プロローグ
「ひま?」
A.R.O.A.本部の受付付近にて。何か目新しい依頼は無いかと思っていた貴方達に、一人の精霊が声を掛けた。
「ちょっと、訓練に付き合わない?」
訓練と告げた精霊は、左手の甲に赤い紋章を持つウィンクルム。
先日の大規模な演習を髣髴とさせる単語だが、もっと簡単なものだと言う。
「俺と、俺の相棒と、それからもう二組、ウィンクルムが協力してくれるんだけど……その人達を、見つけるんだ」
要するにかくれんぼだと、彼は笑う。
指定した場所で、対象を探し、捕獲する、索敵訓練。
見つけるための工夫や、捕縛のための工夫。そういうのを、養ってみようじゃないかと。
新米ウィンクルムも多い中だ。実戦へ向けての準備をゲーム感覚で。
「興味、ない?」
伺うように小首を傾げた精霊に、なるほど、と貴方は一つ頷いた。
「じゃあ、決まり」
緩く微笑んでから、精霊は、あ。と小さく声を上げた。
「一つ言い忘れてた。俺達も逃げたり反撃したりするから……そのつもりでね」
ゲーム感覚なかくれんぼだけれど。
やるからには本気で挑んでもらいたい。
これは、訓練なのだから。
「でも、怪我するようなことはお互い駄目だよ。あ、と……もともとデミ・オーガが居たけどそれも片付けてあるからそういう心配も要らない」
朗らかに笑った精霊は、最後に自らをアキトと名乗った。
解説
●目的
先輩ウィンクルムを索敵、捕獲せよ!
捕獲に失敗しても依頼自体が失敗判定になることはありません
なお、個人戦・全体戦・複数組での協力戦、どれでもご自由にお選びください
●ステージ
三種類から選べます。プラン冒頭に記載お願いします
1ステージに付き1組のウィンクルムが潜伏しています
★森(参加ウィンクルム:シキ・暦)
鬱蒼とした森林地帯。やや薄暗く、足元には背の高い草が多い
野生の動物がいる模様
起伏は少なく平坦な地形
★岩(参加ウィンクルム:ハルカ・美冬)
ごつごつとした岩肌の目立つ山岳地帯。大きな岩が点在している
草木はほとんど無く、生き物も居ない
起伏の激しい地形。崖等の危険な箇所は無い
★洞(参加ウィンクルム:アキト・千夏)
分岐の多い洞窟内部
補足 水の流れている箇所もあり、たまに濡れている
起伏は無いが光も乏しい。生き物は不在
●ルール
ステージを1箇所選び、先輩ウィンクルムを探します
事前準備は1時間以内で習得が可能な物品のみ許可します
一般スキルを用いての工作系も同様の時間制限内、スキルの用途として適切な場合のみ許可します
武器のみ、安全を考慮してウレタン製に変わっています
飛び道具類はペイント銃やゴム矢等に。物理攻撃0のものはそのまま
スキルの使用はNGです
●余談
参加ウィンクルムは
シキ→シノビ
ハルカ→テンペストダンサー
アキト→プレストガンナー
となっております。該当ジョブっぽい動きはしてくるかもしれません
今回の索敵・捕縛の手段の有効・無効の判定は、今後の錘里エピにおいて同様の判定がされる可能性が高いです
あくまで錘里のエピにおいての話なので予めご了承ください
ゲームマスターより
女性側ではご無沙汰しております、錘里です
訓練という名の先輩sによる後輩いじり、第……4弾くらいでしょうか?
