鍵(瀬田一稀 マスター) 【難易度:普通】

プロローグ

 あなた達は、温泉宿に来ていた。
 都会の喧騒を離れてゆっくりするため……のはず、だったのだが。

 夢を見た。
 相棒が、自分を求めている夢だ。
 場所はどこかわからない、薄暗いところ。
「愛しているんです、どうか、どうか」
 相棒は切なげに顔を歪めて、自分に向かって手を伸ばしている。
 こんなこと、普段の彼ならばけして言わない。
 だから現実ではないと思った。
 それに、ほかに理由がもうひとつ。
 なんと彼は、太い鎖で、首輪に繋がれていたのだ。
 近づこうとすると、ちゃりんと音がした。
 足元に視線を落とせば、小さな鍵。
「それで僕を開放してください、どうか、どうか」
 そこで、意識は覚醒した。

 目を開けると、朝だった。
 なんとも不思議な夢だったと思いつつ、隣でぼんやり布団の上に座っている相棒を見れば、思い切り目を逸らされた。
「おい、なんだよ露骨だな」
「……だって、夢を見たんです」
「夢? どんな?」
「それは……言えませんよ」

 なんとなく気まずいまま朝食となり、ついでとばかりに中居に聞くと、勤続35年というベテランの彼女は、あらまあ、と声を上げた。
「見入られましたね」
「見入られた? 誰に」
「それは、この部屋に住む何者かにです」

 曰く。
 この部屋は昔、とても仲睦まじいカップルが愛用していたらしい。
 彼らは愛を失わないまま、幸福な人生を全うした。
 だが、あまりにも幸せ過ぎたので、時折こうして、恋人同士にお節介を焼くのだとか。

「ただね、その鍵が問題で。それは隠している恋心であり、秘密にしている罪であり、とにかくその人が気にしていることを、夢の断片として解放しちゃうらしいんですよ。だからその夢の後は、とてつもない幸福を味わう人もいますし、とんでもない不幸を味わう人もいます。一度見入られると、鍵を開けるまで、旅館を出ても夢は続くみたいですよ」

解説

宿泊代として500jrいただきます。ご了承ください。

相手の愛、想い、秘密、罪、希望など、何かをひとつ暴きます。
ただ、夢なのですべてではありません。断片的に見える感じです。

首輪をしている人の何かを暴くことになります。
神人・精霊のどちらでもかまいませんが、該当者のプランには、頭に『鍵』と記載してください。(鍵という文字だけで大丈夫です)

この夢は、目覚めた後は二人共覚えています。
フィヨルネイジャとかではなく、ただの夢です。
また、上記はシリアスっぽいですが、コメディ的内容でも問題ございません。
鍵を開けた瞬間、場面が切り替わります。


ゲームマスターより

誰もが鍵をかけていること、ありますよね?
ジャンルはロマンスになっていますが、どのような流れに持っていっていただいても構いません。
公序良俗だけ、気を付けてください。

また、相談期間が長めになっておりますので、他のエピもご検討中の方は、ご注意を。

リザルトノベル

◆アクション・プラン

(桐華)

  桐華さんに求められるのもまんざらじゃないなぁ
暫く見れるんなら堪能しちゃおうっと
だってほら、暴かれるのは嫌でしょう?
まぁ、桐華さんの考えてることなんて大体僕に筒抜けですけどねー

だから、どんな重たい愛が見えても、僕は受け止めるよ
本音では殺したくないんでしょう?
護りたいんでしょう?
ずっと傍で、幸せにしてくれるんでしょう?
だといいなぁって思ってる僕の願望かな
ふふ、答え合わせがしたいから、そろそろ開けちゃおう

見えたのが罪悪感だったことに少し驚いて
例えばこの時、桐華が村を出なかったらを想像する

…僕は危うく君を殺すところだったんだ
良かった。生きていてくれて
ありがとう。俺を見つけて、追いかけてくれて
…ごめんね


セイリュー・グラシア(ラキア・ジェイドバイン)
  鍵使いラキアを解放!

ラキアってあまり不安そうにしている感じ、なかったからさ。
危ない事して心配かけたり、は多かったけど。
こういう形での心配?とか不安を感じていたと、気がつかなかったぜ。ゴメンよ。
でもオレラキアの事、大好きだし!
一緒に居ると安心するし。何より居心地いいし。
お互い生き物だから「永遠に一緒!」なんてことは言えないけど。
でもずっと一緒に居たいって気持ちに偽りはないんだぜ。
恋人同士っていうより、もっと親しい、家族みたいにそばに居るのが当たり前みたいな感じに思っちゃっているからさ。
でもこれ。
魚にとって水が必要不可欠みたいな、そんな感じの「当たり前」なんだからな?
とラキアをギュッと抱きしめる。


