【糖華】「愛してる」が聞きたくて(瀬田一稀 マスター) 【難易度:とても簡単】

プロローグ

 ショコランドの妖精たちは、悪戯好きだ。
 チョコレート色の服を着た、カカオの精も、然り。

「できたわ、美味しいホットチョコレートよ」
「それもただのチョコレートじゃないわ。上等の愛のお薬入り」
「これさえ飲めば、愛しい人に想いが伝わるの。絶対よ」
 小さな妖精たちは、くすくすと笑い声を立てた。

 それを聞いたのは、ウィンクルムの精霊一人。
「愛の薬……?」
 思わず呟けば、妖精たちが寄ってくる。
「そうよそうよ、素敵なお薬」
「大事なあの人に、『愛してる』って言ってもらえるの」
「これよこれ。これをあの人の前で飲んで」
 妖精はそう言って、小さなカップを差し出した。
 その中には、とぷりと揺らめく茶色の飲み物。
 そっと鼻に寄せてみれば、甘い香り。
 チョコレートだ。
「大丈夫、私たちが応援してあげる」
 これを飲むくらいで、なぜ応援が必要なのか。
 首をかしげながらも、精霊はカップを持って、神人の元へと向かった。
 あの恥ずかしがり屋の神人から「愛してる」なんて言葉、本当に聞けるのだろうか。

「ねえ、ちょっといいかな?」
 精霊は神人の前に立ち、彼女に声をかける。
「どうしたの?」
 振り返る彼女に、笑顔を向けて。
 精霊はいっきにホットチョコレートを飲みほした。

 ――が。
「あれ?」
 別に変わったところはない、と思った瞬間だった。
 妖精が、大げさに声を上げる。
「ああ、飲んでしまったのね」
「毒の入ったチョコレート!」
「早くしないと死んじゃうわ」
「解毒できるのは、大切な人の『愛してる』の言葉だけ」
 妖精が、ちらりと神人を見る。
「えっ……そ、そんな!?」

解説

まずはショコランドまでの交通費ということで300jrいただきます。
ご了承ください。

悪戯好きな妖精が言っていることは『嘘』です。
精霊が飲んだのはただのホットチョコレート。
たぶん精霊も気付いているでしょう。
神人はどうでしょうか?
気付いても、気付かなくても構いません。
ただ、カカオの精は告白が見たい様子ですよ?
それにきっと、精霊も神人からの告白を待っているはず。
さあ、勇気を出して「愛してる」と言ってみましょう。
それ以外の言葉じゃ、妖精は納得してくれません。

※注意
キャラの口調に合わせ「愛している」「愛しています」などでも大丈夫です。
でも「好き」じゃちょっと糖度が足りない感じかな。


ゲームマスターより

こんにちは、瀬田です。
バレンタインといえば、告白は定番ですよね!
ということで、神人さん、がんばってください。

リザルトノベル

◆アクション・プラン

かのん(天藍)

  …えっと、流れとしては慌てなきゃいけないと思うのですが
切迫感が足りないというか、悲壮感に欠けるというか…
カカオの精さんの期待に満ちた視線が全てを物語ってますよね…
言わなきゃ駄目ですか?

愛してますは元より好きの言葉も面と向かって話す事が何となく気恥ずかしい
大切な意味を持つ言葉だから頻繁に使ってはいけないような気がして

…でも、天藍が何度もくれる言葉はいつ聞いても嬉しいから自分が言わなさすぎかもと
私が天藍から貰う言葉が嬉しいように、天藍も私の言葉を待っているなら黙っていては駄目ですよね

意を決し
でも恥ずかしいのは相変わらずなので天藍にだけ聞こえるよう
腕を掴んで少し背伸びして耳元に顔を寄せ
愛していますと


ペシェ(フランペティル)
  嘘に気付かず倒れた精霊をすぐに抱き起こし躊躇い無く
「愛してる愛してる愛してる!フラン、死なないで下さい!愛してる(気持ちは込めずに兎に角連呼)
泣くほど苦しいんですか?足りませんか?愛して…むぐ」