シリーズにしているつもりはありませんが、思いついたらまたなにかやるかもしれません
先輩sの性格等は過去エピ参照いただくと判ったりしますが、特に必要のあるものではありません
名前があったほうが判別しやすいかなという程度です
プラン内では『敵』でも『先輩』でも好きに記載してください
リザルトノベル
◆アクション・プラン
アイリス・ケリー(ラルク・ラエビガータ)
そう言いながらもいじられ、いえ、いびられ、もといご指導頂こうとしてますよね ★森 鳥避け用のネットとロープを用意 暗色のマント二人分 それでラルクさん。どうなさいます? …成程。では悟られないように接近ですね 照明は足元だけを照らし、物音を立てないように注意します 私は頭上の警戒を 足跡は期待できませんが…木に登ったのなら、幹に多少土がついているかもしれません 低いところであれば野生動物かもしれませんが、高いところなら人間でしょう 会話は控え、身振りのみでやり取り 先に発見出来たら回り込んで挟撃といきましょう 精霊に気を取られている間にネットを投げて捕縛 どちらか一人でも捕えたら取り押さえにかかります |
真衣(ベルンハルト)
まちがってスキルをつかわないように、トランスはしない。 森はあんまりあらさないように気をつけるね。 重音おねえさんたちと、ちょっとだけはなれて木の下を探す。 みつけたら場所と、せんぱいの名前を大きな声でつたえるわ。 明かりで私たちの場所はわかっちゃうと思うの。 だからはじめにみつけたあとでにげられたら。 マグナライトをつけたままおいて、そこにいるようにみせて。 こっそりべつの場所にいくの。その近くに来たら抱きついてつかまえる。「つかまえた!」って。 しばったほうがいいなら、ロープをつかうね。 せんぱいが木の上なら、マグナライトとクリアライトでめくらまし。 おわったら「ありがとうございました!」って、お礼をいうわ。 |
蓮城 重音(薬袋 貴槻)
森 申請準備:ロープ×4、色水(蛍光色か赤系)入り水風船×4(それぞれ仲間に一つずつ)(無理なら諦める) (訓練なら危なく無いわね) 事前に草を結び躓く罠を作成 真衣さん達と協力戦 野生動物にぶつけないよう気を付けながら、剣で草をなぎ倒し索敵 見つけたら近ければ水風船を投げ、遠ければ投げず、大声で誰が何処でどうしてるかを仲間に伝え追う 捕獲は仲間と協力しながら 追いついたら背中から押し倒すように抱きつき止める 反撃されたら「ごめんなさい!」と叫びながら剣を振り回して叩く ロープか上着で拘束 終わったら罠を戻す 先輩達と真衣さん達に感謝 「あの、どうしたら強くなれますか」 何を言われても深々と頭を下げもう一度感謝 |
冴木・春花(悠)
★岩 山岳地帯で、個人戦 美冬先輩と…ハルカ、さん 同名の誼で、よろしくお願いしますね ■追 先にざっと見ででも周囲の地形を把握 以後は基本、岩陰に身を隠し行動 先輩は逃げるタイプの人とみて 此方の動きを悟られ難い様に 衣擦れや岩を踏む音 風に混じる香 景観と異なる色 トランスしているならオーラも 五感を活用し、且つ推測も立てながら探査 痕跡は…罠の可能性もあるから、今回はあまり重視しない 発見したら、ルカとは左右に分かれ 追い付きたいから走りは本気 けど、無理でも…追い込む様に、追う 岩の乱立地帯など逃げ難い方 若しくは…ルカの示す方へ 悔しいけど こういう事は彼の方が得意だって、知ってるから …私たち、どうでした? 自信は、まだ無くて |
マユリ(ザシャ)
岩 個人戦 さあ、ザシャくん張り切っていきましょうっ 元気ですよたくましいですよ! 先輩方に負けてられませんからっ …あ、打ち合わせ通りお願いしますね 捜索 足元に気をつけて、岩影を捜す 二人で岩をひとつひとつではなく、二手に別れ、捜索 どちらか一方でも、発見したらザシャを呼ぶ 先輩発見時 動きを見せたら、岩の影に隠れ出方を伺う 岩の影から弓を覗かせ、ゴム矢を放って自分に注意を向けさせる (直接当てないように。もし当たっても掠める程度) 捕獲が成功しようが失敗に終わろうが、最後にはお礼を言う |
「ロープに色水、風船……鳥避けのネットにマント……テグス? ふぅん、ま、これくらいなら準備できるでしょ」
用意したいものを各々に告げたウィンクルムたちへ、神人はにこりと笑って準備を促した。
その傍らでは、少しだけ退屈そうに座っているアキトの姿。
「……俺も、遊びたかった」
「訓練って言いなさいよせめて」
洞窟ステージは、今回はお休みだ。
●森
薄暗い森を見渡して、アイリス・ケリーはラルク・ラエビガータへと視線をやる。
「それでラルクさん。どうなさいます?」
「あっちも逃げれるルールで、隠れ場所に困らない森だ。俺なら追跡側の位置を探る」
森に潜むシキと暦の行動予測に、アイリスはなるほどと小さく呟いた。
「では悟られないように接近ですね」
そう言った二人の身は、暗色のマントで包まれている。
木の葉や土をつけ、偽装を施したマントは、薄暗い森の中で効果的に二人の身を紛らわせ、更には野生動物の鼻もごまかしている。
準備にやや時間がかかるのが難点ではあるが、今回与えられた時間内で出来る範囲でも、充分な効果を発揮している。
歩を進める足元だけは灯りに頼り、物音を立てないように慎重に……とはいえ、背の高い草を掻き分けることになる以上、完全な無音は難しい。
それは向こうも同じこと。自身のものではない音に、二人は細心の注意を払った。
(足跡には期待できませんね……)
アイリスは頭上を警戒すると同時に、周囲の木々に素早く視線を巡らせる。
(木に登ったのなら、幹に多少土がついてたり……)
ささやかな情報でも索敵の足しになればと思うが、当ては外れのようだ。
アイリスはラルクを振り返り、周囲には登った痕跡がないことを首を振って示す。
そのジェスチャーを受けたラルクは足元を注意し、こちらの接近を知らせるような罠の有無を探る。
獣相手ならば考える必要のないことだが、これは人間相手の頭脳戦。注意しすぎて困ることは、ないのだ。
不意に、がさ、と音が鳴る。
息を潜めて足を止め、視線だけを向けた先で、ガサガサと繰り返し鳴る音。
(野生動物か?)
