アンラッキー SU・KE・BE(白羽瀬 理宇 マスター) 【難易度:とても簡単】

プロローグ

君はラッキースケベという言葉を知っているだろうか。
曲がり角でぶつかったり、足を滑らせて転ぶなどのちょっとしたトラブルから、
偶然に相手の下着が見えてしまったり、相手の身体の大事なところに触れてしまうなど、
意図しなかった形で、少しムフフなトラブルが起こることである。
うれしはずかし、浪漫あふれるラッキースケベ。

しかし、理想と現実の間には大きなへだたりがあるのが常である。
急いで通りを歩いていたか、あるいは君が足を滑らせでもしたか、
君とパートナーの間にラッキースケベが発生するかと思われたその時だ。

「っぐ……!!!」

白目を剥いて悶絶したのは君かパートナーのどちらだろう。
ひざか、それともひじか。
どちらかの身体のとても硬い部分が、もう一方のその場所にめり込んでしまったのだ。
象徴であり息子であり、そしてまた簡単には触れることのできぬ禁断の場所。
そこはまた、ぶつけると痛いということで有名な場所でもある。
アンラッキー。ご愁傷様です。

被害者は、普段の鉄面皮が割れて身も世もなく悶絶するのか、
それとも普段は賑やかな彼も今回ばかりは声すら出ないのか。
加害者は、不意の弾みで触れてしまった事を恥じらうのか、
それともただひたすらに相手の様子にオロオロとするのか。

ヒトは極限状態の時ほど性格が出ると言うが、そこに展開される人間模様はどのようなものなのだろうか。

解説

このエピソードは各ウィンクルム個別での描写となります

●概要
アンラッキーな接触事故です

●プランに書いてほしいこと
事故が起こった状況
被害者、加害者はどちらか
事故後の互いの反応

●消費Jr
事故の弾みでポケットの小銭が落ちました
一律で300Jrいただきます

●その他
テーマがテーマですが、直接的な単語は描写できませんのでご注意ください

ゲームマスターより

プロローグを読んでくださってありがとうございます
久しぶりの男性側ですが、年始から酷いです
痛そうですががんばってください
よろしくお願いします

リザルトノベル

◆アクション・プラン

アキ・セイジ(ヴェルトール・ランス)

  ◆状況
家の模様替えをしていた
天袋から色々詰まった箱を下ろそうと台に乗ってたランスがバランス崩して…
俺に抱き付く形になると思われたが、
荷物を受取ろうと俺も台に片足乗せていたので、
膝がランスの何を直撃

◆行動
あ、一寸タンマ…ってええええええ!(2人そのまま床にドーン!

ランス大丈夫か?
なんで動かないんだ
おーい…

この形相と体勢
膝に残るガスッていう感触…

必死で謝る
懸命に謝る
俺もこの痛みは分かる…分かるぞ
まじすまん
すまんかった!

ほんとに大丈夫か?
ほっと安堵
ぎゅっと助け起こしてぎゅうとハグ

その元気が有ればもう平気だな(笑

そりゃあ俺も困るし
そういう意味じゃなく、相棒の体だからだよ

いや、だからっ(汗

うん(撫で撫で


セイリュー・グラシア(ラキア・ジェイドバイン)
  被害者

ラキアが屋根裏収納に行った。
何か手伝えることはないかと後を追ったらこんな悲劇が待っていようとは!
ラキアを庇ったら自分に大ダメージ。
ラキアの肘、攻撃力凄い(ソレ違う。
体は鍛えているけど、ココは無理。
プロテクターって大事だ。
とかチラっと脳裏をよぎったが。
マジでそれどころじゃねーっ!
目前に星が舞ったぜ…。天国の扉が見えかけた。

「や、ダイジョーブだから…」
ってこれじゃ余計にラキアが心配しそうな言い方に!
シッカリしろ、オレ!
数々のスポーツで鍛えた精神力を、今ここで発揮しなくて、いつ発揮するのか!?
とにかく立って…ぴょんぴょん跳べば何とかなるか?
立て、立ちあがれ、オレ!
ラキアを撫でて安心させ頑張る。


