プロローグ
はぁい、ようこそ、わたしのアイスクリームショップへ。
ここは恋人達が食べるのにぴったりなアイスを、用意しているのよ。
まずはこれ!
ストロベリーアイスに、ハート形のグミをたくさん散りばめた、『ピュアフルソフト』。
カラフルで素敵でしょう?
次は『ラブサーチソフト』。
バニラと抹茶を合わせているけれど、ポイントは中に隠れているマシュマロよ。
こちらはハート形ではないけれど、運が良ければピンク色のものが入っているわ。
でも一番のお勧めは、ふたりで彩る『ファーストソフト』。
これはソフトクリームに、ふたりで飾りつけをしてもらうの。
ひとりひとつ? なに馬鹿なこと言ってるのよ。
ふたりの初めての共同作業なんだから、ふたりでひとつにきまってるじゃない。
そのかわり、普通のソフトクリームの二倍の大きさがあるから、量がたりない! なんてことはないわよ。安心してね。
それを、コーンだとちょっと崩れやすいから、このピンクのカップに入れてっと……。
あとは、ここのコーナーにあるものを、自由に盛り付けてね。
あ、最後に使うスプーンは、もちろんひとつよ。
大事な人に、「はい、あーん」って、食べさせてあげてちょうだいな。
え? 恥ずかしいですって?
だーいじょうぶ、ふたりきりになれるお部屋があるから、そちらで食べていってね。
そうそう、アイスの食べ方にちょっと決まりがあるから、守ってくれたら嬉しいわ。
解説
ウィンクルムでひとつ、アイスクリームを飾りつけてください。
お席の代金とソフトクリームの代金で、300jrになります。
【アイスの選び方】
●1、ベースのアイスを選びます
1 バニラ
2 チョコ
3 ストロベリー
4 抹茶
5 ピュアフルソフト
6 ラブサーチソフト からお選びください。
基本的にはここに、デコレーションしていく形になります。
(5と6については、グミとマシュマロが含まれているので、後述の食べ方に従うことになります)
●2、飾りつけをひとつ以上選びます。食べ方に指定があるので従ってください。
A ポッキー(両端からふたりで食べちゃおう)
B ハートのグミ(相手に食べさせるときに「好きだよ」と言ってね)
C チョコスプレー(食べている間、あなたは相手のお膝の上!)
D 生クリーム(相手の唇の端についたら、拭ってあげて)
E 白いマシュマロ(食べ終わったら、ごちそうさまの代わりにほっぺにキス)
●3、追加の飾りつけを選ぶ(任意)
その他、飾りつけは「こんなものをのせたいなあ」というものを、プランに記載してください。
お菓子でもフルーツでも、ちょっとありえないものでも、食べ物であれば何でも通します。
バニラアイスにカレーをかける! とかでも大丈夫です。
どんな味がわかりませんけど。
【プランへの記載例】
1Aクッキー(バニラアイス、ポッキーを飾る、クッキー追加)
【注意】
全てカップ入りのアイスです。
何も言わなければスプーンはひとつ。
ご依頼があればもうひとつお渡しできますが、店主がきっとしぶーい顔をします。
ゲームマスターより
暑い夏、アイスと愛の力で乗り切りましょう!