(そのよう、ですが……)
立ち止まることなく駆けてくる音は、次第に近づいて。やがて一羽の野兎が二人の視線を横切って更に駆けていく。
それはまるで、何かから逃げてきたようで。
その何かが、見慣れない大きな生き物――人間である可能性は、高かった。
顔を見合わせ、認識に頷き合うと、ラルクが先行して進む。やや迂回するルートを取りながらアイリスも続く。
頭上や足元への注意は継続しつつ、それでも一つの確信を持って進んだ先には、大きな木の根元に待ち構えるシキと暦の姿。
(当たりだな)
周囲に罠の存在は見られない。アイリスが引っかかることはないだろう。
ならばラルクの取る行動は、一つ。
「――お、きたね」
素早く肉薄し、ウレタン仕立ての手裏剣を振るうラルクに、シキは同じ武器を構えつつも、後退の指示を出す。
そこへ、回りこんでいたアイリスが飛び出し、退こうとした暦へネットを投げた。
「きゃっ!」
「よし!」
「おっと、流石に準備が良いねぇ」
ラルクの攻撃をいなし、暦を取り押さえるアイリスを確認すると、うん、と一つ頷いた。
「よし、ここまで。二人共流石によく動くねぇ。ま、君らくらいの実力があれば二人で挟撃は十分可能だからね。けど……」
そう言って、ちらり、アイリスとラルクを見比べる。
「……君ら、二人捕まえる気は、ないっぽいねぇ?」
そう言われて、顔を見合わせるラルクとアイリス。用意したネットは重量の関係もあるが一組だけ。
一網打尽にすることも不可能ではない装備だが、彼らはどちらか一人が網にかかれば取り押さえる方針だった。
「ま、確実に一人ずつってのは同数対峙ではセオリーだろうし、正解正解。今後も活かしていってねぇ」
そう締めくくったシキに、ラルクは肩を竦め、準備中のアイリスとの会話を思い起こしていた。
『あの連中、後輩構うの好きだよな』
『そう言いながらもいじられ、いえ、いびられ、もといご指導頂こうとしてますよね』
『……アンタのわざとらしい言い間違えはなんなんだ』
ちょっとした皮肉のつもりだったのかもしれないけれど。
間違ってない程度には、この連中、イイ性格をしているのである。
◆
森の手前にて、蓮城 重音と薬袋 貴槻は、纏めて申請していた道具類を、今回同じステージで共闘を選んだ真衣とベルンハルトに渡していた。
「ロープに色水入り風船、時間内に仕上がって良かったわね」
たぷん、と蛍光色の色水が入った風船を遊ばせながらの重音の言葉に、真衣は嬉しそうに頷いた。
「みつけたら、なげて、目立つようにするんだよね」
「……当てた場合、クリーニング代は必要だろうか」
対照的に真面目な顔をしているベルンハルトのささやかな疑問は、一瞬の間を生んだが、すぐに切り替えられた。
とにかく訓練をこなし、先輩を捕まえることが第一だ。
森へ踏み込んだ重音と貴槻は、真衣たちとは少し離れた位置を取り、足元の草を幾つか縛って輪を作り始める。
追走時に足を引っ掛けさせるための、罠だ。
(訓練なら危なく無いわね)
(先輩もシノビだし、動きとかを学べればいいな……)
それぞれの思惑を胸に黙々と作業をする二人。幾つかの罠を仕掛けたところで、貴槻は樹上へと視線を向けた。
「木に登って索敵してみる」
「気をつけてね」
見送られ、ひょい、と身軽に木の上へと至った貴槻は、しかしその時点でかすかに眉を寄せた。
(視界が悪いな……)
背の高い草の上を見渡せる位置とはいえ、薄暗い森はそれだけ木々の葉が生い茂っているのだ。樹上からの視界は決して良好ではなく、貴槻は素直に地上に降りてその旨を伝えた。
「んー……それならやっぱり、地道に行くしかないわね」
ウレタン仕立ての剣を構え、ばさり、草を薙ぎ倒しながら進み始める重音を、貴槻は渋い顔で追う。
(くっそ、もっと鍛えなきゃダメだな)
同職の先輩が敢えてこの場所に潜伏しているというのなら、適している部分があるはずなのに。
明確な手応えを感じられない焦りを、深呼吸で落ち着けて。貴槻は注意深く周囲を、頭上を、見渡した。
一方の真衣は、ベルンハルトと共にマグナライトで周囲を照らしながら進む。
お互いに怪我のないようにと指示された訓練であるならば、あまり顔や首などは狙わないほうが良いだろうと思案するベルンハルトは、時折足を止め後ろを振り返って確認を繰り返す。
