夜の闇鍋大会(瀬田一稀 マスター) 【難易度:簡単】

プロローグ

「トミさん、最近ぱっと楽しいことがないねえ」
「そうだなハチさん」
「……前のウィンクルムたちと遊んだとき、楽しかったねえ、トミさん」
「そうだなハチさん」
「企画するか? ……闇鍋とか」
「闇鍋? そりゃまたどうして?」
「そりゃあ思い付きに決まってんだろーが。商店街の女衆にメイド服着せてさ」
「なぜにメイド服?」
「そりゃあ俺の好みよ! 企画すっか、トミさん」
「いいねえ、ハチさん。やるかい?」

 ※

「春も半ばだというのに、どうしてこの時期に闇鍋なんですか?」
「さあ、知らないわよ。でもすずらん商店街の面々だから、楽しいことが好きなんでしょうよ」
 A.R.O.A.女性職員の言葉に、若手男性職員は首をかしげる。
「すずらん商店街? どこにあるんですか、それは」
「タブロスの郊外よ。お祭り好きなメンバーがそろっててね、以前偶然ウィンクルムと知り合って、水鉄砲バトルが楽しかったからって、今度はちゃんとした企画を持ってきたのよ」
「……それが、春に闇鍋」
「だからそんな目で私を見ないで! 私はこのポスターを受け取っただけなんだから!」
 女性職員は困り切った顔で、男性職員から目をそらした。
「だって……」
 男性は、自らが貼っている最中のポスターを見る。中央に大きな土鍋が書かれた、いかにも手製のポスターには『求む! 闇鍋食材! 求む! ウィンクルム!』と書かれていた。

(以下ポスター内容)
『参加費は闇鍋食材のみ! ひとりひとつの食材をお持ちください。
 食べられるものなら何でも大丈夫!
 成人はビールとともに、未成年はジュースを片手に楽しみましょう!
 メイド姿の女性陣が歓待いたします。
※眠くなってしまった方には、テントと寝袋をお貸しします。

主催 果物屋のハチとパン屋のトミ』
(ポスター終わり)

「深く考えずに、入れたい食材持って行けばいいのよ。ちなみに闇鍋だから開催は夜、場所はすずらん公園ですって。早寝の人は難しいわね。でも鍋はともかく、商店街の近くにある展望台は、流れ星がよく見えるって言われているから、行ってみる価値はあるかもね。たしか歩いて十分くらいよ。ベンチもあるし、自由に使える望遠鏡もあるし。流れ星が見えたら、ぜひウィンクルムが仲良くなるように、お願いしてほしいわね」

解説

前エピソードでお世話になったすずらん商店街からのお誘いです。
(エピソードをご存じなくてもまったく問題ございません)
闇鍋を楽しんだ後、星を眺める。そんなデートはいかがですか?
お酒に酔っぱらったり、星に願い事をかけたり、テントでキャンプ気分を味わうのもいいかもしれません。ちなみにテントはもう完成していて、二人用です。

闇鍋に持って行く食材はひとり一種類です。ウィンクルムは二名なので、プランに二種類の食べ物をご記入ください。
また、飲み物は成人はビール、未成年はオレンジジュースとなりますが、お酒が苦手な大人の方は、オレンジジュースをご指定くださっても構いません。

商店街からの参加者は主には二名。
果物屋のハチとパン屋のトミです。果物っぽいものとパンっぽいものを持って行くと思われます。
その他女性が数名メイド姿で登場します。相棒が女性に誘われてしまう、そんなこともあるかも?
各々が食べるものについては、くじで決めさせていただきます。

入れて当然のおいしいものでも、ちょっと入れたくないようなものでも、自由にお持ちよりください。


ゲームマスターより

闇鍋は必須ですが、その後は星を眺めに行くもよし、テントで二人っきりになるもよし。
自由にプランを練ってみてください。

リザルトノベル

◆アクション・プラン

高原 晃司(アイン=ストレイフ)

  俺は鶏肉をもって闇鍋をするぜ
「闇鍋なんて初めてだな。どんな味になるんだろうな?」

本当はビールを飲みたいんだがここはぐっとガマンをしてジュースだな
どんな味になるかは食べてからのお楽しみだよな?