嘘だと判るとボンっと赤面して照れ隠しに精霊を地面に叩きつける

「わ、私ってば、なんて事を……言葉は言霊が宿るのに…
騙したんですね!フランのばか!もやし!うそ泣きまでして!
…でも、何もなくて良かった…」

心底安心していると、精霊のあざといポーズが可愛いとぐらぐらしつつも嘘をつかれたことは許してないから頬を膨らませて拗ねる

「気持ちを込めて…?
ダ、ダメです!言葉の意味を軽んじるフランには言いません!(ぷいっ)」



ユラ(ルーク)
  解毒方法が「愛してる」って、それ毒っていうより呪いなんじゃ?
嘘か本当か分からないけど苦しんでるし、それで助かるなら……
ルー君、愛してるよー

えっなんでダメ!?
いやー気持ち込めろって言われても、やっぱり恥ずかしいし
そもそも私でいいのかなぁ?
大切な人ってアレでしょ?家族とか好きな人とか…
ルー君、私のこと好きなの?

……ルー君がそこまで言うなら仕方ない
私も本気で答えよう、女は度胸だ
えーコホン

愛してるよ(真剣な眼差しで渾身の演技

ルー君、私のこと好きだったんだね、知らなかったなー
知ってるよ?ふふ、嘘ついた罰だよ
(それでもときめいたのは内緒にしておくよ、なんか悔しいから)
今度私も飲んでみようかな、毒入りチョコ


瀬谷 瑞希(フェルン・ミュラー)
  妖精さん達の言葉に驚きました。
けど、その言葉の後に皆「チラッ」と見るんですもの。
少しヘン、とは思うのですけれど。
でもショコランドだからオカシな事が起きる事もある…かしら?
いえいえ、迷っている暇は無いわ!
(信じた)
でも!他の人に聞かれるのは、妖精さんでも恥ずかしいので!
フェルンさんに駆けよって(倒れたら大変だし)
彼を支えるようにし、そっと耳元で囁きます。
「フェルンさん、愛しています。だからお願い、逝かないで」と。
彼の傍に駆けよったら、フレグランスがふわっと良い香り、なんて思って。
妖精さんに駄目だしされたら仕方なく声を大きくして再挑戦。

「もう、心配しちゃいました」
頬膨らませて彼の胸をぽかぽか。





秋野 空(ジュニール カステルブランチ)
  どこか期待の籠った妖精の視線に、薄々嘘ではと感じつつ
この想いを『言葉』にするには、今はまだこんな言い訳が必要かもしれない

苦しそうにも見える精霊の前へ
両手で左手を取り、俯いて名を呼ぶ
ジューンさ…いえ、ジューン…
慣れない呼び方に、それだけで頬が染まる
…ごめんなさい
(こんな状況でなければ、勇気を出せなくて…
小さく吐く息と共に謝罪を口にして
真っ直ぐに精霊を見上げる