(訓練内容は潜伏者の捕獲任務を想定したものだろう……背後から奇襲がないとも限らない。不意打ちには警戒しよう)
視界を確保しながら慎重に。各々が気をつけながら進んでいると、がさりとなぎ倒した草の隙間から、仲間とは違う人の影を見つける。
「ハルト、いたよ!」
「待て、真衣。神人だけだ、精霊がいない」
水風船を構える真衣を制したベルンハルトの判断は正しかった。
音に灯り、野生動物のそれとは明らかに違う要素は、彼らの位置を相手に教えているも同然で。
察知できているのなら、可能となるのが、囮作戦である。
「見つけたわ! 暦さんね、樹の下で一人よ!」
「逃さないよ!」
機を同じくして重音たちも暦の姿に気がついた。距離は充分、水風船は投げれば当たるだろう。
向かってくる二つの風船を、暦は視線で追い、ウレタンを構え、薄らと微笑んだ。
「貴槻さん、後ろだ!」
「えっ……」
全力で暦に向かった貴槻の背後から奇襲を仕掛けようとしていたシキを察知したベルンハルトは、ペイント銃を構えてシキを撃つ。
当たっても支障のないものだが、威嚇するような射撃にシキは身を引き、踵を返した。
「おっと、残念……暦、逃げようねぇ」
「あっ、まって!」
逃走を始めた二人を、真衣が追う。
一生懸命に走る足は、しばらく背を追った後に不意に立ち止まり、手にしていた灯りを足元に置いた。
そうしてまた、走る。それは一つの目印。こちらの位置が灯りで知られているのなら、逆手に取って、あたかもそこにいるかのように仕組んだのだ。
こそこそと別の場所から回り込む真衣を確認して、ベルンハルトは二人の先輩と仲間の位置を見比べて、暦の後を追う。
行く手を制限するようにペイント銃の引き金を引きながら、彼は同時に胸中に苦いものを感じていた。
(訓練とはいえ、人に向かって撃つのは嫌なものだな)
実戦で必要とされる日が来ないことを祈りながら銃を撃つベルンハルトを一度振り返った暦は、再び前を向いた時、足元から飛び出してくる影に目を剥いた。
「つかまえた!」
誘導が上手く行ったようだ。ぎゅっ、と抱きつくようにして飛びついた真衣に、暦は微笑んで両手を挙げる。
「降参よ」
その言葉に、ぱっ、と笑顔が咲いた。
同じ頃。シキを追っていた重音をサポートするように、貴槻はシキの足元に手裏剣を放ってその足を止めようとする。
間はほんの一瞬でも、繰り返せば神人の重音が追いつける程になっていて。
しかし決定的な隙は見せてくれなくて、鬼ごっこがまた暫く続くかと思われた、その時だった。
「ぅわ、っとぉ!?」
ぐいっ、と何か――重音達が事前に結んだ罠に足を引かれ、シキの体が大きく傾いだ。
そこへ重音が背中から抱きついて、その勢いのまま、押し倒した。
ひく、と貴槻の表情が引きつったのは、気のせいではないが誰も気付かない。
ロープを取り出し縛り上げようとする重音をシキが振り返り、ストップを掛けたところで訓練終了。
合流の後、後輩たちはお互いを労い合い感謝を述べ、そうして重音は先輩達を振り返る。
「あの、どうしたら強くなれますか」
真っ直ぐで率直な問いに、シキは笑顔で応える。
「うん、うん、見つけた獲物に目印をつけるのは良い発想だったねぇ。相手が逃げることを想定した準備は大事」
でもね、と。肩を竦めてシキは苦笑する。
「もっとそーっと近づいてから投げた方が当たるよ?」
大きな声での報告は、仲間にも伝わるが敵にも当然伝わるのだ。
近づけずにやむを得ず声を上げるにしても、数の利があったのだから、誰か一人が囮になるなどの作戦として用いた方が有用性は上がっただろう。
「その辺は、えーとベルンハルト君だっけ? 君がよく見てたよね。それをもっと活かせたらベストだったかな」
とは言えこちらは『逃さない工夫』の話。
『逃げた敵を追う工夫』については、実際捉えることが出来たのだから実用性は立証済みといえるだろう。
「顔面から行ったしね」
「いやぁ、ね、急いでると足元って疎かになるよねぇ」
作った罠がうまく機能した事を、素直に喜ぶ真衣は、あっ、と小さく声を上げて、あとでちゃんともどします、と眉を下げた。
「あんまりあらしたくなかったから……」
小さな少女の小さな声に、暦はふわりと微笑む。
「大事なことよ。それ、出来る場面では努めていってね」
アドバイスに、深く頭を下げて感謝を述べた神人達を眺め、見つめ、貴槻はそっと重音に切り出した。
