【浄化】悩めるウィンクルム達(山内ヤト マスター) 【難易度:難しい】

プロローグ

 旧市街西部。
 この地域に住んでいるお金持ちの老婦人が、ウィンクルムのために庭園を開放してくれている。
 屋敷の庭園には、危険区域から避難してきた喫茶店の人もいて、臨時の店を開いている。
 上質なアイスティーやフルーツパンチ、軽食のサンドイッチを提供するテーブルが出ていた。ティーカップや食器などは、婦人の屋敷から貸し出されたものだ。

 バラが咲き誇る手入れの行き届いた庭園で屋外パーティ。
 普段なら、心が弾むようなシチュエーションなのだけれど……。

 集まったウィンクルム達の笑顔はどこかぎこちなく、無理に楽しんでいるように見えた。
 旧市街がオーガに襲われている。それを知っていながら、普段通りのデートをせよとはなかなかの難題である。

 同じ状況に置かれているウィンクルムとの会話で、不安がまぎれたり気持ちの切り替えができるかもしれない。
 あなたとパートナーは話し相手を探して、庭園を見回してみた。



 熟女の神人が険しい表情で腕組みしていた。釣り上がったデザインの眼鏡と引っつめたお団子髪が、厳格な家庭教師を思わせる。
「本当に私達の力でギルティ級のオーガに勝てるのだろうか……」
 神人エラ=ソーニャ。
 これから戦うことになる強敵に不安を抱き、少し気弱になっている。
 彼女は真面目で集団の規則を重んじた考え方をする。多少礼儀作法にうるさいが、自分も失礼な振る舞いはしないよう気をつけて人と接する。

 シリアスな雰囲気のウィンクルムが多い中、長髪をさらりーんとなびかせ、格好つけている精霊もいた。
「ギルティ? 余裕よゆう。僕が華麗に倒してみせるよ」
 ボルゾイ犬のテイルスのカーマ=セーヌ。
 彼には危機感がない。このまま浅はかな心構えで決戦に挑めば、本人や周りが苦労することだろう。敵の強さを理解させつつ、士気を損なわないよう話で誘導したい。

「はー、マジ最悪だぜ。こんなことになるなら、演習なんて参加しなけりゃ良かった。てか、A.R.O.A.も無茶苦茶しすぎだってーの!」
 白ネズミのテイルスのヴェーザー。
 演習に対して後悔と不満があるようだ。彼はノリが良く、会話の流れでツッコミやボケをこなす。

 うつむきがちで、一人でポツンとしている若い娘がいる。
「こんな状況で愛情を育むなんて私にはできそうにないよ……。でも、そうしなきゃいけないんだよね……」
 神人コッペン。
 この状況で愛を育むことに強いプレッシャーを感じているようだ。不謹慎だという意識もある。
 彼女は割りと平凡で常識的な娘だ。今は少し憂鬱気味になっているが、社交的で人にはフレンドリーに接する。

 新米ペア。神人の新茶・ワカバと精霊の初雪・アラタは、暗い面持ちだ。
「契約したばかりなのに、いきなりこんな事態……」
「……戦場で役に立てるのか、自信がない」
 どんよりとした空気が漂っている。

 熟練のウィンクルムもまた不安に苛まれていた。
「……エスキュ。この戦いが無事に終わったら、二人でマーメイド・レジェンディアにデートにいこう」
「駄目よ、ベイ! そのセリフは危険だわ!」
 神人のエスキュ=ウーノと精霊のベイ=テラン。
 激戦地に赴くため、パートナーの命を案じている。

 あなたは庭園にいるウィンクルムに気軽に声をかけても良いし、もし見知ったウィンクルムがいたら集まって話しても良い。
 大事なのは、ウィンクルム同士の会話を通して気持ちを明るくすることだ。

解説

・必須費用
飲食費:1組300jr



・難易度について
フェスティバルイベントの出来事と関係しており、ごたごたした中でのハピネスです。
そのような状況から、通常時のデートよりも「難しい」設定でのハピネスとなっております。

最終的に「ウィンクルム同士の会話を通して、不安を払拭したり、勇気を出せたり、何らかのプラスな気持ちを持てる」と、リザルトの成功に繋がりやすいでしょう。

ウィンクルム同士の会話がエピソードの趣旨です。
自分のパートナーとしかコミュニケーションができない設定や事情を持つPCですと、行動のハードルがかなり高くなると思われます。



・交流描写
お互いに希望すれば、他の参加者と交流することもできます。
特に人数制限などはありません。

・個別描写
NPCは脇役です。PCらしいRPをするために利用してください。
プランでは、AやBやF精霊など省略してOKです。
NPCの言動をプランで直接指定しても、リザルトにそのまま反映することはできません。

A:強敵への不安「神人:エラ=ソーニャ」
B:分不相応の勇み足「精霊:カーマ=セーヌ」
C:演習の後悔「精霊:ヴェーザー」
D:愛情の自粛「神人:コッペン」
E:新米ペア「神人:新茶・ワカバ」「精霊:初雪・アラタ」
F:熟練ペア「神人:エスキュ=ウーノ」「精霊:ベイ=テラン」



・EXとシンパシーについて
シンパシー対象のEXエピソードです。シンパシーの内容に基づいたアドリブが入ります。
こういうことはしないでほしい、というNG事項がありましたら、プランか自由設定に記載をお願いします。

こちらのページの「シンパシーについて」もご参照ください。
https://lovetimate.com/worldguide/spirit_agree.html

ゲームマスターより

山内ヤトです。

参加PC同士で交流するか、NPCが出した話題にそって会話プランを書くか選べます。
会話の過程で愚痴や不満などが出ても、最終的に明るく話がまとまれば大丈夫です。

リザルトノベル

◆アクション・プラン

リチェルカーレ(シリウス)

