体はひとつ、心はふたつ(瀬田一稀 マスター) 【難易度:とても簡単】

プロローグ

 タブロス某所の商店街では、着々と、大きなセットが組まれていた。
 いつだかもどこかでやった気がするが、流しそうめんを愛するメンバーが、流しそうめんを行うべく、流しそうめんをするための竹その他諸々のセッティングをしているのである。
 だがしかし、ただ流しそうめんを食べるだけでは、面白くない。
 男は考えた。
 座っているだけでも、だらだら汗をかく季節になってきた。
 氷とともに冷たいそうめんを流せば、それはさぞ、美味いだろう。
 そう、座っているだけでも暑い……。
「そうだ!」
 男は、セットの脇から、空を見た。
 ぎらぎらとお日様輝く、上天気。
「おでんと二人羽織りだ!」

「……と、いうことで、二人羽織りで、おでんを食べます」
 流しそうめんを愛する男たちが、商店街の店の壁にポスターを貼り、お客様たちに説明を始めた。
「はい、食べる場所はこの店の二階、宴会場的な広さのある部屋です。おでんはテーブルの上に、あつあつのものを、一人分ずつお皿に並べておきます。それを食べてください。二人羽織りで」
「……あの、その羽織るものはどうするんですか」
 客の一人が尋ねると、男がにっこり取り出したのは、一枚のはっぴである。
「大きめサイズのこれを、着てもらいます。大丈夫、背中部分はメッシュになってますから、たぶんそんなに暑くないです。あと」
「あと?」
「これ、後ろがポケットみたいになってまして……ほら、ここを開けると、なんと! はっぴを着た人が、顔を出せます」

解説

流しそうめんを愛する男は、今年は趣向を変えました。
二人羽織りでおでんを食べてください。参加料は300jrです。

神人と精霊の、どちらが食べる人でも、食べさせる人でも構いません。
食べる人のプランの頭には、 食 
はっぴに入る人のプランの頭には、 暑 と書いてください。
商店街にも都合がありますので、途中での交代はご遠慮ください。

また、はっぴの人は顔を出すことができますが、それだと二人羽織りの本分(?)からちょっと外れてしまうので、顔を出した場合は、ペナルティで、食べている人のおでんに、それなりの量のからしをつけられます。
辛いです。
どうしても辛味が苦手な方や年少者の場合はご相談ください。
大量の青のりに変更します。

おでんの具は適当に記載してください。
あまり一般的ではなくても、食べ物ならば採用します。

基本的に、ウィンクルムは同じ時間に同じ場所で、おでんを食べています。
関わる・関わらないは、ご自由にどうぞ。


ゲームマスターより

最初はそうめんにしようと思ったのですが、とりにくいというアドバイスをいただき、おでんになりました。
相談期間が長めなので、他に入りたいエピがある方は、ご注意ください。

ところで、通常エピ100本目です。
皆さんのおかげです。ありがとうございます。

リザルトノベル

◆アクション・プラン

セイリュー・グラシア(ラキア・ジェイドバイン)

 
(他PCさんとのアドリブ絡み大歓迎!)

おでんウマいよな。
うむ、おでんを食べるのはこのオレだ!
だって食べたい(単純)。
ラキアの思惑とかあんまり考えていない。
おでん、おでん~♪
おでんにカラシは必須だぜ。ウマさ倍増の魅惑アイテムだぞ?
大根は出汁良く吸ってて超ウマー。コンニャクもウマー。
牛スジもウマー。
何か食べる度に「ウマいっ」「美味っ」「おいしー」と。
口の近くにおでんがきたらそれを迎えに首をのばす。
行儀が悪いと判ってはいるが食べる為には必要。
仕方ないよな(ふふん←見事な言い訳。
野菜系もいいけど次は肉系がイイナーと言ってみたら。
ちくわがにゅっ。ぱくっ。ウマー。
牛スジやたまごもおくれ。お願い。ねだる。


蒼崎 海十(フィン・ブラーシュ)
 
おでんを食べるより、法被に入る方がマシな気がした
フィン、思う存分食べさせてやるからな(先手必勝で法被を手に)
…結構密着するんだな
俺の鼓動が筒抜けで何を考えているか直ぐに悟られそうだ…気を付けないと