蒼崎 海十(フィン・ブラーシュ)
  苦しそうなフィンの表情に戸惑う
もしかして、俺には知られたくない何かが…

ごめん
なら俺は…知りたい
フィンの事、知りたい

見えたのはフィンの想い
フィンの孤独感、焦燥、震えるくらいの切ない…
伝わって…胸が痛い

知らなかった…フィンは何時も笑顔で、俺の好きにさせてくれているから…

注意して見れば、分かる筈だったんだ
行ってくるなと扉を閉める際の、僅かに浮かぶ切ない色に

…永遠なんて、確かにないかもしれない
でも、俺は…それでもずっとフィンと一緒に居たい
フィンの事なら何だって受け止めてみせる
今のこの気持ちは紛れもない『本当』だから
信じて欲しい

フィンを抱き締めてから、鍵を開け

おはよ
それにさ、俺だって…同じ想いなんだから


カイン・モーントズィッヒェル(イェルク・グリューン)
 

目の前にイェルがいる
喪いたくない存在

『3人』いなくなったから、代わりが欲しかったとかじゃないが、『3人』喪って堪えたのは事実

実はリタは『7週』だった
検死結果と病院の予約で知った

リタは庇ったんだろうな
遺体は、エマよりリタのが腹以外酷かった

本音言うと、きつかった
何故俺だけがと

こんな姿は知られたくない
心配させる
いつもみてぇに平気だと言…

イェルが俺を抱きしめてくれる
いつも俺がしている様に頭を撫で
言葉を紡ぐ
「ありがとう」
イェルが鍵で俺を解放し…目が覚めた

「おはよ」
目と尻尾でねだってるんで、イェルを抱きしめる
沢山キスして、想い伝えて

Du bist mein Schatzt.
今日も明日もその先も…特別である様に


鳥飼(隼)
  倒れている子供に駆け寄ります。
傷だらけで。剥き出しになった庭の土の一部が、少し色が違って。
血の気が引いた気がします。
「僕の声が聞こえますか。今、手当しますから」
触れなくて、夢なんだと。見えもいないみたいです。
白い髪で、肌は黒くて。
「隼さん、ですよね」灰色の瞳は、何かを諦めたように光が無い。

何か言いかけた様子に顔を近づけて。
響くように聞こえた声が、心の声だと。
意味を考え、触れられないけれど。形だけ頬を撫でます。
「僕は」君に何ができるんでしょう。

隼さんに近づいて、夢と同じ場所にある頬の傷跡をそっとを撫でます。
何かを言いたいのに、言えなくて。視界が滲んでます。
「何ででしょう」僕も自分でわかりません。


●戦うのは、誰のため

 夢の中、隼の逞しい首に、太い黒色の首輪がはまっている。
 だが彼は、指先ひとつ、動かさない。口も、開かない。
 何も言わない相棒に、鳥飼は薄青色の目を細めた。
 鍵は手の内。使わぬ理由はない。
 だってこのままでいいはずが、ないのだから。
 ――しかし。
「……隼さん。君が忍耐強いのは知っています。でも……呼んでくれてもいいのですよ」
 そのような所で、ひとりで耐えずとも。
 隼は、頷きすら返さない。
 だが、灰の瞳は、まっすぐに鳥飼を捕えている。
 鳥飼は立ったままの彼に近付くと、少し背伸びをして、彼の首輪に指を添えた。
 彼同様、飾りなく無骨な鍵を、そっと鍵穴に差し込む。かちりとひねった途端、ふたりを包む景色が変わった。