飾りつけはA~Eのうち、いくつ選んでも構いませんが、選んだ物の分、すべて食べ方に従ってくださいね。
リザルトノベル
◆アクション・プラン
夢路 希望(スノー・ラビット)
カップル…共同作業…(赤面 …え、えっと…自由に盛り付けできるの、楽しそうですし… (恥ずかしいし、緊張する、けど) やってみたい、です 飾:1BCDE 彼色のバニラアイス 私は…えっと、マシュマロと… チョコスプレーとか、どうですか? 食: 部屋でルール確認して赤面 おずおず膝上へ (お、重くないかな) 不安でそわそわ …えっと、じゃあ…あ、あーん… 初めてじゃないのに緊張してしまって 差し出されて口にしても …あ、味が全然分かりません… (そういえば、マシュマロのルールは…) カップが空になればもじもじ …あ、あの…目、閉じていてくれますか…? 恥ずかしいだけで嫌じゃない 勇気を出して頬へと軽く口づけ …ご、ごちそうさま…でした |
ライリア・イリュシオン(エンデュミオン・オレスティス)
噂に聞いた『アイスクリーム』を食べてみたいと精霊に あまくて、つめたくて、幸せな味がするんだそうです 渋る精霊に だめですか?アイスクリーム… ぱぁっと顔を輝かせて ありがとうございます、エンディさん! 6C黒蜜 アイスクリームを食べるには、いろんなマナーがあるんですね… えっと、おひざの上、です 自分の膝を叩き 驚きながらされるがまま だめですよ、決まりのとおりじゃないと アイスを掬い はい、あーん エンディさん、お口をあけてください 次は私のばんです 小さな口を開けて、ぱくり んーっ ほんとうに幸せな味がします! 食べ終わり 無精ひげの目立つ顎にキス ごちそうさまのキス、だそうです にっこり笑って …あれ、なにかまちがえましたか? |
鬼灯・千翡露(スマラグド)
▼心情 アイス楽しみだねえ 夏はやっぱりアイスだね ラグ君の呆れ顔なんてみえてなーいみえてなーい ▼アイス 4Dあんことさくらんぼ 私もラグ君も緑っぽいから、此処は抹茶だよね 飾りの決まりはクリームが一番難易度低いかなって 膝でも良いけど暑いしラグ君潰れそ……なんでもナイヨ? (男云々は華麗にスルー) ラグ君綺麗に食べるねえ うんー? だって気にしてたら美味しく食べられないじゃない? ……ラグ君?(間近に迫られてもきょとん顔) だよねー吃驚しちゃった (と言う割にいつも通りの緩い微笑) ってラグ君痛いです、よくわかんないけどごめんってば (ぎぶぎぶ、と腕を軽くぺちぺち) 美味しい? なら良かった ※意地悪でなく割と天然のマイペース |
イヴ(ダイル)
アイス】3CDE、追:苺、苺シロップ ・甘味には目がなく、夢中で盛り付けてしまう。 甘いものってワクワクする! やっぱりベースは…ストロベリー! あとは…選べないからみんな乗っけちゃおうかな? え?あ、そうなの?(残しちゃったら…悪いもんね) ・食べ方CE実践 そ、そうだったね!?(声が裏返りつつ) じゃあ…えっと、し、失礼します?(恐る恐るダイルの膝の上に座る) へ?クリー…!わぁ吃驚した!(し、指定かぁ!) ま、待って!本命の苺がまだ…んー!美味しい!幸せ! うん、苺大好き!(満面の笑み) えっと…ご、ご馳走様!(えーい!)頬へキス …恥ずかしかったけど、美味しかったねっ! ?ダイルとだから…来たんだよ?(きょとん) |
●オプション:友愛
「アイス楽しみだねえ。夏はやっぱりアイスだね」
鬼灯・千翡露はひとり呟き、店内を見まわした。その横で、スマラグドが呆れ顔を見せている。
「確かに暑いけどさ……。アイスなら何でも良いの、アンタは」
店員は恋人たちにぴったりって推してるのに、と、言いたい気持ちをぐっと抑え、スマラグドは千翡露を見やった。
千翡露は「どれにしようかなあ」とメニューを覗いている。ラグ君の呆れ顔なんてみえてなーいみえてなーいと、スルーの方向だ。ただ、彼女にも考えはあった。曰く。
恋人同士のためっていったって、別にそうじゃなくちゃいけないわけじゃないよね。それに、『決まり』だって大丈夫に決まってる。だって相手はラグ君だよ?