箸を持ち、フィンに、俺に指示しろ、その通りに動くからと

慎重に手を動かす
見えないってもどかしいな…フィンの声だけが頼りだ
けど…フィンは好きな具材じゃなくて、俺が取りやすい具材を選んで指示してる?
フィン、好きな具材を言え、それを取る
ただでさえ暑くて大変なんだ、好きなのを食べる役得がないと
法被から顔は出さない
フィンに美味しく食べさせる事が目標だ

カインさん達程ラブラブじゃないですよと反撃
他PC様との絡み歓迎


李月(ゼノアス・グールン)
 

ちょっ
勝手に決めるなー!
で、何で僕が後ろなんだー
何だかんだ流され後ろ役
地獄だ…

おでんの具
蒟蒻
竹輪
大根

誘導信じて箸操作
…なんか太股に感触
尻尾絡めてきやがったー!?
只でさえ暑くてイライラなのにンナロォこうだっ
相棒の頬辺り勘で蒟蒻ていっ
二度目の攻撃で喰われた!やるな…では次だっ
掴んだ感じから竹輪か、汁飛ばしだ喰らえっ
また喰われたか流石だな…
太股は尻尾に浸食され尻尾先でつんつんされ、イラァ!!
よかろう最終手段だ
必殺の顔出し!!プハーッ
ペナルティのからしを喰らえっ
大根にたっぷりさあお食べニッコリ
撃沈の相棒にフハハー

綺麗な顔に火傷痕見てハッ
やり過ぎたごめん

お互い汗だくなので
銭湯行くか
晩飯はそうめん食べよ


カイン・モーントズィッヒェル(イェルク・グリューン)
 
絡みOK
特にフレンドの海十組はどっちが食べるか聞き、海十をからかう※E30の礼

今は冬でなくともおでんも結構お手軽に食えるよな
食うのは俺の方
俺がやるとそれ所じゃないらしくてな
※笑いながら自分がやる理由を周囲へ説明

イェルは見えてねぇから、ゆっくりやるよう言いつつ調整してくか
具は大根、ちくわぶ、餅巾着、厚揚げ、ロールキャベツで
白滝、卵等掴み難い物は回避
失敗したら、イェルが気にしそうだし

舌の火傷等失敗あっても口には出さない
二人羽織りだし、ある程度覚悟

終了時
上手くいってたら
頭を撫で、角キス
舌火傷してたら
笑顔で唇を指でつつき、後でここで治療して貰うとからかう
…ほう、がっかりしたのか?(ニヤリ
可愛い嫁だな


●食前:いただきますのその前に

 流しそうめんを愛する男たちグループの代表から、説明を聞いたゼノアス・グールンは、要するに、と口を開いた。
「相棒にあーんして貰えるんだな?」
 黒い瞳がキランと輝いているあたり、李月は嫌な予感しかしない。
 そして残念ながら、それは見事に的中するのだ。
「じゃあ参加するぞ、リツキ!」
「ちょっ、勝手に決めるなー! しかも何で僕が後ろなんだー!」
 李月は、はっぴを渡してくる相棒に向けて、大きな声を出した。なんでもなにも、あーんして貰えるんだな? と確信したあたりで、ゼノアスの考えはわかり切っているだろう。そうめんを愛する男はそう思ったが、とりあえず黙っていた。まあいいのだ、どっちがどっちでも、このくっそ暑いなか、頑張って作ったおでんを美味しく楽しく食べてくれれば。
「オレは箸は使えん」
 ふんぞり返るゼノアスに、李月は思い切り深いため息をつく。
 いくらメッシュが入っているとはいえ、このはっぴを着て密着。
 僕だっておでん食べたいのに、食べさせるほう。
「地獄だ……」

