【浄化】過去からの刺客(木口アキノ マスター) 【難易度:簡単】

プロローグ

 瘴気を払うため、旧市街西部でデートしウィンクルムの愛を蓄積せよ。
 そんなことを急に言われても、どうしたらいいのか戸惑ってしまう。
 あなたたちはとりあえず、旧市街西部にある公園の遊歩道を散策することにした。
 様々な種類のツツジが植えられている遊歩道を世間話などしながら歩いていると、突然、後方から足音と共にただならぬ気配を感じる。
 あなたは咄嗟に振り返り、パートナーもあなたの体を引き寄せた。
 おかげで、突然の凶刃はあなたの身体を掠めることもなく空を切った。
「君は……!」
 突然の襲撃者、その姿を目にしたあなたは息を飲む。
 なぜなら、目の前であなたを睨みつけ、ナイフを煌めかせているのは……過去の自分。
「お前なんて、消えてしまえ」
 過去の自分は憎しみの籠った声でそう告げた。
 ああ、そうだ。
 あなたは思い出した。
 自分など、消えてしまえと呪っていた過去の自分を。
 どういった作用なのかわからないが、過去の自分が、自分自身を厭う自分が、今の自分を消しに来たのだ。
 あなたは、口を開く。
 今の自分は、まだ消えるわけにはいかないと。
 あなたは、精霊に過去の自分がなぜ自分を消したがっているのかを話した。
 そして、2人で過去の自分を諭すのだった。

解説

過去の自分が刺客としてやってきます。
現れる「過去の自分」は、神人でも、精霊でも構いません。
今の自分への殺意が消えるよう、うまく諭してください。
殺意が消えれば、過去の自分もいなくなります。
・現れた過去の自分は何歳くらいか。
・なぜ、過去の自分は自分を消してしまいたいほどに嫌っていたのか。
・あなたは、そしてパートナーは過去の自分に何と言って諭すのか。
をプランに明記してください。
・過去の自分の思いを知ったパートナーがどのような反応をするのか
なども記載していただくと、より2人の絆が深まるかもしれません。
遊歩道までの交通費及び散策中の水分補給に缶ジュースを購入しましたので、【300ジェール】消費します。

ゲームマスターより

自分なんて大キライ!
思春期にはそんな想いにかられることが、誰もが一度はあるのではないでしょうか。
そんな過去の自分に、優しい言葉をかけて自分を肯定してあげてください。

リザルトノベル

◆アクション・プラン

セラフィム・ロイス(火山 タイガ)

  『病死か自殺かどちらにしろ長くないと思ったのに
いつまで苦しむんだ
生きる価値ないんだろう!?』
違う!思った頃もあったけど…(悲鳴みたいだ…手に取るようにわかって辛い)

『病弱で出席できず居ても「居ないもの扱い」され、家では腫れ物のように扱われ閉じ篭る生活、発表会でのあの視線忘れたの?』
忘れてない
けどね、
挨拶した?
目を見た?
言葉にしてみた?

世界は、思ってるより優しいんだ
(醜いと不甲斐ないと許せなかった、受け入れてもらえないと壁を作った無口になった僕)
でも向き合ったから『僕』がいるんだ
『僕は…』
できるよ
一歩でもいい
ハッピーエンドにできるから



…いいよ。でも最後は君次第だ


寂しかった僕を助けられたかな…


セイリュー・グラシア(ラキア・ジェイドバイン)
  ・5~7歳ぐらいのオレが刺客。
・5歳年上の兄がとても出来が良い。オレは兄のように色々と出来ないし、両親の期待も兄に集まっている。オレってオマケのよーなもの?出来ない奴は居なくていいじゃんと。自分自身のふがいなさにイライラ。

そう言えば、小さい時はそんな風に思っていた事もあったっけ。
兄が何でもできて、オレは兄程には色々と出来なくて羨ましくて。
自己嫌悪ってやつ?当時はよく判んなかったけど。
兄が5年年上ってこと考えてなかったし。同じ様に何でも出来る筈なのになんで出来ないんだーって。
「今出来ないのなら、練習だ。そして、得意なことを伸ばせ。誰にも負けない何かがひとつあればそれでいいじゃん」と言って諭す。


蒼崎 海十(フィン・ブラーシュ)
  あれは…フィン?
どうしてフィン自身がフィンを殺そうとしてるんだ?
向けられる眼差しは見た事のない昏さで…紛れもない殺意

止めてくれ!
両手を広げてフィンの前に立ち、もう一人へ語り掛ける
どうして自分が消えたらいいなんて思うんだ?