 ※

 鳥飼が立っていたのは、木々に囲まれた場所だった。
 その視界の真ん中、地面の上に、白い髪の子供がひとり、横たわっている。
 そして少し先には、彼の獲物であるのだろう、槍が転がっていた。
 仰向けの姿勢で、ぜえぜえと荒い呼吸をしながら、高い空を見上げている少年。
 鳥飼は、これがどこかはわからない。
 ただ、かねてより中居から聞いていた話から、目の前の子供が隼だということは、想像ができた。だからこそ、彼はすぐさま、少年に駆け寄ったのだ。
 長く伸ばした髪を揺らして走り、小さな体の横にしゃがみ込む。
「僕の声が聞こえますか。今、手当しますから」
 少年は、首輪に囚われていた隼同様に、動かない。
 隼は、そんな少年の体の中から、鳥飼を見ていた。
 たとえるならば、意識だけがここに移っているという感じだろうか。
 主、そんなに不安そうな声をかけずとも、この子は死にはしない。
 現に俺は、この後生きて、主に出会うのだから。
 ここで捨ておいても、問題はないのだ。
 言わぬのは、これが夢とわかるから。鳥飼が神人で、自分の『主』だから。
 そして、言ってもやめないと、幾度かの戦いをともにして、わかっているからだ。
 だから隼は、ただ、鳥飼が動く様を見ている。
 当時修練を積んでいた、道場の庭。じわりと地面の色を変えているものは、おそらくは血だろう。したたる汗では、ここまではなりはしない。
 たぶん鳥飼は、近付いて、しゃがみ込んで初めてそれに、気が付いた。
 顔にさっと、緊張感が増す。
 だからそんなに心配せずとも、と思いながら、隼は考える。
 これは、何時の頃だろうか。
 実戦を意識して、刃を潰さない獲物に変わった後、ということしか、わからない。
 鳥飼の手が少年に触れようとし、宙を掴む。
「触れない……? これは夢……なんですね」
 呟くも、少年は鳥飼を見向きもしない。
 内部の意識の一部は、大人の隼。でも彼に、この小さな体を動かす権利は与えられていなかった。そうだ、おそらく彼――この頃の自分には、空以外のものは、何も見えないのだ。
 少年の指先が、地面をかき、爪に砂が入り込む。
 動かねば。起き上がらねば。そう思っているのが、伝わってくるような行動だった。
 胸だけが大きく上下し、しかし灰色の瞳には、光がない。
 白い髪、黒い肌、そして何かを諦めてしまったような瞳――。
 その顔をあえて覗きこみ、鳥飼は口を開いた。
「隼さん、ですよね」
 すると戻るのは、小さな声。
「……何で」
「……え?」
 やっと動いた乾ききった唇に、鳥飼は耳を寄せる。
 しかし先は、聞こえない。
 彼が、口を閉ざしたのだ。
 それは言ってはならぬこと。疑問に思ってはならぬことと、唇が、真一文字に結ばれる。
 だが鳥飼にはすぐに、彼の言わんとしたことがわかった。
 そしてそれは、隼にも然り。
 今の隼よりも高い声が、ふたりの脳内に響いたからだ。
『何で、契約するかもわからない神人の為に。頑張っているんだろう』
 そういえば、この頃はそんなことを考えた気もする……と、隼の意識が、当時を思う。
『こんなきつい思いをして』
『神人の役に立たねば、俺は価値がない』
『精霊として生まれてきた、俺に課せられた運命だ』
 強い精神を。強靭な肉体を。高い戦闘能力を。そして、何よりの忠誠を。
 隼の視線の先で、鳥飼が、少年の柔らかい頬に手を添えた。
 血がにじんだ浅い傷を、どうにもできぬのは承知の上。それでも、そうしたいと思ったのだ。
「『僕』は、君に何ができるんでしょう」
 少年は相変わらず、天を見上げている。
「ねえ、隼さん」
 呼びかける。
 と、次の瞬間。少年は、よろよろと体を起こした。
 動くことで、細い体からは更なる血が流れたが、彼は頓着しないようだった。
 たくさんの傷があり、どれもが彼の体力を奪っているのは確実。
 だがどれもが、致命傷に至るものではない。
 彼が立ち上がり、地面に転がる、自らの武器を拾い上げた――直後。彼の体は、いっきに成長を始め、鳥飼が知る今の隼となった。
 不思議な現象に目を瞬くも、もともとこれは、当初から不可思議な夢だ。
 鳥飼は隼の隣に立ち、その頬を撫ぜるべく、そろそろと手を伸ばした。
 今度は、温もりがある。
 もはや跡となっている場所を手のひらで包み込み、目を細める鳥飼。
 あの子がこんなに、大きくなった。
 何度もこんなことをして。傷を負って、血を流して。
 ――今は、自分の傍らに立ってくれている。
 何か言いたいことがあるのに言えない。ただ、まぶたがひどく熱くて、視界が滲んでいた。
「何故、泣きそうなんだ」
 黙ってされるがままを許していた隼が、ついに口を開く。
 労わるように優しく触れる手のひらが、今見た夢が、彼自身に思いもよらぬ言葉をしゃべらせたのだ。
「何ででしょう」
 泣きそうなまま微笑む鳥飼の瞳から、透明な滴が一筋こぼれる。
「僕も、自分でわかりません」
 本人がわからないと言うのならば、隼にその理由を見つけるのは不可能だ。
 だが彼は、目の前に見た涙を、温かいと感じた。
 そして、守れぬ者を思い後悔したり、精霊である自分を気遣ったり、ただの夢を見て涙を流す甘い主を、放ってはおけぬと思ったのだ。

