手作り経営 イサヤふれあい動物園(瀬田一稀 マスター) 【難易度:簡単】

プロローグ

 好天に恵まれたこの日、イサヤふれあい動物園の園長イサヤ氏は、園内のベンチでため息をついていた。目の前ではペンギンたちが小さなプールに飛び込んで遊んでいる。かわいい。そう、かわいいのにも関わらず。
「どうして客が来ないんだ!」
 立ち上がったショックで、ベンチがガタリと揺れる。
「それは仕方がないですよ」
 傍らでは、副園長のササト氏が腕を組み、空を見上げていた。
「だってこの動物園、メインの動物がいませんから」
 イサヤ氏はくるりと振り返り、座ったままのササト氏を見下ろす。
「いるだろう、ここに! 愛らしいペンギンがっ」
「……ほかには?」
「滑らかな毛並みを持ったウサギも、手のひらにのるハムスターも、オリを登るサルもいる。ヤギも羊もウシも、カメもポニーもいる! ちなみに鶏にヒヨコだっているし、子猫のマイルだっている。なにが不満なんだ!」
「だからそのラインナップ自体ですって。それにマイルは園長の飼い猫でしょう」
 ササト氏は冷静に、それは冷静にイサヤ氏を見上げる。
「客が見たいのはライオンや虎なんです。象やキリンなんです。それがこの動物園にはいない」
「だってそんな大きな動物は危険だろう! 動物に触れられることをウリにしているのに!」
 イサヤ氏は力いっぱい叫んだ。ペンギンは地域住民、主に子供たちのお願いで飼育を決意したが、それ以外は皆、イサヤ氏が子供時代に触れあった動物たちばかりだった。動物たちの命を、あたたかさを直接感じること。今の子供たちにもその大切さを教えてあげたいというのが、イサヤ氏の持論である。持論ではあるが、正直、動物を養うのは金がかかる。ここまで閑古鳥が鳴いていては、動物園の継続はかなり厳しくなるだろう。
「仕方ありませんね」
 ササト氏は深く息を吐いた。
「では、イベントを開催しましょう」
「……イベント? しかしそんな金は……」
 イサヤ氏の言葉に、ササト氏はにこりと笑う。
「ここは手作りがウリなのでしょう? だったらとことんこだわりましょう。……僕だってね、園長、この子供時代の裏庭のような、小さな動物園を愛しているんです」


 数日後、A.R.O.A.本部には一枚のポスターが貼られた。
「イサヤふれあい動物園、お絵かき体験?」
「なんだ、これ?」
 首をかしげるウィンクルムに、A.R.O.A.職員が「そのままですよ」と返事をする。
「そこも書いてありますけど、タブロスからバスで一時間の距離にあるイサヤふれあい動物園は、今閉園の危機だそうです。そこで手作りのイベントを開催して、お客さんを集めたいとのことです。ちなみにこのポスターはそこの園長だという、肩に猫を乗せた人物にもらいました。タブロスを歩いて回って、めぼしいところに貼っているらしいですよ」
「へえ……」
「ちなみに動物園の入場料は一人50ジュール、お絵かきの道具は貸出無料で、絵はポスターとして今後近隣の保育園や小学校に配られるそうです。要は印刷代がないから、皆さんのポスターを活用させてくださいってお願いですと、園長は言ってました。参加特典は園内にいる乳牛ハナコのお乳を使って作ったソフトクリームですって」
「へえ……」
「どうです? 参加してみますか?」

解説

イサヤふれあい動物園で、動物と触れ合ってみませんか?
入場料は一人50ジュールです。
自由に動物園を楽しんでください。

園内で食事を楽しみたい方は下記のメニューをどうぞ。

副園長手作りのおむすび弁当(中身は3つ。梅、おかか、鮭) 30ジュール
園内の鶏が産んだ朝どり卵のゆでたまご 10ジュール
緑茶なら 青空休憩所(屋外)のセルフサービスで無料
搾りたて牛乳 20ジュール

お絵かき参加者には、画用紙とがばん、水彩絵の具またはクレヨンのセットが渡されます(どちらか選択してください)
好きな動物を描いてくださいね。
ちなみに参加料として、園内で買っている乳牛ハナコのお乳を使って作ったソフトクリームがもらえます。
これは副園長の試作品。評判がよければ今後売り出すそうです。
感想を言ってあげてください。

ご意見ご感想は、直接園長と副園長まで。動物園の今後に対してのアドバイスも大歓迎だそうです。


ゲームマスターより

少し変わった動物園でのデートはいかがですか?