私は、あなたを…愛してしまったよう、です…
最後は消え入りそうな声

…怪しいものを飲むからです!今後は迂闊に飲まないでください!
少し強めの口調で叱るように

一転、柔らかく微笑み返す
でも、ありがとうございます…ジューン
(機会を与えてくださって…


●魂宿る言葉を、あなたに

「あっ……!」
 フランペティルは、その場に両膝をついた。
 その体勢を維持していることすら難しく、横から地面に倒れ込む。
 胎児のように背を丸めているため、顔を見ることはできない。
 ただ、とぎれとぎれに、胸が、身体が、などと聞こえた。
「痛むんですか、フラン!?」
 ペシェは彼の傍らにしゃがみ込んだ。
 フランペティルの体を仰向けにして、その頭をそっと自分の膝にのせる。
 チョコレートに毒が入っていると、カカオの精が言ったことは、本当だったのだ。
 そう気付いたとき、ペシェはもう既に唇を動かしていた。
「愛してる愛してる愛してる! フラン、死なないでください! 愛してる!」
 機械のようにひたすらに、愛してるの言葉を繰り返す。
 最後の方は声が震えていたが、気にすることはできなかった。
 何度言えば彼の身体から毒が消えるのだろう。彼が、あの偉そうないつもの姿に戻ってくれるのだろう。
 フランペティルは彼女の必死な声を、はっきりと耳にしていた。
 本当は毒など飲んではいないのだから、すぐに動いてやればいい。
 わかっているのにそれができないのは、彼女の愛の言葉が、想像していたものと違っていたからだ。
 ペシェならば、もっと照れながら言うと期待していたのだがな。
 あんなに簡単に連呼されるということは……。
 予想外の行動だからこそ、弱気な想像をしてしまう。
 ペシェは吾輩のことを何とも思わんのだな……、と思い至れば、じわり、目頭が熱くなる。
 腕を上げて隠そうとしたが、フランペティルを見守っていたペシェは、すぐにその涙に気付いてしまった。
「フラン、泣くほど苦しいんですか? まだ足りませんか?」
 彼女はまた、愛してると告げようとしている。
 そう察してフランペティルは目を閉じようとしたが、いや、と視線を上げた。
 ペシェの緑の瞳が、不安に揺れている。半泣きの、必死の顔だ。
 ああ、どうしてすぐにわかってやれなかったのか。
 言葉に感情がこもっていないどころではない。
 気持ちをこめる余裕すらないほどに、彼女は真剣なのだ。
 ――吾輩を、救うために。
 愛して……と言いかけたペシェの唇を、フランペティルは手で覆う。
「ウソだ、バカ!」
 言って涙を浮かべたままに笑えば、ペシェは緑の瞳をぱちり、と一度。
 その後瞬時に頬を染め、そのままフランペティルの頭を地面に落とした。
「うおっ……」
 あまりの痛みに後頭部を押さえるフランペティル。
「わ、私ってば、なんてことを……言葉は言霊が宿るのに……騙したんですね! フランのバカ! もやし! ウソ泣きまでして!」
 あれは嘘の涙ではない……とは言えず。
 真っ赤な頬で叫ぶ彼女は、バカバカとフランペティルを叩いていたが、しばらくすると、その手を止めて、呟いた。
「……でも、何もなくて良かった……」
「心配かけて、す、すまんな」
 さっきの心配も、今の安堵も本心からだとわかるからこそ、フランペティルは謝罪の言葉を口にする。
 だが、例の言葉を、もっと聞きたいという気持ちもあるわけで。
「今度は気持ちを込めて言って欲しいところだが……ダメ?」
 こてりと首を傾げて、上目遣いでペシェを見た。
 フランかわいい……! でも、嘘、嘘をつかれたんだから、そんな簡単に許したら……!
 ペシェは赤いままの頬を膨らませる。
「ダ、ダメです! 言葉の意味を軽んじるフランには言いません!」
 ぷいっと視線を背ければ、フランペティルは聞こえないようにため息だ。
 確かに今回のことは自分が悪い。いつかペシェに心からの「愛してる」を言ってもらえるようにならねば。
「……吾輩は、そう時間はかけぬぞ」
 フランペティルは熱い決意を胸に、ぽつりと呟いた。

