【浄化】堅牢なる氷城(錘里 マスター) 【難易度:簡単】

プロローグ

 ――タブロス旧市街?
 彼女はその場所について、そしてその場所の現状についてを聞いて、片眉を釣り上げた。
 怪訝な顔をしている彼女の周りを、小さな子どもが三人、不思議そうな顔をしながら寄り添うようにして取り囲んでいる。
 ウィンクルムが演習を行っていた。
 しかし今、そこにギルティクラスのオーガが攻め込んできた。
 対応しうる手段として、『シンパシー・リバレイト』なる兵器の発動のために、愛の力を高める必要があるらしい。
 同時に、攻め込んできたオーガの相手もしなければならないそう。
「人間も危険を承知でわざわざデートできる場所を用意しに行くって言ってるんだし……こおりあめちゃんもお世話になってる『七色食堂』の名前担いで行ってきたらどう?」
「なんであんたに指図されないといけないのよ。余計なお世話だわ!」
 ツン。突っぱねる顔をしてそっぽを向いても、彼女はきっと行くのだろう。
 三人の雪童を伴って、その場所へ。
「オーガなんかに遅れを取らないでよねぇ?」
「だから、そんなのあんたにわざわざ言われなくても当然だわ。当然のことよ!」
 馬鹿にしないで頂戴。憤慨とともに翻した袖は真白で、冷たい結晶を飛び散らせる。
 雪女、ヒサメの扱いにはそろそろ慣れてきた遊火は、いってらっしゃぁい、とのんびり見送った。



「ヒサメねえさまのー!」
「すぺしゃるくっきんぐー!」
「めにゅーはひとーつ!」
 あったかいちごすふれー!
 タブロス旧市街、西部。突如築かれた氷の城をウィンクルムたちは目の当たりにする。
 それはいつかの決戦の場、ラインヴァイス城を少しだけ彷彿させたが、似ているかというとさほどでもない、小規模なものだった。
 しかし突然のそれには驚くもの。呆気にとられていると、そんな貴方を、ぴょこぴょこと小さな陰が三つ、出迎えたのだ。
 きちんと整列した三人の子供は、昔話に出てきそうなころころとした格好の雪童。
 ふわりとした羽織を差し出しながら口々に言う彼らの言葉は要領を得ないが、どうやらここは、飲食店らしい。
 雪女が夏の避暑地として選んでいるタブロス市内の有名店舗、【七色食堂・Reverse Blue】。その、恒例の出張店舗というわけだ。
 メニューは一つ、雪女特性『あったか苺スフレ』。
 吐く息が白い当たりこの氷の城はちゃんと寒いらしいが、差し出された羽織に防寒術が施してあるようだ。少し涼しいくらいである。
「こうちゃもあるよ!」
「ふれーばーてぃがあるよ!」
「すわってすわって!」
 きゃっきゃとはしゃいで席へ案内する雪童たちに促されるままに席につき、微笑ましく眺めている。
 きらきらとした氷の城には、穏やかな音楽が流れ、時折氷でできた蝶が陽の光を返しながらひらりと目の前を横切って行く。
 どこか幻想的でもある光景を見つめていると、メニューが運ばれてきた。
 耐熱の器に入れられたあったかふわふわスフレにフォークを差し入れれば、下からとろりとしたジャムを絡めた苺が顔を出す。
 紅茶との相性もバッチリで、危険な場所であることを忘れてしまいそうだ。
 と、そこでどうやら給仕も雪童が行ってくれているらしいことに気が付く。
 雪女であるヒサメは、どこにいるのだろう?
「ねえさまはー」
「おしごとだからー」
「いません!」
 きゃらきゃらとはしゃぎながら。
 雪童たちは口々に、口々に、告げるのだ。
 おしごとのじゃまをしてはいけないからおもうぞんぶんたのしんでほしい。と。

