ピクニック日和の公園で(瀬田一稀 マスター) 【難易度:とても簡単】

プロローグ

 青葉ひしめく春の日和。

「花見も終わったし公園、すいてるかな」
「たまにはのんびりするか」
「おべんと持ってピクニックだね」
 そんな軽い気持ちで訪れた公園では、遠足で訪れていた子供たちが、楽しい時間を過ごしていた。

「今からおいかけっこをしまーす。先生が鬼になるから、みんな逃げてねー」
「はあい」
「10数えたら追いかけるよ~。いきまーす。いーち、にーい……」
「わあ、逃げろ~」
 小さな手を思いきり振って、ぱたぱた走り出すのは5歳前後の集団だ。

「なあ、おやつなに持って来た? 俺バナナ!」
「え~、それ、デザートでしょ? 私チョコレー……」
「うお、とけてるじゃんそれ!」
 賑やかにおやつの交換をしているのは、たぶん10歳くらいの子供たちだろう。

「遠足とかマジ怠いんだけど。うちでゲームしてた方がいいし」
「この公園、珍しいもんなにもねえもんな」
「なんか暇つぶしないもんかね」
 周囲に目を向け、あれこれと話しているのは、きっと15歳くらいの学生たち。

 そんな彼らは、どこかの遠方からやってきているのか、あなたたちウィンクルムを見ると、興味深そうに寄ってきた。

「ねえ、お兄ちゃんたちは、恋人同士?」
「そうなの? じゃあ、パパとママみたく、ちゅーできる?」

「ウィンクルムって、人間と精霊のカップルなんだろ?」
「じゃあちゅーくらいできて当然だよな」

「なに、キスすんの?」
「ここで? へえ、やるねえウィンクルム」

 期待に満ちた子供たちの視線が、あなた達に向いている。
 さて、どうしましょうか。

解説

お弁当や飲み物を買いました、ということで、300jrいただきます。ご了承ください。

ピクニックに訪れたつもりが、子供たちに囲まれてしまいました。
純粋な5歳、おませな10歳、暇な15歳。
さて、どう対処しますか?

その場でちゅーしちゃいます?
それとも、手を取りあって、人の少ないところまで逃げちゃいますか?

今みんながいる場所は芝生の広場のつもりですが、その他、広い公園にありそうな場所を設定していただいて構いません。

昼間のピクニックデートをお楽しみください。


ゲームマスターより

こんにちは、瀬田です。
ピクニック日和ですね。
描写は指定がない限りウィンクルムごとになりますので、園内の自由な時間をお楽しみください。
最初に子供たちには会いますが、彼らはいい子なので、ウィンクルムを追ってくることはありません。
いじめないであげてください。

リザルトノベル

◆アクション・プラン

アルヴィン=ハーヴェイ(リディオ=ファヴァレット)

  良く晴れてて暖かいし、ほんとピクニック日和って感じだねぇ。
お弁当も買ったし、のんびりしながら一緒に食べよ?

(子供たちに囲まれ)
ええと、そのちゅーって人前でするものじゃないし…そのえっと。
するのが嫌とかそういうんじゃないんだけど…。
うぅ…どうしよう…。
…あ、お、オレ達ちょっと急いでるからもう行かないと(いたたまれなくなり、リディオの手を取って人気の少ない所まで逃走)

…はぁ、ここまで来れば大丈夫かな。
あの子達にはちょっと悪い事をしちゃった…かなぁ。
でも、人前で何てオレにはハードルが高すぎるよ…っ。
…えっと、気を取り直してお弁当食べよ?この辺りだったらのんびりできそうだし。


セイリュー・グラシア(ラキア・ジェイドバイン)
  遠足日和だから、子供達がイッパイだな!
皆楽しそうでいいじゃん!
ラキアの作ってくれたお弁当がウマいんだぜ(もぐもぐ。
ん?
おませさん達、カップルのみキスするものだと思ってるのか。
甘いな。
お兄さんが良い事を教えてあげよう。
キスは挨拶だ!(力説:こう考えているのはホント
だからオマエ達にだって、してあげてもいいんだぜ(にやり。
(考え:子供達怯むかな?)

