怪盗ロマンチスト~運命の館~(雨鬥 露芽 マスター) 【難易度:普通】

プロローグ


「彼らは、パートナーを必死に助けるものですね」

暗い部屋。
目をヴェネツィアンマスクで覆った男は、そう呟いた。
彼の纏った白いスーツが月明かりに照らされて、その存在を見せつける。
記憶の中で蘇るのは、前回のウィンクルム達。

「ただ偶然契約しただけのパートナーを、何故……」
「確かめてみますか?」

近くには、黒い服の女がいた。髪の長い女だ。

「そうですね。そろそろ館を壊すのも飽きてきましたし」
「では造りを変えさせます」

女が一度お辞儀をする。

「あぁ、なら次は鍵の部屋を沢山作りましょうか」
「鍵の部屋……と申しますと?」

女の声に、男は笑った。

「1つの通りに5つの部屋と5つの鍵」
「5つですか」
「鍵となるのは、運命の言葉。失敗したら……そうですね、からくり人形と遊んでもらいましょう」

男の楽しそうな声。
女は問いかける。

「最後はいかがなさいます?」
「全て流してしまいなさい」

男の説明で何かを察することができたのか、女は「かしこまりました」と下がっていく。
男は窓から月を見上げた。

「まずは神人を数人攫い、運命の言葉を尋ねましょう」

男は、作戦を考えていた――

招待状を精霊に出し、神人を攫って1人ずつ部屋に閉じ込めておく。
どう足掻いても出られない造りだ。
念のため、他の神人と何も企めぬよう、それぞれ離れた場所に閉じ込めよう。

そこで5つの質問。
1つ目は誕生日、2つ目は色、3つ目は図形、4つ目は言葉。
そして最後は、特別な思い出。
答えなければ精霊が痛い目を見ると言えば、答えるだろう。
神人の部屋には、いつも通りテレビを置いて精霊の様子を見てもらおうか。

それから招待状通りに集まった精霊に、神人へ続く道を教える。
道の始まりは人数分。分岐はなく一本道だ。
しかし途中には部屋があり、その部屋には扉が1つある。
壁には鍵を5本。1つでも取ったら他の鍵は取れない仕組みにしよう。

部屋では、質問をされる。
神人と同じ質問だ。
しかし、神人と答えが同じでなければならない。
選択肢は鍵そのものに変わる。
神人の答えた物を想定して、鍵を選ばなければならない。

もしも間違えば、壁から武器を持ったからくり人形が出てくる。
各部屋によって武器は変えようか。
からくり人形には体のどこかに扉を開けるための鍵をつけておこう。
それを奪って開けてもらおうじゃないか。

しかし彼らはウィンクルムだ。それくらいじゃ手緩いだろう。
からくり人形に遊んでもらっている間、壁から飛び道具でも放とうか。
襲い来る様々な攻撃を避けながら鍵を奪わないと、先に進めない。
大事な神人のためだ。楽勝だろう?

そうして4つの部屋を越えた後、最後の部屋に辿り着く。
最後の部屋は、呼び出した全員を集合させよう。
そこで、最後の質問だ。
選択肢は、神人の数だけ用意されている。
選択肢を聞いた精霊は、自分の神人の話と思う鍵を取る。
そして示された道の先にある部屋へと向かう。
それを開けば、神人と対面だ。

恐らく、彼らは私を探すだろう。
最後の部屋で待っていよう。
そして最後は、大量の水と共に、彼らを流しだせばいい。

「たかだか相性で契約された偶然に、運命があるか見せていただきたいものです」

男は、月を瞳に映して笑った。



それから大分経った頃、男は動いた。
『怪盗ロマンチスト』として。

攫われた神人と、招待状の届いた精霊。
他言をすれば、神人の命はないかもしれない。
書かれた時間は午後8時……

精霊は招待状の通り、指定の館へと集結した――

解説

■目的
神人を奪還せよ


■PC情報
8時、集結した時点から開始
交通費に300jr
●神人
・質問は済んでいる
・質問の時点では、他の神人が誰か知らない
・部屋から出られない
・テレビで精霊の状況を見れる
●精霊
・館に到着し、他の精霊の姿に気付いたところ
・神人が無事かどうかもわかっていない


■怪盗ロマンチスト
基本的には知らない方向でお願いします。
○攫われた友人から聞いた
×噂で聞いた事がある
×姿を見た事がある(前回未参加)
×前に攫われた(前回未参加)

前回参加者のみ、前に攫われて姿を見たことがあるとします。


■館
プロローグと併せてお読み下さい。
●運命の質問
1:神人の誕生日
2:赤、青、黄、緑、桃から一つ
3:丸、四角、三角、雫、ハートの中から一つ
4:花、星、空、夢、恋から一つ
5:ウィンクルムの活動で一番の思い出

●扉
4つ目までは選択肢がある。
5つ目は他の精霊達と言葉を聞き、自分のがどれか考える。

4つ目の部屋までは、間違えると2mの大きさの人形が襲ってきます。
武器は順に斧、弓、剣、ハンマー。
他にも部屋のからくりが精霊を襲い、怪我をさせてきます。
人形についた鍵を奪えば先に進めます。

5つ目を間違えると神人の部屋に行けません。


■プラン
●神人に必須なこと
・質問の答え
誕生日は書かなくて大丈夫です。
また、数字を入れず上から順に改行で問題ありません。
思い出については、エピソードがある場合最後に番号入れてもいいです。

●精霊に必須なこと
・質問への反応
・からくりとの対峙
5つ目以外の反応は、正解であれば○、間違えなら×、お任せであれば△。
細かい事があればその後書いてください。
5つ目のみ細かい反応は必須。
【例】
1○
2×好きな色じゃないのか(しょげる)
34△難しいな。一体どれだ。
など。

※一部親密度とプランによってマスタリングが入る可能性があります。

●その他明記
泳げない人はプランの頭に【溺】
絡みNGは頭に【無】
アドリブNGは頭に×

ゲームマスターより

こんにちは、雨鬥露芽です。
人の出会いなんてウィンクルムじゃなくても結局偶然と相性で、運命かどうかわかるのは全てが終わってからだと思うのですよね。
なので全部正解より、怪盗ロマンチストを納得させる事が鍵です。

怪盗ロマンチストは二回目の登場ですが【前の知らなくても問題はない】と思います。
前回参加者も参加可能です。
もちろん未参加の方も問題なく参加できます。

前回文字数がとんでもなく足りなくて泣く泣く削りまくったので、今度はEXで……!
アドリブが大量に発生します。
こういう意思を持ってこう動くとかあればイメージの違いとかは少ないかもしれない。
アドリブ嫌な方は頭に×!

