【浄化】甘い香りで覆って(こーや マスター) 【難易度:とても簡単】

プロローグ

 A.R.O.A.が行った、非人道的としか言えない演習。
 オーガを捕獲していたという点には理解を示したウィンクルムもいる。脅威に抗う為のより大きな力を得るには、脅威を知るのが一番だ。
 しかし、一般市民に命を賭けさせる演習とはいったい何なのだ。
 挙句、オーガが実際に攻めてきたにもかかわらず一般人を避難させるどころか、『シンパシーを得る』、『瘴気を晴らす』という名目の為に戦闘地域と近い場所への滞在を請うたのだ。
 瘴気を晴らさなくてはいけないというが、瘴気は一般人にとっては毒。協力してもらうにしても、何故オーガの鎮圧後にしなかったのか。
 多くのウィンクルムがA.R.O.A.の取り決めに嫌悪感を抱いたのも無理はなかった。

 君は広場の噴水に腰かけ、街の様子を眺めた。
 人は少ない。閉まっている店が多く、開店していても閑古鳥が鳴いている。客となるのはウィンクルムしかいないのだから当然だ。
 とりあえず、と開いているカフェに入ることにした。
 気は進まないが、ここで何もしなくてはそれこそ協力してくれている人々に申し訳が立たない。悪いのはA.R.O.A.の方針ではあるのだが――。
 カフェにいたのは金髪とコバルトブルーの瞳の女性だ。君たちの注文に応え、飲み物と軽食を用意しているが手つきがぎこちない。
 君たちの視線に気づいた女は恥ずかしそうに苦笑いした。
「ごめんなさい、まだ慣れてなくて」
 聞けば女性の本職は別にあるとのこと。
 君達がカフェと思って入った店は本来であればレストランで、タブロスに本店を構えているのだとか。女はそこで働いているらしい。
 今回の演習に彼女が協力を申し出た際、店内のテーブルなどの配置をいじってカフェ風にさせてもらったのだという。
「何故、演習に?」
「ウィンクルムに、助けてもらったことがあるから。何か手伝えることがあればって、思って」
 だからオーガが攻めて来たことを知ってもここにいるのだと言う。
 でも、と彼女は苦笑いを零した。
 演習だけだと思っていたから備蓄していた食材が余っているのだという。
 足の早いものは自分で食べたり、他の店の従業員に分けたりしたが、まだ他にもある。小麦粉だとか卵だとか、バターだとか。
 それを聞いて、君はふいに思いついた。余っているものを譲ってもらって、自分たちで菓子を作ってみようと。
 出来上がった菓子は自分たちで食べてもいいし、この女性のように協力してくれている一般人にお礼として配るのもいいかもしれない。
 君が材料を譲ってほしい、菓子を作りたいというと、女性は快く材料を用意してくれた。さらに、大きな厨房と器具は使っていないからと貸してもらえることになった。
 使える材料から作れるものを考えれば……クッキー、フィナンシェ、マフィン、マドレーヌ、スコーンといったところか。
 さて、何を作ろうか。作った後はどうしようか――。

解説

●参加費
軽食代と材料費 300jr

●すること
お菓子を作ります。作れるお菓子は下記五種類から一組につき一種類だけです。
・クッキー
・フィナンシェ
・マフィン
・マドレーヌ
・スコーン

抹茶味にしたい、チョコチップを入れたいなどの場合は下記オプション一種類につき追加10jrいただきます
・チョコチップ(ホワイト、スイート、ビターの三種類あり)
・抹茶
・ココア

お菓子を誰の為に作るかはご自由に。
軽食のシーンや、作ったお菓子をプレゼントするなどは描写しませんのであしからず。
自分たちでお菓子を食べる場合でも、味見程度の描写になります。

●その他
プロローグの女性はこーやの『~曲』エピに出てくるシレーヌですが、会話は出来ませんので完全スルーで問題ありません。

お菓子を作ってる間の会話はご自由に。

ゲームマスターより

こーや が はんぷくよことび を している!