●あなたに愛を告げる理由

 ジュニール カステルブランチがチョコレートを飲みほしたのは、当然、秋野 空の「愛してる」が聞きたかったからだ。
 しかしまさか、こんなことになるなんて。
「死んじゃうわ。彼、死んじゃうわよ!」
 カカオの精は高い声を上げて、ジュニールの周り飛び回った。
 えっ、これってそういう……?!
 正面の彼女を一瞥し、ジュニールは目を伏せる。
 勘のいい空のことだ。きっと嘘はすぐにばれるだろう。
 自分も知らなかったとはいえ、結果的に空を騙す形になってしまったことが、申し訳ない。
 ジュニールは覚悟を決めて、再度、空の顔を見た。
 するとそこには――。
 真剣な眼差しでジュニールを見つめる、空の姿があった。
 もちろん空は、小さな妖精の悪戯に気付いていなかったわけではない。
 彼女たちの丸い瞳には、隠せないほどの期待がこもっていたし、死んじゃうという割に、悲壮感が漂っていなかった。
 だから「嘘でしょう?」と指摘することなど簡単だった。
 それをしなかったのは、自分が抱える想いを言葉にするには、今はまだ、こんな言い訳が必要かもしれないと思ったからだ。
 ――チョコレートを飲んだジューンさんは、妖精の言葉が嘘だって気付いている。
 だけど……と。
 空はジュニールの左手をとった。彼の大きな手を、両手で包み込んだ。
 顔を直視するほどの覚悟はなくて、繋いだ手を見下ろしたまま。
「ジューンさ……いえ、ジューン」
 敬称を外した慣れない呼び方に、頬がいっきに熱くなる。
「……ごめんなさい」
 こんな状況で鳴ければ、勇気を出せなくて。
 後半は、口に出さず。空はまっすぐに、ジュニールを見上げた。
「私は、あなたを……愛してしまったよう、です……」
 ジュニールの、呼吸が止まる。
 同時に、ガシャンと、陶器が割れる音。
 ジュニールが、手にしていたカップを取り落としたのだ。
 誕生日に引き続き……なんという……!!
 ほとんど消え入りそうな、吐息にも近い空の声は、確かにジュニールの耳に、脳に、胸に届いていた。
 たったひとつの言葉が、体中に反響している。
 驚きと喜びに体を震わせるジュニールの手を、空はきつく握った。
 しかしそのアメジストの瞳に宿るのは、愛情溢れる優しい光ではない。
 彼が無事だとわかっているからこそ、空はさっきとはまるで違うきつい口調で、言ったのだ。
「こんなことになるなんて……怪しいものを飲むからです! 今度は迂闊にのまないでください!」
 これにはジュニールも、「すみません」としか返せない。
 小さな妖精の悪戯とはいえ、もしあの嘘が本当だったら、空はきっと、涙を流していたのだから。
「もう、本当ですよ」
 空は厳しいままの口調で言って、しかしすぐに、愛らしい唇をほころばせる。
「でも、ありがとうございます……ジューン」
 想いを伝える機会を、与えてくださって。
 どうしても、どうしても最後まで言うことはできない。
 いや、こんなに近い距離で、あの告白の後では、顔を見ていることすら難しい。
 空はジュニールから手を離すと、その場にしゃがみ込もうとした。
 先ほど落としたカップを片付けることを言い訳に、彼の瞳から逃れるためだが、ジュニールは、屈もうとした空の腕を掴んでしまう。
 先ほどの謝罪は気になるが、それよりも、今は。
「ソラ、言い逃げなんてずるいです。俺にも言わせて……あなたを、抱きしめさせてください」
 目を見開いた空が答えるより早く。
 ジュニールは空の身体を、自らの腕に閉じ込める。
「ソラ……俺も……ソラを愛しています」

