【桜吹雪】かわいいぬいぐるみ(真崎 華凪 マスター) 【難易度:とても簡単】

プロローグ

 そういえば。
「誕生日、そろそろじゃなかったっけ」
「え? はい、もうすぐです」
 妹の誕生日だ。
 すっかり忘れていた。
「何か欲しいものとかあるのかな」
「欲しいもの、ですか? そうですね……」
 髪を指先で弄び、しばらく悩む。
 そしてぱっと、何かを思いついたように明るい笑顔を見せる。
「世界にひとつだけのものが欲しいです」
「え?」
「あに様の手作り、とか」
「私が何かできると思ってる?」
「あー……」
 途端に妹が口ごもったのは、この兄の手先の不器用さを察してのことだ。
 料理は、味にこだわりがないため何でも食べるし、繕い物は妹の役目となっている。
 兄が手先を使うようなことをしている場面など見たことがないし、想像もできない。
「まあ、でも、何か用意するよ」
「ほ、本当ですか!?」
 期待と歓喜を見せる瞳に、しまったな、と思う。
 これは本気で手作りをしなくてはならない雰囲気だ。その辺で買ったものならすぐにばれてしまう。
「期待してもいいですか!?」
「いや、期待はしないほうが……」
「わたし、ぬいぐるみが欲しいです」
 人の話を聞いていないな、と、思ったところで言えるはずがない。
 こんなに嬉々とされては――。
「一応聞くけど、何のぬいぐるみ?」
「くま」
「うま?」
「くまです!」
「うしの方が私は好きなんだけど」
「掠ってませんよ!」
 さて……作れるのだろうか。
 思わず天を仰いだ。

解説

依頼主の壮絶なまでの不器用さから、切実なお願いです。
ぬいぐるみを作ってください。

材料は、必要なものはすべて用意されてあります。
パーツは10個。お好きなパーツを、神人さん、精霊さんそれぞれ1つを選んで作成してください。
※文字数節約のため、番号だけで大丈夫です。
 1.顔
 2.胴体
 3.右手
 4.左手
 5.右足
 6.左足
 7.右耳
 8.左耳
 9.しっぽ
10.リボン

2足歩行の、可愛いクマのぬいぐるみを希望しています。
ですが、依頼主が馬と言ったかもしれないし、牛と言ったかもしれません。
どんな顔でも、どんな耳でも大丈夫です。

パーツについては、基本的に相談なしで選んでいただいたほうが、なかなかカオスなものが出来上がるのでは、と期待しています。
(相談していただいても問題はありません。なんなら皆さんででわちゃわちゃ作っても大丈夫です)

作成場所については、庭にヨミツキの咲いている依頼主の家で行っていただきます。
さくっと作って、のんびりまったり過ごして頂いても大丈夫です。
(依頼主は出かける用事があるようです)

依頼主の家は日本家屋のような雰囲気を想像してください。
小さな家なので珍しいものはありませんが、縁側でお花見気分はできるかなと思います。

交通費として、300Jrが必要です。

ゲームマスターより

顔が二つでも、腕が3本出来上がっても、耳の片方がウサギになっても、きっとどうにかなります!
わくわくしてお待ちしていますね。

リザルトノベル

◆アクション・プラン

アンダンテ(サフィール)

 

やっぱり思い出に残る素敵なものにしたいわね
例えすごいものが出来上がったとしても…
まあそれはそれで。忘れられない思い出にはなるはず

不器用さでいったら私もきっと負けてないとは思うけど
大丈夫、多分なんとかなるわ
なんたって私にはサフィールさんがついているもの
フォローお願いね?
流石に私もプレゼントを血染めのくまにはしたくないし…
真剣な表情で針を見つめ

じゃあ私はしっぽを作ってみようかしら
くまのしっぽ…ふわふわっとした感じに作れば大丈夫かしら
痛い!(早速刺す

サフィールさんの手は魔法の手ね
私もそんな風にできたらいいのに

なあに?私は何をすればいいの?ねえ
そこで黙っちゃだめよサフィールさん!
気持ちは分かるけど!