リザルトノベル

◆アクション・プラン

夢路 希望(スノー・ラビット)

  スノーくん、クッキー作りませんか?
…今は、今の私達にできることをしましょう
曇り顔の彼の手を取り精一杯の微笑みを浮かべる
<メンタルヘルス

教えながら生地作り
<お菓子・スイーツ
ミニサイズの動物抜き型あれば数多めに
カフェの女性や他の皆さんに、配れたらいいな、って…
協力への感謝と巻き込んでしまった事へのお詫びの気持ち込め
兎は彼専用で別に
大きな怪我せず無事でありますように…と祈りを込めて

完成を待ちながら彼の方をチラリ
…楽しく、なかったですか?
心配げに見つめ

出来上がったら仕分け
あ、それは…その、スノーくんに、と思って
今日はずっと固い表情してたから
…笑顔が、見たくて…

…はい!
あとで、一緒に食べましょう


藍玉(セリング)
  「レシピ通り作れば問題ないです」

マフィン+チョコチップビター

精霊の指示通り作成
「ところで暢気にデー…遊んでていいんですかね」※デートと言いたくない
「まぁそうですが、でも今東部方面へ行けば色々知れるかもしれないんですよね」
反応にハッとして取り繕う
「いえ、何でもありません。次はどうすれば?」

焼きあがりを待ち
「私は街の皆さんに差し上げますけど、セリングさんは?」
発言に警戒し身じろぎ
「な、何か企んでますか?」
続く発言に一瞬目を見開きそっと視線を外す
「気持ち悪い…」
(そうですよね、安全や倫理より知識欲が先に出るなんて)
軽く自己嫌悪するが、治まらない欲求も自覚

「はい」
真摯に強く言う事で心を戒め少しすっきり


ひろの(ルシエロ=ザガン)
  「バタークッキー」
手伝ってくれるの?
なら、えっと。「グラニュー糖、計ってほしい」
私は、小麦粉とバター分ける。

「うん。バタークッキーはこれぐらい」って、レシピに。
材料を順番に混ぜてく。
小麦粉さっくり混ぜるの、ちょっと苦手。
ラップで包んだら冷蔵庫で寝かせる。

「好きだから。おやつにいいかなって」
「ルシェは食べる?」(見上げる
何で、ルシェはそういうこと言うんだろう。(頬を染める
勘違い、しそうだ。(視線が下がる

ルシェも食べるなら、おいしくできたらいいな。
「しない。棒状にしたから切って焼くだけ」
予熱中に切って、並べて。順に焼く。

ちょっと混ぜ過ぎたかも。(味見
「味、大丈夫?」
次は、もう少し砂糖少なくしよう。


エリー・アッシェン(ラダ・ブッチャー)
  心情
AROAの正規職員ではないですが、ウィンクルムは所属登録しているんですよね。
演習絡みの一連の出来事には、つい考え込んでしまいます……。

行動
クッキー作りですか。
ラダさんの強い希望で、スイートのチョコチップを追加です。

え、私の分はおすそ分け!?
二人で作るのに!?

気を取り直して。
サクサクの食感になるよう、材料は木べらであっさりと混ぜます。
手を動かしていると気が紛れて良いですね。
甘いお菓子の香りにも、心が和みます。

露骨に自分の分だけ分量を多くしていませんか?
焼きムラになりますよ。

クッキーをオーブンの中へ。
何やら真剣な声で話しかけられたと思えば、その内容はたわいなく。
肩の力を抜いて笑ってしまいます。


桜倉 歌菜(月成 羽純)
  マドレーヌ
チョコチップ(スイート)

マドレーヌを選んだ理由を羽純くんに語りながら、調理開始
亡くなったお母さんが得意だったの
大好きだったんだ
甘くて美味しくて…
家に帰ってね、あの甘い香りがしたら、どんなに嫌な事があっても、笑顔になれたの
その味、再現したいなって
…こんな状況だからこそ、あのマドレーヌに元気を貰いたい
羽純くんにも今ここに居る市民の人達にも、少しでも笑顔を

常温に戻したバターをクリーム状にしっかり混ぜ…ここ大事なんです。羽純くん、よろしくね!
卵とグラニュー糖を加え混ぜ合わせてから
ふるった薄力粉とベーキングパウダー、チョコチップを投入、混ぜる
絞り袋でカップに盛ったら、オーブンで焼いて出来上がり