  こんな状況だけれど 見知った顔をいくつも見つけて笑顔
不安はあるけど 皆と話したら気持ちも切り替えられそう

新米さんの不安を和らげるには…
皆の意見を聞きつつ それとなく庭園を見渡してみる
Eペアを見つけ 聞こえてきた呟きに眉を下げ困った笑顔
わたし、今でも思います
役に立てているのかしら 
足手まといじゃないのかしらって
自分の精霊の横顔を見つめ 小さくため息
(そう、不安はある いつだって だけど)
だけど周りを見たら…皆がいるから頑張れます
パートナーがいるから 頑張れます
わたしたちがひとりじゃなく パートナーがいて戦えることにきっと意味があると思うから
下を向くんじゃなくて
前を向いて できることを頑張るのが大事なんじゃないかな


ハロルド(ディエゴ・ルナ・クィンテロ)
  【参加者全員と交流します】

こういう場においてディエゴさんから発言するなんて
珍しいこともあったものですね。

不安を和らげる方法ですか…
んー…私の意見は後で良いですか
皆さんの意見を聞きたいです
私はディエゴさんがなんとかしてくれるといつも思っていたもので
強い不安を抱いた時っていうのがぱっと思い浮かばなくて。

【精霊の意見を聞いて】
恐怖や不安を抱くのが問題ではなく
それに伴う無力感や自己嫌悪の方が問題、でしょうか。
確かにそれで、自分は意気地無し、なにもできないんじゃないかと思い込んでしまうのかもしれませんね。
そういう方がいるなら…私は気持ちだけでも寄り添いたいと思います、ディエゴさんがしてくれたように。



クロス(オルクス)
  ☆全員で卓を囲む

「あぁ、不安がるのも仕方が無い
俺もそうさ
でもさ俺達が不安がってちゃ守る対象の市民はもっと不安なんだぜ?
確かに任務で怪我はするし時には神人が命張って敵の囮だってある
俺自身ある任務で自らを囮となり重症を負いながらもオルクに俺事撃てと命じた
だが俺は後悔はしてねぇ
何故だか分かるか
俺はオルクを信頼し信じていたからさ
なぁお前らはなんの為にウィンクルムとなり戦う?
俺は幼い頃、オーガに全て奪われた
オーガを滅ぼす為に軍に入りオルクと出会い今がある
最初は仇を討つ為、たが今は違う
敵を斬る為じゃない
弱き己を斬る為に
己を護る為じゃない
己の魂を護る為に
大切な人達や笑顔を護る為に刀を振る
それが俺の理由さ…」


水田 茉莉花(八月一日 智)
  ※Dに近い立ち位置、甘い物が苦手

今回は新人じゃなくても
不安に思っているウィンクルムがいるんじゃないかしら…って思うんですよね
実際あたしは、今回の演習内容に面食らったところがありましたし…

切羽詰まってるって?
そりゃ、ウィンクルムの力に相当期待されていることはわかりますけど
だからといって「はいそうですか」って出来ないこともある訳で…
全く、こんな時でもマイペースだし、ほづみさん…(配膳を手伝う)

【あれ?いつの間にかあたしの目の前にガトーショコラが来てる…?】
(他の人の意見に耳を傾けつつ、ベテランの意見は智のメモを借りて取る)
考えすぎるって…ほづみさん、それ言い過ぎ
(ふくれながらも、悪い気はしてない)


瀬谷 瑞希(フェルン・ミュラー)
  実は、今でも任務に不安を覚えます。特に、討伐系の任務では。
何故不安に思うのか、自己分析をした事があります。
1.他の人との技量が凄くある。ちゃんとついて行けるかが不安。
2.敵の難易度が実感として判らない。特に単独任務になった場合自分達だけで対処できるかとても不安。
の2点が不安の主だった柱ですね。
特に1の懸念では自分が皆のお荷物にならないかと不安で。
何をすればいいか?を考える場合
役割分担として自分に何ができるか、を念頭に置くようにしています。
2に関しては実際に経験して判ることが多いですね。

フェルンさん、極限状態でも私を見ているなんて、余裕ですか(苦笑。
さらっと恥ずかしいこと言わないでください。(焦


●ウィンクルムの集い
 民間人の善意で開放された、旧市街のとある豪邸の庭。
 ここには旧市街前線の戦いから離れたウィンクルム達が、一時的な安息を求めて集まっている。
 休むことは悪いことではない。ウィンクルムの愛情が深まれば瘴気の浄化にも繋がるので、間接的にだがオーガの脅威を削ぐことができる。

「へえ……。けっこうたくさんのウィンクルムが集まってるな」
 周りを見渡している『クロス』。
「もしかしたら、オレ達と知り合いのペアもこの庭にきているかもしれないな」
 『オルクス』はニッと笑って、パーティの人混みの中に顔見知りはいないかと探し始めた。

 身長が195cmと高い『ディエゴ・ルナ・クィンテロ』は、野外パーティの会場でも自然と存在感を放っていた。
「人の多い場所にくると実感しますが、ディエゴさんはかなり背が高いですよね」
 長身のパートナーを見上げる『ハロルド』。彼女は145cmと小柄な体格だ。

「あ、あそこのテーブルでデザートや軽食を配ってるみたいですよ」
 『水田 茉莉花』が指し示したテーブルをチラッと見て、『八月一日 智』は少し残念そうに首をすくめた。
「うーん。おれとしては手作りのケーキを振る舞いたいところなんだがなー」
「さすがにそれは無理ですよ。ほづみさんが料理上手なのは知ってますけど、今回は諦めてください」
 ウィンクルムに開放されているのは基本的に庭園エリアだ。屋敷のキッチンまで自由に使える、というわけではなかった。

 『シリウス』は隣の『リチェルカーレ』の横顔を眺めた。
 旧市街で起きている事件のことを考えているのか、左右で微妙に色合いの違う青と碧の瞳はどこか物憂げだ。
「あ……!」
 ふいにその瞳がやわらかな輝きを取り戻す。野外パーティの会場で、かつて共に戦った仲間の姿を見つけたからだ。

