【桜吹雪】口説き文句は二人の時に(瀬田一稀 マスター) 【難易度:とても簡単】

プロローグ

 あなたはパートナーと二人、サクラウヅキの公園のベンチに腰かけている。
 手に持っているのは、先ほど買ったばかりの三色団子と、温かい緑茶。
 いたって平凡に見える甘味であるが、この美しい景色の中で食べれば、いっとう美味しく感じるだろう。

 ――だって、隣には、この人もいるし。

 気付かれないように、ちらりと相棒を見やる。
 そこにふわりと、春風が吹いた。
 桃色の花びらがさらさらと、彼の頭上に、あなたの団子にと散り落ちる。
「あ……」
 あなたは思わず、頭上に咲く桜、ヨミツキを見上げた。
 青空と薄桃の色合いは美しいが、折角、満開の桜だ。
 早々に朽ちてしまうには惜しい。
 もちろん春の風は、そんなあなたの思いを知る由もなく。
 さやさやと、桜の枝を揺らし続けた。

「綺麗だな……」
 団子に夢中になっているとばかり思っていた相棒が、唐突に口を開いた。
「この土地が、瘴気に浸食されかかっているなんて、信じられないほどに」
「そうだね……」
 あなたは相槌をうちながらも、いつもとはまるで違う、しっとりとした口調の彼に驚いていた。
 視線を桜から隣人の顔へと移動させる。
 ――と。
「だが、お前の方が綺麗だ」
「……え?」
「その桜のような鮮やかな唇に、食いつきたくなる」
「……はっ?」
 あなたは目を瞬かせた。
 今までこんな言葉は、彼から聞いたことがない。
 お酒を飲んでいるわけでもないのに。
 そこで、ふと気づく。
 自分はまだ一口も食べていないこの団子に、なにかイケナイものでも入っていたのではないか、と。
 彼は続ける。
「……なんだ、そんなきょとんとした顔をして……。初心を装って、誘っているのか?」
 昼間の屋外。
 視界には、ウィンクルムの仲間達。
 これは……どうするべきなのだろう。

解説

三色団子とお茶を2本購入したので、300jrいただきます。
ちょっとお高めですが、お花見価格です。ご了承ください。

このお団子、どうやら何かが入っていたようで、突然相棒があなたを口説いてきました。
継続時間は10分間。
普段の仲がどうであろうと、言っている間は全力で『あなたを愛しています』
もちろん『しっかり記憶に残ります』

相棒は『普段なら言わない口説き文句を言って』きます。
いつも愛の言葉を言わない方は言うようになりますし、
「好きだ」と言っている方は「俺はお前がいないと死んでしまう」レベルになります。

エピソードでは『彼』としていますが、愛の言葉を言うのは『神人でも精霊でも構いません』
仲違いをすれば失敗です。


ゲームマスターより

お久しぶりです、瀬田です。
せっかくですから愛を囁いてもらいましょう。
なお、お団子の原因究明をしても答えは出ませんので、深くは考えないでください。

リザルトノベル

◆アクション・プラン

ミサ・フルール(エミリオ・シュトルツ)

  ☆心情
まだ気持ちの整理がついていないのに
どんな顔していればいいか分からないよ・・・っ

☆精霊に愛を囁かれる
(精霊の視線から逃げるように俯く)
(差し出されたお茶と団子をちらりと見て)・・・ありがとう
(精霊が見つめてくるのを感じ)・・・あまり見ないで・・・食べ辛いよ
いただきます(団子を食べる)
・・・(美味しい筈なのに味が分からないや)

(愛の言葉を並べる精霊に立ち上がって)っ、だったらどうして・・・!
『私の両親を殺したの!?(その言葉は呑み込んで)』
(泣きそうになるのを堪え、逃げ出しそうになる身体をぎゅっと抱きしめながら)
逃げちゃダメ
ちゃんと向き合わなきゃ