ファルファッラ(レオナルド・グリム)
 
ぬいぐるみを作るわよ!
ぬいぐるみと言えばたしかに「くま」は王道だよね。
私のぬいぐるみはくまはくまでも熊猫だけど…パンダは最高よ。
という事で私は右手を作る。黒の生地で爪は鋭く。
それはお前のぬいぐるみと同じ手ではないか?その通り。
やっぱりくまはくまでも熊猫。パンダが最高だと思うの。
だから二人でパンダの右手と右足を作るの。
…鋭い爪はいらない?これが可愛いんじゃない。
可愛いだけじゃつまらないもの毒だって必要よ。

…うーん、今気付いたんだけど私お裁縫ってまともにしたことなかったわ…服のほつれとかボタンとかはレオが直してくれたし。
逆にレオは器用と言うかさすが独身。いつでも結婚してあげるわよ。


エリー・アッシェン(モル・グルーミー)
  部位8

心情
人にプレゼントするものなので、私のホラー趣味を発揮するのは抑えた方が良さそうですね。

行動
特に手芸は得意ではありません。簡単そうな部位を担当しましょう。
二色のフェルト生地で左の耳を作りますね。耳の内側桜色、外側若葉色。

頑張ってみましたが少々歪に伸びた耳に……。
クマの耳というよりポニーの耳に近いですね。

完成後、庭の桜を見ながら雑談。
ずっと手元の針に集中してたので、綺麗な桜を眺めると目の疲れがとれる気がします。
モルさん、色々こだわって顔を作ってましたね。

皮肉には皮肉で応じる。
まったく、嫌味を言わないと死んでしまう病気ですか?
こんな陰険な人が可愛いクマの顔を縫ったなんて、信じがたいことです。


エルナ・バルテン(ロードリック・バッケスホーフ)
  1 スキル:裁縫
…え、ええと。なに…?
相方に手元を見られていることに気づいた
…近所の子に作ってって言われることもあって…
でも、あんまり上手くないけど
途中まで縫ったのを見つめ
えっ!? なんで今…?
う、馬…だったかなぁ…?
で、でも! ぬいぐるみと言えばクマが定番ですしっ
クマで合ってる。…はず……
声のボリューム低下
とりあえず、クマのつもりで作りましょう…

う、うーん…こんな感じ? 私的には上手くいったと思うけど…
出来たのは定番の可愛らしいクマの顔
よ…っ!? そ、そういうのは良いからっ
バッケスホーフさんはお裁縫、どこかで習ったの?
あ、なるほど……


ユラ(ハイネ・ハリス)
  1.
手足はなくても大した問題じゃないけど
顔はないとホラーになるってハイネさんに言われたから…
まぁ誰かと被っても、多頭生物だと思えば問題ないよね!

意外、ハイネさん器用だから何でもできる人だと思ってた
私が教えるなんて、ちょっと新鮮だなぁ
(でも一度で覚えちゃうのはさすがというか、なんというか…

誕生日の贈り物なんだから、ちゃんと可愛いの作らないとね
なるべく手触りのいい生地で、大きな目のウマ…じゃないクマの顔を作るよ
(精霊のを見て)…え、どうしてこうなった?
せめて動物は一つに絞って欲しかったなぁ!?皆さんスミマセン……

