居酒屋「やきゅうけん」(瀬田一稀 マスター) 【難易度:簡単】

プロローグ

 居酒屋『やきゅうけん』は、タブロス某所にある、古びた居酒屋である。
 店は汚いが、安くて美味いため、そこそこ常連客が集っている。
 ただその店、少々変わっていた。
「はい、これがおつり……っと」
 会計の後。
 店主は笑顔で、あなたに釣銭を渡してきた。
 今日はウィンクルムの仲間で集まった慰労会、あなたが代表でお金を払ったのである。
「ごちそうさまでした、美味しかったです!」
 あなたは深々と頭を下げ、仲間も口々に感想を伝え、一行は店の外へ出ようとした……ところで。
 常連客の男たちが、がっしりと精霊の肩を掴んだ。
「なあ兄ちゃん、あんた美人だな」
「はっ!?」
 声をかけられた精霊は驚き、目を見開いた。
 なんだここは、やばい店だったのか。
 見れば他の常連客や、店主もにやにやと笑っている。
 どういうことだ、これは?
 一人の男などは、精霊の背中やら腕やらに、ぺたぺたと触れている。
「あの、どういうことです、これ」
 あなたは店主に尋ねた。
 焦らないのは、パートナーが嫌そうな顔をしながらも、落ち着いているからだ。
 相手は所詮酔っ払い、食事は相当美味かったし半ば諦めているだろう。
 店主は、今時珍しい、宣伝用のブックマッチをとんと叩く。
「ここ、見て。この店の名前は?」
「『やきゅうけん』……まさか!」
「そう、ご名答だよ!」
 男たちは、実に楽しそうに、あなた達を取り囲んだ。
「店を出る前に『野球拳』をするのが、この店の決まりなのさ! ああ、俺たちと順番にな」

解説

まずは飲食代として、300jrいただきます。

ウィンクルムVS常連さん!
とりあえず、常連客たちと、野球拳をしてください。
じゃんけんに負けた方が服を脱ぐ、あれです。
常連客は、ウィンクルムと同じ数だけいます。

【じゃんけんの方法】
ダイスをひとつ振ってください。
奇数ならば勝ち、偶数ならば負けです。

負けた人は着ている物を脱ぎますが、個人でいろいろ理由もあるでしょう。
じゃんけんをした本人、神人が脱ぐ場合は3枚。
彼の代理で精霊が脱ぐ場合は2枚。
さらにその代理で、別のウィンクルムの誰かが脱ぐ場合は1枚。
外野の男たちが野次を飛ばすこともありますが、あまりお気になさらずに。

脱ぐものは何でもいいですが、ポケットに入っている物を出す、眼鏡を外す、などはいけません。着衣のものを脱いでください。
理由はひとつ、面白くないからです。

また、こちらのエピソードはウィンクルムごとの描写ではございません。
脱いだ仲間に何か言うのも言われるのもありの、交流OKな状態です。
他のキャラとの絡みがNGな方は、ご参加をご遠慮ください。


ゲームマスターより

こんにちは、瀬田です。
べつに脱がせたかったわけじゃないです、よ?

リザルトノベル

◆アクション・プラン

スウィン(イルド)

  チューハイで酔った状態

じゃんけん:勝ち
「あら、折角肉体美を披露する機会だったのに残念だわ~(ケラケラ)
おっさんを脱がそうなんて十年早かったみたいね☆さ、脱いで脱いで♪」

ノリノリで脱ぐ人はからかう
「あら、いい脱ぎっぷり♪惚れ惚れするわ~
ひゅ~ひゅ~♪もういちま~い!いいわよ~」
「チャ~ララララ~ン(怪しい音楽を口ずさむ)」

脱ぐのに消極的な人や幼い人は心配する
「大丈夫?無理はしないようにね
なんだったら頼もしいパートナーが代わりに脱いでくれるわよ。ね!」

「あ~楽しかった!いい慰労会になったわね
飲んではしゃいで日頃の疲れも吹っ飛んだわ。これでまた明日から頑張れる~」
「またいつか行きましょうね☆」


瑞樹(共夜)
  野球拳かぁ、なんだか面白そう!
今日はなんか調子いいし、根拠はないけど勝てる気がする!って言ったら
きょーちゃんがフラグ立てるなって。
フラグじゃないもんおじさんたち返り討ちにしちゃうもん!