●あなたの愛をもう一度

「その解毒方法って、毒っていうより呪いなんじゃ……?」
 ユラはひらひらと舞う妖精たちに向けて言った。
 しかし彼女らは聞く耳持たず。
「死んじゃうわ、彼、死んじゃうわよ!」
 そう叫びながら、ユラとルークの周りを飛び回っている。
 一方ルークは、眉間にしわを寄せ、右手で口元を押さえていた。
 もちろんチョコレートを飲んだ本人であるから、妖精の台詞が嘘だとは気付いている。
 でもここは、彼女らに賛同する方が面白そうだと、左手は胸に置き、背中を丸めた。
「頼むユラ、助けてくれ……!」
 ルークは、必死のふうを装い、上目遣いでユラを見る。
 ユラの方は、妖精が言うことが、本当かはわからない。
 だがルークは今目の前で苦しんでいるし、それで助かるならと、口を開いた。
「ルー君、愛してるよー」
 そのふわっとした言い方に、ルークは勢いよく顔を上げた。
「生きるか死ぬかの瀬戸際に、なんでそんな適当なんだ! もっと気持ち込めろ!」
「えっ、なんでダメ!?」
 気持ちを込めろと言われても恥ずかしいし、そもそも自分でいいのかなあ? という気はしている。
「大切な人ってアレでしょ? 家族とか好きな人とか……」
 そこまで言って、ユラはルークを見つめた。
「ルー君、私のこと好きなの?」
「……は? それはもちろ……」
 と、言いかけて。ルークは、いやいやいや! と思い直した。
 目の前には、ユラの純粋無垢……かはわからないけれど、それっぽく見える瞳。
 だが、ちょっと待て。冷静になろう。そもそも何で俺が、答える側になってるんだ……?
 疑問符が、頭の中を飛び回る。
 しかしここでルークが答えなければ、ユラも言わないだろうし、妖精も期待した目で見ているとなれば――。
 頑張れ俺!
「俺は、ユラが好きだ」
 はっきりと、力を込めて断言する。
 その言葉に、妖精たちが色めきたつ。
 きゃあきゃあと響く高い声。
 だがユラは、一度パチリと目をつぶりはしたものの、真顔のままだった。
 動揺の『ど』の字もないような気さえするほど、平坦な声。
「……ルー君がそこまで言うなら仕方ない。私も本気で答えよう、女は度胸だ」
 仕方ないってどういうことだよと言いたげなルークを放置で、ユラはコホンと小さく咳をした。
 身体の両脇に下ろしたままの拳を握り、一瞬ぎゅっと唇を噛みしめる。
 そして真剣な眼差しで、ルークの顔を、じっと見た。
 ゆっくりと唇をあけて、紡ぐ台詞は。
「愛してるよ」
 途端、ルークが息を飲む。
 彼は顔に熱を感じる前にと、焦ってユラに背中を向けた。
 確かに告白は聞けたけど、こっちまで告白することになったし、なんかすげぇ疲れたし。
 一瞬鼓動は跳ねたのに、嬉しいような悲しいような、複雑な気分だ。
 思わずため息をつけば、背後からユラが覗きこんでくる。
「ルー君、私のこと好きだったんだね。知らなかったなー」
「あ、あれは、パートナーとしてだからな!」
「知ってるよ? ふふ、嘘ついた罰だよ」
「……バレてた……」
 がっかりするルークに、ユラは「まあまあ」と声をかけた。
 実は先ほどのルークの告白は、なかなかにときめいていたのだけれど、これは言わないでおこう。
 緊張で、顔が固まってしまっていたなんて、きっとルークは気付いていないのだから。
 でも、あれがもう一度聞けるのならば……。
 ちらり。妖精たちに目を向けて。
「今度私も飲んでみようかな、毒入りチョコ」
 そう呟けば、ルークがすごい勢いで睨みつけてきた。
「お前は絶っっ対飲むなよ!」
 その表情があまりにも切迫していたので、ユラは声を上げて笑ってしまった。