皆さんが描いた絵はその後動物園のポスターに使われます。
上手に描けば、動物園にお客さんが増えるかも!

経営の危機の瀕したイサヤふれあい動物園を、どうぞ助けてあげてください。

リザルトノベル

◆アクション・プラン

木之下若葉(アクア・グレイ)

  何となく気になったから参加してみたけれど
動物園って言うより牧場みたいな雰囲気だね、此処

がばんと水彩絵の具を借りてベンチへ
ひなたぼっこしているペンギンと
隣で転寝している兎を描いてみる
いや、二匹とも気持ちよさそうだなぁって思ってさ

描き終わったら少し休憩
ふと前を見たらアクアが羊に埋もれて手招きしていた
……毛玉が二つって思ってしまったけれど、きっと間違っていない
何だかこの頃アクア撫でるの癖になってるなぁ

その後はおにぎり買ってのんびり
ソフトクリームを食べた時にも思ったけれど
素朴な味で美味しいよね

動物も皆、いい子だし
今回みたいな感じで
学校行事の写生会の会場とかに使えればいいのにね。この動物園




高原 晃司(アイン=ストレイフ)
  何か絵を描くと絞りたて牛乳のソフトクリームが食べられるらしいな!
美味い物はやっぱ食いたいから頑張るぜ!

「さて…俺は何を描こうかなー」
クレヨンと画用紙を借りて描く動物を探す!

折角だしペンギンでも描くかな
クレヨンでも描けそうだしな
ちゃんときっちり描くぜ!
…出来に関してはわかんねぇけどな?

あと動物園の要望としては…
動物にエサやりとかできねぇのかな?
できるのであればエサ代を有料にすれば多少動物園の足しにはなるだろうし
あとは子供限定だけどポニーに乗せるのもよさそうだな
係員の人の負担にはなりそうだけど案外注目を集めるかもしれねぇしな!

あ!勿論ソフトクリームは貰うな!
コレ絶対美味い!きっと濃厚なんだろうな


大槻 一輝(ガロン・エンヴィニオ)
  お絵かき、ねえ。(絵の具触りつつ
ガロン、絵心とかってある?

まあ、小さい時に習い事でしてた事はあるけど、止めた瞬間下手になるからなあ。

触れる動物園ってのは滅多にないからそれはそれで売りに出せるんじゃね?

(自分の絵みて。ねーわーとか思いつつ次の画用紙に描いていく系の男


(そっとガロンの絵みて。
・・・・イケメン滅びろ(ぼそっ
ん?何でもないでー

まあ、食べものが美味いのは良い事だよな。
でも小さい系の動物しか居ないならいっそ移動動物園的なことしても良いかもしんないけど。


 イサヤふれあい動物園は、地域密着、家庭的をウリにした動物園である。ライオンもトラもいないかわりに猫や鶏やウサギがいる。レストランも土産物屋もないかわりに、副園長手作りのおにぎりが食べられて、搾りたてのウシのミルクが飲めたりもする。
 敷地は広く、中央に休憩所を兼ねた広場がある。そこからくるりと周囲を見渡せば、動物のいるオリや小屋が一望できる、そんな仕組みだ。

