プロローグ
目の前には、長く続く一本の街道。やがて渓谷を横切るその道は、左右の景観を眺めながらのんびりと歩いて小一時間で、テルラ温泉郷に程近い村へたどり着く。
規模は大きくない。村人全員を合わせて、30人程度。
特産品と呼べるものは無く、取り立てる事の無い村。
続く道は村の東西に二本だけ。いずれも渓谷を間に挟む点では、少しだけ交通の便は悪い。
若い者の多くは村を出て都会へ赴いたり、近隣であるテルラ温泉郷に勤めに出ていたりしている。
老いた人間と、一握りの子供たち。
やがてひっそりと無くなっていくだろうことは、彼ら自身も、よく判っていた。
「見限るのは簡単だ。事の深刻さを鑑みれば、むしろ大多数には評価される決断とも言えよう」
辛辣な言葉を敢えて吐き出したのは、怜悧な顔をしたA.R.O.A.職員の男。
彼の傍らには物資の積まれた荷車がある。
それらを見比べるウィンクルムたちの視線を真っ直ぐに見つめて、彼は続けた。
「まずは言おう。この道の先にある村。そこへ、この物資を運んでくれる者を募っている」
ただし。淡泊な表情が、さらに続ける。
「道の途中でオーガに狙われる可能性は極めて高い」
この近辺で確認されているオーガはヤグアート。痩せ細った体躯にコウモリのような翼を持った、一見脆弱に見えるオーガ。
動きが極端に素早く、攻撃は当てにくい。
また、渓谷に幾つか生えている木々を利用し、無音での低空滑降を行ってくるため、不意を打たれる可能性には注意が必要だ。
「渓谷での戦闘は難しくはない。左右は崖に囲われているが、道の傍らには浅くて緩やかな川が流れているため、実際に行動できる範囲は広いだろう。その分、相手にも弊害がないという点も、理解して貰えるだろうが」
一通りを、告げて。彼は一度、傍らの荷物を振り返ると、再びウィンクルムたちを見渡した。
「もう一度言おう。見限るのは簡単だ」
デメリットばかりの仕事となるだろう。
やがては消えゆく自覚のある村人たちは、この事態を悲観はしていないだろう。
余計な世話になるかもしれない。
無事では済まないかもしれない。
そんな場所へ送る物資があるのなら、もっと他に、必要としている場所があるかもしれない。
そう、見なかったことにするのは、あらゆる可能性を鑑みた上では、至極簡単で、全うなこと。
――だけれど。
「それでも、この物資を運んでくれる者を募っている」
志を同じくする者が居る、と。
そう信じた瞳で、彼は君たちを、見つめていた。
解説
◆成功条件
村へ物資を届けさえすれば、オーガを倒せなくても構いません
オーガを逃亡させても、成功は成功です
ただしオーガとの戦闘を「避ける」ことはできません
皆様を追ったオーガが村に入るような事態は、避けましょう
◆敵
ヤグアート×1
空飛ぶテンペストダンサー辺りを想定して下さい
動きが素早く、攻撃は当たりにくいです
◆場所
渓谷の一角
左右の崖には、木がまばらに生えています
進行方向の左手側に浅くて流れの緩やかな川があります
一番深い所でくるぶし程度です
道自体の幅は、3人が並べる程度。川を含めば倍になります
◆余談
村での行動等は、無くても構いません
例え村人と接触して凹んだりしても、そこは自己責任でお願いします
ゲームマスターより
見限るのは簡単なお話。
だけれどそれでも。
救おうと、掬おうと、思う方が居るならば。
意味など、なくても。
意義は、あるのでしょう。
リザルトノベル
◆アクション・プラン
スウィン(イルド)
賢いだけの選択なんておっさんは嫌いよ 意味がないなんて事ないと思うわ ■準備 粘着性の高い物とヤグアート(以下敵)の好む臭いや音等をつけた 偽荷物を積んだ囮荷車(以下囮) 本物の物資を積んだ荷車(以下本物)…スウィンが牽く 敵の嫌がる臭いや音等をウィンクルムと物資につけ奇襲対策 投網…四方に重り付 ■前 渓谷手前で本物を隠し囮だけ持ち込む 囮を置き、離れて隠れ様子見 敵がかかったら網を投げ更に動きを妨害し戦闘へ 警戒し、罠が失敗・奇襲された場合も慌てず投網・戦闘へ ■戦闘 最低目標:撃退 できれば撃破 前衛で、体力が危なくなったら安全な場所まで下がる 下がった後も可能なら砂石等投げて援護 攻撃時は命中第一だが余裕があれば翼狙い |
信城いつき(レーゲン)
