夢と現の狭間から(雨鬥 露芽 マスター) 【難易度:普通】

プロローグ


 怖い、怖い夢を見た。
 目を開けると、そこは暗い部屋。
 知らない場所かと思ったが、落ち着いて周りを見渡せば、自室だ。

 一体何であんな夢を――
 そう思い返す。
 追われる夢、殺されそうになる夢、壊れる夢――どんな夢だったかはわからない。
 ただ、とても怖くて、ぞっとした。

 今も、心臓がどくどくと、全身に恐怖が響いている。

 隣には誰もいなかった。
 家の中には誰もいなかった。
 何だか不安になった。
 まるで孤独になった気がした。

 会いたくなった。

 連絡をすべきだろうか。
 しかし今日は会う約束はしていない。
 怖い夢ごときで迷惑にならないだろうか。
 怒られないだろうか。
 それとも他の反応がくるだろうか。
 様々な不安が頭に浮かんでくる。

 しかし、怖くてどうにかなってしまいそうだった。



 今日はパートナーと会う約束はしてなかった。
 自分のすべき時間を過ごしていた。

 しかし、これから少しだけ予定が変わることになる。
 それはパートナーからの連絡からだったか、自身がパートナーを想い浮かべたからかはわからない。
 ただ、今パートナーはとても不安な状況にあるのだ。
 それを知っているか、知らないかは状況によるだろう。

 パートナーに会いに行くのか、会いに行かないのか、連絡だけで済ませるのか。
 少しだけ変わる予定に、どう対応し、パートナーは何を想っていくのだろうか。

解説

■目的
何でもいいからパートナーと話して怖い夢から目覚めて日常に戻れたらいいな

■PC情報
●夢を見た側
・悪夢から目覚めた所
・家の中には誰もいない
・とにかく恐怖が解けない

●夢を見ていない側
・パートナーと一緒にはいない
・仕事なりプライベートなり買い物なり、とにかくパートナーと一緒にいない


■状況
●悪夢
トラウマでも本当に単なる怖い夢でも何でもOK。
とにかく起きてからも怖くて怖くて仕方ないです。

●落ち着く手段
会う会わない問わず。
何でもいいです。テレパシーで会話できるとかそういうのじゃなければ。
連絡がなくても何となく会いたくなってとか、同居中で買い物から家に帰ってきたらとかもOKです。

■注意
お互いどんな対応でもいいのですが、夢見た側が安心しないで終わるのは無し。
あと精霊と神人は全く絡まず終わるのもなし。
テレパシーで会話も、もちろん無し。
それから状況も状況なので完全個別です。
あ、あと夢見てない側がご飯なり買い物なり交通費なり何かしらに使ったようで300jrなくなるみたいです(減った理由を特別に書く必要はないです)

■プラン
共通に書くのは、どう反応してどう対応してどうするのか。

●見た側
どんな夢を見たのか(忘れたけど○○のような、とかもあり)

●見てない側
何をしていたのか

●アドリブ注意報
嫌な方はプランの頭に×


ゲームマスターより

どうも雨鬥露芽です。
怖い夢を見て、一人で心細い時、皆さんならどうするのでしょう。
そして、パートナーが怖い夢を見たって泣き付いてきたら、皆さんどう反応するんでしょう。
笑い飛ばすのかな、なだめるのかな、色々ありそうです。
なのでジャンル気にせずコメディでもロマンスでも何でもどうぞ。
皆さんの色々が見れたらいいな。

リザルトノベル

◆アクション・プラン

ミサ・フルール(エミリオ・シュトルツ)

  ☆悪夢
7年前の誕生日
村が破壊され両親が殺害された時の惨劇を夢に見る
血塗れの両親が目の前に現れ、「自分達を殺した犯人を何故 愛することができるのか」と責められたところで目が覚めた

☆仕事中の精霊に電話をかける
もしもしエミリオ?
今電話しても平気?
そう、よかった…
ううん、何でもないの
エミリオの声が聞きたかっただけ(凄く会いたいけれど仕事の邪魔はしたくない)
お仕事気を付けてね、お休みなさい