 そんな賑やかな二人の傍らでは、ラキア・ジェイドバインがちょうどはっぴを手にしたところだった。
「僕が羽織の中に入るよ。僕の方が身長高いし腕長いし」
「うむ、おでんを食べるのはこのオレだ!」
 セイリュー・グラシアはにこにこの笑みで、ラキアを見やっている。
 いいですね、役割分担きっちりしてるんですね、とそうめん溺愛男は、それを微笑ましく見つめた。でもなんかそんなにあっさり決まっていいんですかと思っていると、それがうっかり言葉に出ていた、ああこわい。
 だけどセイリューはきらっきらの笑みではっきり一言。
「だってオレ、食べたい!」
 それを聞いたラキアは穏やかな顔をしている。ああなんて優しい人だろう。
 実際は、セイリューが後ろだとおでんがドコに出されるか読めなくて、対処できる自信がないからと思っているとしても、ラキアは当然、そんなことは口にしない。かわりに言うのは。
「セイリューの行動は、大体どんなことでもわかるし」
 である。
 ただ、彼とてそれだけではなかった。
「あ、でも、羽織に入る前に、距離感をはかっておこうかな」
 と、背後からセイリューを抱きしめたのだ。
 しかしセイリューは動じない。
「え、ちょ、ラキア、びっくりするだろ!」
 そう言うものの、胸の前に回る腕を、外すでもなく大人しくしている。
 照れても嫌がってもないところが、とても日常っぽいです羨ましいです。
 そうめんだけが恋人男は、仲良しな二人から、そっと視線を逸らした。

「あっちはセイリューが食べるのか。で。海十とフィンはどっちが食べるんだ?」
 カイン・モーントズィッヒェルはにやりと口角を上げて、傍らの友人ウィンクルムに視線を向けた。
「まあお前達ならどっちがどうでも、意志の疎通はばっちりなんだろうな。あのライブハウスではずいぶんあてられてしまったし」
「そんな……あのときはっ」
 蒼崎 海十の頬に、さっと朱が射すも、隣のフィン・ブラーシュは平然と。
「ありがとう。でもカインさん達ほどラブラブじゃないですよ。貴方達は夫婦同然ですからね」
 その言葉に、イェルク・グリューンは、翡翠の瞳をぱちぱちと瞬かせる。
 年下の友人達をからかうなんて、まったくカインは大人げない。あの顔つきも相まって、悪い大人の手本のようだ、と思いつつ、仲がいいなと眺めていたのに、思いがけない反撃だ。
 イェルクは赤い顔で、相棒の肩をぱしんと叩いた。貴方がいつも人前であるにもかかわらず、恥ずかしいことばかりするからですよ、の意味である。
 本当はたいした痛みもないくせに大仰に肩を動かして、カインは苦笑した。そしてそのまま、背後から手を回し、イェルクの後頭部を撫ぜる。
「海十にしかえしてやるつもりが、パートナーにやられたな」
 そんなカインの当初の問いに、答えたのは海十である。
「うちは俺が入るので……フィン、思う存分食べさせてやるからな」
 そう言う手には、既にはっぴを持っている。
 おでんを食べるよりはマシな気がしたからなのだが、フィンはあっさり。
「オニーサンはどっちでも問題なし!」
「じゃあうちは……」
 カインが言いかけるのに、イェルクはわざと言葉を重ねた。
「貴方が入ってください、カイン」
「だそうだ。俺がやると、おでんどころじゃないらしくてな」
 爽やかに、カインは笑う。だが理由を言い当てられたイェルクは、にこやかにしてもいられない。
「それはその通りですが、カインだけが知っていればいいことです」
 その言葉に、海十とフィンは顔を合わせて、くすりと笑った。平然としているイェルクは今、盛大に自爆したことに気がついているのだろうか。思わず周りを見れば、同行のメンバーはそれがわかっていたようで。
「え、なぜ皆さん私たちを見ているんですか?」
 ちょうど目が合ったラキアに、イェルクは問いかける。しかしラキアはふるりと首をふって、いつもの微笑。
「ううん、なんでもないよ。ねえ、セイリュー」
「ああ、仲良く楽しく美味いものが食えるなんて、最高だよな!」
 その言葉に「ああそうだな」と実に楽しそうに笑いながら、カインは頷いた。

 そこで、ぱんぱんと手が叩かれる音がした。そうめん大好きの男たちだ。
「ハイハイ、いちゃいちゃするのはそのくらいにして、はっぴの中に入ってくださーい。おでん出まーす!」