 スイーツ好きの『瀬谷 瑞希』は、フルーツパンチなどが並べられているテーブルを遠目に見ていた。
「パーティの食べ物も美味しそうですが、食事だけでなく会話も楽しみたいものですよね。ただ少し気がかりなのは……。私、他の人が何を感じているのかよく判らない時があって……」
「大丈夫だよ、ミズキ」
 『フェルン・ミュラー』は、瑞希に自信を分け与えるように微笑んだ。
「神様や超能力者でもない限り、他人の心の中までは、誰もはっきりわかっているわけではないのだから」



「まあ! こんにちは。同じパーティにきていたんですね」
 リチェルカーレが嬉しそうな小走りで、ディエゴとハロルドのそばに駆け寄る。その表情は穏やかな幸せに満ちていた。
「奇遇だな」
 やや遅れて、シリウスが落ち着いた足取りでやってくる。

「おーい、ハル! ディエゴお兄ちゃん! リチェルにシリウスさんも!」
 少し遠くから聞こえてきた声はクロスのものだ。明るく手を振っているクロスが近づいてくる。
 その後ろから、軽く手をあげたオルクスが姿を見せた。
「良かった、皆と会えて。初対面の相手と話して親しくなるのも、こういうパーティの醍醐味だとは思うが……。今は旧市街があんな状況だし、やっぱり仲間で集まれるとホッとする」

「なんか賑やかな一団がいると思ったら、見知った顔がちらほらと! よおっ、おれも混ぜてくれよ」
 近くの人混みから、智がひょっこりと顔を出した。
「ほづみさん、どこにいっちゃたんですかー!?」
 茉莉花は混雑のせいで智の居場所を見失ったらしく、ちょっと困った顔でキョロキョロしている。
「こっちだ、みずたまり」
「ここにいた! って……あ、皆さん! こんにちは」

 瑞希は庭園にいるウィンクルム達を冷静に観察していた。
「ねえ、ミズキ。むこうの方で、見知った顔が何人か集まっているのを見つけたんだ」
 フェルンが優しく声をかける。彼は他の人にも積極的に話しかけていくような、誰とでも打ち解けやすい社交的な性格をしている。
 フェルンが瑞希の手をとる。
「面白そうだから、俺達もいってみよう」
 ただ、こんな風にそれとなく手を握ってリードしてくれるのは、誰にでも、というわけではないようだ。



 合流した十人のウィンクルム達。
 立ち話よりも座って話そうということになり、落ち着ける場所を探した。
 十人でもゆったりできる広々としたテーブルを選んで、各自着席。

 庭園で臨時の出店をしている喫茶店の従業員が、テーブルに人数分のアイスティーを運んできてくれた。
 これでウィンクル同士でじっくりと話をする場が整った。

 ディエゴが仲間達に話題を振る。
「ちょっといいか? これからのウィンクルム活動において意見を聞きたい事がある」
(おや、珍しいこともあったものですね。こういう場においてディエゴさんから発言するなんて)
 話の邪魔をしないように、ハロルドは声に出さずに心の中でつぶやいた。
(ディエゴさんの人柄、考える事、趣味……。私はちゃんとわかっていますよ)
 ディエゴが話題として提案したのは、新人のウィンクルム達の不安をどう和らげていくか。
「不安を和らげる方法ですか……。んー……私の意見は後で良いですか。皆さんの意見を聞きたいです」
 ハロルドは仲間達の顔を見つめる。
 最初に話すのは誰だろう。



●雄弁な自己主張
「あぁ、不安がるのも仕方が無い。俺もそうさ」
 アイスティーを口にしながら、クロスが共感したように頷く。その後で、自分の気持ちを切り替えてこう続ける。
「でもさ俺達が不安がってちゃ守る対象の市民はもっと不安なんだぜ?」
 一理ある。助ける方が恐れていれば、その恐怖は救出対象にも伝わってしまうだろう。
 それから熱っぽい調子でクロスの活躍と苦労が語られた。
「確かに任務で怪我はするし時には神人が命張って敵の囮だってある。俺自身ある任務で自らを囮となり重症を負いながらもオルクに俺ごと撃てと命じた。だが俺は後悔はしてねぇ。何故だか分かるか」
 実際に任務中に起きた出来事を回想しながら、クロスは一気にしゃべる。
「俺はオルクを信頼し信じていたからさ」
 満足そうな表情でクロスはオルクスに微笑みかける。
 その後で、クロスはこう問いかける。
「なぁお前らはなんの為にウィンクルムとなり戦う?」

 卓を囲んだ一同は、静かに考えこんだ。
 神人に顕現した理由は色々異なる。顕現するまでは争いと無縁の境遇だった神人もいる。
 精霊として産まれた運命をどう受け止めているのかも、その精霊次第だろう。
 そしてこれからウィンクルムとして戦っていくことについて、どういう考えを持っているのかも……。

 他のウィンクルム達がそれぞれの答えを導き出すよりも、オルクスがつぶやく方が早かった。
「戦う理由……」
 それはどことなく悲しげな声だった。
「オレ自身過去に師匠をオーガによって失った。それも師匠ごとオーガを斬れと師匠が言ってきて……」
 辛い過去を追体験しているかのように、オルクスはうつむいて首を横に振る。
「オレは勿論断ったさ……。だがそれしか方法がなかった……。師匠殺し、と言っても過言じゃねぇ」

 過去の出来事とはいえ人の死に関わる話題だ。同じテーブルにいるウィンクルム達は、オルクスにかける言葉を慎重に選んだ。

 師匠を手にかけたという衝撃的な打ち明け話をした後で、オルクスは先程クロスが言った任務中の負傷のことを補足する。
「だからあの日あの時オレはダブって見えてさ……クーと師匠を……。一瞬でも撃つのを躊躇い、又大切な人が死んでいく様を眺めるだけかと葛藤していた……」
 オルクスはうつむきがちだった顔を上げ、クロスの方に視線を向けた。それまで沈痛だった声や表情が、晴れやかなものに変わっている。
「だがその時、クーが信頼してると言ってくれた。そのお陰でオレは撃つ事が出来た、感謝してるぜ」
 最後には、微笑みさえ浮かべられるほどの余裕を見せた。