ヤグアートの好物を調査する間に囮用荷物を準備 囮用は箱を荷車に固定し表面にトリモチを塗る 中には好物や動物の生肉を入れておく (敵の動き制限・逃げても葉や枝に付き場所の特定がしやすい) 逆に俺達は敵の嫌う匂いをつけ近寄り辛くしよう ※移動時は本物の荷車の後ろを押す。ただし囮荷車に他者のアクションが無い時は俺が囮を引く 渓谷の手前で本物の荷物を置いて囮荷物で渓谷に入る 囮から少し距離を置き、レーゲンと背中合せで襲撃に備える 仮に村がなくなる日がきても、オーガのせいじゃなく自分達の意思で終える形でいてほしい 大好きな所なんでしょ? まだここにいたいと思うのなら、それでいいよ、きっと 「また必要になったら、俺達を呼んで」 |
柊崎 直香(ゼク=ファル)
見限るのは簡単? なら難しいことしよっか ポケットに飴玉 本物・囮と荷車を2台用意 職員に相談し重要性高く嵩張らない物資あれば囮にも積載 敵撃退不可でも届けたいし成功なら量増える 日中ならサングラス用意 両荷とも渓谷手前まで運搬、その場でトランス 本物荷は厳重梱包で叢に隠し囮荷車を牽いて渓谷へ 荷車の後ろを主に後方~空を確認しつつ追従 木には注視 敵発見したら滑空からの一撃目をなんとか凌ぐ 空中は向こうに利、 けど地上近くまで一度降りたら上昇行動の隙がありそう そこを仲間に一撃でも入れて貰いたい 僕はゼクの詠唱のため場の動きを見タイミング探す 魔法発動後も敵から目を離さず追撃を仲間に依頼 討伐後 荷車2台を村へ 村の様子見ときたい |
セイリュー・グラシア(ラキア・ジェイドバイン)
荷を運ぶ。囮荷物は荷車に固定。 他の人と荷を引くのを交代して牽引者の疲労蓄積を防ぐ。囮荷物を主に牽いてもいいぜ。 風の音、鳥の鳴き声の変化等でヤグアートの接近を警戒。襲撃時にトランス状態へ移行。 襲われたら囮荷物(トリモチつき)の近くでヤグアートの気を引くぜ。 囮荷物に敵が乗れば動き鈍くなるし、荷物いなければ俺達を狙うんだろ。 敵の気は引くが、襲ってきたら全力で回避。反撃できる余裕無い。避けて他の人が攻撃する時間を稼ぐぜ。 他の人が襲われそうな場合敵の死角から攻撃して他の人を護るぜ。ラキアが襲われたら庇う。 村に行く前には川の水をタオルに浸して体の汚れを拭いて行く。汚れたままじゃ村人を怖がらせちまうからな。 |
瑪瑙 瑠璃(瑪瑙 珊瑚)
心情 ・村に荷物を届けられるか心配だが、先に倒すべき敵がいる事を思うと、先行きを不安に感じている。顔には出していない。 事前準備 ・ヤグアートの特徴、好きな匂い、嫌いな匂い、翼の大きさを調べ、それに基づいて罠を考案する 戦闘 ・基本的にはヤグアートの様子を伺いつつ、攻撃の機会があったら手を出す ・珊瑚とは標準語で話す ・ヤグアートに攻撃できると思ったら、手を出すが、無理があるようなら手を出さない その他 ・必要最低限の事しか言わないが、 周りの状況に応じて、自分も手伝おうとしたり、働きかける |
●簡単な事
見限るのは簡単だ、と。
告げた職員は、それでもウィンクルムたちの要望に応えた。
用意された二台の荷車。囮として用いる為の荷車には重要度の低い物資。塗れさせたのはヤグアートの好む匂い。
対して本命の荷車には敵の嫌う匂いを付け、渓谷の手前で厳重に隠した。
短い時間ながらも、敵の好みや特徴など、調べ事に走った瑪瑙 瑠璃は、辿る道と敵の存在に、不安や心配を募らせていたが、ちらと覗いた瑪瑙 珊瑚の見る限り、そんなものは微塵も表情に出ていない。
――周囲の表情が、どれもこれも似たり寄ったりゆえに、そう思うのかもしれないけれど。
さて、と。スウィンは荷車を押していた手を軽く払い、渓谷を見つめた。身を隠し様子を窺うつもりだったが、川と崖に挟まれただけの場所に、隠れられそうなポイントは無かった。
仕様がないかと割り切って、気持ち、囮の荷物から距離を置く。
「賢いだけの選択なんておっさんは嫌いよ。意味がないなんて事ないと思うわ」
それを証明するためにも、この渓谷を無事に抜けなければならない。
同じように少し距離を取る、パートナーのイルドの頬へ儀式の口付けを行えば、ぼんやりと赤い恩恵の証。確かめるように指先を動かしてから、イルドは小さく鼻を鳴らした。
「意味なんてごちゃごちゃ考えねーで、必要なやつがいるなら荷物を届ける。それでいいだろ」
「全く以てその通りだな」
全面的な同意を示した信城いつきは、同時に己に気合を入れて。パートナーのレーゲンを呼びつけると、頬にキスをした。
「解放! ……はい終わり!」
つぃとそっぽを向いたいつきを、ふうわりとしたトランスの恩恵を感じながら見やったレーゲンは、くすり、微笑ましげに笑う。
(随分簡単に済まされちゃったけど……)
周りが何の気ない顔でしている中で、自分だけ照れているわけにも行かないのだろうが。
(顔、赤く見えるなぁ?)