(駆け付けた精霊に抱き着く)っ、エミリオ!
私の為に仕事を抜け出してくれたの?
ありがとう、ね
あのね、また怖い夢を見ちゃったんだ
…私、誰に何と言われようと貴方が好きだから
(精霊から口づけを受け安心して眠りにつく)お休みなさい


かのん(天藍)
  就寝中
夜中不意に目が覚めた
呼ばれた気がしてカーテンの隙間から外を見る
門扉の前に天藍を見つけ慌てて外へ

どうしました?何かあったのですか?
門扉を開けて尋ねれば答えの前に抱き締められた

冷たい手
風邪を引く前に中に入りましょう

温まるようにリラックスできるようにハーブティーを
彼の話しを待つ
その鍵は思うように使ってください

本当は客間でゆっくりして欲しいのですけれど、鉢植えが占拠していて…
毛布持ってきて1つ天藍にもう1つは自分が羽織る
今日は私もここに居ます
駄目って言っても聞きませんから

オーガ化の件がそれだけ彼にはショックだったと思うから
せめて温もりが伝わる傍で寄り添えたら

良い夢が見れるおまじないです
額にキスを


ひろの(ルシエロ=ザガン)
  以前の任務でルシェが斬られた時の夢

ここルシェの、家で。
あれはここに来る前で。もう治って。
「……本当に?」(記憶を疑う
(ルシェの部屋を小さく叩く
いない……?
ルシェ、どこ。(生きてる?

(ルシェに電話
……。(怖さを理由に電話は迷惑と思えて、ワンコール終わる前に切る
(ソファの陰に移動し、膝を抱え丸くなる

「……るしぇ?」(茫然とし、発音が拙い
「いきてた」(呟く

「だって、きられて。ちが」いっぱい。(恐慌状態
「……ない」(斬られた箇所をゆっくりなぞる
「なおった」(オウム返し

「るしぇがいないのは。こわい」けど。
「がまんすれば」きっと。
いつか「なれる、から」
あったかい。(体温と鼓動にやっと安堵
(ぎゅっと抱き着く


秋野 空(ジュニール カステルブランチ)
  精霊に遅くなるからと言われ、先に眠ったものの
エピ26の兄に捕まり抱き締められる夢を見て目覚め
心臓が早鐘の様に鳴り震えが止まらない
精霊の顔を見ればきっと落ち着く
少しでも早く会いたくて、玄関で膝抱え

静かで暗い玄関、いつ戻るかわからない精霊
それでもひとりで自室のベッドにいるよりマシ

無意識に彼の袖を握りしめ
すみません、少し怖い夢を…見てしまって
子どもの様で恥ずかしい

もう大丈夫です、ひとりで部屋に戻れますから
強がって微笑み
抱き上げられ硬直
お、お仕事があるのでしょう?

いつになく積極的な精霊に
さっきと違う意味でそう簡単に眠れるわけがない

抱き締められ、安心感から微睡へ
…ジューンがパートナーで…よかった
呟いて



 かのんの家の前。
 月明かりに照らされて、天藍は佇んでいた。

 理由は、ほんの少し前に見ていた夢。
 悪夢にうなされていた天藍を起こしたのは、自分自身の叫び声だった。
 夢の中では、オーガになった自分がかのんに手を上げていた。
 酷く、嫌な夢だった。

 起きてからも、それは頭の中で繰り返されていた。
 考えたくないと思っても、あれは夢だとわかっていても、嫌な汗と不安感が全身を支配していった。

 割り切ったつもりだった。
 だが、こうして夢に出てきてしまった。
 傷つくかのんの姿が、頭から離れない。

 夢だとわかっている。無事だとわかっている。
 わかっているのに、大丈夫だと、微笑ってほしい――

(かのんに、会いたい)

 声が聞きたいと携帯に手を伸ばす。
 画面に映ったのは、深夜であることを告げる時間の表記。
 天藍は携帯を置いた。

(せめて、彼女が日々手入れをしている庭を少し見るだけなら……)

 彼女の関わりに、少しでも触れたかった。
 そうして天藍は、かのんの家の前にやって来たのだった。

 目の前の門を通るための鍵は、この手にある。
 だが、開くことはできなかった。

(このために渡してくれたわけじゃないだろう)

 気付き、拳を握る。
 途端、ぱっと、明るい光が天藍を照らした。


 かのんは、ふと目が覚めた。
 時刻が指し示すのは夜中であること。
 何となく誰かに呼ばれた気がして、布団から出たかのん。
 カーテンの隙間から覗いた家の外には、人影。

――天藍?