●歩くのは、誰のため

 夢の中のフィン・ブラーシュは、今にも泣きだしそうな顔をしていた。
 湖面を思わせる瞳にはさざ波が、その周り、大理石の肌には、暗い闇がある。
「海十……」
 地を這った低い声は、蛇のごとく冷たいものとなり、彼を呆然と見つめる蒼崎 海十の体を上っていく。じわり、じわり。慣れない感覚に、海十の背は知らず、震えていた。
 それでも彼は、唇を動かす。
「……どうして、そんな……」
 フィンの首をまっすぐに横切る黒い筋……否、太い首輪は、今にもその下にある柔らかい肌を破らんばかりに、食い込んでいる。
 フィンはそれを外したいかのように手を伸ばし――鍵穴に触れて、自分ではどうにもできないと気付いたのだろう。再び、海十の名を呼んだ。
「お願い、この鍵を開けて……」
 鍵は、海十が持っている。
 ――海十が、俺の、大切な人が。
 開けてと懇願するフィンを見つめる、別のフィン。囚われの体を彼が支配すると、フィンは一変、縋るような眼差しで、海十を見つめた。
 ――彼には、あれは開けて欲しくはない。
 海十に、今まで自分に起こったすべてのことを話しているわけではない。その中には、ただ機会がなくて言っていないこともある。だがこのフィンが隠しているものは、駄目だ。
 フィンの瞳から、海十は目を逸らした。あの中には、まるでふたりのフィンがいるよう。海十の知らない彼と、おそらくは長く寄り添ってきた、彼。
 そんなフィンを見ていれば、あそこにあるものが何かはわからずとも、自分には知られたくない何かがあることは、予想できる。
 でも、俺は。
 手の内でもはや体温と同じ温度になっている鍵をきつく握り、海十は口を開いた。
「ごめん。俺は……知りたい。フィンの事、知りたい」
 海十が一歩、足を踏み出す。
 それを止めたいのに、フィンは声を出すことができなかった。
 俺の中に隠してる醜い感情を知られたら……そう考えるだけで、息が止まってしまいそうなのに。
 都合よく進まないのは、たぶん、自分が心を暴かれる側だからなのだろう。
 震えるフィンの目の前で、海十が鎖に繋がれた首輪の鍵を開く。
 途端、ふたりを包む景色が、ぱっと変わった。

 ※

「次はどの町へ行くんだい?」
 宿屋の主は食器を片付けながら、愛想よくフィンに尋ねた。
「さあ、どこにしようかな。お勧めはある?」
 すっかり身についている笑顔で聞き返すと、白髪頭の店主は、そうさなあ、と首をひねる。
「このあたりはどこも似たり寄ったり、名産もなけりゃ観光もいまいちだからな。俺たちもここに生まれちまったから住んでるだけだ」
 男はそう言って豪快に笑った。そんな彼を「父ちゃん!」と呼ぶ声がある。
「母ちゃんが、ごはんできたって! ねえ早く来てよ!」
「こら、お客さんの前だぞ。もうちょっと待ってろって」
「だってぼく、もうお腹ペコペコなんだ」
 少年は、五歳くらいだろうか。すみませんねえ、と謝る主に、フィンは気にしないで、と微笑みを見せた。
「俺が話をふったから、待たせてしまったんだよね。ごめんね」
 最後の謝罪は、少年に向けて。少年は恥ずかしかったのか、ぴゃっと店の裏へと戻ってしまう。
 その宿に背を向けて、フィンは歩き始めた。
 何もないと言われた村には、こうして当たり前の生活がある。父がいて、母がいて、子供がいる、平和な暮らしが。
 一度は離れようと思った家族ではある。だが、失うとは、思っていなかった。
『俺は、どこへいこうとしているんだろう』
『なにをしようとしているんだろう』
 フィンは、山道を、荒野を、海岸を、歩き続けた。
 ――と、たどり着いたのは、タブロスの、ふたりの部屋だ。
「海十、行ってらっしゃい」
 どうやらフィンは、これから出掛ける海十を見送るところらしい、が。
 いつもなら「行ってくるな」と告げる海十が、あれ? と声を出す。ドアが開かないのだ。
 瞬間、ドアは消え失せ、そこは鉄の格子となった。そして、気付けば海十の体には、幾重にも鎖が巻き付いている。

『海十が、外の世界へ一人で行ってしまうのが、怖いんだ』
『海十には無限の可能性があって、俺の居ない未来を選ぶ事だって出来る』
『どんなに約束を交わしても……それは永遠ではない』
『未来は、人の心は、移ろう物だから』

 フィンの声が脳内に響き、夢を見ていた海十は、自らの胸に手を置いた。
 知らなかった……フィンは何時も笑顔で、俺の好きにさせてくれているから……。
 視界の先、フィンの顔は、いつのまにか、のっぺらぼうになっている。
 だが本当は、注意して見れば、分かる筈だったんだ。
 いつも扉を閉める際、フィンの顔にわずかに浮かぶ、切ない色が。
 海十は、ゆっくりと歩を進めた。そして、うなだれるフィンの手を、そっととる。
 すると彼の顔が、人間のそれ――見慣れた恋人、フィン・ブラーシュの顔になった。
「……永遠なんて、確かにないかもしれない。でも俺は……それでもフィンと一緒に居たい。フィンの事ならなんだって受け止めてみせる」
 そのために、指輪を交わし、歌を捧げた。
 過去も聞いた。ありのままの自分を見せられるようにもなったし、夢想花のブーケを交換し、共に未来を歩く約束もした。
「今のこの気持ちは紛れもない『本当』だから、信じてほしい」
 海十はフィンの体を、強く抱きしめる。
「なんて殺し文句を……」
 呟くフィンの声は、震えていた。
 言ってはならない思いだと思っていた。それが、今、涙とともに、流れていく。