指摘は、喚く声が返ってくることを思って、控えたけれど。
対オーガという事もあって、ウィンクルム達はトランス化にて備えを敷いたが、いつきのようにその行為に気恥ずかしさを覚える者も居れば、そうでない者も居て。
セイリュー・グラシアなどは後者の部類で、キスなど挨拶だろうと男前に豪語しては、パートナーであるラキア・ジェイドバインの頭を悩ませていたりもする。
「……あんまり無茶をしないでね」
「ん? 分かってるって」
回避に全力投球をするべく準備運動をするセイリューに、ラキアは敵の気を引くために川辺の小石を拾い集めながら告げるが、果たしてどこまで分かってくれているのやら。
セイリュー同様トランスに抵抗のない柊崎 直香の表情には、普段にあるお茶らけた様子すらも感じられない。重たい何かが腹の底に横たわっているのは、誰の目にも明らかで。特に、ゼク=ファルには強く、理解できた。
「一も二もなく引き受けたな」
小さく吐き出されたのは、呆れにも似た台詞だけれど。どこか、咎めるような棘を感じてしまうのは、直香の胸中が荒れているせいだろうか。
「言ったでしょ全力尽くすって。弱いけど足手まといにはなりたくない」
だから。続けられる台詞は、ゼクを見ない。
「僕のことは庇わなくていい。攻撃当てることに集中して」
囮荷が、渓谷の真ん中に据えられる。いつでも来いと、誘うように。
ポケットの飴玉を握り締めて、直香は敢えて笑みを作る。
見限るのが簡単、なら――。
「難しい事、しよっか」
挑戦することにこそ意義がある、と。
誰が言った言葉だっただろうか。
●難しい事
――カサリ。
囮を設置して、ほんの少し。待ち構える気配に釣られたように、頭上でかすかな音が鳴る。
くるりと周囲を見渡してから、音に近い位置へ、ラキアはそっと石を投げた。
ぽちゃん。さらさらとした川の流ればかりが響く中で、その音は妙に、響いて聞こえた。
「ラピスアトゥイ・ウルマヌナダグァ」
少し長いインスパイアスペルを唱え、珊瑚のトランス化を行った瑠璃が、探るように視線を上げれば、視界にひらり、よぎる影。
「来るぞ」
キスの瞬間、背筋に走った何かに一瞬険しい顔をした珊瑚だが、瑠璃の促しに気持ちを切り替え身構える。木から木へと渡る影をしきりに目で追った後に、すらり。両手のダガーを一閃させた。
「チッ……!」
掠めた。その感触は確かに有ったけれど、ヤグアートの動きを止めるダメージには至らない。
ひゅるり、空を切るかすかな音だけを立てて一行に迫った敵は、嘶くように一声あげて、好物の匂いを擦りこまれた囮荷へ、足を掛ける。
その瞬間、べたりとした感覚。予期していなかったのだろう。囮荷に仕込まれたトリモチに、ヤグアートがばたついた。
その隙を逃すまいとスウィンが用意した投げ網を放れば、ばさり、網は翼を覆う。
そうして網にかかった瞬間を狙い済ましたイルドの横薙ぎの一撃は、しかし、敵を捉えきれず、ちりと翼の先を掠めて空を切る。
網にかかりながらも攻撃をかわしたヤグアートは、ふるり、小さな翼を震わせると、その一つで網を振り切り崖上の木へと飛び上がる。
レーゲンが翼を狙い済まして放った銃弾も、一撃だけではそれを封じるには至らない。
「やっぱり一筋縄ではいかないものね」
「だね。素早くて、当てるのも難しい」
振り切られた網を拾い上げ、頭上を振り仰いだスウィン。恐らく敵に二度目は通じないだろう。適当に放った所で、躱されるのは目に見えている。それなら、次に握るのは網ではなく、剣。
足に付着したトリモチの方は、その行動を阻害するほどではないようだが、移動のたびにがさがさと木々を揺する音を立てている辺り、滑空の際も無音というわけには行くまい。
かさかさと音のする木を見上げながら、直香はゼクに告げる。
「――ゼク、詠唱」
長い詠唱を要するカナリアの囀りを唱え始めるゼクの視線が、一度だけ直香と合ったが、何を言うでもなかった。
姿は、把握した。罠も功を奏した。それでも相手が退くに至らないのなら、何度でも挑むしかない。