…じゃんけん負けちゃった。勝率半々かぁ…
まぁ、負けたものは仕方ないし脱ごう。
きょーちゃん何?今脱いでるからまた後でね。

靴→パーカーと脱いだけど最後の一枚はどうしよう…。
ズボンにするか、面白みはないけど靴下脱ぐか…その場のノリで決めよう。
ズボン脱いでもインナー長めだからそんなに恥ずかしくないもん。

なんか…みんなよくわからないテンション?
どさくさに紛れて他のウィンクルムの腹筋触っちゃえ!
怒られたらちゃんと謝るよ。


楼城 簾(白王 紅竜)
  「やきゅう、けん?」
何だそれは。
紅竜さんに教えて貰ったが、下らない遊びだ。
ウィンクルムとしての地盤固めに参加してこれとは、ついていない。
が、表面上は取り繕っておくか。
「いいですよ」
にっこり笑って、じゃんけん(ダイス5で勝利)
これで文句ないだろう。
スウィンさんへおめでとうございますと声を掛けたり、瑞樹さん、バークリーさん側で脱いだものを預かったりしておく。
洗濯の手間を増やすような無駄が嫌いなものでね。

店を出たら、紅竜さんと帰宅。
「脱がなくて助かったよ」
返された言葉に絶句。
この男は何を考えている。
そこまで仕事に含める必要ないだろう。
よく解らないが胸がざわついてイラつく。
この男は、本当に何なんだ。


テオドア・バークリー(ハルト)
  ここまで勝負事に弱いとなると俺、呪われてるのかな…
ハルト!お前が後ろで負けろ負けろ散々言うからだ!
どっちの味方だよお前は!
何だか納得いかないけど、それがルールなら仕方が無いか…

とりあえず上着からでいいのかな…何だよハルト
…そうだな、危険だな(お前が)
でもまあ代わってくれるっていうならそれでもいいか

俺は割と何やっても細いままだからハルの体格がちょっと羨ましいと思う。
そういえば俺、最近ハルに抱き上げられる機会多くない?
いつの間にか背をハルに抜かれてた時と同じくらいにショックだ…はあ
見惚れてない!ほら、終わったんならさっさと着ろよ、風邪引くだろ!

・仲をからかわれると照れて焦って反応
・ツッコミ気質


「店の名前に注意しとくべきだったな……。男だらけで野球拳やって何が楽しいんだ」
 イルドは店主が指したブックマッチ――そこに印刷されている『やきゅうけん』という文字を見、舌打ちをした。
「やきゅう、けん?」
 なんだそれは、と、桜城 簾が呟く横で、白王 紅竜が説明を始める。
 紅竜がどうして知っているのか、不思議なところだ。
 そんな彼らをよそに、テオドア・バークリーは、肩を落とした。
 勝負事は得意ではない。なんでこんなことになったんだ。
 だがハルトはふふふ、と含み笑い。こいつは面白くなってきた。
 一方、最年少の瑞樹は興味を示し、相棒の共夜は、呆れ顔の諦め顔だ。
「野球拳かぁ、なんだか面白そう!」
「野球拳かぁ、じゃんけん瑞樹負けそうだな」
 ほぼ同時の言葉に、ふたりは互いをちらりと見て。
「きょーちゃん、ひどい!」
「俺は思ったことを言っただけだ」
 ぎゃんぎゃんやっている子供たちをよそに、やっぱりイルドは、変わらずの渋面である。
「やってられるか! 金は払ったんだ、帰るぞ」
 床を踏み抜く勢いで、くるりと反転。しかしスウィンを振り返り……瞠目。
「……って、おっさん?!」
 無理はない。なにせ彼の相棒は、常連客たちとさっそく向き合っていたのだから。
「じゃあ一番はおっさんね! そっちの相手はあなた、それともあなた?」
 スウィンは腰から上をぐるりとひねり、客たちを見回した。
 そのノリノリな態度に、イルドは先ほどまでの勢いを忘れ、げんなりと肩を落とす。
「酔ってるな……だから飲みすぎるなって言ったんだ!」
 まったく、チューハイどれだけ飲んだんだ。
 思うも「さあさあおっさん張り切っちゃうわよ!」と腕まくりをしている彼を見ていると、いや、おっさんなら酔ってなくてもノリノリで参加するか……? という気がしてきた。
 なんにせよ、この状態のスウィンを止められるはずはない。
「はぁ……さっさと済ませろ」
 その言葉を合図としたわけではないだろうが、常連客のうち、最も筋肉逞しい男が、ずいっと一歩、前に出た。
「は、こんな細い男に負けねえよ! 俺が行くぜ」
 ぎらぎらと暑苦しい戦意に満ちた眼差しに、スウィンはうなずく。
「あなたね。じゃあいくわよ、じゃーんけーん」