子供達よりラキアが色々とぐるぐる思考廻っちゃっている表情してるのがおもしれー。
目の前で手をひらひらさせても気がつかない。
よしよし、ラキアの頬にキスして現実に引き戻そう。
「はい、ラキア、おかえりー」にこっ。
ラキアの頭なでなで。
「で、お子様達もして欲しいか?」


蒼崎 海十(フィン・ブラーシュ)
  子供達に囲まれて固まる
恋人?と聞かれて、上手く返事が出来ない
何だ、これ、恥ずかしいぞ…

フィンは余裕な様子で、逃げるかと聞かれて首を振る
フィンばかり余裕でムカつくし、ここで逃げる大人は格好悪いと思う

…見せてやろうじゃないか
フィンと呼んで、襟首をぐいと引き寄せて、素早くキス
子供達にクールに微笑んで見せる(ドヤァ

じゃあなと手を振って、フィンの手を掴んで離脱
…歩きながら、どんどん羞恥心が込み上げて来た
…フィン、笑うな
悪かったな、負けず嫌いで!あと、可愛いとか言うな!
大体、フィンが余裕な態度だから俺だって…
…機嫌直して欲しかったら…何でもない
(どうかしてるな…俺)
フィン、早く弁当を食べよ…!?……バカ…


セラフィム・ロイス(トキワ)
  !行きたい
あ。蓮華草あるかな?なくても花冠の作り方ってわかる?
そうか…
(トキワの描いてる姿みたいし、咲いている内に蓮華草の花冠をタイガにあげたかったんだ。調べていこう(タイガ依101)
覚えた料理の評価も知りたいしお弁当を持参して栄養つけてもらわないと)

■シートの上サンドイッチ弁当持参。寛ぎ
違っ?!僕らはウィンクルムだけど恋人同士じゃなくて家族みたいなもので
キスなんて…!
(僕にはタイガがいるんだ!そんな風にみえた…?信頼は置いてるけど)
でも…

そうなんだ(少しだけ顔が怖かった

■諦めてくれたら
よかった
…経験済みだから言えた台詞みたいだ

わかっていたけどね
ありがとう
お礼に花冠とお弁当あげるね


●どうやらキスは、いきなりできるものではないらしい

「公園にスケッチに行くんだが、一緒に来るか?」
「行きたい!」
 セラフィム・ロイスは、勢いよく、長身のトキワを振り仰いだ。
 この時期の公園ならば、きっとたくさんの花が咲いているだろう。
「蓮華草あるかな? なくても花冠の作り方ってわかる?」
 うきうきと尋ねると、トキワは顔を歪めて、一言。
「男に期待するな」
 あ、そうか、と一瞬肩を落としかけるも、セラフィムは、そうじゃないと首を振った。
 トキワが絵を描いている姿を見たいし、咲いてるうちに、蓮華草の花冠をタイガにあげたい。
 わからないのならば、調べていけばいいのだ。
 覚えた料理の評価も知りたいから、お弁当を持参していこう。
 トキワには、それこそタイガみたくもりもり食べて、栄養をつけて欲しかった。

