何でもない日々(青ネコ マスター) 【難易度:とても簡単】

プロローグ

「インタビューに答えてもらいたいんです」
 A.R.O.A.職員は両手を合わせて拝むようにお願いしてきた。
 話は簡単である。
 とある雑誌で『ウィンクルム特集』という企画が持ち上がった。
 最近活発になってきているオーガの恐怖を打ち消す為に、ウィンクルムの事を改めて紹介しその活躍を確認しよう、というものである。

 趣旨を理解した貴方達はその要請に応じた。
 インタビューは進む。
 ウィンクルムの紹介、そして活躍について沢山答えた後、待ち構えていたのはまるでアイドル雑誌のインタビューのような可愛らしいもの。
「好きな食べものはなんですか?」
「行ってみたい所はありますか?」
「今後、どんなウィンクルムになりたいですか?」
 貴方達は苦笑しながら、もしくは微笑ましく思いながら、または事務的に答えていく。
 そうしてこの質問に辿り着いた。

「休日はどんな風に過ごしてますか?」

 その質問に、何気なく貴方達は顔を見合わせた。
 そして記憶を手繰る。
 この前の休日はどんな風に過ごしただろう。ウィンクルムになりたての頃はどんな風に過ごしただろう。一人だっただろうか、二人だっただろうか、それとも仲間達といただろうか。
 貴方は思い出しながら、口を開いた。

解説

普通の休日をどんな風に過ごしたか教えてください

●休日の条件
記念日ではない、ごく日常的な休日に限ります。
ちょっとした贅沢やサプライズ(ずっと行ってみたかったカフェへ行く、自分の嫌いな虫を見つけてしまう等)ならば構いません。
誕生日、記念日、その他人生を左右しかねない出来事(告白、プロポーズ、別れる、誰かとの死別等)はNGです。

●プランについて
神人と精霊が一緒に過ごしてもバラバラに過ごしていてもいいです。
また、仲間で一緒に過ごしていてもいいです。
インタビューに答える形でも、休日を思い出している形でも、休日そのものの形でも構いません。
プランに合わせたリザルトの形となります。
ただし、仲間で一緒の休日の場合は、同じ形式にして下さい。

●インタビュー終わった後にちょっとお茶した
300Jrいただきます


ゲームマスターより

自由度の高い内容となっております。また、EXエピの為アドリブが多々入るかと思います。
その点だけご了承下さい。
ジャンルはハートフルになっていますが、シリアスにするのもコメディにするのもスリルショックサスペンスにするのもご自由に。

貴方の休日を是非教えてください。

リザルトノベル

◆アクション・プラン

リチェルカーレ(シリウス)

  シリウスの部屋で

お土産に持ってきた ラベンダーとデイジーのブーケを生活感の薄い部屋に飾る
お茶の用意をと動く彼の様子をこっそり窺う
よくない顔色 緩慢に感じる動き
食事もしていないんじゃ と唇を噛む

今日は あなたのお母さんをしたいの
ぽかんとした顔に微笑んだ後 真剣な顔

…眠れていないんでしょう?
「大丈夫」は無しよ
気づいている?ひどい顔
このままじゃ 近いうちに倒れてしまう
一緒にいるから 今日はこれからお昼寝しましょう?

絞りだすような声に眉を下げる
一度下を見て 上げた時には笑顔
大丈夫 言ったでしょう?
今日のわたしはお母さんよ
怖い夢を見ないよう護ってあげる
ね?だからお願い

伸ばされた手を握って 側にいるわと囁く
閉じられた瞼にキス


手屋 笹(カガヤ・アクショア)
  【心情】
カガヤとは出会ったばかりの頃は「ウィンクルム」だから、
という理由で一緒に居る事が多かったですが…
今はどうでしょう…休日も一緒に居る事が多くなりました。
便利に使っているだけのような気もしますが…

今の私はカガヤの…何なのでしょう。

【一番最近の休日】
カガヤー今日はお掃除の約束でしたでしょー。
(お互いの部屋の)
まだ寝てるんですかー。

鍵もしないで寝てたんですか…。
(部屋に入る)
ほら起きてください(布団ばさあ
はいはい布団も干しちゃいましょうねー。

では掃除機掛けます。
終わったら一旦お茶でも淹れて休憩しましょう。

しかし…確かに役割分担だと思うのですが…
何か…わたくしそこまで掃除の役に立ってますか…?