次の休み時間とれる?
・・・聞きたいことがあるの


和泉 羽海(セララ)
  ホントは…あんまり一緒に…いたくないけど……お花見綺麗だし…
お団子、食べたかったから……

…………(いつもの事なので、またかという視線
…この人の言う事は…もう、信じない……
どうせ、相手なんて誰でも、いいんだし……きっと、からかってるだけ…

でもなんか……いつもと違う…?
言ってる事は、変わらない、けど…こんな真面目っていうか…
切羽詰まってるの、は…初めて、かも……お団子、のせい…?
…夜、寝れるなら十分じゃないの…
わ、わかった…から…、近い……近い!(照
もう怒ってないし……嫌いにも、なら、ない…から、離れて…

……うぅ、とんだお花見だ…お団子食べれないし…
喉乾いた、けど…これ、お茶は…大丈夫だよ、ね…?


紫月 彩夢(神崎 深珠)
  美味しいお団子に綺麗な花
花より団子とはいうけど、どっちも楽しめるのが良いわよね
なんて思ってただけだったのに…

花に団子に愛しい人。完璧な構図過ぎて、幸福に溶けちゃいそう
深珠さんが綺麗すぎて、桜が妬いちゃいそうよね
でも仕方ないわよね…こんな素敵な人なんだから、世界は引き立て役になるしかないわ
攫われたり、しないでね

十分後の地獄感ときたら
…あの、深珠さん…
今のは、忘れて、もらえないかな…
恥ずかしいどころの騒ぎじゃない。何言ってんのあたし…!

…忘れてよ
あたしまだ、深珠さんにちゃんと言ってないことがあるんだから
そっちの方が先がいいから、もう少し、待って
待ってよ
ッ…好き、よ。あなたが好き
応えてよ、深珠さん…


藤城 月織(イリオン ダーク)
  舞い散る花弁を捕まえたい
イリオンさん、ちょっと持っててください!
団子を押し付けて花弁キャッチ
飛び跳ねながら上ばかり見て
漸く両手でキャッチ
木の根に足を取られ転倒

礼を言おうとしたところで耳元で響く熱っぽい低音
しかも名前を呼んだ?
伝わる体温
ぞわり
今まで感じたことがない感覚
(…何、コレ…?

近い、近い!ですって!!
花弁を放り出し、上半身を捻ってぐぐっと腕で押し返すが微動だにせず
真っ直ぐな視線に射竦められて
(何この雰囲気…まさか…キス、とか?!
空気に飲まれて動けない

(ぅわぁドキドキしたぁ、ただのお説教だった!心臓に悪いっ
って、あれ、私のお団子は?
しょぼん

う、じゃあ2本…2本なら許します!
えっほんとに?(嬉


風架(テレンス)
  へ? なに? なにか変な物でも食べた?
相変わらずの筆談だが、並んだ文字に困惑
んー…テレンス。こういうのは心の底から好きな人に言う言葉でしょ? なのにどうしてあたし
…好きって言ってる割には付き合ってーとか言わないんだね
ポジティブになったね…て、いうかそんなこと言ってないでしょ
…あのさ。信頼してるんだよテレンスのこと。パートナーとして
今のあたしにはそれくらいが丁度良いって思うし、テレンスにとってもそれが良いと思うし
もう呼ばないよ…!
ぷいっとそっぽ向く
…でも好きって言われるの、悪くないかも