怪我についてですが、殺意はないので立てないほどにはなりません。

一応前のロマンチストさん↓
https://lovetimate.com/scenario/scenario.cgi?type=1&seq=1054&gender=0

リザルトノベル

◆アクション・プラン

篠宮潤(ヒュリアス)

  ・緑(…あ、ヒューリ、緑似合いそう)←選んだ理由
・丸(直感)
・空(精霊(の髪)を思い描いていたのでつい)
・「足でまとい、とか…見限られてもおかしく無かったのに、対等に扱ってくれた…気がしたんだ…
嬉しくて…でも、僕の未熟さが、分かった気がした。
だから狂気の花、のことは、忘れられない」

「ああああ……」
TV見てド反省
ヒューリのだって、知りたいのに…今まで話した事無かったっ

●救出され後
「し、質問の…困らせてごめん、ね…」
これから知れる楽しみ?そ、そっか

他の仲間も見て「うん、そうかも」
奇跡の後どうするか、は、僕たち次第なんだろう、ね
だから、貴方とも会えた事は、何か意味があるって…思いたいん、だ(怪盗氏へ


和泉 羽海(セララ)
  【溺】

ハート

ウェディングドレスでファッションショー
人前に出るのも、あんな恰好するのも恥ずかしくて嫌だったけど…
今でも恥ずかしいけど…でも、楽しかった(エピ11

……今まで散々あの人のこと、馬鹿だと思ってたけど
あたしこそ本当の馬鹿かもしれない……

不甲斐なさに落ち込むも2度目なので若干冷静
質問は自分じゃなく相手が選びそうなのを優先(最後以外
状況は祈るように見守る、5の反応へは冷めた目
再会→万感の思いをこめて『ごめんなさい』

…運命って…最初からあるものじゃ、なくて…
いろんな事を…積み重ねてできたもの…だと思う…から…
始まりは…偶然でも…必然でも…関係、ないんじゃ…ない…かな…
(必要なら精霊が通訳


スティレッタ・オンブラ(バルダー・アーテル)
  何なのよこれ、何が目的でこんなこと……
2赤
3ハート
4夢
5一緒に暮らそうと言ってくれたこと
契約直後に、私がオーガに襲われて、その時も彼は助けてくれた
その後に危険だからっていう理由で一緒に暮らそう、ってね
彼の方から言ってくれたわ
まあ出会って早々敢えて好みじゃないって言ったから、悪印象持たれてるかと思ったけど
でも、逆にそれで本当に下心のない人なのねって思ったわ
凄く嬉しかった…

彼は優秀な傭兵よ
死地だって沢山乗り越えてきたから、私は彼を信じて待つわ
…来てくれたら一杯抱きしめたい
本人は嫌がるでしょうけどね
でも、そうでもしなきゃ私の今の気持ち、表せないもの



 午後八時。
 館の扉が勢いよく開いた。

 ――ナンナ!
 扉を開けたバルダー・アーテルが彼女の名を叫びそうになり、ハッとして口を閉じる。

(いや、ナンナと呼んだら俺の正体がバレる)

 しかしそれどころではない。
 周囲を見回してもパートナーのナンナ――スティレッタ・オンブラの姿は見えない。
 招待状に書かれていた場所は確かにここだった。

 焦るバルダー。
 再び扉の開く音が響いた。
 振り向くとそこには見知った顔。

「ヒュ、ヒュリアス……」

 どことなく冷静なヒュリアス。
 バルダーが驚いていると、今度は気の抜けるような声が扉の音と共にやってきた。

「はろはろ~! まさか、またここでヒュリアスさんと会う事になるとは思わなかったよ」
「セララ……そちらの神人嬢もまた、だろうか……」

 一度見た事のある招待状と人里離れた場所にある館。
 ヒュリアスとセララは、一度同じような体験をしたことがあった。
 バルダーが困惑していると、キーン……と高い音が響いてきた。

「ようこそ皆さん、お集まりいただきありがとうございます」

 三人は、声のする方向を見た。


 神人達は、部屋の中。
 現在精霊が来ていることは知らない。
 反省したり困惑したり落ち込んだり、色んな想いを抱える神人。
 彼女達はそれぞれの場所で大人しく待つしかない。

 ブゥゥン――
 そんな神人達の部屋で、起動音。
 部屋に設置されていたテレビがついた音だった。



 三人はスピーカーの声に案内されて別々の道を歩いていた。
 一人分しかない狭い通路。
 そこを歩くセララは、比較的落ち着いていた。
 突き当たりの扉を開くと、そこには白い壁紙で囲まれた20畳ほどの空間。
 床も白いパネルが敷き詰められている。

(相変わらず白っ!! でも何か、前と違う……?)

 何があろうと羽海を助けるだけだが、辿り着かなければ意味がない。
 前回結構な傷を負ったセララ。
 最低限の警戒は忘れない。
 今回は何が待っているのか。

 左の壁には番号が振られた5つの鍵。
 右の壁には何もない。
 正面にあるのは入口と同じく白い扉。
 扉が開く様子はない。

 一体この部屋で何をするんだか……。
 きょろきょろと見回していると、先程と同じキーンという音が響いた。

『あなたの運命の鍵を選んでください』

 上を見れば小さなスピーカーのような器具。
 相変わらず姿を見せるつもりはないらしい。

「この鍵の中から選べばいいのかねぇ……」

 しかし番号の意味がわからない。
 悩んでいると、スピーカーの声は続いた。

『さぁ、運命の質問です。あなたのパートナーの誕生日は、次のどれでしょうか』

 声は続けて1番8月9日、2番……と選択肢を読みあげていく。

「当然!」

 セララは残りの選択肢を聞かず、誰に言ってるんだと言いたげな表情で2と書かれた鍵を選ぶ。
 ガタン――
 鉄格子が音を立てて他の鍵を覆った。
 どうやら一度選んでしまうと他の物は取れなくなるらしい。
 しかしセララには関係ない。羽海の誕生日など、頭に入っていて当たり前の情報だから。

「羽海ちゃんの誕生日は8月7日!ってことで2番!」

 選んだ鍵を自信満々に鍵穴に差し込む。
 ガチャリと音を立てて、鍵が開く音がした。


(……今まで散々あの人のこと、馬鹿だと思ってたけど)

 セララのパートナーの和泉羽海は、自身の状況に落ち込んでいた。

(あたしこそ本当の馬鹿かもしれない……)

 同じ人物から、二度の誘拐。
 それでもセララは助けに来てくれる。
 前回傷だらけになったのに。
 今回も同じように傷だらけになるかもしれないのに。
 申し訳なくて仕方がない。不甲斐ない。
 画面の向こうでは、扉を開けて次の部屋へと進んでいくセララの姿。
 祈るように見守るしかなかった。



(あいつは無事なのか……!)

 バルダーは焦っていた。
 スティレッタがどうなっているかわからない。
 何故このようなことをするのかもわからない。
 ただ言われるがままに行動するしかなかった。

 白い扉を開けると、鍵が並んでるだけの部屋。
 バルダーは知らないが、セララと全く同じ部屋だ。

(鍵は5つか……)

 冷静で、様々な経験をしてきたバルダ―。
 しっかりと状況を見極めるために周囲を確認する。
 扉は開かない。

(他には何もない……。この扉の先にあいつはいるのか?)