瑪瑙 瑠璃(瑪瑙 珊瑚)
  大学の休み時間、教授の研究室へ向かう途中、
廊下で珊瑚と激突。
その衝動で後ろに倒れ込むが、激突した所が疼く。
珊瑚に背を向け、そこを押さえたまま横たわった。

あれこれと提案して取り乱す珊瑚に、
心配しなくていいから、と伝えるように首を振る。
声を振り絞り、しばらくここにいて、と耳元で囁いた。
「……講義あるなら、無理強いはしない」
いくら、接触事故であらぬ所を蹴ったとはいえ、
珊瑚もわざと蹴ったわけではないと信じているから。

だから、教授や他の先輩後輩に声をかけられても、
お腹が痛くなっただけです、と誤魔化した。

やがて、痛みが治まっているか確かめるように、
ゆっくりと体を起こし、珊瑚にお礼を言う。
「……ありがとう」


李月(ゼノアス・グールン)
  被害者

激痛
呼吸困難
目眩
吐気
悶絶地獄微動だに出来ず
声出せそうもない
僅かに炒め物の焦臭い臭いがする
でも今の自分には対処所では無い
相棒にやっとの精神で目で合図
(コ・ン・ロ・を・止・め・ろ

煙が立昇るのが視界に
(だ・か・ら・コ・ン・ロ・を・止・め・ろ

振る手に怒リ
(…のヤロウ!!気付け!正月料理に飽きたお前の為に作ってる肉料理だぞ!
相棒に期待できないと悟り
脂汗滲ませツマミに手を
(相棒の鈍さが…憎…い…
失神

気付けば自室ベッド
気持悪

相棒が泣きそうな顔してて何も言う気起きない
(消したのか良かった
して欲しい事?
調理中にじゃれるの禁止
(色々)危ないの分ったろ

力無く笑
(こういう奴だ
この日は自室で安静にしてました


カイン・モーントズィッヒェル(イェルク・グリューン)
  今日はイェルと買い物

バレンタイン特集すげーな
チョコは嫁以外にも歴代彼女から一応
ビターチョコしか貰わなかったな
で、嫁が初めてトリュフチョコくれて、甘くて美味いって食ったら、外見詐欺嬉しい馬鹿好き悔しい大好きって喜んでたな
※EP31にも嫁談話あり

とか話してたら、イェルが人に押されてこけそうになったのを庇って…俺の急所に全体重掌底

※声にならない悶絶→イェルクの言葉を聞き
いぇる…それ、おおごえで、いうな…(ガクッ

気がついたら、泣いてるイェルの膝の上
気絶してたのか
ハンカチで涙拭いてやって、頭撫でて宥めて
買う物買って家に帰るかと提案
運ばれてる時にポケットの小銭落ちたみてぇだけど、仕方ねぇか
イェルには内緒な


●おもいがけないぬくもり
 同居をしているアキ・セイジとヴェルトール・ランスにとっては、同じ家の中で一緒に何かをするというのは日常的な行為だ。
 いつもと何一つ変わらぬ光景。
 平和な時間の流れの中で二人は協力しながら家の模様替えに勤しんでいた。
「ちょっと、この箱下ろすか。セイジ、受け取ってくれるか?」
 台に乗り、天袋の中を覗き込んでいたランスがセイジを呼ぶ。
「分かった。ちょっと待ってくれ……よし、いいぞ」
 仕分け作業途中だった箱を一旦わきに置き、ランスが乗る台に片足をかけて荷物を受け取る体勢を整えるセイジ。
 そしてランスが天袋の箱を引き出そうと力を込めた時だ。不幸な事故は起きた。
 比較的大柄なランスの体重を支えていた台が、ランスの重心の移動を受けて傾く。
「あ、一寸タンマ……」
セイジの制止も虚しく、均衡を失う台とランス。
「ってええええええ!」
 倒れゆく台の上からランスの身体が放り出され、すぐ横に立っていたセイジを巻き込みつつ床へと落下する。
 ドーン!
 男性二人分の体重を受け止めた床が、大きな音を立てた。

