【交戦】戦い、その後(瀬田一稀 マスター) 【難易度:簡単】

プロローグ

 タブロス旧市街、東部にて。

 パートナーである精霊が握る剣が、オーガを斬りつける。
 それは敵の皮を裂き、肉を断つのに十分な一撃だった。
 だが、奴はまだ、ぎりぎりで息をしている。
 あと1匹、あれさえ倒せば、周囲に動く敵はいなくなるのに。
 あなたは木の陰から、相棒を見守っていた。
 当初は一緒に、戦うつもりであった。
 しかしパートナーに、言われてしまったのだ。

「今回は、敵の数が多い。守れる自信がないから、出てこないでくれ」
「は? なに言ってんだ。俺だって戦えるぜ?」
「……知っている。だが、お前を目の前で失うようなことがあれば、俺は……」
 吐き捨てるような台詞と、彼に似合わぬ怯えの色を映した眼差しに、逆らうことなんて、できるはずがない。

 息を止め、パートナーの最後の一撃に、見入る。
 血に濡れた刃が敵の体を裂き、毛むくじゃらの身体が、どん、と地に伏した。
「勝った……勝ったんだな!」
 あなたは声を上げ、肩で息をしているパートナーのもとに走り寄る。
 ――そのときだ。

「まだだ、来るな!」

 あの敵が、最後ではなかったのだ。
 あなたの眼前に、別の敵が向かってくる。
 でも、たった1匹、このくらいならば。
 あなたは、武器を抜き、走り来る敵に向き合う。
 だが、飛び掛かってくる一撃は、思っていたよりも強烈で。

「くっ……」

 受け止めきれず、背中から地面に倒れ込んだ。
 剣が、圧し掛かる敵の牙を、ぎりぎりのところで受け止めている。
 振り払うことも押し返すこともできない。
 そこに。
 ざくり。
 パートナーの剣が、敵の腹を、貫いた。

「だから、出てくるなって言っただろう!」

 目の前で、絶命する敵。
 声をかけてくれるパートナー。
 だが、あなたは――。

解説

あなたたちは、目の前の戦いに勝利しました。
あなたも精霊も、多少の傷はあるものの、命に別状はありません。
ただ、気持ちの方はどうでしょうか。
この戦いの後ふたりはどうするのか、プランに記載してください。

【注意】
・リザルトは戦闘終了後からになります。戦いの描写はいたしません。
(新たに敵が現れる等、新展開はございません)

・敵については、とくにオーガ(もしくはデミオーガ)の種類を想定していません。

・上記精霊は、イメージとして『剣を扱っている描写』をしておりますが、該当ジョブに制限したものではございません。ご了承ください。

・また、こちらエピソードは、基本的にウィンクルムごとの執筆になります。他の方との絡みを希望の方は、掲示板で相談の上、話を合わせてプランにご記載ください。


ゲームマスターより

こんにちは、瀬田です。
戦闘描写のない、アドベンチャーエピソードです。
敵だけ貫けるとか、精霊の戦闘技術すごいね!
……えっと、つっこみは脳内でお願いします。

こちら、相談期間が長めになっております。ご注意ください。

リザルトノベル

◆アクション・プラン

アルヴィン=ハーヴェイ(リディオ=ファヴァレット)

  …危ないから、下がっててって。
オレだって戦えないって訳じゃなのに…。
…でも、リディのあんな表情を見たらいう事を聞くしかないよね。

(敵を倒し切ったと思いリディオに駆け寄り)
リディ、格好良かったよ!
…えっ、まだ敵がいるなんて。

(リディオに助けて貰い)
……その…ごめん。リディの言った事最後まで守れなくて。
リディが勝ったって思ったら嬉しくなっちゃって…つい。
…怪我?…オレは大丈夫。大した事じゃないよ。これ位なら大丈夫だって。
……オレの為を思ってくれてるのは分かるけど、リディだけ危ない目に遭わせるのは嫌。
今度は一緒に戦おう?
…頼りないかもしれないけど、オレ、リディのパートナーだから。


テオドア・バークリー(ハルト)
  契約した時のこと思い出した。
俺がオーガに襲われて死にそうになってて、
意識がどんどん薄れていく中で「ああ、俺はこのまま死ぬのかな」なんて
妙に落ち着いて考えてたらハルが走ってきて…
…まあ気がついたら俺は病院のベッドの上だったしその時のことを詳しく覚えてる訳じゃないんだけどさ。

俺と契約したばっかりに…危険な目に遭わせてごめん。
ハルにいっぱい迷惑かけて、本当にごめん。
やっぱ俺と契約しなかった方がハル…ちょ、いきなり大声出さないでくれる!?