がさ、がさ、がさ――しん……。
獲物を狙い済ましているような、一瞬の静寂。敵も味方も、互いが攻撃の機を窺い、ピン、と糸の這ったような緊張が張り詰める。
じゃり、と。誰かが身構え、足元で音を立てた。
「ッ、ラキア!」
誰かが襲われそうなら死角をついてフォローを。
だけれどパートナーが襲われたのなら、その身を呈してでも。
味方への防御魔法を順に展開していたラキアへと敵の矛先が向いた事に、セイリューがいち早く気付いたのはその思いからで。
「な……セイリュー!?」
咄嗟に体が動いたのは、ただ純粋な、守ると言う感情だった。
目を剥くラキアの前で、セイリューの腕からぱっと赤いものが飛び散った。
味方の怪我に動揺している場合ではない。獲物を狙う瞬間は、どんな相手でも無防備なのだ。攻撃できる絶好の機会に、瑠璃と珊瑚は迷わず踏み込み、ヤグアートへ刃を走らせる。
「無茶をしないでって、言ったじゃないか!」
「ってて……このくらいなら、大丈夫だって!」
ギィ、と悲鳴じみたヤグアートの声が響く傍ら、口論じみた言い合いに、珊瑚はちらり、瑠璃を見やった。
「流石に、やらんよな」
「咄嗟の時は、どうだろうな」
しれっとした顔で答える瑠璃に、珊瑚は不機嫌そうに眉を寄せたが、それ以上食い下がる事はしなかった。
今出来る事を、出来る限り。何処までが本気かも判らないパートナーとの議論なら、後で幾らでもできるのだから。
同じように前衛に立つスウィンとイルドも、一瞬だけ視線を交わした。
庇う?
まさか。
判り切った事だと、言葉ないままに確かめ合って。するりと視線を戻して、追撃を狙う。
(――ま、十個近くも年下の子に護らなきゃって思わせてるようじゃ、駄目よねぇ)
肩を竦めたのは、自嘲じみた思考ゆえか、空を切った刃ゆえか。胸中でのみ完結したスウィンの行動の真意は、当人にしか判らない。
再び宙へと舞い上がろうとするヤグアートへ、レーゲンは再び銃を構え――けれど、はっとしたように、囮荷の傍に居たいつきへと手を伸ばした。
振りぬかれる刃を足掛かりに、中空で身軽に旋回したヤグアートが、その爪をいつきへと振り翳したゆえに。
だからこそ、怪我を覚悟したいつきが、その身に傷を負う事は無かった。
「いつき、もう少し下がってて」
鋭い眼差しで、至近距離に見えた翼へ銃を突きつけたレーゲンの、対の腕。抱き込まれたいつきは瞠目の後、声を荒げた。
「おま……何してんだ、レーゲン!」
翼を綺麗に打ち抜いた代償は、腕への裂傷。それがおのれを庇ったための傷ともなれば、怒るのは当然かとレーゲンはこっそり肩を竦める。
「後で、ちゃんと手当してくれるでしょう?」
「ッ、それ以上の怪我したら、知らないからな!」
いつまでも腕の中には居まいと突き放し、それでもレーゲンの言葉通りに下がったいつき。
同時に、ゼクの詠唱が締めくくられたのを見届け、直香は声を張った。
「みんな、伏せて!」
合わせるようにゼクが放つ、プラズマ球。
名前の通り、金糸雀の囀りによく似た摩擦音を響かせたそれは、翼を穿たれふらつくヤグアートへ、叩きつけられる。
バチバチと光の爆ぜる音がして四散するのを、伏した姿勢で見つめたイルドは、閃光が走り抜けた直後に、ぱしゃり、水を跳ねあげて肉薄した。
「いい加減、くたばれ!」
ぎゅるり、コマのように回転する遠心力は、イルドの攻撃に勢いを付与する。
一度は躱されたそれは、焼け焦げ、翼をはためかせる事さえできないでいるヤグアートを、今度こそ捉えた。
追い払えれば上々。それでも、相対するからには、倒す気で。
挑んだウィンクルム達の猛攻は、ついに敵を地上へ落す。
念のためにと、スウィンより再び放られた投げ網に捕らわれたヤグアートへ、いつきは剣を突き立てて。足元で敵が息絶えるのを確かめてから、大きく、大きく、息を吐いた。
さらさらさら。川の流れる音に、風が木々を撫でる音。穏やかな渓谷の情景に、敵の気配はもう、無い。
「……怪我を手当てしたら、村に行きましょう」
促す瑠璃に、一同は武器を収めて頷いた。