メイアリーナ・ベルティス(フィオン・バルツァー)
  休日の過ごし方…
部屋の掃除をしたり、本を読んだり、でしょうか
家でのんびりと過ごして体と心を休めています
あ、でも
最近はフィオンさんと一緒にお出かけする事が多いですね

色んな場所に誘って頂いてます
この前行った薔薇園はケーキと紅茶がとても美味しかったです
他にはカフェでお茶をしたり
美味しいお店があるって出かけた事もありまして
あれ、そういえば食べてばっかりのような…?

一緒にいて楽しいですし、食べ物も美味しいです
すごく贅沢で充実した休日を送っている気がします
ただ、正直金銭関係とたいじゅ…いえ、なんでもありません

とはいえ私にこの善意の笑顔をやり過ごす事をできるはずもなく…
この精神は何から気になる所ではあります


■休日と食欲と出費について
「休日はどんな風に過ごしてますか?」
 笑顔で聞いてきたインタビュアーに、『メイアリーナ・ベルティス』は思案し、『フィオン・バルツァー』ほわんと顔を緩ませた。
「休日の過ごし方……」
 どんな風に、と言われると困ってしまう。必ずこれをする、というような過ごし方をしていない。例えば、恋愛小説は好きだが休日に必ず読んでいる、というわけではない。休日など、その時によってやる事は違ってくるのだ。
「私は部屋の掃除をしたり、本を読んだり、でしょうか。家でのんびりと過ごして体と心を休めています」
 こんな回答でいいのだろうかと小首を傾げると、それを肯定するようにフィオンがうんうんと頷いて口を開いた。
「休日かぁ。何をしようか悩むのもの楽しいものだよね」
 色々やっていいと思う。暗にそう言われた様な気がして、メイアリーナはほっとする。
「あ、でも」
 と、同時に、最近の休日の事を思い出す。そういえば最近の休日は家でのんびり過ごしてばかりでもなかったのだ。
「最近はフィオンさんと一緒にお出かけする事が多いですね」
 フィオンの方を向きながら言うと、フィオンは笑顔で「そうだね」と言った。
「最近はよく出かけているよ、メイちゃんと」
 パートナーっていいよね、誘うのに悩まなくてすむから。そう言うフィオンに、インタビュアーは「いいですねぇ、流石ウィンクルムです」と目を輝かせて言った。
「それでは、例えばお二人でどちらに遊びに行くんですか?」
 更に踏み込んだ質問をするインタビュアーに、二人は顔を見合わせてから答え始めた。
「行く場所は色々だね。誘った手前大抵僕が決めるけど、その時行きたい所に行く感じ」
「そうですね、実際、色んな場所に誘って頂いてます」
 メイアリーナは今まで一緒に行った場所を思い浮かべながら頷く。
「メイちゃんが喜んでくれそうな所となるとどこだろうと考えてるからね」
 それゆえに結果として色々な場所になるのだとフィオンは言う。
 メイアリーナはその言葉を聴き、面映さを覚えると共に納得した。確かに行った場所には統一性が無い。なんともバラバラだ。
 そんな過ごしてきた休日も思い出しながらメイアリーナは質問に答える。
「この前行った薔薇園はケーキと紅茶がとても美味しかったです」
「薔薇園……もしかしてタブロス旧市街・西部の薔薇園『エターナル・ガーデン』ですか?」
「はい、物語の中に入り込んだようで素敵でした」
「あそこ、評判良いんですよね! 売ってる食べ物も美味しいようですし」
 言われてメイアリーナは苦笑する。確かに美味しかったのだが、フィオンに勧められてお腹いっぱいになるまで食べざるを得なかった事まで思い出してしまったからだ。
「他にはカフェでお茶をしたり、美味しいお店があるって出かけた事もありまして……あれ」
 ここまで言って、ふとメイアリーナは気がつく。行った場所に統一性が無いと思っていたが、実際は統一性が、というか、共通点が、というか……。
「そういえば食べてばっかりのような……?」
 独り言のつもりで小声でボソリと呟くが、フィオンはきっちりとその小さな呟きを聞き取っていた。
「そうだね、大体食事処に落ち着いているかもしれない。なんでだろう? あんまり気にした事なかったな」
「そこは気にしましょう。何か理由があるんですか?」
 困惑したメイアリーナが首を振りながら尋ねれば、フィオンは首を傾げながら答えた。
「理由はないよ。あ、でもメイちゃんはすごく美味しそうに食べるからこっちも嬉しくなるな」
 答えに、メイアリーナは一度目をぱちくりさせてから頬を赤らめた。
「は、恥ずかしい……!」
 美味しい物は正義だ。美味しい物を食べれば笑顔になってしまう。確かに薔薇園に行った時もお腹がすいているのかと誤解され、さらに「いい食べっぷりだ」と薔薇ではなく自分の食べ様についての感想をもらったが、他の時もじっと見られてたなんて。
(食いしん坊だと思われてるんでしょうか……)
「何で? いい事だと思うよ」
 きょとんとするフィオンに、インタビュアーが横に首を振りながら「フィオンさん、違うんです、いい事だけど恥ずかしいんです、乙女的に」と言った。それを聞いたメイアリーナはコクコクと首を縦に振ったが、残念なことにフィオンはよくわからないという顔をするだけだった。
「ま、まぁいいじゃないですか! 色々な場所で色々な美味しい物を食べる! いいですねぇ、羨ましいです! 楽しそう!」
 いたたまれなくなったインタビュアーがパンと手を打ちながら流れを返るように言う。
「ねぇ、メイアリーナさん、どうですか? 楽しいんじゃないですか?」
 話を振られたメイアリーナはまだほんのりと赤い頬をそのままに、コホンと咳払いをしてから素直に答えた。
「はい、一緒にいて楽しいですし、食べ物も美味しいです。すごく贅沢で充実した休日を送っている気がします」
 その答えに、フィオンもインタビュアーも思わずニッコリと笑う。
 けれどメイアリーナは小声で続けた。斜め後ろを振り返りながら、ボソリと小声で続けた。
「ただ、正直金銭関係とたいじゅ……いえ、なんでもありません」
「え? メイちゃん何か言った? よく聞こえなかったからもう一回……」
「えーっと! じゃあ次の質問に行ってもよろしいでしょうか!」
 メイアリーナの声がはっきりと聞き取れず、首を傾げて尋ねたフィオンに対し、インタビュアーが無理矢理打ち切った。インタビュアーにはきっちり乙女の悩みが聞こえていたからだ。
 その後も幾つかの質問に答えていき、無事にインタビューは終わった。
「ご協力ありがとうございました!」
 インタビュアーの感謝の言葉に、二人も笑顔で頷きその場を後にした。