俺にはフィンが必要だ!
例えフィン自身が自分なんて要らないと言っても…
俺は絶対にフィンの手を離さない
そうだ、これは俺の我儘だ
フィン…頼む
フィンの我儘を聞かせてくれ
フィンは本当はどうしたい?
消えてしまいたい
それが本心なのか?
そうじゃないだろ?
…もっと我儘言っていいよ
俺が全部、受け止める
一緒に苦しんで、一緒に幸せを見つけよう
フィンとなら、それが出来るから
だから…自分を赦してやってくれ


俊・ブルックス(ネカット・グラキエス)
  咄嗟にジュースの空き缶を投げてナイフの軌道をそらす
ガキの頃から殺意高かったんだなお前
ってそんなこと言ってる場合じゃない

説得失敗したネカを背後に庇いつつ小さいネカに視線を合わせる
母親が死んだのは自分のせいだって思ってるのか
だから母を殺した自分なんて消えてしまえって
…確かにこの年で亡くしたら寂しいよな
まだまだ甘えたい年頃だったろうに
抵抗が無さそうなら小さいネカの頭を撫でる
お前のせいじゃないよ

後ろから呟きが聞こえて振り向く
ネカ、今も寂しいのか?
そっか、そりゃよかった
小さいネカに向き直り笑いかける
お前も生きろよ、そんで、未来で俺と出会ってくれ
約束な

家族の話してくれたの初めてだな
もっと聞きたい、と思う


咲祈(サフィニア)
  「」は過去の自分
僕…?
…消えろ? なぜ? 意味が分からない
考えなくても分かるだろう、と言い切る冷たい眼差しに怯むことなく自分を見つめる
「俺が居たから村はオーガに滅ぼされた。…生まれつき神人だったから」
ゆっくりと言葉を発する過去の自分を見つめる

「なのになんで平気な顔してるわけ…? ツバキ」(本名
今の僕はツバキを名乗れない。サフィニアの言う通り記憶を失くして今は咲祈、なのさ
「記憶が…!? てかその喋り方なんなの。うざい」
…まさか昔の僕は口が悪い…?

…まだ死ねない
君がどれほど辛い思いをしたのか僕にはまだ分からない
だけど今は僕が居なくなることで悲しんでくれる人がいる
…それで十分なんじゃないのかい?



