邂逅の日(2幕)(真崎 華凪 マスター) 【難易度:とても簡単】

プロローグ

「初めまして」

君が告げる言葉を、今でも憶えている。
照れ臭そうに笑って、まるで湧かない実感とは別に、この人と戦い、生き抜いていくと、どこか決意じみた感情を芽吹かせて。

「初めまして」

そう返した僕に、君が精一杯の笑顔を向けてくれた。

出会ったのは、A.R.O.A.が最初だっただろうか。
ああ、それとも街中の往来する人混みの中――。
いや、生まれた時から知っていたっけ――。

いつでもその瞬間は溢れていて、だけどそれが必然とは夢にも思わなかった。
ここにいる理由。
君と出会ったこと。
それはただ、偶然が積み重なっていて、だけどそれが必然になる瞬間が訪れる。

手を取って、その甲に口付ける。
人と人との出会いが、業深き運命へと変わる。

この人で良かった。
この人でなければ良かった。
思うことは色々とあるけれど。

初めて出会った日のことを、君は憶えてくれているだろうか。
僕は、今でも鮮明に覚えているけれど。

空の色。
風の匂い。
景色の温度。

どれも不思議と、その日の為に用意されたもののようで、儚くて、美しい記憶。
忘れてしまったかな。
それでも、構わないけど。

ねえ。
君と初めて出会った日。
あの頃を少し思い出してみようか。
あの頃の話をしようか――。

解説

邂逅の日、第2幕です。
※前回ご参加くださった方の別の精霊さんとの出会いも大歓迎です。

内容としては、前回同様『初めて出会った日のこと』です。

契約をしたときのお話でも、本当に初めて出会った時のことでも、大丈夫です。
回想という形よりも、その当時をプランとして組んでいただいたほうがいいかな、と思います。

基本的には初めて出会った日のことであれば、どんなプランでも大丈夫です。
生まれた時が初めましての時でも、勿論大丈夫です。
ただ、両方が赤ちゃんで、ばーぶばーぶ会話するのはちょっとあれなので、お察しください。

気づいたら300Jrなくなっていました。

ゲームマスターより

前回ジャンルをコメディでやらかしてしまいましたので今回もコメディですすみません。

ジャンルはお気になさらず、どす黒いものからシリアスなもの、本気のコメディ、なんでもどうぞ。

初めましての思い出を綴らせてくださいね!

リザルトノベル

◆アクション・プラン

月野 輝(アルベルト)

  ※出会い時3歳
祖父の道場で小さい頃から手習いを受けていた
その日も胴着を身につけ道場に向かっていた

「おけいこのじかんにおくれちゃう」

走って道場の前にまで来た所で小石に躓き派手に転ぶ

「う…っ」なかないっなかないもんっ!

必死に堪えてみたものの膝がじんじんして立ち上がれない
そこに差し出された手
その手は輝を抱き起こして頭を撫でてくれて
「ありがとう」
見上げた先に金色の瞳、緑色の髪の少年

「おひさまのいろ。はっぱのいろ。きれい」

思わず出た言葉
少年は首を傾げて行ってしまった

(あのおにいちゃん、だれ?)

その日から道場に通い始めた少年の名前を知るのはもう少し先
くっついて歩くようになり初恋の人になるのは更にその先の事


和泉 羽海(セララ)
  外出した帰り道
すれ違った人の「あのひと、かっこいい」という声に
ふと視線を上げたら、偶然目があった

うわ…ほんとだ…モデルさん…とか、かな…
……?なんか…ずっとこっち、見て、る…?
気のせい…だよ、ね……うん…あたしなんかに用が、あるはず、ないし…
…はやく、かえろう…外は、こわい…
ていうか、近づいてきてるし…!
なに…なんで!?怖…にげよ…捕まった…!!?