そんな千翡露が選んだアイスは、抹茶である。
「私もラグ君も緑っぽいから、此処は抹茶だよね」というのが決めた理由だ。
「あとは生クリームかなあ。クリームが一番難易度低いかなって」
ねえ? と呼びかける千翡露に、スマラグドは渋々の体で口を開いた。
「まあ、抹茶は好きだけど。難易度は気楽に考えすぎじゃない?」
「そうかなあ……」
言いながら、翡翠の瞳が、再びメニューに見入る。
「膝でもいいけど暑いし、ラグ君潰れそ……」
「……あ゛? 僕、男なんだけど」
剣呑に輝くエメラルド。その寄せられた柳眉に、千翡露はとってつけたような言葉を返した。
「……なんでもナイヨ? 気にしないで?」
それなら気になるようなこと言わないで――と、スマラグドは言わない。千翡露のほうが背が高いのは、2年の年齢差があるからで、それ以外に理由はないんだから。
あんこと生クリームがたっぷりのった抹茶のアイスを口に入れれば、それが唇につくのはあたりまえのように思う。
だからこそ千翡露は、滑らかな唇を汚すことない、スマラグドに感心していた。
「ラグ君綺麗に食べるねえ」
「一口で食べられない分は、取らない主義なの」
そう言う彼に、1本きりしかないスプーンをはい、と渡される。千翡露は彼の言い分に納得はするも、実行できるかと言えば、なかなかどうして、別問題だ。
真っ白な生クリームを纏った抹茶を口に入れてすぐ。
「ってちひろ、早速ついてるんだけど」
スマラグドは、ここだよ、と言うように、自らの唇の横を、指でつついた。しかし千翡露は動じずに、スプーンを持ったまま首を傾げる。
「うんー? だって気にしてたら、美味しく食べられないじゃない?」
アイスにのせたさくらんぼのように赤い唇が、にこりと笑う。その端に、白い生クリーム。気にしないと言うなら、さっきの意趣返しをしてみせよう。
「……無頓着だっての、身を以て思い知らせてあげようか」
スマラグドは席を立つと、小さなテーブル越しに背を曲げて、正面で余裕を見せている顔に、自らのそれを近付けた。しかしそれでも千翡露は、身を引くことすら、いや、驚きの一片すら見せない。
「……ラグ君?」
きょとりとした顔が悔しくて、スマラグドはますます距離を詰めていく。鼻と鼻が触れあう位置から、彼女の果実の唇の脇、彩りを添える生クリームを舐めとろうとするように、唇を寄せ……。
はっと、息を吐いた。
「――なんて、流石にしないよ」
顔を離し、右手の親指で、クリームを拭いとる。
「だよねー、驚愕しちゃった」
そう言う千翡露は、言葉の割には、いつものように緩い微笑み。
本当に驚いたのか、僕ならしないと思ってるのか、それともしても気にしないのか。
スマラグドは、眉間にしわを寄せ、千尋を睨み付けた。
汚れていない左手で、彼女の柔らかいほっぺたをむにっとつねる。
「全く、本当に危機感ないよねちひろは」
「ってラグ君痛いです。よくわかんないけどごめんってば」
むにむに動かすラグの腕を、千翡露はぺしぺしと叩いた。
よくわかんないけど、が余計だけれど、たぶんきっと本当に、よくわかっていないのだから仕方無い。
でも、いくらお互い意識しているわけではないと言ったって、僕は男なんだから、なにかこう、あるべきじゃないんだろうか。本当に、千翡露はなんでも気楽に考えすぎている。
スマラグドはいよいよしっかり背を伸ばし、元の椅子に腰を下ろした。はあ、と嘆息しかけたところで、テーブルの上に置いた右手には、先ほどのクリームがついたまま。それを口に含んだのは、大した意味はなかったのだけれど。
「……甘い」
「美味しい? なら良かった」
ぽつりと言った彼の前では、スプーンを差し出す千翡露がいた。
「はい、次はラグ君の番。生クリーム、気に入ったならいっぱい食べていいからね」
――彼女は気付いているんだろうか。同じスプーンを共有しているのは、間接キスと呼ばれる行為であることを。
きっと、これも、わかっていないんだろうな、とラグは考える。だけど言えばこちらだけが意識しているよう。それが悔しいから、今は黙っておくことにした。
●オプション:純愛
今日は暑い。
だから、甘いものが大好きなイヴが、吸い込まれるようにアイスクリームショップに引き寄せられるのも、無理からぬことだろうと、ダイルは思う。そう、思いはするのだが。
「初の外出先がここってのは、ハードルたけぇ……な」
色鮮やかな、いかにも女性の好みそうな店内で、彼は肩を落としていた。イヴとデートは良い。というか素晴らしい。だけどここは、どう見たって恋人同士のための店という雰囲気で、正直言えば居心地があまりよろしくない。イヴを嫌いだからではなく、その反対、なのに想いは通じていないからである。
しかしイヴはそんな相棒には目もくれず、夢中でアイスを飾りつけている。
「やっぱりベースは……ストロベリー! あとは……」
メニューに書かれた説明文を覗きこみ、どれにしようかな、と選ぶ姿は、生き生きと楽しそうだ。
我を忘れて盛りつけてるなー。
ダイルは温かい目で、イヴを見守っていた。そう、彼女がその一言を口にするまでは。
「選べないからみんな乗っけちゃおうかな?」
……って!? たしかそれぞれ、食べ方に指定があるんじゃなかったか!?
