。イグニスやラキアが赤ん坊を抱いた時には見られなかった行動に、一同が少しばかり驚いた顔を見せる。
その様子を見、アイオライトは自らの胸の中心に手を置いた。
自分が林檎飴をあげたから、赤ちゃんが泣いて、だから今赤ちゃんに接するのもちょっと躊躇して、それなのに母幽霊が、傍に寄っていって。最初は単に、暇だなあって思ってたけれど、でも今はそれだけじゃなくて、赤ちゃんにパパがとられちゃいそうな……そんな気もするのだ。
だってパパが、あたしのことを見ないで、優しい顔で赤ちゃんのお世話をしてるから。
お母さん幽霊が、パパの隣で赤ちゃんとパパを、心配そうに見てるから。
本当にパパは、とられちゃう……?
「うわあん、そんなんやだあー」
アイオライトは俯いて、眉根を下げた。でも皆が一生懸命赤ん坊をあやそうとしている時に、こんなことを言いだすわけにはいかない。
ぐっと堪えて顔を上げて、母幽霊を見上げる。
「あ、あのね! 赤ちゃんのお母さん! パパはすごく優しいんだよ! あたし、パパと一緒にいるといつも楽しいし、嬉しいの。だから赤ちゃんもきっと、すぐに楽しくて嬉しくなると思う。だから心配しないで!」
さすがに白露はあげられない。でもこの場で、お母さんと赤ちゃんに優しくするくらいなら……いい。
母幽霊のふわふわと持ちあがり揺れていた髪は、いつのまにか落ち着いていた。そんな彼女を見、秀は今頃になって、並ぶイグニスに「手を離せ」と告げる。
「秀様?」
イグニスは一瞬心配そうな顔をしたが「水飴! 練るんだよ」と言えば、ああ、と納得した。確かにあれは、そのまま赤ん坊に与えるわけにもいかない。
秀は自由になった手で、割りばしに水飴を付けて練り始めた。そしてそれを、母幽霊へと差し出す。
「なあ、これなら触れないか?」
幽霊はまじまじと、秀に目を向けた。どうしてこれを自分に渡すのか、赤ん坊に食べさせてくれるのではないのか、そう言いたげな眼差しだ。
秀はあー、と低い声を出し、少し迷ったように、言葉を口にする。
「直接触れあえなくても、母親の手から貰った方が嬉しいだろうよ」
母親は、おずおずと割りばしに触れた。
命なきものは、彼女の手を通りすぎない。母は手にした割りばしを、白露に抱かれ泣いている赤ん坊の口の前に差し出す。
すると。
「んまあ……」
赤ん坊は、その飴をぺろりと舐めたのだ。しかも。
「笑った! お母さん、赤ちゃんかわいいね」
ラキアが幽霊に微笑を向ける。
「やっぱお母さんから貰うのがいいのか! おい、良かったな!」
セイリューは赤ん坊の頭を、ふわと撫ぜた。そしてはたと気付いたように。
「沢山持ってきたから、ママも飴食べなよ」
幽霊に、棒飴を差し出す。彼女はそれを受け取り……。
「……ありがとう」
一同が聞いたのは、母幽霊の高い声。
飴をくれて、ありがとう。
私のかわいい赤ちゃんを、泣きやませてくれてありがとう。
金髪のお嬢ちゃん、あなたのお父さんは、私の旦那様にちょっとだけ似ていたわ。
最後の言葉は、アイオライトに向けて。
気付けば幽霊と赤ん坊は、ウィンクルムの前から姿を消していた。
白露は空になった腕を見下ろし、他のメンバーも手に持ったおもちゃや飴を、呆然と見つめている。
「……これで、良かったの、か?」
「いいんじゃないでしょうか?」
秀の呟きに、イグニスが答える。そこで秀は、自らの手がまたもイグニスに掴まれていることに気が付いた。
「この手はなんだっつうの!」
「おまじない、でしょうか?」
ふふ、と笑うイグニス。
一方アイオライトは、棒飴を舐めながら、消えた幽霊に向かって声を上げた。
「幽霊さんも素敵な人と一緒だったんだね。パパはあたしの自慢のパパなんだよ!」
「アイ……」
恥ずかしいような、嬉しいような。白露はアイオライトの頭にくしゃりと手を置いた。
「元気に育てよ!」
「お母さんも、頑張りすぎないようにね!」
セイリューとラキアが宙に手を振ると、もう一度「ありがとう」と聞こえたような気がした。
依頼結果:成功
MVP:
名前:初瀬=秀 呼び名:秀様 |
名前:イグニス=アルデバラン 呼び名:イグニス |
エピソード情報 |
|
---|---|
マスター | 瀬田一稀 |
エピソードの種類 | アドベンチャーエピソード |
男性用or女性用 | 男性のみ |
エピソードジャンル | 冒険 |
エピソードタイプ | ショート |
エピソードモード | ビギナー |
シンパシー | 使用可 |
難易度 | 簡単 |
参加費 | 1,000ハートコイン |
参加人数 | 3 / 3 ~ 5 |
報酬 | 少し |
リリース日 | 09月01日 |
出発日 | 09月08日 00:00 |
予定納品日 | 09月18日 |
参加者
- 初瀬=秀(イグニス=アルデバラン)
- セイリュー・グラシア(ラキア・ジェイドバイン)
- アイオライト・セプテンバー(白露)
会議室
-
2016/09/07-23:45
はーい分かったよ、ありがとう、そんな感じで行くね
みんなお疲れ様♪ -
2016/09/07-23:41
ギリギリの挨拶ですまん、アイオライトもセイリューも久しぶり、よろしく頼む。
幽霊はバラバラに探して見つかり次第連絡取りあって集合、でどうだ?