…なにも、言わないけど…なんなんだろう…
…変質者とか……なのかな…イケメンなのに…

け…?
………………変な人だった!!!!(確信

『ごめんなさいっ!!』(口パク、混乱で何故か謝る

普段ではありえない力で振り切って逃げる
(でも後日AROAで対面して絶望する)


メイリ・ヴィヴィアーニ(チハヤ・クロニカ)
  パートナーが見つかったんだって!
一体どんな人なんだろう?私より年上らしいけど仲良くなれる?
もしすごく無口な人だったらどうしよう。
まだ見ぬ相手を想像しながら会議室で待つよ。
早く来てくれないかな。

ドアに人影が…。
ドキドキするから早く開けてよ。
第一印象は大事だから笑顔忘れず、きちんと挨拶。
「はじゅめましてメイリ・ヴィヴィアーニなの。これからお願いします、です」
噛んだ…笑ってごまかそう

大きくて面倒見よさそうな人。この人といたら飽きないんだろうな。
…いいリアクションだけどちょっといくら何でも驚きすぎなの。
そしてなんかがっかりしてるし、私だって数年すれば綺麗なお姉さんになるのよ!
…ちょっと足踏んでおこう


エルナ・バルテン(ロードリック・バッケスホーフ)
  神人になったのは私だけど気が進まない、と職員さんに気づかれないようそっと溜息
家族と村人を死なせて自分だけが生き残った罪悪感と、神人として生きなければならない不安
そんな感情を抱いたままじゃどんな精霊相手でも失礼だと分かってはいるけれど

い、いえ。全然!
初めましてエルナです。…エルナ・バルテン
…あの、ご迷惑おかけすると思いますが、よろしくお願いします
…え?
(暗い顔…してるかな?)

笑えているはずなのに、彼の蜂蜜のような瞳にはそう映っていないようだった
え、いやでも
わ…わかりまし、えと。分かった…
私の、ため…?
片膝をついて紋様が浮かぶ左手に口づけるその姿が王子様に見え、紅潮


アラノア(ガルヴァン・ヴァールンガルド)
  顕現の切欠となりうる事件なんて何一つ経験していない
A.R.O.A.職員の人に呼び止められるまで顕現に全く気付いてなかった程だ

何で私が…

オーガは怖いものだ
小さい頃からそう刷り込まれていたから余計不安だった

保護され適応する精霊を待つ間
こんな何も背負ってないただの一般人が精霊と契約をしてもいいのかな
契約を断られたらどうしよう

精霊と引き合わされた瞬間
雷に打たれた様な強い衝撃
所謂一目惚れ
恋はした事あったが、こんな感覚は初めての事だった

あ、は、はいっ…そうだ、と、思いま、す…

もし手違いだったら…
いや手違いだろうな…
こんな素敵な人が私のパートナーな訳が…

…ッ!
契約と言葉に赤面
は、い…よろしく、お願いします…



 備え付けの電話が鳴る。
 2コールで音が途切れ、ガルヴァン・ヴァールンガルドは手元の宝石に視線を戻した。
 ハロウィンは目前だ。それまでに、宝石の加工を済ませなければならない。
 作業に戻ろうとして、先ほどの電話がガルヴァンに宛てられたものだと知る。
 どうやら、適応する神人が現れたらしいと言う、A.R.O.A.からの報告のようだった。
 勤め先の宝石店は、ウィンクルムに多大な理解を示し、支持している。
 それゆえ、ガルヴァンと適応した神人との契約のために、作業も半ばだと言うのに早退を命じられる始末だ。
 ――まったく……。
 せめて作業が一区切りついてからでもよかっただろうに、押し出されるように送り出された。
 ガルヴァンは、仏頂面を提げて神人が待つと言う場所へと足を向ける。