その後は折角だしテントでゆっくりしたいよな
アインに頼んでみるかな?
もしダメだったら他の案を考えねぇと
俺こういう修学旅行っぽい行事はやった事ねぇから少しウキウキしてたりする

テントでゆっくりするのもいいけどその前にランニングとかして汗を流してぇなー
ここって風呂とか水浴び場とかあるんかな?
あったら汗を流してからゆっくりしてぇな!


羽瀬川 千代(ラセルタ=ブラドッツ)
 
闇鍋、何が当たるか楽しみだね
食材は旬のたけのこを持参、柔らかくて美味しいよ
ラセルタさんは何を持ってきたの?

はぐれた相手を探して園内を歩き回る
いないな…展望台へ誘おうと思ったんだけれど

あの辺りは随分賑やかだ、ってあれは…ラセルタさん?
楽しそうな姿に声を掛ける事を躊躇ってしまう
(でも、もっと俺から歩み寄らないと…いつまでも受け身じゃ駄目だから)

ラセルタさんに肩を貸しテントまで連れて行く
水を貰ってくるから待っていて
此処からでも星が見えるね、綺麗だな

囁く声に驚きと腑に落ちた部分もあって
「…そうだね、もっと二人で話したかったよ」
よ、酔っ払うとこうなのかな…?気を許してくれているなら嬉しいけれど


スウィン(イルド)
  闇鍋やるの初めてだわ~、楽しみ!何があたるかしら?
折角だから自分が持ってきたの以外がいいわねぇ
酷い食べ物でもノリノリで食べてリアクションするわよ!
・ラッキー♪美味しいわね~
・ちょ、誰よこんなの入れたの?!まっず!
運はいい方だと思うけど

イルドが女性にアプローチされたら、なんだか面白くないわね
手を抓って知らん顔しちゃう
あら~、どうしたの?不味いのにあたっちゃった?(にこにこ)

おっさんがメイド服借りて着て
イルドをからかうのを想像してみたら機嫌直ったわ。ふふ♪

鍋の後は展望台に行って、ベンチに座って星を見ましょ
流れ星が見えるといいわね~
もし流れ星が見えなくても、綺麗な星空が見れたら満足だわ♪



大槻 一輝(ガロン・エンヴィニオ)
  (闇鍋・・・・何故、闇鍋を選んだし・・・・

いや、あえてのそのチョイスなのか?
ツッコミ所が多すぎて逆にツッコめへん。

所でガロン、何持ってきた?
俺は肉やけど。
いや、鍋言うたら肉やん、どー考えても。
てか果物屋が鍋を開催する時点で嫌な予感しかせえへんのやけど。


あー…俺、オレンジジュースで。
明日仕事あるし。

気持ち悪ぃ・・・(うぐぐ
悪、肩貸してや。


アイオライト・セプテンバー(白露)
  こんにちは、また来ちゃったよー☆
闇鍋っておもしろそうっ。じゃ、具材はパイナップル、甘くてお肉にも合って美味しいよ? みんな食べてね☆
あたしも一度つかんだものはきちんと食べるもん。目を瞑って、ぐっと。美味しいものだといいなあ(びくびく)
それにしても、メイド服かわいいなあ……。(パパに聞かれないよう、物陰でこそこそとお姉さんたちに)おねがいがあるんだけど、あとでちょっとだけメイド服借りてもいい?
メイドになった姿をパパに見せたいの。パパと一緒に星を観るとき、じゃーんってパパを驚かせたいの。
そんで、パパにおはなししてあげるんだ。あのねー、あの蒼い星あるとこがあたし座。パパ座もすぐお隣に作ってあげるね。


 響く商売人の声、行き交う足音。たくさんの笑顔に怒声に噂話。タブロス郊外にあるすずらん商店街は、にぎやかな通りである。
 しかしそんな通りも、夜となった今はしんと静まり返っていた。明かりをともす店はなく、猫の一匹も通らない。その商店街の真ん中を、突き進むグループがあった。