●ビター&ビター
 マフィンの材料に、追加でチョコレートチップ。 藍玉はついでに借りたレシピ本を見ながら、材料を一つ一つ確認していく。
 そんな藍玉を見たセリングの質問。
「あんた料理経験は?」
「レシピ通り作れば問題ないです」
 キリッ。妙に自信ある表情が、セリングの不安を煽る。藍玉は言外に料理経験無しと宣言したようなものだ。
 セリングははぁと溜息を吐いた。すでに雲行きが怪しいような気がしてならない。
「……オレの指示通り作って」

 てきぱきと藍玉に指示するセリング。分量はおおむねレシピ通り。ただし砂糖だけはレシピより少し多め。
「レシピよりも多くていいんですか?」
「生地甘くしてチョコビターの方が好きなんだよねー」
 不慣れではあるが作業自体は単純だ。藍玉はぎこちないながらも言われた通りの作業をこなす。
 粉類を篩い終えると、セリングがバターのボールを藍玉に手渡す。
「これ全部混ぜるー」 
 言われるまま、まずはバターと卵。次に粉類を混ぜていく藍玉。
「ところで」
「なんだよ?」
「暢気にデー……いえ、遊んでていいんですかね」
 傍から見れば『デート』になるのかもしれないが、この状況と二人の関係、そして藍玉の性格上、『デート』とは言いたくないのである。
「いいんじゃね? 何かA.R.O.A.ムカつくし、オレらじゃ足手まといだろうし、あんたも何か殺さなくてすむしー?」
「まぁそうですが、でも今東部方面へ行けば色々知れるかもしれないんですよね」
「……はぁ?」
 藍玉の芯から湧き上がる知識欲がそう言わせた。まぎれもない本心。
 けれど、それはセリングには理解出来ない言葉だった。オーブンの様子を見ていたセリングの呆れと苛立ちの混ざった声に、藍玉はハッとした。
「いえ、何でもありません。次はどうすれば?」
 しかし、その様子にセリングはあからさまに眉を顰める。言及すべきかどうか悩んだのは一瞬。結局は面倒くささが勝った。
「……この型にいれてー、そんでオーブンに……」
「分かりました」
 藍玉は指示通りに残りの工程を済ませていくのであった。

 予熱しておいたオーブンに型を入れて、焼きあがりを待つ間に片付け。それも二人がかりなのですぐに終わった。
 その頃には甘く香ばしい匂いが。することが無くなった藍玉はじーっとオーブンの中を覗き込んでいる。
「私は街の皆さんに差し上げますけど、セリングさんは?」
「あんたにやるよ」
 藍玉は呆気にとられた。予想もしていなかった答えだ。
 美味しい物は正義をモットーに、自らの食欲に忠実に動くのがセリングだ。そのセリングが食べ物を譲るとは、まさか――。
「な、何か企んでますか?」
「企んでねーし!」
 警戒を露わに姿勢を正す藍玉。
 折角の申し出に感謝よりも先に疑われたもんで、セリングがイラッとしたのも無理からぬこと。
 ハァと溜息をつく。
「今日のあんた気持ち悪いから、上手いモン食ってゆっくり休めばー」
「気持ち悪い……」
 藍玉は目を見開いた。その名の通りの色をした瞳をそっとセリングから逸らす。
 確かに、そうだ。安全や倫理よりも知識欲が先に出てしまったのだ。
 軽い自己嫌悪に陥ると同時に、泉のように湧き上がる知識欲が治まらないものだとハッキリ自覚させられた。
 その様子を見たセリングは先の藍玉の発言は彼女の素のものだと理解して、少しばかり引いてしまう。
 と、同時にオーブンが焼き上がりを告げた。セリングは手早くキッチンミトンをつけ、天板を取り出した。
 藍玉を見ることなく、焼き加減を確認しながらセリングは言う。
「オレは怪物と契約したつもりはねぇから」
「はい」
 強く真摯に藍玉は答えた。『怪物』にはならない、そうではないのだと自分への戒めを込めて。
 その声音にセリングは少し安心したのであった。