ダイルは慌ててメニューに目を通し、ざっと内容を確認する。
これは……全部は駄目だ、アウトだ、アウト!
「イイヴ!そ、その……ポッキーとグミは俺が食べれないかもし……しれない。ご、ごめんな」
「え? あ、そうなの?」
イヴはきょとりと、茶色の瞳を瞬かせた。
チョコのたっぷりかかったポッキーも、カラフルなハートのグミも美味しそうだけど、残しちゃったら悪いもんね、とあっさり考えを変更する。
「じゃあ、苺と苺シロップなら大丈夫?」
「あ、ああ……」
ダイルは、申し訳なさそうに頷いた。本当は別に、食べられないわけではないのだ。ただ。
――ポッキーを両端から食べられる気もしないし、指定で好きと言うのも嫌だ!
純情な男心、である。
ストロベリーアイスの上に、マシュマロと苺をのせて。その上には、生クリームに苺シロップ、そしてチョコスプレーをかけて、イヴのアイスは完成である。
「いっただきまーす!」
にこにこ顔でスプーンを手にしたイヴは、しかしその後すぐに、手の動きを止めた。
「イヴ、普通に食べようとしてるが指定……あるだろ?」
ダイルが動揺しつつも冷静を装い、そう言ったからである。
「そ、そうだったね!?」
イヴは、声を裏返させた。とりあえず、一番最初にすることは……と条件を再度確認し、ソファから少しばかり腰を浮かす。
「じゃあ……えっと、し、失礼します?」
「……お、おう。……来いよ」
ぽすり。クッションのあるソファよりも堅いダイルの膝の上に、恐る恐る腰を下ろせば、予想外、いや、予想すらしていなかった密着具合。それに困惑したのは、彼女を膝にのせたダイルの方である。
ちけぇなと、アイスに向かうイヴを見る。
彼女は、スプーンいっぱいに、生クリームののったアイスをのせたところだった。それをぱくり、とほおばるも。
「ん、クリーム付いてんぜ」
どうせそうなるだろうと思っていたと、ダイルはイヴの口元に手を伸ばす。ふわりと甘い生クリームを指先で拭えば、イヴはさすがに身を硬くした。
「へ? クリ……! わぁ驚愕した!」
「し、指定だっただろ?」
イヴはまたもアイスに見入る。そうか、指定かぁ! そういえばそんなのあった! っていうか、そうだスプーンも1本だった!