解説

●出来ること

氷のお城であったか苺スフレを堪能しましょう。
耐寒術が掛けてある薄手の羽織がありますので、普段着でも寒くはありません。
羽織の形状はご想像にお任せします。

苺スフレと一緒に紅茶もいかがでしょう。
何も言わなければアールグレイ。
その他ダージリン、苺フレーバーが選べます。

●消費ジェール
飲食代としまして300jr頂戴いたします。

●NPC
雪童×3(給仕役)
余談ですが名前はカズハ、フタバ、ミツバとなっております。
雪女、遊火は登場しません
雪童には絡まなくても勝手にきゃっきゃしています。

ゲームマスターより

錘里エピ「【交戦】静謐なる白銀」と同じ時間軸となっております。
お互いの成功がお互いに影響することは基本的にはありません。
こちらのエピで雪女と接触することは出来ませんので予めご了承下さい。

リザルトノベル

◆アクション・プラン

セラフィム・ロイス(火山 タイガ)

  やあ
……何のアニメみたの?
面白いからいいけど(微笑ましいというか滑稽でも様になってる?役者やってるタイガみたいかも)

じゃあそれ二人分お願いします■スフレとティーを2セット
本当にね。3人だけでやってるって聞いて心配してたけど大丈夫みたい
(だよね…?)いざとなれば手を貸し

美味しい。暖かいスフレは僕も初めてだ
いいな…レシピわからないかな
…前カフェで褒められてからちょっと…本格的にお菓子や料理作りやってみたくて(赤面尻すぼみ)
だ、駄目!タイガにはまだ…
上手くできから食べさせたいだろ(もごもご

飽きずに待っててよ…?
(頑張ろう


タイガは弟はいるんだっけ?
赤面)か、もね…(期待され…?いや何を考えてるんだ)


アオイ(一太)
  いただきます。
一太、美味しいですよ。ほら、あーん…。
ひな鳥なんて思ってませんよ。
あまりに美味しかったから、つい。

僕は洋風なのはちょっと作れないですねえ。
大学芋とかだったら得意ですけど。

何かあったんですか?
…ああ、そういうことですか。
確かに今までご一緒した方々も、今戦っているかもしれないですね。
(でも僕は……一太にはここにいてほしい。
ウィンクルムとして、言ってはいけないかもしれないけれど)

ほら、食べましょう。
僕の『あーん』が食べられないんですか?

はいはい、僕のは食べてくれないんですね。
いいんです、あなたが元気に食べてくれたら、それで。
雪女さんにも、雪童さんにも、感謝しないといけませんね。



 氷の城は、その正面に立つだけでも、じわりと冷たさが伝わってくる。
 吐き出せば息が白くなるような、冬に似た寒さ。
 それを前にしたウィンクルムは、その圧巻さに、誰からともなく溜息をついた。
「すごいね、ヒサメさん、気合入ってるみたい」
「メニューも期待しちゃうな、これは」
 青い髪の青年と、虎耳のテイルスがそんな風に話している。
 彼らはこの城の主にあったことがあるのだろう。
 そうでなくても、ここはタブロス市内の有名店【七色食堂】の名を冠した店。期待値は自然と上がる。
「給仕さんは可愛らしい子たちみたいですよ」
「雪女いないって聞いてるけど……大丈夫なんだよな……?」
 顔のよく似た小さな子供たち。年端もいかない彼らだけでまかなっているという状況を聞いた兎耳のテイルスは、少しだけ眉を寄せる。
 だが、金髪の青年は穏やかに笑うだけ。
 彼らの親に当たる者が、任せていったのだ。きっと大丈夫だろうと。
「お、二人は雪童たち初めてなんだな」
「はい、報告書とかで、噂にだけは聞いていましたが」
「前に食べさせてもらったアイスケーキは美味しかったし、今日はどんな物があるんだろうね」
「アイスケーキかあ……それもいいな」
 ささやかな談笑を交わして、二名様二組の、ご来店。
「いらっしゃいませ!」
「なないろしょくどうの!」
「しゅっちょうてんぽへ!」
 ようこそ、ようこそ!