 刺客の姿を見た咲祈は不思議そうな目をした。
「僕……?」
「えっ?」
 咲祈の唇から零れた言葉に、サフィニアは目を見開いて咲祈と刺客を交互に見る。
(雰囲気は今の咲祈と大分違うけど……)
 今の咲祈とは違い、彼の目はぎらぎらと攻撃的に輝いている。
 だが、目の色も髪の色も変わらない。
(確かに、咲祈だ……だけど、なんで)
 顔立ちは、少し向こうが幼く見える。
(歳は……15か16とかそれくらい?)
 混乱するサフィニアをよそに、少年の咲祈は吠えるように叫ぶ。真っ直ぐに咲祈を見据えて。
「お前なんて、消えろ!」
 常人であれば、その剣幕に圧されるであろう。だが、咲祈は飄々と言葉を返す。
「……消えろ? なぜ? 意味が分からない」
 本当にわからないのだから仕方ない。
 少年の咲祈は、はっと肩を竦め小馬鹿にしたように笑う。
「考えなくてもわかるだろう」
 冷たく、射るような視線を咲祈に浴びせる。
 咲祈はその瞳を静かに見つめ返した。
 過去の咲祈は、全く堪えていない様子の咲祈に、忌々しげに顔を歪めると、ゆっくりと言葉を絞り出す。
「俺が居たから村はオーガに滅ぼされた。……生まれつき神人だったから」
 その言葉は、咲祈よりもサフィニアに衝撃を与えた。
(生まれつきの神人……。顕現したのはオーガに襲われた時じゃなかったんだ……)
「なのになんで平気な顔してるわけ……? ツバキ」
 苦しげに掠れる声は、咲祈を「ツバキ」と呼ぶ。
「平気なわけない!」
 思わず、サフィニアは2人の咲祈の間に入る。
 過去の咲祈にぎらりと睨みつけられるが、サフィニアもきっと睨み返す。
 平気だなんて言われて、引けるわけがない。
 サフィニアは、道で倒れていた咲祈の姿を思い出す。
 保護した咲祈は、目を覚ました時には既に記憶がなかった。
 それは、それだけ辛い目に遭っていたということ。
 目が覚めたその時こそ、ぼんやりしていたけど……。
「……平気なわけがないんだ」
 あの時からずっと、傍にいるサフィニアだからわかる。咲祈が、たくさんたくさん、苦しんでいただろうことが。
「ツバキは知らないけど、咲祈を知ってる俺だから、言えるんだよ」
 サフィニアは言い含めるように、そう告げた。
 少年の咲祈は、訝しむような表情をする。が、手にしたナイフを再び振り上げる気配はなかった。
「今の僕はツバキを名乗れない」
 サフィニアの横に立ち、咲祈が静かに言う。
「サフィニアの言う通り記憶を失くして今は咲祈、なのさ」
「記憶が…!?」
 少年の咲祈は驚愕するも、すぐにまた敵意に満ちた顔に戻る。
「てかその喋り方なんなの。うざい」
 吐き棄てるようにそう言う。
「う……うざい?」
 自分に言われたわけでもないのに、サフィニアは若干ショックを受けたような顔をする。まるで、初めて息子から「クソババア」と言われた母親のように。
(咲祈からうざいとか、日常的に聞いたことないから……なんか、ね。うん)
 その横で、咲祈は、(……まさか昔の僕は口が悪い……?)と、冷静に過去の自分を分析している。
「あ?なんか言いたいことあるのか」
 不満気な少年の咲祈に、サフィニアは「うざい」の衝撃から我にかえる。
「説教するつもりはないよ。ただ、あまり思い詰めないことが大事だ」
 サフィニアは表情を和らげた。
「俺は君に生きていてほしい」
 過去の咲祈がどれほど自分を責めているのか、理解はできる。けど、怒りの矛先を間違えてはいけないのだ。
「これはきっと、君のお兄さんのティミラも願っていることだよ」
 サフィニアは、咲祈のもう1人の精霊の名も出した。
 生きていてほしい。そう願う人は、君が思っているよりたくさんいるんだ。
 サフィニアが微笑む後ろで、咲祈がぼそりと呟く。
「……まだ死ねない」
 その声に、少年の咲祈は顔を上げる。
「君がどれほど辛い思いをしたのか僕にはまだ分からない。
だけど今は僕が居なくなることで悲しんでくれる人がいる」
 咲祈は、真っ直ぐに過去の自分を見つめる。
「……それで十分なんじゃないのかい?」
 少なくとも今の自分は、それだけで生きていくには十分な理由。
 自分は1人じゃない。不思議なことに、ただそれだけで、生きる気力というものが生まれる。
「あーあ」
 過去の咲祈は、大仰にため息をついてナイフを投げ捨てる。
「やる気なくした。記憶はないし、なんかお節介そうな奴がくっついてるし」
 と、彼はサフィニアを指さす。
「……なっ……」
 お節介そうな奴、と言われ言葉に詰まるサフィニア。過去の咲祈は悪戯っぽく笑い、その姿が薄れていった。


