台風と夕食(草壁楓 マスター) 【難易度:簡単】

プロローグ

●台風がやってきた

「台風が接近しております!お出かけは控えてお過ごしください」
 テレビでは台風が接近していること懸命に伝えている放送がずっと続いている。
「台風か……」
 神人はランチのナポリタンスパゲティーを口に運びながらそう呟く。
「今回のは結構デカいものみたいだぜ」
 その正面に彼の精霊が一緒にカルボナーラを口に運ぶ。
「もう暴風域には入っているみたいだね」
 外はけたたましい音、木々は横に倒れるのではと思うような程に風に押されている。
「外に出してる植木鉢、自転車なんかは朝にしまったから大丈夫だと思うぜ」
 精霊は親指を立てて準備は万端と笑顔を向けてくる。
「尚、この台風は大変スピードは遅く、朝まで現在の天気が続くと発表されております」
「朝まで……やけに長い……」
「けして海などには近付かず、ご自宅で――」
 そのままテレビは台風の情報を放送し続ける。
 朝までと聞いた神人は少し不安を表情に浮かべる、と精霊は笑顔で彼の顔を覗き込む。
「俺がいるんだから大丈夫だって!」
 任せろ!と満面の笑みを浮かべている……、が神人はいきなり立ち上がる。
「ヤバイ!!夕飯の食材ないかも!」
 それは台風で不安になっているわけではなかった。
 神人は冷蔵庫に駆け寄り、扉を開ける。
「ヤバイ……」
 冷蔵庫の中には―

 【野菜】
  ゴーヤ、ピーマン、にんじん、ズッキーニ、大根、南瓜

 【肉・魚】
  牛すじ肉、イカのゲソ

 【その他】
  お米、牛乳、麦茶

 中身は以上だった。
 スパゲティーは今食べているので終ってしまった。
 調味料はなんとかだいたい揃っている。
「何もないのか?」
 後ろから精霊も覗き込むように冷蔵庫をみる。
「纏まりの無いものばかりだな……」
「今日は……」
「今日は?」
「いや、どうにかするよ」
 そして神人はどうにかしようと考え出した。
 一汁三菜を作ってやると。

解説

●目的
 冷蔵庫の中に入っている食材を使用して一汁三菜を作り、パートナーと台風を乗り切る。

●食材等
 ・野菜
  ゴーヤ、ピーマン、にんじん、ズッキーニ、大根、南瓜

 ・肉と魚
  牛すじ肉、イカのゲソ

 ・その他
  お米、牛乳、麦茶

 ・調味料は各種ある設定にします。

●台風
 ・暴風域に自分達の住んでいる地域が入ってしまっています。
 ・今回の台風はとても強く外には出られません、庭に野菜を植えていたとしても採りにはいけません
  のでご了承ください。
 ・停電にはならないので電気は通っています。
  ミキサーやレンジ等電化製品は使用できます。(料理終了後に停電する場合はあるかもしれません)

●注意
 ・アドリブが入る場合がございますのでご了承ください。
 ・プロローグは一例ですので、調理するのは神人、精霊又は2人で一緒、どれでも構いません。
 ・料理をしながらイチャコラしても、食事をしたあとにイチャコラしても問題ないです。

 窓ガラスが割れないために、窓ガラスを補強したので300ジェール消費します。

ゲームマスターより

草壁 楓です。
ご閲覧ありがとうございます。

最近台風が多く、今回のエピソードを考えてみました。
どのような料理が出来上がるのか楽しみです。
それでは、ご参加お待ちしております。

リザルトノベル

◆アクション・プラン

李月(ゼノアス・グールン)

  調理中
台所から追い出したい でも
築ウン十年平屋の軋み音が半端なく 気が紛れ有難くもある
「縁起でもない

◆指パクに動揺 こんなラブコメネタを…!(照
と思ったら
「いや毒受けた訳じゃないから(ミイラにする気か

◆「こ 怖くないよ ただ…
図星指された
「子供の頃1人で嵐の夜に留守番した事があって トラウマって程じゃないけど…
「頼りにしてるよ (微笑

◇献立
ご飯
ズッキーニ浅漬け
主 ピリ辛炒め ピーマン 牛筋 人参
副 マリネ ゴーヤ ゲソ
副 南瓜の牛乳煮
汁 大根味噌汁
〆 主菜少量刻みご飯に乗せた麦茶漬け「オツだろ