 門扉の前にいるのは、確かに最愛のパートナー。
 かのんは灯りをつけ、慌てて外に飛び出した。

「どうしました? 何かあったのですか?」

 天藍は、不意についた家の灯りに驚きながらも、飛び出て来たかのんの姿を見て思わず抱きしめた。
 返答よりも先に救いを求めたその手はとても冷たかった。

「風邪をひく前に、中に入りましょう」

 長い事外にいたのだと気付いたかのんは、天藍の背中に手を回して優しく声をかける。
 家の中に入ると、かのんはハーブティーを差し出した。

 体が温まるよう、そして心がリラックスできるよう。
 彼の身に起こった『何か』を、彼が話してくれるのを横で待った。

 天藍は、そんなかのんの優しさを感じて、一つずつ言葉を紡ぎ始めた。

「夢を見たんだ」

 自分にとって、とても恐ろしい夢だった。
 目を背けたいほど、逃げたいほど。
 それが現実になることだけは、絶対に避けたい出来事。
 オーガになることなんて、大切なかのんを傷つけるなんて
 あってはいけない。

「こんな時間に、すまない」

 天藍が申し訳なさそうな表情をする。
 かのんの存在に触れて、確かな現実に安心したかった。
 それが、行動の理由。
 だが、家の中にまでは入れなかった。
 鍵を渡してくれた、かのんの気持ちを考えて。

「その鍵は、思うように使ってください」

 そんな天藍に、かのんは微笑む。
 外で待っているなどせず、中に入って来てくれて構わなかった。
 それは、天藍が使うための鍵なのだから。

「……できれば夜明けまでここにいても良いだろうか」

 かのんの優しさ、温もりに触れていたい。
 そうでなくても、せめて少しだけでも近くにいられたら。
 不安げな天藍の質問に、かのんは当然のように微笑みを返す。

「本当は客間でゆっくりしてほしいのですけれど、鉢植えが占拠していて……」

 沢山の鉢植えが置かれた客間。
 すぐに居場所を用意するのは難しそうだ。

「真夜中に押しかけた身だ。そんなに気にしないでくれ」

 天藍の言葉を聞くと、かのんは毛布を二つ取り出し、一つは天藍へと渡す。

「今日は私もここに居ます」

 かのんはもう一つの毛布を羽織り、再び隣に座る。

 オーガ化――
 それは天藍にとってとてもショックだったであろう事実。
 少しでも、寄り添えたら。
 せめて、この温もりだけでも伝えられたら。

 気を遣って断るかもしれない天藍に「駄目って言っても聞きませんから」と一言。
 まだ少しだけ涼しくもあるこの時期も、二人で一緒なら大丈夫。
 そして、恐い夢だって。

「良い夢が見れるおまじないです」

 天藍をそっと引き寄せ、額に口付ける。
 かのんの笑顔と温もりがそこにある。
 共に目を瞑り、同じ夢の中。

 二人が見るのは、きっと幸せな夢に違いない――



 それは、とてもめでたい日。
 自分の、誕生日。
 そしてそれが崩れていく日。

 切り捨てられる両親、壊れていく景色。
 動けずにいるミサ・フルールの目の前に立つのは、殺されたはずの血まみれの父と母。

 自分の名前を呼ぶ、大切な両親の、冷たい声。
 非難をするように、それは鋭く、ミサの心に突き刺さる。

――私達を殺した犯人を何故、愛する事ができるのか――

 冷えた声が強く頭に響いた時、ハッと目が覚めた。

「エミリオ……」

 両親を殺したはずの最愛の人、エミリオ・シュトルツ。
 理由を教えてはくれないけれど、それでも、想いは変わらない。
 そんな自分を、どこかで責める誰かの心。
 落ち着かない。
 思わず携帯を手にしていた。