「危ない!」
 咄嗟にフィン・ブラーシュは蒼崎 海十の身体を抱え、道の脇に転がる。
 海十は、さっと立ち上がるフィン、そしてフィンと対峙する人物を見た。
(あれは……フィン?)
 フィンに向かって剣を構えている者も、間違いなくフィンで。
(どうしてフィン自身がフィンを殺そうとしてるんだ?)
 よく見れば、剣を繰り出しているフィンは今のフィンより若く、瞳に激しい殺意を秘めていた。
 フィンのあんな瞳を海十はこれまでに見たことがない。
 振りかざされる刃を避けるだけのフィン。
 まるで、剣を持つ自分を受け入れているようで。ともすればその刃を自分の身に受けてしまいそうで。
 海十は居ても立っても居られないいられなくなる。
「止めてくれ!」
 気付けば、両手を広げてフィンの前に立って、もう1人のフィンと向かい合っていた。
「どうして自分が消えたらいいなんて思うんだ?」
 海十は、フィンが消えてしまうことを思うと胸が苦しくなった。
「どうして、だって?」
 もう1人のフィンは絶望したように頭を振る。
「何も守れなかった」
 彼は自分の両手を見つめた。何も出来なかった己の手を。
「俺さえ居なければ…兄とギクシャクする事もなく、父も母も兄も、心穏やかに居られた。
なのに、どうして俺だけが生き残った…?」
 海十の後ろで、フィンはぎゅっと胸を押さえた。
 その言葉は、今もフィンの中に燻っている気持ちでもあったから。
「生きる価値などない。あの時、一緒に死ぬべきだった」
 過去の自分の言葉が、フィンの心を切り裂く。その通りだと同意しそうになる。
「だから、消えるべきなんだ!」
「俺にはフィンが必要だ!」
 過去のフィンの声を打ち消すような海十の叫びが響いた。
「例えフィン自身が自分なんて要らないと言っても……」
 海十は過去のフィンにゆっくり歩みよる。彼の持つ剣など見えていないかのように躊躇せず。
 実際、剣など眼中になく、苦しみを抱えたフィンだけが見えていたのだろう。
 背後からフィンが止める声が聞こえるが、ついに海十は剣を持つ過去のフィンの手を掴む。
「俺は絶対にフィンの手を離さない」
 海十は過去のフィンの瞳をしっかと見据える。
「俺が必要?……君の我儘だ。俺には関係ない」
 冷たく言い放たれるが、海十は怯まない。
「そうだ、これは俺の我儘だ」
 過去のフィンは目を見開く。
「フィン……頼む。フィンの我儘を聞かせてくれ」
「俺の……我儘?」
 海十は頷く。
「フィンは本当はどうしたい?消えてしまいたい。それが本心なのか?そうじゃないだろ?」
 言葉を続けるうちに、海十の顔は泣きそうに歪む。
「……もっと我儘言っていいよ。俺が全部、受け止める」
 海十の言葉は、過去のフィンだけではなく現在のフィンの心にまでも、響いた。
 フィンは小さな声で、「海十、ありがとう」と呟く。
 そして、自らも過去の自分へと歩み寄った。
「俺は生きていたい」
 フィンは、過去の自分に語りかける。
 過去のフィンがはっとして顔を上げた。
「家族と生きた記憶を胸に抱いて。
大好きな海十と一緒に生きたい。
幸せに、なりたい。
それが俺の本当の気持ち」
 過去のフィンの瞳が揺らぎ、剣を持つ手は力なく下ろされる。
 海十は過去のフィンをそっと抱き寄せた。
「一緒に苦しんで、一緒に幸せを見つけよう。
フィンとなら、それが出来るから。
だから……自分を赦してやってくれ」
 フィンも腕を広げ、過去の自分を海十ごと抱き締める。
「暖かい……」
 過去のフィンが、ふっと笑う。
「人の身体が暖かいことすら、忘れていたなんて」
 そして彼は、その暖かさに溶けるように、消えていった。