「カサネさん、あのさ……あの止め方は、どうかと……いや、何でもない」
危険である、とは違った苦言が喉まで出かかっていたけれど、結局紡ぎだすことは出来ない、少年なのであった。
●岩
両手に握り拳一つずつ。気合を入れて、マユリはパートナーのザシャを振り返る。
「さあ、ザシャくん張り切っていきましょうっ」
「オマエ……元気だしたくましすぎる」
フードの奥で胡乱げに瞳を細めたザシャに、にこりとマユリは笑顔を返した。
「元気ですよたくましいですよ! 先輩方に負けてられませんからっ」
気合十分のマユリの様子に、「まあ、良いけど」と露骨な溜息を零すザシャ。
なおも笑顔を向けながら、マユリはかすかに首を傾げて。
「打ち合わせ通りお願いしますね」
「分かってる……」
先輩には負けられない。なればこそ、打ち合わせはしっかりと。
確認し合った後、二人は二手に分かれての捜索を開始する。さほど距離は離れないながらも、同じ岩陰を調べることにならないように。
「足元……気を付けろよ」
離れる間際、小さく零された気遣いに、マユリは笑顔で、頷いた。
死角の多い山岳地帯。岩の陰も大小様々で、それらを一つ一つ覗き込みながら捜索を続けるも、当てらしいものはない。
(かくれんぼみたいなものとも、言ってたけど……)
見つけて終わり、ではないのだから、慎重にならねばなるまい。
見つからないように気をつけつつ、ひょこりと顔を覗かせては岩に沿ってぐるり、を繰り返し。
やがてその姿をとらえたのは、マユリの方だった。
(二人ともいましたね……)
ザシャくん、と小さな声で精霊を呼び、ちょいちょいと指先で示される方向へ、移動。
見つからないよう、ぐるりと迂回をしたザシャが立ち止まったのは、先輩たちの傍の岩陰。
ザシャがその配置についたのを確かめると、マユリは一つ頷いて、意を決したように、岩陰から飛び出た。
「捕まえさせてもらいますっ」
ぐい、と引いたゴムの先端を持つ弓矢。狙う先は神人でも精霊でもどちらでも良い。
ただマユリの方へと意識が向くよう、素早く、矢を放つ。
「きたね。美冬、一人だ」
「セオリー、でしょう?」
「ああ、実に潔い」
楽しげな会話が短く交わされ、マユリの弓矢もまた、躱される。
だが、それでいい。意識と視線がマユリの下へ向いている隙に、ザシャは岩陰から飛び出し、近くにいた先輩――精霊であるハルカの腕を捕らえた。
「よし……」
「ふむ。もう少し精査が欲しかったね」
「……え?」
掴んだ腕を、ぐいと引かれて。勢いのままに前のめりになったザシャの体が反転した。
「ぅ、わっ……!」
「ザシャくん!」
くるりと回転するように投げ倒されたザシャに、慌てて駆け寄るマユリ。
彼女が飛ばしたゴム矢を回収しながら、美冬は小さく肩を竦めた。
「添削は、聞くか?」
体を強く打つことはなかったものの、驚きと衝撃に瞳を瞬かせたザシャは、マユリと顔を見合わせて、頷いた。
「では……まず神人が囮となって気を引いたのは良かった。オーガ相手を想定するならきっとそのほうが確実だろう。弓なら、ある程度安全は確保される」
近づき過ぎには気をつけるように。
「その後の行動はもう少し詰めて欲しかったところか。例えば……そう、直接掴むのではなく、武器等で体勢を崩すのも一つの手だ」
あるいは敢えて逃げ道を残して罠を仕掛けるか。ロープの使い道は、何も縛るだけではなかろう。
自分より強い相手を『捕縛』するためには、突貫は最善とは言いがたいとハルカは語る。
聞いて、もう一度顔を見合わせた二人は、捕縛失敗の大きな要因を詰めの甘さと聞いてがっくりと肩を落としたけれど。
「ありがとうございましたっ」
これも一つの経験として、深く頭を下げるのであった。
◆
冴木・春花と精霊の悠は、同じ音の名を持つウィンクルムで。
奇しくも、また同じ名前の精霊を見つけた。
同名の誼で、と。対峙者に選んだ理由の半分はそれ。
三人の『ハルカ』が介するその場所――山岳地帯を、春花はざっと見渡し地形の把握に努める。
「足場の悪さにテンペストダンサー……成る程、流石先輩。センスが良いね」
重ねる手数で敵を翻弄するそのジョブは、踊るようなステップを得意とする。斬り合いになれば不利だろうと予測を立てて、悠は手元のロープとテグスを確認するように握った。