すぐまた色々悩むぞ。
戦闘でもあまりハルの助けになれないし。
授業のノート貸すくらいしか借り返せないけど。
それでもいいの?

あのさ!
…ありがとう、俺なんかと契約してくれて。


シムレス(ロックリーン)
  倒せなかった事が悔しい
だが彼が不安気な顔を見せるので目を伏せ
敵は弱っていた、倒せると思ったが…

戦いの感覚を掴んできた、そう思う

ウィンクルムとなって俺の世界はがらりと色を変えた
精霊を得た事で行きたい場所へ行ける
戦闘を経る度自分に力が蓄えられるのを実感する
だから試したくなる、だが
俺は足手纏いか?

盾に…僕は消し飛んでもあなたを護ると以前言われた
俺は精霊に犠牲を強いているのか?
それでいいのか?

彼はいつも言い切る形で肯定をしてくれる
それに勇気づけられ救われている事に気付く
同時に
自分の行動は彼の命をも握っていると自覚
それでも
ロック、俺はもっと先を見たい
広い世界のあらゆるものをこの目に焼き付けたい
振り回すぞ


●それは、決意

 足元に倒れた敵に、もはや興味はない。
 それよりも気になるのは、相棒の様子である。
「テオ君! 怪我したトコ見せて!」
 ハルトは、テオドア・バークリーの手首を掴み、ぐいと引き寄せた。
 色白の肌に、どれほどの傷がついてしまったのだろうと恐れるも。
「かすり傷……」
 はあ、と深く息を吐く。
「心臓とまるかと思ったつーの……」
 ハルトは手を離し、髪をかきあげ、テオドアを見やった。
「別に、そんなに心配しなくてもいいのに……」
 ぼそりと呟くテオドアは、眉根を寄せている。
 この戦いがきつかった……わけではない。彼と契約した時のことを、思いだしていたのだ。

 その時俺は、オーガに襲われて死にそうになってた。
 最初は、怖かった。
 怪我をした体は痛くて熱くて、助けを求めて逃げることも、声を上げることもできなかったから。
 でも、人間って不思議なもので、だんだん達観? するんだよね。
 そのうちに、意識がどんどん薄れていく中で「ああ、俺はこのまま死ぬのかな」なんて妙に落ち着いてたら、ハルが走ってきて……。
 まあ、気が付いたら、俺は病院のベッドの上だったし、その時のことを詳しく覚えているわけじゃないんだけどさ。
 ただ。
「テオ!」
 ハルが、そう叫んだことは、記憶にある。
 それまでに聞いたことがないくらい、すごく真剣な声で。