●君が笑ってくれるなら
 やあ、と軽く微笑んだセラフィム・ロイスの顔を見て、雪童は、ぱっと目を輝かせた。
「あおいろの!」
「あそんでくれる!」
「おにーさん!」
「はは、色で覚えられてたか……」
 いつぞや雪合戦をして遊んだ時のことを覚えているらしいが、印象的なカラーリングが一番に来ていたらしい。
 そんなセラフィムの隣には、パートナーの火山 タイガの姿。
「雪童たち久しぶり! 覚えてか~?」
「きいろの!」
「あそんでくれる!」
「おにーさん!」
 やっぱり色だった。だがそんなことは気にせずに、ふふん、とややふんぞり返るようなポーズで、タイガはきりりとした顔をする。
「今日はお客様だからな! 存分に振舞ってくれたまえ!」
 その貴族か何かのような振る舞いに、雪童たちはきゃぁきゃぁと楽しそうにはしゃいで、セラフィムは瞳を瞬かせた。
「……何のアニメみたの?」
「心底憧れてる主人公の演技やってみた」
 得意気に胸を張ってみせるタイガを、セラフィムはじーっと見つめる。
「ふーん……」
 じーっ、と。
 その瞳がどこか訝るように見えて、タイガは内心で少しだけ不安を覚えた、けれど。
「面白いからいいけど」
 ふ、と。セラフィムが微笑んだ。
 似合うかどうかは置いておこう。楽しげに笑って見せるタイガが、どこか滑稽ながらも様になっているのが、なんだか微笑ましかった。
 役者をやっているタイガを見てみたい。そんな風に考えながら、くす、と小さく笑ったセラフィムに、タイガは内心でガッツポーズを作る。
(笑ってくれた! よっしゃ!)
 セラフィムには、いつだって笑っていてほしい。
 穏やかな気持で笑っていてほしい。
 ささやかな振る舞い一つに笑ってくれるのなら、幾らでも道化になれそうな気がした。
 そんな二人の周りをぴょこぴょこと飛び跳ねながら席へと案内した雪童は、三人並んでおきまりの台詞。
 苺スフレと紅茶が選べるよ、と告げる彼らに、ふむ、と一つ頷いたセラフィムは、メニューを畳んで渡しつつ。
「じゃあそれ二人分お願いします」
 二人分の紅茶セットを注文すれば、雪童たちはメニューを掲げながら真っ直ぐ厨房へと消えていった。
 かと思えば、三人並んで別のテーブルにティーセットを運びに行っていて。
「あいつらぴょこぴょこしてんのにしっかり給仕してんのなー」
「本当にね。3人だけでやってるって聞いて心配してたけど大丈夫みたい」
 ちらちらとそんな彼らを目で追っていたタイガは、感心したように呟く。
 はらはらとした様子で見守っていたセラフィムも、ホッとしたように息を吐いて、しかし時折危なっかしげな様子に、思わず席を立ちそうになっていた。
「いざとなれば手伝おうか……」
「だーいじょうぶだって。ヒサメさんちの子だぞ?」
 その度にタイガが宥めて落ち着かせ。
 そんなやり取りは何も二人だけにとどまらず、どうやら他に訪れている客の中にも同じようにはらはらとしている者が居るようで。
 挙動不審にさえ見えるよそのテーブルのやり取りと、自分たちも同じなのだろうかと思うと、少し、おかしかった。
「頑張ってるんだし、見守ろうか」
「だな!」
 暫し談笑を繰り返したところで、二人の席にもメニューが運ばれてきた。
「きたきた。ヒサメさんのスペシャルいただきまっす!」
 わくわくとスプーンを入れれば、ふわっと吸い込まれて。
