【糖華】俺だけ見てればいいんだよ(瀬田一稀 マスター) 【難易度:とても簡単】

プロローグ

 周囲に満ちる、甘い香りはチョコレートだ。
「噴水チョコフォンデュの開催場所はこっちよ!」
 カカオの精が、ぴょこぴょことジャンプをしながら、矢印のかかれた札を振っている。
「まったくもう、人間ったらこんな時でもないと、チョコレートを食べないんだから。もっと毎日いっぱい食べればいいのに」
 別のカカオの精はぷりぷりと怒りながら、それでもきちんと人を案内していた。
 彼らは純粋に、チョコを食べる人口が増えて嬉しいのである。

 会場に続く入口は、もうたくさんの人が並んでいた。
 あなたは精霊とふたりでその最後尾についたのだが……。
「あれ、あの人って……?」
 知った背中を見た気がして、思わず呟く。
「どうかしたか?」
 精霊が尋ねるも、あなたは首を振る。
「ううん、なんでもないの」
 ――あの人がここにいるわけがないよね。
 でもやはり、ちょっとは気になってしまうもので。

 会場に入ってからも、あなたはつい、知人を探してしまっていた。
 そうなれば、精霊だって違和感に気付く。
「さっき知り合いでも見たんだろ? 俺に言えない奴か?」
「そういうわけじゃないんだけど」
 ここで、ついごまかしてしまったのがいけなかったのだろう。
「俺はお前の過去は詮索しないが、今は気にする!」
 精霊はあなたに背中を向けると、さっさとチョコレートの噴水のところへ行ってしまった。
「え、ちょっと待って……!」

解説

ショコランドの噴水で行われる、チョコレートフォンデュです。
参加費として300jrいただきます。

噴水なのでチョコレートは冷たいです。固まらないのが不思議ですね。
基本的にチョコをつける食べ物はお菓子かフルーツです。
(適当にありますので、適当にプランに記載ください)

ということで本当の主題は『嫉妬した精霊と仲直りをしよう』です。
見たと思った「誰か」にこだわりがある方はプランに記入してください。

「誰か」は「追加精霊に似た人」もありですが、本人の参加はできません。
こちらで該当精霊の設定を見ることもありませんので、情報が必要でしたら、プランと自由設定の中に詰め込んでください。(実はあいつは嫌いだとか、気になっているとか)



ゲームマスターより

こんにちは、瀬田です。
たまにはこんなことがあってもいいじゃない……!

こちら基本的にウィンクルムごとの描写になります。
お気軽にご参加ください。

リザルトノベル

◆アクション・プラン

ミサ・フルール(エミリオ・シュトルツ)

  私は苺につけて食べたいな
エミリオは何にするの?
もう、いじわる言わないでよ(赤面)

あれ?
今ね、懐かしい人を見た気がするの
『トオル』もこのイベントに来ているのかな?
あのね私が昔、製菓の専門学校に通ってた時のクラスメイトなの
トオルは成績優秀の優等生でね、特に飴細工を使ったお菓子が大得意なんだよ!
私の誕生日に薔薇の形をした飴細工を作ってもらったことがあったんだけど、綺麗すぎて食べるのがほんともったいな…ど、どうして怒ってるの?
へっ、男!?
トオルは『女の人』だよ?
エミリオ、こっち向いて(精霊の頬にキス)
勘違いさせちゃったお詫び
今は人が沢山いるから口へのキスは誰もいないところで、ね(真っ赤な顔ではにかむ)


紫月 彩夢(紫月 咲姫)
  深珠さんが居たような気がしたけど…気のせいか
甘いもの好きなんだよね…誘えばよかった

…あんたが何言いたいのか分かんない
言いたいことがあるならはっきり言いなさいよ

…やっぱり怒ってるんじゃない
深珠さんに八つ当たりしなかったのは、良かったけど
あれは、あたしにとっても嬉しい事だったんだから、咲姫にとやかく言われたくない

…忘れたとは言わせないわ
フィヨルネイジャで、あたしを生かすために勝手に死んだこと
あたしは今でも許してない
深珠さんは違うのよ
あたしと一緒に生きてくれる選択をしてくれるあの人が、あたしには必要なのよ