「俺は幼い頃、オーガに全て奪われた」
 今度はクロスが、オルクスとの出会いの場面を語り出す。

「……」
 シリウスは一般的なマキナらしい無表情を崩さなかったが、彼の顔にわずかに影がさしたことにリチェルカーレは気づいた。
 彼もまた、子供の頃にオーガによって家族を喪っている。

「オーガを滅ぼす為に、俺は……戦う力を身につけるためにとにかく励んだ。そんな中でオルクと出会い今がある」
 自分がオーガと戦う理由について、クロスがまとめにかかる。
「最初は仇を討つ為、だが今は違う」
 オルクスもコクリと首肯する。
「オレは二度と大切な人達を失いたくない、その人達が幸せになって欲しい。その想いを胸に、ある集団に所属してそこで並々ならぬ努力を積んだ結果、クーと出会い今がある。それがオレの戦う理由さ」
「敵を斬る為じゃない。弱き己を斬る為に。己を護る為じゃない。己の魂を護る為に。大切な人達や笑顔を護る為に刀を振る。それが俺の理由さ……」
 仲間思いを自負するだけあって、クロスは自分が戦う理由を大切な人達のためだと認識している。
 オルクスはそんなクロスの言葉に感心して拍手をした。
「勿論今の現状に甘えず、まだまだ上に行くけどな」
 ニッと笑ってみせる。

 二人共、今はプラグマティック。実利主義的な気持ちになっていた。
 ロマンチックな愛の甘い幻想をはがし、実利という光で互いの愛をしっかりと照らし出そうとするかのように。
 だからこうして、会話で互いの人柄を確かめ合う。
 不安はあるけれど、それでも大切な人達の笑顔を護るために戦っていきたい。
 オーガとの戦いについて、お互いの考えの方向性は一致していた。こうして二人は、ウィンクルムとしての絆や気持ちを再確認することができた。

 クロスとオルクスは、とにかく自分達のことを熱心に語った。饒舌な話しぶりで二人の身に起きた出来事を教えてくれた。
 二人が発信しているメッセージはとても明確だが、もう少しパートナー以外の聞き手のことも意識してみると、もっと相手の心に響きやすい会話ができそうな気がする。
 ともあれ、自分の言いたいことを正直に口に出すのも、コミュニケーションの一つと言えるだろう。
 クロスの熱弁を聞いたことで、他のウィンクルムも自分が戦う理由について考えるきっかけになったかもしれない。

「まあ、俺が言いたいのはこんなところかな!」
 雄弁な自己主張を終えたクロスは満足感をみなぎらせた微笑みを浮かべて、静かに椅子に座り直した。



●冷静と情熱と
 瑞希が口を開いた。
「実は、今でも任務に不安を覚えます。特に、討伐系の任務では」
 その言葉に共感するように仲間達も頷く。強敵との戦いでは、多かれ少なかれ不安にかられるものだ。
 瑞希はただその不安に翻弄されるだけで終わらずに、その深い洞察力で心の分析を試みた。
「何故不安に思うのか、自己分析をした事があります」
「それはぜひ聞かせてもらいたい。有意義な話だと思う」
 メンタルヘルスの技能を持つディエゴは、瑞希の分析結果に興味を示した。

 瑞希は人差し指を一本ピンと立てる。
「1.他の人との技量が凄くある。ちゃんとついて行けるかが不安」
 指の数が増えて、二本。
「2.敵の難易度が実感として判らない。特に単独任務になった場合自分達だけで対処できるかとても不安」
 一呼吸おいてから、落ち着き払った声で締めくくる。
「の2点が不安の主だった柱ですね」
 話す内容が理路整然とまとめられており、話を聞く方も理解しやすかった。

「え?」
 クロスが不思議そうな顔をする。
「そうか? 技量の差がそんなに凄くあるようには思えないぞ? そもそもウィンクルムの戦闘経験で言えば、俺やリチェルとだいたい同じぐらいのようだし……」
 瑞希とフェルンのレベルはけして低くはなく、A.R.O.A.に所属しているウィンクルム全体で見ても充分な実力者だ。
 ちょっと考え込んでから、瑞希が言う。
「たしかに数値の上ではそうかもしれませんが……依頼に参加する際に私が技量を不安に思っているのは事実ですから。駆け出し時代もありましたし」
 リチェルカーレも共感するように頷いている。
「ああ、そうだな。そんなに技量差があるのかってところが疑問に思っただけで、俺も別に瑞希さんの気持ちを否定したいわけじゃないんだ。話を遮ってごめんな」
 クロスは瑞希に話を促した。

「特に1の懸念では自分が皆のお荷物にならないかと不安で」
「ふむふむ……」
 茉莉花はメモ帳に、気になったことや参考になる意見を書き込んでいる。
「そうならないために、では何をすればいいか? を考える場合、役割分担として自分に何ができるか、を念頭に置くようにしています。2に関しては実際に経験して判ることが多いですね」
 智が褒める。
「お、それっていいんじゃね? 瀬谷の言ってることってわかりやすいし、無茶な理想論とかじゃなくてしっかりと地に足の着いた考えだしさ。戦闘に苦手意識があるウィンクルムに話したら、良い励ましやアドバイスになるんじゃないですかね?」