◆雷鳴に驚き相棒に掴まる
提案拒否 「子供じゃあるまいし
結局 居間のソファで寄添い眠る事に ベッドは危うい気がして譲歩案
(…悔しいけど落着く
熟睡


信城いつき(ミカ)
  メイン:いかと人参ピーマンの豆板醤炒め
小鉢:牛すじの煮込み
ズッキーニとカボチャ(+牛乳)のスープ

台風近づいてるね
うちには作り置きがあるから、レーゲンは大丈夫だけど
ミカの方が……よし、今日はこっち泊まる!
仕事が忙くてちゃんと食べてないみたいだし、ご飯作ってあげる!

冷蔵庫の中もほとんど無い。こうなったら全部使い切りたいな
まずは牛すじ肉の下ごしらえして、あとはしばらく煮込む。

メインは…多分、この組合わせなら行ける
(料理はご近所の主婦達に教わった。作業や分量は目分量)
スープはスープの素と残りの野菜で簡単に

ゴーヤ…見なかったことにしたかったのに

あり合わせで作ったけど、おいしい?
よかった

今、何か言った?


テオドア・バークリー(ハルト)
  なかなか酷いことになってきたな…
母さん達、今日は帰れないってさ。
ハル、これ夜明けまで続くっぽいし今夜は泊まって行けば?

強風と雨の中自撮りしに行くなよ。
…その窓にかかってる手は何だよ言ってみろよ、
雨が吹き込むと掃除が面倒なんだからな、
それ以前に風邪引くっつーの。

夕飯作り、俺が何か手伝えることある?
…ん、よく分からないけど任された。

ん、美味い。
俺だけだったら多分米だけ炊いて
済ませてただろうから助かった

二人分の寝床の用意するのは昔から俺の役目
通い合わせてない、何も起きないから。
ほら、こっち寝れるようにしたからさっさと…
煩い!寝かせろ!
こうなったらとっとと沈めて黙らせよう
こら、逃げるなっ!


●少しの苦さと大きな優しさ

 信城いつきは窓の外を眺めていた。
「台風近づいてるね」
 彼は自身の精霊であるミカの部屋へと訪れていた。
 いつきがここに来るときにはまだ小雨程度の空模様だったのだが、帰る夕方頃には豪雨と強風、時には暴風へと変貌していた。
「風強くなってきたな、早く帰った方が……」
 ミカも一緒に外を眺めつつ、これ以上風が強くなっては自宅に帰るのも不可能になると考えいつきに言うのだが……
「うちには作り置きがあるから、レーゲンは大丈夫だけど」
 どうやら聞いていないようだ。
 レーゲンとは彼のもう1人の精霊である。
 同居をしているし、自宅にいるであろう彼ならば大丈夫だろうと考え至る。
「ミカの方が……よし、今日はこっち泊まる!」
 ミカの私生活を知っているいつきにとって今は目の前にいる彼の事が心配である。
「仕事が忙くてちゃんと食べてないみたいだし、ご飯作ってあげる!」
 笑顔をミカに向けるいつき。
 自分に今できることはそれが一番だと思う。
 そんな笑顔を向けられたミカは驚きを隠せないように目を見開いた。
「作ってくれるのはありがたいが」
 そんな彼の気持ちを察しミカも薄く笑顔を作る……が、頭を掻きながらキッチンへと視線を移す。
「ここ数日仕事が忙しくて買い物してなかったからあまりないぞ」
 ジュエリーデザイナーの卵である彼にここ数日依頼が殺到したこともあり現在食材がないのだと告げる。
 それを確認するため、いつきは冷蔵庫へと歩き出しドアを開けてみる。
「あ……」
 その中を見るといつきは絶句状態になる。
 ゴーヤ、ピーマン、にんじん、ズッキーニ、大根、南瓜、牛すじ肉、イカのゲソ、お米、牛乳、麦茶。
 それが中身の全て。
(本当にほとんど無い)
 少しの間だけ体を硬直させはしたが、全くないわけではないと気を持ち直すと気合を入れたように一つずつ食材を取り出していく。
「こうなったら全部使い切りたいな」
 こうなれば今ある限りの食材を使って調理をしようと思い至った。
 いつきらしいポジティブ精神である。
 冷蔵庫の中の食材を全て取り出し終わると、丁寧に作るものによって分けていく。
 それを興味深くミカはじっと見つめる。
 