「お絵かき……ねえ。ガロン、絵心とかってある?」
 広場の真ん中、休憩所のテーブルの上で、大槻 一輝は絵の具をいじりながら、傍らの相棒に尋ねた。いい天気だ。青空だ。ふんわり浮かんだ雲がソフトクリームみたいだと、さっきまではそんなことを思っていた。
 ガロン・エンヴィニオも、写生には一輝と同じく絵の具を選んだ。こちらはきっちりと揃った色を確認しながら「いや」と否定の言葉を口にする。
「昔に少しだけ描いたことがあるくらいだね。といっても、ほとんどたしなむ程度だよ」
 たしなむ程度、よく聞く言葉だ。しかしそれが本当に『たしなむ』程度なのかと、一輝は疑いの眼差しをガロンに向けた。なにせ、わりとなんでも器用にこなしてしまう彼である。
「まあ僕も小さいときに習い事でしてたことはあるけど、やめた瞬間下手になるからなあ」
 一輝はぐるりと園内を見渡した。
 さて、何を描くか。というより何が描きやすいかという問題だ。ここには珍しい動物がいないから、選びやすいといえば選びやすい。
 滑らかな毛並みを持ったウサギか、手のひらにのるハムスターか、オリを登るサルか。
 ヤギか羊かウシか、カメかポニーか。ほかには鶏にヒヨコ、子猫もいるけれど。
「とりあえず、何か描いてみるか……」
 広場の中心から、動物いるほうへと足を進める。適当に目につく動物を描いては、自分の作品に溜息の連続だ。
「ねーわー……」
 隣のガロンに聞こえない程度の声で言い、まっさらな画用紙へと変えていく。昔習っていたことも、やめた瞬間下手になる。自分が言ったことを何より今、実感している一輝である。
 隣のガロンはさっきから一言もしゃべらず真剣に描いているようだ。その手元をちらりと見れば。
 なーにが、たしなむ程度だ。
「……イケメン滅びろ」
「一輝、何か言ったか?」
 ガロンが顔を上げてこちらを見たので、それにはにっこり笑顔を返す。
「ん? 何でもないでー」
「そうか?」
 それならいいが、とガロンは再び絵の世界へ。

 ※

「なんとなく気になったから参加してみたけれど、動物園っていうより牧場みたいな雰囲気だね、此処」
 木之下若葉はゆったりと周囲を見回した。遠目には緑豊かな山々。そして手近なところには、和やかな動物たち。
 さっき入口で借りた、がばんと水彩絵の具を手に、木製のベンチへ腰を下ろした。ぎいっと小さな音を上げるこれは、いかにも手作りっぽい雰囲気だ。そこらにある木で作れそうな、シンプルな作り。もしかしてあの器用そうな副園長が作ったのかなと、そんなことを考える。
「アクアは何を描くの?」
 自分と同じように水彩絵の具とがばんを借りた相棒、アクア・グレイに声をかける。小さな彼が持つと、がばんはひどく大きな板に見えた。
「僕はワカバさんの横で羊を描きます」
 がばんの向こうからアクアがほほ笑む。
「似てるもんね」
 アクアの風になびく髪は白く柔らかく、ディアボロ特有の角はどこから見ても羊と同じ形。さらに着ている服がふんわり白いとなれば、そんな言葉が出てしまったのも、仕方がないことだろう。
「僕、そんなに羊っぽいですか?」
 聞きながらも、アクアはうきうきと水彩絵の具の蓋を開けている。白い画用紙に白い羊。いったい何色を使うんだろう。
「じゃあ俺は、ペンギンと……ウサギでも描こうかな」
「そんなにたくさん描くんですか?」
「どっちも気持ちよさそうだなあって思ってさ」
 ぽかぽか陽気でひなたぼっこをしているペンギンも、横でうたたねをしている白いウサギも、黒いウサギも。