 サンドイッチを持参して、公園へと足を運んだ。
 陽光に輝く木々の緑は美しく、青い空によく映えている。
 この陽気のためもあるだろう。周囲には、遠足で訪れたらしい子供達が、賑やかに遊んでいた。
 それを遠目に見る芝生の上に、持って来たシートを敷く。その間に、トキワはスケッチの準備を始めていた。
 取り出されるたくさんの画材達。それが興味を引いたのか、5歳ほどの子供達が、わらわらと集まってきた。
 最初は愛らしい子達が「おじさん絵を描くの?」「上手ねえ」などと言っていたはず。
 それなのに、10歳児がやってきて、15歳の少年達が寄ってくる頃になると、話題はなぜか変わっていた。
「ウィンクルムはキスするんだろ?」
 ませた瞳に見上げられ、セラフィムは焦ってひらひらと手を振った。
「違っ?! 僕らはウィンクルムだけど恋人同士じゃなくて家族みたいなもので、キスなんて……!」
 つらつらと息継ぎもなく否定しているのは、ここにはいない彼のため。
 僕にはタイガがいるんだ! と、虎の青年を頭に思い浮かべるも、少しは動揺もあった。
 それは、自分とトキワが、そんな風に見えたのか、ということ。
 確かに信頼は置いてるけれど、と悶々としているセラフィムの横で、トキワはひっそりため息だ。
 スケッチで悪目立ちしてるのか。めんどくさい。
 とりあえずセラフィムには「ほっとけ」と短く告げる。
 子供が期待するように、キスができないわけじゃない。でも俺が良くても、コイツが傷つく。いや、良くはねぇけど。
 下手にキスでもしようものなら、彼が『壊れる』と断言できる。見てきた身である。ハズレはないだろう。
 しかし子供は容赦なく、ちゅーコール。
 トキワはいよいよ、絵を描くのをやめた。
 セラフィムの周りにいる少年達に、向き直る。
「ウィンクルムが全部恋人同士とは限らねぇんだぞ、坊主共」
 ええ、そうなの、と驚く子供達。
 おいセラ坊がさっき似たようなこと言ってただろうがと思いはするが、優しげに見える彼だから、おそらくは聞き流されてしまっていたのだろう。
 ったく子供って奴はと、ぐるりと見回し「例えばだ」と口を開く。
「ある日突然、手に印が現れて、人から『あなたのパートナーは彼です』と言われるんだぞ? 隣の奴や爺さんや赤ん坊だったりする、意識するか?」
 5歳児にはわからないようだが、それ以上の子達は「しない」「無理」と言いだした。
「ほら、これでわかっただろ。行った行った」
 トキワは追いやるように、しっしと手を振った。なんだつまらない、と去って行く、年長組達。小さな子達には、そのへんに飛んでいる蝶のスケッチを描いて渡してやると、嬉々として、園の先生のもとへと走って行った。
「よかった、諦めてくれた。……経験済みだから言えた台詞みたいだ」
 セラフィムが、安堵の笑みを見せる。
「そりゃあ、当人がいるしな」
 最悪、トランスを見せるしかないと思った……というのは、トキワの胸に秘め、彼は返事をする。当然セラフィムは、そんな思いには気付かず。
「わかっていたけどね。ありがとう」
 そう言って、なにやらごそごそ、シートの上でやり出した。
 なにやってんだと少しの間眺めた後に、トキワは再び、スケッチを再開する。
 時間は――頭の上に、花冠が載せられるまで。
「お礼に、この花冠とお弁当あげるね」
「……あ? って、コラ」
 ふわりとかぶせられた冠に手で触れて、トキワはしかたねえな、と苦笑した。

●どうやらキスは、人前ではしないものらしい

 アルヴィン=ハーヴェイとリディオ=ファヴァレットは、並んで空を見上げている。
 見渡す限り、青一色。天気良好、風はなし。
「よく晴れてて暖かいし、ほんとにピクニック日和って感じだねぇ」
「やっぱり、晴れてるのが一番かな。夏とかだと少し位、雲があったほうが良いかもしれないけど」
 ふたりは、周囲に咲いている花を見て、遊んでいる子供達の声を聞きながら、ゆっくりと園内を進んだ。
 芝は青々と瑞々しく、素足で歩いたら気持ちが良さそうだ。と、考えることは皆同じ。
 遠くに、まだ靴を履かない赤ん坊を連れた母親が、我が子を抱いて、寛いでいる。
 それを見、アルヴィンはその場に、持っていた荷物を置いた。
「お弁当も買ったし、オレ達ものんびりしながら、一緒に食べよ?」
 ねえ、リディ。
 言えば、リディオは、そうだね、と笑顔を向けてくれる。
 なんて穏やかな時間だろう。こういうのもいいな、と思ったところで――。
「ねえ、お兄ちゃん」
 子供達が集まり、ちゅーコールになった。

「ウィンクルムなら簡単でしょう?」
「大丈夫、俺達しか見てないから!」
 小さな子達に囲まれて、アルヴィンは、すっかり困惑顔だ。
「ええと、その、ちゅーって人前でするものじゃないし……」
「お兄ちゃん、するの嫌なの? そっちのお兄ちゃんのこと、嫌いなの?」
「いや、するのが嫌とかそういうんじゃないんだけど……」
「ならいいじゃない!」
 おませな子達は、ぐいぐいとアルヴィンに詰めよってくる。
 うぅ……どうしよう……。
 期待に満ちた純粋な眼差しが、正直痛い。
 困り切ってリディオを見ると、彼も子供を、どう扱っていいのかわからない様子だった。
 もうだめだ!
 アルヴィンは、リディオの手を取って立ち上がる。
「……あ、お、オレ達ちょっと急いでるからもう行かないと! ごめんね!」