他の人のパーツに上手く馴染めばいいなぁ(精霊のはともかく
どんな仕上がりになるのか楽しみ



「ぬいぐるみを作るわよ!」
 多様に用意された、製作に必要な材料の数々を広げ、ファルファッラが言う。
「ぬいぐるみを作るのはいいが、この作り方には少々不安があるな」
 レオナルド・グリムの不安はもっともだ。
 一人一つのパーツを作ってくれと依頼主は言ったが、パーツの指定がなかった。
 ただ、クマのぬいぐるみを作ってほしいという要望だけはあった。
「ぬいぐるみと言えばたしかに『くま』は王道だよね」
 そう言いながら手にしたのは、黒い生地。
 レオナルドはその瞬間から何とも言えない視線を送っている。
「私のぬいぐるみは、くまはくまでも熊猫だけど……。パンダは最高よ」
 ――ああ、やっぱり。
 ファルファッラが黒い生地に手を伸ばした瞬間から、分かっていた。
 もしも、パペットマペットで出せるぬいぐるみが消えないのなら、それをプレゼントに渡すこともできるのだが、如何せんあれはスキルだ。
 しかも戦闘スキルなのだから、どう考えても無理だ。
「それはお前のぬいぐるみと同じではないか?」
「その通り。やっぱり、同じくまでもパンダが最高だと思うの」
 まったりとした愛らしい歩行。
 笹をかじる仕草。
 よく見ると鋭い目つきと爪。
 色をよく間違えられてしまうしっぽ。
 どれをとっても可愛い。可愛いのだが。
 ――ファルに任せるとどうなるか分からん。
 ファルファッラの持っているパンダのぬいぐるみは――かわいいの範疇がちょっと一般的ではなかった。
「二人でパンダの右手と右足を作るの」
 持参していたパンダのぬいぐるみをそっと目の前に置く。
 レオナルドが指摘した通り、そのぬいぐるみと同じものを作るつもりだ。
「爪はやっぱり鋭くないとだめよね」
「鋭い爪はいらんだろう」
「これが可愛いんじゃない。それに、普通に可愛いだけじゃつまらないもの」
 ファルファッラは真剣だ。
「毒だって必要よ」
「毒はいらん毒は……」
 二人で黒い生地を手に、ファルファッラは右手を。
 レオナルドは右足を作り始める。
「あ、爪のパーツもちゃんとあるのね」
「……あるのか」
 この依頼主、本当に大丈夫だろうか。
 表向きはファルファッラに合せてパンダの右足を作ったが、もう一つ。
 予備として普通の右手足も作っておいた。
 ――やはり少女に似合うぬいぐるみと言えば、これだろう。
 愛らしいベアを思い浮かべながら、丁寧に作っていく。勿論パンダの手足も。
 ファルファッラの右手は確実に毒を含みつつある。爪にこだわりを感じる。
「……うーん、今気づいたんだけど、私お裁縫ってまともにしたことなかったわ」
 手を止めて、ファルファッラが首を傾げた。
「服のほつれとか、ボタンとかはレオが直してくれたし」
 パンダの右手を眺め、レオナルドの作る右足を見比べる。
「レオは器用と言うか、さすが独身。いつでも結婚してあげるわよ」
「なにが結婚してやるだ」
 糸を結んで切ると、レオナルドは溜息を吐いた。
「お前はほんと、少し家事を覚えてだな。自立することがまず一番の課題だ。俺なんかに構ってる暇はない」
「そんなことないわ。レオにもお嫁さんは必要よ?」
「俺のことはいいんだよ」
 ファルファッラが渾身の右足をぎゅうっと握りしめている。
 名残惜しいのかと思いつつ、完成したパンダの手足を並べる。