 突然現れた刺客、その姿にラキア・ジェイドバインは驚いた。
 相手はまだ6歳くらいの年端もゆかぬ子供だったからだ。
 だが、ラキアよりも驚いているのは、セイリュー・グラシアだ。
「……オレ!?」
 その言葉で、ラキアは気付く。目の前の子供が、セイリューそっくりなことに。
「そーだよ、お前だよ!」
 小さなセイリューは大きな声を張り上げる。
「お前なんか、消えちゃえばいいんだっ」
 ナイフが振り上げられるが、その攻撃をセイリューは難なく躱す。
 攻撃がうまくいかなかったことに癇癪を起こすように、小さなセイリューはナイフを地に叩きつけた。
「やっぱりオレは、上手くできない……!」
 小さなセイリューはぎゅっと拳を握りしめ、地面を蹴りつける。
「兄は、なんでも上手くできるのに!オレはなんにもできないっ!」
 その声は、だんだんと涙声になっていく。
「期待されるのも兄ばっかり。オレってオマケのよーなもの?」
 セイリューは子供の頃の自分を思い出した。
「そう言えば、小さい時はそんな風に思っていた事もあったっけ」
 決まり悪そうな表情で、ラキアに告げる。
「兄が何でもできて、オレは兄程には色々と出来なくて羨ましくて」
 ラキアは意外そうな顔をしてセイリューを見つめた。
「セイリューでもネガティブな考え方をすることもあるんだね」
「自己嫌悪ってやつ?当時はよく判んなかったけど」
「何年も年上だったよね、お兄さん」
「そうなんだけど、当時は兄が5年年上ってこと考えてなかったし。同じ様に何でも出来る筈なのになんで出来ないんだーって」
 そうこうしているうちに、ひとしきり怒りをぶちまけたちびセイリューはナイフを拾い上げ、再び襲いかかってくる。だがその攻撃は稚拙で。  
 セイリューは刃を躱すと同時にそれを軽く叩き落とした。
 悔しそうにこちらを見上げるちびセイリューの肩を、セイリューはがしっと掴む。
「今出来ないのなら、練習だ。そして、得意なことを伸ばせ。誰にも負けない何かがひとつあればそれでいいじゃん」
 ちびセイリューは、いつだって前向きな今のセイリューとは違うけれど。
(でも、負けず嫌いから端を発しているのはセイリューらしいよね)
 負けず嫌いのちびセイリュー。なんだか可愛い。
 ラキアは思わず頬を緩めてしまう。
 そして、ちびセイリューの傍に屈み、優しく声をかけた。
「出来ない、って決めつけるのはまだ早いんじゃないかな?」
 ちびセイリューがラキアを見ると、ラキアは笑顔を返した。
「お兄さんは君より5年長く色々な事を勉強したり練習したりしてるんでしょ。その分体も大きいよね。今の君と、今のお兄さんを比べるのは、フェアじゃないと思うな。今の君に分が悪過ぎるでしょ」
 正論で諭され、ちびセイリューは唇を噛む。
「5年後もお兄さんに負けているって思うのか、何かひとつでもこれは負けないって思うものを持ってるのか、セイリュー次第じゃないかな?」
 ちびセイリューはセイリューを見上げた。
「今のお前は、どうなんだよ。まだ……負けてるのか?」
 セイリューは笑って答える。
「それは、自分で確かめてみな」
 その笑顔に答えが出ているも同然だった。
 ちびセイリューは納得したように頷くと、すうっと消えていった。