 左手に荷物、右手にリディオの手を掴み、アルヴィンは公園の奥へと進んでいった。
「……はぁ、ここまで来れば大丈夫かな」
 木の下のベンチまで来たところで、遠く子供達を振り返る。
 ちょっと悪いことをしてしまったかとは思うけれど、人前でキスをするなんて、ハードルが高すぎる。
 ただ、黙ったままのリディオには、ちゃんと説明しないといけない。
 アルヴィンはベンチに座り、隣のリディオに向き直った。
「……ええと、その、さっきの事なんだけど。……リディに嫌な思いをさせちゃったらごめんね? 何か、その、逃げ出しちゃったし……」
「それは気にしてないよ。子供達に囲まれて、大変だったよねぇ」
 苦笑するリディオは、いつだって優しい。
 だからこそ――。
「俺はリディの事、嫌いじゃないからね」
 はっきりと、そう断言した。
「さっき人前で……とか言ったけど、リディとキスする事自体はドキドキするけど良いっていうか、寧ろリディとじゃなきゃ嫌だっていうか……人前でするのがダメだったってだけで! だからその、人前じゃなければ大丈夫……だから」
 勢いよく始めた説明は、最後、ごくごく小さな声となる。
 恥ずかしい、何言ってるんだろう、オレ。
 意識してしまうと顔が熱くて、真っ赤になっているだろうことは容易に想像できた。
 しかし、目の前で「あの……うん」と答えるリディオの顔も赤いから、問題はないだろう。うん、そういうことにしよう。
「……えっと、気を取り直してお弁当食べよ? この辺りだったらのんびりできそうだし」
「そうだね、せっかく買ってきたんだし、食べないと勿体無いし」
 ふたりはそれぞれ荷物の中から、弁当を取り出した。
 それは初夏の色鮮やかな公園に相応しく、実に華やかなものだった。
 卵やハム、ポテトサラダが挟まったサンドイッチに、ボリュームたっぷりのから揚げ、そして真っ赤なトマト。
 それを、いただきますと食べ始め、美味しいねと笑いあって、ごちそうさまと言う頃には、ふたりの間に流れていた、微妙な空気はすっかり消えて、いつもどおりになっていた。
「お腹いっぱいになると眠くなってきちゃうね、お昼寝でもしたくなっちゃう」
 いかにも眠そうなリディオに、アルヴィンは言う。
「オレの肩、よりかかっていいからね」

●どうやらキスは、挨拶らしい

「遠足日和だから、子供達がイッパイだな! 皆楽しそうでいいじゃん!」
 セイリュー・グラシアはそう言って、周囲に走り回る子供達を見回した。
 かく言うセイリュー自身の瞳も、喜びにきらきら輝いている。だがそれは、子供達が愛らしいからではない。弁当が、とてもとても美味いからだ。
「ほんと最高だよな、ラキアの手作り」
 一口大に切られているカツを、フォークでさして、口に入れ、ほうっと感嘆の息を漏らす。
 ほかにも唐揚げと肉巻きがオレを待っている。食べても食べても肉がある。好みを知ってるラキアの手作り。本当に、なんて幸せだろう。
 そんな彼を前に見て、ラキア・ジェイドバインは苦笑した。
「セイリューが喜ぶお弁当って、お肉率が高いんだよね」
 もちろん美味い美味いと食べてくれるのは嬉しいし、健康的でいいとも思う。
 だけど、やっぱりつい、言ってしまう。
「野菜もちゃんと食べてね、ほら、こっちに入っているから」