…兄さん、そろそろ認めてよ
あたし、もう十分大人になったつもりよ?
パートナーとして、ちゃんと見てよ


出石 香奈(レムレース・エーヴィヒカイト)
  鷲の尾羽が見えた気がした
もしかして、先輩…?
そわそわしてたらレムに怪しまれた
正直に話す
施設で一緒だった先輩を見かけた気がして
鷲のテイルスで、無茶ばかりして、振り回されてたけど楽しかった思い出話

違う、先輩はそんな人じゃない!
反射的に叫んでしまってはっと口を塞ぐ

もしかして心配してくれてたの?
ありがとう、でも先輩はあんな酷い男どもとは違うから
それに片思いだったし…
ずっと前にウィンクルムの契約をして施設を出たきり会ってなかった
今のあたしのパートナーはレムだけなんだから
先輩のことはもう初恋のいい思い出よ

心配させちゃったお詫び
和菓子好きでしょ?白玉のチョコレートフォンデュどうぞ
はい、あーん…なんてね


久野原 エリカ(ヤスカ・ゼクレス)
  心情:
や、ヤスカ先生……?
アイツに似た人を見てつい名前を呼んだら、何故かちょっと怒って……る(嫉妬する理由がわからない

まだ会って日が浅いから、ヤスカ先生、もしかしてあいつの事を信頼できてないとかそういうことなのか?

行動:
ヤスカ先生と会場を歩くが……うん、せっかくのチョコフォンデュ……マシュマロをつけて食べてみたりするけどやっぱり気まずい……

とりあえずヤスカ先生を説得してみようと思う。
「アイツは良いヤツだ。確かに無茶したり心配するようなことをしたりするけど……先生と同じくらい信頼できる奴だと私は思ってる」

補足:
エリカは嫉妬の理由とかヤスカの心情とかわかってないからトドメさしてる自覚はない。


秋野 空(ジュニール カステルブランチ)
  何でもないと言ったものの落ち着かず
視線は人混み右手は革ブレスへ

名を呼ばれ振り仰ぐ
声は優しく、言葉は背中を押しているけど
揺れる瞳は真逆の色を湛えていて

(もしやこれは、嫉妬…なのでしょうか
(きちんと伝えなかったばかりに、余計な心労を…
申し訳ないのに、少し嬉しい

今はチョコより精霊が大事
向けられた背中をぐいっと押して列を離れ
手を引き人の少ない場所へ

謝罪と説明
彼は…カルヴァドスと言います
昔、とてもお世話になった大切な方で…会いたいと思ったのは事実です
でも今はそれよりも、目の前にいる人の辛そうな顔の方が心配です
…私にとってどちらが大切か、言うまでもないですから

笑顔が戻ってホッ
言葉を重ねるのはやはり大切…?