「こんにちは、また来ちゃったよー!」
 通り沿い、すずらん公園に立ち入るなり、アイオライトは高く声を上げた。
「その声は、ああ、やっぱ前の嬢ちゃんだ!」
 すぐさま駆け寄ってきたのは、すずらん商店街果物屋のハチである。
「ハチさん、久しぶり! 闇鍋って面白そうっ。あたしね、パイナップル持って来たの。甘くてお肉にも合って美味しいよ? みんな食べてね」
 視線をハチから仲間へと移し、アイオライトはにっこり笑う。その後ろで、白露がハチに深く頭を下げた。
「先日は、アイ共々お世話になりまして。ハチさん、その節は牛乳をありがとうございました。ちなみに私は鴨肉を持ってきました」
「そんな礼を言われるほどのことじゃ」
 丁寧な謝意に照れながら、ハチは後ろ頭に手を伸ばす。そんな彼に声をかけるものがもう一人。ラセルタ=ブラドッツである。
「久しぶりだな。銃撃戦では世話になった。また再戦したいものだ」
「あんたもいたのか、短気な兄ちゃん」
 とんとお玉を振って、ハチは長身のラセルタを見上げた。その明るい表情に、しかしラセルタは眉を寄せる。
「短気な兄ちゃん……? おいそれはどんな認識……っ」
「まあまあラセルタさん」
 羽瀬川千代が慌てた声を出す。
「ハチさん、すみません。ねえラセルタさん、闇鍋、何が当たるか楽しみだね。俺はたけのこを持って来たんだ。柔らかくて美味しいよ。ラセルタさんは何を持って来たの?」
「チーズだ」
「チーズですって、どんな味になるのかしら」
 ラセルタの答えに、スウィンがぱちんと手をたたく。
「俺、闇鍋やるの初めてだわ~、楽しみ!」
「なんで普通の鍋じゃなくて闇鍋なんだ……」
 スウィンの横では、イルドがあからさまに落胆していた。言いながらも荷物の中をあさり、自分の持って来た食材を出そうとするあたりは真面目である。だが、しかし。
「あ……」
「どうしたの?」
 尋ねるスウィンに、イルドはすまなさそうに肩を落とした。
「鍋に入れる食いもの、持ってくるの忘れたんだ。スウィンは何持って来た?」
「俺はねえ……」
 言いながら、スウィンは自分の荷物を探る。しかしすぐさま、唇が「あ」の形で固まった。
「ひょっとして、お前も?」
「やあねえ、俺たちお似合いじゃない?」
「おーい、聞こえてるぞ。食材忘れたって?」
 ハチが近づいてくる。
「すみません……闇鍋初めてだから、浮かれてたみたいで」
「まあ仕方ねえな」
 こつり。ハチはお玉で、謝るスウィンの額をたたいた。
「こういうこともあろうかと余計に食いもん持って来たからさ、あんたらの分も入れてやるよ。しかーし! なに入れても文句は言うなよ?」
「俺は鶏肉をもって闇鍋をするぜ!」
 にぎやかなハチに負けぬ声で、高原晃司はご機嫌だ。
「ああ、でも闇鍋なんて俺も初めてだな、どんな味になるんだろうな?」
「晃司はきちんと食べられるものを持って来たのですね。よかった」
 相棒の行動に、アイン=ストレイフが安堵の息を漏らす。
「アイン、俺のことどんな目で見てるんだよ。俺は規約はきっちり守るぜ?」
「晃司はスポーツマンですもんね。ちなみに私はパスタを持ってきました」
「へえ、うまそうだな!」
 みんなが笑っている。そんな中で、大槻 一輝は静かに……もとい、隠れるように溜息をこぼした。
「闇鍋……何故、闇鍋を選んだし……。いや、あえてそのチョイスなのか? ツッコミどころが多すぎて、逆にツッコめへん」
 隣にいるガロン・エンヴィニオにはそのつぶやきが聞こえたようである。
「さて、実際問題何も考えてないかもしれないぞ」
「ちなみにハチさん、今回はどうして闇鍋なんですか?」
 遅ればせながらと再会のあいさつを交わしていた千代が、ハチに聞く。
「そんなん意味なんてねえよ。ま、しいて言えば楽しそうだからか?」
「……ほら」
 がははと高笑いのハチに、ガロンは自身の相棒を見やり、苦笑する。
「……参加する俺らも俺らやけど、企画するあの人らもあの人らやな。ところでガロン、何持って来た?俺は肉やけど」
「私は普通に白菜だが」
「え、鍋いうたら肉やん、どー考えても。てか果物屋が鍋を開催する時点で、嫌な予感しかせえへんのやけど」
「確かに悪乗りをするものが出そうではあるが、良い事にはなるまいよ。どうせなら愉しみたいものだからね」