飴買い幽霊の話は了解。
一応こっちもプランは出してあるんで白紙は回避できてるはず……! -
2016/09/07-23:37
捜すトコはバラバラでもOKなプランで提出できてるぜ。
ほのぼのエンドになるといいな。
赤ちゃんは可愛いもんな。プランは赤ちゃんのことでいっぱいだ。
上手くいきますように! -
2016/09/07-23:12
>PL情報の扱い
うん、それでいいと思うよー
具体的に、幽霊が何処にいるかわかんないんだよね?
こんな時間になんだけど、あたしバラバラに探すって書いちゃったけど、よかった?
プラン一応出せてますっ -
2016/09/07-23:02
飴買い幽霊に類似した妖怪が居るってのは、最初PL情報だよな。
「そう言えばそんな怪談が」という感じで
子育て幽霊や飴買い幽霊な話を皆としてから、現場に行く方がいいかな?
それなら飴多めに持って行くとか
おもちゃっぽい物を持っていく理由に出来るじゃん?
「飴を下さい」って「飴を買いにくる幽霊の話ってあるよね」
みたいにラキアが話すので、
そういう妖怪が居るかもと予測して行くことにしようぜ。
-
2016/09/07-17:57
セイリューさん、今回もよろしくお願いしますね
そういえば、私は子ども好きLv.3でした。
これが役に立つといいんだけど…役立てる方法も思い付かないんですけど
たぶん飴はいっぱい用意することになると思います
(使わなくてもアイが食べる)
プランまだまだです -
2016/09/07-00:21
セイリュー・グラシアとLBのラキアだ。
間際の飛び込み参加でゴメンヨ。
安心の顔ぶれだったのでつい来てしまったのだった。ヨロシク。
飴は支給されているのがあるけど、
いい感じのがあればそれも持って行っていいかも。
見た目楽しい感じの飴も赤ちゃん喜ぶかもしれないし。
アイちゃんが言っているように
神人と精霊がセットになりそれぞれ試す、な方向で考え中。 -
2016/09/06-22:03
わー初瀬さん、おひさしぶりー☆
とすると、神人と精霊がセットになってそれぞれで試してみるのがいいのかなあ。
方法はいっぱい用意しておいても損はないだろうし。
っていっても、あたしいい方法全然思いつけてないんだけど(飴の種類なら沢山思いつきました)。
【PL情報1】が不安だけど、PL情報だから、今はぽいっ。 -
2016/09/06-21:35
久々な気がするが初瀬とイグニスだ。よろしくな。
んー、俺としてはやっぱ水飴練った奴?が安心だしいいんじゃないかと。
なんかこう、喉詰まらせそうだし……
あと棒ついてれば母親が食べさせてやれんじゃないか、と思って。
よけりゃ試してみたいんだが……
とりあえずは誰かが抱っこしてやってあやしつつ飴あげる感じか? -
2016/09/06-20:38
赤ちゃんが舐めるなら水飴のがいいかなー?
でもAROAから支給されてるから、それだけでいいのかな。
あたし林檎飴が食べたいなー。
ぐらいしか考えてないです、こんばんは。
全員で一緒に行ってそれぞれに方法を試せばいいのかなあ。
いやまだあたししかいないんだけど。 -
2016/09/05-23:08
えーっとえーっとなんにも考えてないからちょっと待ってね・汗