 そんなところを、子供達に囲まれて、ちゅーコールとなったわけである。

「おませさん達、カップルのみキスするものだと思ってるのか。甘いな」
 セイリューが、いかにもお兄さんぶった口調で言う。
 ええ、違うの? じゃあ誰とするの? と声を上げる子供達。
 その反応は、この年齢の子ならば当然だろうに、セイリューは胸を張り。
「お兄さんが良い事を教えてあげよう。キスは挨拶だ!」
 漫画ならばきっとアップになっている勢いで、断言した。
「だからオマエ達にだって、してあげてもいいんだぜ」
 にやりと笑っている顔が、からかいなのか本気なのか、微妙なところで、ラキアはすこしばかり焦っている。
「ちょ、セイリュー。なに小学生に、誤解を生みそうなこと吹きこんでるの」
 もしかしたらセイリューは、こう言えば子供達が逃げるとか考えているのかもしれないけれど、彼の場合、本当にキスは挨拶って考えだ。
 言う通りに、子供にちゅーしたらどうしよう。唇はもちろん、それが頬でも絶対相手は驚くだろう。
 どーしよ、どーしよ、と思考はぐるぐる。
 この子達は、うちの子(猫)達――とは違うんだよ。そう簡単にちゅーなんて。
 ラキア本人は気付かないが、心配と混乱と驚きとなにやらいろいろで、もはや百面相である。
 こうなるとセイリューは、目の前の少年少女よりも、ラキアの反応が面白い。
「おーい、ラキア―」
 足元に広がる芝のように鮮やかな、緑の目の前で手をひらひらさせてみるも、彼はまったく気付かなかった。
 挨拶のキスひとつ、そんなに動揺することか?
 まあなんにせよ、これは一大事、はやく現実に引き戻さなければ。
 再びにやり。セイリューの口角が上がる。
 一方ラキアは、相変わらずのぐるぐるだ。
 どーしよ、どーしよ。ほんとにちゅーしちゃったら、どうしよう。
 そんな心配いっぱい、ラキアの頬に、柔らかくて温かくて、しっとりした何かが触れた。
 ん? これは……。
 はっと我に返った時には、もう遅い。
「はい、ラキア、おかえりー」
 ほっぺにちゅーした張本人、セイリューはにこにこと笑ってラキアをむかえてくれた。
 周囲では、わあああ、とどよめきも起こっている。
 ふ、ふえっ。子供達に見られた!
 思わず、キスされた頬を手で押さえるも、動揺してはいけない。だってこれは。
「あ、あああ、挨拶だからね、このぐらいね」
 なんとか平静を保とうとしても、そんなことできるはずはなかった。顔が熱い。
 セイリュー、不意打ちなんてズルい! 頬赤くなってるよ絶対。恥ずかしいじゃないか!
 叫びたいけど、このキスを挨拶と信じ切り、見上げる瞳がまだあるから、ラキアは唇を噛んで黙り込む。
 セイリュー、トランスの時とは違うから! 人前で、そうぽいぽいしていいものじゃないからね!
 目で訴えてみるが、彼は相変わらず微笑んでいて、しかもラキアの頭を撫でてきた。
「で、お子様達もして欲しいか?」
 じゃないでしょ、なに上から目線的にナデナデしてるの。
 子供がして欲しいって言ったらどうするの。
 ラキアの百面相は終わらずに、セイリューはいよいよ声を出して笑い始めた。