 しばらく後。
 絵を描き終わった若葉は、うーん、と両手を上げて伸びをした。背中の筋がぱきんと鳴る。白と黒のペンギンと、白いウサギと、黒いウサギ。画面はちょっとシンプルな色合いだが、なかなか良く描けていると思う。ふっと隣席に目をやれば、ベンチの上にはがばんと、それに止められた画用紙が、でんと置かれていた。しかし。
「……羊?」
 画用紙の上には、なんとも不可思議な、むしろ生き物じゃなくて綿みたいな、そんなふわふわしたものが描かれている。
「ワカバさーん!」
 前方から呼ばれ、若葉はそちらに顔を向けた。そこでは、にこにこと満面の笑みで手を振るアクアの姿。ただし羊に埋まっている。
「……毛玉が二つって思ったけど……きっと間違ってないよね」
 若葉はベンチから立ち上がり、アクアと羊のほうへと歩いていく。
「ワカバさん、この子、僕が撫でても逃げないでいてくれたんですよ」
「うん、羊もアクアも毛玉みたい」
 若葉はアクアの頭と羊の頭、両方に手をのせて、とんとんと優しく撫でた。
 なんだかこの頃、アクア撫でるの癖になってるなあ。
 ……やっぱり僕は羊なんですね。
 二人それぞれ、そんなことを思いながら、アクアはにっこりほほ笑んで、若葉は少しだけ口角を上げた。

 ※

「何か絵を描くと搾りたて牛乳のソフトクリームが食べられるらしいな! 美味いものはやっぱ食いたいから頑張るぜ!」
 預かったがばんを振り上げて、高原 晃司は声を張り上げた。のどかな空気に響く雄々しい声に、保育園児のグループと先生が振り返る。ついさっき来たばかりの集団は。どうやら遠足で来ているようだった。赤、青、黄色。小さなリュックサックは色とりどり。
「あ、びっくりさせたか? 悪いっ」
 子供と先生へ。へらりと笑って頭を下げる晃司の傍らで、アイン=ストレイフもまた会釈をした。
「晃司、小さな子を驚かせてはいけませんよ。先生と手をつないでいた子なんて、泣きそうな顔をしていたじゃないですか」
「そうだった? でもなあ、こんな気持ちいいところに来たら叫ぶだろ」
「まあたしかに、いい場所ではありますね」
 活気あるタブロスの街中も素晴らしいが、ここには田舎ののどかさがある。
「さて……俺は何を描こうかなー」
 芝生の上を晃司は歩く。ゆっくり大きく手を振っているせいで、右手に持ったクレヨンの箱がかたかたと音を立てた。
「せっかくだしペンギンでも描くかな。クレヨンでも描けそうだしな」
 歩いていく背中が子供たちに混じるのを見、アインはわずかに目を細める。日ごろ自分がいる裏の世界とは大違いだと、大きな背中と小さな背中を微笑ましく思う。
「そうしたら、私はこの動物園の光景を描きますかな。たぶん皆さん動物とかを描くでしょうし、なにより活気がこれだけあるんだっていうのがわかれば、ポスターとしても使いやしでしょう」
 アインはぐるりとあたりを見渡した。活気のある場所を描くためには、活気のある場所を探さなくてはならない。保育園児とウィンクルム、その他一般客が一番集まっている場所はどこだろう。

 ※

 暖かい日差しの中で、動物をモデルに、のんびり絵を描いている。自分の描いた絵はアレだけど、たまにはこんな時間も良いものだ。
 さっき来た幼稚園児が、先生の手を引っ張って、鶏を追いかけている。
「触れる動物園ってのはめったにないから、それはそれで売りに出せるんじゃね?」
 がばんの上に広げた画用紙に筆を走らせながら、一輝はそう呟いた。
「だって珍しいよなあ」
「たしかに珍しい」
 頭上から、突然はっきり聞えた声は、相棒ガロンのものではない。
 一輝ははっと振り返った。座った姿勢から斜め上に顔を上げる。と、そこには猫の顔型バッジを胸に付けた男が一人立っていた。バッジに記載の名前はイサヤ。動物園の入り口でも見た顔だ。
「園長……」
「はい?」
「びっくりします!」
「びっくりさせました!」
 にっこりつかみどころのない園長は、これまた猫のイラストのついたメモ帳にぼそぼそ呟きながら文字を書きつけた。
「触れる動物園は珍しい、と」
 その声に、ガロンもくるりと振り返る。
「フム、ここは危険な動物がいないからね」
 園長はふむふむと首を縦に振っている。
「休日のイベントとして使うには、いい場所なんじゃないかな」
「なるほど、イベントとしてね」
「小さい動物しかいないなら、いっそ移動動物園的なことにしても良いかもしれないけど」
 一輝は単に、思いついたことを言っただけだった。
 しかし園長は、おお、と叫ぶ。
「移動動物園! その発想はなかった!」
 猫のマスコットがついたペンで、メモの真ん中に、大きく『移動動物園』と書きつける。
「だが、これらの動物を車に乗せて運ぶには大型免許が必要だな。問題はそれを誰がとるか……」
 園長はしばらくメモに見入っていたが、突如ぱっと顔をあげた。
「貴重な意見をありがとう。あとは存分に楽しんでいってください。いやあ、移動動物園かあ……」
 ふらふらと立ち去る園長を、不思議な気持ちで見送る一輝とガロン。
「変わった人やな……」
「それだけ、この動物園に対して熱心になっているということなのだろうね」