「依頼か……」
 今まで瑞希の声にじっと耳を傾けていたフェルンが口を開く。座っている椅子も瑞希の方にぐっと近づけて、かなり近い位置にいる。
「俺はミズキが傷つかないようにどうすればいいかって考えてきたし、ミズキだって俺が酷い怪我を追わない様に色々と考えてくれていたんだと思っているよ」
 フェルンのジョブはロイヤルナイトだ。戦闘では、アプローチ系スキルを使って敵の攻撃を意図的に引き付ける役目をすることも多い。
 防御はしっかり固めてあるが、それでもロイヤルナイトは負傷したり戦闘不能に陥るリスクを多く背負っている。その力で、味方を護ることと引き換えに。
 慈しむようにフェルンは瑞希の左手に触れ、優しく握りしめる。
「討伐系任務では特に、ね」
 ターコイズブルーのフェルンの瞳は、瑞希の左手の赤い紋章に向けられている。
「厳しい戦いなら自分達だけじゃなく他の人達にもそう考えて、どうするかを考えればきっと良い方向に物事が転がると思う」
 フェルンの言葉に、瑞希も同意する。
「皆で無事に帰る方法を考えるのが、私の役目です」
「こんな時だからこそ、大事な人が居るってことは重要だと思うよ。ウィンクルムならまずお互いを護りたい、傷つけたくない、との思いは行動の原動力になると思うし」

 くすり、とここでフェルンが少しイタズラっぽい笑みを見せた。
「極限状態だからこそ見れるミズキの表情とかにハッとする事もあるし」
 苦笑しながら瑞希がたしなめる。
「フェルンさん、極限状態でも私を見ているなんて、余裕ですか」
「君から目を離して何かあったら大変じゃないか」
 最初は愛情からのジョークかに思えたが、たしかにフェルンの言うことはもっともだ。
「いつも君がどこに居るのか、気にかけてるよ。護りたいから」
 情熱的に、まっすぐに。フェルンは愛の言葉を瑞希へ贈る。
「さらっと恥ずかしいこと言わないでください」
 冷静な瑞希だが、人前での熱烈なフェルンの態度にはちょっと焦る。

 そして、彼の心理を分析してみる。
(多分フェルンさんは愛を育む上で、物理的に距離を縮めたり身体的な接触をすることが大事だと考えているようですね)
 そういう瑞希はというと、現実的な目線で相手の人柄などを重視するタイプだ。
(奥手な関係には少々刺激が強いですが……嫌ではないです。それに、強気で直感型のフェルンらしい愛情表現だと思います)
 冷静な瑞希と、情熱的なフェルン。
 愛のスタンスは別々だが、相手を思う気持ちは同じだ。



●できることを
 シリウスは演習の是非について考え込んでいた。
(一般人を巻き込んだ演習でこの事態……)
 同意のもとで演習に協力してくれた一般人。彼らはある程度の危険を承知の上で、A.R.O.A.やウィンクルムにその命を預けたわけだが……今回の一件はある意味でその深い信頼を裏切った形になったとも言える。
(自分はいい。任務だというならやってみせる。だが……見込みが甘かったと言われても仕方がないだろうな)
 本物のオーガと実際の人命を用いた、本格的ではあるが過激な演習。その後に、旧市街はギルティの襲撃を受けてこのザマである。
 見込みが甘いというシリウスの指摘はもっともだ。
 シリウスの胸のうちで高まっていくA.R.O.A.という組織への不信感。それを顔や口に出してしまわないよう、きつく戒める。

「こんな状況だけれど、皆と話せる時間があって良かった」
 リチェルカーレは仲間達に明るい笑顔を向ける。
「不安はあるけど、皆と話したら気持ちも切り替えられそう」
「単純だ」
「何か言った? シリウス」
 苦笑するシリウスに、きょとんとした顔で尋ねるリチェルカーレ。
 無垢なリチェルカーレの様子を見ていると、ぴりぴりしていたシリウスの神経も次第に癒されていくようだった。

 テーブルについた仲間達の意見を聞きながら、リチェルカーレはそれとなく庭園を見渡してみる。一緒のテーブルに集まっている仲間以外にも、この庭園には複数のウィンクルムが来ていた。
 ふとリチェルカーレの耳に、たまたま近くにいた新米ウィンクルムの力ないぼやきが届いた。どうやらこのペアは契約したばかりで旧市街の事件に直面し、うろたえてすっかり自信喪失している模様。軽く絶望ムードさえ漂っている。
 聞こえてきたつぶやきに、リチェルカーレは眉を下げて困った笑顔。
「新米さんの不安を和らげるには……」
 このテーブルで論じられている議題に、リチェルカーレなりの意見を述べる。
「わたし、今でも思います。役に立てているのかしら。足手まといじゃないのかしらって」
 胸の上に軽く手を当てて素直に本心を明かす。そこに強がりや虚勢はない。
「はい。その気持ち、わかります」
 瑞希が相槌を打った。

 あまり多弁な方ではないシリウスは、基本的に聞き手寄りの立場で話し合いのテーブルについていた。
「シリウスは戦いの不安についてどう考えている? 良かったら意見を聞かせてくれ」
 そこにディエゴが話を振る。クールなシリウスは、表情からその思考が読みにくい。いったい彼がどんなことを思っているのか興味があった。
 ディエゴから話を振られたシリウスは微かに首を傾げ、ただ淡々と受け答えをする。
「……不安を感じるなと言っても、この状況では無理だろう」
 リチェルカーレが先程気にしていた新米ペアのいる方向に、シリウスも翡翠の瞳でチラリと素っ気ない一瞥をくれる。
「冷静に見て楽観できる要素はない」
 簡潔に認識を告げた後で、薄く自嘲。
「……励ましにも慰めにもならないな」

 リチェルカーレはそんなシリウスの横顔を見つめて、小さくため息をつく。
(そう、不安はある。いつだって)
 落ち着かない気分になって、自分の手をぎゅっと握りしめた。
(だけど)
 心の中の思いが、そのままリチェルカーレの唇に乗って紡がれる。
「だけど」
 そして淀みなく続ける。
「だけど周りを見たら……皆がいるから頑張れます」
 リチェルカーレは、同じテーブルにいる仲間のウィンクルム一人一人に友情の視線を向けた。
 それからとびきりの笑顔で、隣にいるシリウスの方を見る。
「パートナーがいるから頑張れます」
 不安で握りしめていた手の力を抜いて、ゆるやかに開いていく。
「わたしたちがひとりじゃなく、パートナーがいて戦えることにきっと意味があると思うから」
 ウィンクルムであることを示す左手の紋章をリチェルカーレは大切そうに撫でた。