「もっと自分の安全も考えて行動しなよ」
川にタオルを浸し、セイリューの怪我を手当てするラキアは、守ってくれるのは嬉しいんだけど、と付け加えて、難しい顔をした。
真っ直ぐで男らしい性格をしているセイリューには、言ったところで直る見込みは無いのだけれど。
大人しく手当てを受けながら、それでも少しだけばつの悪そうな顔をしたセイリューは、誤魔化すように渓谷の先を見つめた。
障害は、排除した。
だけれど渓谷を進む彼らの緊張は、一層複雑に、張りつめていた。
職員に散々言われたデメリットの、一つ。
余計な世話になるかもしれない。
何故なら、彼らは己の境遇を悲観などしていないだろうから。
救援の依頼など、誰が出したのか。そもそも誰も出していないのかもしれない。
そこに村がある事を知っていた職員の、独り善がりだったのかも、しれない。
傷を負って、苦労をしてまでたどり着く意味は、価値は、果たしてあるのだろうか。
それは考えても仕様のない事で、気持ちを備えておくしかできない事。
「……行くのか」
いち早く本命の荷車へと向かった直香に、ゼクはようやくの言葉をかけたけれど。
「当たり前。見届けないと」
ここまで来て引き返すわけがないと、心は最初から決まっていた直香は、やっぱり、ゼクを見ることはしなかった。
●意味の、有る事
渓谷を抜けた先に有った村は、穏やかな場所だった。
まばらにぽつぽつと建つ家屋。畑やそれらを囲む柵なども、どこにでもある村の風景そのままで。オーガに蹂躙された形跡もない。
交通には不便な立地が幸いしたのだろうか。
あるいは、わざわざ侵略するにも値しないと、見られたのか。
それでも、手の掛けられていない場所にオーガを連れ込む事にならず、安堵の息を吐く瑠璃と珊瑚。
そうっと確かめるように村の中へと進んで行けば、子供が一人、家の前で遊んでいた。
近づけば、ぱ、と顔を上げて、大きな瞳が見上げてくる。
「おにーちゃんたち、だぁれ?」
家の前とはいえ一人遊びを許されているあたり、不思議そうに首を傾げる子供へは、外の状況を報せていないのだろう。
昨日も今日も明日も、当たり前に毎日が来ると信じている顔に、セイリューは血を落とした際に少し濡れた服と傷の痕を隠し、ラキアは荷物の中から飴玉を一つ取り出し、差し出した。
「村に必要な物を、持ってきたんだよ」
掌に落された飴玉を、子供はぱちくりとした目で見つめてから、たっ、と駆け戻り、家の中から一人の老女を連れて戻ってきた。
「ばあちゃん、おにーちゃんたちがね、村にね、お菓子持ってきてくれたの」
捲し立てる子供の言葉に、祖母だろう老女はウィンクルム達と荷物とを見比べて、悟ったのだろう。大きく大きく、目を瞠った。
「わざわざ、こんな辺境へ……?」
驚いた顔の老女が、ウィンクルム達の怪我や戦闘に際した汚れなどを見つけては、申し訳なさそうに瞳を伏せる。
それを見つめる直香の瞳が、ほんの少し細められた。
(ああ、やっぱり……)
彼女が何を言おうとしているのかが、判ってしまって。
「こんな場所へ来るくらいなら、もっと他に――」
「よさないか」
けれど、震える声で言いかけた老女を遮ったのは、それよりももっと老いた、老婆。
「おおばあちゃん、あのね」
「わかっとるよ」
服の袖を引き、嬉しそうに飴玉を見せる子供の頭を撫で、ウィンクルムたちを一度だけ見渡した老婆は、曲がった腰を屈め、地に膝をついて、頭を垂れた。
「斯様な地へ、わざわざのご足労、感謝いたします」
それを見て、老女もまた地に伏し、繰り返し礼を述べる。
「ありがとうございます……本当に、ありがとうございます……!」
涙ながらの言葉に、動揺したウィンクルムたちにも、ようやく実感が湧いた。
初めに、スウィンが呟いた通り。意味など、無いはずが無かったのだと。
荷を牽く手を離さず、どこか遠巻きに眺めていたスウィンとイルドも、お互い、心なしか穏やかな表情をしている事に気が付いた。
村人にそ知らぬ顔であしらわれても、気持ちが揺れることはないと思っていたけれど。