 ※

 ハチは、ウィンクルム一行を公園の中央へと連れて行った。即席で作られたかまどの上には、鉄製の大鍋がぐつぐつ煮えている。
「トミさん、汁の具合はどうだい?」
「いい具合だと思うよ、ハチさん」
 トミが振り返り、愛想のよい顔を見せる。再会となる面々は、トミにもめいめいに挨拶をした。トミはそのいちいちに快活に答えながら、みんなから食材を受け取っていく。
「ちなみにトミさんは鍋奉行だ。今日は豆乳鍋だとよ」
「豆乳!」
 白露が声を上げる。
「牛乳を持って来ようとしたら、アイに液体は反則って言われたんですよ。美味しいんですけどねえ。『飛鳥鍋』といって牛乳と鶏ガラの出汁で作る鍋料理。でも、豆乳も美味しそうですねえ」
「はは、みんな何持ってくるかわかんねえからな、だし汁だけより味のついたもんがいいと思って」
 トミはぽりぽりと頬をかいた。そしてみんなに声高らかに告げる。
「さ、持って来たもんを入れてくれよ。ああ、でかいものは、その辺にまな板と包丁があるから適当に切ってくれや。ん? 忘れた奴がいる? じゃあそいつらの分はそっちだ」
「おい、忘れん坊コンビ! お前らの分入れるぞ。すりおろしりんごと食パンだ」
「りんごと食パン?」
 ハチの声に、忘れん坊コンビの片割れ、イルドが変な顔をする。しかしハチは「文句は言わせねえって言ったろ」と胸をそらした。
「ちなみに俺らが入れたのは、メロンパンとチェリーだかんな。俺らの好物だ!」

 ※

 ウィンクルムが持って来たものは、パイナップル、鴨肉、たけのこ、チーズ、鶏肉、パスタ、肉、白菜。これだけならば、ましな鍋だったかもしれない。しかしその中に、メロンパンとチェリー、すりおろしりんごに食パンが入るとどうなるのか……それはもはや未知の領域である。
「パンだけは嫌や。えっらい汁吸い込んでそうやし。メロンパンとかもってのほかや」
 一輝は渋い顔で、白濁が煮える鍋を見つめていた。
「一輝、飲み物はどうする?」
 問うてくれたガロンには「オレンジジュースで」と短く答える。
「明日仕事あるし」
「俺もジュースで」
 便乗する形で、晃司も同じものを注文する。
「ほんとはビールを飲みたいんだが、ぐっと我慢だな。にしてもこの鍋、どんな味になるかは食べてからのお楽しみだよな?」
 晃司は興味津々、鍋を覗きこんでいる。湯気が顔に当たる距離である。アインはそれを危ないと手で制し、晃司が身を引くのを待ってから、自身の飲み物を注文する。
「私はちょっとゆっくりビールでも飲みましょうかね」

 飲み物を運んできたのは、ハチ曰くの『メイド服の女性陣』だった。
「ようこそ、すずらん商店街へ!」
 中でも(横に)一番大きなメイドが、腕を開いて一同を歓迎してくれる。
「あ、トミさんの奥さんでしょ? その服かわいいっ」
 アイオライトが嬉々とした声を上げ、トミの女房は楽しそうに笑ったが、たぶん参加者の幾人かは首をかしげたことだろう。
 かわいい? 黒のロングスカートに、白いふりふりエプロンのメイド服は、たしかに着る人が着ればかわいらしい。しかし、トミの女房は……。誰も何も言わないし、思ったそぶりも見せはしない。処世術というやつである。
 そんな女性の給仕で、闇鍋大会は始まった。具が煮えるまでは楽しい歓談、しかし煮えた後は何が待っているかわからない。