 ぽん、とスウィンが出したのはチョキ。相手の男はでっかいパー。
「折角肉体美を披露する機会だったのに、残念だわ~」
 スウィンはケラケラと笑い、相手に行動を促すように手を振った。
「おっさんを脱がそうなんて十年早かったみたいね☆ さ、脱いで脱いで♪」
 上着、シャツ、タンクトップと、男は次々に脱いでいく。
 そこまではまあ普通の流れだったのだが、上半身が裸になると、彼は太い腕を上げて、ガッツポーズをしたから驚きだ。
「うおおおお! 俺の肉体を見ろおおおっ!」
「……やばい大人がいる」
「……あのおじさん、こわい」
 後ろから戦いを見ていた、共夜と瑞樹はぽつりと呟いた。
 本来は明るい性格とはいえ、さすがにローティーンの子たちには、少々刺激が強すぎたようだ。
 これはなんかもう、気の毒だ……この子たちが。
 テオドアは、瑞樹の小さな肩に手を置いた。
「大丈夫? ああいう人ばっかじゃないよ、たぶん」
「そうそう、次はテオ君が勝負するから、心配しなくていいぞ」
 何が心配しなくていいのか、順番までに猶予はあるって意味で?
 わからないが、そう言われれば、次は自分が行くしかない。テオドアは一歩を踏み出した。
「じゃあ、行ってくるよ」
 対して、出てきた常連客は、細身の若い男性である。
「あ、あの、お願いします……」
 ぺこりと頭を下げられて、もやしみたいな顔を見ていると、なんだか拍子抜けしてしまう。
「……取り敢えず、じゃんけんしましょうか」
 テオドアは相手に合わせて頭を下げて、手を出した。
 しかし後ろでは、なぜか負けろ負けろの、負けろコール。
「テオ君、勝ち続けたらつまらないからねぇ、空気読んでねぇ」
「なんで俺がそんなもの読まなくちゃいけなんだよ! それにこれは勝負なんだから――」