 テオドアは、半ば呆然としたように、ハルトを見ていた。
 さっき敵に襲われた時は、もちろん多少の恐怖はあったけれど、体は痛くも熱くもなかった。
 ハルトがすぐに、敵を倒してくれたからだ。
 いつもちょこちょこと手を出してきて、正直、うっとおしいと思ったこともある。
 でも、ハルは――。
「テオ君、どうした?」
 まだびっくりしてるのか? と尋ねるハルトに、テオはいきなり、頭を下げた。
「俺と契約したばっかりに……危険な目に遭わせてごめん。ハルにいっぱい迷惑かけて、本当にごめん。やっぱ俺と契約しなかった方が……」
 ハルにとって、良かったんじゃないか。そんな感じのことを言いたかったのに、言えなかった。ハルトがテオドアの肩をきつく掴み、言葉を遮ったのだ。
 さっき手を引いた時とはまるで違う、容赦のない力で、彼はテオドアの背を起こした。
 怒りと――たぶん、困惑を映した、緑の目で。
 ハルトはテオドアを睨み付け、声を張り上げる。
「なあ、俺がいつ迷惑だなんて言ったよ! その場の思いつきなんかじゃなくて、危険だって承知の上で、俺は自分から選んで、テオと契約したの!」
 言葉の勢いと同じ強さで、がくりと身体をゆすられて、テオドアが顔をしかめる。
「ちょ、いきなり大声出さないでくれる!?」
 彼はハルトの腕に手をかけて、それを肩から離そうとした。
 まさか、ここまでの反応が返ってくるとは思わなかったのだ。
 だが、ハルトはそれを許さない。
 ハルトは、両手をテオドアの肩に置いたまま、今度はねめつけるのではなく、じっと彼の顔を見つめた。
「……だから、だからさ! 契約しなきゃよかったなんてもう絶対に言うんじゃねーぞ、約束だからな!」
 言い放ち、その後はテオドアの望み通り、肩から手をどかしてやる。
 テオ君が、馬鹿みたいに真面目なせいで、契約したことにずっと責任を感じて、悩ませているのはわかってはいたけれど。
 それでも俺は、誰よりもテオの側にいたかったんだよ。
 ……ま、こんなこと言おうもんなら、また無駄にテオ悩ませちまいそうだから、言えねーけど。
 思っていることが、うっかり表情に出てしまっても誤魔化せるように、ハルトはあえて、あらぬ方向を向く。
 テオドアは軽くなった首筋に手を置いて、はあ、と息を吐いた。
 今まで一緒に、馬鹿なことをしてきた。
 先日などは、自宅で一緒に夜通し騒ぎ、早朝から家族に怒られもした。
 そのハルトが、こんなことを思っていたなんて。
 テオドアは、そっぽを向いたハルトに、声を投げる。
「すぐまた色々悩むぞ。戦闘でもあまりハルの助けになれないし。授業のノート貸すくらいしか借り返せないけど。それでもいいの?」
 その言葉に、テオドアはハルトに視線を向けた。――満面の笑み、で。
「いいに決まってるだろ」
 いつでもはっきりと感情を示す彼だからこそ、表情には嘘がない。
 でもだから、逆に申し訳ないと思ってしまうこともあるわけで。
「なんか、危険の比率が違いすぎる気がする……ごめんな」
 思わずそう呟けば、ハルトは、今度、苦笑する。
「……テオ君てば謝ってばっかりだな」
 言いながらハルトは、ふと自らの身体を見やった。
 そういえば、たいして痛くないから忘れていたけれど、小さいけれどそれなりにたくさんの傷がある。
 彼が瑣末なことを気にするのなら、こちらから用事を作ってやればいいのだ。
「じゃあさ、今回怪我したトコ優しーく手当してくんねえ?」
 にやりと笑い、優しーく、のところをあえて強調して。ハルトは腕を突き出した。テオドアが神妙な面持ちで、わかった、と一度頷く。
「よし、なら早く帰ろうぜ」
 なにせここには、消毒薬も絆創膏もないのだから。
 ハルトは振り返り、さっさと歩き始める。そこに後ろから「あのさ!」と声が飛んできた。
「……ありがとう、俺なんかと契約してくれて」
 俺なんか、なんて言うなよと思いながらも、ハルトはひらひらと手を振った。
「ほら、行こうぜ、テオ君」