●スイート&スイート
 エリー・アッシェンの心中は重い。
 A.R.O.A.の正規職員ではないものの、ウィンクルムとして所属登録している以上、エリーもA.R.O.A.の一員だ。だからこそ、今回の『演習』が絡む一連の出来事にはつい考え込んでしまう。
 それが顔に出ている。眉間には小さな皺。唇が描くのは笑みの弧ではなく直線。
 パートナーであるラダ・ブッチャーにも思うところはある。けれど今はほっと和んでほしいというのが本音だ。
 そんな想いを抱いていたから、食材を持て余しているという女の言葉は(色んな意味で)ラダにとって渡りに船。
 かくして、ラダのつよーいつよーい希望によりスイートのチョコチップも分けてもらってのクッキー作りが始まった。
 先にレシピを確認し、作業分担。チョコチップクッキーが好きなだけあってから、ラダはレシピを一瞥しただけでだいたいの工程を把握したらしい。エプロンを付けるのだけはエリーの手を借りたが、それもご愛敬。
 薄力粉をふるうエリーの隣でラダがバターを混ぜている。バターが白っぽくなったころを見計らって砂糖と溶き卵を投入。
「アヒャヒャ、バターのいい匂い! 出来たらエリーにもおすそ分けしてあげるねぇ」
「え、私の分はおすそ分け!? 二人で作るのに!?」
「え?」
「え?」
 満面の笑みを浮かべるラダの言葉にすかさずエリーがツッコんだのだが……この反応を見るに、意地悪でも冗談でもなく本気の譲歩だったらしい。
 エリーは数度の瞬きの末にこほん、と咳払いして気を取り直す。
「手を動かしていると気が紛れて良いですね」
「甘い匂いって幸せの香りだよねぇ」
 粉類とバター類を一つのボールに纏め、サックリ食感を目指して木べらでざくっと混ぜる。
 エリーの表情が徐々に晴れてきたことに加え、ウキウキワクワク魅惑のチョコチップを入れる段とあってラダは上機嫌。
 味見と称して一粒だけチョコチップを食べてみる。良い甘さだ。これならクッキーの中にあってもばっちり存在感を発揮してくれるはずだ。
 出来上がった生地は伸ばすことなく2本のスプーンを駆使し、天板に乗せたオーブンシートの上へ。
「型抜きじゃないんですか?」
「半端な生地が出るのがヤダ」
 最良はドロップ、僅差でアイスボックス。アイスボックスだとバターの香りが強くなりすぎて、チョコの香りが存分に楽しめない。そして型抜きは悪、というのがラダの主張。
 うん、それはいい。それはいいが、さっきから気になってたこと。
「露骨に自分の分だけ分量多くしていませんか? 焼きムラになりますよ」
「だ、大丈夫だよぉ!」
「……私の数を減らしていいですから、大きさは揃えましょう」
 そんなやり取りの末、生地を予熱したオーブンへ。二人並んで焼き上がりを待つ。
 エリーの横顔を見てみれば、険がとれて穏やかなものになっている。
「エリー」
「はい?」
「あのさ……」
 ラダの声は真剣そのもので、無視できない何かがあるようにエリーは感じた。だからエリーは黙って続きを待つ。
 ラダは口を開いて、一度閉ざして。真面目で格好良いことを言おうと思ったが、やめる。
「生チョコとか生キャラメルとかあるけど、生クッキーも美味しいよね」
 予想外の他愛ない内容に、エリーは眼を瞬かせた。そして、うふふぅと実にエリーらしい笑い声を上げる。すっかり肩の力が抜けてしまった。
 つられてラダもアヒャヒャと笑う。これまたラダらしい笑い声で。
 徐々に濃くなってきた香ばしい匂いに包まれて、二人は存分に笑いあうのであった。


●ホープ&ラビット
 スノー・ラビットの表情は冴えない。瘴気を晴らすためにも楽しまなくてはいけないと理解はしているけれど、納得できない状況がゆえ。
 材料を譲り受けてきた夢路 希望は少しぎこちなく、けれど懸命に微笑みを浮かべた。
「スノーくん、クッキー作りませんか?」
「ノゾミさん……」
 希望はそっとスノーの手を取った。優しく、お互いの心を包むように手を重ねる。
「……今は、今の私達にできることをしましょう」
「……そう、だね」
 スノーは微笑みを返す。曇り空のままではいられない。晴れ間を作ろうと、思いを込めて。