●あなたの前で、平等なんて

 噴水近くには、既に多くの人が集まっていた。
 とろとろと流れるチョコレート。
 近くに据えたテーブルの上には、たくさんのお菓子やフルーツが並んでいる。
 だが、久野原 エリカの注意を惹きつけたのは、そのどれでもなかった。
「今、アイツに似た人がいたと思ったんだが……」
 見間違いだったかと呟きながら、エリカはそれでも周囲を見回す。
 面白くないのは、一緒に歩いているヤスカ・ゼクレスだ。
 ――無意識にも、お嬢様があの駄犬の名前を呼んだ……。
 今、隣にいるのは私なのに、なぜ私じゃない……私じゃなく、あの犬に……!
 ましてや過去を打ち明けたなど! 私だけが知っていたのに!
 胸の中に、明らかな怒りが生まれる。
 一方、エリカは『彼』を探すことを諦め、チョコレートの噴水へと足を進めた。
 そこでひんやりとした空気を感じ、目を瞬かせる。
「冷たいチョコレートが流れているなんて、どうなっているんだろうな。なあ、先生」
 ……と、ヤスカを見上げ。
 かすかに目を細めた。
 ちょっと怒って……る? なぜだ。私がアイツの名前を呼んだから……?
 だとしても、ヤスカが彼に嫉妬する意味がわからない。
「先生、マシュマロがおいしそうだ」
 エリカはあえてヤスカの様子に気付かないふりをして、串に刺さったマシュマロをひとつ、手に取った。
 冷たいチョコレートに浸し、それをヤスカに差し出してみる。
 しかしヤスカは、ありがとうございます、と受け取ってはくれたものの、口はつけない。
 チョコレートがぽたりと地面に落ちても、それをじっと見ているばかりだ。
「……先生?」
 ヤスカは、手にした串を強く握った。
 先ほどマシュマロを渡してくれたエリカは、困惑しているようだった。
 きっと、ヤスカが怒っている理由がわからないのだろう。
 それはつまり――。
 お嬢様はあの駄犬を呼び、近くに置くことを、私に悪いとは思っていないということですね。
 ああ、お嬢様は不幸であったはずなのに……何故立ち直っているように見える……。
 胸の内でそう問いながらも、ヤスカにはその答えがわかっている。
 自分が駄犬と呼ぶ『彼』が、いたからだ。
 お嬢様に従うべきは、誰より近くに寄り添うべきは自分なのに。
 いつまでもマシュマロを持ったままのヤスカに、エリカは冷静な視線を向けている。
 理由はわからずとも、先生の機嫌が悪くなったのは、私がアイツの名前を呼んでからだ。
 それならば誤解を解くために、説得が必要なのではないかと答えを出すのは、当然のこと。
 エリカはヤスカを見上げ、口を開いた。
「先生。アイツは良いヤツだ。確かに無茶したり心配したりするようなことをするけど……先生と同じくらい信頼出来る奴だと、私は思ってる」
 彼女の声も、まなざしも、真剣なものだった。
 だからこそヤスカは、穏やかな表情を見せることしかできない。
「そうですか……お嬢様はそれほど信頼しているのですね、彼を」
「ああ」
 たった一言の返事と、一度の頷き。
 それがこうも自分を苦しめるとは。
 ヤスカは彼女に、うっすらと笑みを見せる。
「わかりました。お嬢様、私はこのマシュマロをいただいておりますから、お嬢様はご自由に楽しんでください」
「ん? ……ああ、では先生が好きそうなものをとってこよう」
 ヤスカを説得できたと思ったのかはわからないが、エリカは彼に背を向けると、食べ物の並ぶテーブルへと向かって行った。
 それを見送りながらも、ヤスカの尻尾は、地面をコツコツと叩いている。
『同じくらい信頼』
 それならば、私は要らないのではないか。
 ならなぜ、適合などした……?
 エリカから離れることは考えられない。
 それゆえにエリカの一言は、ヤスカの胸に、短剣を突き立てたも同じものであった。