「ランス大丈夫か?」
 普段は真面目な大学生として過ごすセイジだが、その実態は幾度も凶悪なオーガと渡り合ってきた神人である。
 さほどのダメージもなく身を起こすと、隣でうずくまっているランスに声を掛けた。
「……」
 しかしランスは動かない、答えない。
「おーい」
 セイジはランスの身体に手を掛け揺すってみるが、ランスからの反応は無かった。
 いや、違う。額に脂汗を浮かべ、白目を?かんばかりのランスの顔が、必死に何かを訴えている。
(この形相と体勢)
 そういえば、さっき一緒になって倒れる時に何かがぶつかったような……とセイジは自分の膝を見た。
 何かとは。脚と脚の間にある。アレ、だ。
 その事に気づいたセイジは青褪めた。あの痛みは、男である自分にも、とてもとても良く分かる。
「まじすまん。すまんかった!」
 不慮の事故であり、別にセイジが悪いという訳ではないのだが、やはり同じ男として謝らずにはいられなかったのだ。

 一方ランスはというと。
(やっちまったなあ)
悶絶しつつもどこか他人事のように思っていると、事態に気づいたらしいセイジが必死に謝ってくる。
「うん、これは女には分からない痛みだ」
 ようやく声が出せるようになったランスが口にしたのは、そんな言葉だった。
「ほんとに大丈夫か?」
 安堵のため息を漏らしつつランスを抱きしめるセイジ。
「なんだセイジ、涙目じゃないか。俺の息子を心配してるのか?」
「その元気が有ればもう平気だな。そういう意味じゃなく、相棒の体だからだよ」
「デスヨネー」
 抱きしめられるままにセイジの膝に身体を預け、ランスはそのぬくもりに浸る。
 触れ合う体温に、ほんの少しだけ下心が動かないこともなかったが、今はただセイジのいたわりに甘えることにした。
「もう暫く、このままでいたいかな」
 セイジの膝に頭を乗せたまま、セイジの腰に抱きつくランス。
「うん」
 セイジの長い指がランスの髪を優しく撫でる。
 思いもかけない不幸な事故は、二人の間にぬくもりの時間を運んできたようだった。


●おもいやりのこころ
 庭で子猫を保護したことをきっかけに、一緒に生活をするようになったセイリュー・グラシアとラキア・ジェイドバイン。
 彼らの家には、同居のきっかけとなった2匹の猫の他にもレカーロという犬に似た動物も暮らしている。
 そろそろ冬の寒さも増してきた昨今、ラキアは彼らの為に暖房器具を追加しようと考え、屋根裏収納を覗き込んでいた。
「何か手伝えることはないか?」
 以心伝心。言わずともラキアの目的を悟ったセイリューがラキアの後を追って屋根裏の狭い空間に姿を表す。
「うーん、そうだね。手伝ってもらう前に、まずはこの箱を……」
 暖房器具の箱の前に置かれていた段ボール箱。
 それを抱え上げわきに退けようとしたラキアだったが、その瞬間。
「あっ」
 不意にラキアがバランスを崩す。
「危ない!」
 セイリューが素早く、床とラキアの間に身を割り込ませ、ラキアを庇ったのだが……。