 耳にコール音が響く。
 仕事中だとわかっていた。
 出ないだろうと思った。
 それでも、せめて、行動だけでもしたかったのかもしれない。

「もしもし?」

 エミリオの声が聞こえた。

「もしもしエミリオ? 今電話しても平気?」

 ちょうど休憩中だったエミリオは「大丈夫だよ」と優しく答える。
 仕事中にかけてくることなんてないミサの珍しい行動。
 責めるはずもなかった。
 「よかった……」と安心するミサに、エミリオは尋ねる。

「どうしたの?」
「ううん、何でもないの。エミリオの声が聞きたかっただけ」

 本当は、会いたかった。
 一人でいたら不安に押し潰れてしまいそうで
 決めたはずの心を、責め続けてしまいそうで
 まだ夢を見続けてしまいそうで。
 そんなミサの不安に、エミリオは何となく気付いた。

「俺もお前の声が聞けて嬉しいけれど……」

 本当は何かあったのだろうと思った。
 だけど、ミサはエミリオの仕事のことを考えて言わない。
 そんな考えまで、何となくではあるが思い浮かんだ。

「お仕事気をつけてね、お休みなさい」
「ありがとう。ちゃんと戸締りして眠るんだよ。おやすみなさい」

 言わないまま、電話を切るミサ。
 エミリオはすぐさま宿へ向かう準備をする。
 休憩時間が潰れてしまうのはわかっていたが、それがミサのためなら気になどならなかった。

 一方、ミサはベッドの上で携帯を眺めていた。
 本当は会いたかった。
 もちろん、今も。
 彼がどんな人であっても、その罪を一緒に背負って生きていこうと、決心した。
 彼を信じた。
 それは揺るがない。
 ただ、その過去だって揺らぐはずもない。

 渦のように出られない思考に飲まれそうになっていると
 バタンと扉が開いた音がした。

「エミリオ!」

 その姿に、ミサは抱き付いた。
 エミリオも、抱きついてきたミサを力強く抱き返す。

「私の為に仕事を抜けだしてくれたの?」

 警備の仕事中だったはずなのに。
 そんなミサの質問に、エミリオは優しく答える。

「いいんだよ。お前の為だったらこれくらいどうってことないよ」

 抱きしめた温もりは、確かにお互いの存在を伝えあっていて。
 お互いを想う気持ちがちゃんとそこにあって。

「ありがとう、ね」

 その温もりに身をゆだねる。
 そこにあるのは、安心感。
 ベッドに戻り、隣に座るエミリオに小さく呟く。

「あのね、また怖い夢を見ちゃったんだ」
「また……あの夢を見たの?」

 『あのこと』だと、わかる。
 自分も当事者なのだ。
 彼女を傷つけてしまう。
 エミリオは辛そうに目を伏せながら、ミサを想う。

「私、誰に何と言われようと貴方が好きだから」

 夢の中で両親が口にした台詞へ、言葉を返す。
 例え責められようとも。
 共に乗り越えると決めたのだから。

 夢の中の言葉までは知らないエミリオも、何となく察する。
 そして出てくるのは、手放したくないという独占欲か、安心させたいと思うミサへの思いやりか。
 言葉に表すのなら。

「俺もお前が好きだよ。愛してるんだ……」

 そう、それは狂おしいほどに。
 壊してでも、自分だけのものにしたいほど。
 愛して、愛して。

「もう一度眠れるように、おまじないをかけてあげる」

 歪んでしまいそうな愛情を隠してか、それとも現わしてか
 優しく、優しくミサにキスをする。
 何も壊させなんてしないように。

 ミサは、エミリオの口付けに確かな愛情を感じて安心する。

「おやすみなさい」

 ありがとう、と言っただろうか。
 落ち着いたミサは、安らかに目を閉じた。



 起き上がると、そこは先程と違う場所。
 唐突に変わった世界に、頭がついていかない。

(ここルシェの、家で)

 今日まで過ごしていたはず日常がここにある。
 でもさっきまで外だったはずだ。
 そして、目の前には血まみれのルシエロ=サガンの姿があったはずで。
 脇腹がえぐれて、血が出ていたはずで。

(あれはここに来る前で。もう治って……)