「みんな、鍋に箸入れたな? せーので引き揚げろよ。じゃあいくぜ、せーの!」
 ハチの掛け声とともに、参加者一同は鍋に突っ込んだ箸でなにかをつかみ、それを取り皿にのせた。こういう方法になったのは、鍋奉行トミのアドバイスである。
「なんか……こう、汁がね、どろっとしてるんだよ、明らかに。ハチさん、こりゃあ面白いものが見られるかもしれねえぜ」
 面白いものがすなわち、何かを食べて混乱する参加者であることは明白である。酒の入らない未成年はもとより、まだ酔うほどの酒も口にしていない大人……ラセルタだけは体が揺れ始めていたが――たちにも動揺が走る。その結果、それでではいっせいに、となったのだ。
「……あたし、一度つかんだものはきちんと食べるもん」
 箸の先、てろんとしたものがある。アイオライトは、目をつぶり、えいっとそれを口に突っ込んだ。こういう思い切りの良さが若い証拠なのだと半ば感心しながら、白露は見た目から明らかなパスタを口に入れる。
「あつっ! これ、チーズだ」
「パスタは普通にパスタですね。少々柔らかすぎますけど」
「俺のは、ラッキー、たけのこね」
「……チェリーだ」
 スウィンとイルドは目配せし、二人そろって口に入れた。
「うん、美味しいわね~」
「酸っぱいっていうか煮えてるのが許せねえっていうか……くっそー、おっさん笑うな!」
 イルドはチェリーを口の中で転がしている。その傍らでは、たぶん今回のメンバーの中で一番不幸な人物、千代が、手元の皿を見つめていた。
「この……どろっとしたものはなんだろう。すごくパンっぽいけど」
「まわりに砂糖がついているようだし、メロンパンではないのか?」
 言いながら、ラセルタは自分が取ったものを箸の先でつんとつついた。
「これはたぶん肉だ。はは、千代、残念だったな」
 千代は無言だ。無言で、メロンパンと思しきものを口に入れ……すぐに顔をしかめた。隣で平然と、しかし揺れながら「鴨か」と口を動かすラセルタとは対照的である。
「鴨? その肉はうちのアヒル隊長の遠い親戚の……」
 白露が突然語り出す。しかし酒に弱いラセルタに異様にじっと見つめられ、シュンと肩を落とした。
「すみません、嘘です。らしくない冗談を口にしてしまいました」
「もしかしてパパ、酔ってる?」
 アイのブルーアイズが見上げるも、白露はうなだれたままである。
 そんな小さな騒ぎをよそに、千代は黙々とメロンパンを……いや、元メロンパンを咀嚼する。
「パンがね、お汁を吸い込んでそれが本来のメロンパンの甘みと合わさってね、なんていうか、うん、不思議な味だ」
 吐き出さないことが偉い。そして残さないところがもっと偉い。箸を動かし続ける千代を見、誰もがそう思ったことだろう。
「メロンパンに比べればましか……。でもこれってどんな味になってんだろうな」
 皿の中の黄色いものを眺め、晃司はつぶやいた。煮えたパイナップルとはいかがなものか。しかしアインはあっさりしている。
「酢豚にも入れますから、食えないことはないでしょう」
 そう言いながら、白菜を食べている。
「こちらは普通に白菜ですよ。さあ、晃司もいただきなさい」
 晃司はほかほかと湯気を立てるパイナップルを口に入れた。とたん口に広がるのは、豆乳やチーズの香りに混じって、やっぱりどうしたってパイナップルの味だ。
「これも結構普通にパイナップルだな」
「普通にパイナップルか……ええやん」
 一輝は自身の皿を見、うなだれる。すでに千代の食べる姿を見ているから、余計にこれは食べたくない。だってどう見たってこれはパンだ。さっき千代も言っていたではないか。お汁を吸い込んで、と。未知なる味の汁が、これには存分に詰まっているのだ。
「だからどうして闇鍋だったんや……」
 愚痴を言う一輝の傍らで、まあまあとこっそり胃薬を差し出してきたのはガロンである。
「一度箸をつけたものを口にしないというのはマナーに反する。一口だけ耐えるんだ」
「……いいよな、ガロンは。俺が持って来た肉やん。そっち、めっちゃうまそうに見えるわ」
「まあまずくはないな」
「じゃあ交換……」
 ガロンはつい、と胃薬を押し付けてくるのみで、交換には応じる気はないようだ。そやな、食パンやし。汁につかりてろんてろんになった物体。一輝はそれにえいやっ!と噛みついた。おお、と周囲にどよめきが生まれるが、無視して目をつぶり、鼻をつまんでもぎゅ、もぎゅと噛み砕く。味については感想を述べたくない。
「いいねえみんな、いいねえ!」
 いつの間にやら大量のビールをがぶ飲みし、ハチのテンションはすっかり上がりきっている。うまいうまいと皿から食べるものは箸で持つのもやっととなった、たぶんリンゴをすりおろしたものだ。本人が酔っぱらっているので、その本当の味はわからない。
「いやあ、うまいよこの鍋は」
「だねえ、ハチさん」
 同じく泥酔に近いトミもまた、うまい最高だと、こっちは鶏肉を食べている。
「闇鍋って要は、酔って味がわからなくなった者が勝ちってことか?」
「なら俺もジュースやなくてビールにしたらよかったわ……ま、結局参加した俺の自業自得か」
 偶然目があったイルドと一輝が、二人して溜息をつく。
「若いお兄さん、そんな深い吐息を出して、どうしたの?」
 気づかぬ間、イルドの背後にはメイドの女性が立っていた。ふっと振り返りしばし沈黙。これはトミの女房ではないか。
「……別に」
 しかしそのそっけない会話すら、気に入らないのがスウィンである。
「なーんか面白くないわね」
 偶然を装って、並ぶ相棒の手の甲を軽くつねってやった。
「いてえ! なんだよおっさん」
「あら~、どうしたの? チェリー、そんなにまずかった?」
 にこにこ笑いながら、悪さをしたことは知らないそぶり。
「あれは女が勝手に……」
 言いかけて、イルドはそこで口をつぐむ。やばい、なんか笑顔のおっさんがこえぇ。反論はしないでおくか。
 一部始終を見ていた出席ウィンクルム最年長、アインは「いいですねえ」と息を吐いた。
「皆さん若くて、素晴らしい。私が若かったころは……」
「アイン、いきなり昔話始めたけど、ひょっとして酔ってるのか? でも顔色全然変わってないし、口調も普通だよな」
 隣で晃司が、怪訝な顔を見せた。