 しかし鍵を判断するための物は特になさそうだ。どうするべきか。
 早くスティレッタを助けなければならないのに。
 考え込んでいると、上から声が降ってきた。

『あなたの運命の鍵を選んでください』

(運命の鍵だと? 一体何を言ってるんだ)

 鍵といえば壁の鍵だろう。しかし運命というのが何を指しているのかわからない。
 自分の運命か。それともスティレッタの運命だろうか。

『さぁ、運命の質問です。あなたのパートナーの誕生日は、次のどれでしょうか』

 選択肢が並ぶ。
 答えなんて知っている。
 バルダーはスティレッタに誕生日を祝われた。
 その『お返し』を期待されている。
 故に知らないわけにいかない。

 バルダーは2月19日と示された4番の鍵を手に取る。
 下りた格子を確認して、その挙動を把握。
 他に動きはないようだ。
 この扉を開ければスティレッタがいるのだろうか。
 バルダーは鍵を開けた。


(何なのよこれ、何が目的でこんなこと……)

 わけがわからぬまま、スティレッタは突然画面に映し出されたバルダーの姿を見つめていた。
 助けに来てくれたのだ。
 何があっても、彼はきっとここまで来てくれる。
 彼は純粋に優しい人なのだ。
 心だけじゃなく、その実力も信じてる。
 スティレッタは、画面をじっと見つめ続けた。



 ヒュリアスは警戒していた。
 前回落ちかけたり追われたりしたヒュリアス。
 怪しい物がないか部屋の中を確認する。

(鍵だけしか見えないが……)

 扉に手を伸ばしてみるが、鍵がかかっている。
 さてどうするか。

『あなたの運命の鍵を選んでください』

 やはりこの前会った『彼』と同じ声だ。

『さぁ、運命の質問です。あなたのパートナーの誕生日は、次のどれでしょうか』

 読まれた選択肢にヒュリアスは考え込む。
 ヒュリアスはパートナーである篠宮潤の誕生日を、知らないのだ。
 勘で選んだ3番――11月5日の鍵を手に取ると、鉄格子が他の鍵を覆った。
 ヒュリアスが一歩離れると、鍵のついていた壁が回転を始める。
 そこに見えてきた人型の影。
 右手には、斧――


「ああああ……」

 画面を見つめていたパートナーの潤。
 ヒュリアスは誕生日を答えられなかった。
 当たり前だ。
 今までそういう話をしたことがなかった。

(ヒューリのだって、知りたいのに……)

 知りたいと思っていたのに。
 聞く機会がなかった。いや、機会なんて関係なく、自分から聞けばよかっただけなのかもしれない。
 もっとちゃんと話していれば……。
 後悔のような反省のような気持ちが、潤の中で渦巻く。

「ヒューリ……!」

 画面の中で、ヒュリアスが何かに襲われていた。


「生物、では無かろうな」

 ドスンと音を立て、斧が床に突き刺さる。
 反射的にかわしたため、これといった怪我をせずにすんだ。
 ヒュリアスは、突然重い一撃を振るってきたソレに目を向ける。
 質感は木のように見える。
 ギギィと音を立てて動いており、中に人が入っている気配はしない。
 万が一壊すようなことがあっても、問題はなさそうだ。

 敵を把握していると、怪盗ロマンチストの声がした。

『残念。不正解ですね。さぁ、正解の鍵は彼が持っているようですよ』

 彼と指されたのは、目の前の人型の物だろう。
 鍵というのは、右肩についている物体のことか。
 確かに、手元の鍵と同じような形をしている。

(ウルの誕生日は11月5日ではないようだな)

 ヒュリアスは、悔やんでなどいなかった。
 自分が知らないことを知れただけでも、充分だ。
 それがわかったのなら、これから知っていけばいいのだ。
 潤を救出して。

 機械染みた動きをする人形の攻撃を避け、右肩の鍵へと一直線。
 すると後ろから素早い何かの気配。
 ヒュリアスは飛び退いた。

「矢か……」

 壁に当たって落ちた物を見る。
 振り返れば、何もなかったはずの壁に無数の穴。
 状況を見極めている最中にも、それはどんどんと飛んでくる。
 人形も攻撃の手を止めない。
 ヒュリアスは必死にかわす。

(このままでは進めんな……)

 避けているだけでは鍵は取れない。
 ヒュリアスは覚悟を決め、斧を振り回す腕に一撃を加えて動きを一瞬止めると、鍵に手を伸ばした。
 後ろから飛んできた矢が手の甲を掠めたが気にしない。
 潤を救う事が最優先だ。
 奪い取った鍵ですぐさま扉を解錠し、先に進んだ。


(ヒューリ、ごめん……)

 傷ついたヒュリアスを見て、心の底から想う。
 この先、ヒュリアスは無事でいてくれるだろうか。
 潤は必死に願うしかなかった。



(さっきと同じ部屋……?)

 扉の先は全く同じ部屋。
 後ろを向いて確認する。
 やはり同じだ。
 壁にかかる鍵の数も同じ。
 つまり先程のように質問を答えながら進んでいくということだろうか。

(ってことは、また羽海ちゃんに関する質問? なら楽勝でしょ!)

 余裕の笑みを浮かべるセララ。
 次は何だろうか。好きな事?特技?何でも答えてみせる。
 天井のスピーカーを見ながら質問を待つ。
 セララの予想通り、声は降ってきた。

『あなたの運命の鍵を選んでください』

 その声に答えるように「はいはい、次の質問は~?」と軽い返事。
 しかし質問の内容は、セララの予想していたものとは少し違った。

『さぁ、運命の質問です。あなたのパートナーが選んだ色は?』

 質問の文章から考えるに、恐らく『神人の好きな色を答える』のとは違うのだろう。
 鍵をよく見てみれば、先程書いてあった番号とは違い、色のついた宝石がはまっている。
 赤、青、黄、緑、桃の5つだ。
 予想と違った質問に一瞬気が抜けたが、セララはすっと手を伸ばした。

「やっぱりこの中だったらこれでしょ」


 羽海は、その答えに安心した。
 怪盗ロマンチストが『運命の質問』と称して尋ねてきた時、羽海はセララのことを考えて選んだ。
 セララだったらどう答えるだろう。
 そう思って答えたことだった。
 『運命』という単語があったからだろうか。
 思いつかなかったからだろうか。
 とにかく羽海の答えた通り、セララは『赤』の鍵を選んだ。


(オレの目の色!)

 何かあると選ぶようにしている色。
 その鍵を持ってセララは無事に先へと進む。
 羽海は安堵していた。



(同じ部屋だと!? まだ続くのか……!)