●今、あなたが目の前にいることが

 ちらりと見えた、黒髪のポニーテール。
 その長身男性の背中を見、秋野 空は歩みを止めた。
 だが彼はすぐに、人ごみの中へと姿を消してしまう。
「あれ、今……」
 きょろりと周囲を見る空の、右手は自然と左手首の皮ブレスへ。
 そんな空の様子に、気付かぬ相棒ではない。
「ソラ、どうかしましたか?」
 ジュニール カステルブランチが声をかけると、小柄な空は顎を高く上げ、彼を振り仰いだ。
「いえ、知った人を見た気がして……」
 未だあたりを気にかけているらしい空の口調は、普段よりも少しだけ浮ついているように聞こえる。
 なにより右手は、左手のブレスレットに触れたままとくれば。
 ソラが見たというのは、そのブレスレットに関わる人物……でしょうか。
 まさか、昔の恋人、とか。
 気付いた瞬間に、ジュニールの胸の奥がかっと熱くなる。
 嫉妬だ。
 だがそれを表に出すジュニールではない。
 自分にだって過去が、それも空には隠している過去がある。
 それならば、空にだって、ジュニールの知らないなにかがあって、当然なのだ。
 ジュニールはいつも通りを心がけ、優しい口調で再び空を呼んだ。
「ソラ、もしソラがお会いしたいと願う人なのでしたら……」
 そこで彼は、そっと目をふせる。
 自分の感情を優先するならば、言いたくはない。
 だが空の心の安寧を願うならば……。
 ジュニールは思い切って、目線を上げた。
 空を見つめ、はっきりと告げる。
「俺に気兼ねせず、探しに行ってください。例え過去の恋人であっても……俺は、別に」
 言ったものの、実際に『彼』を追う空を見たいはずはない。
 ジュニールは目を閉じて、空に背中を向けた。
 だが空は、そんな彼の背中に両手を添える。
 ジュニールが過去の『彼』に嫉妬していると、気付いたからだ。
 きちんと伝えられなかったばかりに、ジューンに余計な心労をかけてしまいました……。
 それをひどく、申し訳ないと思う。
 しかしその反面で、先ほど見た不安に揺れた瞳も、この行動も、嬉しくもあった。
 空はジュニールの背を押して並んでいた列を離れると、手を引いて人の少ない場所へと向かう。
 そして向かいあい、まずは「すみません」と口にした。
「彼は……カルヴァドスと言います。昔、とてもお世話になった大切な方で……会いたいと思ったのは事実です」
 そこで一息つき、繋いだままのジュニールの手を、強く握る。
 ジュニールは驚いたように、その手を見た。
 空は続ける。
「でも今はそれよりも、目の前にいる人の辛そうな顔の方が心配です。……私にとってどちらが大切か、言うまでもないですから」
「ソラ……」
 ジュニールが、いかにも空が愛おしくて仕方がないのだという風に、目を細める。
 なんてことはない。
 彼女が探していたのは、偽名で旅をしていた当時のジュニール、だったのだ。
 自分に嫉妬をしていたことに呆れつつも、彼女が名前を覚えてくれていたことが、なによりうれしい。
 ジュニールは空に握られていないほうの手で、空の手の甲をそっと撫ぜた。
 俺は契約時から、空に気付いていましたよ、とも、カルヴァドスが自分であることも言わない。
 大切なのは、今だと、空が言ったからだ。
「ソラ。大切な思い出を話してくれて、ありがとうございます」
 微笑んだジュニールに、空は安堵の表情を見せる。
 いつも優しいジュニールではあるけれど、彼だってこうして不安になることがある。
 それを自分が救えるのだとしたら。やはり言葉を重ねるのは、大切なことなのだ。
「……苦手だなんて、言っていられませんね」
 空はごくごく小さな声で、呟いた。