 ※

「あかん、気持ち悪い……ガロン、肩貸してや」
「酒を飲んだわけでもあるまいに……食パン、そんなにまずかったのか?」
「そんなん、お前食ってみたらわかるわ……」
 一輝とガロンの二人が、暗い公園をよろよろと進んでいる。その横を、千代は早足に通り過ぎた。
「いないな……展望台へ誘おうと思ったんだけれど」
 二時間ほどで闇鍋は終わり、今はめいめい自分たちの時間を過ごしている。
 千代ははぐれたラセルタを探し、公園内を歩き回っていた。
「あのあたりは随分賑やかだ、ってあれは……ラセルタさん?」
 ラセルタはなぜか、アイオライトと白露の二人と一緒にいた。酒が入っているからか、相棒のイメージはいつもと違う。千代はその楽しそうな姿に、声をかけることをためらった。
 ……でも、もっと俺から歩みよらないと……いつまでも受け身じゃだめだから。
 ぐっと顔を上げ、ラセルタのもとへと歩を進める。途中のベンチでは、スウィンとイルドが、そろって空を見上げていた。
「流れ星が見えるといいわね~」
 両手をベンチの上に置き、背をそらせる格好で、スウィンは暗い夜空を見つめている。
「別に流れ星に願いたいことなんかねーし、興味もねーけど」
 イルドは並ぶスウィンの顔をそっと見た。人当たりもよくたいていご機嫌なスウィンではあるが、今日はいっとう上機嫌な気がする。
「ま、もし流れ星が見えなくても、きれいな星空が見れたから満足だわ。ねえ、イルド」
 笑顔がこちらを見、イルドは思わず目をそらした。
「まだここにいるだろ」
「え?」
「……いや、流れ星、見られるといいかもって思って」
 見れて、こいつが喜ぶなら。
 そこまでは言うことができなかった。