彼らの心根が、救いを、存続を、求めていることを知れば、自然と気持ちは緩んだ。
「大好きな、場所なんでしょ?」
レーゲンと共に、老婆らの前に膝をついて起こしながら、いつきはふわりと微笑む。
いつか無くなる場所かもしれない。それでも、オーガのせいで終わるよりは、自らの手であってほしい。
出来るなら、長く永くと願うけれど。
「……だから、また必要になったら、俺達を呼んで」
声が届くなら、どこへだって、駆け付ける。
ね。と。老婆と、老女と、子供の顔をそれぞれ見つめた笑顔に。
「うん、またきてね、おにーちゃん」
幼子は、晴れやかな笑顔で素直に笑った。
「……だ、そうだ」
ぽん、と。ゼクの手が、直香の頭を一度だけ撫でる。
押されるようにかくりと俯いた直香は、ようやく、ゼクを見上げて笑った。
「おつかれさま」
依頼結果:普通
MVP:
エピソード情報 |
|
---|---|
マスター | 錘里 |
エピソードの種類 | アドベンチャーエピソード |
男性用or女性用 | 男性のみ |
エピソードジャンル | 戦闘 |
エピソードタイプ | ショート |
エピソードモード | ノーマル |
シンパシー | 使用不可 |
難易度 | 難しい |
参加費 | 1,000ハートコイン |
参加人数 | 5 / 2 ~ 5 |
報酬 | 少し |
リリース日 | 05月06日 |
出発日 | 05月15日 00:00 |
予定納品日 | 05月25日 |
参加者
- スウィン(イルド)
- 信城いつき(レーゲン)
- 柊崎 直香(ゼク=ファル)
- セイリュー・グラシア(ラキア・ジェイドバイン)
- 瑪瑙 瑠璃(瑪瑙 珊瑚)
会議室
-
2014/05/14-23:56
セイリューくんもプラン調整ありがとーだよ。
攻撃、命中してるといいな……うむ。精一杯を、やるだけです。
……村に荷物を届けられますよーに! -
2014/05/14-23:51
連投でゴメン。
プランは提出した。有効な攻撃は頼んだぜ。
後は巧く行く事を祈るのみ!
皆さん、色々とお疲れ様です。
足を引っ張っる結果になっていたら済まない。
(と、先に謝っておこう) -
2014/05/14-23:45
囮荷物を荷車に固定は入れた。
囮荷車主に引いてもいいけど疲労蓄積回避のため交代する、も書いた。
-
2014/05/14-23:41
はーい、プラン提出してきたよー。
渓谷前までは荷車牽く交代要員に入ってるけど、
渓谷での囮荷車は行動内容的に牽けなかった。ごめん。 -
2014/05/14-23:21
「荷車二つ・本物の荷車はスウィンが牽く・イルドは周囲警戒」
って感じでプラン修正。
「囮荷物を荷車に固定・荷車を牽くのは交代制」ってのは字数足りなくて入らなかったわ。
信城は調整プランありがとね。誰か余裕があったら囮荷車牽くのお願い。
ぎりぎりまでここ覗いてるから修正は可能よ。頑張りましょうね~。 -
2014/05/14-22:36
気がつけばこんな時間に。
俺達はヤグアート警戒要員でいくぜ。
頭数多い方が襲われる時に個々の危険は少なくなるだろ。
俺達は何とかして敵の気をひくので、
その間に主戦力になりそうな人達攻撃をヨロシク。
皆への防御魔法使用は駄目もとで書いておく。
(スキル持ってないから)
荷車引くのは時々交代しようぜ。疲労も分散した方がいいし。
・・・と、そんな感じでプラン書いてくる。
-
2014/05/14-22:29
囮の荷車の件、出発時間がせまってるので、念のため
基本は本物の荷車押し、ただし
他の人に囮台車を引くアクションがない場合は、俺が囮の方を引っ張る旨
入れてます(その場合はレーゲンが本物の荷車の後ろ押すよ)
間もなく出発。みんなよろしくー! -
2014/05/14-00:17
荷車と物資は渓谷手前に隠して、囮用荷物だけ設置するなら荷車一つでよさそうだけど
どっちにするかは皆にあわせるわ~。
もし荷車二つの場合、おっさんは重そうな物資用荷車を牽こうかねぇ?