 とろりとした苺のジャムを絡めて口に運べば、甘い味とともに、溶けて。
「しゅわって!? 俺初めてスフレ食ったかも」
 初めて味わう食感に、タイガの瞳がきらきらと煌めく。
「美味しい。暖かいスフレは僕も初めてだ」
 セラフィムもまた、暖かいスフレというものを初めて食べるため、感動したように顔をほころばせていた。
「雪とは別のしゅわを狙ってんのかな。偶然か」
 雪女特性、と聞いたのだから、そういう狙いがあったのだろうかと思ったが、意図を知る雪女はこの場にいないし、居たとしてもつんとそっぽを向かれるだけだろう。
 だからタイガは、今は自分の感性を信じて、『暖かな雪』を心ゆくまで味わうことにした。
「いいな……レシピわからないかな」
 一口、二口。食べ進めてから、セラフィムがポツリと零したのは独り言のつもりだったのだけれど。
「なんだ? 手作りすんの?」
 耳をピコピコとさせているタイガの声に、はっとしたように顔を上げてから、そっと気恥ずかしげに視線をそらす。
「……前カフェで褒められてからちょっと……本格的にお菓子や料理作りやってみたくて」
 いつかの時、夜桜の美しいカフェテラスで振る舞ったデザート。
 あれは手伝いの一環だったけれど、全部自分で、というのをセラフィムは始めようとしていた。
 タイガがそれを喜ばしく思うのは、セラフィムが頑張ろうとしているその意欲と、単純に手作り料理にありつけそうな気配ゆえ。
 ……だったのだけど。
「俺、味見要員になってもいいぞ! いつでも呼んでくれ!」
「だ、駄目!」
「何で!?」
 全力の拒否に、思わず机に身を乗り出していた。
 思わず口をついた言葉に誤解をさせたのを即座に察知したセラフィムは、あ、違う、そうじゃなくて、ともごもごと口元で言葉を作る。
「タイガにはまだ……上手くできから食べさせたいだろ」
 耳まで真っ赤になりながら小さく主張するセラフィムに、釣られたようにタイガも赤面した。
 胸が一杯になって、頬が緩む。
「なら、待ってるからな!」
 満面の笑顔でセラフィムと視線を合わせると、セラフィムもまた、安堵したように笑う。
「飽きずに待っててよ……?」
「どれだけでも待つ自信ある!」
 自信満々に言うタイガの言葉に、早く振る舞えるように頑張ろうと、セラフィムは胸に決意を抱いた。
 それからは他愛もない話をしながらあまいおやつを堪能して。
 氷城の中でもまだ暖かな紅茶を飲みながら、そういえば、とセラフィムは小首を傾げた。
「タイガは弟はいるんだっけ?」
「いや末っ子。兄貴の子供はいるけどな」
 上の兄弟の子供は、たまに面倒を見たり一緒に遊んでやったりするが、可愛らしいものである。
 やんちゃの盛りになると、流石に手を焼くこともあったが、それは自分の子供の頃とあまり変わらないのかもしれない。なんてったって、血縁者の子供なのだから。
「あいつら見てると、俺の子もあんな感じなのかな~って」
 にんまり。悪戯げに笑って窺う顔に、セラフィムはようやく収まったばかりの頬が再び熱くなるのを感じる。
「か、もね……」
 何かを期待されているのだろうか。
 いやいや何を考えているんだ。
 一人でうっかり百面相をしそうになりながら、視線を遮るようにカップを軽く煽ったセラフィムは、氷に包まれた中だというのに、胸の奥が熱くてたまらなかった。