 面倒見の良いリチェルカーレは、絶望ムードを漂わせている新米ペアが気がかりだった。
「ちょっとだけ離席しますね」
 仲間に断りを入れ、席を立ってそっと近づく。
「こんにちは。神人のリチェルカーレと言います。元気がない様子のあなた達の話が聞こえてしまったの。だから、一言伝えたくて」
 意気消沈していた新米ペアは、やってきたリチェルカーレを見上げる。
「下を向くんじゃなくて、前を向いてできることを頑張るのが大事なんじゃないかな」
 優しそうな先輩神人が伝えてくれた言葉は、新米ペアの心をふんわりと包んだ。

 シリウスはその様子を見つめていた。
 リチェルカーレの人柄そのものを表したような、あたたかな励まし。
 シリウスは、リチェルカーレが持つ心の強さと優しさを再確認した。彼女からは、深く崇高な慈愛さえ感じる。
「できることを全力でやる。それしかないだろうと、俺も思う」
 重い過去を抱えたシリウスの言葉には、やはり重みが伴っていた。
「できることがある内はまだ最悪じゃない」
 己に言い聞かせるかのようにそう言った。



●意見が違っても
 せっせとメモをとっていた茉莉花がその手を休めて発言する。
「今回は新人じゃなくても不安に思っているウィンクルムがいるんじゃないかしら……って思うんですよね」
 茉莉花のいる席からは、思いつめた顔をしてポツンと佇んでいる若い神人の姿が見えた。見た感じ、彼女は熟練というほどでもないが新人ではなく、そこそこの経験を積んだ神人、といったところだろうか。
 視線をテーブルの方へと戻す。
「実際あたしは、今回の演習内容に面食らったところがありましたし……」
 ギルティの襲撃以前に、A.R.O.A.がおこなった旧市街での演習自体に疑問を持ったウィンクルムも多いようだ。
 参加した市民の同意があるとはいえ、人命を軽視しているか、危険に対する想像力が欠けているとしか思えない演習内容だった。

「んー」
 智が茉莉花に話しかける。
「実践やらなきゃスキルもへったくれも身に付かねぇって理論はわかっけど、その方法がマズいっちゅーんだろ、みずたまりは」
「はい。そういうことです」

 智はそこで安易にパートナーの意見を全肯定せずに、彼なりの意見を出してきた。
「でもよ、ひょっとしたら本部は切羽詰まってんのかも知んねぇぜ」
 あのような演習を指示したA.R.O.A.本部の真意は不明だが、智はそれだけの理由があったのではないかと解釈を試みる。本部は演習を実行しなければならないような事情を抱えていたのかもしれないと。

「切羽詰まってるって?」
 茉莉花は困り顔で腕組みをして考え込む。
「そりゃ、ウィンクルムの力に相当期待されていることはわかりますけど……。だからといって『はいそうですか』って出来ないこともある訳で……」
 パートナーの智から反対意見を言われても、茉莉花は特にショックを受けた風でもなく、いたって平静に議論ができている。
 ストルゲ。仲の良い友達のような強固な信頼関係があるからこそ、たとえ精霊が自分と反対意見を言っても、茉莉花はそれで智から裏切られたように感じていじけたりすることはない。
 言いたいことを言い合える、さっぱりとした爽やかな関係だ。

「難しい事はわかんねーけど、ウィンクルムの力をかなり必要としてんじゃね? 他の人はどう思います?」
 と、ここで仲間達に意見を求める。
「むー。しかし、アイスティーだけじゃ物足りなくなってきたな」
 そして危険地域から避難してきた喫茶店の従業員がデザート類を配っているコーナーに視線を向ける。
「せっかくだし、いただいてきます? 食べたいならおれが持ってきますよー。あ、甘くないケーキが欲しい人は手を上げてくださーい」
「オレはこう見えて意外と甘党だから、むしろ甘いのをくれ」
 と、オルクスがリクエスト。
「私も甘い方が。甘いものがあると考え事もはかどりそうです」
 瑞希もそう要望を伝える。
「あいよ、OK!」
 皆の分のケーキをとりに、智が席を立つ。
「全く、こんな時でもマイペースだし、ほづみさん……」
 ぶつぶつ言いながらも、茉莉花は智を手伝う。ちなみに、茉莉花は甘いものが苦手だ。

 ケーキを配膳している最中に、茉莉花はふと気づく。
(あれ? いつの間にかあたしの目の前にガトーショコラが来てる……?)
 状況からして、ほぼ間違いなく智がそこに置いたのだろう。
 智はなんでもない様子をしているので、どういう意図があっての行動なのかは読み取りにくい。ただ、ガトーショコラはほろ苦い味のものが多いので、甘いものが苦手な茉莉花へのさりげない気配りだろうと思われる。
(ほづみさんてば)
 小さなことだったけれど、それが嬉しかった。

 アイスティーとケーキで、ウィンクルム達は小腹を満たした。
 天気も良くて、バラが咲く庭園は景観も良い。
 危険地帯からは充分な距離があるので、ここでは戦いの音も聞こえてこない。
 ケーキを食べる間、少しだけのどかな時間を過ごした。