あとは囮用荷車の方を牽く人が必要でしょうね。
こっちは軽いなら後ろから押す人は必要ないかもしれないけど、
柊崎が言うように荷車に乗るの希望の人がいれば、こっちも押す人がいるわね。 -
2014/05/13-23:33
>スウィン
固定しなくても近くで戦ったりしたら壊れる可能性ありそうだし
やっぱりおとり用の荷車はあった方がいいと思う
(なので、そのまま荷物固定でいいと思う)
あと、荷車後ろから押すの俺やる。投網は他の人お願いします。
レーゲンは基本的に、ヤグアートが高い所にいるとき
地上に撃ち落とす為に翼を狙って攻撃しようと思ってる
飛べなくなれば、かなりこちらが有利になるよね -
2014/05/13-15:46
おっと、囮用の荷車があると勘違いしてたわ。
荷車が一つなら、囮を固定しといて壊されちゃ嫌だし、固定しなくていいかね。
精霊達には警戒と緊急時の対応をしてもらいたいから、おっさんが荷車牽こうか?
その場合、力や体力はあんま自信ないから、誰か後ろから押してくれよ~。
だれか牽くの希望の人がいるなら、おっさん後ろから押すけど。
今までの流れで一応プラン提出したわ。白紙回避~。変更・追加があったら修正するわね。 -
2014/05/13-07:02
ごめん、休んでた間に人増えてるー。みんなよろしく!
>スウィン
おとり荷物にヤグアートを完全に固定できなくても、もたついている前に
網投げれば成功しやすいんじゃないかな
荷物くっつけるとなると荷車は本物用とおとり荷物用で2つ必要だね、
(おとり用は見かけだけで重くならないはず)
嫌いな匂いつけてても、人に襲いかかる可能性あるか やっぱり。
好物とは別に動物の生肉とか用意しとこうかな……
荷物の方にいけばトリモチ(+投網)、人の方に来たら投網で対応って感じかな
>直香
戦う場所が渓谷となってるから、渓谷の手前までなら荷物運んでも大丈夫じゃないかな
戦い終わって出発地点まで荷物取りに行くのも大変かなと思うんで -
2014/05/13-01:26
荷車牽くの1~2名って言ったけど、後ろから押すひともいれば楽かな。
1人ぐらいは後方確認のために荷台に乗ってもいい気はするー。 -
2014/05/13-01:17
りょーかい。敵は完全に退けてから本物を出す、と。
たしかに敵の狙いが物資とは聞いてないから、僕らを襲う気満々かもねー。
あと荷車なら、牽く人員が必要なんだよね?
動物がいるなら馬車とか別の言い方してるだろうし。
荷車牽く人が1~2名、あとはみんな警戒要員になるのかな。
あ、出発前の調べ物は役に立つ気配が皆無なので僕らは準備にー?
本物の荷物も途中まで運ぶんだっけ? -
2014/05/12-23:44
対策しててもおっさん達を狙ってきたら、そのまま戦うしかないでしょうねぇ。
ふむ、投げ縄は難しそうでも投網は有効かも?やるなら攻撃力が低い神人が使うといいかも。
出発前は瑪瑙と一緒に調べ物するか、信城と一緒に準備するか、かね。
おっさんは準備の方にまわろうかと思ってるけど、変更もできるわ。
>柊崎
おっさんのイメージでは、敵を撃破、または退散させたらって感じ。
動きが鈍くなっただけじゃ、追ってくるかもしれないしね。 -
2014/05/12-02:54
出発日の関係で0時過ぎに増殖しました?
クキザキ・タダカですよ。よろしくねー。
スキルは「カナリアの囀り」が使えるようになったから、
10m四方の範囲攻撃が可能に。時間掛かるし数は撃てないけど。
ある程度敵の行動範囲しぼれるなら、当てることはできるかにゃー。
囮で敵を撃破、あるいは動きを鈍らせることができた、と判断したら
本物の荷車を後から走らせる、でいーのかな? -
2014/05/12-02:11
いつ増えたのかわかりませんが、先輩方、よろしくお願いします。
>いつき
そうだな。そうした方がいい。
ただ、渓谷の木々から、音もなく低空滑降をしてくるんだ。
おとり荷物から離れた方がいいとはいえ、ヤグアートの様子見ができる位置には、いた方がいい。
>スウィンさん
念の為ですが、翼の大きさも調べておきます。翼が大きければ狙えるかもしれません。
本物の荷物に嫌な音や臭いをつけるのは、自分としては賛成ですし、
投げ縄や投網は、網目が細かく、ヤツが脱出しづらいものを選べば上手くいくかと思います。 -
2014/05/12-00:59
セイリュー・グラシアだ。よろしく。
>スウィンさん
投網は、網を広げるように投げて
敵の飛行を邪魔する目的に使うなら
充分有効な手だと思うぜ。良い案だと思う。
ヤグアートが荷物の方を目的にしてくれてたらいいけど、
オーガの一種だから「人畜」を目的にしているかもしれないんだよな。
荷物より俺たちに寄ってくる可能性もあると思う。
新鮮な屠りたて生肉の方がウマイし。
ライフビショップはレベル1なのでスキルが当てにならない。済まない。
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2014/05/12-00:39
おとりじゃない本物の荷物の方にも、一応嫌いな匂い(または音)をつけといたら安全かしら?