 そうだ。確かに、そのはずだ。
 記憶を探って、探って。
 確信を得ようとする。

「……本当に?」

 だけど自分の記憶が信じられなくて。
 段々と不安になってくる。
 そうだ。本人に確かめればいい。

 ひろのはルシエロの部屋をノックする。
 返事はない。
 家にいないようだ。

(ルシェ、どこ)

 誰もいない家。
 ルシエロが生きてるかどうかすら、心配になる。
 あれは夢だった?現実?
 過去の映像がそのまま夢に現れて、何が今なのかわからなくなる。

 怖い。

 そうだ、と家の電話からルシエロに発信。
 ボタンを押し終わって、ふと思う。
 怖いというだけで電話をするのは、迷惑なんじゃないか――
 一つ目のコールが終わる前に、すぐ切った。

 不安。恐怖。生きているだろうか。生きている。
 わかってるような、わかっていないような、何だかよくわからない。
 あの血は本物だったはず。
 あの場面は本物だったはず。

 ひろのは、ソファの陰で小さく膝を抱えた。


 ルシエロは、タブロスの市街を散策していた。
 ひろのに贈り物を探そうと、目に付いた店の品を見る。

(小物入れというのもありか)

 あまり物を持っているわけではないひろの。
 でも小物入れくらいなら、使えるのではないか。

 ひろののことを考えながら商品を見定めていると、一瞬だけ携帯から音がした。
 すぐに止まったことを不思議に思い確認すれば、画面にあるのは自宅の番号。

(何かあったか?)

 今家にいるのはひろのだけだ。
 かかってくるとしたら、ひろのから。
 ルシエロはタクシーを拾ってすぐさま自宅へと向かった。

 広い家の中、ひろのを探して少し歩く。

「ヒロノ?」

 ソファの陰でうずくまるひろのを見つけた。

「……るしぇ?」

 拙い発音で、ひろのはルシエロを見上げる。
 探していたはずの、赤い髪の、本人。
 本人だ。

「いきてた」
「当たり前だ。何があった」

 ルシエロからしてみれば、少しの間街を歩いていただけ。
 生きていて当たり前。
 しかし、こんなにも茫然としているひろのを見れば、何かがあったのだろうとも思える。

「だって、きられて、ちが……」

 再び浮かんだ情景に、また恐怖が溢れだす。

(斬られて血、か……)

 思い当たる節があった。
 以前の任務だ。
 敵の攻撃が、自分の腹部を抉った。

「傷があるか?」

 上半身の服を脱ぎ、ひろのの手を取る。
 斬られた腹部へ手を触れさせれば、ひろのがそれをゆっくりとなぞった。

「……ない」
「治ったからな」
「なおった」

 認識できているのか、できていないのか、情報を整理しているのか
 頭で処理できていないかのように、単語だけが返ってくる。

「電話はオマエだろう。何で切った?」

 怖がらせないよう、静かに問いかける。
 何かを言いたかったのなら、そのまま伝えてくれて構わなかった。

「るしぇがいないのは。こわい」

 ひろのは答えた。
 ぽつぽつと。とぎれとぎれに。

「がまんすれば」

 一人になって、夢を見て、怖くて。
 でもそれは、いつか慣れるから。
 きっと。ちゃんと。いつか。

「なれる、から」

 自分が居ないことに対して、慣れようと努力をする。
 そんなの、ルシエロは望んでいなかった。
 むしろ、されたくなんてなかった。

「そこは我慢しなくて良い部分だ」

 ひろのを抱きしめ、背中を撫でる。
 その体温と鼓動を感じ、ようやく本当の意味でひろのは現実に還ってこれる。
 緊張が、解けていく。

「耐えなくて良い」

 体の強張りが抜けたひろのを抱え直し、もう一度言葉をかける。
 ルシエロの体温が、ひろのを支配する。
 温かい現実。
 心が安堵で満ちる。

「前も言っただろう。オレを呼べ」

 ルシエロの言葉に、ひろのはぎゅっと抱き着いた。



 暗闇の中、捕まる。
 掴まれる。囚われる。
 抱き締められて、逃げられない――

 ハッと目が覚めた。
 心臓がバクバクと鳴り響き、体中が震える。

 それは、兄の夢。
 狂気とも言えるほど空を求めた兄の夢。
 秋野空は、怯え、自身の体を強く押さえた。

 眠りにつくほんの少し前、仕事の呼び出しで外に出たジュニールカステルブランチ。
 今、隣にはいない彼。一緒に住んでいる彼。
 彼の顔さえ見れば、きっと落ち着くはず。
 少しでも早く会いたくて、体の震えを抑えながら暗い玄関へ。