 と、いう流れで。
「じゃーんけーん、ぽん!」
 男がおずおずと出したのは、パー。テオドアが出したのは、グーである。
「ここまで勝負事に弱いとなると俺、呪われてるのかな……」
 拳を見つめるテオドアの後ろで、あああ、残念! とスウィンと瑞樹の声が聞こえた。
 しかしハルトは大喜び。
「さあテオ君脱ごうねぇ、一枚ずつ脱いでいこうねぇ」
 テオドアは相棒を振り返り、大きな声を出す。
「ハルト! お前が後ろで、負けろ負けろ散々言うからだ! どっちの味方だよお前は!」
「そんなのテオ君の味方に決まってるだろ?」
 言うくせににやにや笑っているのが、いくら相棒とはいえ、いや、相棒だからこそ? いらっとする。
 だが、勝負の相手が申し訳なさそうに「脱がないんですか」と言ってくるので、あまり騒いでもいられなかった。ハルトがうるさいとはいえ、ルールなら仕方がないのだ。
「とりあえず、上着からでいいのかな」
 テオドアは、なぜか常連たちがガン見している視線を感じつつも、上着の身ごろに手をかける。
 と、突然。
 さっきまでによによ笑っていたハルトがやって来て、がしいっとテオドアの手首を掴んだ。
「やっぱりちょっとタンマ!」
「は? なんでだよ!」
「なんでってそりゃあ……」
 当初は、ハルトも、常連グッジョブ!!!!! と思っていたのだ。
 だって公然とテオ君脱がせるんだぜ? 今までいろいろやって来たけれど、こんな面白いことがあったか? いや、あったかもしれないけれど、それでもやっぱり面白い! とか思ったりなんなりで。
 だがしかし、テオドアが上着を脱ごうとするのを見て、唐突に冷静になった。
 ……このままテオ君ここでひん剥くとなると、当然ながらそんなテオ君の姿をこの常連客にも見せることになるわけで……いやそれはないだろう、ちょっと待とう!
 ――ということでのタンマである。
「ここで脱いだりしたらもしかしたら常連の皆さんによからぬ考えがよぎったり、脳内であんなことやらこんなことやらされてテオ君がえらいことになる可能性だってある!」
 もはや建前も、手に入れたと思った冷静さもなにもあったものではない、力いっぱいの発言に。
「……あらあら、やっだあ」
 元気に笑うのが、スウィン。
「いろいろ、だだ漏れすぎだろ」
 突っ込むのがイルド。
「あんなことやらって、どんなこと?」
 首を傾げるのが瑞樹で。
「とりあえず、考えるな」
 アドバイスするのが共夜である。
 紅竜は無言かつ無表情だった。簾も表面上は、穏やかな表情を崩さない。
 一応彼らは負けたわけだから、労わりの言葉をと思わないでもなかったが、ショックを受けている様子はないし、言えば逆に、この空気を冷ましてしまうだろう。
「……なにがそんなに楽しいんだろうね」
 簾は誰にも聞こえぬ声音で呟いた。はっきり言えば、理解不能である。

 さて、仲間の胸の内などいざ知らず。
 ハルトは、それどころではない。だって今、テオ君のピンチなのだ。
 ひとり拳を握って、大音声。
「それはとても危険だ! 俺が代わりにやる!」
「……そうだな、危険だな」
 ――お前が。
 とは言わず、テオドアはそれ以上、口も出さない。
 若干……いや、かなり? 呆れてはいる。でも、変わってくれるならそれでもいいか。別に脱ぎたいわけじゃないし、というのが本音である。
「なんだ、そっちの兄ちゃんじゃねえのか!」
 スウィンとの戦いに負けて、上半身裸になっている常連が、残念そうに言ってきた。だがハルトは、ぽぽいと上着を一枚脱ぎながら、べえっと舌を出す。
「駄目ですー。俺のテオ君なんですー。誰にも見せられませーん」
「お熱いうえに、良い脱ぎっぷり♪ 惚れ惚れするわ~。ひゅ~ひゅ~♪ もういちまーい!」
 スウィンはぱちぱちと手を叩いた。熱いなんてそんな、とテオドアは焦っているが、ハルトはノリノリで、次の一枚をばさあっと脱ぎすてた。
 なぜか常連客からもひゅ~ひゅ~と聞こえるのが気になるところ。誰が脱いでもいいものなのか。そうなのか。
「次は……」
 脱いだハルトは、まだ順番がきていないメンバーに目を向ける。
 と、小さな手が、ずいっと上がった。瑞樹である。
「はいはい、僕! 今日はなんか調子いいし、根拠はないけど勝てる気がする!」
 彼は長い髪を揺らして、ぴょんぴょんとその場で小さなジャンプを繰り返した。
 しかし共夜は、真逆の不満顔。
「おい、フラグ立てるなよ、みずきち!」
 なんか無駄に自信を持ってるから、これぜったい負けるやつだ。勝てる予感がまるでしない。
 さすがにそこまで言うのはどうかと思ったので黙っていたが、瑞樹は、ぷうっと頬を膨らめる。
「フラグじゃないもんおじさんたち返り討ちにしちゃうもん!」
 と、そこに出てきた相手は、立派な顎ひげを蓄えた老人だ。
「お嬢ちゃんを負かすわけにはいかんから、仲間で一番弱いわしが出てきたよ」
『弱い』の言葉に共夜は少し安心するも、瑞樹は唇を尖らせた。
「僕はお嬢ちゃんじゃないよ!」
「おや、それは失礼」
 老人は、本当にそう思っているかわからない感じに、ほっほと笑い、しわしわの手を出してくる。
 そうなれば、瑞樹もいつまでも拗ねていることはできない。
「では、お願いしようかの、お坊ちゃん」
「うん! じゃーんけーん……」
 仲間が見守る中、勝負開始! 結果は――。