 材料を並べて、ユラは何を作ろうかと思案する。
「なにがいいと思う?」
「顔はないとホラーになると思うよ」
 逆に言えば、顔さえあればどうにでもなるということだ。
「そっか。じゃあ私は顔にしようかな。誰かと被っても多頭生物だと思えば問題ないよね!」
「僕は胴体にしよう。これがないと、やっぱりホラーになるし」
 ハイネ・ハリスはそう言って、材料を並べて生地を合せてみる。
「って言うか、確かに手作りには違いないけどさ……。妹は『あに様』の手作りが欲しかったんじゃないの?」
「まあ、そうかもしれないけど」
「これでカオスなものが出来上がったら、センス疑われるよ?」
 面白いから別にいいけど、と付け加える。
「誕生日の贈り物なんだから、ちゃんと可愛いの作らないとね」
 ユラは手触りのいい生地を選び、早速縫い始める。
「って言っても、僕も裁縫とか得意じゃないんだけど」
「……意外、ハイネさん器用だから何でもできる人だと思ってた」
「手先は器用だけど、経験がないからなぁ。というわけだから、やり方教えてくれる?」
「それはいいけど、私が教えるなんて、ちょっと新鮮だなぁ」
 そう言いながら、ハイネに基本的な動作をやって見せた。
 真剣にユラの手元を見て、一つ頷く。
「うん、わかった」
「えっ」
 簡単にやって見せただけなのだが、ハイネはそれをさらりと覚えて、やってのける。
(一度で覚えちゃうのはさすがというか、なんというか……)
 見る以上に難しい裁縫だが、難なくこなしてしまうのだから、本当に経験値の問題だけであって、ハイネに出来ないことはないのではないだろうかと思う。
「可愛い、大きな目のウマ……」
 ウマだっただろうか。
 手を止めて、首を傾げる。
「じゃない、クマの顔を作らないとね」
 ――馬……?
 ハイネの手がぴたりと止まった。
 ――牛だっけ?
 白と黒の斑点の生地を手に取る。
 ――……鹿? シマウマ?
 クマを作るというユラの言葉は耳に入っていないらしく、真剣に考え込んでいる。
 目の前には、迷った末の生地が色々と並んでしまっている。
 思案して。
 ――いいや、全部ぶち込もう。
 しばらく黙々と作業を続ける。
 可愛いクマのぬいぐるみが出来上がるはずだ。
 ユラは、ハイネの手元に視線を向けた。
「……え、どうしてこうなった?」
 その手元には、継ぎ接ぎだらけの胴体が仕上がっている。
 ただの継ぎ接ぎではなく、馬も牛も鹿もシマウマも全て、ぎゅっと柄として迷いが詰め込まれている。
「なに作るか忘れたから」
「忘……、せめて動物は一つに絞ってほしかったなぁ!?」
 多頭生物というより、多種動物と化している。
「他のパーツとの兼ね合いもあるのに。皆さんスミマセン……」
 ユラが誰ともなく謝罪をしてがくりと肩を落とす。
「これ、あとよろしく」
「よろしくって、ちょっとハイネさん」
 ハイネは継ぎ接ぎ胴体をユラに任せ、桜の木が見える縁側に腰を落ち着ける。
 この季節の日向ぼっこは格別だ。
「いいなぁ、僕の仮家にも桜植えようかなぁ」
 ユラが顔と胴体との格闘を終え、ハイネの隣に座る。
「じゃあ、来年はハイネさんの仮家で桜が見られるかも?」
「……それはどうだろう」
 穏やかな日差しの中、かすかな微睡みに揺れる。


「特に手芸は得意ではありません」
 そう口にしたエリー・アッシェンは、簡単そうな部位を作ると言って、フェルトを選び始めた。
「我は顔を縫おう」
 迷わずモル・グルーミーが手に取ったファーが、くるくると一周すると、今度は細かな微調整がまるで姑の如き執拗さでなされている。
「……毛並みの流れを間違えると悲惨なことになる」
 触れた時に毛並みが暴走しては、せっかくのクマも台無しだ。可愛い、期待通りのものを作りたい、とモルは今もファーを微調整している。
「耳は二色がいいですね。外側は若草色、内側は桜色にしましょう」
 エリーは左の耳を作り始める。
 本来ならば、もう少しホラーめいた色合いの方が好きなのだが、人にプレゼントするものだ。ここはぐっと趣味を発揮することは控える。
 二人は沈黙の中、作業に没頭する。
 モルの顔へのこだわりが凄まじかった。
 ミリ単位で毛並みを修正し、丸みを帯びたマズルでクマらしさが引き立つ。
 逆三角形の鼻と口を丁寧に刺繍し、黒いつぶらな目を付けると、定番のクマの顔が出来上がった。
「頑張ってみましたが……」
 手芸は得意ではないと言ったエリーが、手元の耳に視線を落とす。
「少々歪に伸びた耳に……。クマの耳というより、ポニーの耳に近いですね」
 ほんの気持ち程縦に長いが、丁寧に縫われている。
 言わなければこれがポニーの耳だとは誰も思わないだろう。
 出来上がったものを試しに合わせてみれば、なかなか可愛らしいぬいぐるみになりそうだ。
 作業を終えたあと、庭に咲いている桜を見に行く。
「ずっと手元の針に集中していたので、綺麗な桜を眺めると目の疲れが取れる気がします」
 エリーは目頭を押さえ、作業中ずっと酷使していた目を休ませる。
 少し離れた場所に座ったモルも桜を見上げる。
「モルさん、色々こだわって顔を作っていましたね」
「そういう神人もとても丁寧な仕事ぶりであったな」
「少し歪でしたし、時間もかかってばかりで上手くできたとは言えません」
「謙遜することはない。かかった時間がそれを物語っている」
 無表情にモルは桜を眺める。
「時間をかけてもどうにもならない神人とは違う」
 それはどういう意味だろうか。
 いい意味でないことだけは分かる。
「あのクマのようにモルさんも可愛いマズルを付けてみてはどうですか」
「神人こそあのつぶらな瞳を研究したほうが良い」
「モルさんこそ猫背の在り方をぬいぐるみを見て研究するべきです」
 モルの皮肉は今に始まったことではない。
「まったく、嫌味を言わないと死んでしまう病気ですか?」
 しばらく皮肉の応酬を続けたあと、エリーはふうっと息を吐く。
「こんな陰険な人が可愛いクマの顔を縫ったなんて、信じがたいことです」
 モルの作った顔を見て、黙々と作業をして口を開けば皮肉を言う人物が作ったと、すぐに想像はできないだろう。
「ぬいぐるみや人形というと、持ち主の意のままになるモノ、という印象があるが――」
 相変わらず無表情に桜を見つめながら、モルが言う。
「皆で作ったあのぬいぐるみは、意のままや思い通りとはかけ離れている気がするな」
 ばらばらに作られたぬいぐるみはどんなものになるのか。
 作り手にとっても、依頼主にとっても、それはいまだ未知数だ。