 ※

 若葉とアクアの昼食は、副園長手製のおにぎりだ。
「ソフトクリームを食べたときにも思ったけれど、素朴な味で美味しいよね」
 若葉の手には少々小さい、アクアの手には少々大きいおにぎりを食べながら、若葉はぽつりとそんなことを言う。
「僕もおにぎりは作りますけど、人によって味は違うものですねえ」
 アクアも気に入った様子である。
 そんなとき。もしゃもしゃと咀嚼する二人の背後から、突然大きな声がした。
「お褒めいただき、ありがとうございます!」
「……え?」
 振り返る。と、そこには、深く頭を下げた男性が一人立っていた。
 犬の顔の形のバッジに、副園長ササトと名前が書いてある。
 副園長は真顔で、手に持つメモに、何やら文字を書きつけている。それが終わると二人を見つめ「申し訳ないのですが」と口を開く。
「ほかにはなにか、ありますか?」
「動物園はこの家庭的な感じを売りに出せばいいと思いますよ。好きです、僕」
「動物もみんないい子だし、今回みたいな感じで、学校行事の写生会の会場とかに使えればいいんじゃない」
 アクアと若葉が言った言葉になるほどとうなずいて、副園長はまたペンを動かした。ちなみにペンの先には犬のマスコットがついている。
「犬、好きなんですか?」
 アクアが問うと、副園長は苦笑した。
「ええ、園長は猫派なんですけどね」

 副園長は礼を言って去っていった。
「大変なんだね、動物園の経営も」
 黒いウサギを撫ぜながら、若葉が言う。そんな若葉と、ウサギの頭に手を伸ばし、アクアは「そうですねえ」と相槌を打った。さっき羊と一緒に撫ぜられたから、そのお返しで、若葉を撫ぜているのだが。
 最近アクアを撫ぜるのが癖になっていると若葉は言っていたが、その気持ちがわかった気がした。くすぐったそうに撫ぜられる一人と一匹が――。
(これは可愛いです……!否定されそうなので言えないですが!)