「……負けちゃった。勝率半々かぁ……」
 瑞樹はしょぼんと肩を落とした。だが相手の老人も、申し訳なさそうに、しょんぼり頭を下げている。
「すまんねえ、一番弱いんじゃが……」
「気にしないで、おじいちゃん! 負けたものは仕方ないし、僕脱ぐよ!」
 言い切った瑞樹に、スウィンが心配そうに、声をかける。
「大丈夫? 無理はしないようにね。なんだったら頼もしいパートナーが代わりに脱いでくれるわよ。ね!」
 いかにも『瑞樹に脱がせるわけにはいかない、俺が脱ぐ!』と言いだしそうな雰囲気の共夜を見て、スウィンはそう言ったのではあるが、共夜の気持ちは残念ながら、瑞樹には、まったく、全然、1ミリも届いていなかった。
「ありがとうございます、でも大丈夫!」
 言うなり瑞樹は靴を脱ぎ、緑のパーカーを肩から落としたのだ。
 おおおおい、勝手に脱ぐなああ! とはさすがに叫べず、ぐうっと唇を噛む共夜。
 そんな彼のことは気付かずに、瑞樹は脱いだパーカーを手にして、きょとりと瞬きをした。
「うーんと、これは」
「持っていますよ」
 すかさず手を出し、預かってくれたのは、簾である。
「わ、ありがとう、お願いします!」
 瑞樹は愛らしい笑みで礼を言うと、次に脱ぐものを考えはじめた。
「ズボンにするか、靴下にするか……」
 シャツの丈が長いから、下を脱いでも平気だけれど。
 そんな呟きは、先ほど気前よく、ぽぽい! と脱いだ、ハルトにしっかり聞こえたようだ。
「いいよ、靴下にしとけって!」
「そうだよ、それで三枚分なんだから」
 テオドアも同意を示し、共夜なんか、首が壊れそうなくらいに、ぶんぶん縦に振っている。
「じゃあ、靴下にする!」
 瑞樹はそう宣言し、ずいっと靴下を下ろした。その下から、白くて細くて滑らかな足首が現れる。
 他の連中は瑞樹を年下の少年としか見ていないから問題ないが、これは、同年代の共夜にとってはかなり、インパクトがあるものだった。
「なんかいけないもの見てる気がしてきた……。あれは男、あれは男……」
 ぎゅうっと目を閉じ、男男と呟いて、自己暗示をかける。
 傍目には結構妖しい感じに見えるが、ここに気にする人はいない。
 なぜなら、スウィンがまたも、ぱちぱちと拍手を始めたからだ。
「よく頑張ったわ!」
 え、え? ときょときょとしている瑞樹に、簾も、お疲れ様、と声をかける。
 預かっていたパーカーを返す彼の表情は、誰が見ても穏やかで整った笑顔だった。
 だがその顔の裏側で彼は、この野球拳を、非常にくだらない遊びだと思っている。
 ウィンクルムとしての地盤硬めに参加してこれとは、ついていない、とも。
 しかしそれを顔に出すのは、あまりにも馬鹿げたことであることも、知っていた。
 だからこそ簾は、爽やかな笑顔で、唇を動かしているのである。
「さて、次は僕の番だね。お相手はどなたかな」
「よっしゃ、俺が勝ってやるぜ」
 ここでやっと、店主の登場である。
 彼はにやりと笑うと、大きな手を前に差し出した。
「いざ勝負!」
「ええ、いいですよ」
 穏やかに対応する簾を、紅竜はただ黙って見守っている。
 店主が野球拳を、と言いだしたときに、簾に、野球拳とは何かを教えたのは自分だ。そのときの反応を知るからこそ、今の彼の内心は、見た目とはまるで違うものだと察している。
 無事に勝てば良いが、と思う隣で、他のウィンクルムたちが、声を上げて簾を応援していた。
 簾は彼らを一瞥し、小さく会釈。