(トランスしないってのは……まぁ、ちょい残念だけど)
スキルの使用が不可ならば、必要のないこと。それ以上に、こちらの動きを悟られる不要なもの。
ささやかな不満はおくびにも出さずに、春花をちらと見た悠へ、彼女の視線が向けられる。
索敵開始。岩陰に身を潜めながらの侵攻。
恐らくハルカ達は逃げるタイプの相手だろう。見つからないよう慎重になりながらも、二人の目線は発見の糸口を探る。
衣擦れや岩を踏む音。香り、色、敵がトランス状態ならばオーラは見えやすまいか。
(足跡とかは……罠かもしれないし、気にしないでおこう)
五感に推測を織り交ぜる春花に、加えて悠は風下に意識を向け、岩陰だけでなく岩の上にも視線を配る。
(或いは、隠れず逃げ切る自信もあるかもね)
未知の対峙者である以上、可能性は幾らでも。だからこそ、悠は作戦の一つとして、移動の合間にロープを岩の間に通し、足掛けの罠として配置した。
「……ルカ、少し見えてますよ……?」
「ん? ふふ、これでいいんだよ」
小首を傾げた春花だが、次いで悠が仕掛けたもう一つに、あぁ、と納得を抱く。
幾つかの罠を仕掛けながら進んだ先。そっと覗き込んだ岩陰の向こうに、人の姿を見つけて立ち止まった。
潜みながらも、二人揃って待ちの姿勢。それを確認すると、二人は左右に展開し。
同時に、駆けた。
「おや。正面突破……かな」
後輩達の到着に喜色を示したハルカは、相対すべきか逡巡するが、美冬共々踵を返して逃走を開始する。
――予定通り。
息を切らせて走る春花に、悠は先程の道へ向かうよう身振りで指示を飛ばす。
身体能力の差は歴然。経験差も圧倒的。それでも追いつきたい一心で走る春花は、道中に見かけた岩の乱立地帯を思い起こし、追い込むように少しの迂回。
だけれどそれで差が縮む様子はなくて。だから、悠の示す道へと向かってくれるよう、ルートを変える。
(悔しいけど……)
けれど、知っている。こういう事は、悠の方が得意なのだ。
追う姿が懸命に駆けるのを振り返り確かめたハルカ達は、誘導するような動きに気付くも顔を見合わせて頷き合うだけで済ませて。
視線の先に、岩間のロープを見つけて、ふむ。と小さく呟いた。
「目立たない工夫があった方が確実……と言ったところか」
後輩に告げる言葉を考え、ひょいと躱すべく足を挙げた。それを見て。
にやりと、悠の口角が上がった。
「っ、な……!?」
「これは、テグスか……!」
ぐんっ、と二人の先輩の足に絡まったのは、キラリと光る透明で頑丈な糸。
それは輪を作って幾つも仕掛けられれ、払おうともがく度に絡まった。
追いついた悠と春花が二人を捕まえるのは、実に容易いことだった。
「狡いかな? けど、真っ当な追い掛けっこじゃ分が悪いからね」
朗らかに笑う悠に、ハルカは参ったと手を上げ笑う。
「あの……私たち、どうでした?」
自信は、まだ無くて。伺う春花の言葉に、ハルカは楽しげに喉を鳴らした。
「教えることがなくて歯痒いくらいだがね」
それじゃぁ、一つだけ。
「実戦に慣れなさい。君の知らない世界に、恐れぬならば踏み込むことだ」
そう言って、人差し指を立てたハルカは少し、真剣な顔をしていた。
依頼結果:大成功
MVP:
名前:冴木・春花 呼び名:はる |
名前:悠 呼び名:ルカ |
エピソード情報 |
|
---|---|
マスター | 錘里 |
エピソードの種類 | アドベンチャーエピソード |
男性用or女性用 | 女性のみ |
エピソードジャンル | イベント |
エピソードタイプ | ショート |
エピソードモード | ビギナー |
シンパシー | 使用不可 |
難易度 | 普通 |
参加費 | 1,000ハートコイン |
参加人数 | 5 / 2 ~ 5 |
報酬 | なし |
リリース日 | 06月26日 |
出発日 | 07月03日 00:00 |
予定納品日 | 07月13日 |
参加者
会議室
-
2016/07/02-23:24
プランできました
洞窟はやりたいことが浮かばなかったので場所変えて山岳地帯にしています
捕まえられるように頑張りましょうねっ
改めてよろしくお願いします。 -
2016/07/02-23:21
>真衣さん
そうですね、草の罠は元に戻せばいけるような気がします。
色々とありがとうございました!がんばりましょうね!