 ジュニールがいつ帰るかはわからない。
 ただ、それでもひとりきりで部屋のベッドにいるよりはマシだった。
 必ず帰ってくる場所。
 不安を必死に耐えて、電気もつけず、膝を抱えた。


 仕事から帰ってきたジュニールが扉を開くと、真っ暗な玄関でうずくまる人影。

「ソラ……?」

 それはすぐに空だとわかった。
 何かあったのだろうと思ったジュニールは、慌てて空へ駆け寄り声をかける。
 空はジュニールの声を聞いて、無意識に彼の袖を握りしめた。

「ソラ? どうかしたんですか?」
「すみません、少し怖い夢を……見てしまって」

 その単語と震える肩に、ジュニールは夢の内容を察する。
 空を覆うのは、過去、心のよりどころでもあった彼女の兄の存在。
 でも、今は違うのだ。

 心に渦巻くのは、空の兄に対する怒り。
 そして、独占欲。
 夢の中でまで、空の心が兄で埋め付くされる事に嫉妬心が沸き出す。
 空の心から、兄を追い出したい。自分で一杯にしたい。

「もう大丈夫です。ひとりで部屋に戻れますから」

 強がりから微笑みを作り、それをジュニールへと向ける。
 自分の言動が子供のようだという恥ずかしさ。
 そして、ジュニールに心配をかけたくないという想いもあっただろうか。

「駄目です」

 ジュニールは空を優しく抱き上げた。
 そうでもしないと気が済まなかったのかもしれない。
 空は、驚きのあまり硬直。
 そのままベッドへ連れられた。

「お、お仕事があるのでしょう?」
「俺にとって何より優先されるべきはソラのことですから」

 甘い微笑みを送り、「知っているでしょう?」と囁く。
 添い寝するように隣で横になり、空を安心させようと髪を撫でる。
 いつもより少々強引にも思える行動に、空の心臓は先程と違う意味で速くなっていた。

「今は俺のことだけ考えてください」

 ジュニールの感情が、空へと向かう。
 兄のことなんて忘れて、自分のことだけを考えてくれたらいい。
 そんなジュニールの言葉に、空は何を想うのか。

 伸ばした手を空は拒まなかった。
 ジュニールは優しく空を抱き寄せる。

「俺が傍で守りますから、ゆっくり眠ってください」

 そっと口付け。
 抱きしめられた安心感からか、張り詰めていた気持ちが途端に解ける。
 そこに待っているのは、静かなまどろみ。

 ゆっくりと眠りに堕ちていく空に、ジュニールも安心していく。

「よかった……」

 不意に零れ落ちた空の言葉。
 寝言か、それとも伝えたい言葉か。

「ジューンが、パートナーで……」

 届いた言葉に、先程まで心に溢れていた嫉妬心が薄れていく。
 起こさないよう、ぎゅっと抱きしめるのは、愛しさ。
 どうか、空が良い夢を見れるように。

 願わくば、自分の夢を。



依頼結果:大成功
MVP
名前:かのん
呼び名:かのん
  名前:天藍
呼び名:天藍

 

名前:ひろの
呼び名:ヒロノ
  名前:ルシエロ=ザガン
呼び名:ルシェ

 

メモリアルピンナップ


( イラストレーター: 白金  )


( イラストレーター: Q  )


エピソード情報

マスター 雨鬥 露芽
エピソードの種類 ハピネスエピソード
男性用or女性用 女性のみ
エピソードジャンル ハートフル
エピソードタイプ ショート
エピソードモード ノーマル
シンパシー 使用不可
難易度 普通
参加費 1,000ハートコイン
参加人数 4 / 2 ~ 4
報酬 なし
リリース日 05月15日
出発日 05月23日 00:00
予定納品日 06月02日

参加者

会議室


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