 材料を一通り確認すると、エルナ・バルテンは迷わず針を通した。
 エルナが作るのは、要となる顔だ。
 一方でロードリック・バッケスホーフは、材料を選んではいるものの、着手しようとしない。
 それどころか。
「……え、ええっと。なに……?」
 手元をじっと見られている。
 こんなに見られていたのでは、やり辛くて仕方ない。
「嬢ちゃんは裁縫、したことあるのか?」
 顔を上げて、ロードリックを見る。そして、頷いた。
「……近所の子に作ってって言われることもあって……」
 視線を手元に戻す。
 裁縫は好きだ。地道に進める作業も、綺麗に出来上がった時も嬉しくなる。
「ふぅん……」
「でもあんまり上手くないけど」
「形になればいいだろ。俺から見ても嬢ちゃんは上手いと思うぜ」
「え、本当?」
 ロードリックにそう言われると、安心する。
 嬉しくなる。だから、自然と手が進む。
「……。ところでこれ、何のぬいぐるみって言ってたか……嬢ちゃん聞き取れたか?」
「えっ!?」
 思わず指を刺しそうになった。
 完全にクマの顔を作っていた。それなのに、ロードリックは何を作るかを覚えていない。
「……なんで今?」
 どうせなら聞かずにクマを作らせてほしかった。
 手元をじっと見つめる。
「右耳でも作ろうかと思ったんだけどな。何の耳を作ればいいか分からなくてな」
「う、馬……だったかなぁ……?」
 完全に手元にあるのはクマだ。
 ロードリックに突っ込まれたら、返す言葉がない。
「馬?」
「ち、違うかも。で、でも! ぬいぐるみと言えばクマが定番ですしっ」
 手元にはクマがつぶらな瞳でこちらを見つめている。
 でも、ちょっと自信はない。
 声が少し小さくなる。
「クマで合ってる。……はず……」
 手元のつぶらな瞳のクマが、馬になったら困る。
「とりあえず、クマのつもりで作りましょう……」
「まあ……確かに定番か。分かった。嬢ちゃんを信じよう」
 自信を無くして俯いていたエルナは、ロードリックが必死に笑いを押し殺していることには気づいていない。
 顔を上げれば、ロードリックは真剣にクマの耳を縫っている。
(なんか、手慣れてる感じがするなぁ……)
 器用に動く指先をしばらく眺めたあと、エルナはクマの顔を仕上げた。
「う、うーん……こんな感じ? 私的には上手くいったと思うけど……」
「ああ、良いな。これくらいできれば上出来だ、嬢ちゃん」
 ロードリックが完成したばかりのクマの顔を手に取って頷いて見せる。
「これならすぐにでも嫁に行けるんじゃねぇか?」
「よ……っ!?」
 かっと顔が熱くなるのが分かった。
「そ、そういうのは良いからっ」
 赤くなっているのを知られたくなくて、頬を押さえてそっぽを向く。
 心臓がばくばくと音を立てている。不意の言葉だったからと言っても、これは自分でもわかりやす過ぎると思う。
(何か話題を変えたい……ええっと、ええっと……)
 そうだ。
「バッケスホーフさんはお裁縫、どこかで習ったの?」
 先ほど思った、手慣れた感じ。
 その理由を尋ねてみた。
「あー……俺はあれだ。執事時代が割と絡んでる」
「あ、なるほど……」
 そういえば執事をしていたっけ、なんて思いながら。