 そこに待っていたのは全く同じ構造の部屋とスティレッタがいない事実。
 バルダーは一度頭を落ち着かせ、部屋を確認する。
 鍵が先程と違う。
 数字ではなく、色のついた石のようなものがついている。
 鍵以外の変化は特にないようだ。

『あなたの運命の鍵を選んでください』

 再び声が聞こえた。
 先程と同じ声だ。

『あなたのパートナーが選んだ色は?』

(色か……まあ、好みの色だろうな……)

 バルダーはスティレッタが好む赤のついた鍵に手を伸ばす。
 この先もこのような質問が続くのだろうか。
 一体何個答えればいいのか。
 何のためにこんな質問をするのか。
 本当にこの先にスティレッタがいるのか。
 バルダーの頭には色んな疑問がわいた。
 しかし、今は答えていくしかない。
 鍵を取り、閉まる鉄格子を見つめる。

(まさか間違ったら辿り着けないのか……? それだけは避けないといけないな……)

 ゆっくりと差し込んだ鍵は回る。
 どうやら正解だったらしい。
 不安はあるが、今は前に進むしかないのだ。
 バルダーは扉を開けた。



(次は色か……)

 質問を聞いたヒュリアスは再び迷っていた。
 まさか潤が自分を想って『緑』を選んでいると知るわけもなく、ヒュリアスは黄色を選ぶ。
 そして再び閉まる鉄格子と回転する壁。

「ほぉ……」

 どうやら再び間違えたらしい。
 しかし焦らない。悔やまない。
 一つずつ積もっていく潤への興味がある。
 では、潤は何色を選んだのだろうか。
 そんなことを想うから。

 今度の人形は弓を持っていた。
 さて、次は背後から何が飛んでくるか。
 先程と同じ内容の放送は気にも留めず、鍵のある部位を探す。

(脚か……)

 左脚。人間でいうなら太腿にあたる部位に鍵が付いている。
 あちらが遠距離攻撃なら、近くに寄ってしまえばいい。
 弓では連続の攻撃もほとんどできまい。

 ぐっと踏みこむと、足の重みと共に床のパネルが凹む。
 落ちると思ったヒュリアスが跳んで退こうとすると、横から何かが飛んできた。
 空中にいるヒュリアスは避けきれず、上半身を庇うために構えた腕で衝撃を受けた。

「くっ……」

 飛んできたのは、硬い球。大きさは拳ほどで、色は黒いが鉄ではないようだ。
 速さがそこまで出ていなかった事が救いか、ヒュリアスの上腕が腫れあがる程で済んだ。

(あの穴から飛んできたようだな……)

 飛んできたのは、鍵のかかった扉側の壁。
 どうやら飛んでくるのは背後だけとは限らないようだ。
 倒れたヒュリアスを狙う人形の攻撃を転がって避け、落ちているその球を拾った。
 気をつけるべきは飛んでくる物体。
 人形の攻撃は避けられる。
 他にどのパネルがスイッチになってるかはわからない。つまり踏まなければいい。

 ヒュリアスは高く跳び、上から人形に向かう。
 空中にいるヒュリアスめがけ、人形が矢を放つ。
 ヒュリアスは球で弓を弾くと、そのまま人形に被さり足元の鍵を奪う。
 そしてできる限りパネルを踏まないよう気をつけながら扉の鍵を開けた。



『さぁ、運命の質問です。あなたのパートナーが選んだものは?』

 三つ目の部屋。
 壁にかかっているのは、柄の部分が丸、四角、三角、雫、ハートの5種類の図形になっている鍵。

(うーん……どれを選んでも羽海ちゃんらしいけど……)

 羽海はハートを選んでいた。
 しかしセララはそれを知らない。
 首を捻りながらうんうんと考える。

「よし、じゃあ丸!」

 選んだ理由は本当になんとなく。
 丸い柄がついた鍵を取ると、鉄格子が閉まる。
 そして、今までと違い壁が回転し始めた。

『残念。不正解ですね』

 スピーカーの声が冷たく響く。
 声の説明によると『彼』は、鍵を持っているらしい。
 しかし手にしているものは剣だ。

「まさかあの頭にくっついてるやつ?」

 持ってるといえば持ってるのだろうけれど
 どちらかというと、乗っているに近いように見える。
 奪い取ればいいのだろうか。
 『彼』をじっと見ていると、ギギィと音を立てて剣を持つ手が振り上がった。

――襲ってくる――

 反射的にそう判断し瞬時にその場から移動すると、振り落ちてきた剣が床に直撃する。

(うわ、今回はこういう感じ?)

 前回は矢だのカッターだのが飛び交ってきたのだが
 まさかこんな直接的に攻撃してくるとは、少々予想外。

(まぁこれくらいなら簡単に取れるけど)

 大振りな剣を避け人形に近づくと、人形の背後からセララの顔めがけて何かが飛んできた。

「危なっ……!」

 慌ててかわす。
 避ける方向へどんどん発射される何か。
 それは向かいの壁にぶつかり床に落ちていく。
 見ればシルバーのナイフ。
 どうやら人形の後ろの壁から飛んでくるようだ。
 一面の全範囲からナイフが放たれてくる。

「羽海ちゃんが待ってるから、あんまり遊んでる暇ないんだよね」

 落ちていたナイフを拾う。
 先程大振りだった人形の次の攻撃は、素早かった。
 セララを目標とし、近寄ってくる人形。
 拾ったナイフで剣を受けきることは難しいだろう。
 ナイフを避けながら、剣を避けながら、セララは考えた。


 羽海は祈っていた。
 最初は、答えに気付いてくれるように。
 今は、無事でいてくれるように。
 自分のために助けに来てくれたセララに、必死に祈った。

(あたしが、攫われたりしなければ……)

 自分を責める。
 画面の中では、セララが人形から必死に鍵を奪おうとしている。
 前回と同じように、傷つきながら、それでも自分のために。
 拾ったナイフを使って人形と戦っている。


「よし、取った!」

 鍵を手にした時、セララは傷ついていた。
 出血の量を見る限り大した事はなさそうだが、痛々しい。
 奪った鍵を使い先に進む。

「待っててねー羽海ちゃん!」

 傷ついた腕なんて気にならない。
 傷ついた脚なんて痛くない。
 だって羽海ちゃんがオレを待ってるから。



「そ、そんなの分かるかっ!」

 バルダーは思わず叫んだ。
 形なんて何を宛てに考えればいいんだ。
 しかし、間違えたらどうなるのか。
 スティレッタは無事でいられるのだろうか。
 正解は5つの内、1つしかない。

「これに、するか……」

 バルダーは迷った末、三角形の柄がついた鍵を選択。
 ガタンと鉄格子が閉まり、回る壁。

「な、何だ!?」

 突然のことに警戒をするバルダー。
 ここでスティレッタが登場……なわけがないことくらいはわかる。
 壁の裏側と一緒に登場したのは、大きな人型の影。

『残念。不正解ですね』

 スティレッタが選んでいたのはハート、しかし三角を選んだバルダー。故に不正解。
 もう選択肢の鍵は届かない場所にある。
 しかし目の前の人型の物体から鍵を取れば前に進めるらしい。恐らく頭についている鍵のことだろう。
 鍵さえあればスティレッタを助けに行ける。
 ならば、何も考えることはない。ただ奪うだけだ。

 剣を持ったその人形を観察しながら間合いを取る。
 剣以外の武器は持っていなさそうだ。
 ぶんと音を立てて剣を振るう人形。
 バルダーは相手の動きを見極める。
 すると人形の後ろの壁から、何かがバルダー目がけて飛んできた。


(大丈夫。彼は優秀な傭兵よ……)

 スティレッタは、画面の中で襲われるバルダーを静かに見ていた。
 どうでもいいからじゃない。
 信じているからだ。
 バルダーは沢山の死地を越えてきた。
 大丈夫。

(私は彼を信じて待つわ)

 それは一つの覚悟にも等しい。


(狙うなら関節だな)