…あ、いつものテレンスだ
…もしかして、このお団子…
あたしも食べてみようかな?
あはは、冗談だよ


●純愛  藤城 月織とイリオン ダーク

 桜の花弁が、ひらひら舞い落ちる。
「イリオンさん、ちょっと待っててください!」
 藤城 月織はイリオン ダークに団子を預けて、ベンチから立ち上がった。
 両手を伸ばして、舞い踊る花びらをキャッチ。
「あ、また!」
 飛び跳ねる度に、桜と同じ色の髪が舞う。
 仕方のない奴だと、イリオンは団子を食みながら、月織を見ていた。
 上を向いて落ちる桜に手を伸ばす仕草は、まるでしなやかな猫のよう。
 だが、あれはそのうち転ぶな、と思った矢先。
「わっ!」
 月織の足が、桜の木の根にとられてしまう。
 イリオンは団子を投げだして立ち上がると、体勢を崩した月織に腕を伸ばした。
 背中から細い体を抱きとめ、ほっと一息。
 転んでも大した怪我にはならぬだろうが、それでも腕に、力がこもる。
「……桜にばかり夢中になっているからだ」
「ごめんなさい」
 そう言いかけて、月織は息を飲んだ。
「何故俺から離れた、月織」
 彼によって、耳元に吹きこまれた低い声に、どくり鼓動が跳ねたのだ。
 しかも。
 ……名前を、呼んだ?
 ぞわり、肌が粟立つ。
 そのくせ心臓は壊れたような速さで脈動し、胸がぎゅっと苦しくなった。
 ……何、コレ?
 私、どうなっているの?
 とにかく今、わかることは。
「近い、近い!ですって!!」
 月織は手にしていた花弁を放り出すと、狭いスペースで半ば無理やりに、上半身をひねった。
 イリオンの胸に両の手のひらを当てて、力を込めて押すけれど、彼の逞しい筋肉はびくともしない。
 いや、それどころではない。
 彼は何と、月織の顔を覗きこむようにして、じいっと見つめてきたのだ。
「近いからどうした、触れて何が悪い」
 イリオンの瞳の中の自分と、目が合いそうなほどの距離。
 たぶん少し動けば、鼻先が当たる。
 そして角度を変えれば。
 ……まさか……キス、とか?!
 腕に囲われ、胸の体温を感じながら、月織は、見下ろす金の眼差しに動けない。
 それなのに、イリオンは言うのだ。
「そのまま……俺だけを見ていろ」
 彼の浅黒い指先が、月織の白く細い顎を持ち上げる。
 桜色の唇に意識を奪われたのは、たぶん一瞬。
 不意にイリオンの背筋を、冷たい汗が流れ落ちた。
 ……待て、俺はガキ相手に何を……。
 緊張に固まった体と、怯えた色違いの瞳に、思わず腕から、力を抜いた。
 しかし気持ちとは反対に、口は普段より饒舌に動き出す。
「だ、だいたいアンタは注意力散漫だ。足元に根があることくらい――」
 だが、小さな体を解放しながらのその言葉は、月織の耳を左から右へと通り抜けている。
 ――ぅわぁドキドキしたぁ、ただのお説教だった! 心臓に悪い!
 まだ少しだけ速い鼓動を整えようと深呼吸をし、その間にふと。
「あれ、私のお団子は?」
 きょろりとベンチ周辺を見やって、地面の上、泥まみれになっているそれを見つけた。
 あ、と視線が止まったのは、月織もイリオンも同じこと。
「……すまない、もう1本買うか?」
 転ぶ彼女を助けるためとはいえ、預けられたものを放り出したのは自分だ。
 イリオンが言うと、月織はうーとかあーとか呻いた後、おずおずと顔を上げた。
「じゃあ2本……2本なら許します!」
 支えてもらって何を許すというのか。さっきの急接近のことか。
 言っておきながら自分でもわからないけれど、月織はどうしたって平静には彼を見上げられない。
 イリオンは「仕方ないな、わかった」と神妙な顔で頷いた。
 団子2本で今のが有耶無耶になるなら、安いものだ。
 しかしなんで俺はあんなことを……と内心では思っていたのではあるが。