「んで、さっきの話の続きな」
 綺麗に空になったお皿に、智がことりとフォークを置いた。
「おれ達ができることをしていって行き詰まったらそん時また考えりゃいーんじゃねーのかな?」
 智は茉莉花の方を見て、ちょっとだけ小馬鹿にしたようにこう言った。
「特にみずたまりはぐるぐる考えすぎる方だし、それくらいの気楽さでいんじゃね?」
 ぐるぐるというのを強調したいのか、智はトンボをからかう時のように人差し指で空中に円を描いた。
「考えすぎるって……ほづみさん、それ言い過ぎ」
 悪びれた顔も見せず、智は軽い調子で受け流す。
「力入ってたらネットラジオの配信もとちりやすいんだぜ」
 少し頬をふくらませながらも、本当は茉莉花もそれほど悪い気はしない。竹を割った上に叩き潰したような性格とも評される茉莉花だが、何も考えていないわけではないのだ。ぐるぐる考えて悩むこともある。
 智はそういうところまでしっかりと茉莉花の人柄を見ていた。これからのことを意識し、真剣に見定めようとするかのように。

「あ、これ会社でやってるネトラジです」
 同席したメンバーに手早く名刺を配る智の姿を見ながら、茉莉花は肩をすくめる。
「もう、ちゃっかりしてるんだから」
 だけど、そんな智のことを嫌いになれない。



●寄り添っていく
 ディエゴはテキパキと、現在ウィンクルム達が置かれている状況を整理していく。
「Cスケール以上のオーガ出現、デミ・ギルティの暗躍」
 ウィンクルム達も着実に力をつけてきている。各種の上位トランスやサクリファイス、コンフェイト・ドライブといった、以前は使えなかった新たなる力も手に入れた。
 しかしオーガの攻撃もより激しさを増している。
 ディエゴは特に、ウィンクルムになったばかりの者へのフォローが必要だと感じた。
「新しくA.R.O.A.に所属したものから見れば先行きが不安だと思う。彼らにどんな言葉をかければ気持ちは安らぐのか、どういう行動を見せれば勇気が出せるのかを真剣に考えたい。団体の中で強い不安は浸透していく」
 それを単なる議論だけで終わらせようとせず、自分達の行動で示すことを前提で考えている。話し合いに対するディエゴの姿勢はとても真摯で熱意があった。

 ハロルドは、そんなディエゴのことを黙って見つめていた。
 その眼差しには、深い親しみの気持ちが込められている。
(ディエゴさんは冷厳なところも見せますが、それはあくまでも表面的な性格です。本当はこんな風に、けっこう正義感が強い人なんですよね。この場では生真面目ですが、案外ノリが良い一面もあったりして……)
 他の人が知らないようなディエゴの本質をハロルドはよく知っている。そこに特別な関係を感じた。

「あの。ハロルドさんも不安を感じていたりするんですか?」
 茉莉花が尋ねる。
「私が、ですか……?」
 積極的に話を進めていくディエゴとは対照的に、今日のハロルドは普段よりいっそう口数が少なめだった。
 あまり発言していないハロルドの姿を見て、茉莉花はなんとなく心配になったようだ。
「いえ、特にそういうわけでは……。でも、私の様子を気にかけてくれてありがとうございます」
 やわらかく否定する。
「あ、そうだったんですね」
「私はディエゴさんがなんとかしてくれるといつも思っていたもので、強い不安を抱いた時っていうのがぱっと思い浮かばなくて」

 ハロルドはディエゴと出会ってからのこれまでを回想する。
 彼と出会った時は、落馬事故の影響でハロルドは廃人状態にあった。彼女が本名の「エクレール・マックィーン」ではなく「ハロルド」という名前でA.R.O.A.に登録されているのは、最初の段階では本名さえも不明だったからだ。
 その後もトラウマの刺激に二度目の記憶喪失と、ハロルドに訪れた運命は過酷なものだった。オーガとの戦いも、常に順風満帆だったわけではない。
 そんな中でもハロルドはディエゴへの信頼を失わなかった。辛くても、きっとディエゴならなんとかしてくれると信頼を寄せていた。
 波乱万丈だった二人の物語は、ハロルドがディエゴの内縁の妻となり安定と幸福を得る。
 ふいに優しい笑みがこぼれる。
 ハロルドからディエゴへの愛を形にして表したならば、それは最高のストルゲ。ディエゴからも、同じぐらい強い気持ちで愛されている。

 ディエゴが不安についての見解を口にする。
「俺の個人的な意見としては恐怖や不安は感じて当然だと思う、生きている限り縁の切れない感情だ」
 恐怖は、命ある者にとって最も重要な生存と安全への欲求と密接な関わりがある。恐怖を感じない精神状態は強いというよりも、生物的に見て危うい。
「無理矢理抑え込まず、共感をすることで恐怖を抱く自分を受け入れることができるんじゃあないかと。大事なのは無くすことではなく打ち勝つことだ」
 ウィンクルムとして様々な苦難や試練を乗り越え、また最高峰のメンタルヘルス技能を修得したディエゴが導き出した結論は、含蓄に富んでいた。

「よくわかります。人の心から不安を完全になくす、というのは現実的ではないでしょうね……。それよりも、不安ごと自分を受け入れて前に進んでいくのが大切なんだと思います」
 リチェルカーレは、ディエゴの考えに賛同し理解を示した。

 確認を兼ねて、ハロルドが細かな部分を質問していく。
「恐怖や不安を抱くのが問題ではなく、それに伴う無力感や自己嫌悪の方が問題、でしょうか」
「ああ」
「確かにそれで、自分は意気地無し、なにもできないんじゃないかと思い込んでしまうのかもしれませんね」
 庭園にいる他のウィンクルムの中には、自信喪失している者も少なくはない。
 この庭園にいる者だけの問題ではなく、この先のオーガとの戦いで不安に押し潰されそうになるウィンクルムが出てこないとも限らない。

 ハロルドがその表情をゆるめる。普段は無口でミステリアスな彼女だが、今は優しさに満ちたあたたかみのある空気を放っていた。
 穏やかな微笑みを浮かべて宣言する。
「そういう方がいるなら……私は気持ちだけでも寄り添いたいと思います、ディエゴさんがしてくれたように」
 同じテーブルの仲間達と目を合わせ、庭園にいるウィンクルムを眺め、最後にハロルドは最愛のパートナーであるディエゴの蜂蜜色の瞳をじっと見つめた。
 この幸福な絆をこれからもずっと育んでいきたい。そう願って。