 セイリューの口から、まるで吠えかけた犬が何かに驚いて急に口を閉じたような音が漏れた。
無理やり文字で表現するならば「ギャッ」とでもいったところだろうか。
胸の前で箱を抱え、横に軽く肘を張るような姿勢だったラキア。
その肘が。
(体は鍛えているけど、ココは無理)
 故にフルコンタクトスポーツの競技者はファウルカップを着用する訳だが、家の中で普通に過ごしているだけのセイリューがそのようなものを身に着けているはずもなく。
 つまるところ、どんな屈強な男でも弱点となるその場所を、ラキアのエルボードロップが直撃したのだ。
(マジでそれどころじゃねーっ!)
 エビのように身体を丸め、声もなく悶えるセイリューの視界にはチラチラと星が瞬いている。
 なんだかこのまま星空を飛んで、その先の雲の上にある荘厳な白い扉さえ見えてしまう気がした。
「……ホント。ホント、ゴメン」
 優しげな顔をしていても、ラキアも男である。
 この歳になるまでに何度かは経験してきた痛みなだけに、今セイリューが置かれている状況が分かってしまい、ラキアはただ青褪めた顔でセイリューの腰をトントンと叩いていた。
「や、ダイジョーブだから……」
 ようやく言葉らしい言葉がセイリューの口から出たものの、その声は平素の強気なセイリューとは程遠い、弱々しいものである。
 残念ながら、ちっとも大丈夫そうには聞こえない代物だった。
(これじゃ余計にラキアが心配しそうな言い方に!)
 床の上で拳を握りしめてセイリューは歯噛みしたが、時既に遅し。
 ラキアの眉は、申し訳ないとでも言うように、ますます下がってしまう。
(シッカリしろ、オレ!)
 ラキアをこれ以上平謝りさせる訳にはいかないと、セイリューは己を叱咤した。
(数々のスポーツで鍛えた精神力を、今ここで発揮しなくて、いつ発揮するのか!?)
 苦しい状況から立ち上がろうとするセイリューのその決意、その意志は実に見事なものである。
 ……ただし、困難な状況の中身は息子の強打という少々気の抜けるようなものだったが。
 何はともあれ気力を振り絞り、セイリューは何とかその場に立ち上がった。
(ぴょんぴょん跳べば何とかなるか?)
 気休めなのか、実際に効くのかは分からないが、どこかで聞いた方法を思い浮かべるセイリューの脇にラキアが肩を差し入れる。
「肩を貸すよ。立てる?本当に大丈夫?」
「何とか……」
 答えるセイリューの声は、先程に比べればずっとしっかりとしたものだった。
 ラキアの眉間から少し力が抜ける。
 更にラキアを安心させるために、セイリューはラキアの頭を優しく撫でる。

 セイリューの身体を案じるラキアと、心を痛めるラキアを案じるセイリュー。
 きっかけは酷かったが、互いを思いやりあう二人の姿はとてもほほえましい。
「お詫びに、晩御飯はセイリューの好きな物何でも作るよ」
 ラキアの言葉に、セイリューがようやく浮かべられるようになった心からの笑みで答えた。


●ちからをあわせて
 それは大学の休み時間中の出来事だった。
瑪瑙 瑠璃は今のうちに教授の研究室での用事を済ませてしまおうと、急いで廊下を歩いているところだった。
 瑪瑙 珊瑚はジュースを買って教室に戻ろうと廊下をダッシュしているところだった。
 廊下は走っちゃいけません。何故なら狭く見通しのよくない場所では、誰かとぶつかってしまうかもしれないから。
 そして案の定。
 珊瑚が廊下の曲がり角を曲がった時、瑠璃と珊瑚の衝突事故は発生した。