●実食:李月とゼノアスの場合

「下、ちょい右、おう! そこだ!」
 ゼノアスの指示に従い、李月はそろそろと箸を動かす。
 そこだ、というところで何かを掴んだ感触。これはなんだろうと思いながらも持ち上げて、たぶん口があるだろう所に持って行く――途中で、さわり、太腿にうごめくものを感じた。
 これこそなんだと思い目線を下げれば、そこには絡みつく、ゼノアスの尻尾。
 こいつ、尻尾絡めてきやがったー!?
 さわさわ、さわさわ。
 手が空いていれば、すぐにでも叩き落としてやりたいし、引っぺがしてやりたい。
 だが今李月の両手は、はっぴの袖に入っている。しかも片手は箸とおでんを持っているのだ。
 ただでさえ暑くてイライラなのに……と唇を噛みしめ、そこで李月は、はたと閃いた。
 ンナロォ、そんな悪戯する奴にはこうだっ!
 予兆を感じさせてはいけないと、たぶんここら辺がゼノアスの頬というところに、黙ったまま、手に持ったおでんのなにかを押し付ける。
 一方ゼノアスは、突然攻撃に出たこんにゃく……もとい李月に、うぉっと声を上げた。
 素直に箸をあちこちする李月がかわいいし、背中にぴったりくっついているのも普段はない状況だして、ついうっかり尻尾で触っただけなのに、いったいどうしてこうなった。
 ぺしょりと頬に押し付けられるこんにゃくが。
「熱っ!」
 くっそこれくらいでオレが引き下がると思うなと、さらに尻尾をきつくからめて、ついでに先っぽで太腿を撫ぜ上げてやれば、先ほど食べれなかったこんにゃくの、二度目の攻撃。ふざけんなと口を開いて思い切りかぶりつく。
 がっと箸の先のものを持って行かれる感覚に、李月はやるなとほくそ笑んだ。それなら次はと、適当にとったものは、掴んだ際にくにゃりと歪んだ感じからして、たぶんちくわだ。
「汁飛ばしだ喰らえっ」
「うおお熱っ! なんのこれくらい……熱っ、熱っ!」
 飛んできたちくわを首を伸ばして齧りとるも、当然中から熱い汁。
 口内火傷、ほふほふと息をしながらなんとか食べつくし、空いている手で背後の李月の太腿をばしんと叩く。
「オマエの太腿は今オレのモンなんだよフハハー」
 言いきったところで、じんわり胸に染みる征服感。
 ご機嫌なゼノアスに、イラァ! とするのは李月である。
 叩いているのと逆の太腿は、最早尻尾に浸食されまくり、先でつんつんと突かれた。痛くない絶妙な強さが、まるでからかわれているようで、気遣われているようで。
「僕の太腿は僕のものに決まってるだろう! ……よかろう最終手段だ」
 くつくつと笑って、李月はもぞもぞと頭を動かす。
「必殺の顔出し!! プハー!! ペナルティのからしを喰らえっ」
「あっ、テメー!」
 ゼノアスは叫んだが、文句を言う時間もない。
 そうめんLoveの男たちが、さっそうとやって来て、おでんの上にてんこ盛りのからしを入れたからだ。
 具材が半分埋まるほどの黄色い山に、頬をひきつらせるゼノアス。
「おい、これはねえだろ……」
「おでんと言えば大根だよな。さあお食べ」
 はい、あーん、とにっこり笑う相棒に、ゼノアスはごくりと喉を鳴らした。
 満面の笑みはかわいいが、その黄色い山が……いやいやいや。
「リツキのあーんだ喰ってやらぁ!」
 がぶりと一口、しかしその後は言葉にならず、がっくりと全身から脱力した。