 最初に取り掛かったのは牛すじ肉。
 脂身が多い牛すじ肉を食べやすいように包丁で切り刻む、と硬そうな部位に切り込みを入れていく。
 下茹でを済ませると、醤油やみりん、調理酒、などを小鍋にいれ、グツグツと煮込み始める。
「行き当たりばったりなのに、ちゃんとした料理になってるのがすごいな」
「ちゃんとって!」
「褒めてるんだよ」
 振り返って反論のような言葉を向けてきたいつきにミカは苦笑を浮かべて返す。
 確かに手際も良く、テキパキと作っていく様は素晴らしいものである。
「メインは……多分、この組合わせなら行ける」
 イカのゲソ、人参とピーマンを一緒に炒めていく。そこに調味料で味を調え、最後に豆板醤を絡める。
 次に取り掛かったのは、南瓜とズッキーニ。
 それを一口サイズに切ると中ぐらいの大きさの鍋に牛乳を目分量で入れていく。
「スープはスープの素と残りの野菜で簡単に」
 と言っているが、なかなかに残りとは思えないスープが出来そうだ。
 いつきがここまで手際が良いのはご近所の主婦の方々に教わっていたからである。
 また目分量ではあるものの、今まで教わったことや、見ていたことでその分量は細かな誤差はあれど申し分ない。
 いつきが料理をサクサクと進めているのを眺めていたミカであったが、一つ食材がポツンと置かれていることに気付く。
 それはゴーヤ……いつきばかりにはと考えていたミカはそっとそれを手に取る。
「それなら俺がサラダでもつくるか」
 いつきはその声に振り返るとあからさまに嫌な顔をする。
(やっぱりチビが嫌そうな顔してる)
 その嫌そうな顔を見ながらミカはミカで不適な笑み。
 その顔にさらにいつきのいやーな顔が深くなる。
「ゴーヤ…見なかったことにしたかったのに」
 料理をしながらブーブー文句をいういつきの傍にミカは近付くとゴーヤを洗い出す。
「冷蔵庫の中使い切りたいんだろう、がんばって大人の仲間入りしろ」
 そう言ったけどー、なんてまだ文句を言っているいつき。
 そんな彼の様子にミカはゴーヤを見ながら、
(できるだけ苦くならないようにはしてやる)
 と優しさを溢れさせていた。

「いただきます」
 机の上に並べられた料理を見て微笑みながらミカが言う。
「いただきまーす」
 ミカと向かい合わせるように座ると手を合わせて言う。
 食卓に並んだのは、メインとして『いかと人参ピーマンの豆板醤炒め』に、小鉢に『牛すじの煮込み』、そしてスープに『ズッキーニとカボチャのスープ牛乳仕立て』の3品。
 それにプラスしてミカ特製のゴーヤのサラダと調理中に炊いておいた白米である。
 ミカはさっそくとイカのゲソと人参ピーマンの豆板醤炒めに箸をつける。
「麦茶しかないのが辛いな」
 一口食べると感想ではなく麦茶を見る。
「ピリ辛でお酒にあいそうなのに」
 今は麦茶しかない……とても残念そうにしているミカ。
 そんな様子にいつきは笑う。
「牛すじはご飯と一緒に食べてもいける」
 次は牛すじを口に運ぶと、目を見開く。
 あの短時間でここまで柔らかく、そして甘辛い味が口に広がる。
 もちろん一緒にご飯を口に放り込むと感心したように数回頷いた。
「あり合わせで作ったけど、おいしい?」
 暫くは待っていたが、待てど感想をなかなか言ってくれないミカに尋ねる。
 いつきにとってそれが一番気になること。
「うん、うまい」
 口に入っていた食べ物を飲み込むとミカは微笑を浮かべて言う。
 旨いのだからこんなに箸が進むんだ、と付け足して。
「よかった」
 その様子にいつきは途端に力が抜けていくような感覚を覚える。
 主婦の方々に心より感謝を心の中で述べつつ。
「台風のおかげだな……」
 窓の外はさらに暴風雨となっている。
 そんな外を眺めつつポツリと呟くミカ。
 いつきは聞こえなかったようで、
「今、何か言った?」
 と食事をしながら聞くが、ミカは首を横に振る。
「いや、何も。それよりサラダ食べろよ」
 ミカが作ったゴーヤサラダはいつきの前に差し出される。
 簡単に作った、ゴーヤにごま油、マヨネーズ等で合えたもの。
 いつきは避けるように体を仰け反らせる。
「食べてみろ」
 何度も言われればいつきとて拒否はできなかった。
 恐る恐る箸をのばしゴーヤを掴むと瞳を閉じて口に放り込む。
 思ったより苦くなかったのか、確かめるようにもう一口。
「おいしい……」
 ミカはあまり苦くならないようにと下処理をきちんとした成果。
「苦くないだろう?」
「うん、ありがとう!ミカ!」
 2人の食卓は外の暴風雨とは逆に優しさで溢れていた。