●あなたを失うくらいなら

 フェルン・ミュラーはきつく目を閉じた。
 は、は、と短く息を吐きだして、苦し気な様子を演出してみる。
 本当は、さっきのチョコレートには、毒など入っていないことは知っているし、こんな悪戯などしない方が良いのだろうとは思う。
 でも。
 フェルンは薄目を開けて、瀬谷 瑞希を見た。
 自分からは、いつもシャワーのように、たくさんの「愛している」を浴びせている。
 もちろん彼女の気持ちは解っているけれど、やっぱりちゃんと、聞きたいじゃないか。
 それに、奥手な彼女はこういうことでもないと、なかなか言葉にできないだろうから、これはいい機会だと思うのだ。
「どうするの、彼、死んじゃうわよ!」
 妖精たちはそう言って、瑞希のまわりを飛び回っていた。
「死んじゃうのよ? 言わなくていいの?」
 黙ったままの瑞希を、不思議そうに見つめる、妖精たち。
 良くはないんですが、と瑞希は思う。
 ただ、少しだけ、この状況がヘンな気もしているのだ。
 なんで皆、死んじゃう死んじゃうってこっちを見るんですか?
 すごく不自然な気がします。
 でもここはショコランドだから、オカシなことが起きることもある……かしら?
 瑞希は、フェルンに目を向けた。
 彼は少しばかり背を曲げて、眉間にしわを寄せている。
 あれは本当? それとも悪戯?
 じっと見ていると、フェルンが「ミズキ」と名を呼んだ。
 小さくかすれた声に、ひゅっと心臓が縮む思い。
 それを感じてしまえば、迷っている暇はなかった。
「フェルンさん!」
 瑞希はすぐにフェルンの元へ駆け寄より、彼の体に手を添える。
 近寄ったのは、たとえ妖精が相手でも告白を聞かれるのは恥ずかしかったからであり、苦しそうにしている彼が、万が一にも倒れそうになったら、支えたいからでもあった。
 瑞希は背伸びをして、フェルンの耳元に唇を寄せる。
「フェルンさん、愛しています。だからお願い、逝かないで」
 最初は妖精の悪戯を疑っていたにも関わらず、実際に口にすれば、じわりと目が熱くなる。
 彼が身にまとうフレグランスが、ふわりと香り、余計切なくなった。
 この匂いがわかるほど近くにいるのに、逝く、なんて。そんなの、絶対にあっては欲しくない。
 それなのに、妖精たちはこれでは納得してくれないらしい。
「駄目よ、そんな小さな声じゃ効果は出ないわ」
「私たちにも聞こえるくらい、はっきりと言わなくちゃ」
 フェルンは彼女らの台詞に苦笑しそうになり、慌てて唇を引き締めた。
 あの冷静な瑞希が妖精の最初の言葉を信じたことが、驚きだった。
 今こうして催促を聞いても、悲壮な顔つきをしていることにも、罪悪感がある。
 それでもやはり、もう一度告白が聞けるのならば、悪戯に付き合いたい、と思ってしまう自分がいて。
 演技の渋面を続けていると、瑞希はフェルンの右腕を、ぎゅっと掴んだ。
「愛しています、だからお願い、元気になって!」
 今度はそう、大きく唇を動かす。
 その表情を見たら、もうこれ以上、騙すことはできない。
 フェルンは左腕を伸ばして、瑞希の身体を抱き寄せた。
「勿論俺も愛しているよ」
 あらわになっている耳元に囁いて、背を抱く手に、力を込める。
「大丈夫、俺はそう簡単には逝かない。ずっと君の傍にいるよ」
 ……だが。
「ウィンクルムって、案外信じやすいのね」
 二人の耳に妖精の台詞が届いたところで、空気は一転。
 瑞希は一歩、身体を引くと、すっかり赤くなった頬をぷうっと膨らめた。
「もう、心配しちゃいました!」
「ごめん、ミズキ。どうしても君の『愛してる』が聞きたくて」
「だからって……!」
 瑞希はフェルンの胸を、ぽかぽかと拳で叩く。
 そんな彼女が可愛くて愛しくて、フェルンは再び、彼女に腕を伸ばした。

●あなたの愛にお返しを

「死んじゃうわ! 彼、死んじゃうわよ!」
 カカオの精の言葉を聞いて、天藍は納得した。なるほど、そういう作戦か、と。
 だが同時に、こんなことでうまくいくはずもない、とも思った。
 真剣な声を出してはいても、妖精たちは皆、実に楽しそうにかのんを見ているからだ。
 これは絶対、かのんに嘘だと気付かれるだろう。
 そう考えながらも口を閉ざし、天藍も、かのんにちらと目を向ける。
 すると、案の定。
 天藍が死ぬと聞いているはずなのに、彼女からは、深刻さがまるで感じられない。
 それでも飛び回る妖精たちは、口々に「死んじゃうわ」「愛してるって言わなくちゃ!」と繰り返している。
 そのめげない行動に、逆にかのんのほうが、動揺してしまった。
 ……えっと、流れとしては慌てなきゃいけないと思うのですが。
 さすがにそう口にするのは憚られて、かのんは唇は閉じたまま考える。
 皆、切迫感が足りないというか、悲壮感にかけるというか……。
 それなのに、ひらひらと舞う妖精たちは、どうあってもかのんに「愛してる」と言わせたいらしい。
「早く!」
「早くしないと!」
 期待に満ちた小さな瞳と目が合って、かのんはやっと、口を開いた。
「えっと、言わなきゃ駄目ですか?」
 ……ほら、やはりかのんにはばれている。
 天藍が黙ったままでいると、妖精の一人が彼の服の裾を引っ張った。
「ねえ、あなた! 苦しむふりをして! 愛してるって聞きたくないの?」
「聞きたいから、チョコレートを飲んだんでしょう?」
「……まあ、そうだが」
 妖精にまっとうなことを言われて、天藍は言葉を濁す。
 『大切』や『特別』『同じ気持ち』などという言葉で、かのんの気持ちはもう天藍に伝わっている。
 さらに客船で過ごした夜には、寝ていて知らないことになってはいるが、『大好き』という言葉も貰った。
 本当ならばそれで満足すべきかもしれない。
 だがやはり、かのんの口から面と向かって、ちゃんと言われたいという希望を捨てきれなかった。だから、チョコレートを飲んだ。
 無理強いは良くないし、言葉がすべてではないことも、わかっているのだけれど。
 かのんは今、黙ったまま、自分の足元を見下ろしている。
 『愛してる』どころか『好き』と言うのも、面と向かっては気恥ずかしいのに、妖精たちが見ている場所で告白をするなんて。
 そう思いつつ、躊躇う理由はもうひとつ。
 大切な意味を持つ愛の言葉は、頻繁に使ってはいけない気がしているのだ。
 ……でも、天藍が何度もくれる言葉はいつ聞いても嬉しいから、自分が言わなすぎなのかもしれない。
 うつむいたまま、かのんは天藍の大きな足を見る。
 私が天藍から貰う言葉が嬉しいように、天藍も私の言葉を待っているのなら、黙っていては駄目、ですよね。
 かのんは意を決して顔を上げた。
 動きを止めればきっと、迷いが生まれてしまう。
 だからあえて、天藍を見ないようにして、一歩を踏み出した。
 天藍のすぐ近くに立ち、彼の腕を掴んで、背伸びをする。
 唇の前には、天藍の耳。
 そこに、他の誰にも聞こえないようにと、吐息とともに、囁くのは――。
「愛しています」
 その言葉を聞いた瞬間、天藍の頬が緩む。
 ちらと横を見やれば、かのんが真っ赤な顔をうつむかせ、一歩後方へと下がるところだった。
 それはさせないと、天藍は素早く腕を伸ばし、かのんを抱きしめる。
 胸と腕で彼女を包み込み、今度は自らが、かのんの耳に唇を寄せた。
「……かのんの声で伝えてもらえるのは、やはり嬉しいな」
 ありがとう、かのんと。
 言えばかのんは、一瞬驚いた顔をしながらも、こちらこそ、とはにかんだ。