 長くはない付き合いとはいえ、流石にメイアリーナにもフィオンがどういう人物か分かってきていた。
 基本的に全て善意で行動する人柄なのだ。
 食べているところを見られていたのが恥ずかしいとか、食べてばかりだとお金がどんどん減って大変だとか、食べたものに比例してお肉がついていくことだとか、そういうメイアリーナの事情まで辿り着けない。
 ただ、メイアリーナが美味しそうに食べているから、それが微笑ましいから、それならば何度でも色々なところに連れて行き、何度でも色々なものを食べさせてあげよう、と思うだけなのだ。それゆえに誘っているのだ。
「やっぱり休日はいいものだね」
 にこにこと笑顔で歩いているフィオンを、メイアリーナはじっと見る。その視線に気付いたのか、フィオンは笑顔のままどうしたのかとメイアリーナを見つめ返してくる。
(こういう人を天然って言うのでしょうか)
 メイアリーナがそんな事を考えていると知らないフィオンは、お腹でもすいたのだろうかと辺りを見回す。
「そうだ、メイちゃん、せっかくだから今からお茶しようか」
 あそこの喫茶店のケーキが美味しいらしいよ、と、さも名案のように誘ってくるフィオン。
 メイアリーナは薄く息を吐き、諦めにも似た苦笑を浮かべる。
 お財布が、とか、お腹のお肉が、とか、考えなければいけない事もあるし、それらを考えたら全ての誘いに乗るのもどうかと思うのだが。
(とはいえ私にこの善意の笑顔をやり過ごす事をできるはずもなく……)
「はい、行きましょう」
 結局は笑顔の誘いに負けて、笑顔で頷くのだ。
(けれど、どうしてやり過ごせないのでしょう。この精神は何から来るものなのでしょうか。少し……気になる所ではあります)
 いまだ自覚も名前も無い好意を、メイアリーナは不思議に思いながら考える。そんな思考も、フィオンに話を振られればとりあえず横に置いてしまう。
 二人で色々な話をしながら喫茶店へと歩き出す。フィオンは次はどこにいこうかなと考えながら、メイアリーナに色々な場所の提案をする。
 提案されながら、メイアリーナも考える。
(次は私が誘ってみてもいいかもしれませんね)
 そうだ、今度はメイアリーナが行きたいところへフィオンを連れて行こう。
 パートナーなんだから、パートナーと過ごす休日なんだから、たまにはそういう形もいいだろう。