「じゃーんけん!」
 店主が歌うように言い、ぽん、と出したのは、パー。簾はチョキである。
「勝ったあ!」
 先ほど負けたばかりの瑞樹が、嬉しそうに両手を上げた。その向こうでは「やるわねえ」とスウィンが微笑んでいる。テオドアは「おめでとうございます!」と柔らかな笑顔を向けてきた。
「ありがとう」
 丁寧に返す簾の前。店主は「くそおおお!」と叫びを上げて、エプロンTシャツその他諸々を脱ぎすてた。
「おいって待てええ!」
 ハルトがとっさに瑞樹の、テオドアが共夜の目を塞いだが、ぎりぎり大丈夫、下半身の最後の砦は着てました。
 よかった、よかったと安堵する中で、瑞樹がくるりと振り返り、ハルトの引き締まったお腹を、たしっ!
「すごい……硬い……さっきから気になってたの」
「お、俺も触るっ!」
 テオドアの腕から抜け出した共夜もぺしぺし手を当てる。
 もしこれが常連客だったならばなんとしても蹴散らすが、ウィンクルム、しかも年下となれば、ハルトも微笑ましく見つめている。
 その傍らで、子供が、すごいすごいと言っているのを見ながら聞きながら、テオドアは、自分の腹に手を置いた。
 薄いというほどではないけれど、ハルトほどに筋力はない。
 俺は割と何やっても細いままだから、ハルの体格がちょっと羨ましいというか。
 ……と、そこではたと気付いた。
 そう言えば俺、最近ハルに抱き上げられる機会多くない?
 いつの間にか、背をハルに抜かれてたときと同じくらいにショックだ。
 視線は動かさずに、はあ、とため息をつけば、子供らの相手をしていたハルトが一言。
「なに、見惚れた?」
「見惚れてない! ほら、終わったんならサッサと着ろよ、風邪引くだろ!」
 その向こうでは、いつの間にか店主と仲間の常連たちが、ハイタッチを交わしていた。
「二勝二敗! いい勝負だった!」
「ああ、素晴らしかった!」
 なにを言っている、とイルドは呆れた視線を向けて……いつの間にか、勝った常連までが、脱いでいることに気付く。
「向こうは勝っても負けても痛くないなら、釣り合いとれてねーな……」
 確かに食事は美味かったが、もう二度とこの店に来るのはやめよう。
 イルドはひとり、固く誓ったのだった。

 帰り道、テオドアとハルトが、瑞樹と共夜を送って行った。
 年若いふたりを放っておけなかったのだろう……まあ、送るふたりも若いのだが。
 それでも彼らなら大丈夫だろうと、スウィンはご機嫌で、イルドはいつも通りの仏頂面で歩いている。
「あ~楽しかった! いい慰労会になったわね」
 スウィンはふらふらとした足取りで、腕を大きく振りながら、イルドを見上げた。
「飲んではしゃいで日頃の疲れも吹っ飛んだわ。これでまた明日から頑張れる~」
「……俺はむしろ疲れがたまったぞ」
 よろけてつまづいたスウィンを支え、イルドは呟いた。だがそう言いながらも、おっさんが楽しかったならいいか、と思っているのも事実。
 スウィンはイルドの手を握り、ありがとうと微笑んだ。
 しかしその後に続くのは、不吉な言葉。
「またいつか行きましょうね☆」
 ぱちーん! とウインクまで添えられたが、イルドは叫ぶ。
「行くか!!」
 さっき行かないと決意をしたばかりなのだ。絶対行かねえし、行かせねえ!
 スウィンは「そお?」と首を傾げて、しかしイルドの手は離さなかった。