 千代が向かった先。アイオライトがスカートのすそを両手に持って、くるりと一回転をして見せた。
「ジャーン! パパ、どう? さっき女の人に言って借りたんだ」
「ええ、似合いますよ。アイ」
 白露はにこにこと穏やかな笑みで、アイオライトを見つめている。
「その衣装も素敵ですけど、アイは確か星が好きだって言っていましたよね? ここから見える星のこと、教えてくれますか?」
「うん、いいよ。あのねー、あ蒼い星があるとこがあたし座。パパ座もすぐ隣に作ってあげるね。えーっと……」
 細い指で天高くの星を指さして、アイオライトは『パパ座』を探す。ラセルタは、そんな彼らを見ながら地面に座り込んでいた。
「もう、ラセルタさん、そんなとこで」
 白露に小さく頭を下げて、千代はラセルタに肩を貸して立ち上がらせた。テントに向かう道すがら、晃司とアインの二人を見かける。
「なあアイン、俺はいいけどお前は飲んでるんだから、酔いが回るぞ!」
「ランニングに付き合うくらい、たまにはいいでしょう」
「そりゃ構わねえけど……でもアイン酒飲んでるし。あーあとはテントでゆっくりするか? テントとか、なんかさ、俺こういう修学旅行っぽい行事はやったことねえから、少しうきうきしてるんだよな。でもその前に汗流してぇな~。ここって風呂とか水浴び場とかあるんかな?」
「水飲み場ならありましたよ。水、頭からかけてあげましょうか?」
「……なあ、アインってもしかして実は酔ってんのか?」

 二人を横目に、千代はラセルタを、ハチが用意してくれたテントまで連れて行った。
「水を貰ってくるから待っていて」
 しかしすぐに行こうとした腕を、座ったままのラセルタに引かれる。千代は誘われるままに、彼の隣に腰を下ろした。
「ああ、ここからでも星が見えるね。きれいだな」
 静かに星を眺める千代の横顔に、ラセルタの心にはかすかな安堵と悪戯心が芽生えた。からかってみたい。千代の耳元へ顔を寄せて、ラセルタがささやく。
「悪かったな、今日は構ってやれなくて。さみしかっただろう?」
 その囁きに驚きながらも、腑に落ちた部分も、千代にはある。
「……そうだね。もっと二人で話したかったよ」
 千代は正直に答えた。ラセルタが驚いた顔をする。
 横のテントからは、ガロンが一輝を看病する声が聞こえてくる。
「ほら、さっき渡した胃薬を飲むといい。大丈夫、苦くないから」
「水、汲んできてくれるか?」

 星空の下での過ごし方は、ウィンクルムそれぞれ。
 にぎやかな晩餐の後の静かな時間は、こうしてゆっくりとすぎていった。



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エピソード情報

マスター 瀬田一稀
エピソードの種類 ハピネスエピソード
男性用or女性用 男性のみ
エピソードジャンル コメディ
エピソードタイプ ショート
エピソードモード ノーマル
シンパシー 使用不可
難易度 簡単
参加費 1,000ハートコイン
参加人数 5 / 2 ~ 5
報酬 なし
リリース日 04月23日
出発日 04月30日 00:00
予定納品日 05月10日

参加者

会議室

  • [3]羽瀬川 千代

    2014/04/29-00:07 

    こんにちは、羽瀬川です。宜しくお願いします。
    俺は前回も参加したので、すずらん商店街さんとは二回目のお付き合いですね。
    闇鍋を堪能したら星を見に行く予定ですが…予定は未定、です。

  • [2]スウィン

    2014/04/26-16:58 

    こんちは、スウィンよ。すずらん商店街は初めてになるわ~。
    闇鍋の後展望台で星を見る予定。楽しみましょうね♪

  • つーわけで(どんなわけだ)すずらん商店街にまた来ちゃったわん♪


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