●楽しい夜

 テオドア・バークリーとハルトはテオドアの家でテレビを見ている。
 そこでは台風の情報が常に流されており、これから更に風が強くなるので外出は控えるようにアナウンサーが話している。
「なかなか酷いことになってきたな……」
 ハルトはテレビを見ながら頷く。
「母さん達、今日は帰れないってさ」
 先程電話が鳴り、外出している家族は危険のために外出先に泊まるとの連絡があった。
「マジか」
 今日は母親達はここより南の方向へと出掛けたはずだと、テレビでその位置を確認する。
 確かに今一番酷そうだ。
「ハル、これ夜明けまで続くっぽいし今夜は泊まって行けば?」
 外を見れば木が横になるのではという程の強風で、ハルトを帰すのはかなり心配な状況だ。
「じゃあ泊まるって今のうちに家に電話しとくわ」
 善は急げとスマホを取り出すとハルトは家族に電話をする。
「あー、明日帰るから……うん、わかってるって」
 ハルトの声が居間に響く。
 数分で電話が終わり、ハルトは窓の外を見る。
「おばさんなんだって?」
「迷惑かけないようにって」
 ハルトは外を見る同時にスマホを見る。
 その様子にテオドアはソファーから立ち上がり彼に近付く。
「強風と雨の中自撮りしに行くなよ」
 少し呆れたようにテオドアが言うとハルトは振り向き、
「やだなそんなことする訳ないじゃないですか」
 ハハッと少し怪しげな笑みを浮かべつつハルトはテオドアに返す。
 そんな言葉を言われてテオドアは疑いの目を止めることはない。
「……その窓にかかってる手は何だよ言ってみろよ」
 腕を組むと、更に疑いの目を向け視線を窓枠に掛かっている手とスマホへと移す。
「窓のそばにいるのもスマホ片手なのもたまたまですー」
 その視線から外れるようにハルトは居間の中心へと移動を開始する。
「雨が吹き込むと掃除が面倒なんだからな」
 後を付いていくようにテオドアはそう言いながらクドクドといっているが、ハルトはそれを楽しむように聞いている。
「それ以前に風邪引くっつーの」 
 この状況で風邪を引いては一難去ってまた一難。
 2人のそんな様子は家族のように仲睦まじさが見えていた。