●次は、隣に

 危ないから、下がってて。そう、事前に言われていたのに。
 どうと倒れた敵の前、アルヴィン=ハーヴェイは、しょんぼりと肩を落としていた。
 敵の攻撃が身に触れると思った瞬間は、確かに怖かった。
 でも今、『助かった』より『ありがとう』よりも先に、頭に浮かんだ言葉は。
「……その……ごめん。リディの言ったこと最後まで守れなくて。リディが勝ったって思ったら、嬉しくなっちゃって……つい」
 金髪を揺らして、俯く。
 十分な確認をせずに、敵を倒したリディオ=ファヴァレットの元に、駆け寄ってしまったからである。
 本当は、もっとしっかり、周りを見るべきだったのに。
『リディ、格好良かったよ!』
 それまで隠れて、動きたい気持ちを押さえこんでいたから、とにかく早く勝利を手にした相棒のところに行きたくて、衝動のままに飛び出した。そして、残っていた敵の標的になった。
『……えっ、まだ敵がいるなんて』
 気付いた時、一瞬見遣ったリディオの顔は、衝撃的だった。
 普段は穏やかな笑みを湛える瞳を、驚きに見開いた、その表情。それは、戦いの前に「下がってて」と言った時よりも、ずっと、冷静さを欠いていた……ように思う。
 しかし、その様子に反して、彼の行動はとても落ち着いていた。
 もちろん敵に襲われかけていたアルヴィンは、そのすべてを見ていたわけではない。
 目の前には、今にも自分を殺そうとしている奴がいて、リディオはその背後にいたのだから。
 だが、彼の銃から飛び出した銃弾が、アルヴィンの前の敵を倒したことから考えるに、彼は銃口を正しく敵に向け、トリガーを引いたのだ。
 そして、リディオのその技術と判断が的確だったからこそ、今、アルヴィンは無事にここにいることができる……。
「本当に、ありがとう……」
 申し訳なさそうに眉を寄せるアルヴィンに、リディオは「気にしないで」と返した。アルが無事で良かったよ、とも。
「それより怪我はしてない?」
 アルヴィンの不安を和らげるためだろう。俯いた頭に手を置き優しく問われ、アルヴィンは首を振る。
「オレは大丈夫」
 しかしリディオは、簡単に頷いてはくれない。
「本当に?」
 心配そうにアルヴィンの顔を覗きこんだ後、彼はアルヴィンの全身をざっと見た。そして気付くのは、手にある一筋の、小さな赤。
「あ、ここにかすり傷……ほら、手当てしないと」
「大したことじゃないよ。これ位なら大丈夫だって」
 握られた手を、アルヴィンはすっと引いた。
 だってこんな傷は、日常生活を送っている中にもありえるものだ。
 逃げて隠れていた自分よりも、前に出ていたリディオの方が、大変だったに決まっている。
 そう思うから、アルヴィンは、自分の傷など気にせずに、リディオの身体を熱心に見る。
 頭からつま先までじいっと見入るも、大きな怪我はないようだ。だが、服の下にある打ち身はわからない。
 だから問う。
「それより、リディの方が酷いんじゃない? だってひとりで戦ってたし。手当てするならリディが先だよ」
 しかしリディオは、今日ばかりはなかなかに強情だ。
「アルのほうが心配だよ」
「リディが先に決まってる」
「僕はいいから」
「オレだって、大丈夫だ」
 結局。
 しばらくこんな会話を繰り返し、譲り合いの最後となったのはアルヴィンの言葉だった。
「……オレの為を思ってくれてるのは分かるけど、リディだけ危ない目に遭わせるのは嫌」
 オレだって戦えないって訳じゃない。
 戦いの前、リディオに「隠れていて」と言われた時の感情が、再びアルヴィンの中で膨れ上がる。
 確かに自分はまだ戦闘に慣れているとは言えないけれど、それでも、自分も確かにウィンクルムなのだ。
「だから、今度は一緒に戦おう?」
 アルヴィンはそう言って、リディオに微笑みかけた。
 そして「でも」とまたも言いかけるリディの前で、待ったをかけるように、胸の高さまで手を上げる。
「心配してくれてるのは嬉しいよ。でも……頼りないかもしれないけど、オレ、リディのパートナーだから」
 リディのように、強くなりたい。
 リディだけに、負担をかけたくない。
 何をするのも、一緒がいい。
 いろいろな思いを込めて、まっすぐに、リディオの紫の瞳を見つめて言った。
 ここまで言えばリディならきっとわかってくれる。
 そう思えば案の定、彼は参ったな、というように、笑みを見せた。
「そうだねえ、僕たちはパートナーだから、力を合わせないとね」
「うん!」
 笑顔で頷くアルヴィンの肩に、リディオの手がとんと載る。
「じゃあ今度は、下がっててなんて言わないよ。僕と一緒に戦ってくれる?」
「もちろん、全力を尽くして」
 ふたりは顔を見合わせて笑いあい――その後、少々急ぎ足で帰路についた。
 もちろん、相手の怪我を治療して、次の任務に備えるために。

●世界の果てまで

 今はバクバクと打っている心臓が、その時は、止まるかと思った。
 怖かった。自分が戦うよりも、シムレスが敵に襲われるのを見た方が、ずっと。
「間に合ってよかった……」
 武器を手にしたままロックリーンが呟く。しかしその声を聞いても、シムレスは顔を上げなかった。
 反省してるのかな。
 微動だにしない身体を見て、ロックリーンは思う。
 彼が自分との当初の約束を守らず、敵の前に飛び出したことは明らかだからだ。
「この頃、前に出て来ることが増えたね」
 その言葉にシムレスは、ピクリと肩を揺らしたが、それきり。武器を握ったまま、黙り込む。
 ただひたすらに、今目の前に転がる敵を、倒せなかったことが悔しかったのだ。
 もっと戦えたのではないか、違う方法があったのではないかと、後悔が頭を巡る。
 だが、自分が奴に対峙している時に、ちらと見たロックリーンの顔がとても不安そうだったから。あえて今は、戦いに関してのことは口にせず、目を合わせずにいるのである。
 敵は弱っていた。倒せると思ったのに。
 戦いの感覚を掴んできた、そう思ってもいるのに。