では私も今からプラン提出します。
皆さん上手くいきますように。 -
2016/07/02-23:13
>草の罠
あとでもどせば、だいじょうぶかも?
プランはていしゅつしたわ。
いいくんれんになりますように。 -
2016/07/02-22:15
温かいお言葉、感謝します。
それでは私たちも個人戦で、岩場の方へ行かせていただきますね。
皆さんのご活躍も、お祈りしておりますので……
みんなで、頑張りましょうね。 -
2016/07/02-20:00
>真衣さん
わかりました、じゃあ真衣さん達の分も頼みますね!
野生動物……そうでした、草をなぎ倒すのは荒らしてることになるかしら。
草を結んで作る罠とかも思いついたんだけど、動物たちが
引っかかったら大変よね。
手でかき分ける、位の方がいいかしら? -
2016/07/02-19:20
>水風船とロープ
私たちの分もたのんでくれるの?
ありがとう! よろしくお願いします。
ほかのあんは、うかんでないの。
くんれんとは関係ないけど。野生動物がいるみたいだから。
あんまりあらさないようにしなきゃって、思ってるくらいよ。 -
2016/07/02-18:18
>真衣さん
水風船、一応、水風船と絵の具さえあればバケツや注射器みたいなものが無くても出来るんですが、やっぱり難しそうですね。
わかりました、用意出来たら、と書いてみます。
というか、すみません、真衣さんの[12]の発言を見落としてました……!
ええと、すみません、私達あまり便利な武器を持って無くて。
私は
・ウィンクルムソードⅡ
・マグナライト
を持って行く予定です
タカツキ君は
・手裏剣
を持って行くと言ってます。
探し方は私はソードで草をなぎ倒しながら、タカツキ君は木の上から視点を変えて。
捕まえ方は同じく抱きつく位かと思ってます。
縛るもの……訓練だからロープを貸してもらえないかしら?
水風船と一緒に申請してみます。
もし駄目なら、上着とかで縛るしかないですね。
あ、水風船とロープは真衣さん達の分も頼んだ方がいいかしら?
いらない、もしくは他の案があったら言ってくださいね。 -
2016/07/02-13:29
>色水入り水風船
うーん。1時間で用意できるかは、ちょっとわからないかも。
できてるのを買うなら、売ってる店があるかどうかで。
作るなら、風船と。水と、色つけるのに……えのぐなのかな?
それと、水とえのぐまぜるのにバケツとか。風船に水を入れるのに注射器みたいなのとか、必要になると思うの。
つかえるかわからないから。
もし用意できたらって、書くのがいいかも? -
2016/07/02-12:13
>真衣さん
ではこちらが木の上から探してみますね。と言っても、タカツキ君だけになるかもですが……
先輩方を見つけたら、私達も大声でお知らせしますね。場所と、誰かと、どうしようとしてるか、位でしょうか
ところで、色水入り水風船は一時間以内に用意出来ると思いますか?
防犯用のカラーボールみたいに、その後見失わないようぶつけて目印に出来るかなと思うんですが、どうでしょう? -
2016/07/02-12:01
(連投すいません)
うん、と。
私は
・クリアライト(短剣、閃光効果+3)
・マグナライト(暗闇発見+3)
をもっていくね。
マグナライトがあったら、少し暗くても閃光効果が使えるかも?
ただ、武器はウレタンのになるみたいだから。どうなるかわからないけど。
ハルトは、
・片手銃
・盾
・マグナライト(暗闇発見+3)
こうげきされたら、盾でふせぐって。
はんげきもあるから、ふいうちも気をつけるって言ってるわ。
>探しかた
わざと大きな音を出して探そうと思うの。
音の大きなほうを気にして、重音おねえさんたちへのけいかい? が少なくなるかなって。
>つかまえかた
草が長いみたいだから。私がかくれるくらい長かったら、こっそり近づいてだきつくとか?