「あがー。あ、悪ぃ。ちょっと急いでて……って、瑠璃かよ!」
 ぶつかった衝撃で尻もちをついてしまった珊瑚。
相手に向かって謝罪しようとした珊瑚だったが、そこで、相手がよく見知った人物であることに気づき、驚きの声を上げる。
「……」
 だが瑠璃は答えない。
 声で相手が珊瑚であることには気づいているだろうに、珊瑚に背を向けて廊下の床に無言でうずくまっていた。
「何してるやさ?」
 瑠璃の頭に手を乗せて訊ねる珊瑚。
「ん?」
 そこで珊瑚は、顔をしかめている瑠璃の手が、身体のとある場所を抑えていることに気づく。
「オレの膝か太股が当たった?はーやー!」
 どうりで何か奇妙な感触のものが足に当たった訳だ。
 ポケットか何かに入れていた何かかと思ったのだが、どうやらそうではなかったらしい。
「オレ、医務室で先生呼んでくる!」
 慌てて立ち上がりかける珊瑚。だが瑠璃は首を横に振ることでそれを押し留めた。
 瑠璃は、本当は「心配しなくていい」と伝えたかったのだが、残念ながらまだ上手く声が出せないのである。
 先生は必要無いといっても、相変わらず苦悶の表情を浮かべている瑠璃の様子に、珊瑚はオロオロと周囲を見回した。
「なぁ、そこって揉んだ方がいいか?」
 事情が事情とはいえ、こんな場所でそんな場所を揉むというのは少々アレな感じである。
 揉まれてはたまらない……という理由だけではないが、瑠璃は自分を覗き込んでくる珊瑚の耳元に囁いた。
「しばらくここにいて」
 と、その時だ。
 二人の横を通りがかった先輩学生が、そこに倒れているのが瑠璃であると気づいたらしく、少し慌てた様子で駆け寄ってきた。
「大丈夫か?」
 問われた瑠璃が答える。
「お腹が痛くなっただけです」
 お腹が痛いだけだとは言っても、床にころがる程の痛みに苛まされているのならば、放っておくわけにもいかない。
 更に何かを言おうとした先輩を押しとどめたのは珊瑚であった。
「しわさんけ!次の講義までには治ってる」
 珊瑚がそう言うならと、去っていく先輩。大事にされずに済み、瑠璃がほっと息を吐き出す。
 そして瑠璃はもう一度珊瑚に言った。
「しばらくここにいて……講義あるなら、無理強いはしない」
 いくら、接触事故であらぬ所を蹴ったとはいえ、珊瑚もわざと蹴ったわけではないだろう。
 だから瑠璃としては特に強要するつもりは無かったのだが、珊瑚は実に素直に頷いた。
「次は空きだし」
 先ほどのように、瑠璃がここにいることが役立つこともあるのだろう。

 やがて痛みのピークは去り、瑠璃はゆっくりと体を起こす。
「……ありがとう」
珊瑚にお礼を言う珊瑚。
予想外の出来事も二人で協力しあってごまかし、乗り越えた二人。
きっかけは情けなかったが、その絆はウィンクルムとして時を重ねてきた二人の歴史でもあった。


●ふたりのるーる
 その日、李月は同居人、ゼノアス・グールンのために台所に立っていた。
 ウィンクルムとして契約したのを機に、当たり前のような顔で李月の家に転がり込んできたゼノアスは、大食いな上に肉好きである。
 餅だの煮豆だのが続く正月料理には早々に飽きてしまったらしい。
 そこで今日は李月が肉のたっぷり入った炒め物を作り、あとはフライパンから皿に移すだけとなったのが……。
「この匂い、肉だな!」
 フライパンを振るう李月に飛びつくゼノアス。
 はっきり言って大変危険な行為である。
 故に李月は当然のことながら鬼のような形相でゼノアスを押しのけようとするが、そんな事にはゼノアスは全く構わない。
「なんだその態度は」
 ゼノアスは怒ったが、むしろこの場合、怒っていいのは李月のほうであろう。
 コンロの前で揉み合う2人。
 李月とゼノアス、体格的にも運動能力的にもゼノアスの方に利があり、しかも李月は背後に火にかかったフライパンを庇っている。
 結果としてどうしても李月のほうが動きが鈍くなっていた。
 そして起こる悲劇。