■一緒に過ごすのは君だけ
「休日はどんな風に過ごしてますか?」
 笑顔で聞いてきたインタビュアーに、『手屋 笹』はすぐ答えようとして、ふと止まる。
 ウィンクルムになったばかりの頃と今とでは、休日の過ごし方は少しずつ変わってきたような気がするのだ。
 答えない笹を『カガヤ・アクショア』が不思議そうに覗き込む。それに気付いて笹は慌てて答え始める。
「ええと、休日ですよね、休日はそうですね……」
 インタビュアーに答えながら、笹は頭の中で少し別の事を考える。
(カガヤとは出会ったばかりの頃は『ウィンクルム』だから、という理由で一緒に居る事が多かったですが……今はどうでしょう……休日も一緒に居る事が多くなりました。便利に使っているだけのような気もしますが……)
 今、休日も一緒に居る事が多くなったのは、それは『ウィンクルム』だからなのだろうか。
 それは違う気がする。いや、気がする、ではない。違うのだ。
 パートナー。友人。仲間。相棒。親友。
 色々な関係を頭に浮かべては、しっくりこなくて取り下げる。もう一つ浮かびそうになる関係性は、無意識のうちに押さえつけていた。
(だって、まだ……)
 まだ、返事を――……。
「笹ちゃん?」
 インタビュアーが次の質問に移ったのに反応が無いことに気がついたカガヤが、笹の顔をのぞきこむ。
 笹はハッと我に返って「すみません、ちょっとこの間の休日の事を思い出していて」と誤魔化した。
「へぇ、じゃあその休日の事を教えてもらってもいいですか?」
 興味深そうに尋ねてくるインタビュアーに、笹は頷いて話し始めた。

 その日、笹はカガヤの家へと出向いていた。
「カガヤー今日はお掃除の約束でしたでしょー」
 カガヤは小さな部屋のマンションで一人暮らしをしている。笹はそこへ動きやすい格好をして来ていた。掃除をするのに適した、多少汚れても問題ない格好だ。
 互いの部屋の掃除をしよう、二人でやればきっと手早く終わるだろう、そういう約束の下、まずカガヤの部屋を、とここへ来た。
「まだ寝てるんですかー」
 玄関で笹が呼べば、部屋の中、簡素なベッドの上でカガヤは耳をピクリと立てる。
「開いてるから入っていいよー」
 ベッドの上でごろごろ転がりながら返事をすれば、玄関のドアが開いて笹が入ってきた。
「鍵もしないで寝てたんですか……」
 呆れ声で言いながら笹が近づいてくるが、カガヤはベッドから「いらっしゃーい」というだけで起き上がる気配が無い。
 そんなカガヤに対して、笹は実力行使にでる。
「ほら起きてください」
 カガヤが包まっている布団を掴むと、思い切りよくばさぁ、とひっぺがした。
 はたして中からTシャツにスウェット姿のカガヤが出てくる。
「きゃー、えっちー!」
 楽しそうにごろごろしながら言うが。
「はいはい布団も干しちゃいましょうねー」
 笹は早速掃除を開始させる。ひっぺがした布団をそのままベランダへ持っていき干し始める。
 圧倒的スルー。
 ぽつんとベッドの上に取り残されたカガヤは、耳をぺたんと倒して(ちょっとさみしい……くすん)と口には出さずしょんぼりした。