「お菓子作りはあまり詳しくないんだけど、僕でも大丈夫かな?」
「私が教えます。レシピもありますし、クッキーは、簡単ですから」
「良かった」
 料理と菓子作りが出来る希望の指示は的確で。慣れないスノーの様子を見ながら希望がサポートしていく。
 分量はきっちり。型抜きクッキーにするため、バターは粉に対して少な目。ところどころにレシピに無い工夫も挟まれる。
 二人で一つ一つの作業を丁寧にこなしていく。
 打ち粉をした台でスノーが生地を伸ばし終えると、希望は集めたミニサイズの抜き型を広げて見せた。
「小さくなってしまいますけど、たくさん作れると、思うんです。……カフェの女性や他の皆さんに、配れたらいいな、って……」
「うん、いいと思う。皆に配ろうね」
 協力への感謝と、巻き込んでしまったことへのお詫びの気持ちを込めて。
 二人で一つ一つ丁寧に抜いていく。猫、犬、クマ、兎は顔だけ。竹串や計量スプーンの縁を使って目と口も描く。ヒヨコとペンギンは小さいけれども全身。
 生地はぎりぎりまで使い、余った部分は指でちぎって味見用に一緒にオーブンへ。
 焼いている間、簡単なラッピング材を作る。レシピ本の後ろの方に書いてあったやり方は、クッキングシートを二枚重ねて端を縫い合わせるだけ。これならソーイングセットさえあればすぐに出来る。クッキングシートを切るのはスノー。縫うのは希望。
 縫いながら、チョキチョキと鋏を動かすスノーをちらと見る。
「……楽しく、なかったですか?」
「ううん、ノゾミさんと一緒に作れて楽しかったよ」
 スノーは手を止め、希望を見つめた。希望の黒茶の瞳は心配そうに揺れている。
「それは本当」
 安心させるように言うと、希望はほっとしたようだ。
 丁度その時、クッキーが焼き上がった。二人は作業を止め、オーブンへ向かう。
 焼きムラなく、どれも綺麗に焼き上がっている。少し冷ましてから仕分け作業へ。同じ型のものが一緒にならないように気を付け、三枚で1セットになるように分けていく。
 と、希望が兎だけを除けていることにスノーは気付き、小首を傾げる。
 赤い尖晶石の瞳からの無言の問いは、希望にちゃんと伝わった。
「あ、それは……その、スノーくんに、と思って」
「……僕に?」
「今日はずっと固い表情してたから……笑顔が、見たくて……」
 とても優しくて温かい気遣いに、スノーは思わず笑みを零す。それは希望が願った笑顔だった。
「ありがとう。あとで……皆に配り終わったら、一緒に食べよう?」
「……はい! あとで、一緒に食べましょう」
 約束と共にもう一度笑みを交わす。クッキーを食べるのは冷めてからになるけれど、きっと温かい味がするはずだ。
 雲はまだ残っている。快晴になるまでは時間がかかるに違いない。けれど雲の隙間からのぞく光は優しく、明日へと導いてくれるものであった。


●バター&シュガー
「何を作るんだ?」
「バタークッキー」
 レシピを見ながら材料の確認をするひろの。その後ろからひろのの手元を覗き込むルシエロ=ザガン。
 ひろのが最後にもう一度と材料を指差し確認しているひろのを見て、ルシエロはふむと言葉を漏らす。
「オレは何をすればいい」
 予想外の言葉にひろのの手が止まる。二、三回瞬きして、ようやく意味が飲み込めた。手伝ってくれるのか。
 えっと、と言いながらひろのは材料を見渡した。お菓子作りには技術も慣れも必要無い作業が割とある。グラニュー糖と量り、器を渡す。
「グラニュー糖、計ってほしい」
「どのくらいだ?」
 レシピで必要量を確認して教えるひろのの、やはりその後ろから覗き込むルシエロ。見るなら聞かなくてもいいのではないかと思ったが、それは言わない。
 ルシエロがグラニュー糖を計っている間にひろのはバターと薄力粉を用意することにした。大きなバターの塊をボールに落とすと、ボタッという音を聞いたルシエロはバターへと視線を移す。
「バターはそんなに使うのか」
「うん。バタークッキーはこれくらい」
 そうレシピに書いてあるからと添えるひろのだが、菓子作りに縁が無かったルシエロはバターの量だけでなくグラニュー糖の量も驚いている。
 計り終えたグラニュー糖を受け取ったひろのは材料を順番に混ぜていく。ルシエロはレシピの工程に合わせ、材料を使う順に合わせてひろのの近くへ移動させる。 
 ひろのの動きはたどたどしいが、慣れも窺える。そういえば、とひろのがプレーンのクッキーは何度か作っていたのをルシエロは思い出す。
 生地をさっくりと混ぜるのが少し苦手なひろのは、ちょっぴり唇を引き締めて奮闘中。さっくりさっくりと自らに言い聞かせて混ぜ終わった生地はラップに包んで冷蔵庫へ。
 休ませてる間にもすることはある。ひろのが洗ったボールを拭くルシエロの姿は違和感の塊でしかないが、手伝ってくれることは素直にありがたいと思う。
「何でバタークッキーにしたんだ?」
「好きだから。おやつにいいかなって」
 洗い物の手を止め、ひろのはルシエロを見上げる。
「ルシェは食べる?」
「オマエが作ったんだ。食べるに決まっている」
 瞬間、ひろのの頬が赤く染まる。ルシエロは何故こういうことをしれっというのだろうか。
 そう思ったところに来る追撃。
「オレの為に作ったものなら、なお良いんだがな」
 愉し気なタンジャリンオレンジの瞳がひろのへ向けられる。唇には不敵な笑み。
 こんなことを言われるのは困る。勘違いしそうになるから。ひろのは徐々に、逃げるように視線を下げていく。
 そんなひろのを見たルシエロの笑みが微笑みへと変わる。どの程度届いているのやら。
「あ……時間」
 パタパタと冷蔵庫へ逃げるひろの。生地を少しつついてから取り出す。
 戻ってきたひろのが棒状の生地に直接包丁を入れようとして、ルシエロは気になった。
「型抜きはしないのか」
「しない。棒状にしたから切って焼くだけ」
 訳すと『型抜きは面倒』である。察したルシエロはそれ以上何も言わなかった。