●信愛  風架とテレンス

『好きだ風架。言葉で伝えても伝えきれぬほどに』
 その文字を認識したとき、風架は赤い瞳をぱちりと一度、瞬かせた。
 美しい筆跡が語る言葉の意味を考えて、テレンスの顔を凝視して。
「へ? なに? なにか変な物でも食べた?」
 そう、問いかける。
 テレンスの半ばフードに隠れた顔が、感情を見せないのは、承知の上。
 それでも見つめてしまったのは、明らかに彼がおかしいからだ。
「んー……テレンス。こういうのは心の底から好きな人に言う言葉でしょ? なのにどうしてあたし――」
 至極当然な台詞を返せば、それが終わるのを待たず、テレンスはペンを動かし始める。
 いつもはしっかり風架の返事を待って、返答をくれる彼が、だ。
 その文字曰く。
『自分は心の底から想っている。想っていなければこんなこと書けぬ』
 である。
「……確かに」
 もともとテレンスは、お世辞を言うことも、他人のご機嫌をとることもない精霊だ。
 それを知っているからこそ、彼が言っていることは一理ある、と納得せざるを得ない。
 でも、それならどうして。
 いっそ、脳がどうかしたとか……と考えて、風架ははたと気が付いた。
「……好きって言ってる割には付き合ってーとか言わないんだね」
 テレンスに向けてではなくひとり呟けば、どうやら彼の耳にはしっかりそれが、届いたようだ。
『言ってほしいのか? それならば直接言ってくれれば良いだろう』
 ずいっと突き出されるスケッチブックに、風架の頬が歪む。
「ポジティブになったね……って、いうか、そんなこと言ってないでしょ」
『では、交際したいわけではないのか』
 風架は首を振った。縦に、である。
 したいとかしたくないとか、そういうことじゃない。
 だってあたしは、と彼が何かを書きつけている、スケッチブックの上に手を置いた。
「……あのさ、信頼してるんだよ、テレンスのこと。パートナーとして」
 見上げて言えば、テレンスの唇がぴくりと動く。
 ……信頼。その言葉が欲しかった、と。
 テレンスはきゅっと唇を噛みしめた。
 今までこんなにまっすぐに、その気持ちを表されたことがあっただろうか。
 風架はさらに、言葉を続ける。
「今のあたしにはそれくらいがちょうどいいって思うし、テレンスにとってもそれが良いと思うし」
 だから、と言いかける風架の手を掴み、テレンスはそれを、スケッチブックの上からどかす。
 なぜか急に、聞きたくなったから。
『もう一度、テレンスと呼んでほしい』
 ページをかえて白い紙にそう書きこめば、風架はつんと唇を尖らせた。
「もう呼ばないよ……!」
 求められて言うなんて、なんだか恥ずかしいし。
 そっぽを向いて、桜を見上げる。
 ……でも好きって言われるの、悪くないかも
 テレンスは、彼女の考えていることはわからない。
 だが、薄紅の桜舞う中、黒髪を揺らせる彼女の、拗ねた仕草が愛おしいと思った。

 そして、10分後。
『すまない。忘れてほしい』
 そう書かれたスケッチブックを前にして、風架はまたも目を瞬かせた。
 いつものテレンスだ。
 ということはいったい何が……と思考を巡らせ、目についたのは花見団子。
「あたしも食べてみようかな?」
 それはほんの、気まぐれだった。しかしその発言に、テレンスが一瞬動きを止める。
 風架が? 団子を? ……。
 先ほどの自分と同じように、熱い感情に流されるというのか。
 そうだとしたら、嬉しくないわけではない。
 風架の口から「好きだ」と聞けるのであれば……。
 と、そこで思い出す。
 自分達はパートナーとしての距離が一番だと、風架は言ったではないか。
 あれが真実、団子の台詞は、風架にとっては偽りだ。
 そう気付いたから、テレンスは大きな文字で、一言書いた。
『駄目だ』
 そのサイズにか、少々乱れた文字にか。冗談だよと、風架は笑う。
 その黒髪には、桜の花弁がのっていた。

●相愛  紫月彩夢と神崎深珠

 頭上には、咲き誇る桜の花。
 そして手には美味しい団子とくれば、花見としては完璧だ。
 花より団子とはいうけど、どっちも楽しめるのが良いわよね。
 先ほどまでは、そう思ってもいた。
 それなのに、紫月彩夢の視線は、いつの間にか、神崎深珠に釘付けになっている。