●実食:セイリューとラキアの場合

「おでん、おでん~♪ おでんってウマいよな。オレ好きだ」
 鼻歌を歌うセイリューを、ラキアは背後から見つめている。そう、見つめているのだ。最初から、顔をばっちり出して。
「だってセイリュー体温高めだもの」というのが、ラキアの談。
「だっておでんにカラシは必須だぜ」というのが、セイリューの談である。
 さらに「ウマさ倍増の魅惑アイテムだぞ?」と言うセイリューに、そうめん愛着男は、顔の筋肉が固まった。
 これペナルティがペナルティじゃないやつだ。やべえすげえ強い奴来た!
 だからといって、さすがにからし倍増計画とかは不公平なので、淡々と一定量のからしを、おでんの皿にぶちまけた。
 だがセイリューは、ほんとのほんとに驚きもせず。ラキアも特に止めもせず。
「セイリューはカラシ好きだから」
 そして。
「じゃあセイリュー、何からがいい?」
 などと爽やかに聞いている。
 セイリューは目の前の皿を見下ろしたが、答えははっきり「左から全部!」
 ラキアは苦笑した。うん、さすがセイリュー。
 大体口の近くにおでんを出したら、後はセイリューが頭を動かして、かぶりついてくれるハズと、まずは黄色にまみれた大根を持つ。
 顔は出しているけど正面は見えないので、勘で持ち上げると、案の定セイリューは、首をくいっと伸ばしてそれに食いついた。
 なんだかちょっと魚釣り……ううん、餌付けでもしてる気分。
「出汁よく吸ってて超ウマー!」
 口をもごもごと動かして、ごくりと飲み込んでから、セイリューはほっと熱い息を吐いた。
 彼が満足しているのは明らかで、それならとラキアはすぐに、次の牛スジ、蒟蒻をとる。
 それをまた首を伸ばして迎えに行くセイリュー。本当は行儀が悪いことは知っているが、この状態で食べるためには必須の行動。しかたがないのだ。
 ふふん、とご機嫌に鼻を鳴らしてから、ちらりと背後のラキアを振り返る。
「野菜系もいいけど次は肉系がイイナー」
 言えば今度は、ちくわがにゅっ! 食いつきぱくり!
「ウマー!」
 そのご機嫌のまま、セイリューは少しだけ甘えた声を出す。
「牛スジやたまごもおくれ」
「牛スジはさっき食べたでしょ」
「お願い」
 温もりを感じるどころか、ぴったりくっついて熱い距離から言われれば、断れるはずがない。
 本当はヘルシーなものを食べて欲しいのに。いやでもセイリューが食べたいと言うならば。
 うう、と呻いてラキアは、再び、牛スジをとった。
「ほらお食べ」
「サンキュー、ラキア!」
 セイリューは、思い切り大きな口を開けて、ラキアの差し出す肉に食いついた。

●実食:カインとイェルクの場合

「イェル、ゆっくりでいいからな」
 はっぴを頭からかぶっている相棒に、カインはそう声をかけた。
 見えていないのだから無理をすることはない、と思ってのことだ。イェルクは素直に「わかりました」と返事をし、そろそろと手を動かす。
「もう少し右だな。よし、皿に触れた……もう少し前……よし、掴め」
 箸の先に少し柔らかい感触。何だろうと思う前に、カインが「厚揚げだ」と教えてくれる。
「大丈夫だ、ゆっくり持ち上げて……もう少し手前に……んっ」
「あっ……カイン?」
 突如黙り込んだカインに、イェルクは少しだけ慌てた声を出す。
 手の先の感覚からして、たぶん厚揚げが、カインのどこかに当たってしまったのだろう。
 慌てて箸を戻そうとするも、掴んだものが、がぶり、と噛み切られるのがわかった。
「……平気だ、気にするな」
 咀嚼し飲み込んだ後、カインは短く告げる。
 実際は唇に厚揚げがあたり、舌ともども少々熱い思いをした……が、見えぬイェルクに言うことでもあるまい。
 じゅわり、汁のしたたる揚げを、はふはふと大口で口に入れていく。すべてを食べ終える頃には、イェルクが次の具を求め、再び手を動かし始めていた。
「今度はもう少し左だな。それじゃなくて……それだ。ロールキャベツ」
 これなら、形もしっかりしていて持ちやすいはず。失敗したら気にするだろうから、掴みやすいのが一番だ。イェルクは綺麗な箸遣いで、ゆっくりそれを持ち上げる。
 カインが丁寧に指示をくれるおかげで、見えなくても何とかなっている。だがいかにせん、この状態はどうなのだ。いくらはっぴで見えないとはいえ、カインを背後から抱きしめているなんて。
 熱がこもって体が熱いし、照れくさくて顔も熱い。だがカインにはこの熱い思い――おでんで火傷だけはさせてはいけないと、思う。
 さっきは、本当に大丈夫だといいのですが。
 イェルクは気にしながらも、箸を動かす。
 大根、ちくわぶ、餅巾着に、白滝など。カインは次々と食べていく。
 その合間に一言、ぽつり。
「……顔が見えたら、最高なんだがな」