 焼き上がったクッキーを取り上げ、一齧り。混ぜ方を気にしすぎたあまり、混ぜすぎてしまったような気がする。
 ひろのは小首を傾げ、同じく味見をしているルシエロへ視線を向けた。
「味、大丈夫?」
「なかなか美味いな」
 仕草は綺麗であっても流石に男性、クッキーなど一口だ。ひろのだと二口かかるというのに。
「少し甘いが、口当たりは悪くないぞ」
 さっくりさに欠けたようにひろのは感じたが、ルシエロには良かったらしい。
 次はもう少し砂糖を控えてみようと決めるひろのであった。


●スイート&スマイル
 レシピはあるにはあるが、申し訳程度。
 桜倉 歌菜が指示する分量はレシピとところどころずれがある。しかし月成 羽純は何も言わずその通りに計量していく。
「亡くなったお母さんが得意だったの」
「……そうか」
 目指す形はマドレーヌ。
 歌菜は会えない人と今は遠くなってしまった思い出に心を寄せる。何度も食べた、懐かしの味。世間一般の『おふくろの味』とは違うかもしれないけれど、歌菜の中に根付いた大事な味だ。
「大好きだったんだ。甘くて美味しくて……」
 カシャカシャと羽純の手の中で粉ふるいが音を立てる。それが相槌の変わり。
 歌菜の瞳に寂しさの色が無いと言えば嘘になる。ただ、それ以上の懐かしさと愛しさがあふれている。
「家に帰ってね、あの甘い香りがしたら、どんなに嫌な事があっても、笑顔になれたの」
 今思えば、母は歌菜のことをどれだけ理解してくれていたのだろう。嫌な日は、決まってあの優しい味が家で待っててくれた。
 一口食べれば嫌なこともパッと吹き飛んで、すぐに感情の整理が出来たものだ。だから――。
「その味、再現したいなって」
 こんな状況だからこそ、あのマドレーヌに元気を貰いたい。歌菜だけでなく、羽純や今ここにいる人達が少しでも笑顔になれるようにと願って。
「その美味しいマドレーヌ、上手く再現できるように……二人で頑張ろう」
「うん」
「俺も、歌菜が好きだというその味、味わってみたい」
 羽純はふっと笑みを浮かべ、肩を竦めて少しおどけてみせた。
「何といっても、俺は甘党だからな」
「ふふっ、そうだね。羽純くん、甘いお菓子大好きだもんね」
 歌菜の笑顔に、羽純は目を細めた。笑ってくれたことが嬉しい。
 お菓子作りとは、些細なことかもしれない。それでも、今、羽純と歌菜に出来る事なのだ。それを精一杯、一緒に頑張りたいと羽純は思う。
「歌菜、次は?」
「常温に戻したバターをクリーム状にしっかり混ぜて」
「成程……バターはしっかり混ぜて柔らかくするんだな?」
「うん。ここ大事なんです。羽純くん、よろしくね!」
「任せろ」
 羽純も菓子作りは多少なりとも出来る。手つきに危なげは無い。
 クリーム状になったところで、歌菜が溶いておいた卵とグラニュー糖を加え、さらに混ぜ合わせる。
 それがしっかり混ざったのを二人で確認してから、今度は篩っておいた粉類を投下。マヨネーズより少し硬いくらいを目指して、とろみが出るまでじっくりと混ぜる。
 こうすることで、きめ細かくふっくらしたマドレーヌになるのだと歌菜が言った。
 懐かしい味に想いをはせる歌菜はうっすらと笑みを浮かべている。それが羽純としてはやりきれなかった。本当にこういうときでなければと思ってしまう。
 最後にチョコチップを加えて混ぜれば、あとは型に流すだけである。絞り袋に生地を詰め、歌菜が丁寧にカップに盛り付けていく。きっと母親を何度も手伝ったのだろうと思える手つきだ。
 天板にカップを乗せ、予熱しておいたオーブンに入れる。
 パタン、とオーブンの扉を閉めたところで羽純は歌菜を見た。
「歌菜」
「羽純くん?」
 真剣で何かを訴えるような声音に歌菜は首を傾げた。
「絶対無事に戻って……また一緒に、このマドレーヌを作ろう。俺の母さんにも、食べさせてやりたい」
 歌菜は目を見開いた。黒曜石の優しい瞳をした男の人の姿が歌菜の脳裏を過る。
「……うんっ、うんっ!」
「約束だ」
 羽純が小指を差し出す。すぐに意図を察した歌菜が自らの小指を絡める。
 甘くて優しいこの味を食べてもらいたいと、歌菜は心から思ったのであった。