「それより嬢ちゃん。やっぱり馬じゃなかったか?」
「……えっ!?」


「やっぱり思い出に残る素敵なものにしたいわね」
 アンダンテは前向きだ。
「例えすごいものが出来上がったとしても……まあそれはそれで。忘れられない思い出にはなるはず」
「忘れないことがいい思い出とは限らないと思うんですが」
 サフィールの指摘は正しい。
 一つの頭に九本の手足がついていたり……。
 一つの頭に九個の耳があったりしたら、それはもはや悪夢でしかない。
 妙な方向に前向きなアンダンテに、サフィールは半ば呆れ顔だ。
「不器用さで言ったら私もきっと負けてないとは思うけど」
 依頼主は絶望的な不器用さだと言ったが、アンダンテもそこに関しては十分張り合える。
「大丈夫、多分なんとかなるわ。なんたって私にはサフィールさんがついてるもの。フォロー、お願いね?」
「フォローですか……」
「さすがに私もプレゼントを血染めのくまにはしたくないし」
 アンダンテの視線は針に向けられている。
 ここは戦場だろうかと思うほど、真剣な表情で針を見つめている。
「俺は胴体を作りますけど、アンダンテは……」
「じゃあ私はしっぽを作ってみようかしら」
 サフィールが胸中で安堵のため息を吐いた。それならば少しは簡単だ。
「くまのしっぽ……ふわっとした感じに作れば大丈夫かしら」
「一針目は内側からですよ、アンダンテ」
「わ、わかっ……痛い!」
 指を刺すことはある程度想定していたが、まさか一針目から刺すとは思わなった。
 サフィールが絆創膏を取り出してアンダンテの指に貼る。
「普通に気を付けていれば刺さないとは思います」
「普通に刺したんだけど」
「……、……」
「ちょっと、サフィールさん、聞いてる?」
「聞いてますが……」
 ふわふわのしっぽを、アンダンテは作っている。
「痛っ」
 作っているはずだ。
「痛い……!」
 サフィールは横目で見ながら胴体を鮮やかな手つきで作り上げていく。
 僅かな時間で作り終えたサフィールが、何度目かの『痛い』を聞いた頃、見かねてアンダンテの手からしっぽになるはずだったものをやんわりと取り上げた。
 流石に怪我が多すぎる。
 絆創膏を貼ると、手は絆創膏だらけになっている。血染めのくまも、あながち誇大表現ではなさそうだ。
「人には向き不向きがあるので……」
 サフィールの裁縫技術はかなり高い。
 まるで手品を見ているようで、アンダンテは嘆息する。
「サフィールさんの手は魔法の手ね。私もそんな風にできたらいいのに」
「長所を伸ばしていけばいいのでは」
 苦手なことを無理に克服するよりも、得意なことをさらに極めたほうがいい。
 短所を直すことは、そんなに難しいことではない。
「アンダンテなら例えば……」
 アンダンテの長所を、伸ばせばいいのだ。
「……」
 占い師のわりに、占っているところを見たことがない。
「なあに? 私は何をすればいいの? ねえ」
「……、……」
 ――アンダンテの長所……。
 不器用をはじめとして、一般的に欠点と呼べる箇所が非常に多い。
 何か長所はないだろうか。
 黙り込んで真剣に思案する。
「そこは黙っちゃだめよサフィールさん! 気持ちは分かるけど!」
「……まあ、とりあえず笑っていてくれればそれでいいです」
 サフィールの言葉に、アンダンテが笑顔を見せる。
 なんだかんだで一緒にいるのは、情に絆されているのかと思いつつ。