「花に団子に愛しい人。完璧すぎて、幸福に溶けちゃいそう」
 彩夢は団子の載った皿を膝に置いて、ほうっと熱い息を吐いた。
 深珠の青い瞳は、まるでこの空を宿したかのようだ。
 そこに桜の花弁が映ったのなら、この風景さながらに、美しいものになるだろう。
 そう考えて彩夢は、いいえ、と首を横に振った。
 どんなに空が輝いていても、桜が見事でも、深珠にかなうはずがない。
 どちらかといえば、深珠が綺麗すぎて、桜が妬いてしまいそうと気付くべきだった。
 でも、と愛しい彼に微笑みかけてから、頭上に咲く花弁を見る。
「仕方ないわよね。こんなに素敵な人なんだから、世界は引き立て役になるしかないわ」
 そこで再び、深珠を見つめ。
「攫われたり、しないでね」

 首を傾げ自分を見つめる彩夢を、深珠は不思議な気持ちで見ている。
 花と団子と、様子のおかしい彩夢は、まるではまっていないパズルのよう。
 楽しげに微笑む彼女が、ひどく異質に見えるのだ。
 まったく、これはどんな意図だろう。
 彩夢の考えが読めなさすぎる。
 何気なく周囲に目をやれば、どうやら他のウィンクルムも、様子がおかしいようだ。
 なるほど、おそらくきっかけはこの団子。
 そして効果は『気持ちの捏造』か。
「……気分が悪いな」

 そして、10分後。
「……あの、深珠さん……。今のは忘れてもらえないかな……」
 彩夢は窺うように、深珠を見上げていた。
 あんなことを言うなんて、恥ずかしいどころの騒ぎじゃない。
 何言ってんのあたし……! と今更突っ込んだところで、あの時間は戻らないのだ。
 深珠は、彼女が空のようだと言った瞳を細め、彼女を見下ろした。
 まったくもって、気分が悪い。
 桜も、団子も、最早どうでもいい。
「……それで、忘れて良いのか。忘れて、欲しいのか」
「……忘れてよ」
 彩夢は呟き、深珠から目を逸らす。
「あたしまだ、深珠さんにちゃんと言ってないことがあるんだから」
「言いたいことがあるなら言えばいい」
「そっちの方が先がいいから、もう少し、待って」
「待たない」
「待ってよ」
 彩夢は、気づけば再び深珠を見上げ、彼の手首を掴んでいた。まるで、逃しはしないとでもいうように。
「お前が言いたいことを言えるようになるまで待っていたら、俺が言いたいこともいつまでも言えないだろう」
 深珠の白い手のひらが、彩夢の手の甲にのせる。彼はゆっくりと力を込めて、彩夢の手を握ると、そっと持ち上げた。
 これを手放されるのか、このままなのか。
 知るのが嫌で、彩夢はもう一方の手で、深珠の甲をぎゅっと掴む。
「ッ……好き、よ。あなたが好き」
 ――だから。
「応えてよ、深珠さん……」
 吐き出された真実の想いの強さは、たぶんこの手を握る強さに等しいのだろう。
 だからこそ、彼もまた本音を告げる。
「……お前の気持ちと同じかどうか、まだ自信はない」
 ――いや、明らかに、彩夢の方が気持ちは強い。
 だが、団子の言葉よりも、そっちの方が嬉しいと思っているのだ。
 深珠は、自分の手を握っている彩夢の手の上に、さらに自らの手のひらを重ねた。
「……俺も好きだと、言ってもいいか?」
「……深珠、さん……」
 美しい桜舞う、青空の下。
 ふたりは互いから、目が離せない。