 きっかけと呼べるものはなかった。
 A.R.O.A.職員がアラノアに気付いて呼び止めなければ、彼女は今もいつもと変わらない日常を送っていただろう。
(なんで私が……)
 手の甲に浮かぶ紋様を見つめ、アラノアは不安に押し潰されそうになっていた。
 オーガは怖いものだ――。
 そう聞かされて育ってきたアラノアには、神人としての顕現は喜べるものではない。
 職員はアラノアを保護した後、すぐに適応する精霊がいないかを調べた。
 そして。
「適応する精霊が見つかりましたので、現在連絡を取っています」
 職員がそう告げた。
(どんな人だろう……)
 すぐに精霊と連絡がつき、彼はこちらに向かっていると言う。
 刻一刻と、引き合わされる瞬間がアラノアに迫っている。
 不安でたまらない。
(こんな、何も背負っていないただの一般人が精霊と契約をしてもいいのかな……)
 大きな宿業を背負っているなら、もう少し違った気持ちを持てたのかもしれないけれど。
 アラノアは至って普通。精霊と契約すると言う事実を、平然と受け止められることなどできない。
(契約を断られたらどうしよう)
 適応したとはいえ、選ぶ権利くらいはあるのだろうか。
 頑なに契約をしないと言われるかもしれない。
 いや、それ以前に――。
 思考を巡らせていると、部屋の扉が静かに開いた。
 アラノアがびくりと身を震わせる。
 恐る恐る視線を上げて、そこに現れる人を見つめた。
 無表情というよりも、仏頂面と言った方が正しい。
 不機嫌そうなその人は、ディアボロ特有の角を持った精霊だった。
 その姿を見て、身体中に電流が走るような、雷に打たれたような、何とも言えない衝撃が走った。
 じっとその人を見つめてしまう。
 これは、いわゆる一目惚れ、と言うやつだ。
 恋をしたことはあった。けれど、そのいずれとも違う。
 淡い恋心というよりも、急速に落ちていくような、何とも不思議な感覚だ。
「お前が……俺の契約者となる神人か?」
 精霊は仏頂面を提げたままそう訊ねた。
「あ、は、はいっ……そうだ、と、思いま、す……」
 自信がない。
(もし手違いだったら……)
 少し残念だ。
 ほとんど電撃的に恋をしたのだから。
 でも。
(いや、手違いだろうな……こんな素敵な人が私のパートナーなわけが……)
 その可能性を拭いきれない。
「ウィンクルム……か」
 気を落としかけたアラノアに、精霊がぽつりと呟く。
 そして、彼は流れるようにアラノアの前に跪き、手の甲に浮かぶ紋様に口付けた。
「……ッ!」
「……契約する以上、その身を守ることを約束しよう」
 驚きのあまり、手を引きそうになったアラノアに、精霊は至極事務的な声で、その言葉を告げる。
「は、い……よろしく、お願いします……」
「……ああ」
 辛うじて絞り出したが、アラノアは顔が熱を持ったように熱くなっているのが分かった。
 手違いでもなければ、断られることもなく、二人はウィンクルムとしての契約を交わした。