 妹の誕生日――。
 仕上がったぬいぐるみは大切に包んで袋に入れた。
「はい、これ」
 そう言って手渡すと、妹は嬉しそうに袋の中身を取り出した。
「ありがとうございま……」
 取り出して、不自然に左側を向いていることに気付いた。
 しかも、やたら鋭い爪が手足についている。
 胴体は完璧な職人の手によるものだ。それは、直ぐに分かるのだが――。
「あに様……」
 右側を向けると、どういうわけかもう一つ胴体とそこに顔が二つ付いていて、その胴体に関しては動物が何か分からない、にぎやかな模様がある。
 多頭生物だ、と思う。が。
 袋の中から、もう一つ。手足が出てきた。
「これは、なんですか?」
「予備、だそうだ」
 右手足の予備。しかも、どう見てもこの胴体についていてほしい種類の手足だ。
 左側から見れば、しっぽも耳もあるし、ある意味完璧なのだが、右側が非常に残念なクマが出来上がった。
「ふふっ、これはこれで可愛いですね」
 少しだけ惜しいが、全てのパーツにこだわりや温かな想い、技術が詰め込まれている。
 自然と笑顔を引き出す、世界にひとつだけのクマ。

「ありがとうございますっ」



依頼結果:普通
MVP
名前:アンダンテ
呼び名:アンダンテ
  名前:サフィール
呼び名:サフィールさん

 

メモリアルピンナップ


エピソード情報

マスター 真崎 華凪
エピソードの種類 ハピネスエピソード
男性用or女性用 女性のみ
エピソードジャンル コメディ
エピソードタイプ ショート
エピソードモード ノーマル
シンパシー 使用不可
難易度 とても簡単
参加費 1,000ハートコイン
参加人数 5 / 2 ~ 5
報酬 なし
リリース日 04月07日
出発日 04月15日 00:00
予定納品日 04月25日

参加者

会議室

  • [5]ファルファッラ

    2016/04/12-21:57 

    遅くなってごめん…。
    ファルファッラと精霊のレオです。よろしくね。
    私も相談なしでやってみるのが面白いかなって思う。
    …できるだけ可愛いのが出来るように頑張ってはみるつもり。

  • [4]エルナ・バルテン

    2016/04/12-08:55 

    遅くなりましたすみません…! エルナとロードリックさんです

    バッケスホーフさんが相談なしでどんなものができるか興味あるから相談なし希望、とのことです。
    …あ、プレゼントするものですし、相談ありでもこちらは全然大丈夫ですっ!
    皆さんどうぞよろしくお願いします。

  • [3]アンダンテ

    2016/04/12-02:02 

    こんばんは、アンダンテよ。
    精霊のサフィールさんともどもよろしくね。

    私も相談なしの方が面白そうだと思っているわ。
    完成してからのお楽しみ、って中々心惹かれるものがあるわよね。
    あ、もちろん相談でも全然大丈夫よ!

  • [2]ユラ

    2016/04/11-23:06 

    どーも、ユラです。こっちは精霊のハイネさん。皆さんよろしくお願いします。

    私達もパーツは相談なしの方が楽しそうだなって思うけど、ちゃんと作りたいって人がいたら
    相談するのは全然オッケーだよ!
    とりあえず皆で楽しく作れればいいかなぁ。

  • [1]エリー・アッシェン

    2016/04/10-17:38 

    うふふ……、エリー・アッシェンと精霊のモルさんで参加です。
    どうぞよろしくお願いします。

    依頼されたものですので、私のホラー趣味はひかえて、普通のぬいぐるみを作ってみようと思います。

    パーツに関しては……、相談なしの方がどんなものができるかわからなくて楽しそうですが、もし相談ありの希望者さんが多かったらそちらに合わせます。


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