●優しさに、包まれて
「ヒサメねーさまの!」
「すぺしゃるめにゅー!」
「いちごのすふれー!」
 さぁ、めしあがれ!
 ぴょんぴょこ跳ねるようにしながらメニューを運んできた雪童達に、一太はありがとうと微笑んだ。
 初めましてのうさぎのおにーさんににっこりされて、きゃっきゃとはしゃぎながら雪童達は引き返していった。
 三人揃えばそれだけで賑やかになる彼らの背を見送りながら、かわいいよなあ、と一太は微笑ましげに呟く。
「でも雪女があったかいデザートって、大丈夫なのか?」
 少しの疑問が湧くが、それは本人に聞いてはいけないことである。
 物凄く不満で不服で不愉快気な顔をしながら「何よ、悪い?」と迫られるだけである。
 そんな雪女の暖かメニューは、まさにそれこそ、溶けるよう。
 いただきます、と丁寧に添えて、アオイは一口、その甘さを味わった。
 そうして、その美味しさについつい目の前の精霊にスプーンを差し出していた。
「一太、美味しいですよ。ほら、あーん……」
「あーんって……なんだよ、俺はひな鳥じゃねえぞ」
 むす、と口をへの字にした一太の前にも同じ苺スフレのティーセット。
 自分の分がちゃんとあるのだからアオイも自分で食べろ、と言葉で押しのければ、アオイは肩を竦めて困ったように笑った。
「ひな鳥なんて思ってませんよ。あまりに美味しかったから、つい」
 美味しい物を共有したい。たったそれだけだったのだけど。
 それよりも子供扱いのようで気に入らなかったのだろうかと、仕方なく、アオイは差し出していたスプーンを自分の口に運んだ。
 あまいはずなのに、すこし、にがいようなきがした。
 ……けど。
「いただきます……うまっ!」
 続くようにスフレを口にした一太の満面の笑顔に、苦味がほろほろと口当たりよく解けて消えた。
「これ、ふわっふわのとろっとろだ……アオイはこういうの……作れないよな」
 口の中で溶けるスフレ生地と、苺の果肉が残ったジャムの絶妙さ。
 ゆっくりと味わってから思いついたような顔で見つめてきた一太に、アオイはまた、肩を竦める。
「僕は洋風なのはちょっと作れないですねえ。大学芋とかだったら得意ですけど」
 そうだよなぁ、と。少し残念そうに耳を垂れて、それでも再びスプーンを口に運べばぴょこんと立って。
 感情を素直に表している一太の様子を、微笑ましげに見つめていると、一太の視線が再び何処かへ……ホールをぴょこぴょこ駆けまわる雪童達へ、向いた。
「なんかあいつら見てると和むよなあ」
 しみじみとした呟きは、一太が紡ぐにはどこか違和感のある言い回し。
 首を傾げ、思案する間を挟んだが、何かあったんですか、とアオイは素直に尋ねた。
 直接的な問いかけに、いや、と言葉を濁した一太だが、かちゃん、と小さな音を立てて皿の上に降ろされたスプーンを追うように、少し真剣な顔で俯いた。
「今、戦ってる奴らがいるんだなあって思うとさ」
 こんなところで、こんな風に、のんびりと寛いでいて良いのだろうかと。そんな風に、思ってしまう。
 それを聞き留めて、ああ、と納得の表情を浮かべるアオイ。
「確かに今までご一緒した方々も、今戦っているかもしれないですね」
 遊びに出かけた場で顔を合わせるような者らも、ウィンクルムとして戦いに身を投じることが多いのを、アオイだって知っている。
 一太が言うように、いまこの瞬間にだって、タブロス旧市街の東部では激戦が繰り広げられているかもしれない。
 でも、と。口には出来ない思いが、アオイの胸中に燻ぶる。
(僕は……一太にはここにいてほしい)
 戦わなくったって、良い。
(ウィンクルムとして、言ってはいけないかもしれないけれど)
 けれど、一太には危険な場所での危険な仕事なんて、させたくはないのがアオイの本音だった。
 こうやって日常を楽しむことだって瘴気を払う一助になる。立派な貢献だ。
 言っていたじゃないか。雪童たちだって。
 おもうぞんぶんたのしんでほしい、と。
 だから……そうだ、だから、今日は漫喫するんだ。
「ほら、食べましょう。俯いてばかりいたら、冷めてしまいますよ」
 自分の器から、一口分を掬って、もう一度、差し出す。
「一太、あーん」
「だから俺はひな鳥じゃねえって……」
「僕の『あーん』が食べられないんですか?」
 さっき拒否したのにまたそれか、と。眉を寄せた一太に、ずい、と更に迫るアオイ。
 なんでそんなぐいぐいくるんだよ、と思わず仰け反った一太は、言葉だけでなくとうとう手で押しのけながら、思わず声を荒げた。
「なんだよお前は! 普段酒飲んでも酔わないくせに、紅茶で絡むのかよ」
「一太が食べないから」
「自分の食うからいいって!」
 ぐいぐい差し向けられるスプーンを、ぐいぐいと零さぬように気をつけながら押しのけて、はぁ、と一太は大きく溜息をついた。
 呆れたような、あからさまに疲れたというような顔をする一太に、少し拗ねたような顔をしつつも、アオイはその内側で小さく微笑っていた。
「はいはい、僕のは食べてくれないんですね。いいんです、あなたが元気に食べてくれたら、それで」
 二度目の拒否に落ち込むでもなく、拗ねた素振りでスフレを平らげるアオイに、一太は瞳をパチリと瞬かせた。
(もしかして心配してんのか?)
 考えたってどうしようもないことを。
 無闇矢鱈に思いつめないように。
(なら元気出さないと)
 それが、気恥ずかしさに負けてばかりでありがとうの言えない一太にできる、精一杯のお礼だった。
 もう一度、わざとらしく溜息を付いて見せてから、気を取り直したように食べたスフレは、少し冷めていたけれど、優しい甘さで。
「あー、美味いなあ」
 染み入るような心地に浸りながら、しみじみと、呟いた。
 蕩けるくちどけのスフレは、あっという間になくなってしまって。おやつの後の紅茶をゆっくりと味わっていると、不意に、一太が声を上げて雪童たちを手招いた。
「なあなあ、これすっげー美味かったから、雪女に言っといてくれよ」
「あ、僕からもお願いします」
 揃って告げられた言葉に、雪童達は顔を見合わせて。
「うまかった?」
「おいしかった?」
「おいしかった!」
 うれしい!
 口々に喜びを訴えて跳びはねる雪童達に、心を解されたように笑う一太を見て、アオイは優しく瞳を細めた。
(雪女さんにも、雪童さんにも、感謝しないといけませんね)
 今日もまた、笑い合える時間を、ありがとう。