●あなたは私の大切な

 甘い香りが漂う噴水の前を、紫月 咲姫は歩いている。
 チョコの噴水なんて不思議ねぇと言ってはいるが、目指すはお菓子や果物が並んでいるテーブルの方だ。
「はい、彩夢ちゃん、フルーツ色々あるわよ。どれから食べる?」
 咲姫は、紫月 彩夢を振り返った。
 しかし一歩後ろをついてきて、一緒にフルーツを見ていると思っていた彼女は、周囲の人ごみに目をやっていた。
「……気のせいか。甘いもの好きなんだよね……誘えばよかった」
 その台詞に、肝心の名前はない。
 しかし咲姫には、彼女が誰のことを言っているのか、はっきりとわかった。
「彩夢ちゃんを夢中にさせてるのは、神崎さんかしら」
 咲姫は真っ赤な苺を串にさし、彩夢の眼前で小さく振って見せる。
「ふふ、彩夢ちゃんが気にする人なんて、お仕事でのお友達か……彼くらいでしょう?」
 笑顔の咲姫に対して、彩夢は無言だ。
 だが咲姫は、気にした様子はなく、唇を動かした。
 私は別に、反対はしないのよ、と。
「彩夢ちゃんはしっかりしてるから、ちゃんと気を付けてくれるだろうし。異性としての彼は、私より彩夢ちゃんの方がよく知ってるでしょう?」
 その含みのある言い方に、彩夢はいよいよ、柳眉を逆立てる。
「……あんたが何言いたいのか分かんない。言いたいことがあるなら、はっきり言いなさいよ」
 兄の赤い瞳をきつく睨めば、咲姫は妹の赤い瞳を、じっと見つめた。
 互いの視線が絡みあう時間は、数十秒、いや、数分にもなっただろうか。
 先に目を伏せたのは、睨まれていた咲姫の方だった。
 細く、息を吐く。
「……なら、言うわ。俺は、神崎さんは悪い人ではないと思う。でもね、俺は彩夢の兄だからね。彩夢が病院に搬送されるような事態を看過は出来ない」
 彩夢の傷を、深珠が負ってくれたとは聞いている。
 それでも彼女らのことを聞いた時、自分がどれほどの衝撃を受けたか。
 自分がいたならば、あんな怪我はさせなかった。
「……もっと、自分を大事にしなよ、彩夢」
「やっぱり、怒ってるんじゃない」
 呟かれた台詞に、彩夢は嘆息した。
「まあ……深珠さんに八つ当たりしなかったのは、良かったけど。あれは、あたしにとっても嬉しい事だったんだから、咲姫にとやかく言われたくない。それに咲姫だって」
「私が、何?」
「……忘れたとは言わせないわ。フィヨルネイジャで、あたしを生かすために勝手に死んだこと。あたしは今でも許してない。でも、深珠さんは違うのよ。あたしと一緒に生きてくれる選択をしてくれるあの人が、あたしには必要なのよ」
 そう言われると、咲姫には何も返せない。
 あの時、酷く冷えた部屋で。
 二人じゃなきゃだめだと、彩夢は言った。二人で生きるのだと。
 でも咲姫は、彩夢をどうしても生かしたかった
 あれが咲姫にとっての、最良で最善の選択だったのだ。
 彩夢が、咲姫の両上腕を、左右の手でぎゅっと掴む
「……兄さん、そろそろ認めてよ。あたし、もう十分に大人になったつもりよ? パートナーとして、ちゃんと見てよ」
 いつまでも、あたしを守ろうとしないで。
 あんな庇護、あたしは要らない。
 そんな気持ちを込めたのに、咲姫は、左右に緩く首を振った。
「……ごめんね、彩夢ちゃん。これだけは譲れないの。怖い夢を見ちゃったから……その時を超えるまで、私の過保護は、きっと治らないわ」
「なら……」
 先に続く言葉は、言いかけたまま。
 彩夢は咲姫の肩から手を離すと、彼に背を向けた。
 大切な人に、愛を捧げるバレンタイン。
 しかし大切だからこそすれ違い、伝わらない想いもあるのだ。

●あなたの過去の思い出の中に

 人ごみの中に鷲の尾羽が見えた気がして、出石 香奈は呟いた。
「もしかして、先輩……?」
 会いたいと切望していたわけではないが、過去を共有する人物がいるかもしれないとなれば、気になってしまうのも事実。
 香奈はそわそわと、チョコレートの噴水に集まる人達に目を向けた。
 レムレース・エーヴィヒカイトは、誰かを気にしている香奈の変化に気付いている。
 もしや、過去に酷い目に合わされたという昔の男だろうか。
 それならば一発殴って……いや、過去のことには口を出すべきではないか。
 それに俺は香奈の相棒ではあるが、それ以外に何というわけでもないし。
 そんなことを考えながらも、レムレースは香奈を目で追っていた。
 と、気付くのは、酷い目にあったと仮定するにしては、彼女がずいぶん嬉しそうであるということだ。
「香奈、さっきからどうしたんだ」
 意を決して尋ねれば、香奈はふわりと笑って告げる。
「施設で一緒だった先輩を見つけた気がしたのよ。鷲のテイルスで、無茶ばかりして……テイルスは空を飛べるかなんて話したりしてね、だいぶ振り回されていたけれど、楽しかったのよ」
 しかしそれを聞いたレムレースは渋面だ。
「それは……その先輩とやらは相当な問題児に思えるんだが、本当に大丈夫なのか? 虐められたりはしてなかったのか?」
 レムレースにしてみれば、当然香奈を案じての言葉であった。
 だが香奈は、思いのほか大きな声を出す。
「違う、先輩はそんな人じゃない!」
 自分でもそんな言い方をするとは思わず、彼女は焦り、自らの口を手で押さえた。
「そうか……辛い過去ばかりではなかったんだな。楽しい思い出もあったなら良かった」
 一瞬は目を見開いたものの、自分の知らない昔のことだ。
 レムレースはそれしか言えず、黙り込む。
 香奈は、そんな彼の顔を覗くように見上げた。
「もしかして心配してくれてたの?」
「まあ……」
 余計な世話だっただろうかと言葉を濁せば、香奈は「ありがとう」と破顔する。
 だが、その先がいけなかった。
「でも先輩は、あんな酷い男どもとは違うから。それに片思いだったし……。ずっと前にウィンクルムの契約をして、施設を出たきり会っていないわ」
 片思い。
 香奈が何気なく言ったその言葉に、レムレースは自分の中に苛立ちが生まれるのを、はっきりと感じた。
「今のところあたしのパートナーはレムだけよ」
 そう続いた香奈の台詞は、するりと鼓膜と頭を通り抜けていく。
 代わりに引っかかるのは次の、「先輩とのことは初恋のいい思い出」だ。
 その『いい思い出』が、俺とのものに塗り替えられればいいのに。
 ふと気づけば、レムレースはそんな思いを抱えていた。
 だがすぐに、何を言っているんだ、と思う。
 せっかく香奈が幸福な過去を大切にしているというのに、俺は何を。
 レムレースは香奈から視線を外すと、彼女にはわからないように、短く浅く嘆息した。
 その眼前に、不意に白くて丸い上に、茶色いチョコレートがかかった食べ物が差し出される。
「……白玉?」
「心配させちゃったお詫びよ。レム、和菓子好きでしょ?」
 はい、あーん、と言われるままに口を開ければ、口内には甘い団子が転がる。
「美味しい?」
「……ああ」
 俺も安い男になったと思いながらも、機嫌が一気に浮上する。
 レムレースが頷くと、香奈はかすかに頬を赤らめて、良かった、と微笑んだ。
「あたしも食べてみよっと。……レム」
 さすがにレムからのあーんは――。
「ないわよね」
 恥ずかしそうに呟いて、香奈は白玉をひとつ、串に刺す。
 レムレースは、彼女の希望には気付かず。
 白玉にチョコをつける香奈を楽しそうに見ていた。