 飛び交うナイフを避けながら、動きを見切ったバルダーが狙いを定める。
 関節を攻撃し、攻撃を止めさせて鍵を奪う。
 ナイフの数は多い。移動しながら避けるのは難しいだろう。直撃しそうな物だけ弾いて突っ切った方がよさそうだ。
 そのためには素早く動かせる小型の物がいいな。
 バルダーは、飛んできたナイフを一つだけ手に握る。

(怪我覚悟だ)

 それより彼女を助けなければいけない。
 バルダーはナイフを弾きながら、人形の動きから見つけた隙に滑り込む。
 一か所切れたが、これくらいなら問題ない。
 剣をかわし、肘関節に打ち込んだ拳。
 ギシギシと音を立てて人形の動きが鈍くなる。
 バルダーへ剣を向けようと人形が動くが、何かがずれたのかぎこちない。
 それを確認したバルダーはすぐさま頭上の鍵へ。
 人形の体をうまく使い、ナイフが当たらないように位置を取って鍵を奪う。

(頼むから、無事でいてくれ……!)

 ぎゅっと鍵を握り、バルダーは扉へと向かった。



(今度は図形か)

 先程から人形と連続で戦っていたヒュリアス。
 右腕は腫れあがり、手の甲が少し抉れている。
 痛くないわけではないが、動かないわけでもない。

(ふむ、丸にしてみようかね)

 ただの直感だった。
 そして潤も、この選択肢に限っては直感で選んでいた。
 今度は壁が回らない。
 どうやら今度は正解だったようだ。

 次の部屋に無事進んだヒュリアス。
 それを確認した潤も、ホッと胸をなでおろした。



『さぁ、運命の質問です。あなたのパートナーが選んだものは?』

 次の部屋。
 セララは再び迷っていた。
 鍵に掘られたのは花、星、空、夢、恋の5つ。

(うーん……)

 ナイフや剣が当たった時にできた傷から血が流れる。
 赤い、赤い血。
 しかしセララはあまり気にしていない様子。

(この質問も、どれもありそうなんだけど……)

 そしてどれも羽海に似合いそうにも思える。
 どうせなら恋を選んでほしい、とかちょっと考える。
 できれば自分との……とかそういうのは一度置いといて。
 どうせ答えが全く分からないなら自分の希望を込めてもいいのではないか。

「じゃあ、恋にしようかな!」

 恋と掘られた鍵を選ぶ。
 他の部屋と同じくガタンと閉まる鉄格子。
 そして、回らない壁。

「もしかして正解!?」

 期待や希望を込めていたため喜ぶセララ。
 何に喜んでいるのか傍目からはわからない。
 羽海といえば、セララがその鍵を選んだ理由までは知らないため、良かったと安心してセララを見つめている。

(あの人のイメージなだけ、だったけど)

 結果的に選んでくれたのだから良かった。
 再び傷を負わずに済んだ。
 一周回ってお互いの考えが合ったということだろうか。
 ご機嫌なセララは、そのまま鍵を開けて次の部屋へ進んだ。



「だからそんなの分かるか!」

 連続で答えが予想しづらい質問がきたことに、再度突っ込むバルダー。
 一体何がしたいんだ怪盗ロマンチストとやらは。
 そもそもどこまで続くんだこの部屋は。
 突っ込みたいことでいっぱいだ。
 冷静が故に気になるのかもしれない。

 先程間違えた時は変な人形が襲ってきたが、今度はどうなるのか。
 考えていても仕方がない。
 今は前に進まねばスティレッタを助けることはできないのだ。

 バルダーは星の鍵を取る。
 しかし、スティレッタが選んでいたのは、夢。
 閉まる鉄格子に、回転する壁。

(やはりまたこいつか……)

 同じ人形を見て、距離を置く。
 よく見ると武器が大型のハンマーに変わっていた。
 またナイフが飛んでくるのだろうか。
 鍵は一体どこにあるのか……。
 警戒してにじり寄ると、足元へ気配。
 驚いて飛び上がるとその場所を何かが通り過ぎ去った。
 それを狙って人形がハンマーを振るう。

「ぐっ……」

 両腕で身を覆って衝撃を受けたバルダーは、そのまま床に転がる。
 そこにまた何かが飛んでくる。
 バルダーは転がって避けた。

 どうやら刃物のようだ。
 バルダーを狙っており、四方八方から飛んでくる。

(何でこんなわけのわからんことをするんだ……!)

 バルダーは足元で飛び交う刃物を、小さく跳んで避けていく。
 そんなバルダーを狙い、まるでもぐら叩きのようにハンマーが振るわれていく。
 背中に鍵がついているのが見えたが、うまく近づけない。

 その上追撃のように何かがバルダーの顔に飛んできた。
 完全に足元とハンマーに意識を向けていたバルダーは、反応が遅れて避けきれない。
 そして再び振るわれたハンマー。

「クソッ……!」

 ドシン――!
 バルダーは音を立てて吹っ飛び、壁に激突した。

(あいつはこんな目に遭ってないだろうな)

 ゆっくりと立ち上がる。
 庇った腕から血が垂れる。

 スティレッタのことを考えた。
 どういう状態でいるかはわからない。
 しかし捕らえられているのだ。
 道が違うのなら、他の神人との部屋も違うのだろう。
 一人で、待っているのかもしれない。

(そうだ……。あいつを無事救えるなら――)

 人形を見据えた。

(怪我なんぞ、安い)

 バルダーの目は、本気だった。
 飛んでくる刃物を厭わず、人形に向かっていく。
 顔に向かって飛んでくる物も腕を犠牲に弾き返して。

 そんなバルダーの姿を、スティレッタは見ていた。
 傷を負って、自分を助けようとしてくれるバルダー。
 本当に優しい人。信頼できる人。
 会えたら、いっぱい抱きしめたい――
 バルダーは嫌がるかもしれないが、それでも。
 こうして待っている時間に募っていく、バルダーへの色々な想いを伝えたい。
 それくらいしないと、伝えられない。

 人形から鍵を奪った時、バルダーの腕はぶつけたような傷でいっぱいだった。
 足は少し切った程度だ。
 休んでる暇はない。
 すぐさま鍵を使い、次の部屋へと進んで行った。



(今度はハンマー……それに足元の刃物、そして石か)

 続いての質問でも、違う答えを選んだヒュリアス。
 潤自身は、ヒュリアスとの思い出、そしてヒュリアス自身を思い浮かべて空を選んでいたものの
 ヒュリアスはそうと気付くはずもなく。

(さすがに鍵だけを狙うのは難しいだろうな)

 頭に受けた石の傷から血が流れる。
 背中を取れればいいが、全身使ってハンマーを振りまわしている人形。
 その上、石や刃物が上や下で応酬している。
 できるならさっと鍵だけを奪って進みたいところだがそうもいかなさそうだ。
 人形の動きを止めるために接近するヒュリアス。
 それを狙って人形はハンマーを振りまわす。


(血が……!)