●最愛  和泉羽海とセララ

 ホントは……あんまり一緒に……いたくないけど。
 ……お花綺麗だし……お団子、食べたかったから……。
 和泉 羽海は桜の下のベンチに座り、メモを握り締めて、頭上の花弁を見上げていた。
 隣にはいつも通りセララが座っているけれど、あえてなるべく見ないようにする。
 ピンクの桜と、美味しいお団子。それがあれば、十分なのだ。
 しかしセララは、花どころではない。
 団子を食べた後は、羽海にしか注意が向かない。
 だって、断られるかと思ってた。それなのに、お団子につられる羽海ちゃんが、可愛くて。
「羽海ちゃん、愛してるよ。そんなに桜ばかり見られると、妬けちゃうな。キミのその宝石のような瞳に映るのは、オレだけで十分なのに」
 さらさらと流れるように聞こえる愛の言葉に振り返り、羽海は呆れた眼差しを向ける。
 瞳、なんて。今見えてないくせに。
 ……この人の言うことは……もう信じない……。
 どうせ、相手なんて誰でも、いいんだし。
 ……きっと、からかってるだけ……。
 桜は見たくても、やっぱり来るんじゃなかったと目を逸らす。
 でも、視線の先にはセララの顔。
 彼が羽海の顔を、覗きこむように移動してきたのだ。
「ねえ、この間のこと、まだ怒ってる? ごめんね、キミを傷つけるなんて思わなかったんだ。羽海ちゃんが嫌だって言うなら、もう2度としないから。だからオレのこと、嫌いにならないで」
 セララはベンチに座り、うつむく羽海の視線を何とか捕えようと、長身の背を丸めて、彼女の足元にしゃがみ込んでいる。
「オレ、キミの為なら何でもするよ」
 いつもならば、微笑みとともに告げられる言葉だ。
 しかし今日のセララは、赤い瞳を不安に揺らし、大きな手をそっと持ち上げただけ。
 これで羽海に触れようか否か、迷っているのが明らかだった。
 それを見、羽海は、いつもと違う、と思う。
 言ってる事は、変わらない、けど……こんな真面目っていうか……。
 切羽詰ってるのは、は……初めて、かも……お団子の、せい……?
 戸惑う羽海をよそに、セララは真剣な顔つきで、先を続ける。
「キミに捨てられたらって想像しただけで、食事だって喉を通らないし、不安で夜しか眠れなくなるんだ……!」
『……夜、眠れるなら十分じゃないの……』
 羽海は思わず唇を動かした。しかしセララは眉間に眉を寄せる。
 足りない、のだ。
 何がって、羽海が、絶対的に不足している。
「あぁ、言葉だけじゃ、この気持ちを伝えきれない!」
 セララはそう叫ぶとその場に立ち上がり、羽海に覆いかぶさるように、その小さな体を抱きしめた。
 驚いた、そばかすいっぱいの真っ赤な顔が、視界を埋める。
『わ、わかった……から……、近い……近い!』
「真っ赤になってるのマジ可愛い! ねえ、オレにドキドキしてくれてるの? 羽海ちゃん、すっごい可愛い」
 ぐいぐいと顔を寄せてくるセララを押し返すようにしながら、羽海はあえて顔を背けて、小さく唇を動かす。
『もう怒ってないし……嫌いにも、なら、ない……から、離れて……』

 羽海は気付いていない。
 同じ頃に団子を食べた周囲のウィンクルムは、すべてもう普段の様子に戻っていることに。
 ……うぅ、とんだお花見だ……お団子食べれないし……。
 そう思いながら、ベンチの上のお茶をちらり。
 喉乾いた、けど……これは……大丈夫だよね?
 相変わらず離れてくれないセララにため息をつきつつ、羽海は桜の花弁が浮かぶお茶へと手を伸ばした。