 俯いたままのシムレスに、ロックリーンはどう声をかけていいのかわからなかった。
 大丈夫かと聞いたところで、彼はそっけなく、問題ないと言うだけだろう。
 そして、なにかあったのかと問えば、何もない、と。
 シムレスの初陣は、冬。クリスマスの頃だったらしい。
 戦闘技術の面でも、精神や肉体の面でも、とても戦いに耐えられる人ではなかったと、ソドリーンから聞いている。
 でも、二ヶ月後。僕が契約した時も、そんな印象だったな、とロックリーンは考えた。
 あれから、半年ほどしかたっていないのに、武器を持って前線に飛び出してくるようになるなんて、最近は依頼続きだったから、慣れたのかな。
 まったく、シムさんの行動力には、驚かされる。

 過去に想いを馳せていたのは、ロックリーンだけではなく、シムレスも同じことだった。
 ウィンクルムになって、家を出て、俺の世界はがらりと色を変えた。
 パートナーの精霊を得たことで、行きたい場所へ行ける。
 それは、長く幽閉的な環境にいたシムレスにとって、自由への翼を手に入れたにも等しかった。
 しかも最近は、戦闘を経る度、自分に力が蓄えられているのを実感するのだ。
 だから、もっともっとと上を目指し、前に出て、つい、試したくなる。
 自分がどれほど、変わっているのか。強くなっているのか。
 だが、と、シムレスは顔を上げた。
 黙ってこちらを見ている、長身のロックリーンを見上げ、問う。
「俺は足手纏いか?」
「まさか!」
 ロックリーンは、大きな声を出した。
「シムさんあっての僕なのに……前に出たいなら出ていいよ。僕はあなたを護る為に、いつだって盾になるから」
 確かに今日は肝を冷やしたけれど、結局は彼を救えたのだから、これでいい。
 シムさんが、自由なのが一番だ。
 そう思ったから素直に告げたのだが、シムレスは相変わらずの渋面のまま、繰り返した。
「盾に……」
 自分は何かおかしなことを言っただろうか。ロックリーンがそう思ううちに、彼は先を続ける。
「僕は消し飛んでもあなたを護ると、以前言われた。俺は精霊に犠牲を強いているのか? それでいいのか?」
 重ねて尋ねてくる姿は、いつものシムレスよりも神妙な面持ちだ。
 それを見、ロックリーンは、彼は守られるだけじゃない立場を望んでいるのではないかと思った。
 さっき反省しているのかと感じたのも実は勘違いで、思うところがあったのかもしれない。
 これは、今までは気付きもしなかったことだ。
 シムレスにはまだ、ロックリーンの知らないところがたくさんある。
 もっと彼を知りたい。だからこそ、ロックリーンは「もちろん!」と返した。
 その短くもすべてを受け入れる言葉に、シムレスはロックリーンをまっすぐに見つめる。
 ロックはいつも、言い切る形で肯定してくれる。
 それに自分は勇気づけられ、救われていると気付いたのだ。
 ただ同時に、自分の行動は彼の命をも握っている、ということも自覚する。
 今回も自分が出て行かなければ、彼はあんなにも、不安そうな顔をすることは、なかったはずだから。
 ただ、それでも。
「ロック、俺はもっと先を見たい」
 そう言ってシムレスは、空を見上げた。
「広い世界のあらゆるものをこの目に焼き付けたい」
 そう、いうなれば、手が触れるすべてのものを。
 視界に入る、あらゆるものを。
 家にいる時には知りえなかったこの世の中を、知りたい。
 シムレスの視線が、再びロックリーンに戻る。
 そうやって見られることが、ロックリーンは嬉しい。
 さらに、シムレスは言うのだ。
「振り回すぞ」
「喜んで!」
 ロックリーンは満面の笑みを浮かべた。
 シムさんが見たいもの、行きたいところ、やりたいところ。
 なんでもいい。シムさんが望むものを得るまで――。
「どこまでも付き合うよ」
 だって世界は、広いんだから。





依頼結果:大成功
MVP

メモリアルピンナップ


エピソード情報

マスター 瀬田一稀
エピソードの種類 アドベンチャーエピソード
男性用or女性用 男性のみ
エピソードジャンル 戦闘
エピソードタイプ ショート
エピソードモード ビギナー
シンパシー 使用不可
難易度 簡単
参加費 1,000ハートコイン
参加人数 3 / 3 ~ 5
報酬 少し
リリース日 05月18日
出発日 05月26日 00:00
予定納品日 06月05日

参加者

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