 落ち込んでばかりもいられない。動きやすい格好に着替えたカガヤは、布団を干し終えた笹に腕まくりをしながら言う。
「じゃあ、高いところ埃落としてくから笹ちゃん掃除機お願いするね」
「わかりました、では掃除機掛けます」
 徹底的な掃除。電灯の笠にエアコンの上に棚の上、普段放っている場所に溜まりに溜まった埃を、カガヤはくしゃみしながら落としていく。
「マスクはないんですか?」
 埃を吸わないように袖で口元を押さえながら笹が聞く。
「うーん、無いから……そうだ」
 カガヤはタオルを持ってきて「これで口隠して」と笹に渡し、自分も口を隠すように巻いた。
 無事にタオルで口を隠した互いを見て。
「何かこう……犯罪者のような……」
「え、かっこいいよ」
 そんな感想を言いあってから、掃除を再開させる。
「終わったら一旦お茶でも淹れて休憩しましょう。お茶菓子も持ってきたんです」
「わーい! じゃあそれを目標に頑張る!」
 笹の提案にカガヤは素直に喜ぶ。
 カガヤは埃を落とし、そのまま拭いて、落ちた埃を笹が掃除機で吸い取っていく。そんな作業を行っていけば次第に部屋は綺麗になっていく。
「こんなところでしょうか」
「上出来!」
 そしてお互い納得出来る位に綺麗になった部屋で、二人は休憩をすることになった。
 笹が淹れてくれたお茶に、笹が持ってきてくれたお茶菓子。
 カガヤはそれらを笑顔で頬張り味わう。
 だが、笹が神妙な顔をしてお茶にもお茶菓子にも手をつけていないのに気付く。
「どうしたの?」
「ああ、いえ、その……確かに役割分担だと思うのですが……何か……わたくしそこまで掃除の役に立ってますか……?」
 笹は掃除機をかけていただけだった。
 高いところに手を伸ばして拭いていたのも、重いものを動かしていたのも、結果的に汗をかいて「疲れたぁ」と言ったのも、カガヤだけだった。
「ふむ……」
 それはカガヤが「笹ちゃんに重労働なんてさせない!」と頑張っていた結果なのだが、笹からしてみれば役に立っていないように感じたのだ。
(どう言えば伝わるかなぁ)
 カガヤは頭を捻りながら言葉を紡ぎ出す。
「掃除ってさ、きっかけがないと『また今度でいいか』とか『ここまでやらなくても』って思っちゃわない?」
「そういう、ものでしょうか?」
「そういうものって事にしといて! きっかけをくれたのは『笹ちゃん』だし、休日だっていうのに、『俺』の部屋掃除手伝ってくれるのは『笹ちゃん』だけ。役に立ってるよ。今日来てくれただけで充分過ぎるよ」
 カガヤは笑顔で言って、少しだけ笹に顔を寄せる。
 いつもより少し近くなった距離で、カガヤは微笑む。
「ありがと」
 笑顔で言われた感謝の言葉に、笹は照れ臭そうに頬を赤くして「どういたしまして」と返した。
「では次はわたくしの部屋ですよ!」
 元気になった笹がお茶を飲み干して宣言すれば、掃除で疲れた筈のカガヤは嬉しそうな声をあげる。
「わーい! 笹ちゃんちー!」
「な、何でそこで喜ぶんですか」
 思わぬ反応に困惑する笹を見て、カガヤは笹ちゃん可愛い! と思いながら笑った。
「……わたくしも」
 笑うカガヤを見て、笹は思い切って告げる。
 こうして改めて言おうとすると、妙に恥ずかしくなるのは何故だろう。けれど、言わなくては。いや。
「休日だっていうのに、『わたくし』の部屋掃除手伝ってくれるのは『カガヤ』だけですわ。だから、あの……」
 言いたいのだ。カガヤへ素直な気持ちを。
「いつも、ありがとうございます」
 顔をほんのりと赤くして言う笹に、カガヤはギューって抱きしめたい! という気持ちをなんとか押さえつけながら、笹と同じように「どういたしまして」と返して、照れくさそうに笑った。