「ダイル、アイス食べるよね?」
「ひとりで食いきれるのか?」
「だよねえ」
でもこれって……。少し考え、イヴは心を決めた。どうせ相手は幼なじみ、兄同然のダイルである。
「はい、どうぞ」
「……同じスプーンかよ」
「だって、もうもう1本頼んでないし」
差し出されたスプーンを見、ダイルは深呼吸をする。おそらくイヴの行動に、自分が願う意味はないはずだ。それなら動揺する方がおかしい。いや、してはいけない、たぶん。
ダイルはイヴからスプーンを受け取り、思いきってアイスをすくった――。
「ふぅ……結構ボリュームあったな」
ほとんど空になった容器を覗きこんで、ダイルが言えば、イヴはそこに、大きな目を向けた。
「ま、待って! 本命の苺がまだ……」
1個、残っている。
「俺はいらねえから、イヴが食えよ?」
その言葉に、イヴの笑顔は輝いた。熟したそれを口に入れ、紡ぐ言葉は。
「美味しい! 幸せ!」
見ているダイルの方も嬉しくなるほどの完璧な笑みに、彼の顔にも自然と微笑みが浮かぶ。
「イヴは苺好きだよな」
「うん、大好き!」
「じゃあ、最後の」
行動を、とダイルが告げる間はなかった。
「えっと……ご、ご馳走様!」
半ば勢いで、イヴがダイルの頬にキスをする。
アイスに冷えた口づけは、しかしダイルの体温を上げるには十分だった。自分の動揺その他諸々、イヴがなにも察せぬうちに膝から下ろして、彼は呟く。
「他の精霊とは……こんなとこ、来るなよ?」
「え? ダイルとだから……来たんだよ?」
なんでそんなこと言うのと、不思議そうなイヴの顔を見て、ダイルはああ、そう、と頷くことしかできなかった。もちろん内心は、そんなに落ち着いてはいないのではあるが。
●オプション:親愛
エンデュミオン・オレスティスは、言葉を失っていた。A.R.O.A.で聞いたアイスクリームショップが、まさかこんな店だとは。
若者、とりわけカップルが多く集まる店内。店員も女性ばかり。ここに外見年齢38歳の自分と、同じく18歳、しかも世の中の何もわからぬライリア・イリュシオンが、一緒に入って行くというのか。
「……いや、拙くねぇか?」
組み合わせ的に、どう考えても犯罪だ。もはや、明日の朝刊のどんな不穏な文字が躍るかと想像して、恐ろしくなるレベルである。
しかしそんなエンデュミオンの横では、ライリアが紅玉の瞳を輝かせていた。文明から隔絶された場所に長くいた彼女にとっては、生まれて初めてのアイスクリームとのご対面なのである。
「あまくて、つめたくて、幸せな味がするんだそうです」
この店のことを聞いたとき、そう言って、祈るように両手を組み合わせたライリアの姿を思い出し、エンデュミオンは、はあっと深くため息をついた。
食べさせてやりたい、だが――。
「だめですか? アイスクリーム……」
細い体を縮ませるようにして、ライリアはエンデュミオンを見上げている。問題はアイスではないのだが、まさかこの場で叫ぶわけにもいかず。
結局、個室があると聞き、隣で泣きだしそうなライリアを見、ままよ、とふたり、店内に飛び込んだ。もうどうにでもなれ! の心境であった。
「はぁい、バニラと抹茶、それにマシュマロがのったラブサーチソフトに、チョコスプレーと黒蜜のトッピングよ。ごゆっくり~」
個々で飾り付けもできるようだったが、さすがにそれはどうかと思い、トッピングを選んで店員に部屋まで運んで来てもらった。
ライリアは、メニューに書かれているこの店の『マナー』をまじまじと見つめている。
「アイスクリームを食べるには、いろんなマナーがあるんですね……」
「他じゃ聞いたことねえがな」
エンデュミオンはそう言って、室内を見回した。別に監視カメラがあるわけじゃなし。多少良心が咎めるが、『マナー』は守らなくても良い気はする……と思いきや。
「でも、美味しそうだし、楽しそうです」
ライリアにそう言われてしまっては、もう避ける術はない。逆にカメラがないことが幸運、ということだ。
「んで、食べる手順はどうやるんだ?」
諦めて尋ねれば、ライリアはぽん、と自分の細い膝を叩く。
「えっと、おひざの上、です」
「……折れるぞ」
エンデュミオンは苦笑した。ライリアを抱きあげ、ひょいっと持ち上げる。
「こっちが現実的だろ?」
少女が下ろされたのは、少々かたい、しかし逞しい太ももの上だ。