●どうやらキスは、愛しい人とするらしい

 ちゅーう、ちゅーう、と、子供達にコールされ、蒼崎 海十は、思い切り身を固くした。
 隣にパートナーがいるからこそ、そして普段キスとかしちゃう仲だからこそ、これは本気で恥ずかしい。
 それなのに、フィン・ブラーシュは、小さな子達の頭を撫でて、笑っている。
「あはは、可愛い子供達だね」
「お兄ちゃん達はかっこいいね! とっても仲が良さそうだし」
「そう? 恋人同士に見える? だったら嬉しいな」
 フィンが言うと、彼の前に立つ少女は「だったら、隣のお兄さんとちゅーして見せて!」と言ってきた。揺るぎない好奇心に、フィンは苦笑する。
 まあキスくらい、と思わないでもないが、隣にちらりと目をやれば、蒼十は頬をひきつらせていた。
 こういうのは慣れていないのかな? 真面目だから、適当に流せないんだろうな、と予想をし、彼の耳に唇を寄せ、囁く。
「……取り敢えず、逃げる?」
 しかし海十は、左右に首を振った。
 フィンばかり余裕でムカつくし、ここで逃げる大人は格好悪い。
 それに、今フィンが内緒話の体で唇を寄せた時、子供達は「わあああ」と一気に盛り上がったのだ。その期待に、応えてやるのが日頃エンターテイメントを作っている者の務めではないだろうか。いや、そうに違いない。そのはずだ。
 負けたくないのはフィンか子供か、わからないまま、海十は意を決する。
 ……見せてやろうじゃないか、と。
「……フィン」
 名を呼び、彼の襟首を掴んで、ぐいと引き寄せる。
 返事は待たず、キスは一瞬。かすめるように、唇を押し付けた。
 これでどうだとばかりに、小さな観客にクールな笑みを。
 感覚を味わう時間もない口づけは、しかし確かに、彼らの期待に応えていた。
「おおお、すげえっ」
 海十の勝利は、歓声が証明してくれる。
 俺もなかなかやるじゃないかとひとり悦に入り、そのまま、じゃあなと手を振った。
 だが、フィンの手を掴んでその場を離れるも、芝を踏んで歩くうちに、だんだん顔が熱くなってきた。
 俺はなんてことをしたんだ。
 気づけば、唇を真一文字に結び、眉間をきつく寄せている。
 しかも隣からは、くすくすと――。
「……フィン、笑うな」
「ごめんね。海十がさ……負けず嫌いで可愛いなって」
 視線の少し下、真っ赤な耳を見ながら、フィンが言う。
 相手は子供とはいえ、人前であんなキスをしておきながら、この純朴な反応は、本当に罪作りだと思う。
 海十は、耳と同じく赤い顔で、フィンを睨み付けた。
「悪かったな、負けず嫌いで! あと、可愛いとか言うな! 大体、フィンが余裕な態度だから、俺だって……」
 ごにょごにょと聞こえた言葉に、フィンは思わず目を見開いた。
 余裕に見える? そんな馬鹿な。
 いつだって、海十には翻弄されているというのに。
 でも、そうだな。
「俺が余裕に見えたなら、それは海十の前で格好つけてるからだよ」
 フィンは並ぶ海十の手を、そっと握った。
 まだここは、人の多い公園で、だからこれが精一杯。
 海十はちらりとフィンを見上げて、拗ねた顔。
 そして、彼にしては不明瞭な言葉を発した。
「……機嫌直して欲しかったら……」
 言っている間に、自分でもどうかしている、と思った。だから語尾はごまかし、あえて別の話題を振ったのに。
「フィン、早く弁当食べよ……」
 終わりまで、言い切ることはできなかった。
 フィンが、歩みを止めて、繋いでいた手をほどき、海十の身体を、抱き寄せたからだ。
 黒い瞳を見つめたまま、フィンは海十に顔を近づけていく。
 ――機嫌を直して欲しかったら……キスして欲しい。
 その言葉が、聞こえてしまったのだ。
 そんな可愛い事を言われたら、人目なんて気にしていられないよね。
 唇を触れあわせ、わずかに離して、吐息で尋ねる。
「これで、機嫌直してくれる?」
 バカ、なんて言われてしまったけれど、その真っ赤な顔が、また愛しくて。
 でも、もう一度するのは、さすがに……ね。
 代わりとばかり、フィンはゆっくりと海十から身を離し、彼に微笑みかけた。
「お弁当、食べようか? 今日は、俺のデザートをわけてあげるね」



依頼結果:大成功
MVP

メモリアルピンナップ


エピソード情報

マスター 瀬田一稀
エピソードの種類 ハピネスエピソード
男性用or女性用 男性のみ
エピソードジャンル ロマンス
エピソードタイプ ショート
エピソードモード ノーマル
シンパシー 使用不可
難易度 とても簡単
参加費 1,000ハートコイン
参加人数 4 / 2 ~ 4
報酬 なし
リリース日 05月02日
出発日 05月09日 00:00
予定納品日 05月19日

参加者

会議室

  • [5]蒼崎 海十

    2016/05/08-23:05 

  • [4]蒼崎 海十

    2016/05/08-00:08 

  • [3]蒼崎 海十

    2016/05/08-00:08 

    蒼崎海十です。
    パートナーはフィン。
    皆様、宜しくお願いいたします。

    子供ってかわいいですよね…ちょっと困った状況ですけども…。

    よい一時になりますように。

  • [2]セラフィム・ロイス

    2016/05/07-23:14 

    どうも。僕セラフィムとトキワだよ。どうぞよろしく

    困った子たちに囲まれてしまったけど・・・何とかなるよね
    せっかくの休日無駄にしたくないし頑張ろうかな(でも不安顔)


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