「……とまぁ、こんな休日でした」
 語り終えた笹とカガヤに、インタビュアーは目をキラキラさせて「ありがとうございます、何て甘酸っぱ……いやいや、ありがとうございます……!」と答えた。
 その後のインタビューも順調に進み、全て終わった二人はインタビュアーから改めて感謝をされてその場を去った。
 インタビューに答えながら、特に休日を思い出しながら、笹は一つの事を考えていた。
 出会った頃とは違ってきた、今の二人の関係。
 好きだと言われた。自分も好きだと自覚してる。ただ、あと一歩が踏み込めない。自信が無い。怖い。だけどもっと近づきたい。
 こんな風に止まっている自分は、カガヤから見たらどう映っているのだろう。
「笹ちゃん?」
 歩みを止めた笹に、カガヤがどうしたのかと振り返る。
「今の私はカガヤの……何なのでしょう」
 絞り出された声に、カガヤは一度真面目な顔になってから、優しく笹の頭を撫でて微笑む。
「笹ちゃんはともかく俺は『待て』中の犬かなー、なんて」
 カガヤの心は変わっていない。笹に好きだと伝えた時のまま、いや、それ以上の好きを溢れさせて、ひたすらに笹からの返事を待っている。
 だけどそれを押し付けたる事は無い。押し付けたりしたくないのだ。笹が自分で感じて考えた結果の返事をもらえなければ、どんなにいい返事をもらっても意味がない。
 だからカガヤは待っている。笹を信じて。
「焦らなくていいよ、返事は笹ちゃんのペースでいいからね」
 優しい声に、温かく大きな手に、何故だか笹は泣きたくなる。
「もう少し……」
 笹はカガヤの服をきゅっと掴んで告げる。
「もう少しだけ、待って下さい」
 あと一歩なのだ。
 もう少し自信をつけて、勇気を持って。
 そうしたら、きっと。


■どうか優しい眠りを
『リチェルカーレ』は休日に『シリウス』の元へとやってきた。
「今、お茶を入れるから」
「ありがとう」
 シリウスがお茶の用意をと動き出したのと同時に、リチェルカーレはお土産に持ってきたラベンダーとデイジーのブーケを部屋に飾る。それまでは生活感の薄い部屋だったが、花を飾った事で明かりが灯ったように柔らかい雰囲気に変わった。
「これでよし」
 リチェルカーレが雰囲気の変わった部屋を満足げに見回すと、台所の方から暖かい空気が伝わってきた。そろそろお湯が沸いたのだろう。
 リチェルカーレはそっとシリウスの様子を窺う。
(顔色、よくないわ。それに動きも)
 休日だからのんびりとしている、というわけではなく、体が重そうな、緩慢に感じる動きだった。とても元気な状態のシリウスからは考えられない動きだ。
(食事もしていないんじゃ)
 リチェルカーレは不安げに唇を噛む。ブーケ以外にも何か食べるものを持ってくればよかっただろうかと思いながら。
 そんなリチェルカーレの視線を背中に感じながら、シリウスは気付かれないようにそっと息を吐く。
(……何ともないと言っても、信じないだろうな)
 実際、リチェルカーレが思った通り、シリウスの体調はあまり良くなかった。そして本人にもその自覚があった。
 それでも普段ならば、他の人ならば、それを見破られない自信はある。あまり動かない表情と声色は取り繕うには向いていて、さらにシリウス本人が意識すれば、確かに体外の人はシリウスの不調に気付かなかった。
 けれど、その演技が今、リチェルカーレの前では通用しない。
(彼女の前ではそれが崩れるというのは、甘えているんだろう)
 そう思い、もう一度そっと息を吐く。
 それはあまり認めたくないことだった。