●実食:海十とフィンの場合

 海十ははっぴを羽織り、フィンの背中に胸をつけた。
 ……結構密着するんだな。というのが、正直な感想。でもこうしないと、二人羽織りの形にならないのだから、しかたがない。
 ただ。
 ――俺の鼓動が筒抜けで、何を考えているか、直ぐに悟られそうだ。
 気を付けないと、と自身に言い聞かせて箸を持つ。
「フィン、俺に指示しろ。その通りに動くから」
「うん、任せて」
 フィンは目の前の皿に目を向けた。
 取りやすい具材は……っと。
 検分する間にも、背中では海十の体温が熱いほどだ。海十の鼓動や息遣いが、こんな近くで感じられるのが嬉しくて幸せで、すぐにでも顔を見たいはずなのに、視線が捕えたのは。
「海十、焼きちくわを取ろう」
 これならきっと、上手く穴に箸がかかれば取りやすい。
 わかった、という答えとともに、海十の手が動き始める。さまよう箸を、フィンは導く。「もう少し左だね。……うん、そう、それだよ。ゆっくり掴んで」
 海十は言われるままに、それをそっと掴み上げた。フィンの口がどのあたりかわからないので、具材を落とさないようにゆっくりと手前に持ってくると、すぐにがぶり、と噛みつかれる感覚がある。
 フィンはそれを口に入れると、ごくりと飲み込んだ。それは、くっついた体から伝わってきた。
「次はさつま揚げにしようか」
 それなら形的に箸で取りやすいかも、とフィンは思う。
 海十はまたも、フィンの言葉通りに手を動かす……が、ふと気づいた。
 ……フィンは好きな具材じゃなくて、俺がとりやすい具材を選んで指示してる?
 そう思えば、海十は黙ってはいられない。
「フィン、好きな具材を言え、それを取る」
「俺の好きな具材?」
 でも、とフィンは、先を続けようとした。しかし海十が、それを遮る。
「ただでさえ暑くて大変なんだ。好きなのを食べる役得がないと」
 暑いのは海十じゃないか、と思うからこそ、その気遣いに、フィンの胸は温かくなる。
「じゃあ、難易度高いしきっと熱いけど、卵を取ってもらってもいいかな」
「わかった。指示は頼んだぞ」
 海十の手が動き始めるのを、フィンは笑顔で見つめていた。

 卵の後には、大根に餅巾着。どれも出汁が染みていて美味しかった。
 だがフィンはそれよりも、背後の身体が、どんどん熱くなっていることが気になった。
「海十、暑いなら顔出す?」
 聞けば海十は、きっぱり一言「出さない」と。
 ああ、もう。からしでも青のりでも、俺は平気なのに。
 海十は俺に優しすぎだよ。
 今すぐ振り返って抱きしめたいくらいだけど、さすがにそれはできないからと。フィンは自らの足の上で、拳をきゅっと握った。