 フィンが目を覚ました時、彼は海十の腕に抱かれていた。
「えっ、これは、どういう……」
 まさかあの夢の延長が、この甘い現実であっていいものか。いや、これはまだ夢なのかもしれない。
 困惑して身じろぐと、海十の目がぱちりと開いた。
「おはよ」
「……おはよ」
「俺だって……同じ想い、なんだから」
「えっ……?」
「……こうして、離したくないと思うことは、ある」
 じわじわと赤くなっていく海十の顔が、これが確実に現実で、彼が寝ぼけているわけではないことを告げている。
 それがフィンには、かなり、とても、嬉しくて。
「なら、離れないようにしようか」
 彼はそう言って、海十の背に腕を回したのだった。

●この暮らしは、誰のため

 その場所――夢の中で、ラキア・ジェイドバインは美しい瞳を、ぱちりと瞬かせた。
「黒い霧に囚われるようだよ。もがくと余計に纏わりつくんだ」
 セイリュー・グラシアの耳に聞こえるのは、いつも通りのラキアの声。しかしその首には、緑のツタが、首輪となってしっかりとからみついていた。彼が庭で育てるどんなものよりも、頑丈そうな、太い茎。
「ねえ、セイリュー、それで本当に、この鍵を開けてしまうの?」
 ラキアは人差し指で、自らの首を指す。
 セイリューは、手の内の鍵をぎゅっと握った。
「だって開けないと、ずっとこの夢を見るんだろ? それにラキアも、黒い霧に捕まったままだ」
 言えばどこからか、今まではその場になかった霧が漂ってくる。それはセイリューの周りを一周した後、ラキアの足首に絡みついた。一見はただの霧に見えるのに、ラキアは動けない。それでも彼は、口を動かす。
「たぶん、開けないほうがいい。見たくないものを見ることになるかもしれないよ」
 そのうちに、霧はラキアのふくらはぎを、太腿を上っていく。彼のローブが闇に覆われるのを見たくはなくて、セイリューは鍵を持つ手を上げた。
「やっぱり、開けよう。オレはラキアにはこんな闇より、お日様の光の方が似合うと思う」
 セイリューが断言すると、ラキアはもう何も言わなかった。まるで人形のように、ただ、セイリューがすることを見ている。
 先ほどとはまるで違ううつろな瞳。それに不安を感じながらも、セイリューは鍵を使い、ラキアを開放した。

 ※

 セイリューの目に映ったのは、ダブロス市内の大通りだった。
 その歩道で、夢の中のセイリューが、誰かと話し込んでいる。そしてラキアがそれを、近くの花屋の店先から、じっと見ていた。
 ラキアの左手には、花屋で買った鉢植えが入ったビニール袋。右手には、おそらくは猫達の餌が入った袋を持っていた。絵柄が透けて見えたから、たぶん間違いはないはずだ。
 これは、あまりにもありきたりの光景で、だからこそセイリューの記憶には、とどまっていない。
 どうしてあえてこんな場面が、目の前に? 思い、セイリューにはすぐに気が付いた。ラキアの様子が、いつもとはまるで違うのだ。
 さっき、黒い霧に足をとられたときのような、無表情。青葉を映した瞳からは光が消えて、いつだって弧を描いている唇は、まっすぐに結ばれていた。
『セイリューが他の人と仲良くしていると、少しもやもやする』
 不意に脳内に響いたラキアの声に、セイリューは目を見開いた。
 とっさに、これはあのラキアの気持ちだ、と悟る。
「ラキア……」
 何かを言わねばと思う。しかし名を呼んでも、続ける言葉が出てこない。
 そして次の瞬間、目の前にはたくさんのセイリューの姿が、映し出された。
 それは、つつじの咲く場所でパズルに頭をひねっている姿であり、狐の青年の依頼のために、不思議な森で戦う姿だった。他に、月で農作業に励む姿、子供に届けるくまのぬいぐるみを抱えてソリにのり、笑っている姿もあった。
 どれもこれも、だいぶ懐かしい頃のこと。
『何か飛び超えたような、こちらが思ってもいない言動をすることがあるセイリュー。目が離せなくて、とても心惹かれる』
 声が、響く。
 しかしその意味を考える前に、目の前にはまた、別のセイリューが生まれた。甘い香り漂うチョコフォンデュを楽しむ姿。
 足元に戯れる愛猫にお菓子を与えている姿。片手には、ラキアの入れてくれたハーブティー。これは服装からして、昨日の夜のことじゃないか?
 おや、もうひとりは……初めて会ったときだろうか。「ま、いっか」と唇が動き、手を差し出している。
「オレの生命預けるからな、ヨロシク!」

『自分のサイクルより、もっと短いスパンで様々な変化を見せてくれるセイリューがとても好き』
『でも、セイリューの興味が、俺から外れてしまったらどうしよう』
『ふたりの時間の流れ方は、少し違う。生きている時間が、違う』
『別生物だから当然のことだけど、この剥離が大きくなっていったら……』
『怖い』
『ずっと一緒の時を過ごしたい』