依頼結果:大成功
MVP

メモリアルピンナップ


エピソード情報

マスター こーや
エピソードの種類 ハピネスエピソード
男性用or女性用 女性のみ
エピソードジャンル イベント
エピソードタイプ ショート
エピソードモード ノーマル
シンパシー 使用不可
難易度 とても簡単
参加費 1,000ハートコイン
参加人数 5 / 2 ~ 5
報酬 なし
リリース日 05月25日
出発日 05月30日 00:00
予定納品日 06月09日

参加者

会議室

  • [8]桜倉 歌菜

    2016/05/29-23:53 

  • [7]桜倉 歌菜

    2016/05/29-23:53 

  • [6]夢路 希望

    2016/05/29-19:25 

    夢路希望、です。
    スノー・ラビットくんと、一緒です。
    宜しくお願いします。

    お菓子作りは、少しだけ……。
    美味しいものが作れるように、頑張りたいと思います。

  • [5]藍玉

    2016/05/29-00:23 

    こんにちは、藍玉といいます。
    精霊はディアボロのセリングさんです。

    セリングさんの仕事が仕事なだけに、美味しいお菓子になるのではないかと。
    お菓子作りも完成したお菓子も楽しみですね。

    よろしくお願い致します。

  • [4]桜倉 歌菜

    2016/05/29-00:19 

  • [3]桜倉 歌菜

    2016/05/29-00:19 

    桜倉歌菜と申します。
    パートナーは羽純くんです。
    皆様、よろしくお願いいたします♪

    私達は、チョコチップ(スイート)入りマドレーヌを作るつもりです。
    マドレーヌには少し思い入れがありまして…!

    美味しく出来るといいですね♪
    よい一時となりますように!

  • [2]ひろの

    2016/05/29-00:01 

    ひろの、です。
    よろしくお願い、します。

    お菓子作りは、得意な訳じゃないけど。
    ちょっと、がんばる。

  • [1]エリー・アッシェン

    2016/05/28-21:20 

    ☆ラダ・ブッチャー

    ヒャッハーッ! チョコチップクッキーだぁ!! ボクの好物じゃん!!!
    うーん……、わかってる、わかってるよぉ。食べるのより作るのがメインだってのはわかってるけど、自分のために作る! ……ってのもアリなんだよねぇ?

    あっ、挨拶ちゃんとしてなかったよぉ。
    みんな、よろしくねぇ!
    (手をブンブン


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