●食後:はっぴを脱いだその後で

 くったりと脱力した相棒の顔を覗きこみ、李月はハッと息を飲んだ。
 つい調子に乗ってあれこれしてしまったが、頬に残った薄桃の火傷痕に、いっきに冷静になったのだ。
「やりすぎた、ごめん」
 すぐに謝り、そうめんの男たちに冷たいおしぼりを頼もうとしたところで、疲れ切った様子のゼノアスと、目が合った。
 さっきまであんなに暴れまくっていたのに、今はこんなにしゅんとして、可愛い奴だ。こんな火傷大したことないのに、と。
 ゼノアスは、思っているけど口にはしない。
 抱えた想いを明らかにしているのは、カインだ。
「イェルのお蔭で、美味いものが食えた」
 カインはそう言って、イェルクの頭をくしゃりと撫ぜた。その後は当然の流れで、ディアボロの角に唇を寄せて、キス。
「ひゃあああ」
 イェルクは身を震わせ、力のない声を上げた。
 頭を撫ぜるのはともかく角へのキスは……! と思うのに、反論すべくカインを睨めば、そこには、ちろりと舌を出すカインの姿。
「え、もしかして火傷――」
「大丈夫、後でここで治療してもらうから」
 悪戯っぽく言いながら、人差し指で、唇を突かれる。柔らかい場所をポンポンと叩かれて、イェルクはいっきに耳まで赤くした。
「ちちちち治療って……!?」
 何をする気だと、緊張が尻尾までも伝わり震わせる。
 だがカインの表情に、すぐにからかわられたのだと気が付いた。
 それが安心するやらがっかりするやらで、つい肩を下ろすと、にやり、と笑われる。
「がっかりしたのか?」
 可愛い嫁だ、そう言った声は、もう一人の男の声と重なった。
 セイリューだ。
「ほんと仲いいよな、二人とも」
「いや、そっちも相当だろう。さっき『ラキアの飯が一番だ』とか言っているのが聞こえたぞ」
 カインが言うと、セイリューの横で、ラキアが実に嬉しそうに微笑んだ。その顔を見ながら、セイリューは「それは本当のことだから」などと言う。
「ラキアがいて、美味い食事もあって、かわいい猫たちもいて、俺はすごく幸せだと思うんだ」
「私たちにもティエンがいますから、その気持ちはわかる気がします」
 さっきまで真っ赤になっていたイェルクが、大人の顔で納得したように頷いている。
「本当にみんな、いい関係だ」
 フィンははっぴを脱いだ蒼十の額の汗を拭いながら、「ねえ?」と海十に呼びかけた。
「……羨ましいのか?」
 フィンが美味しくおでんを食べられるように努力したつもりだったが、足りなかったかと、海十が問う。だがフィンは、驚き見開いた目を、すっと細めて真顔で言った。
「まさか。海十といて、足りないものなんてひとつもない」
 突然の真剣な眼差しに、海十は、何と答えたらいいかわからない。

 はっぴを着て、おでんを食べて賑やかに騒いだせいで、汗だくなのは認めよう。だがこの体感温度は、なんだかそれだけではないような気がするような、しないような。
 李月は、ゼノアスにの火傷した頬にそっと手を添えた。
 たぶん赤くなっているその場所よりは、自分の手の方が冷たいはずだ。
 しっとり濡れた肌を感じて、一言。
「銭湯行くか」
「おう」
「晩飯はそうめん食べよ」
「ああ、そうだな」
 さっきまでとは一変して柔らかな表情を浮かべる李月に、ゼノアスは小さく頷き――近付いたままの額に、こつりと自らの額を合わせた。
 たぶん、この場の空気に影響されたのだろう。
 李月は、大人しくゼノアスを見上げている。ゼノアスは、その涼しげなアイスブルーの瞳に自分の姿が映るのを、まるで水に浮かんでいるようだと思った。



依頼結果:大成功
MVP
名前:李月
呼び名:リツキ
  名前:ゼノアス・グールン
呼び名:ゼノアス/ゼノ

 

メモリアルピンナップ


エピソード情報

マスター 瀬田一稀
エピソードの種類 ハピネスエピソード
男性用or女性用 男性のみ
エピソードジャンル コメディ
エピソードタイプ ショート
エピソードモード ノーマル
シンパシー 使用可
難易度 とても簡単
参加費 1,000ハートコイン
参加人数 4 / 2 ~ 5
報酬 なし
リリース日 06月23日
出発日 07月03日 00:00
予定納品日 07月13日

参加者

会議室

  • プラン提出できたー。
    オレ達も絡み歓迎ってプランに入れてあるぜ。
    アドリブお任せ状態になっちまうが。
    絡めると楽しいなぁと今からワクワクしてる。
    楽しいひと時を過ごせると良いな!

  • [8]蒼崎 海十

    2016/07/02-22:09 

  • [7]蒼崎 海十

    2016/07/02-22:09 

    俺達も絡み歓迎な旨をプランに入れさせて貰いました。
    GM様に丸投げとはなりますが、何かあればよろしくお願いします!

    そしてカインさん、か、からかうって……ま、負けませんよ!(ぐっ

  • プランは微調整が必要だが大体出来てるが、一応絡みOKとは書くので、何かあったらよろしく。
    (絡みOKとしか書かないので、GMのご裁量で何かあったらいいな程度)

    あ、だが、海十はフィンが業種違えど在宅仕事仲間なので、ちょっとからかおうそうしよう。

  • [3]李月

    2016/06/30-19:48 

    どうぞよろしくお願いします。

  • [2]蒼崎 海十

    2016/06/29-00:08 


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