 一方。
「脱がなくて助かったよ」
 簾は、傍らの紅竜に、落ち着いた声音で言った。
 対戦相手が知った人間ならば、何を出すか予想できることもあるが、全くの初対面では、勝利はまさに、神のみぞ知るところ。今回は、まさに運が良かったのだ。
 だが、そんな簾の耳に、淡々とした声が届く。
「簾さんは負けても脱ぐことはなかっただろう。ボディーガードの私が代理で脱いだだろうから」
 それを聞いた瞬間、簾は絶句し、足を止めた。
 この男はなにを考えている。
 そこまで仕事に含める必要ないだろう。
 熱心なのは良かれと思ってもいいはずなのに、なぜか胸がざわついた。
 ただ、こうなる意味がわからないのが、いらつく。
 黙り込んだ簾を、紅竜はちらと見る。
 変なことは言っていないが、と思うも、彼の顔が微妙に赤いことから察するに、どうやら、変なことだったらしい。
 だが、たぶん本人は、無自覚。案外可愛い一面がある男なのかもしれん。腹が黒いのは、どうしようもないが。
 じっと見つめていると、視線に気付いたらしい簾と目が合った。
 すっと細められる茶色の瞳。
 ――この男は、本当になんなんだ。
 紅竜は、不信感表れる眼差しに、これこそが簾だと思い、しかし何も言うことはしなかった。



依頼結果:成功
MVP
名前:スウィン
呼び名:スウィン、おっさん
  名前:イルド
呼び名:イルド、若者

 

メモリアルピンナップ


エピソード情報

マスター 瀬田一稀
エピソードの種類 ハピネスエピソード
男性用or女性用 男性のみ
エピソードジャンル コメディ
エピソードタイプ ショート
エピソードモード ノーマル
シンパシー 使用不可
難易度 簡単
参加費 1,000ハートコイン
参加人数 4 / 2 ~ 4
報酬 なし
リリース日 05月10日
出発日 05月17日 00:00
予定納品日 05月27日

参加者

会議室

  • どーも、ハルトでっす!
    いやーテオ君てばまた安定の弱さ…

    いやいや大丈夫っすよ!
    こっちとしては常連達にむしろ「よくやった」って言いたいくらいなんで!
    さあテオ君脱いでいこうねえ
    …いや待てよ、このままテオ君がここで脱ぐとなると(略)
    やっぱり俺が(ぶつぶつ)

  • [6]瑞樹

    2016/05/14-17:02 

    スウィンさん心配ありがと。
    でも大丈夫、ちょっと服脱ぐだけだし。
    どれを取ろうかな~(ノリノリ)
    …えっと、野球拳って靴から脱ぐんだっけ?

  • [5]スウィン

    2016/05/14-11:33 

    楼城とおっさんが勝ち、瑞樹とテオドアが負けね。負けた二人は大丈夫?
    おっさん達が代理になる事もできるけど…パートナーもいるし、その心配はいらないかしら?
    おっさん酔ってるから、ノリノリで脱ぐ人にはからかいの野次飛ばしたりすると思うわ。
    絡みはOKだから何かあれば言って頂戴ね。

  • [4]スウィン

    2016/05/14-11:25 

    スウィンとイルドよ。楼城と瑞樹はお初!テオドアは久しぶりね。よろしくぅ♪
    さて、おっさんもやってみるわね~。

    【ダイスA(6面):3】

  • テオドア・バークリーです、楼城さんと瑞樹は初めまして。
    スウィンさんお久しぶりです、今回もよろしくお願いします。

    さてと…俺、こういうのって必ず負けるんだけど…今回はどうなるかな。
    (ハルトの負けろコールを聞き流しつつ)

    【ダイスA(6面):2】

  • [2]瑞樹

    2016/05/13-22:39 

    瑞樹です。
    パートナーのきょーちゃん(共夜)と参加するよ。
    よろしくお願いします。

    今日はなんか調子いいんだ、なんかイケる気がする

    【ダイスA(6面):6】

  • [1]楼城 簾

    2016/05/13-09:20 

    楼城 簾だよ。
    今回は紅竜さんと一緒。
    よろしく頼むね。

    勝利の行方はどうなんだろうね。

    【ダイスA(6面):5】


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