「夕飯なら俺作るぜー!」
 もう時刻は夕方過ぎ、さすがに空腹になったことをテオドアが告げるとハルトは勢い良く挙手しながら言う。
 そして鼻歌を歌いながらキッチンへと向かう。
 その様子を見ながらテオドアも少し後からキッチンへと向かう。
 冷蔵庫の中身を見てハルトは考えていた。
「俺が何か手伝えることある?」
 考えているハルトを覗き込みながらテオドアはそう申し出た。
 その言葉に一瞬ハルトが凍りつく。
(……まずい、テオ君に任せるとこの残り少ない食材から)
 冷蔵庫の中身は少なかった。
 ゴーヤ、ピーマン、にんじん、ズッキーニ、大根、南瓜、牛すじ肉、イカのゲソ、お米、牛乳、麦茶。
 これしかないのだ……。
(一体どんな未確認物質が生成されるか……)
 考えただけで……恐ろしい状況である。
 テオドアに何かさせられないか、と考えることが増えたハルト。
「そうだ!皮剥こうテオ君、任せたから」
 皮を剥く必要のある食材をテオドアの前へと置くと、
「これテオ君にしかできねーから!」
 満面の笑みでテオドアに告げる。
 皮を剥くならば未確認物質が出来上がることはない……たぶん……。
「……ん、よく分からないけど任された」
 まずは、とテオドアは人参を手に取ると慎重に皮を剥いていく。
 それを動悸を抱えながらもハルトは見つめる。
 しかし数分は見守ったもののこのままでは夕食は作れないと、テオドアを信じ夕食の支度を開始する。
 白米を研ぐと炊飯スイッチを押し、牛すじの下ごしらえを済ませる。
 半月に切ったズッキーニを三杯酢の中にいれ少し置いておくと、テオドアに剥いてもらった人参を千切りする。
 テオドアは皮剥きを全て終え、テキパキと料理を作っていくハルトを眺めていた。
(ハルって……器用だよね)
 包丁捌きも慣れているのか、サクサクと切っていく。
 まな板に当たる包丁の音がなんとも心地良い。
「あとは……」
 ピーマンを千切りにすると、先ほど千切りした人参と合わせる。
 熱したフライパンにごま油をファサっと野菜を入れると炒めだす。
 醤油と砂糖を入れ味を調え、最後に白胡麻をふれば一品出来上がる。
「美味しそうだね」
 テオドアの言葉に得意そうにハルトは笑顔を返すと煮込み中の牛すじと大根の味見をする。
「よし、いーかんじ」
 そのまま他の物を作成し終わる時に炊飯の炊き上がり「ピー」という音が鳴り響いた。
 これで夕飯は完成した。

「ん、美味い」
 食卓に並べられた食事に舌鼓を打つテオドア。
 並べられたのは、『大根と大根の葉の味噌汁』、『牛すじ大根』、『ピーマンと人参のきんぴら』、『ズッキーニの酢の物』の4品。
「よかった!」
 テオドアの笑顔にハルト自身も安心したような笑顔を向けてくる。
「このきんぴら、かなり好みだよ」
「……意外に何とかなるもんだな」
 最初はどうなるかとも思ったが、こんなにテオドアが喜んでくれるならと、ハルトは満足していた。
 夕飯も終わり、外は暴風雨の中夜中になりかかっていた。
 二人分の寝床を用意しているテオドア、それは昔からの彼の役目である。
「心通い合わせた二人が一つ屋根の下同じ部屋……」
 その様子を見ながらハルトはニタニタと笑いながらそう言い出す。
 寝床を作りながらそんなハルトにテオドアは少し大きめな声で発言する。
「通い合わせてない」
 布団をバサバサとしながら、ハルトを一つ睨みつける。
「ハッ、これはいちゃいちゃイベント発生の予感!テオ君!」
 そんなテオドアの行動は華麗にスルーをし、ハルトはハルトで話を進めていく。
 そんな彼に少しの苦笑を浮べながらやれやれ、とテオドアは布団を丁寧に敷いていく。
「何も起きないから」
「ないのー?」
 テオドアの言動に明らかに肩を落とすハルト。
 丁度寝床の準備ができたようでテオドアはハルトの布団を叩きながら、
「ほら、こっち寝れるようにしたからさっさと……」
 と言うのだが、ハルトはニヤっと口角を上げる。
「……じゃあ先制攻撃!」
 傍にあった枕を取るとテオドアに向かって投げ出す。
「な!煩い!寝かせろ!」
 いきなりのハルトの攻撃に一瞬怯みはしたものの、そこはウィンクルムお互いを理解している。
「これでもくらえーっ!」
 さらに座布団やらあらゆる物(柔らかい物限定)が飛んでくる。
(こうなったらとっとと沈めて黙らせよう)
 こめかみをピクピクと動かしながらテオドアはそう決める。
「今夜は寝かせないぜっ!」
 ハルトの猛攻に怯むことはもうない。
 テオドアも近くにあった枕を取ると、ハルトに投げつける。
「こら、逃げるなっ!」
 テオドアの反撃にハルトは寝床から逃げだす。
 それを追うかのように掛け布団を持って追いかけるテオドア。
 2人の夜はまだまだ台風を吹き飛ばすほどの笑顔を浮かべて続いていくようだ。