依頼結果:大成功
MVP
名前:ハロルド
呼び名:ハル、エクレール
  名前:ディエゴ・ルナ・クィンテロ
呼び名:ディエゴさん

 

名前:瀬谷 瑞希
呼び名:ミズキ
  名前:フェルン・ミュラー
呼び名:フェルンさん

 

メモリアルピンナップ


エピソード情報

マスター 山内ヤト
エピソードの種類 ハピネスエピソード
男性用or女性用 女性のみ
エピソードジャンル イベント
エピソードタイプ EX
エピソードモード ノーマル
シンパシー 使用可
難易度 難しい
参加費 1,500ハートコイン
参加人数 5 / 3 ~ 5
報酬 なし
リリース日 05月26日
出発日 06月01日 00:00
予定納品日 06月11日

参加者

会議室

  • [19]水田 茉莉花

    2016/05/31-23:27 

    クィンテロさん、色々と気遣いありがとうございました。
    あたし達は聞き役に近い感じかな?
    ためになる話はメモさせて貰ったわ。

    あと、ほづみさんはケーキ作るって。
    ・・・まったく、いつも通りで困るなぁ。

    じゃあ皆さん、頑張っていきましょうね!

  • [18]クロス

    2016/05/31-23:20 

    オルクス:
    ディエゴ、色々とサンキューな!

    オレ達は「何故ウィンクルムになったのか、何故ウィンクルムとして戦うのか」を体験談として話そうかと思う
    今一度初心に帰って考えるのも良いかと思ってな

  • [17]リチェルカーレ

    2016/05/31-22:32 

    ディエゴさん、いろいろありがとうございます。

    話の内容、わたしは「不安はあるけど、ひとりじゃない。皆がいる」、シリウスは「できることがあるうちは最悪じゃない。やれることを全力で」というような感じで話すつもりです。

    出発まであと少し。皆さん、よろしくお願いします。

  • [16]水田 茉莉花

    2016/05/31-19:02 



    お、みずたまり思っくそ気付いてねぇんでやんの、誤字。
    イェーイ、クィンテロぼんばいぇー!

  • [15]ハロルド

    2016/05/31-05:53 

    すごい誤字だな
    異議だった

  • [14]水田 茉莉花

    2016/05/31-00:42 

    クィンテロさん、色々とありがとうございます。

    そうよね、あんまり戦闘が得意じゃないと思っているあたしには、うってつけの話題かな?
    ほづみさんは、お茶を入れたりする方にまわるみたい、よろしくね。

  • [13]ハロルド

    2016/05/30-22:21 

    特に猪木が無ければこのままでプランを組ませてもらうな
    話題についてはこちらで書いておく

  • [12]瀬谷 瑞希

    2016/05/29-21:39 

    ふむふむ。
    【新米ウィンクルムの不安をどうやって和らげていくか】
    ですね。
    なかなか興味深いテーマなので、この議題案に賛成します。
    まだまだ至らぬところの多い私にとっても意義のあるテーマです。

  • [11]リチェルカーレ

    2016/05/29-21:06 

    ディエゴさん、オルクスさん、ありがとうございます。
    「新米ウィンクルムの不安をどうやって和らげていくか」いいですね。
    不安な状況ですけど、そのテーマならわたしたちも力をもらえそうです。

  • [10]ハロルド

    2016/05/29-20:18 

    1つの提案として出しただけだから
    方向を固めるのは全員の意見が出てからでも良いと思う
    それぞれ話題を出して一つ一つ答えてゆくという方法もあるし

  • [9]クロス

    2016/05/29-20:00 

    オルクス:
    成程、な…
    なら議題はそれにしよう
    【新米ウィンクルムの不安をどうやって和らげていくか】
    これならプランも考えやすいな
    ディエゴ、提案サンキューな

  • [8]ハロルド

    2016/05/29-18:08 

    まあ、全員で話し合うなら共通のテーマがある方がプランは纏めやすいだろうな

    提案を出させてもらうなら、実戦経験のあるウィンクルムが揃っているし
    新米ウィンクルムの不安をどうやって和らげていくか、というテーマはどうだろう
    新人を通して、自分がどういう言葉や行動を受けたら嬉しいか、勇気が出せるのかを考えられるんじゃあないかと思う

  • [7]クロス

    2016/05/29-14:07 

    オルクス:

    >ディエゴ
    あぁそれで良いと思うぞ
    オレは賛成だ
    その方向でプランを書かせてもらうな

    所で話す内容とかも決めといた方が良いのか、コレは?

  • [6]ハロルド

    2016/05/29-13:12 

    成る程
    では、特に相手に指定が無ければ全員で卓を囲んでいるということでプランを書くか?

  • [5]瀬谷 瑞希

    2016/05/29-10:58 

    こんにちは、瀬谷瑞希です。
    パートナーはファータのフェルンさんです。
    私達も交流OKです。
    色々な事をお話しできればと思います。
    皆さま、よろしくお願いいたします。

  • [4]水田 茉莉花

    2016/05/29-08:11 


    おーう、みんなよろしくなー。

    おれもみんなでワイワイ話してぇなって思うんでよろしくー。

  • [3]リチェルカーレ

    2016/05/29-00:12 

    リチェルカーレです。パートナーはシリウス。
    よろしくお願いします。
    わたしたちも交流OKです。皆さんとお話ししたいと思っています。

  • [2]クロス

    2016/05/29-00:08 

    オルクス:
    宜しくな

    オレ達も交流OKだ

    是非皆の意見等を聞きたい…

  • [1]ハロルド

    2016/05/29-00:04 

    よろしく頼む
    交流はこちらはOKだ


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