 避けきれず頭に石が激突したところを見てしまった潤。
 その状態で人形とやりあってるのだ。
 ただでさえ怪我をしてるのに、頭からの出血まで増えて。

(もっと、色々な話しておけばよかった……)

 そうすればヒュリアスがこんなに傷つかなくてよかった。
 今日何度目かわからない反省で頭がいっぱいになる。
 画面の中では、ヒュリアスが人形の膝と腹を歪ませていた。

 ハンマーの動きさえ緩めば、後は鍵を取るだけだ。
 石に気をつけながら背中へ回り、鍵を奪う。

「多少傷が増えたか……」

 自分の状態を確認するように呟いてヒュリアスは次の部屋へ進んだ。



「ヒュリアス!それから……」
「バルダー、無事か」
「ども~!セララでーす」

 バルダーが次の部屋へ入ると、そこにはヒュリアスとセララがいた。
 二人が出てきたであろう扉がある。
 他には5つの通路があるのみで、鍵などは見当たらない。
 二人とも、自分と同じく傷を負っていた。
 同じ状況だったのだろうと察した。
 辺りを見渡し「神人は?」と尋ねるバルダー。
 ヒュリアスとセララは少しだけ顔を見合わせた。

「んー、多分この先にいるんじゃないかなー」
「恐らく、また声が聞こえてくるだろう」

 二度目ともあり、どこか落ち着いている二人。
 ヒュリアスが指し示す天井を見れば、今までの部屋と同じ形のスピーカー。

「そ、そうか」

 少しだけ安心したように壁に寄りかかるバルダー。
 あと少しだ。
 三人の心は、既に神人に向かっていた。
 少し経つと、スピーカーからブツッと音が入った。

『皆さん、辿り着けたようですね』

 床から台のようなものがせり上がってきた。
 アルファベットの掘られた5つの鍵が乗っている。

『さぁ、最後の質問といきましょう』

 怪盗ロマンチストがくすりと笑う。
 神人の思い出を当てろということらしい。
 間違えた鍵を選べば、扉は開かない。

『あなたはわかりますか? 神人の気持ちが、考えが……』



『Aの神人、ウェディングドレスでのファッションショー』

 それは、人前に出るのが苦手な神人の記憶。
 精霊はモデルという経験があって慣れていたが、神人は家から出る事すらあまり好きではない女性だった。
 華やかに着飾った露出の少ないドレス。
 コンプレックスの顔を隠したベール。
 精霊に抱き抱えられ歩いたランウェイ。
 恥ずかしかった。嫌だった。帰りたいという一心だった。
 今でも、思い出すのは恥ずかしい。
 だけどとても楽しかった。
 それはきっと、精霊の一言があったから――

「オレは後悔している」

 真顔で反応をしたのはセララだった。
 もう一度言うが、真顔だ。本気だ。
 ヒュリアスとバルダーが一瞬呆気に取られる。

「何故あの時カメラを持ってなかったのかと!?純白の女神が!オレの腕の中で微笑んだというのに!」

 自身の両手を見つめるセララの顔は、鬼気迫っていた。
 顔を上げ、ヒュリアスとバルダーを交互に見て「ねぇ誰か隠し撮りとかしてないかなぁ!?」と訊ねるセララ。
 二人は首を横に振る。
 祈るように画面を見ていた羽海も思わず冷めた目になった。

『……Aですよ。鍵』

 スピーカーから呆れたような声。
 ハッとしたセララはAの鍵を取ると猛ダッシュでAと書かれた通路を突き抜けて行った。
 あれは自分にとっても、特別な思い出だった。
 もちろん、羽海とのことは全て特別だ。
 しかしあの時見たのだ、美しい微笑みを。
 体の重みも全て吹き飛んでしまいそうな、女神の微笑みを。

 暗い通路の奥には扉が見えた。
 先程手に入れた鍵を差し込み、勢いよく扉を開ける。

「羽海ちゃん!!」

 そこには、もう何も映っていない画面を座って見つめている羽海の姿。

「お待たせ!大丈夫?」

 にこにこと笑うセララの至るところには、血のにじむ傷痕。
 以前と同じような状況に、色々な感情が沸き出す。
 反省、感謝、自己嫌悪、それ以外にも――
 近づいてくるセララに、羽海は立ち上がった。

『ごめんなさい』

 羽海が口を動かした。
 陰の落ちた顔。
 声としては届かない。
 でも、セララはわかる。

「謝られるより笑った顔が見たいな」

 羽海の笑顔があれば、全て飛んでいってしまう。
 それくらいの魅力があるのだ。
 そう言ってにこりと笑うセララ。
 気遣いなどではなく、本心で思っていることくらいはわかる。
 だから変な人だと思うのだけれど。

『……ありがとう』

 そんなところに、羽海は救われたりする。



『花に侵されても見限らず対等に扱ってくれたこと』

 それは、自身の感情から育った狂気の花のこと。
 自我を失っていたとはいえ、大切なパートナーを傷つけた。
 花に乗っ取られ、相手を傷つけ、それなのに精霊は神人を見限らなかった。
 それどころか『お互い様だ』と対等な扱いを向け
 神人が気にしないなら、自分も気にしないと言い切ってくれた。
 とても嬉しかった。
 だからこそ自分が未熟だとわかった。
 だからこそ忘れられない。

「……そんな事を思っていたのかね」

 ヒュリアスが呟いた。
 ヒュリアスも、忘れるはずなどない出来事。
 Cの部屋にいるという説明を聞いて、ヒュリアスは鍵を取り、通路を走る。

(確かにあの時が初めてだろうか……)

 あの時ヒュリアスは、潤の心が傷つかないようにと、行動を選んだ。
 後悔などしない自分の選択。
 それは、初めての事。
 それは、そこに『潤』があってこそだ。
 潤を中心に決めたことなのだ。

 今日、沢山知りたい事ができた。
 潤自身のこと、潤の想うこと、知らない事は沢山あった。
 故にこれから先も、もっともっと知ることができる。
 世界が、巡る。

「ヒューリ……!」

 扉を開けると、潤が勢いよく立ち上がった。

「し、質問の……困らせてごめん、ね……」

 もっと話しておけばよかったと潤の申し訳なさそうな顔。
 そちらを謝られるとは思わなかった。
 ヒュリアスはきょとんとした。

「なに、気にしていない。これから知っていけばいいのだよ」

 そう考えればこれからの楽しみがあるのではないかね、とヒュリアスが言う。
 本気の眼差しが、潤を捉える。
 嘘などついていない、本心からの言葉。

「そ、そっか」

 知りたいと思ってくれるからこその『楽しみ』という言葉。
 自分への興味がある証。
 潤は笑顔を見せた。
 これから沢山知っていけばいいのだ。
 お互いの事を。お互いの存在を以て。



『一緒に暮らそうと言ってくれたこと』

 それは、一人の孤独な女性の思い出。
 生まれた時から既に一人だった彼女。
 孤児院を出てから色々な経験をし、様々な醜い世界を見てきた。
 父親と慕っていた男も亡くなり、信じてる人など一人もいないと思えるような状況だった。
 ある日、精霊と契約する事になった。
 契約後、その精霊は襲われた彼女を助け、危険だから共に暮らそうと言った。
 初対面で好みじゃないと言い放ったのに。悪印象を持たれていてもおかしくはなかったのに。
 彼は、下心もなく、純粋に優しい人だったのだ。敢えて言われた言葉を受けても尚。
 彼女は人の優しさに触れた。
 彼女はとても嬉しかった。
 彼の言葉が。