「……今日はどうする?」
 淹れ終わったお茶をリチェルカーレのところへ置きながら尋ねる。すると、リチェルカーレはピッと背筋を伸ばしてシリウスに言った。
「今日は、あなたのお母さんをしたいの」
 予想外の答えに、思わず動きを止めてぽかんとした表情になる。
 そんなシリウスの様子に微笑んだ後、リチェルカーレは真剣な顔になってシリウスの顔をのぞきこむ。
「……眠れていないんでしょう?」
 事実を突きつけるリチェルカーレに、シリウスは表情を強張らせて首を振る。そして言い訳や否定をしようと口を開きかけ。
「『大丈夫』は無しよ」
 けれどリチェルカーレに先回りされて大人しく口を閉ざした。そしてそのまま、気まずいのか、リチェルカーレから顔をそらすように斜め下の方ばかりを見ていた。
 リチェルカーレは痛ましげに見てさらに続ける。
「気づいている? ひどい顔。このままじゃ、近いうちに倒れてしまう。一緒にいるから、今日はこれからお昼寝しましょう?」
 あの瓶を覗いてからずっと、シリウスが眠れていない事に気がついていた。精神的に追い詰められている事に気がついていた。
 幾度と無く「眠れるように」「良い夢を見れるように」と願い伝えてきたけれど、それだけではもう間に合わないと思ったのだ。
 だからこそ、今日、シリウスを寝かせに来たのだ。
「ほら、ソファーでいいから」
 優しく誘うが、それでもシリウスは動かない。反応しない。ただ斜め下をじっと見続ける。
「シリウス」
 リチェルカーレが名前を呼んで促し、それでようやくシリウスは口を開いた。
「――眠れないわけじゃない。眠りたくないんだ」
 当たり前のように睡魔は訪れる。それに従って眠りに落ちれば、そこには見たくないものが待っている。
「眠って……夢を、見る方が、今は辛い」
 悪夢が待っている。家族の死が待っている。助ける事は出来ない。自分の夢なのに自分の思うがままにならない、ただ過去を再生するだけの悪夢が。
 そんな夢を見るのならば、眠らない方がましだった。
 絞りだすような声にリチェルカーレは眉を下げる。
 ――そうやって、一人きりで耐えてきたの?
 一人で耐えて、一人で苦しんで、一人で進もうとする。だけどもう一人ではないのに。昔とは違って、今は隣にリチェルカーレがいるのだから。
 リチェルカーレは一度俯く。
「大丈夫だ、眠らないのは慣れている……」
 けれど決心したように顔を上げ、下を向いたままのシリウスの顔も両手で掴んであげさせた。
 シリウスが見るリチェルカーレの顔は、笑顔だった。
「『大丈夫』は無しって言ったでしょう」
 シリウスは向けられた笑顔に息を飲み、そしてそれ以上言葉を続けられなかった。
「シリウス、お願いだからそんなことに慣れないで。一人きりで戦おうとしないで。私は貴方の神人で、貴方は私の精霊でしょう」
 青く神秘的な空間で、他の誰でもなく互いを選んだ。互いがいいのだと確認しあった。それを思い出しながらリチェルカーレは告げる。
「お願い、もっと頼って」
 人も精霊も、眠らなければ生きていけない。そこを削れば、どれだけ意思を強く持とうとも心と体が疲弊し、やがて倒れてしまうだろう。そんな風になってほしくないからこそ。
 そして人も精霊も、一人で生きていく事は出来るが、支えあって生きていく事だって出来るのだ。ましてすぐ隣に、支えたい、助けたい、と思っている人がいるのならば。
「大丈夫、言ったでしょう? 今日のわたしはお母さんよ」
 リチェルカーレは、任せて、と言わんばかりに自分の胸に手を当てる。
「怖い夢を見ないよう護ってあげる。ね? だからお願い」
 さぁ、今日はゆっくりお昼寝をしましょう。
 そう柔らかく優しく微笑む。
 その笑顔に、シリウスの記憶が刺激される。面影はまったく違うのに、記憶の中の人と重なって、胸が苦しくなるのと同時に温かくなった。
 そして、リチェルカーレの言葉を信じられると思った。
 シリウスはフッと微かに笑う。
「なぁに?」
「いや、『大丈夫』は無し、と言った本人が『大丈夫』を使うなんてな」