●安らぎの場所

 李月はキッチンに立っている。
 家はギシギシと音を立て、築ウン十年の平屋は揺れていた。
 今日は大型の台風が接近しており、外に出ることは出来ず有り物の食材で調理をするしかなかった。
 そんな李月を後ろからずっと抱き締めているのは精霊のゼノアス・グールン。
(台所から追い出したい……でも)
 はっきり言って背後から抱き付いてきているゼノアスは鬱陶しくも思っていたが、今激しく揺れている現状を考えれば気が紛れるのも事実。
 今はそんな彼の存在は有難く感じてきていた。
「家が吹っ飛んでもオレがついてるぜ」
 笑顔を浮べながらゼノアスは安心させるような声音で李月にそう告げる。
 ゼノアスも嵐にビクつき気味の李月を察しての行動であった。
「縁起でもない」
 そう言いながら李月はピーマンや人参を一口大の乱切りにしていく。
 そんな時一際大きな風が吹いたのか大きく平屋が揺れだした。
 李月はその揺れに驚き包丁捌きが乱れる。
「つっ」
 その乱れた包丁は李月の左人差し指を切る。
「切ったか?」
 それに驚いたゼノアスは咄嗟にその指を取るとパクリと口の中に含んだ。
(こんなラブコメネタを……!)
 ゼノアスの咄嗟の行動に顔を赤く染めつつ更なる驚きを見せた。
 チューチューと音を鳴らす程に李月の血は吸われていく。
「いや毒受けた訳じゃないから」
 そんなに血を吸われたらミイラにでもなってしまいそうだとはにかむ李月。
「お? そうだな」
 それもそうだと口から指を離す。
 するとゼノアスは居間へと向かい小走りで消えていく。
 直ぐに戻ってきたゼノアスの手には絆創膏があった。
 切った李月の指を軽く水洗いをすると乾燥するまで待ち、そして綺麗に絆創膏で巻いていった。
「何か手伝うぜ?」
 そのゼノアスの申し出に李月は微笑みながら半分に切られたゴーヤを差し出す。
「じゃあ、このゴーヤの種をとってくれる?」
 わかったと頷きゴーヤを受け取る。
 他の簡単な作業をゼノアスに任せると、李月は南瓜の牛乳煮の味見をすると最後の仕上げに塩を振る。
 ゼノアスは言われた作業が終ったのか、再び後ろから李月を抱き締めると口を開く。
「嵐が怖いか?」
「こ 怖くないよ ただ……」
 図星を指されたと李月は困りながら振り返り視線をゼノアスに向ける。
「子供の頃1人で嵐の夜に留守番した事があって トラウマって程じゃないけど……」
 幼少の頃の記憶……嵐の夜家族は嵐のために帰宅することが出来ずにただじっと家で留守番をしていた。
 今程ではないが、その日も家が揺れて、心細かった。
「心細い……か?」
 真剣な眼差して聞き返してくるゼノアスの表情にコクンと一つ頷く。
「オマエは1人じゃねぇ」
 そっと李月の頬にゼノアスの手が添えられる。
 そのまま撫でているとゆっくりと李月は瞳を閉じ。
「頼りにしてるよ」
 と微笑みを浮べながらそう答えた。