投げ縄や投網…は避けられるかねぇ…。
イルドは前衛、おっさんも一応前衛かね。おっさんは危なくなったら下がらせてもらうけど。
イルドは命中率低いのよね…あたる事を祈ってるわ。無理でも盾くらいには…。 -
2014/05/12-00:33
遅れて登場、スウィンよ。よろしく~。今回のメンバーは
ハードブレイカー1
テンペストダンサー1
プレストガンナー1
ライフビショップ1
エンドウィザード1
で、綺麗にわかれたわね。
敵は倒せなくてもいいって事だけど、できれば倒せたらいいわねぇ
できれば翼を狙っていきたいと思ってるわ
おとりの荷物はいっそ荷車に固定して、ベタベタの罠とあわせて敵を動けなくする事はできないかしら?
さすがに無理かねぇ?まあ、やっても損はないかも -
2014/05/11-00:05
気になるのが、俺たちが嫌な匂い、おとり荷物が好きな匂いになるから
一旦おとりから離れた方がいいのかな
(後で戻ってきて、おとり荷物に触れた形跡があれば成功と判断して戦闘開始)
他何か思いつく事あったら教えてね。
なにぶん初めてのアドベンチャーだから、こんな感じでいいのか心配なんだ(笑)
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2014/05/11-00:04
名前は好きに読んでいいよ(俺も勝手に瑠璃たちを呼び捨てしてたし)
瑠璃たちがヤグアートについて調べている間、
俺たちはおとり荷物の準備。
渓谷にはいる前に、俺たちは奇襲防止のため嫌いな匂い(または音)、
おとり荷物にはトリモチのようなべとべとしたものと
ヤグアートの好きな匂い(または好物)をつける
そのおとり荷物積んだ荷車で渓谷に入るって感じでどうかな
(本物の荷物は破損したらいけないので、離れたところに置いといて戦闘後に回収)
現時点では2組しかいないから、一緒に行動したい
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2014/05/10-01:41
いつきさん……って呼んでいいんだろうか。いや、だが、ここは……。
(※外見を見て、どう呼ぼうか悩んでいる)。
了解しました。
むしろ好きな匂いや好物を調べて、誘い出した方が
ヤツが寄ってくる確率が高くなるので、わかりましたら連絡します。 -
2014/05/09-23:02
場所がわかれば、相手が崖の上でもレーゲンの銃で狙えるはず
地上に落とせれば、珊瑚達の攻撃も届くだろうし
一応倒せなくてもOKとはあるけど
二度と来ない程度にはダメージ与えときたいんだよね
この先消えてしまうかもしれないとしても、
今この村に住む人たちがいるんだから、安心して暮らせるようにしたいよ -
2014/05/09-22:50
瑠璃の奇襲攻撃の防止案、了解。
逆に好きな匂いも聞いてもらっていいか?
攻撃案の一つとして考えてるのが、おとり用の荷物を作って
表面にベタベタするもの(ジェルとかトリモチとか)を塗る
それがヤグアートの身体に一部でも付けば動きずらくなるかもしれないし
木々に潜んだ時に枝や葉っぱに張り付いて
動きづらい、または音を立てて場所がわかるんじゃないかなって。
思いついただけなんで、うまく使えるかはわからないけど。 -
2014/05/09-22:49
初めまして、信城いつきだ。
実は俺もアドベンチャー参加は初めて。
精霊のレーゲン(プレストガンナー)と一緒にどうぞよろしく!
スキルはダブルシューターでいく予定
動きが素早いらしいから、当てるのは大変かも
敵のスピードを抑える必要ありそうだ -
2014/05/09-01:07
今回初参戦となります、瑪瑙瑠璃です。
空飛ばないテンペストダンサー、珊瑚と共によろしくお願いします。
ヤグアートと戦闘する前に
ヤツの嫌がる音や臭いを調べ、奇襲攻撃を防げるか試みた上で戦闘したいと思っています。