●あなたが見つめるのはいつも

 バナナに苺、キウイフルーツ。クッキー、マシュマロ、その他諸々。
 たくさんの果物や菓子が並んだテーブルを見、ミサ・フルールは瞳を輝かせた。
「私は苺につけて食べたいな。エミリオは何にするの?」
 ミサが、隣に立つエミリオに視線を向ける。
「俺はマシュマロにつけて食べようかな」
 エミリオは少しの迷いも見せずにそう口にした……が。
 その言葉を言いきった時、彼はマシュマロを見てはいなかった。
 赤い瞳が捕えていたのは、串に刺さった苺を手にするミサである。
「ミサは本当に、苺が大好物だよね。……俺と苺、どっちが好き?」
 前半は穏やかな笑みとともに、正面で。
 後半は顔を寄せ、ミサの耳朶に囁けば、ミサは一気に赤面だ。
「もう、意地悪言わないでよ」
 そんなの、エミリオに決まってる。
 ミサの顔にははっきりとそう書かれているようで、エミリオはくすくすと笑い声を立てた。
 まったくミサは、愛らしい。
 だがそんな彼女が、あれ? と怪訝な顔をする。
 視線はエミリオを超え、少し先へ。
「ミサ、どうしたの?」
「今ね、懐かしい人を見た気がするの。トオルもこのイベントに来ているのかな」
 ミサはきょろきょろと『トオル』を探して辺りを見回した。
 初めて聞く名に、エミリオの声が一段低くなる。
「……誰、それ」
 しかしミサは、彼の変化には気付かない。
「あのね私が昔、製菓の専門学校に通ってた時のクラスメイトなの。トオルは成績優秀の優等生でね、特に飴細工を使ったお菓子が大得意なんだよ!」
 語られる言葉を、エミリオは黙って聞いている。
 ミサが楽しそうに語っている。それは大いに結構。
 でも、その内容が。
「私の誕生日に薔薇の形をした飴細工を作ってもらったことがあったんだけど、綺麗すぎて食べるのがほんともったいな」
 ――駄目だ。
 エミリオは、ミサの眼前にぐっと顔を近付けた。
 鼻先が触れあうほどの位置で、ゆっくりと唇を動かす。
「ねぇ、それ以上喋るならその口、塞ぐよ?」
 俺の目の前で、嬉しそうにほかの男の話をするなんて。
 そんなの、聞きたいわけ、ない。
 皆まで言わずに茶の瞳を睨めば、ミサはそれをぱちぱちと瞬かせる。
「……ど、どうして怒ってるの?」
「どうしてって、分からないの?」
 エミリオはミサの顔に見入ったまま、彼女の細い首筋に手を置いた。
 そこから頬へと撫ぜ上げて、口にするのは。
「大事な女の口から自分じゃない男の名前が出て、どうして平気でいられるのさ?」
「へっ、男!?」
 ミサは頓狂な声を上げた。
「トオルは『女の人』だよ?」
「えっ……」
 言うなりエミリオの顔が、さっきの苺のように真っ赤に染まる。
 彼はその完熟した頬をミサから隠すように後ろを向くと、ぽつりと呟いた。
「……女なら女って最初から言いなよ」
 その拗ねた口調に、ミサは唇をほころばせた。
 彼が嫉妬をしてくれている、それが嬉しくて、頬を染めたエミリオが……かわいくて。
「エミリオ、こっち向いて」
 優しい声で言って、渋々振り向いたエミリオの頬に、キス。
「なっ……」
 予想外のキスに、エミリオの胸が高く打つ。
 しかもミサは、こう続けたのだ。
「勘違いさせちゃったお詫び。今は人がたくさんいるから、口へのキスは誰もいないところで、ね」
 赤い顔ではにかむ彼女の手を、同じく赤い顔のエミリオがぎゅっと握る。
 もちろん、了解、の合図の代わりである。