 武器も防具も持たないところへ突然襲いかかられ、俊・ブルックスは咄嗟に手にしていたジュースの缶を盾代わりにし、ナイフの軌道を逸らした。
 ナイフを持つのは、利発そうな黒髪の少年。怒りに満たされた深緑色の瞳でネカット・グラキエスを睨みつける。
「お前のせいで母様が……!」
 その一言で、ネカットの記憶が鮮やかに蘇る。
「母様……?」
「ネカ?」
 心配そうに自分を見やる俊に、ネカットは答える。
「母様はもともと体が弱くて、私が7つの時に病気で亡くなりました」
「もしかして」
 俊は少年を見つめる。ネカットは頷いた。
「ええ、あれは、7歳の私です」
「ガキの頃から殺意高かったんだなお前……ってそんなこと言ってる場合じゃない!」
 繰り出された次の刃を、俊とネカットは左右に分かれて躱す。
 2人が訓練や実践を重ねたウィンクルムだから躱せたものの、普通の一般人なら間違いなく刺されている。
 ネカットは、むむ、と唇を引き結ぶ。
 過去の自分ながら、こんな愚かしい行動をするなんて!
 ネカットはナイフを持つ相手に毅然と言い放つ。
「幼い私に戦術の基礎を叩きこんだのは母様です。
これであなたの大切な人を守りなさいと毎日のように言われました」
 俊は頭を抱えた。
「そんな上から目線で説教したって火に油だろ」
「その力で自分を殺すなんてだめで……」
 少年ネカットは、またも躊躇なくナイフを繰り出してきた。
「言わんこっちゃない!」
 俊はジュースの缶を投げつけ、それは上手くナイフを叩き落とした。
 その隙に俊はネカットに駆け寄り、彼を自分の背後に庇う。少年ネカットの狙いは現在のネカット。それ以外の人間に危害は加えない……多分。
「ああもう我ながら殺意高いですね」
 苛立たしげに頭を掻くネカット。
「本当にな」
 俊はこちらを睨み続けている過去のネカットを見つめた。
 年齢よりも大人びて見えるが、やはりまだ子供で。
 こんな小さな子が、母親が死んだのは自分のせいだと思い、母を殺した自分なんて消えてしまえと自らを責め続ける。
 それはどんなに辛いことだろう。
 けれども、そうしなければいけないほどに、彼は……寂しかったのだ。
「……確かにこの年で亡くしたら寂しいよな」
「さみ……しい?」
 7歳のネカットの瞳が揺れる。
 同時に、俊の後ろでネカットも瞠目していた。
 俊は頷き、小さなネカットに歩み寄る。
「まだまだ甘えたかったよな」
 過去のネカットは、今初めて気付いた自分の気持ちを整理することでいっぱいなのだろう、俊が近づいても警戒する様子はなかった。
 俊は優しく、小さなネカットの頭を撫でる。
「お前のせいじゃないよ」
 小さなネカットは俊を見上げた。そこに先程までの殺意は消え失せていた。
「寂しい……」
 背後から声が聞こえ、俊は振り返る。
 ネカットが、宙を見つめている。
「そうだ、私はあの時母様がいなくなって寂しかったんです」
 小さなネカットが、現在のネカットに走り寄り、彼の顔を見上げる。
 2人のネカットの視線が合う。
「父様や兄様、姉様もいてくれましたけど。それでも母様に会いたかった」
 過去に思いを巡らせネカットが呟く。
「ネカ、今も寂しいのか?」
 俊が問うとネカットは顔を上げ、晴れ晴れと笑った。
「でも今は、シュンがいるから寂しくないです」
「そっか、そりゃよかった」
 笑顔を返した俊は、その笑顔をそのまま過去のネカットにも向ける。
「お前も生きろよ、そんで、未来で俺と出会ってくれ」
 俊は小さなネカットの手を取り、その小指に自分の小指を絡ませた。
「約束な」
 過去のネカットは、年相応の少年らしい笑顔を見せて、俊の小指に暖かさを残したまま消えていった。
 俊とネカットは顔を見合わせ微笑み合う。
「家族の話してくれたの初めてだな」
「そういえばそうでしたっけ?」
「もっと聞きたい、と思う」
「いいですよ、たくさんあるんです。まずは何からお話しましょうか……」
 2人は自然と手を繋ぎ、再び歩き始める。