「わ、私はいいの! 元気一杯だから!」
 顔を赤くするリチェルカーレにシリウスはまた少し笑って。
「……止まない雨はないんだよな」
 二人一緒に見た虹を思い出しながら言えば、リチェルカーレは嬉しそうに、そして力強く「ええ」と頷いた。
「ありがとう」
 素直に感謝の言葉を零した。それに対してリチェルカーレは笑顔で首を横に振る。
 こんな事は大した事ではないのだと、いつだってシリウスが求めれば、いや、求めなくともいくらでもしてあげたい事なのだと伝えたくて。
 そうしてシリウスはリチェルカーレに促されるままソファーに横になる。
 体は正直で、横になった途端、遠ざけていた睡魔が近づいてくる。重くなる瞼を感じながら、思わずリチェルカーレの手を掴んだ。
 リチェルカーレはその手を握り返し、決して離さない。
「起きたら一緒に食事を取りましょう。胃にやさしいものがいいかしら」
「リチェが作るのか?」
「そうよ、だって私はお母さんだもの」
「……それは楽しみだ」
「デザートもつけましょうか」
「期待してる」
 子守唄代わりにこの後の約束をしながら、リチェルカーレはシリウスの頭をそっと撫でる。シリウスはリチェルカーレの手のぬくもりに心が緩むのが分かった。
「良い香りがする……」
 シリウスがぽつりと呟く。
 部屋の中にはリチェルカーレが持ってきたブーケの香りが満ち始めていた。
「そうね、この香りはきっとシリウスにいい眠りを連れてくるわ」
 ラベンダーの香りには、心を落ち着かせ、眠りへと誘う効果がある。リチェルカーレはその効果を信じて持ってきたのだ。
 シリウスは少し首を動かして飾られたブーケを見る。ラベンダーの香りの効果もあるのだろう。だが今心が落ち着いてきているのは、それに加え、リチェルカーレが自分の為に持ってきてくれたという事実が大きいような気がした。
 もしもいつもの悪夢を見たとしても、きっと今日は大丈夫だろう。リチェルカーレが用意した香りが、約束が、温もりが、きっと別の夢へと変えてくれる。
 起きればリチェルカーレが待っている。その事がシリウスから夢を見る事への拒絶感をやわらげた。
「側にいるわ」
 囁いた声を聞き、安心するようにシリウスは瞼を閉じた。
 悪夢が遠ざかるように、夢など見ずにすむように、けれど願わくば、どうか優しい夢が見れるように。
 雨が上がり、晴れ渡る空が広がるよう。輝かしい虹が見えるよう。
 そしてそれが、当たり前の日常の風景となるよう。
 そう祈りながら、リチェルカーレはシリウスの瞼にキスを落とした。



依頼結果:大成功
MVP

メモリアルピンナップ


エピソード情報

マスター 青ネコ
エピソードの種類 ハピネスエピソード
男性用or女性用 女性のみ
エピソードジャンル ハートフル
エピソードタイプ EX
エピソードモード ノーマル
シンパシー 使用可
難易度 とても簡単
参加費 1,500ハートコイン
参加人数 3 / 2 ~ 3
報酬 なし
リリース日 06月20日
出発日 06月26日 00:00
予定納品日 07月06日

参加者

会議室

  • [4]リチェルカーレ

    2016/06/25-23:03 

  • メイアリーナと、精霊のフィオンさんです。
    どうぞよろしくお願いします。

    休日、ですか。楽しいといえば、楽しいのですが…。

  • [2]リチェルカーレ

    2016/06/23-23:54 

    リチェルカーレです。パートナーはシリウス。よろしくお願いします。

    お休みは基本のんびり…体調整えるの、大事ですよね。ね?(ちらり隣に立つパートナー見上げ、念を押す)

  • [1]手屋 笹

    2016/06/23-23:45 

    手屋 笹と精霊のカガヤです。
    よろしくお願いします。

    休日…休日…最近は何してましたっけ…


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