「おけいこのじかんにおくれちゃう」
 幼いころから祖父の道場で手習いを受けていた月野 輝は、胴着を身に着け、その小さな手足を使って懸命に道場までの道を走っていた。
 齢、3歳。時間に遅れないこと、道場まで向かうこと、それらのために走ることが、3歳の輝に出来る精一杯だ。
 大人が歩けば大したことのない距離も、小さな子供の足ではとても遠い。
 息を弾ませながら道場の前まで来ると、何かに引っかかり盛大に前のめりに転倒した。
 小石に躓いてしまったのだが、輝自身その理由をすぐさま知ることはできなかった。
 分かることは、強打した膝がじんじんと痛むと言うこと。
 ぶつけてしまった身体が痛くて、息が詰まりそうなこと。
 じわじわと溢れてくる感情のない涙があることくらいだ。
「う……っ」
 のろのろと身体だけ起き上がり、今にも泣きだしそうな顔で、輝は一度ぐすりと鼻を啜った。
(なかないっ、なかないもんっ!)
 顔面から転ばなかっただけ幸いだったが、かなり派手に転んだ。膝は痛いし、立ち上がりたくても感覚はよくわからない。
 もう、泣いてしまった方がいいのかもしれない。再び輝が目に涙を溜めてぐすぐすと鼻を啜る。
 目の前にあるのは、いつもはもう少し遠い地面だ。それが何となく、輝にはもの悲しく思えて、じわじわと目頭が熱くなる。
 そんな様子を道場の前で眺めていた少年がいた。
 さすがに拙いものを見てしまったと言った表情をして、一度は視線を外した。
 けれど。
 ――これはさすがに知らんぷりできないよな。
 少年がそ知らぬ顔で少女の脇をすり抜けることは簡単だったが、そこまで非道でもない。
 痛いだろうし、泣きたいだろうし、不安もあるだろう。
 少年も一度や二度、転んだ経験は当然ある。あの、言い知れない心細さは味わいたくない。
 などと考えて、少女の側に屈みこんで、そっと手を差し出す。
「大丈夫?」
 不思議そうに見上げてくる瞳は、涙を堪えていたせいか少し濡れて潤んでいる。
 抱き起して頭をぽんぽんと、宥めるように撫でる。
「よく泣かなかったね、偉い」
「ありがとう」
 今にも泣きそうだった顔は、ぱっと笑顔を咲かせた。
「じゃあ……」
 言いかけて。
「おひさまのいろ。はっぱのいろ。きれい」
「え?」
 輝の素直な言葉に、少年は再び視線を合わせた。
「きれい?」
「うん、とってもきれい」
 と、彼女は名前も知らない少年に素直な言葉を投げた。
 生まれてこの方――と言っても10年ほどではあったが、きれいなどと言われたのはこれが初めてだ。
「そんなこと初めて言われたな」
 ひとつ、首を傾げて。
「稽古の時間に遅れるから、またね」
 思い出したように立ち上がると、そう言って道場の奥へと姿を消した。
(あのおにいちゃん、だれ?)
 通い慣れた祖父の道場に入った見慣れない少年に、輝も首を傾げた。

 精霊は戦いに赴く運命だ。
 そう言って、アルベルトは両親から武術を学ばされた。
 その道場へ通い始めたのも、その一環だった。
 通い始めた道場で皆に紹介をされると、先ほど外で見かけた少女が視界に映った。
 聞けば、彼女はこの道場の師匠の孫らしい。
 その少女はアルベルトを見つけると、なぜか傍にくっついて、離れたがらなかった。
 どうしてそこまで気に入られたのか分からなかったが――。
「おにいちゃん、おなまえおしえて」
「アルベルトだよ」
「わたしは、あきら」
 そんなやり取りをしたのは知り合って、少し経った頃。
 輝の心に淡い恋心が芽生え始めるのはもう少し先のこと。
 そして――。

 アルベルトが笑顔の仮面を被るようになる別れまで、あと一年。


 外出した帰り道。
 雑踏を行く人々から、ざわめくような声が上がった。
 その声に、和泉 羽海が耳を欹ててみた。
 内容は、ほとんどが賞賛するような、そんな言葉ばかりだ。
 視線を巡らせる。
(うわ……)
 すれ違う人――主に女性たちが、歓喜に似た声を上げている理由が、すぐに分かった。
(ほんとだ、かっこいい……モデルさん……とか、かな……)
 視線を一身に浴びている彼は、凡そ羽海とは対極にいるような、そんな人物だった。
 そんな彼と、目が合った。
 恐らく一瞬で外されるであろうその視線に、羽海は気に掛ける様子もなかったのだが。
(……?)
 彼はじっと羽海を見つめたまま、視線を外さないどころか、動きもしなかった。
(なんか……ずっとこっち、見て、る……?)
 思って、即座に否定する。
(気のせい……だよ、ね……うん……あたしなんかに用が、あるはず、ないし……)
 羽海の思考は極めて後ろ向き。
 目の前にいる彼のような、明らかに日向で生きていそうな人が自分に用があるはずはない、というのが羽海の考えだ。

 ――やばい。これが本気の一目惚れってやつか……!