「……!」
 男の子の大事な場所をゼノアスの膝で強打された李月は声すらない。
 白目を剥いて息を止め、真っ青な顔で硬直している。
 そしてゼノアスの方も、李月が急に動きを止めたことに気がついた。
「リツキ? ……さっきの感触、入っちまったか?」
 ピンポンポンポン。ゼノアス君、大正解。
 だがその時、動けない李月の背後ではある変化が起こっていた。
 火に掛けられたままのフライパン。加熱されすぎたソレから、苦いような煙いような嫌な臭いが立ち上っている。
 当然のことながらその異変に気付くのは李月のほうだ。だが李月は先程の衝撃の余韻の中で身体を動かすことができない。
 そこで李月はその事態を目で合図すべく、相棒の顔をどうにかこうにか見上げた。
(コ・ン・ロ・を・止・め・ろ)
 しかし、李月の顔が苦痛にゆがんでいたためか、或いは例によって例のごとく、ゼノアスが無頓着なためか、ゼノアスは李月が睨んでいると勘違いしてしまった。
「リツキ大丈夫か? わざとじゃねぇ悪かった」
 違うのだと歯噛みする李月の視界に、フライパンから漂いはじめた薄い煙が流れ込んでくる。
(だ・か・ら・コ・ン・ロ・を・止・め・ろ)
 険しさを増す李月の顔にゼノアスは不満の声を漏らした。
「謝ってんだから、んな睨むなよ」
 しかし睨む以外の反応を示さない李月に、ちょっとした不安も湧き上がってきた。
「リツキ? オレがわかるか?」
リツキの顔の前で手を振るゼノアス。
(……のヤロウ!! 気付け! 正月料理に飽きたお前の為に作ってる肉料理だぞ!)
 呑気なゼノアスの表情に、李月は怒りと同時にある種の虚無感を覚える。
(鈍さが……憎……い)
 残れる力の全てを振り絞り、コンロのつまみに手を伸ばす李月。
 だが無常にも、そのつまみを回すよりも先に李月の意識はブラックアウトした。
「おい! リツキ? リツキー」
 崩れ落ちる李月の身体を受け止めつつ、ゼノアスが驚いた声を上げる。
 だがその声が李月の耳に届くことは無かった。

 李月が目を覚ました時、彼の身体はベットの上にあった。
(気持悪い……)
 だがベットの横にゼノアスの今にも泣き出してしまいそうな顔を発見し、何も言う気が起きなかった。
「ヘイキか? 水飲むか? 何かして欲しい事あるか?」
 矢継ぎ早に訊ねるゼノアスがふと思い出したように言う。
「そういや肉焦げてたから火消しといたぜ」
(消したのか良かった)
 焦げてしまったのは残念だが、失神している間に火事にならなかっただけマシだろう。
「して欲しい事? 調理中にじゃれるの禁止」
 言い切る李月にゼノアスがキョトンとした顔をする。
「危ないの分ったろ」
 色々と。
 するとゼノアスはにっこりと笑って答えた。
「今度は大人しくじゃれるぜ」
 その言葉に李月は、こいつはこういう奴だと、脱力しきった笑みを浮かべた。
 以心伝心はできなかったが、二人の間に作られた新しいルール。
 こうして二人は一つ一つ関係を作り上げていくにちがいない。


●こわもてのきづかい
 連れ立って買い物に出掛けたカイン・モーントズィッヒェルとイェルク・グリューンが見たものは、ピンクやブラウンに可愛らしくデコレーションされた町並みだった。
「そういえば、バレンタインデーが近いんですね」
 催し物会場にしつらえられた、バレンタイン特集コーナーを横目で見つつイェルクが呟く。
「そうらしい。それにしてもバレンタイン特集すげーな」
 コーナーに渦巻く熱気に感心の声を上げつつ頷くカイン。
 そんな状況から、二人の会話は自然と、これまでのバレンタインの思い出へと移っていった。
「チョコは嫁以外にも歴代彼女から一応。でもビターチョコしか貰わなかったな」
 背が高くそこそこに筋肉もついている上に、言葉遣いや振る舞いも優美とは言いがたいカイン。
 一言で言ってしまえば男らしい彼が、実は甘いものを好むのだということを、歴代の彼女は見抜けなかったらしい。
「で、嫁が初めてトリュフチョコくれて、甘くて美味いって食ったら、外見詐欺嬉しい馬鹿好き悔しい大好きって喜んでたな」
 カインの亡き妻が放った『外見詐欺』という言葉に、イェルクは深く共感した。
 そんな話をしていた時だ。不意に先程通り過ぎてきた特集コーナーで、限定品販売の呼び声がかかった。
 カインとイェルクはさほど気にも留めない呼び込みだったが、一部の女性客にはそうではなかったらしい。
 イェルクの前方から、一人の女性が血相を変えて催し物コーナー目がけて突進してきて……途中に立っていたイェルクに激突する。
 突き飛ばされ転びそうになるイェルク。そしてそれを庇うカイン。
 二人の男が折り重なるようにして床に倒れ、悲劇は起きた。