くんれんだから、しばるものもあったほうがいいのかしら。 -
2016/07/01-23:57
うん。みんなよろしくお願いします!
>重音おねえさん
野生動物もいるみたいだから、音をたよりにっていうのもむずかしいのかも?
木の上? 私、木登りできないから。
探すのを上と下でわかれるなら、木の下を探してもいい?
うーん。せんぱいもおんなじように木の上にかくれてるかも?
2人でいっしょにかくれてるのかな。ばらばらかな。
じゃあ、マグナライトは私ももっていくね。
見つけたら大きな声で、だれを見つけたかいうわ。 -
2016/07/01-22:43
アイリスさんとラルクさん、マユリさんとザシャさん、初めまして。
よろしくお願いします。
>冴木さん
勿論、いいと思います。
何が出来て出来ないか知る事は大切ですもんね。
では、私と真衣さんが協力戦、他の皆さんは個人戦ですね。
頑張りましょう!
>真衣さん
というわけで、どうしましょう。
森の中ですから、木の上と下で手分けして、とかでしょうか?
あとはマグナライトで辺りを照らすとかかしら。
うーん、まず見つけないとですよねぇ。 -
2016/07/01-22:07
春花さん、ご自分のなさりたい方で構わないかと。今回は訓練で、私たちの自主性を重んじてくださるものですから。
あまり時間もないですし、私たちも個人戦でいくことにしますね。
それでは、改めてよろしくお願いいたします。 -
2016/07/01-19:38
最後の一枠でお邪魔します
私はマユリで精霊はエンドウィザードのザシャさんです
どうぞよろしくお願いします
個人戦も協力戦もどれも捨てがたいのですけれど、
私たちは個人戦で参加させていただきますね。
えと、場所は洞窟にしようかしら… -
2016/07/01-18:35
遅れました、ごめんなさい。
真衣さんにベルンハルトさん。蓮城さんにタカツキさん。アイリスさんにラルクさん……ですね。
どうぞよろしくお願いしますっ!
えっと……協力戦も、勉強になりそうで魅力的なんですけれど。
今回は私たちは、個人戦で行ってみようと思ってます。
まず何が出来るのか、何が出来ないのか、自分たちでしっかり見極めたいと思っているので……。
……いい、でしょうか? -
2016/07/01-18:17
アイリス・ケリーとシノビのラルクです。
真衣さんとベルンハルトさんはお久しぶりです。
重音さんと貴槻さん、春花さんと悠さんは初めまして。
どうぞよろしくお願いいたします。
シキさんのところにいびられに、もといご指導を頂きに行くか、
アキトさんのところにいじめられにいくかで悩んでいるところです。
個人戦と協力戦はどちらでも。全体戦だけは、少し避けたいと思っております。 -
2016/06/30-23:46
>真衣さん
誘ってくれてありがとう。喜んで協力戦で参加させてもらうわね。
実は私達も森が希望だったの。シノビの先輩の動きが見たいってタカツキ君が言ってて。
>冴木さん
冴木さんは個人戦と協力戦、どちらがいいですか?
どっちも色々出来そうで迷っちゃいますよね。
あ、この後から参加される方も遠慮しないでやりたい事を選んでくださいね!
-
2016/06/30-21:40
なやんだけど、ステージは森にするね。
少し暗いみたいだから、シノビのせんぱいのほうが動けると思うけど。
失敗できるときにちょうせんするの。
森のステージでもよかったら、重音おねえさん協力戦しませんか!
どうやって探すとか、つかまえかたとかはまだ考え中なの。 -
2016/06/30-00:55
蓮城重音といいます。
こちらはシノビのタカツキ君、えっと、薬袋貴槻といいます。
みなさん、よろしくお願いします。
個人戦でも協力戦でもどちらでも楽しんで学べそうですね。
私達はどちらでも構いませんよ。 -
2016/06/29-11:39
真衣です! よろしくお願いします!
となりにいる人がプレストガンナーのベルンハルトよ。
大きなのしか参加したことないから。(フェスティバルイベント)
れんけい? とかの協力するのがしたいって思ってるの。
でも、個人戦? になってもだいじょうぶよ。
ステージは考え中! -
2016/06/29-00:23
はじめまして、冴木です。こっちの精霊は悠。
右も左も分からない、本当の新米なんですけど……
諸先輩にならって、精一杯つとめますね。
どうぞよろしくお願いします。