『さて、これはあなたのパートナーでしょうか?』
「ああ、そうだ」

 すぐにわかった。
 何故なら、自分も孤独だったから。

『彼女はDの鍵です』

 バルダーは駆けた。
 ずっと孤独だった。
 故に、不安ではないかと思う。
 今、自分が迎えに来ると信じてくれているだろうか。
 信じられているだろうか。
 暗く狭い通路は、まるで自分の人生のような。
 それでも、きっとその先に待っているものは――

「無事か!!」

 扉を開けると、スティレッタが勢いよく抱きついてきた。
 背中に回る腕と、埋めた顔。
 助け出す前は、抱きつかれたって抱き返すものかと思っていたのに
 今はこんなにも……。

 気付くとバルダーは、彼女を抱き返していた。
 傷ついた腕がズキンと痛んだが、それ以上に、彼女を求めていた。

(今日限りだ)

 自分に言い聞かせる。

(彼女を安心させるためだ)

 嘘じゃない。
 ただ、それだけじゃない。

「珍しいのね」

 ふふっと笑うような言葉は、皮肉ではなく、感謝の気持ちを込めて。
 そんなスティレッタの言葉に「随分待たせたからな」と誤魔化した。

(俺が守ってやらなかったら、お互いまた闇に落ちるだけだ)

 関わった以上、見殺しにしたくない。
 彼女を守るのは自分だ。
 彼女を、傷つけるわけにはいかないのだ。

(……案外、俺の方が心細かったのかもしれん)

 静かに鼓動が鳴り響く。
 お互いの存在が、確かにそこにある。
 独りじゃないと、教えるように――



 全員が最後の広間に戻ると「こんにちは」と声がした。
 見上げれば、シャンデリアに腰掛ける白いスーツの男。

「怪盗ロマンチスト――」

 姿を見た事のないバルダーでもわかった。
 本人だ。
 男は下りてくる気配もなく、シャンデリアに揺られる。

「面白いものですね。ウィンクルムともあろうものが、あんな質問も答えられないとは」

 クックックと笑いながら、ロマンチストの視線が精霊達へ向く。
 その体中の傷を、判断しているようだった。
 そしてフッと笑う。

「運命が聞いてあきれます」

 少しだけ声が冷たくなった気がした。

「運命ねぇ……」

 怪盗ロマンチストの言葉を聞いて、セララが呟いた。
 この前攫われた時、怪盗ロマンチストから一つの質問があった。
 それを、セララは覚えていた。

「前回の質問の答えだけどさ。オレが助けに来た理由は、羽海ちゃんだからだよ」

 ウィンクルムだからじゃない。絆がどうとかじゃない。
 助ける相手が、羽海だったからだ。
 セララは羽海が大切だ。
 それは、神人だから、ではない。

「オレ達ってホント偶然出会って、偶然一目ぼれしたら偶然相性が良くて、偶然契約できて……で、偶然ここにいるんだよね」

 怪盗ロマンチストは覚えていた。
 彼は、初対面でプロポーズをしたと言っていた。
 故に、彼はウィンクルムだからではなく、元々彼女を見ていたのだと悟った。

「人生は偶然の連続っていうけどさ、これってもう運命じゃない??」

 こうも二人を繋ぐ偶然があるのだから。
 そんなセララの言葉に続いて、羽海がロマンチストを見上げた。

『……運命って……最初からあるものじゃ、なくて』

 出ない声で、ロマンチストに伝えようとした言葉。
 ロマンチストはじっと羽海を見た。目を逸らさなかった。

『いろんな事を……積み重ねてできたもの……だと思う……から……』

 もし、ここにあることが運命となるのなら……。
 ロマンチストは、静かに続きの言葉を待った。
 羽海は、必死に紡いだ。

『始まりは……偶然でも……必然でも……関係、ないんじゃ……ない……かな……』

 ロマンチストは、何を思ったのだろうか。
 少しだけ、表情に陰を落としたように見えた。

「あなたを変えたのは『ウィンクルム』ではないのですね」

 ロマンチストの呟きに、え、と羽海は戸惑う。

「事情はわからんが……あまり攫ってくれんでくれ」

 ヒュリアスは困ったように肩をすくめた。
 彼にも何かあるのかもしれないが、攫われるのは喜ばしくない。
 それは、相手の存在を大切に想うから。

「影響されるのも悪くない。そう思える相手に出会えるのは奇跡なのだろう、と最近思うのでな」
「奇跡、ですか……」

 せっかく得た奇跡なのだ。
 ヒュリアスが潤を見て微笑む。
 潤はその言葉に頷いた。

「うん、そうかも」

 自分の周りにいる仲間をそれぞれ見る。
 色々な出会いで知り合った仲間。
 色々な影響を与えてくれる仲間がいる。

「奇跡の後どうするか、は、僕たち次第なんだろう、ね」

 そこに生まれる結果がある。
 それが結果的に運命に繋がる。
 運命など始めから決まっていないのかもしれない。
 二人の言葉に、怪盗ロマンチストは何を想うのか。

「だから、貴方とも会えた事は、何か意味があるって……思いたいん、だ」

 ロマンチストは少しだけ目を見開いた。
 そしてくすくすと笑いだした。

「ふふっ……はははは!」

 部屋中に怪盗ロマンチストの笑い声が響いた。
 潤は何か変なこと言っただろうかと焦る。

「本当、不思議な人達ですよ」
「お前、本当に何が目的で……!」

 バルダーの問いかけに怪盗ロマンチストはふっと笑う。

「私は、知りたいだけですよ。ウィンクルムというものをね」

 そして、自分に教えてほしい。
 真実を。
 怪盗ロマンチストは、立ちあがると何かの紐を引っ張った。
 三組のウィンクルムは警戒する。
 すると、誰も通らなかった通路からゴゴゴ……と地響きのような音。

「それでは皆さん、ごきげんよう」

 通路に気を取られていたウィンクルム達。
 気付くと怪盗ロマンチストはいなくなっていた。

「な、何の音、かな」
「何かがこっちに向かってるみたいね……」
「それって逃げた方がよくない!?」

 セララの一言で、全員が走り出した。
 玄関へ戻れる道は三つ。
 三組は特に相談することもなく、それぞれバラバラの道へと走っていた。
 そしてそれを追いかけるのは、大量の水。
 三つの道それぞれに同じ量の水が流れ、三組を飲み込んでいった。



「ヒューリ、どこ……!?」

 ぷはっと水面から顔を出し、ヒュリアスを探す潤。
 少し先で顔を出しているヒュリアスに気付き、泳いで近づいていく。
 ヒュリアスは眉間に皺を寄せて不機嫌な表情をしていた。

「だ、大丈、夫?」

 濡れるのが嫌いなヒュリアス。
 壁にぶつからないよう、水に流されながら玄関へと進んでいくが
 服はまとわりつき、毛は重くなり、良い事は一つもない。
 というか出た後どうするのだ。

「帰り、に、タオルとか買えるといい、ね」
「……そうだな」

 そうだ、帰りがある。
 共に帰れるのだ。
 自分に沢山の影響を与えてくれる彼女と、共に。

「帰ったら、色々話でもしようかね」
「う、うん。僕も、聞きたい事……あるん、だ」

 その笑顔と共に、未来に。



「おい、平気か!」
「えぇ、私は大丈夫よ。貴方も……大丈夫そうね」

 器用に水に流されるバルダーとスティレッタ。
 怪盗ロマンチストが何でこんなことをするのか、結局はわからなかった。
 それでもスティレッタは救出できた。
 目的自体は、達成している。

「信じてたわよ、来てくれるって」

 笑みを浮かべて、ぽつりとスティレッタが呟いた。

「……当たり前だ」

 何かあってとやかく言われるのは嫌だからな、と、バルダーは誤魔化した。
 本心では、違う理由を浮かべながら――



(溺れる――!)