依頼結果:成功
MVP
名前:出石 香奈
呼び名:香奈
  名前:レムレース・エーヴィヒカイト
呼び名:レム

 

名前:秋野 空
呼び名:ソラ
  名前:ジュニール カステルブランチ
呼び名:ジューン

 

メモリアルピンナップ


エピソード情報

マスター 瀬田一稀
エピソードの種類 ハピネスエピソード
男性用or女性用 女性のみ
エピソードジャンル ロマンス
エピソードタイプ ショート
エピソードモード ノーマル
シンパシー 使用不可
難易度 とても簡単
参加費 1,000ハートコイン
参加人数 5 / 2 ~ 5
報酬 なし
リリース日 01月28日
出発日 02月04日 00:00
予定納品日 02月14日

参加者

会議室

  • [8]秋野 空

    2016/02/03-23:37 

  • [7]秋野 空

    2016/02/03-23:37 

    プランを提出いたしました
    チョコレート…
    ふふっ、ひたすら楽しみです

    皆様も美味しいチョコと甘い時間を
    どうぞ美味しく堪能されますように…

  • [6]久野原 エリカ

    2016/02/03-20:31 

    久野原エリカと、パートナーのヤスカ・ゼクレス……よ、よろしく……

    何とかプラン提出できたが……これ……色々な意味で人選ミスってやつじゃないのか……大丈夫かな……
    まぁ何とかなるか……

  • [5]ミサ・フルール

    2016/02/02-23:50 

  • [4]ミサ・フルール

    2016/02/02-23:49 

    こんばんは!
    ミサ・フルールです、パートナーのエミリオと参加します(ぺこり)

    私達 甘いもの大好きだから、こういうイベントすごく楽しみ♪(ふにゃりと笑う)
    私は苺にチョコをつけて食べたいなって思ってるの!
    マシュマロやバナナもいいよねっ
    プチトマトとか、かぼちゃみたいな野菜につけて食べるのも意外といけるんだよー知ってた?
    ふふー♪ だめだ、よだれが出ちゃ・・こ、こほん!
    皆が思い思いの時間を過ごせますように!

  • [3]紫月 彩夢

    2016/02/02-22:15 

    紫月彩夢と、姉の咲姫。
    ……甘いもの好きなはずの深珠さん誘えばよかったかしら。うっかりしていたわ。
    まぁ、たまには姉妹の親睦も深めたほうが良いわよね、うん。
    どうぞよろしく。

  • [2]出石 香奈

    2016/02/01-21:27 

  • [1]秋野 空

    2016/01/31-22:41 


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