●愛憎  ミサ・フルールとエミリオ・シュトルツ

 青空に、薄桃の小さな花が、咲いている。
 そのはるか上空には、温かな光をもたらす鮮やかな太陽。
 周囲の桜の木の下では、それぞれ仲間のウィンクルムが楽しい時間を過ごしていて、花見をする場所としては、ここ以上に相応しいところはないだろう。
 これがもっと昔……『事実』を知る前だったら、自分は手放しに喜んだだろうとミサ・フルールは思う。
 そうであれば、甘いものが好きなエミリオのために、お菓子だって手作りしたかもしれない、とも。
 でも今は、と、ミサは、頬にかかる横髪越しに、隣に座るエミリオ・シュトルツを見やった。
 ただ黙って桜を見上げている彼が、何を考えているのかわからない。
 そして自分も、彼に対して、どんな顔をしていればいいのかわからない。
 
 エミリオはミサが、自分を避けていることに気付いている。
 嫌がる彼女を半ば強引に連れ出したのは、その理由を知りたかったからだ。
 この花見が仲直りのきっかけになればいいと思っているのだが、状況はなかなか芳しくかった。
 視線を向ければ、目を逸らされる。
 団子とお茶を差し出して、
「お茶、熱いから気を付けて」
 と言ってみたけれど、それには「ありがとう」と決まりきった言葉が戻るのみだった。
 しかも、以前は一緒に笑いながら、甘いものを食べたのに、とその頃を思い出し、無意識にミサを眺めていたら、彼女は言ったのだ。
「……あまり見ないで……食べ辛いよ」
「……あ、ああ、ごめん」
 視線を戻し、いただきますと呟いて、団子を口にする。
 いつもはミサが場を和ませてくれるのに、今はこの沈黙が苦しかった。
 ……それでも。
「ミサ」
 エミリオはついに、口を開いた。
 何かしらの行動をとらなければ、この関係は変わらない。
 だってそのために、ここにやって来たのだ。
 エミリオは決意を固めてミサの側を向き、胸に浮かんだ素直な言葉を、唇にのせた。
「俺はミサが好きだ、愛してる。こんなにも人を好きになったのは、お前が初めてなんだ。だから愛してるお前に避けられるのは辛い」
 嘘偽りない、本心だった。
 しかしとうに自分の想いを知っているはずのミサは、微笑んでも頷いてもくれない。
 それどころか。
「っ、だったらどうして……!」
 ミサは勢いよく立ち上がった。
『どうして、私の両親を殺したの!?』
 そう、思い切り、叫んでしまいたい。
 見慣れた黒髪、白い肌に、赤い瞳。左耳のピアス。
 お互いに好意を寄せあい、よく知っていると思っていたエミリオが、今はまるで別人に感じられる。
 大好きな、大好きだった、否、今も大好きなエミリオが、自分に秘密にしていた重大な事実。
 これを知らないままでいられたら、どれだけ良かっただろう。
 ただ、自分は知ってしまった。
 目頭が熱い。だが、泣いてはいけないと、ミサは自らの体を抱きしめる。
 逃げちゃダメ、ちゃんと向き合わなくちゃ。
 自分のためにも、エミリオのためにも。
 ミサは目を閉じ、細く長い深呼吸をした。
 そして茶の瞳を開き、腕をほどくと同時、座ったままのエミリオに、問いかける。
「次の休み、時間とれる? ……聞きたいことがあるの」
「……分かった。次の休みだね。約束する」
 硬い表情で体を震わせるミサに、手を伸ばす資格はおそらく今の自分にはないのだろうとは思う。
 しかしエミリオはそれでも、ミサに微笑を見せた。



依頼結果:大成功
MVP
名前:藤城 月織
呼び名:おい、アンタ
  名前:イリオン ダーク
呼び名:イリオンさん

 

メモリアルピンナップ


エピソード情報

マスター 瀬田一稀
エピソードの種類 ハピネスエピソード
男性用or女性用 女性のみ
エピソードジャンル ロマンス
エピソードタイプ ショート
エピソードモード ノーマル
シンパシー 使用不可
難易度 とても簡単
参加費 1,000ハートコイン
参加人数 5 / 2 ~ 5
報酬 なし
リリース日 04月05日
出発日 04月13日 00:00
予定納品日 04月23日

参加者

会議室


PAGE TOP