 目の前に現れた少年は、異様な姿だった。
 寝間着姿で身体には無数の傷。その傷は利き手の近くや自分が手の届かない背中などにはないことから、それらは自分で付けたものなのだろうと推測される。
 彼が何者か、セラフィム・ロイスにはすぐにわかった。
 彼は、10歳の頃の自分だ。
「まだ生きてたんだね」
 過去のセラフィムは嘲るように言う。
「な……っ」
 火山 タイガが前へ出ようとするのを、セラフィムは手で制した。
「これは、きっと、僕が向き合わなきゃいけないことだから」
 セラフィムの手は震えている。
(そんなこと言ったって、こいつもセラも酷でぇ顔じゃないか)
 放ってなんておけない。
 けど、彼がそう言うのなら、タイガは口を噤み足を止めるしかない。
 過去のセラフィムの方も、タイガのことなど視界に入っていない様子だ。
「病気か自ら命を絶つかどちらにしろ長くないと思ったのに。
いつまで苦しむんだ。生きる価値ないんだろう!?」
 責める声は悲鳴のようでもあった。
「違う!思った頃もあったけど……」
 セラフィムは目を伏せ唇を噛む。
 過去の自分の気持ちは手に取るようによくわかる。
「違う?」
 過去のセラフィムは薄く笑い、セラフィムとの距離を縮めてくる。
「病弱で出席できず居ても『居ないもの扱い』されたのに?家では腫れ物のように扱われ閉じ篭る生活を強いられて?発表会でのあの視線忘れたの?」
 言葉を発するたびに、彼の血液が、傷からではなく心から流れているように感じられた。
「忘れたの?」
 至近距離で、ぐいと睨みつけられる。
 青白くくすんだ肌の中、瞳だけが悲しみを伴う怒りで爛々と光る。
「忘れてない」
 やっとの思いで、声を絞り出す。
「けどね、挨拶した?」
 セラフィムは負けじと過去の自分の目を見つめ返す。
「目を見た?言葉にしてみた?」
 恨むばかりで、自分から変えようと、変わろうとしていなかった、あの頃の自分。
「……」
 口を噤んでしまった過去の自分に、セラフィムは語りかける。
「世界は、思ってるより優しいんだ」
 自分は醜くて不甲斐ない人間だから、受け入れてなんてもらえない。
 だからこれ以上傷つく前にと、自分から周りに壁を作った。喋らなくなった。でも。
「向き合ったから『僕』がいるんだ」
「僕は……」
「できるよ」
 セラフィムが言うが、過去のセラフィムは拒否するように首を振る。
「一歩でもいい。ハッピーエンドにできるから」
「そんな言葉で言ったぐらい……信じられない……っ」
 過去のセラフィムはナイフを振り上げる。
「大丈夫だ!お前もできる!」
 見ていられなくなり、タイガは飛び出す。
 過去のセラフィムのナイフを持つ手を両手で掴む。
「?!」
 過去のセラフィムは突然視界に入ってきたタイガに目を見開く。
「邪魔しないで!僕しか傷つけたくないんだ……離して!」
 タイガから視線を逸らすセラフィムには、脅えの色が見て取れた。
 他人を傷つけることへの、恐怖が。
 このまま武器を取ることは簡単に出来る。
 けどそれだけじゃ、過去のセラフィムの自傷のような自己犠牲は止められない。
 支えてやりたい。励ましてやりたい。
「できる!やれる!」
「説得力がない!意味がわからない!」
「ここにいるセラは後悔してるように見えるか!?」
「……あ……」
 過去のセラフィムも、感じていたのだろう。今のセラフィムが、過去を乗り越えていることに。
 自分もいつか、そのようになれるのだろうか?
 過去のセラフィムの瞳から涙が落ちる。
「俺もいる!顔あげろ!」
 力強い言葉。こんな自分でも、味方をしてくれる人が、いる。
「僕は……生きても……?」
「もちろんだ!」
 やっと視線を合わせてくれた過去のセラフィムにタイガは胸が詰まるが、笑顔を作り頷いた。
 セラフィムも、過去の自分に優しく微笑む。
「……いいよ。でも最後は君次第だ」
「生きても、いいんだ……」
 そう自分に言い聞かせるように呟いて、過去のセラフィムは消えていった。
「寂しかった僕を助けられたかな……」
 過去の自分が消えたあとを見つめ、セラフィムがそう口にする。
「大丈夫。俺は信じる」
 タイガはそう言い切るとセラフィムに向き直り、互いの額をこつんと合わせた。
「セラ……生きて、俺と出会ってくれて、ありがとう」



依頼結果:大成功
MVP
名前:セラフィム・ロイス
呼び名:セラ
  名前:火山 タイガ
呼び名:タイガ

 

メモリアルピンナップ


エピソード情報

マスター 木口アキノ
エピソードの種類 ハピネスエピソード
男性用or女性用 男性のみ
エピソードジャンル イベント
エピソードタイプ ショート
エピソードモード ノーマル
シンパシー 使用可
難易度 簡単
参加費 1,000ハートコイン
参加人数 5 / 2 ~ 5
報酬 なし
リリース日 05月22日
出発日 05月28日 00:00
予定納品日 06月07日

参加者

会議室

  • [7]咲祈

    2016/05/27-23:59 

    咲祈とサフィニアだ。
    …覚悟を決めよう。よろしくね。

  • セイリュー・グラシアと精霊ラキアだ。
    プラン提出、できたー。

    うん、まあ、子供の頃は色々とあるよな。

  • [5]蒼崎 海十

    2016/05/27-23:33 

  • [4]蒼崎 海十

    2016/05/27-23:33 

  • [3]蒼崎 海十

    2016/05/27-23:33 

    蒼崎海十です。
    パートナーはフィン。
    皆様、宜しくお願い致します!

    突然、フィンがもう一人…?
    波乱の予感です…!

  • [2]俊・ブルックス

    2016/05/26-21:27 

    ネカット:
    どうも、ネカさんとシュンですよー。
    非常事態下でのデート…うう、戦いたいですー。
    ともかく、よろしくお願いしますね。

  • [1]セラフィム・ロイス

    2016/05/26-00:16 


PAGE TOP