 しかし、彼――セララはそうではなかった。
 羽海と目が合った瞬間、落雷の衝撃と共に恋に落ちた。
 女性経験はそれなりにあったし、恋もしてきたつもりだったが、一瞬で、しかも本気の恋をするとは思わなかった。
 ――な、名前聞かなきゃ!
 思考よりも先に身体が動いていた。
 セララは、羽海にまっすぐに足を向けた。
(……はやく、かえろう……外は、こわい……)
 羽海が視線を外して一刻も早く帰路につこうと決めて、視線を前へと向ける。
 と。
(ていうか、近づいて来てるし……!)
 セララはほとんど突進状態で羽海に近づいてきている。
 むしろ迫ってきている。
(なに……なんで!? 怖……にげよ……)
 くるりと踵を返して、羽海はどう考えても猛進してくる彼から逃げようと試みる。
 ――え、ちょ、なんで逃げんの!?
 セララの心の叫びが聞こえたところで、羽海は全力で逃げただろう。
 思わず、逃げるその手を取った。
(つ、捕まった……!!?)
 絶望的な目を向ける羽海に、セララはじっと視線を向けたままだ。
(……なにも、言わないけど……なんなんだろう……)
 何も言わないなら、離してほしいところだが。
 ――連絡先とデートの約束取りつけて……!
 ――その前に彼氏がいるのか確認して……まあいたとしても奪うから関係ないけど!
 ――あ、でも泣かれちゃうのは嫌だな……泣いてる姿も可愛いだろうけど!
 ――手小さいなぁ……ずっと一緒にいて、守ってあげたい独り占めしたい笑ってほしい!
 セララの頭の中は完全に欲望まみれだった。
(……変質者とか……なのかな……イケメンなのに……)
 羽海がどうしたものかと彼を見つめていると、ゆっくりと唇が動いた。
「け……」
(け……?)
「結婚してください!!!!」
(…………変な人だった!!!!)
 変質者ではない。
 壮絶に変な人なのだ。
 羽海は、否定の余地などないほど強く確信する。
 ――あれ……。
『ごめんなさいっ!!』
 羽海が口をパクパクさせてそれだけ伝える。
 はっきり言って、羽海もひどい混乱状態だ。それ以上に、セララは混乱を通り越えて思考を停止していた。
 思いっきり腕を振り切って、一目惚れの彼女が脱兎のごとく逃げて行ったあと。
 ――名前は? 連絡先聞いてデートの約束取りつけて彼氏がいるのか確認して……。
 混乱した挙句、唐突にしたプロポーズはなんだか断られた気がした。
 セララは、思わずその場に項垂れた。

 その、数日後。
 A.R.O.A.から呼び出されて適応したと言う相手と対面するのだが。
(…………変な人だ!!!)
 悲壮ともいえる絶望感に打ちのめされた羽海と。
 ――幸運の女神にまず感謝してから、もう一回プロポーズを……!
 感涙にむせび泣くセララの姿があった。


 適応する神人が見つかった。
 A.R.O.A.からの知らせに、胸は躍り、鼓動は高鳴り、チハヤ・クロニカの想像も絶好調に駆け抜けていく。
 神人は女の子だ。
 素朴で、頑張り屋で、癒し系。女子高生くらいなら最高だ。
 ――若くても15歳くらいかな。
 どう見積もっても、15歳くらいが下限。
 しかし、どう考えてもそれはチハヤの守備範囲の話だ。
 ――可愛い女の子だといいな。
 姉たちが怖かった分、チハヤは可愛らしい女の子に夢と希望と理想を巡らせている。
 ――恋人になる可能性だってあるんだ。
 ドキドキして、手が震える。好みのど真ん中だったら、一撃必殺の名のもとにフォーリンラブだってあり得る。むしろあってほしい。
 案内された会議室の前で、ドアノブに手を掛けたまま、チハヤの妄――想像は続く。

(ドキドキするから早く開けてよ)