 水に飲まれ、羽海はもがいていた。
 逃げる時に結んでいた手は、水の勢いで解けてしまった。
 独りだ。泳げない。息苦しい。死ぬかもしれない。
 どうしたらいいのかわからない。
 暗い。暗い。

「羽海ちゃん!!」

 こもった音が聞こえる。
 名前を呼ばれてる。
 明るい色の光が見える……。

「羽海ちゃん!大丈夫!?」

 ざぶん、と上がってきたセララ。
 抱きかかえた羽海は、溺れまいと必死に暴れる。
 このままではセララも巻き込まれてしまう。
 しかし周囲に、浮きそうなものはない。

「大丈夫だから……」

 ぐっと抱きしめる。
 大丈夫、溺れない。オレがいるから。絶対溺れさせたりなんかしない。

「オレが支えるから……!」

 力のこもった腕に押さえられ、ようやく正気を取り戻す羽海。
 大人しくなった羽海を見て、セララがにこりと笑う。

「力抜いて。このまま掴まってて」

 できる限り羽海を浮かせて、あとは流されるままのセララ。
 偶然か必然か、こうして積み重なる結果がある。信頼がある。
 この運命は、どこに繋がっているのだろう――



「知って、いましたよ……」

 月の照る景色の中、男はウィンクルム達の無事を確認する。
 彼らを見守りながら、先程の言葉が、頭の中で何度も反芻した。

「彼女がそういうつもりではないことくらい、わかって……」

 自分は彼女を、信じきれなかった。
 あのテイルスの言う『奇跡』を、壊した。
 あの神人の言う『積み重ね』を、信じられなかった。
 その身に起きたはずの『偶然』すら目を背けた。
 運命のせいにして、逃げたかったのは自分自身だ。
 男はその瞳に月を宿して『彼女』を思い出す。

「彼らは誰一人として『ウィンクルムが故』と思っていませんでした」

 相手自身を見ていた。
 ウィンクルムという概念に甘えてなどいなかった。
 運命とは別なのだと、証明してみせた。
 そして先程一人の神人が言った『出会った事の意味』なら、自分の中にはあると思った。

「彼らに出会って、色々なことがわかりました」

 自分の後悔を、自分の浅はかさを。

「それでもまだ、わからない答えがたくさんあるのですよ……」

 男の瞳に月明かり。
 その淡い光に想いを馳せた――



依頼結果:成功
MVP

メモリアルピンナップ


エピソード情報

マスター 雨鬥 露芽
エピソードの種類 ハピネスエピソード
男性用or女性用 女性のみ
エピソードジャンル ロマンス
エピソードタイプ EX
エピソードモード ノーマル
シンパシー 使用不可
難易度 普通
参加費 1,500ハートコイン
参加人数 3 / 2 ~ 3
報酬 なし
リリース日 01月31日
出発日 02月10日 00:00
予定納品日 02月20日

参加者

会議室

  • ……あ。俺としたことが。
    あいつの身が一応は無事ならそれでいいんだ。それで……

    ……Σハッ!
    べ、別に心配している訳じゃあない。
    と、というよりも……あいつの身に何かあったら、俺がとやかく言われるんだ!!

    プランは一応提出した。お互い、幸運を祈ろう。

  • [4]篠宮潤

    2016/02/04-22:46 

    落ち着きたまえ、バルダー。
    セララも言っているように、攫った輩が想像通りならば…恐らく神人に危害を加えることはせんと思われる。

    ただ、………
    ……いや、何でもない。油断はせずなるべく急ぐとしようかね。
    皆、気をつけてな。
    (「ただ、我々に対しては別であろうかと」と言いかけてやめた ←進めば分かることだろう、と横着)

  • [3]和泉 羽海

    2016/02/03-23:30 

    はろはろ~セララでーす!
    ヒュリアスさん、久しぶりー!バルダーさんは初めまして
    二人ともよろしくね!

    いや~前回、神人誘拐はよくある事って知ったけどさ、本当よくあるんだね~。
    まさか、またここでヒュリアスさんと会うことになるとは思わなかったよ…うん。
    ま、羽海ちゃん可愛いからね!
    攫いたくなっちゃうのも仕方ないよね!許さないけどさ!!

    前回と同じ輩なら、神人に乱暴なことはしないと思うけど…
    でも早く助けてあげないとねーお互い頑張ろうね!

  • 一 体 ど う い う こ と だ……!!
    アイツを攫って何のメリットが……!?
    い、いやあれでも美人は美人だからな……乱ぼu……いやいやいやいや。それはまずいっ!!まずい!!(考えて首を横に振る)
    いやしかし、あの女のこったからそれぐらいなら蹴っ飛ばして逃げられそうだし……

    ……って、あ。ヒュ、ヒュリアスか……。ひ、久しぶりだな……。
    そっちの精霊は……知らん顔だな。
    バルダー・アーテルだ。神人は今はいないがスティレッタって言ってな……。以後よろしく。
    ……って、それどころじゃあない!!
    あのピンヒール女が攫われたようなんだ! しかも奇妙な招待状とやらがウチに来て!!
    何なんだこれは一体……アイツの身に何かあったら……!!

  • [1]篠宮潤

    2016/02/03-18:25 

    ヒュリアス:
    …………とりあえず。
    セララ、バルダー、久しいだろうかね。よろしく頼む。

    そしてセララ…そちらの神人嬢も「また」、だろうか…
    (見覚えのある招待状と、前回同じ館で顔を合わせた精霊氏を交互に見て。溜息と共に確信を得た)
    どうしてうちの神人は同じ輩に攫われるのだろうかね……警戒心、というものが備わっていたはずだが。
    怪盗氏に関しては今回こそ、この所業に至る理由を聞きたいところ。


    (~ その頃の神人。自己嫌悪と共に怯え顔したり困惑顔したりせわしない)
    潤:
    うう……絶対、ヒューリに怒られ、そう……っ;
    それに………(さっき怪盗に聞かれた質問思い返すと、更にずどーんと落ち込んだ)
    ヒューリ…………一個も、答えられない、んじゃない、かな…なんて……|||ボソッ
    (『もっともっと今まで色んなこと話しておけば良かった』的反省中)


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