 ※

 晃司はペンギン宿舎の前に座り込んだ。
「よし、ちゃんときっちり書くぜ! ……出来に関してはわかんねえけどな?」
 黒色のクレヨンを握り、迷いなく画用紙に線を描いていく。
「お兄ちゃん、ペンギン描くの?」
 遠足の園児だろうか。寄ってきた子供に、晃司は「おう」と返事をする。
「ペンギンかわいいよね、あたし大好き! もっと近くに行くと、ペンギンがお魚を食べるのが見えるよ」
「へえ……お魚、ねえ」
 黄色いクレヨンでペンギンのくちばしを塗りながら、晃司は考える。
「動物にエサやりとかできねえのかな? できるのであればエサ代を有料にすれば、多少動物園の足しになるだろうし……」
 そこでふっと顔を上げ、遠方に視線を向ける。
「子供限定だけど、ポニーにのせるのもよさそうだな。係員の人の負担にはなりそうだけど、案外注目を集めるかもしれねえよな!」
「……なるほどねえ」
「うわっ」
 背後で突然声が聞こえ、晃司は振り返った。そこには猫の形のバッジを胸に付けた園長が立っていて、なにやらメモにいろいろ書いているらしかった。
「動物園へのアドバイス、ありがとうございます」
「……俺もさっき子供驚かしたけど、あんたもびっくりするぜ」
「それはあなた、動物園の改善のためですから、いきなり背後にも立ちますよ」
 どんな理屈か。園長はにっこり笑う。文句も出ないほどの、人好きのする笑顔だ。
「実は、後ろで絵を描いている男性にも驚かれたんですけどね」
「後ろ?」
 腰をひねり、そちらを向く。そこにはこちらの様子を真剣に描いている、アインの姿が見えた。
「当動物園ではペンギンが一番人気なんですよ。彼はペンギンを見ているお客さんを、とても上手に描いていました。あまりの真剣さに声をかけられず絵に見惚れていたら『私に気配を感じさせないとは』と目を丸くしておられましたね」
「それはそれは……」
「ということで、これどうぞ」
「うおっ、ソフトクリーム! コレ絶対美味いよな!」
「ええ、ぜひ食べてみてください」
「おうっ」
 カプリとソフトクリームの先端にかぶりついて、晃司は高い声を上げる。
「すんげえ濃厚! うまっ」

 ※

 それぞれが描いた絵は、動物園の出口で副園長が回収した。
「おつかれさまです」
「これ、本当にポスターにするんですか」
 恐る恐る、一輝は尋ねる。
「ええ、そのつもりですか?」
 あっさり返ってきた言葉に、そっかーと肩を落とす一輝。
「一生懸命描いたんだ、問題はないと思うが?」
「そりゃガロンはさー、いいけどさー」
 脱力した背中を見せて、一輝はガロンと帰っていく。

「これが僕とワカバさんの絵です」
 にっこにこ、満面の笑みで画用紙を差し出すのは、アクアである。
「けっこう頑張ったけど、すみません、羊とウサギと遊ぶのに夢中になっちゃった」
「羊、かわいかったです」
 この二人はご機嫌で帰っていく。

「こんなものでいいでしょうか」
「俺のペンギンは力作だぜ!」
 晃司とアインは、それぞれに画用紙を差し出した。
「これ、できれば、今日来ていた幼稚園に飾ってほしいな。頼まれて、女の子も描いたんだぜ。ほら、ここにいるだろ?」
「それではもし可能であれば、こちらの絵も子供さんが集まる場所に飾っていただけますか。かわいらしい子たちをたくさん描いたので」
「じゃあな!」
「では」
 晃司は手を振って、アインは会釈をして去っていく。
「みなさん、ありがとうございました!」
 園長のイサヤ氏と副園長のササト氏は、深く深く、頭を下げた。

 ※

「アドバイスもたくさんしてくれたし、ソフトクリームは好評だったし、いい人たちが来てくれてよかったねえ、副園長」
「ええ、ソフトクリームはぜひ商品化を目指しましょう」
「そうそう、移動動物園にしたらって案があったんだよ。でもそのためには大型車の免許が必要なんだよね……副園長、とるかい?」
「せっかくだから一緒にとりませんか。どちらでも回れるように」

 そろそろ動物たちにエサをあげる時間である。

「とりあえず、今いるお客さんにペンギンのエサあげとかしてもらってみる?」
「ウサギのエサでもいいですね」

 これは、ふれあいイサヤ動物園が人気癒しスポットへの一歩を踏み出した、記念すべき日のことである。



依頼結果:成功
MVP

メモリアルピンナップ


( イラストレーター: たがみ千  )


エピソード情報

マスター 瀬田一稀
エピソードの種類 ハピネスエピソード
男性用or女性用 男性のみ
エピソードジャンル コメディ
エピソードタイプ ショート
エピソードモード ノーマル
シンパシー 使用不可
難易度 簡単
参加費 1,000ハートコイン
参加人数 3 / 2 ~ 5
報酬 なし
リリース日 05月06日
出発日 05月13日 00:00
予定納品日 05月23日

参加者

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