 聞こえた声の語尾は、震えていた。
「ラキア!」
 セイリューは叫び、夢の中の自分と握手をしている相棒に、走り寄る。
「ラキアって、あまり不安そうにしている感じ、なかったからさ。こういう形での心配とか不安を感じていたって、全然気が付かなかったぜ。ゴメンよ」
 そこまでは、セイリューにしては沈痛な面持ち。だがそれは、すぐに笑顔に変わる。続ける言葉はこうだ。
「でもオレ、ラキアの事、大好きだし! 一緒に居ると安心するし、何より居心地いいし! お互いに生き物だから『永遠に一緒!』なんてことは言えないけど、でも、ずっと一緒に居たいって気持ちに、偽りはないんだぜ」
 そこでセイリューは、ふと自分の足元に目を向けた。そこには、先ほど目の前で自分の足元にいた猫達がいた。自分とラキア、ふたり靴の横にちょこんと並び、にゃああと、鳴いている。
 そうだ。この子達がいるから、というのもあるかもしれない。
「いつの間にか、恋人同士って言うよりも、もっと親しい、家族みたいに傍にいるのが当たり前にな感じに思ってるけど」
 でもこれ! と。セイリューは、ラキアをきつく、抱きしめる。
「魚にとって水が必要不可欠みたいな、そんな感じの『当たり前』なんだからな?」
 ここでやっと、今まで黙りこくっていたラキアが、口を開いた。
「ありがとう、セイリュー」
 彼が言うと、幻影のようなセイリュー達は、いっきに姿を消した。そして、足元の猫達も。
 代わりに周囲を埋めたのは、たくさんの花、花、花。
 もしかしたらそれは、遺跡で見逃した夢想花なのかもしれない。そう思うくらいに美しく、また、見たことがないものだった。
 まるでふたりの幸福を約束したように、咲きほこる鮮やかな花。それは、ラキアにとてもよく似合っていると、セイリューは思った。

●生きるのは、誰のため

 カイン・モーントズィッヒェルの首輪は、銀の細工が施されていた。これを、彼自身が作ったというのか。イェルク・グリューンは相棒の、昏い眼を見つめる。普段の生活の中では、見ることがない眼差しだ。
 だが、あの時もこういう眼だったのかもしれない。
 冷たく、無機質な廊下。
 堪えた、と聞こえた声は、存外しっかりしていた。
 それなのに、ドアの向こうに消えた後は――。
 イェルクはふるりと首を振った。
 過去を考えてはいけない。今は、目の前のカインのことだけを。
 銀の首輪に、銀の鍵を差し入れる。それを回した直後、ふたりを包む世界が変わった。

 ※

 見せたくないと、見てはいけないと、カインが、イェルクが考えたからだろうか。
 そこは、ひたすらの闇だった。
 ただこちらに背を向けるカインの姿だけが、まるで薄いスポットライトを浴びたように、そこにある。
『「3人」いなくなったから、代わりが欲しかったとかじゃないが、「3人」失って堪えたのは事実』
 カインの淡々とした声が、イェルクの耳の奥に響いた。
 3人、という単語に、まさか、と思う。
 いや、あり得たことか。
 目の前の暗闇に、突如、白衣を着た男性が現れた。
「奥様は、赤ちゃんを身ごもっておられました……第7週です」
 男性――医師は、冷静に、その事実をカインに告げた。彼は相変わらず、イェルクには背を向けたまま。だが、その足元にバサバサと落ちてきた、女性用の鞄、小物類……そして診察券や母子手帳が、彼が慌ててその証拠を探したことを表していた。
 ――カインは、知らなかったのか。
 夢は唐突に、あの無機質で冷たい、しかし明るい廊下を映し出す。
 等間隔に並ぶドア。そこにカインの姿はなかったが、この内にいることを、イェルクは知っていた。
『リタは庇ったんだろうな。遺体は、エマよりリタのが、腹以外酷かった』
『何故俺だけが』
 ぎい、ときしんだ音とともにひとつのドアが開き、憔悴しきったカインの背中が、出てくる。その背が廊下を歩いて歩いて……たどり着いたのは、今ともに住んでいる家の、リビングだった。
 座り込み、うなだれているカイン。
『こんな姿は知られたくない』
『心配させる』
『いつもみてぇに平気だと言……』
 彼が、言葉を紡いだのは、ここまで。
 イェルクが、彼の体を抱きしめたからだ。
 夢であるからして、イェルクの腕は、空をかく。
 だがそれでも、彼はカインの背に手を這わせた。
「キスをするのも肌を重ねるのも愛がなくとも出来るが、抱きしめるのは愛がなければ出来ない…そういう話を聞いた事があります。一緒に罪悪感を背負うと言ってくれたあなたを愛してるから、今私はあなたを抱きしめています」
 互いに届いた紙飛行機。吾亦紅、アイドクレース、ふたりの写真。
 ――と。
 とくり。小さな音が、イェルクの耳に届いた。
 それは、とくり、とくり、と続く。イェルクの腕の中のカインに鼓動が生まれたのだ。
 抱きしめる腕には、彼の体温。
「イェル……」
 呼ぶ声は、いつもと同じ。
「カイン……」
 イェルクは彼の顔を見ないように注意しながら、カインの頭をそっと撫ぜた。
「私も一緒に背負います。私達は夫婦ですから」
「ありがとう」
 カインは、いつもしているように、イェルクの頭に手を置き、髪を静かに撫ぜた。
 イェルクが目を伏せているのは、たぶん、自分がこんな姿を見られることを嫌うと知っているからだ。
 大切な人を亡くしたのは、ふたりとも。
 安置所のベッドの前、膝から崩れ落ちたイェルクの姿と、響いた泣き声は、けして忘れることはないだろう。
 それでも互いは、愛し合った。大切な人の不在を埋めるためではけしてなく、互いを支えたいと、守りたいと、愛おしいと思うがゆえに、夫婦になった。
 イェルクがちらと顔を上げ、カインを見る。その表情から、彼がもういつもの彼に戻りつつあることは、わかった。
 過去は忘れられない。忘れる必要もない。いや、忘れてはいけない。
 ただ、未来を否定してもいけない。
 それはカインが、言ったことだ。
 その言葉に、イェルクはどれほど救われたことだろう。
 穏やかな午後の時間を思い出し、イェルクはくすりと笑った。本当はそれなりに真剣な時を過ごしたのだけれど、カインが言った別の言葉を、芋づる式に思いだしたのだ。
 彼の妻と、子供と、そして自分の恋人と。さらにはカインと、イェルクと、死後の世界で、修羅場になるかも、という想像。
 そのときまでふたりで、生を、幸福を全うできるのならば。
「……私も修羅場を楽しみにしていますよ」
 イェルクはより強くカインを抱きしめ、その頬に、自らのそれを触れあわせた。