何も知らない彼女から見れば、あまりにもスマートな仕草であるし、突然のことで驚きもした。しかしエンデュミオンはそんなライリアの心情は解さない様子で、「もう食っていいのか?」などと問いかけてくる。
「だめですよ、決まりのとおりじゃないと」
ライリアはゆるりと首を振った。腕を伸ばして、テーブルの上のスプーンを手に取り、それで白と緑、すこし黒が混じったアイスをすくう。
「はい、あーん。エンディさん、お口をあけてください」
今度はエンデュミオンが驚く番である
彼は一瞬にして硬直し、ギギギ、と音を立てそうなくらいぎこちなく、大きな口を開いた。そこに、ひやりと冷たいアイスが入れられるも、正直味などわかったものではない。
それなのに、ライリアは次なる試練を、与えてくる。
「次は私のばんです。お願いします」
スプーンを渡されれば、否とは言えない。エンデュミオンは、すべてのトッピングがのった場所を選んでアイスをすくうと、ライリアが精一杯に開けた小さな口に、入れてやった。まるで、鳥に餌でもやってる気分だ、というのに。
んーっ、と満足したように目をつぶってから、ライリアは微笑した。
「ほんとうに幸せな味がします!」
あまりに素直な反応は、この店に入ったことを正解だったと思い直すにはふさわしく、エンデュミオンの垂れ目がいっそう下がる。
「そうか、それならもっと食えばいい」
「だめですよ、ふたりで頼んだんですから、順番じゃないと」
「俺は気にしねぇよ。嬢ちゃんが楽しきゃ、それで満足だ」
ほら食え、とエンデュミオンは、アイスをのせたスプーンを差し出した。
ライリアが3分の1ほどでリタイアしたので、残りをエンデュミオンが片付けて、初めてのアイスタイムは終了となった。
「ごちそーさん」
エンデュミオンがスプーンを置く。あとはライリアを下ろしてやるだけだ……と思ったところで、頬にひやりと、冷たくも柔らかい感触が。
「ごちそうさまのキス、だそうです」
無精ひげの上に触れた唇を離して、ライリアはにっこり微笑んだ。エンデュミオンは、大きく分厚い片手で、自らの顔を覆う。
「……勘弁してくれ、嬢ちゃん」
「……あれ、なにか間違えましたか」
「……そんな決まりもあったかもしれねぇが」
なにせ、いきなりは心臓に悪い。
手の隙間から見えるエンデュミオンの顔が赤いことに、ライリアは気付いただろうか。
●オプション:恋
アイスクリームショップの前。
「恋人達にぴったり……」
そう書かれた看板に、スノー・ラビットは思わず足を止めた。入口付近の案内を見てみれば、アイスを好きなように飾りつけできる店らしい。ただちょっと、食べ方に決まりがあるのが、他の店と違うところ。なるほど。
「面白そうだし、入ってみたいな」
言いながら、隣に立つ夢路 希望を見やる。
「カップル……共同作業……」
希望は、案内に書かれた言葉に、頬を染めていた。自分達はウィンクルムで、恋人同士でもあるのだけれど、それをあえて言われると、やっぱりちょっと恥ずかしい。でも、アイスクリームは可愛くて美味しそう、だから。
「……え、えっと……自由に飾りつけできるの、楽しそうですし……私もやってみたい、です」
「じゃあ、決まりだね」
スノーはほっとしたような笑みを見せ、希望の手をそっととった。
「中混んでるから、離れないようにつないで行こう。ノゾミさん」
15分後。
賑やかな店の入口付近とは違った静かな室内で、希望とスノーは、ソファに並んで座っていた。目の前のテーブルの上には、先ほど頼んだアイスのカップ。
「……バニラアイスがいいです。飾りつけ……私は……えっと、マシュマロと……チョコスプレーとか、どうですか?」
「うん、綺麗だね。じゃあ僕は……クリーム飾りたいな。あと、ハートのグミ。あ……チョコももうちょっとかけちゃおうか」
そんなことを言いながら、頭を寄せあい、作り上げた『共同作業』の結果である。
だがこれは、ただ美味しいと食べるわけにはいかない。
メニューを見てこの店独自の『マナー』を再度確認し、希望は頬を染めた。自分が選んだ彼色のアイスに、いろいろのせてしまったから、やることがたくさんあるのだ。
「チョコスプレーは……相手の膝の上、だね」
スノーはポンポン、と自らの膝の上を叩いた。おいで、と言われているようで、希望は耳まで赤くなる。でもこれが決まりだから、と自分に言い聞かせ、おずおずと彼の膝の上に、横向きに腰を下ろした。
お、重くないかな。