 夕食の準備が出来、机の上には『ズッキーニ浅漬け』に『ピーマンと牛筋と人参のピリ辛炒め』、『ゴーヤとゲソのマリネ』と『南瓜の牛乳煮』最後に『大根の味噌汁』が並んでいる。
 相棒の飯は何でも旨い!幸せ!
 とゼノアスは満面の笑顔を浮べながらパクパクと口へと運んでいく。
 その様子に李月も嬉しそうに微笑んでいた。
 大方食べ終わった頃、最後の締めとして主食であった『ピーマンと牛筋と人参のピリ辛炒め』を細かくみじん切りにし、白米にその主食を乗せる。
 そこに更に麦茶を掛ければ麦茶漬けの出来上がりだ。
「どうぞ」
 ゼノアスの前へと麦茶漬けを置くとそれは美味しそうに湯気を立たせていた。
「いただきます!」
 口の中に麦茶の香ばしさと主食のピリ辛具合がマッチして満たされつつあるお腹に更に幸福感が広がっていく。
 更なる笑顔を見せてくれたゼノアスに李月はとても嬉しそうに微笑む。
 そんな和やかな雰囲気を壊すようにけたたましい雷鳴が鳴り響く。
 その雷鳴が終るか終らないかの時追い討ちのように部屋の電気が一斉に消える。
「ゼノ!」
 驚いた李月は咄嗟にゼノアスの右腕を強く掴んだ。
「リツキ大丈夫だ、少し待ってるんだぜ」
 ゼノアスは落ち着かせるように掴まっている手を数回撫でると近くにあったラジオを取る。
 何かあった時にと近くにおいて置いたのが功を奏した。
 そのラジオにはライトが付いている。
 カチっと音と共に李月とゼノアスの周りをふんわりと明かりが灯される。
「あ……」
 李月は少し落ち着いたのか掴んでいた手を少し緩めるものの、ゼノアスを離そうとはしない。
 そんな様子の李月を再び落ち着かせようにとその手を再び撫でつつ、今の彼は子供のようだと微笑みを浮かべているゼノアス。
 そしてゼノアスは決意をする。
「今夜は一緒に寝るぞ!リツキ!!」
 今日の彼の表情からとても不安であることは確実で、そんな彼を一時たりとも放っておけるわけはない。
「は?」
 さすがにその申し出に掴んでいた手を離すと首を横に振る。
「何を言ってるんだよ!ダメだよ……子供じゃあるまいし」
 ゼノアスから視線を逸らすと李月は拒否の姿勢をとっていた。
 それでもゼノアスは彼の肩に手を置き、
「一緒なら怖くないぜ」
 と優しい声音と表情で彼の顔を覗き込む。
 その様子に李月も折れるしかなかった。
 ゼノアスの押し切りの成功だ。

 同じベッドで寝るのは少々危険なような気がした李月は譲歩案として居間のソファーで寄り添いながら寝ることを提案した。
「寒くないか?」
「大丈夫だよ」
 まだ寒い季節ではないが、今日は暴風雨……ゼノアスの気遣いである。
 そっと寄り添われ李月はタオルケットに顔を埋める。
(……悔しいけど落着く)
 自分がいかに不安になっていたかを再確認し、今ゼノアスがいることに心で感謝しつつ眠気が襲ってくる。
 そしてそのまま李月は眠りに付く。
 眠りに付いたパートナーに安心したのか軽い微笑みを浮べながらゼノアスも眠りに付く。
 それから数時間後……外はまだ風の音がマシになってはいたが平屋は揺れていた。
 余程疲れたのだろう、李月は熟睡している。
 ゼノアスは瞳を開けると李月の様子を見る。
「寝てるな……」
 その顔をジッと見つめる、今は安心したように眠っている李月の額の髪を優しく掻き揚げると優しいキスを落とす。
 これから先も安心して李月が眠れる場所になっていこうと。
 次の日の朝、2人を包むように太陽の優しい光が部屋中を照らしていた。 



依頼結果:大成功
MVP
名前:李月
呼び名:リツキ
  名前:ゼノアス・グールン
呼び名:ゼノアス/ゼノ

 

メモリアルピンナップ


エピソード情報

マスター 草壁楓
エピソードの種類 ハピネスエピソード
男性用or女性用 男性のみ
エピソードジャンル コメディ
エピソードタイプ ショート
エピソードモード ノーマル
シンパシー 使用可
難易度 簡単
参加費 1,000ハートコイン
参加人数 3 / 2 ~ 5
報酬 なし
リリース日 08月21日
出発日 08月27日 00:00
予定納品日 09月06日

参加者

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