 カインが目を覚ますと、眼前には、イェルクの不安げな瞳があった。
 彼が、真上から、カインの顔を覗きこんでいたのだ。
「……おはよ」
 夢の内容は覚えている。だからこそ、普段と同じように挨拶をすると、イェルクは安堵したように、唇を綻ばせる。
「……おはようございます」
 少し体を動かした拍子に、イェルクの長い髪が一筋、カインの頬に落ちた。
 それは夢の中で、優しく触れた、彼の頬の感触にも似ていて。
 カインは右手を持ち上げ、自分を見下ろすイェルクの後頭部に手を伸ばす。と、尻尾がぱたりと、カインの体に触れてきた。とんとん、と叩いているのは無意識か。しかし至近距離で見つめる瞳までもが、彼の内情を訴えている。
 それがわかるから、カインは、右手に少しの力を込めて、イェルクの体を引き寄せた。
 そして、迷わず唇に、キスを。
「いい朝だな」
「そうですね」
 今日も、あなたがいてくれるから、と。
 触れあった箇所が離れるやいなや呟いて、今度はイェルクから、カインに唇を寄せた。
 繰り返す口づけの合間に、カインは口にする。
「Du bist mein Schatzt」
 ――今日も明日もその先も……特別である様に。
 唇で熱を受け止めながら、イェルクは胸の内で、そっとカインを呼びかける。
 ……愛しい人、だから私はあなたがいい。

 みんなで幸せに。まだまだ自分達には、進むべき道がある。
 わふん! と愛すべきティエンの鳴き声が、聞こえた気がした。

●ともにいるのは、誰のため

 桐華の首にはまるのは、一見チョーカーとも思われるような、華やかな首輪だった。本体は黒一色のシンプルなものだが、そこに薄紅の桜が咲いているのだ。
「昨日は薔薇だったのに、不思議だねえ」
 囚われている桐華を見やり、叶が呟く。なぜか鍵の形も、花を模して日々変わっている。だが追求してはいけない。だってこれは夢なのだから。
「叶……その鍵で」
「早く、俺を暴け」
「俺に触れろ、叶」
 腕を持ち上げ、宙を掴む桐華は無表情。しかし、叶、と呼ぶ声は、まるで毎日聞いているそれで。
「桐華さんに求められるのも、まんざらじゃないなあ」
 叶は唇で弧を描き、手に持った、今日は桜の花弁の形の鍵を振る。
 これを使えばいいのはわかるけれど、今しばらく、自分の名を呼ぶ桐華を堪能したい。
 だが。

 翌日、一日の終わりを迎える頃。
「つーか、お前は何日同じ夢を見る気だ」
 唐突に、桐華は言った。
 あれ? 僕、あの夢見続けてるなんて言いました? とでもいうように、叶はきょとんとして見せるが、桐華には、これが演技だとわかる。夢が互いに筒抜けということは、初日で経験済みなのだから。
「だってほら、暴かれるのは嫌でしょう?」
 しれっと言う叶。その後には、まあ、桐華さんの考えてることなんて大体僕に筒抜けですけどねーと来たものだ。
 桐華ははあ、とため息をついた。
 叶が好きなお遊びか。それとも俺の中に、見たくないものが隠れていると思っているのか。
 どちらにせよ、鍵を使わなければ、この夢は延々繰り返されるだけのはず。
「いい加減俺がいたたまれないだろうが。さっさと解放してやれ」
 言いながら、逆なら良かった、と桐華は考える。叶の隠しているものが暴ければ、よかったのに、と。
 それなりの時間をかけて、それなりの仲になってはきたが、時折叶の言葉は、謎かけのように聞こえることもあった。
 最期まで一緒にいると、そう言って、自分は叶の手を握ったけれど。
 ――最期とは、いつ、どんなものなのか。いつかのように、殺したくはないが、と考えたところで。
「だからね」
 叶が、ゆっくりと口を開く。どこから続く「だから」なのか。思っているうちに、先は続いた。
「どんな重たい愛が見えても、僕は受け止めるよ」