そわりと腰を動かせば、それを支えるように、スノーの腕が回される。思った以上に距離が近くて、跳ねる鼓動が聞こえてしまいそう。それを遮るためでもないだろうが、背中を丸める希望の肩口に、スノーはすり、と身を寄せた。
「……ずっとこのままでもいいな」
本当は、緊張している希望と同じくらい、スノーだってどきどきしている。だって、とてもとても大事な人が、こんなに寄り添ってくれているのだから。
ただ、行動の指示はこれだけではない。
希望は震える手でスプーンを持ってアイスをすくい、それをスノーの口の前へと持っていった。
「えっと、……あ、あーん」
初めてじゃないのに緊張して、思わず目を伏せてしまいそうになる。そうしなかったのは、スノーが緩やかな笑みを浮かべて、口を開いたからだ。
希望の体を支えながら、アイスを食べ、優しい微笑みを浮かべた唇で、美味しい、と彼は言う。
「じゃあ、次は僕から……ノゾミさん、好きだよ」
「えっ、それはっ」
「あーんのかわり、かな」
希望は請われるままに口を開けた。しかし甘いはずのアイスの味は。
「全然、分かりません……」
味を判別できた分、スノーの方が余裕がある、ということだろうか。
あーん、と好きだよ、を繰り返すうち、希望の頬はすっかり熟し、瞳にはうっすらと透明な膜が貼っていた。恥ずかしい、でも嬉しい。そう思っているのがわかるから、スノーはそれを見つけたときも、ナプキンではなく、あえて指で拭ったのだ。
「クリーム、ついてるよ」
人差し指の腹で優しくなでて、甘くなった指先を、ぺろり舐めれば、希望ははっと息を飲んだ。それでも「ありがとう、ござい……ます」としっかり礼を言うのが、彼女らしい。
そうこうしているうちに、アイスのカップは空になり、希望は落ち着けずに、体を動かす。
そういえば、マシュマロのルールは……。
ちらとスノーの顔を見上げると、彼も落ち着かないようだ。だってルールが、頬にキス、だから。
「……あ、あの……目、閉じていてくれますか?」
「……うん」
白いまぶたが、スノーの赤い目を覆う。それを確認してから、希望は彼の頬に、そっと口付けた。どきどきと鼓動は煩いほどだけど、綺麗な目を見つめることもできないけれど、恥ずかしいだけで、嫌ではないのだ。
「……ご、ごちそうさま……でした」
頬から離した唇から、吐息にのせて、声を出す。しかし彼女は、スノーの膝上から降りることは叶わない。理由は簡単、彼の腕が、希望の体をぎゅっと強く、抱きしめたからだ。
「ふふ、僕、お腹も胸も、いっぱい」
「あの……私も、です」
冷たいアイスを食べたはずなのに、熱くてしかたない。
スノーに見つめられ、希望は困ったような微笑みを見せた。
依頼結果:大成功
MVP:
エピソード情報 |
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---|---|
マスター | 瀬田一稀 |
エピソードの種類 | ハピネスエピソード |
男性用or女性用 | 女性のみ |
エピソードジャンル | ロマンス |
エピソードタイプ | ショート |
エピソードモード | ビギナー |
シンパシー | 使用可 |
難易度 | 簡単 |
参加費 | 1,000ハートコイン |
参加人数 | 4 / 3 ~ 4 |
報酬 | なし |
リリース日 | 07月30日 |
出発日 | 08月06日 00:00 |
予定納品日 | 08月16日 |
参加者
- 夢路 希望(スノー・ラビット)
- ライリア・イリュシオン(エンデュミオン・オレスティス)
- 鬼灯・千翡露(スマラグド)
- イヴ(ダイル)
会議室
-
2016/08/04-19:50
-
2016/08/03-20:00
初めまして!私、イヴ!パートナーはダイルだよ。
よろしくね!
甘いものは大好きだからアイス楽しみだなぁ!
ストロベリーアイス……ふふふ♪
-
2016/08/02-23:16
こんばんは、私はライリアといいます
パートナーはシノビのエンディさんです
みなさんはじめまして、よろしくおねがいします
アイスクリーム、はじめて食べます
すごく楽しみです! -
2016/08/02-19:17
と、いうわけで鬼灯千翡露とラグ君です。
改めて宜しくね。今回は皆初めましてかな?
皆どんなアイスにするんだろ。気になるなー。
私は抹茶にクリームと、あんこを添えて貰って和風にしようかなって。 -
2016/08/02-19:14