依頼結果:大成功
MVP
名前:ユラ
呼び名:ユラ
  名前:ルーク
呼び名:ルーク、ルー君

 

メモリアルピンナップ


エピソード情報

マスター 瀬田一稀
エピソードの種類 ハピネスエピソード
男性用or女性用 女性のみ
エピソードジャンル ロマンス
エピソードタイプ ショート
エピソードモード ノーマル
シンパシー 使用不可
難易度 とても簡単
参加費 1,000ハートコイン
参加人数 5 / 2 ~ 5
報酬 なし
リリース日 01月20日
出発日 01月27日 00:00
予定納品日 02月06日

参加者

会議室

  • [8]ペシェ

    2016/01/26-23:33 

    フラン「ふはははははは!華麗にプラン提出完了である!
    ペシェめが驚き戸惑う様をとくと堪能してくれようではないか!
    ふはーっはははははは……げふっ!げふげふ!」

  • [7]秋野 空

    2016/01/26-23:19 

    初めての方も、いつもお世話になっている方も
    改めましてよろしくお願いいたします
    ファータのジュニール・カステルブランチとパートナーの秋野空です

    先ほどプランを提出してまいりました
    はたして、無事に事を終えられるでしょうか

    良い結果が皆さんに訪れるよう願っています
    …できれば、俺にも

  • [6]瀬谷 瑞希

    2016/01/26-21:19 

    こんばんは、瀬谷瑞希です。
    パートナーはファータのフェルンさんです。
    皆さま、よろしくお願いいたします。

  • [5]かのん

    2016/01/26-20:52 

  • [4]かのん

    2016/01/23-19:22 

    神人のかのんとパートナーの天藍だ
    久し振りの顔が多いかな、改めてよろしく

    それにしてもカカオの精はずいぶんな悪戯だな
    俺的には大歓迎だが

  • [3]ユラ

    2016/01/23-10:00 

  • [2]秋野 空

    2016/01/23-09:03 

  • [1]ペシェ

    2016/01/23-00:14 

    お久しぶりの方も、初めましての方もいらっしゃいますね。
    ペシェと言います。こちらは精霊の……

    フラン「ふははははは!吾輩こそ豪華絢爛瞬麗たるエンドウィザードの……」

    フランです。
    よろしくお願いします。


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