「……!」
 カインの声にならない悶絶。
 イェルクの全体重の乗った掌底がカインの急所を直撃したのである。
「あ……カイン、スミマセ……。わあああああ」
 自分のしでかしてしまった事態に気づいたイェルクは、カインにも負けぬほどに青褪めて、大恐慌に陥った。
「カイン、大丈夫ですか、死なないで下さい」
 うずくまるカインの肩を抱え、必死に声を掛けるイェルク。
「使用不能になっちゃったりしてます!?」
 イェルクとしては、あくまでもトイレの都合という意味で訊ねたのだが……。何というか、うん。
 聞きようによっては「その剣は、なまくらになっていませんか?」と聞いているようにも聞こえなくもない言葉。
 通行人の一部がぎょっとした顔をしたが、混乱の最中にあるイェルクはそれに気づく様子はない。
「いぇる……それ、おおごえで、いうな……」
「え?」
 息も絶え絶えに伝えられたカインの言葉に、イェルクが首を傾げる。そして。
「あ、わ、私……って」
 自分が口にした言葉の意味に気づいて、今度は真っ赤になるイェルク。
 青くなったり赤くなったり忙しい。そんなことを頭の隅でぼんやりと思いつつ、カインはついに意識を手放した。
「カインが力尽きて…!!」
 ぐったりと弛緩したカインの身体を抱え、イェルクは再び真っ青になるのであった。

 カインが目を覚ました時、彼の頭はイェルクの膝の上に乗せられていた。
 場所も、いつの間にか広場のベンチへと移動している。
「気がついて良かった」
 心底安心したように笑うイェルク。
(気絶していたのか)
 カインはふと、秋ごろのことを思い出した。
 月幸石を探しに行って昼寝をした時も、ふと目を覚ましたらイェルクが泣いていたのだ。
 あの時と同じように、ポケットから出したハンカチでイェルクの涙を拭いてやるカイン。
「もう大丈夫だ。買う物買って家に帰るか」
 カインがそう提案すると、イェルクは目尻に涙を残しつつ頷いた。
「これからは注意します……」
 すっかり消沈してしまったイェルク。
 運ばれている間に転がり落ちたのか、ポケットの中にあったはずの小銭がいつの間にか無くなっていることにカインは気づいたが、これ以上イェルクを落ち込ませる訳にはいかないと、内緒にしておくことに決めた。
 そんなカインの気遣いにより、イェルクの顔にも、もう間もなく笑顔が戻るに違いない。



依頼結果:成功
MVP
名前:瑪瑙 瑠璃
呼び名:瑠璃
  名前:瑪瑙 珊瑚
呼び名:珊瑚

 

名前:李月
呼び名:リツキ
  名前:ゼノアス・グールン
呼び名:ゼノアス/ゼノ

 

メモリアルピンナップ


( イラストレーター: 岬ゆみのこ  )


エピソード情報

マスター 白羽瀬 理宇
エピソードの種類 ハピネスエピソード
男性用or女性用 男性のみ
エピソードジャンル コメディ
エピソードタイプ ショート
エピソードモード ノーマル
シンパシー 使用不可
難易度 とても簡単
参加費 1,000ハートコイン
参加人数 5 / 2 ~ 5
報酬 なし
リリース日 01月10日
出発日 01月16日 00:00
予定納品日 01月26日

参加者

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