 会議室の扉の向こう側に見える人影に、ドキドキしているのはチハヤだけではなかった。
 一足先にやってきていたメイリ・ヴィヴィアーニは、一向に動かない人影にやきもきしながら扉が開くのを待っていた。
(いったいどんな人なんだろう?)
 適応した精霊は、メイリよりも年上だと言う。
(ものすごく無口な人だったらどうしよう)
 出来れば楽しくお話ができればいいな、と思いながらも、精霊の性格まではどうにもならない。
 流暢にしゃべる人でなくてもいい。けれど、最低限で会話が成立するくらいには、しゃべる人でなければ正直、困ると言うより絶望すら感じる。
 ドアの向こうに人影は、影の姿を見せたまま微動だにしない。
 もしかしてあれは、A.R.O.A.の特別イベントで使われる着ぐるみか荷物なのではないかと不安になる。
 仮にあの人影が精霊だったとして、何をすればドア向こうでこれほどまで制止できるのかが分からない。
 まさか想像の真っただ中にどっぷりと浸って扉が開けられないなど、メイリが知るはずもなく。
 しばらくして、ようやく扉が開いた。
 チハヤの想像がひと段落したらしい。
 姿を認めると、メイリはチハヤに向かって、笑顔で行儀よくお辞儀をした。
「はじゅめましてメイリ・ヴィヴィアーニなの。これからお願いします、です」
 噛んだ。
 思いっきり、出だしから二文字目で噛んだ。
 メイリは笑顔でごまかす。笑っていれば多少噛んだところでどうってことはない。
 けれど、チハヤは石と化して霧散しそうな勢いで呆然としていた。

 ――え? あ? うん?

 小さすぎない?
 っていうか若くない?
 見積もりって何?

「聞いてるの?」
「幾つ?」
 チハヤの辛うじての問いかけ。
「12歳なの」
「若っ!?」
 15歳くらいの女子高生は、12歳の子ど……うら若すぎる少女。
「え、待って、12歳って一回り下!?」
「確認しなくていいの」
 なぜもう一度確かめたのか。
 お陰でチハヤのダメージは倍増している。
 ――パートナーっていうより保護者っていうんじゃね、これ……。
 デートなどした暁にはチハヤが職務質問を受けるレベルだ。
 ――俺やっぱり女関係ついてない……。
 天上を仰いだチハヤとは裏腹に、メイリはチハヤに対して好感触だった。
(この人といたら飽きないんだろうな)
 大きくて、面倒見のいい人のようだ。しかし。
(ちょっと、いくら何でも驚きすぎなの)
 一連の流れは良いリアクションだった。砂になりかけているのも分かった。
(なんかがっかりしてるし。数年もすれば私だって綺麗なお姉さんになるのよ!)
 先程噛んでから笑顔を崩さなかったメイリは、その笑顔のままチハヤの足を踏みつけた。