「あ」
「おっ」
 入口前で言葉を交わした二人と二人が、帰り際にもまた一緒になった。
「さすが七色食堂でしたね。とても美味しかったです」
「うん、本当に。今度ヒサメさんに会ったら、レシピとか聞きたいな」
 神人二人が笑い合って。
 それを聞いてにこにこと楽しげな虎耳に、兎耳がそっと伺う。
「いいことでも、あったのか?」
「ん? ふふ~、まぁ、デートだからな!」
「ちょっとそこ!」
「野暮なこときいたら駄目ですよ」
 精霊の会話――主に虎耳の主張――を、青い髪の神人が頬を染めながら遮って。
 金髪の神人はそれを微笑ましげに見守った。
「もう……恥ずかしいんだからあんまりそういうこと言わないでよ」
「そこまで言うなら……」
 肩を竦めて了承する精霊と、照れくさそうにしながらも連れ立って、同じ道を帰って。
 それを見送る形になったもう二人も、少し間を開けてから、帰路について。
「デート、ですって」
「散歩だろ、俺らは」
 日常の延長。ちょっぴり贅沢な、散歩。
 彼らの少し特別な日常は、大満足で締めくくられるのであった。



依頼結果:大成功
MVP

メモリアルピンナップ


エピソード情報

マスター 錘里
エピソードの種類 ハピネスエピソード
男性用or女性用 男性のみ
エピソードジャンル ハートフル
エピソードタイプ ショート
エピソードモード ノーマル
シンパシー 使用不可
難易度 簡単
参加費 1,000ハートコイン
参加人数 2 / 2 ~ 5
報酬 なし
リリース日 05月17日
出発日 05月23日 00:00
予定納品日 06月02日

参加者

会議室

  • [2]アオイ

    2016/05/21-06:33 

    ええ、動いてばかりだと疲れてしまいますからね。
    日頃頑張っている方こそ、休憩は大切だと思います。

    アオイと一太です。
    セラフィムさん、タイガさん、こちらこそはじめまして。
    美味しいものを食べて、皆がゆっくり過ごせますように。

  • [1]セラフィム・ロイス

    2016/05/21-00:12 

    戦いの合間の休息・・・そんな時間も大事だよね
    どうも。僕セラフィムと相棒のタイガだよ。よろしく
    アオイと一太たちは遭遇ははじめましてだね。皆がよい時間が過ごせますように


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