 その日、叶は夢を見た。
 今夜ばかりは、桐華の首を捕えた首輪は、花弁一枚なく、大層シンプルなものになっていた。
「叶……」
 名を呼び、眉間にしわを寄せる桐華。こんな顔を、今まで何度も見てきた、と思う。
 桐華はいつも、そんな顔で僕を追ってきた。
 夢の中の桐華に、叶は告げる。
 本音では、殺したくないんでしょう?
 護りたいんでしょう?
 ずっと傍で、幸せにしてくれるんでしょう?
「だといいなあって思ってる僕の願望かな」
 ふふ、と笑って、叶はシンプルな鍵を持ち上げた。
 そろそろ、答え合わせがしたくなってきた。
 かちり、と小さな音を立てて、鍵が開く。その後、ぱっと世界が姿を変えた。

 ※

 その場所を、叶は知っていた。
 桐華の故郷。なくなった村。そして、自分がかつて、住んでいたところ。
「……じゃあ」
「いってらっしゃい」
 髪飾りをつけていない桐華を、彼の家族が見送っている。
 この村に、仕事はそう多くはない。稼ぐためには、若者は外に出稼ぎに行くのは、珍しいことではないのだ。
 それなのに、桐華はどこか、浮かない顔をしているように見えた。
 胸のあたりにある黒い渦。ぐるぐると回り続けるそれが、原因なのかもしれない。
 ……なんだろう。
『……村を出ていなければ、家族の一人くらいは守れたかもしれない』
 唐突に、叶の頭に、桐華の声が届く。
 そうか、あのぐるぐるは、桐華さんの罪悪感、だ。
 それを知り、少しだけ驚いた。そして、考える。例えばこの時、桐華が村を出なかったら、と。
 いつだったか、不思議なハーモニカを吹いた後で、桐華は言った。
 悲惨な光景とかは見てないもんで。
 しかし彼がいたならば、その『悲惨な光景』のなかで、家族を護るために必死に戦ったのだろう。その後は、たぶん……。
「……僕は危うく君を殺すところだったんだ」
 呟くと、夢の中の桐華が、今の花飾りをつけた彼に変わる。
 彼はまっすぐに、叶の前までやって来た。いつのまにか、黒いぐるぐるはどこかへ消えてしまっている。
 目の前の桐華を見下ろし、叶は言う。
「良かった。生きていてくれて」
「……ああ、良かった。お蔭で、お前に出会えたんだ」
「ありがとう。俺を見つけて、追いかけてくれて」
 その言葉には、桐華は答えず。
 代わりに彼は、叶の手を取り、その場に跪いた。そして、既に色を変えている紋章に、口づけを落とす。
 それはいつかの、契約の日。
 あのときと今は違う。君は僕を確かに捕まえた。けれど。
「……ごめんね」
「謝るな」
 桐華はそう言って、叶の手を取ったまま、立ち上がった。
 そこで、目が覚める。

 寝起きでぼんやりする頭を一度振ると、髪がぱさりと小さな音を立てた。
 すっかり伸びたそれをかきあげ、桐華ははっと息をつく。
 ――思いだしたことがあった。
 あの日、言われたんだ。一颯に。
『君は行かなきゃ駄目なんだよ。じゃなきゃ、終わってしまう』
 村のために外で働くべきだと。そう言われたんだと思ってた。
 でも、あれは……叶のことを……?
 叶と一颯、そして桐華。
 同じ村に住んでいた自分達の過去は、まるで形の揃わないパズルのようだ。
 玩具のたくさんある場所で。
 せまいところから空を見上げて。
 夜になるとやって来る精霊と、一日のことを話していたと、叶は言っていた。
 それは、パズルの欠片の一部。
「……本当に、叶の隠しているものが暴ければ、よかったのに」
 ピースはまだ、揃っていない。

 ――この夢のことは、秘密にしよう。
 桐華はベッドから、立ち上がる。まずは窓を開けて、部屋に朝の光を入れるのだ。



依頼結果:大成功
MVP

メモリアルピンナップ


( イラストレーター: 空春  )


( イラストレーター: 空春  )


エピソード情報

マスター 瀬田一稀
エピソードの種類 ハピネスエピソード
男性用or女性用 男性のみ
エピソードジャンル ロマンス
エピソードタイプ EX
エピソードモード ノーマル
シンパシー 使用可
難易度 普通
参加費 1,500ハートコイン
参加人数 5 / 3 ~ 5
報酬 なし
リリース日 07月12日
出発日 07月21日 00:00
予定納品日 07月31日

参加者

会議室


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