「!!??」


 神人になったのは私自身。だけど正直、気が進まない。
 手の甲に現れた紋様を撫でながら、職員さんに気取られないように小さくため息を零す。
 突然のオーガの襲来に、村を失い、村の人たちを死なせて、家族も助けられず、私だけが生き残ってしまった。
 チクリと痛む胸に沸き起こる罪悪感。神人として生きて行かなくてはならなくなった、不安。
 そんなものを抱えたままじゃ、相手がどんな精霊でも失礼だと、分かってはいるけれど。
 すぐさま消し去ることができなのが感情というもの。
(このままじゃ、いけないけど……)
 頭では、嫌というほどわかっているのだけれど。
 もう一度、小さく溜息を吐く。
 どんな人がやってくるのだろうか。
 不安は、積み重なって緊張へと変わり、何ともなく時計に目を向けた。
 指定された時間からはやや遅れ気味。
 けれど、気になるほどの遅れではなかったし、心のどこかで、このまま来なくてもいいかな、と少し思っていたことも否定はできない。
 神人として精霊の力になるどころか、むしろ――。
 ゆっくりと思考に没頭しかけていると、人の気配がした。
「遅れて悪かったな……」
 男性の声が、鼓膜を震わせた。
 一瞬その人に目を向けて、目が合う。蜂蜜のように、甘い視線。
「い、いえ、全然!」
 少し声が上擦った。咄嗟に声を発してしまったものだから、仕方なかったと言えばその通りだけれど。
 後からやってくる気恥ずかしさに、彼は気づかなかったのか。それとも気付いたからなのか。
「あんたが契約相手か……ほお」
 口の端を持ち上げて、彼は面白そうに私を見た。
「初めまして。エルナです……エルナ・バルテン」
「そうか。良い名前だな。俺はロードリック・バッケスホーフ。呼びやすいように呼んでくれ、嬢ちゃん」
 彼は、軽い挨拶だけをして、ふっと笑う。
「……あの、ご迷惑おかけすると思いますが、よろしくお願いします」
 神人として、彼に出来るだけ迷惑を掛けたくはないけれど、それでも迷惑になってしまうことがあるかもしれないから。
 私にできる最大限のことを――。
「にしても……」
 彼は一歩、私に近づくと言葉を続けた。
「随分と暗い顔してるな」
「……え?」
 暗い顔をしていたつもりはなかったけれど、彼の瞳にはそう映ってしまっていたらしかった。
 笑っているつもりだった。
 笑顔を作れているつもりだった。けれど。
 その甘やかな瞳は、心の奥まで見透かしているのではないかと錯覚すらしてしまう。
「せっかくかわいいのに台無しだぜ?」
 さらりと。
 彼はそんなことを言う。
「なあ、嬢ちゃん。契約するんだし、もうちょっと砕けていこうぜ」
「え、いやでも……」
「硬いことは言いっこなしだぜ」
「わ、わかりまし、えと。分かった……」
 違和感は拭えない。
 どう見ても彼は私より年上。
 しかも、会って数分。砕けようと言われても難しいのだけれど。
「良いんだよ」
 躊躇う私の言葉を、彼は笑顔ひとつで遮っていく。
「嬢ちゃんの為にはその方が、な」
「私の、ため……?」
 言葉の意味はよく分からなかったけれど、彼なりの気遣いだと言うことは窺い知ることができた。
「さて、嬢ちゃん」
 彼は私の手を取って、ゆったりと笑みを刻んだ。
「……このロードリック・バッケスホーフ。あなたを如何なる時でもお守りすることを誓いましょう」
 跪いて、下がる視線に目を合わせると、蜜色の瞳が見つめ返してくる。
 思わず見入ってしまうほどに、吸い込まれそうになる不思議な視線。
 彼が、そっと紋様の浮かぶ手の甲へと口付ける。
 隙のない所作が見せるその姿は、まるで王子様のようで。
 私は、頬がじわりと熱くなるのを感じていた。



依頼結果:成功
MVP

メモリアルピンナップ


エピソード情報

マスター 真崎 華凪
エピソードの種類 ハピネスエピソード
男性用or女性用 女性のみ
エピソードジャンル コメディ
エピソードタイプ ショート
エピソードモード ノーマル
シンパシー 使用不可
難易度 とても簡単
参加費 1,000ハートコイン
参加人数 5 / 2 ~ 5
報酬 なし
リリース日 06月20日
出発日 06月28日 00:00
予定納品日 07月08日

参加者

会議室

  • [5]アラノア

    2016/06/25-16:18 

    アラノアとガルヴァン・ヴァールンガルドです。よろしくお願いします。

    私達は出会い=契約時だったので色々と思うところはありますが…
    皆様の出会いの話も気になりますね。

  • [4]和泉 羽海

    2016/06/25-15:03 

  • [3]エルナ・バルテン

    2016/06/25-01:02 

    エルナ・バルテンです。精霊はロードリックさん。
    皆さんよろしくお願いしますね。

    思い返してみれば今もですが、ある意味心臓に悪い出会いだったような気が…してます…(苦笑

  • [2]月野 輝

    2016/06/24-23:28 

  • [1]月野 輝

    2016/06/24-23:28 

    こんばんは、月野輝とパートナーのアルベルトです。
    今回は皆さんの出会いの場面が見られると言う事で……。
    どんな出会いだったのか楽しみにさせて貰うわね。

    私達の出会いは……契約の時じゃなかったのよね。

    アルベルト:「輝はすっかり忘れていましたけどね(くくくっ)」

    しょうがないじゃないっ!3歳だったんだもの!
    ともあれ。
    お話では絡みはないけれど、どうぞよろしくお願いします。


PAGE TOP